嘆きの亡霊は死神と共に   作:ディーン・グローリー

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少し遅くなって申し訳ないです。

BLEACHの一護以外は出す予定ではありませんでしたが、他も出そうと思っています、、、


第5話【邂逅】

《1》

 

 認定レベル8の宝物殿【万魔の城(ナイトパレス)】。

 中堅レベルのハンターですら、その宝物殿を目視しただけで戦意を失う高レベル宝物殿。

 ゼブルディア周辺の宝物殿だけを見るなら、屈指の最難関宝物殿と言えるであろう。

 そんな長らく攻略者のいなかったその宝物殿で、笑顔を溢しならが獅子奮迅しているパーティがいた。

 

「オラオラァああッ! もっと来いじゃんじゃん来い! この俺を討ち取ってみやがれ幻影(ファントム)どもがぁああッ!」

 

 声高らかに叫ぶ男は《千剣》の二つ名を持つルーク・サイコル。

 襲いくる黒い甲冑を身に包んだ黒騎士、その軍勢を前に物怖じなど一切せず斬り進んでいる。

 そして特筆すべきなのは、ルークの持つ武器は剣ではなく木刀。

 業物でも宝具でもない、その辺のお土産屋さんに売ってそうな木刀で、この【万魔の城】の幻影(ファントム)を斬り裂いていた。

 

「ちょっとルークちゃん! 変な罠とかに引っかからないでよ! 私だって戦いに集中したいんだから、ね!」

 

 そしてルークに引けを取らないレベルで猪突猛進している少女は、《絶影》の二つ名を持つリィズ・スマート。

 小柄な見た目とは相反し、自分よりも背丈が高い黒い騎士たちを文字通りに蹴散らしていた。

 一体どこからそのような膂力を生んでいるのであろう、圧倒的なスピードとパワーで騎士達の身体を抉り、地面や壁に叩きつけている。

 

「なるほど、ここの幻影(ファントム)のマナ・マテリアルはかなり密度が高いですね。これならちょうど良い実験が行えるかもしれません」

 

 前者二人とは熱量がまるで違い、静かに何かを思案する少女は《最低最悪》の二つ名を持つシトリー・スマート。

 ルークやリィズにより築かれている死屍累々の幻影(ファントム)を見ながら、頭の中で自身が行いたい研究の考えを巡らせている。

 同時に敵から飛んでくる斬撃や魔法を、全く視界に入れずに針の穴を縫うようにして軽く避け続けていた。その無駄のない動きだけで、彼女も並外れた力を有していると思わせるには充分だった。

 

「――うむ!」

 

 次の瞬間、シトリーを狙う黒騎士を薙ぎ払うようにして吹き飛ばす大男は《不動不変》の二つ名を持つアンセム・スマート。

 全身を鎧型の宝具で身を纏い、3メートルを超える巨体から繰り出される一撃はあらゆる物を粉砕する。

 巨体が故に幻影(ファントム)の攻撃が当たろうとも、全てに耐性を持つアンセムにとって歯牙にすらかけずに猛攻を繰り広げた。

 問答無用の猛進撃はどんな攻撃も防御も意味を持たず、アンセムの前に倒れ行く幻影(ファントム)が死屍累々と転がっていた。

 

「もう皆さん、マイペースに動きすぎです。魔法を打ちますから、避けてくださいね。言いましたよ。言いましたからね!」

 

 味方全員に警告発言するも全く遠慮なしに特大魔法を放とうとする少女は《万象自在》の二つ名を持つルシア・ロジェ。

 自身の得意とする広範囲殲滅魔法を放つため、緻密な魔力操作を行う。

 そして展開された魔法陣から放たれる氷に属する特大魔法は、自身の視界を埋め尽くすほどの氷流の嵐。幻影(ファントム)の悉くを容赦なく凍てつかせ、同時にバラバラに砕き、後には氷の塵しか残さない。結果、雪景色にも似た幻想的な光景が広がっていた。

 

「あっぶな~! ちょっとルシアちゃん、やるなら言ってよね」

 

「言いましたよ。皆さんがちゃんと聞いていなかっただけです」

 

「あーあ、研究素材のほとんどが氷漬けに……。ちょっとショックです」

 

「よっしゃ、一気に進むぞ! この奥からもっと強ぇ幻影(ファントム)がいる気がする。目指せ千人切り!」

 

「あっ! ちょっとそっちには罠があるから踏み込まないでよルークちゃん!」

 

