嘆きの亡霊は死神と共に   作:ディーン・グローリー

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第6話【死神と魔導師】

《1》

 

 

「クッソォオオ!! リィズのやつ、羨ましすぎるだろ!」

 

 木刀で黒騎士の幻影(ファントム)を斬り裂きながら、先へ先へと進むルーク。

 その後ろではゆっくり追うようにしてアンセム、ルシア、シトリーの三人がいた。

 ボスのいる玉座が近いのか、現れる幻影(ファントム)も強さと量が比例して上がってきている。

 しかしルークが全て対処しているため、後ろの三人は何もせず悠々と歩を進めていた。

 

「何が羨ましいのか理解できません。正体不明のハンターに会うためにわざわざ後戻りするなんて、私には愚行にしか見えませんでしたが」

 

「ルシアちゃん、今日は随分と辛辣ですね。けどお姉ちゃんのあの行動は、確かに賢明とは言えませんね。まぁお姉ちゃんらしいと言えばらしいんだけど」

 

「うむ……」

 

 あれから罠らしい罠がないのは僥倖だったが、それでもリィズの単独行動は許してない様子。

 レベル6以下だったら何も言うまいが、ここは嘆霊(ストグリ)でも初挑戦のレベル8の宝物殿だ。一人一人のパーティメンバーが自身の役割を真っ当しないと攻略は困難を極める。

 本来は一層厳粛に緊張感を持って個々が協力して挑むところだが、嘆霊(ストグリ)はいつもの調子で、それでいてほぼ個人個人の力で全霊をもって挑んでいた。

 

「それでシト、この宝物殿に入ってきたハンターについて、何か心当たりとかあるのですか?」

 

「どうしてです?」

 

「リィズが侵入者に気づいた時、どこか心当たりがあるような顔をしていたので」

 

「おや、私の表情だけでそこまで読み取られていましたか。まぁあくまで予想なんですけどね。心当たりと言うか、そうだったらいいな〜と言う人が一人いましたので」

 

「誰です?」

 

「一護さんです」

 

 シトリーが自身の予想を口にした。

 あくまで予想、推論の域を出ないが巷では死神のハンターと言う凄腕のトレジャーハンターの噂が流布し、それが徐々に帝都にまで広がっている。

 それを黒崎一護と仮定した場合、この宝物殿に挑んでいても何らおかしくない。

 そんな話をここに来る前にもしていたのを、ルシアは思い出した。

 

「根も葉もない噂だと思いましたが、確かにこんな宝物殿に一人で挑むトレジャーハンターなんて限られますからね。一護さんが私たちの約束を守るために、帝都に向かいつつ宝物殿に立ち寄った。それなら納得です」

 

 随分と自分たちの都合のいいよう解釈しているが、そんな偶然はあり得るのだろうかとルシアは冷静に考え直した。

 その上で過去の出来事が蘇ってくる。

 一護は幼い頃からリィズやルークの訓練に付き合い、ルシアの魔法の特訓にも付き合い、シトリーの薬学の勉強にも付き合い、口数が少ないアンセムの相談に乗ったり、果てにはクライを自分の兄弟のように仲良く接したりしてくれた。

 全員が全員、一護には恩があり大切な仲間であり親友、それは何十年の時を経ても決して変わることはない。

 だからこそ早く会いたいと、眉唾な話でも希望的観測が自然と出てもおかしくはないのだ。

 そして、それに同調するようにアンセムが久しぶりに口を開いた。

 

「私も一護とは早く再会したい。もしこの宝物殿に入ってきたのが一護なら、それはとても嬉しいことだ」

 

 宝具の鎧の中から低い声が響く。

 誰よりも寡黙な男であり、妹たちのリィズやシトリーの性格とは似ても似つかない誠実な性格をしている。クライ曰く、自分がリーダーを務めていなければ間違いなくアンセムが務めていたとのこと。