「俺が罠も全部斬ってやるぜ!」

 

「うむ」

 

 などと、とてもレベル8の宝物殿にいるとは思えない緊迫感の欠片もない会話を繰り広げるストグリ一同。

 しかしそんな一行の烈火怒涛の乱撃は、まさに瀑布の勢いで剣戟や魔法、打撃を始め、幻影(ファントム)による屍の山を築いていた。

 このパーティーの快進撃を止める幻影(ファントム)はおらず、どんどん奥へと進んでいく。

 

「クライちゃんも来ればよかったのに。ここ結構歯応えのある宝物殿だから、きっとクライちゃんの好きな宝具いっぱいあるのにね」

 

「クライさんは多忙ですから。だからこそ、私たちがこうしてレベル8の宝物殿まで足を運べている訳ですし、感謝しないといけないよお姉ちゃん」

 

「分かってるって。さっさと詰まんねえ罠を全部解除して、ボスをぶっ倒して、クライちゃんに褒めてもらお」

 

 平然と言い放つリィズだが、会話の最中であってもしっかりと索敵、罠看破をしているあたり流石は高レベルハンターである。

 そして、そんなリィズだからこそ最初に感づいた事がある。

 

「――誰かこの宝物殿に入ってきてる」

 

 奥深くまで入った辺りで、リィズはストレジ以外の気配を肌で感じ取っていた。

 場所は恐らく入り口近く。

 距離的に言うならかなり離れてるし、このマナ・マテリアルの濃い環境に強力な幻影(ファントム)が蔓延っている場所において、入り口周辺の気配を探知するのはほぼ不可能に近い。

 それを成し遂げてしまえるのがリィズの凄いところだが、逆説的に言えばこの宝物殿に入ってきたの者の存在感の高さにもあるだろう。

 まるでこの宝物殿より強い力の波、桁外れの何かが侵入してきた。

 逸脱としたそれに対し、リィズは口角を上げて喜んで見せた。

 

「ねぇねぇ誰か来たよ。それも多分、結構凄い奴。しかも一人かな、この感じわ。同じハンターだと思うけど、どうする? 誰か見に行く?」

 

 相手が強ければ強いほど機嫌が右肩上がりする一行にとって、リィズの言葉は無視できるものではなかった。

 それに誰よりも早く反応するルークは、新しい玩具を見せられた子供の如く目をキラキラさせる。

 

「よし俺が行く! ひとっ走り見てくるからちょっと待っててくれ!」

 

「嫌に決まってるじゃん。ルークちゃんが行くなら、私たちが先に行ってボスと戦っておくからね」

 

「おいそりゃねぇよ。ほんの少し待ってるだけでいいからさ」

 

「ルークさん、ここは我慢です。ボスは倒したらしばらく復活しませんが、ここに入ってきたハンター?に関して言えば生きている限りいつでも会えるかと。と言うより、帰り道にでもエンカウントするかもなんで、今は先に進むのが吉です」

 

 シトリーに諭されたルークは、一瞬考える素振りを見せて頷いた。

 

「そうだな、よしそれで行こう。善は急げだ、とっとと先に進もうぜ」

 

「はい、それが良いかと思います」

 

「うむ」

 

「だからと言って、一人で足早に進まないでくださいね」

 

「じゃあ私は宝物殿に入ってきたハンターに会いに行ってくるね」

 

 全員が一致団結する中、リィズだけがマイペースな発言をした。

 

「え、お姉ちゃんなに言ってるの?」

 

「心配しなくても、みんなは先に進んでいいよ。私はひとっ走り行ってくるから!」

 

「おいリィズそれはズル過ぎだろ!」

 

「ちょっとお姉ちゃん! 宝物殿の罠解除はどうするんですか!?」

 

「もうほぼボス前だと思うし、万が一の時はルークちゃんが罠を斬ってくれるらしいし」

 

「それはルークさんが勝手に言ってるだーー」

 

「んじゃねっ!」

 

 シトリーの制止を張り切って、リィズは駆け出した。

 目にも止まらない速さでリィズはその場から来た道を颯爽と戻っていくため、誰も止める術はなくリィズの姿は一瞬で見えなくなる。

 

「はぁ~もう、お姉ちゃんはいつも勝手なんだから」

 

「全くです。どうしてこう兄妹揃って何一つ似ていないのでしょう。まぁ、心配はないでしょうし先に進みましょう」

 

 シトリーとルシアが揃って溜息をつく中、ルークは一心不乱に前方へと突き進んでいた。

 

「だから足並みを揃えてと言ってるのに」

 

 文句を言いつつルシアもそれに続き、アンセムも地鳴りを上げながら進む。

 一歩遅れて進むシトリーはここで、ふとある人物がよぎった。

 

「全く、もう少しゆっくりと素材を回収する時間がほしいですよ」

 

 シトリーの後ろには、紙袋で顔を隠した筋骨隆々の逞しい半裸の男がいた。

 名はキルキル君で、シトリーの従者であり口からは「キルキル」としか言わない変わった生物。

 それが沢山の機材を運び引きながらシトリーに付き従う。

 

「けど、ここの宝物殿に来るハンター……しかもソロで来る命知らず。つまり高レベルハンターってことですよね」

 

 一人呟きながら、シトリーはふと頭をよぎった人物の名を口にした。

 

「……まさか侵入してきた人って、一護さんだったりするのかな?」

 

 

   ***

 

 

 時を同じくして、嘆きの亡霊(ストレンジ・グリーフ)とは別ルートを進む黒崎一護は複数の黒騎士に囲まれていた。

 一体一体が並外れた力量を持つのは、素人から見ても理解できる。逆に並のハンターが対峙すれば、それら黒騎士が宿す圧倒的な念を感じ取り本能によって逃げ出してしまうだろう。

 レベル8の宝物殿に現出する幻影(ファントム)は、そのくらいにまで桁外れである。

 

「ひー、ふー、みーと……て、数えるだけ無駄じゃねえかよ。ま、この程度の数なら切り抜けられるか」

 

 斬月を背負う一護は、それを片腕で抜き放ち構える。

 そしていつもと違うのは、一護の顔には白い髑髏のような仮面が被さっていた。

 見た目はただただ不気味な仮面であり、お世辞にもいい趣味とは言えない。

 しかしその仮面はただ趣味で付けているのではなく、自身の力を何倍にも増幅する力を宿していた。結果、これから起こりうる展開は瞭然であった。

 

「月牙……天衝ッ!」

 

 前方に向けて全てを斬り裂き、吹き飛ばしてしまう容赦のない斬撃が放たれる。

 まるで藻屑の如く砕き紙吹雪のように吹き飛ばされる黒騎士たちのその光景は、現実離れしており筆舌に尽くしがたいものであった。

 宝物殿の造形そのものすら崩壊させ、爆発じみた破壊力を持つその斬撃を放った一護を前に、しかし幻影(ファントム)の数は減らなかった。

 虫が這い出てくるように倒壊した壁から、地面から、宝物殿の奥から続々と現れてくる。

 一般的に見れば絶望的な光景に映るだろうが、一護はそれを見ても何の感慨も抱かなかった。

 

「やっぱゾロゾロと出てくるよな。たく、悪いが一気に進ませてもらうぜ」

 

 むしろ徐々に、戦意が高まりつつある。

 トレジャーハンターの性なのか、それとも一護のそのものの性なのか。

 宝物殿が好きなのは前者の性だろうが、このように強敵に囲まれても苦い顔をしないどころか闘争心に火が点くのは後者の性だろう。

 よって一護の霊圧が天井知らずに上がり、周囲一帯の空間が軋み始める。

 重圧、それは黒騎士たちにも非情に降り注ぎ、甲冑がギシギシと軋み上げていた。

 

「――月牙天衝ッ!」

 

 先よりも倍近い威力を誇る斬撃を斬り放ち、黒騎士たちを薙ぎ倒していく。

 そして恐ろしいことに、この猛威は止まることを知らない。

 底の見えない霊圧を有する一護は、この斬撃を通常技のように放ち続けられる。高レベルハンターでもこの一撃なら自身の必殺技になりうるが、一護にとってこれは縦斬り、横斬りといった基礎技と何も変わらない。

 そしてその技がレベル8の幻影(ファントム)を撃滅するに至っている。

 こんなもの、もはやどちらが人外の化け物か分かったものでない。

 

 そして一護は地面を蹴り、前へ前へと突き進んでいく。

 斬撃を飛ばすだけが能ではない。黒騎士を斬り進んでいく剣捌きも体捌きも一級ゆえ、例え黒騎士からの剣戟があっても次の瞬間には一護の斬撃により両断されてしまっていた。

 決して幻影(ファントム)が弱いわけではない。

 技術も身体能力も、そこらのハンターとは隔絶した恐るべき相手達だ。

 僅か一呼吸の間に無数の矢や、様々な効果を持つ魔法の乱舞。火器の弾速を遥かに上回る未知の武器による攻撃は、そこらのトレジャーハンターではあっという間に命を落とすだろう。

 しかし一護はそれら全てを上回る速さと迎撃をもってして蹴散らしていた。

 相手になっていない。

 こんなものでは一護の本気を垣間見ることすらできないのだ。

 

「まだ入り口近くだから、この程度だよな。奥に進めば、もっと強ぇ幻影(ファントム)が出てくるはずだ」

 

 誰に言うでもなく、独り言を呟く一護。

 休むことなく幻影(ファントム)が奇襲を仕掛けてきているが、一護はそれらを難なく対処している。

 宝物殿の作りや構造、そして幻影(ファントム)や魔獣の強さの法則性は千差万別だが、よくあるのは奥になればなるほど敵が強力になる点だ。

 数が多くなったり、個体が強力になったりと様々だが、高レベルの宝物殿ならその二つの点が同時に上昇する傾向にあったりする。

 一般的なハンターに取ってはたまったものではないが、戦いも大いに楽しむ嘆霊(ストグリ)などのハンターに取っては一石二鳥に等しい。

 攻略に勤しみ、宝具を見つけ、環境や生態の調査、そして戦いを楽しむ。

 一護は別に戦いを楽しむ性格はしていないが、やはり戦うのなら強いものと戦いたいと本能がそう訴えかけているのだ。

 

 そうして、奥へ進み続ける一護は幻影(ファントム)の数が減ってきたことに気づいて足を止めた。

 

「……幻影(ファントム)が少ねぇ。いや、こいつは倒されてるな」

 

 一護は少々広い部屋に足を踏み入れると、そこら中に黒い騎士の幻影(ファントム)が死骸となって倒れていた。

 幻影(ファントム)は通常、倒されたら自然消滅するが高濃度のマナ・マテリアルを宿した幻影(ファントム)は消滅するまでに時間がかかる。

 その死骸を確認すると、恐らく打撃による力技で鎧のあちこちが砕けれているのが目についた。

 

「とんでもねぇパワーだな。一体誰が――」

 

 そこで一護の視線が、自然と動くものへと移される。

 前方……そこには一人の少女が立っていた。

 見た目は小柄で、褐色の肌を惜しみなく露出している軽装に身を包んでいる。顔には髑髏の仮面を付けており、目元にまで及んでいるため瞳も見えない。足には豪奢なブーツ型の装甲のようなものを履いている。

 そして何より目に付いたのはピンクブロンドの長い髪である。

 一護にとってそれは、幼馴染の姉妹を彷彿とさせるに十分な要素だった。

 

「……何者だ?」

 

 目の前の少女に問う。

 一護も一護で仮面を付けているため、傍から見ればどちらも幻影(ファントム)に見えてしまう。

 相手が幻影(ファントム)なら答えずに襲ってくるだろう。だが、ここに来ているトレジャーハンターなら何かしら答えてくれるだろう。

 しかしその答えは一護の期待を裏切り、直ぐに行動と言う点で返ってきた。

 

「――ッ!?」

 

 眼前の少女が陽炎のように消えたかと思うと、烈風の乗った鋭い蹴りの閃光が一護の頭部めがけて放たれていた。

 それに慄いたのも数瞬、地面を蹴って後退するように避け切る。

 だが仮面の少女は逃がさない。

 爆発に等しい轟音と共に、地面を揺るがすほどの踏み込みで衝撃が発生する。比喩ではなく、本当に地震が起きたかと錯覚するほどであった。

 そして続く拳はまさに落雷そのものであり、威力も速さも常人が理解できる域を遥かに超えて余りある。

 まさに自然現象めいた脅威を体現した少女を前に、一護は斬月を握って反撃する。

 巨大な出刃包丁が少女の小さな拳と激突すると、弾かれるようにしてお互いが仰け反った。

 だが少女は直ぐに攻撃に転換する。風を巻いて、少女の踵からの蹴りが回転するようにして走った。

 苛烈極まる攻撃に一護は腕でその蹴りを受け切った。

 

「ッ、馬鹿力かよ!」

 

 骨が軋む、一瞬折れてしまったかと思ったが何とか耐えきることに成功した。

 しかし次の瞬間には、少女は身を屈めて下から上へと一拍を置かずして一護を狙う。

 眉間やこめかみ、人中、喉――仮面の上からでも狙ってくるその個所は、言うまでもなく全て人体の急所。一発でもまともに喰らえば致命となり得る。

 一護はそれを最小限の動きで躱していき、寸でのところで少女の片手を掴んだ。

 これ以上の追撃を許すわけにはいかない一護だったが、少女は空いた片手で抉るような鉤突きを振るっていた。

 

「冗談だろ!」

 

 躊躇いのないそれに、掴んだ手を離して一護は距離を取って後退した。

 少女はそれで攻撃の手を止め、改めて対峙する形となる。

 

「…………」

 

 少女は一貫して黙っている。

 だが、一護はここで踏ん切りがついた。

 これは死合だ。開始の合図? そんなものある訳がない。

 ここは戦場であるが故、油断だ卑怯など通じない。

 斬月を構えた一護は、自分から仕掛けようとはしなかったがここに来て霊圧を高めた。

 見た目が少女なので気が引けたが、この身のこなしの相手に手加減したらこちらが痛い目を見る。

 一護が闘志を燃やした、その時だった。

 

「あー! その大剣とその髪色、やっぱり一護ちゃんだよねー!」

 

 黄色い声と共に、初めて少女から言葉が出た。

 一護がそれにポカンとなると同時に、その声はとても聞き覚えのある声音をしているのに気付く。

 少女は風に乗るようにして一護に急接近すると、つけている仮面を取った。

 

「――お前、リィズか!?」

 

 目を見開いて驚愕する一護。

 少女の正体は一護の幼馴染であり、嘆霊(ストグリ)の一人でもある【絶影】ことリィズ・スマートであった。

 一護も仮面を消し、素顔を晒した。

 

「わあ! やっぱ一護ちゃんだ! ようやく再会できたね! 全然変わってない、昔の面影ありすぎー!」

 

 眩しい笑顔を向けてくるリィズは、そのテンションのまま一護に抱きついてきた。

 幼い頃から変わらない高い体温、この人懐っこさ、スキンシップの激しさは、間違いなく一護の知るリィズだった。

 

「ねぇねぇ今まで何してたの? 帝都に行ってもいないしさ。ホントにみんな寂しがってたんだからね!」

 

「手紙読まなかったのか。ゼブルディアにはそう長くいなかったんだよ。とりあえず、離れろ」

 

 一護はくっついているリィズの肩を掴んで引き離し、まじまじとリィズの顔を見つめて言った。

 

「それに、お前も全然変わってねえじゃねえか。正直、その変な仮面を付けててもある程度はリィズだって分かったぜ」

 

「えーホントに? てか、女の子と数年ぶりの再会して変わってないとか、一護ちゃん乙女心分かってなさすぎ」

 

「うるせぇよ。たく、性格も変わってねえみたいだな……」

 

 溜息交じりに頭を掻きながら言い放つ一護は、深く息を吸うとリィズに改めて言う。

 

「久しぶりだなリィズ。再会できて嬉しいぜ」

 

「私も。会えて嬉しいよ一護ちゃん」

 

 

 

《2》

 

 幾星霜の時を経て邂逅を果たした一護とリィズは、悠長にもレベル8の宝物殿で腰を落ち着けて話し込んでいた。

 場所は移しており、リィズがここなら安全かもと言う小部屋にいる。

 久闊を叙す2人にとって、積もる話は山ほどある。

 宝物殿に入って戦いの連続だったため、小休憩と言ったところだ。

 

「そうか、みんな無事にトレジャーハンターをやってんだな」

 

「そうだよ。今この宝物殿にもクライちゃん以外みんな来てるからね」

 

「……『嘆きの亡霊(ストレンジ・グリーフ)』だったか。随分なネーミングセンスだな。何つうか、パーティの名前っぽくねえな」

 

「だよね~。ちなみにクライちゃんが名付けたんだ。私ももっとカッコいい名前が良かったんだけど、今じゃ気に入ってるかな」

 

 一護はリィズより、軽く幼馴染たちの現状を聞いた。

 帝都でも有数のパーティである『嘆きの亡霊(ストレンジ・グリーフ)』を幼馴染たちで作り上げ、今では全員が二つ名持ちの高レベルハンター。クライをリーダーに据え、帝都周辺の宝物殿は制覇しているようだ。

 リィズは盗賊(シーフ)、ルークは剣士(ソードマン)、シトリーは錬金術師(アルケミスト)、アンセムは守護騎士(パラディン)、ルシアは魔導師(マギ)と言う一護の予想通りの職にみんなが就いていた。

 ちなみにクライがスカウトしたエリザと言う精霊人もいるらしいが、自由奔放らしくこの宝物殿には一緒に来ていないとのこと。

 そしてリーダーであるクライは、パーティのリーダーだけに収まらず『始まりの足跡(ファースト・ステップ)』と言うクランのリーダーも務めている。

始まりの足跡(ファースト・ステップ)』と言えば、ここに来るまでに会ったティノやスヴェン、アークが所属しているクランだ。そこのリーダーとは、クライも大きくなったなと一護は自分のことのように内心喜んでいた。

 一護は頭の中で今得た情報を整理しながら、感慨深そうに言葉を吐いた。

 

「みんな、すげぇ立派になったんだな。レベル2でくすぶってる俺が、情けなく思っちまうぜ」

 

「えー! 一護ちゃんレベル2なの!? なんでなんで? 強さは絶対に6以上だよ。少し戦って分かったけど、一護ちゃん相当強くなってるよね。それに一護ちゃん全然本気出してなかったでしょ。私もだけど」

 

「帝都に行くまでに、色んな国と宝物殿を転々としてたからな。昇格試験ってやつを受けてねぇんだよ」

 

「帝都に行ったら受けちゃえば。あんなの今の一護ちゃんなら余裕だから。ルークちゃんでも昇格してるくらいだし」

 

「お前からのルークのそういう評価って、案外低いよな」

 

 しかし、今後はゼブルディア帝国に落ち着くつもりなので昇格試験を受けるのもいいだろう。

 それに『嘆きの亡霊(ストレンジ・グリーフ)』に加入するなら、自分だけレベルが低いと体裁が良くない。パーティとしての威光も曇ってしまう恐れがあるので、一護は現状の目標をレベル3になることにした。

 

「あーあ、ここが宝物殿じゃなかったら一護ちゃんと本気で模擬戦したかったな~。ねぇねぇ今の私、すごく成長してたでしょ?」

 

「ああ、リィズの強さにはびっくりしたぜ。昔と全然違っててよ。速さも膂力も、戦闘スキルからして桁違いだったぜ。あんなもんを直に感じたら、もうリィズと戦うのは勘弁してほしい」

 

「何でぇ、一護ちゃんも私の攻撃を簡単に捌いてたじゃん。あと私の直感だけど、一護ちゃんってまだ隠し玉をいくらか持ってる感じでしょ? 絶対に私と戦ったら楽しいよ!」

 

「いつからお前はそんなバトルジャンキーになったんだ。……いや、昔からその兆しはあったか」

 

 リィズも、そしてルークも子供の頃から戦いを楽しむ気質があった。

 一護はそれに鍛錬と称して毎度、手合わせに付き合わされていたのは今ではいい思い出だが、今でも続いているどころか過熱しているとなると頭を抱えたくなる。

 恐らくこの面倒を見ていたクライやアンセムは大変だったんだろうなと、一護は遠い目をしてそう思った。

 

「あ、そうだ。気になったんだけど、一護ちゃんのあの白い仮面みたいなの、あれって宝具?」

 

「いや違う。悪いがあれを話すには少し時間がかかるから、今度また話すよ。リィズのその仮面は、宝具じゃねえよな」

 

 一護はリィズが手に持つ、髑髏のような黒い仮面を見る。

 見た目以外は特に特徴がないと思いきや、よく見ると目元に穴が開けられていないことに気付く。

 これでは仮面を被った時、何も見えない。

 だがあの時、リィズはこの仮面を被って戦えていたところを見るに、その他の五感を駆使して動けているのだろう。

 一護は無意識に手を伸ばして確認しようとして、リィズがサッと仮面を遠ざける。

 

「やぁだ一護ちゃん、さっきまで私が被ってた仮面をどうする気〜?」

 

「っ、違ぇよ! 俺はただ、その仮面の目の部分に穴が空いてないか確認したかっただけだ」

 

「えー本当に?」

 

「しつけえぞ」

 

 少し顔を赤くして否定する一護を、面白くなって茶化すリィズはイキイキとしていた。

 

「じゃあ、被って確認してみる? 私は別に一護ちゃんなら気にしないよ?」

 

「うるせぇよ。それで、その仮面は目に穴はあいてねぇのか?」

 

「うん、そうだよ。この仮面は私たちの象徴。クライちゃんの発案でね、目に穴を開けないことによって敵の目くらましも効かないし、目も防御できる。それにこれを付けて特訓すると、凄く成長するんだ」

 

「ああ、そうなのか」

 

 クライのやつ、また変な仮面を作ったもんだと一護は少し引いた。

 まさか嘆霊(ストグリ)に入ったら、自分もこの仮面を付けるのかと少し嫌気が刺した。

 

「――さて、それじゃそろそろ行くか。ルークたちもリィズのことをそろそろ心配し始める頃だろ。早く戻ってやらねえとな」

 

「いや、多分心配なんてしてないよ。ボスと早く戦いたくて、もう私がいないことなんて忘れてるんじゃないかな」

 

「流石にそれはねぇだろ。ルークならあり得そうだけどな」

 

 二人は小部屋から出ると、周囲に幻影(ファントム)の気配を感じ取った。

 

「ここってマジでセーフルームみてぇな場所だったんだな」

 

「もしかして疑ってた?」

 

「いや、こういう場所がある宝物殿は初めてだからよ。知見が広がって良かったぜ。ありがとなリィズ」

 

「だよねだよね! 流石は一護ちゃん、素直に褒めてくれるところ本当にやっさしい!」

 

「おい無闇に抱きついてくるんじゃねぇよ!」

 

 リィズのハグを回避する一護は改めて、続く先の道を見据える。

 

「こりゃ幻影(ファントム)が結構な数で押し寄せてきてるな。リィズ、一気に突っ込んでルーク達に合流するぜ」

 

「あ、ごめん一護ちゃん。――私は今から帝都に帰るね」

 

「……は?」

 

 リィズが平然に突拍子のない発言をしたため、一護は口を開けて唖然とした。

 いま何て言った? 帰ると言ったか? この状況で、このレベル8の宝物殿で仲間と来ている中で、能天気にも帰ると言った。

 耳を疑った一護は、耳を小指でほじりながら聞き直す。

 

「リィズ、お前は今なんて言った?」

 

「え、帰るって言ったんだけど? あ、みんなに会ったらリィズちゃんは先にクライちゃんのもとに帰ったって伝えてね」

 

「……お前、一応ここはレベル8の宝物殿だぞ。ルーク達が心配にならねえのか?」

 

「みんななら大丈夫でしょ。まぁレベル8の宝物殿のボスは気になるし、ここの幻影(ファントム)は今までの宝物殿のに比べたら質も量も桁違いで楽しいんだけど」

 

「だったら何で?」

 

「そんなのクライちゃんに一刻も早く一護ちゃんと再会できたことを報告しなくちゃならないでしょ。当たり前じゃない」

 

「そんなの攻略してからでいいだろ」

 

「クライちゃんからね、一護ちゃんを見つけたら即報告するように言われてるの。だから私は一抜けたってことで」

 

「お前の中でクライの優先順位高すぎねえか」

 

 話の節々で感じではいたが、リィズはどこかクライを神格化しているような気がする一護。

 クライと会ったら、その辺について色々と話し合おうと心に誓った。

 

「しょうがねぇな。それじゃリィズ、帰るついでにこれをクライに渡してくれねえか」

 

 一護は懐から手のひらサイズの長方形の薄い板を取り出す。

 黒色の小さな板で、それ以外とくに何の特徴もないそれをリィズはまじまじと見る。

 

「一護ちゃん、これなに?」

 

「スマホっつう宝具だ。説明は、面倒だからクライに渡してくれ。アイツならこの宝具について見識も多分あると思うしよ」

 

「ふーん、分かった。クライちゃん宝具好きだし、きっと喜ぶと思う」

 

「ああ、頼む」

 

 一護はスマホをリィズに手渡す。

 説明は容易だが、それをすれば必ずリィズも欲しがるのでしない。

 だんだんリィズの扱い方を分かってきた一護は、ここで背中を向けて言った。

 

「それじゃあなリィズ。また帝都で会おうぜ」

 

「うん、待ってるね一護ちゃん」

 

 そして2人は背中合わせになると、お互い別々の道を進む。

 リィズは帝都のクライのもとへ、一護はルーク達のもとへ。

 

 こうして一護はレベル8の宝物殿を突破しながら、幼馴染たちのと再会を果たしていくのだった。

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