 破天荒な性格が目立つ嘆霊(ストグリ)の中で唯一、真摯な姿勢を崩さない最年長の人格者である。

 

「お兄ちゃんも一護さんに早く会いたいですよね。もう十年近く会っていませんから。一護さんならきっとクライさんと同じレベル8になっていてもおかしくありませんね」

 

「死神のようなトレジャーハンター。その噂を鵜呑みにするのなら、そうですねレベル6、7は固いかと。レベル8に関しては、そこはトレジャーハンターにとって一つの大きな壁ですから何ともですが。しかし一護さんなら辿り着いていてもおかしくはありませんね」

 

「うむ」

 

 などと一護のレベルについて期待に満ちているが、そんな本人のレベルは2である。

 

「うぉおおおお!! 斬る! 斬る! 斬る!!」

 

 そんな三人が気軽にトークする中、ルークが一心不乱に幻影(ファントム)を斬って斬って斬りまくる。

 前衛と後衛(トークのみ)の温度差が激しいが、それでも口を閉じることはなかった。

 

「あーあ、こんなことならレベル降格の件、もっと上手いこと話をしておくべきでした。これでは一護さんに合わせる顔がありません」

 

「私は早く会得した魔法を見てもらいたいですね。兄さんの無茶な魔法もほとんど修めましたから。そう言えば一護さんも魔法のようで魔法じゃない、妙な力を持ってましたね」

 

「霊圧、でしたっけ? 何でも霊的な力で相手を圧し潰す力だとか。私も色んな文献で調べようと試みましたが、それに該当する力はヒットしませんでしたね」

 

「まだこの世には未解明な事象や力など、たくさんありますから。一護さんに会ったら、是非ともその力を探求させてほしいです」

 

「私もお願いしようかな、私の研究に一護さんの力が加われば、とても画期的な成果が出そうなんですよね」

 

「……シトの変な研究に、一護さんを付き合わせないでください」

 

「変な研究とは失礼ですね。私は決して一護さんの不利益になるようなことはしませんよ」

 

「おい! 今一護の話をしてるのか!? なら最初は俺だからな! 一護とは是が非でも斬り合いてえんだ俺は!」

 

 現在進行形で幻影(ファントム)を斬りまくっているルークが、二人の会話に割って入ってきた。

 悪鬼羅刹の如く敵を両断していくルークは、もはやどちらが人間でどちらが幻影(ファントム)か分かったものでない。

 

「シト以上に、一護さんに不利益を与えそうな人がいましたね」

 

「ルークさんが言うと殺害予告のように聞こえてくるんですよね。斬り合いたいって、言葉だけ聞くととても物騒です」

 

「うむ……」

 

「しかしなかなかボス部屋まで辿り着きませんね。喫緊の課題はここの攻略ですから。……ふと思ったのですが、ルシアちゃんなら箒に乗ってお城の頂上までショートカットできたのでは?」

 

「無茶言わないでください。こんな天候が乱れていて、尚且つ落雷の危険性が孕み、その上で更に幻影(ファントム)から狙われる中で飛んでいけるわけがありません」

 

「ルシアちゃんなら回避しつつ魔法で対処できると思ったのですが」

 

「それができるのなら最初からそうしてます。この城型の宝物殿で、外側から行こうとするなんて、よほどの馬鹿がすることです」

 

 城の中から外を見て、嵐の中で轟々と降り注ぐ豪雨と雷を見ながらルシアは雄弁に述べた。

 確かにルシアの言う通り、外側から攻めるのは不可能に近い。そもそもそのような考えにすら、普通なら至らないだろう。

 しかしこの世には、そのような考えに至り、実行する男がいたのだった。

 

 

 ***

 

 

「リィズのやつ、変わってなかったな」

 

万魔の城(ナイトパレス)】の中を走り抜ける一護は、血眼になって襲いくる幻影(ファントム)を斬月の剣戟で斬り裂きながら先へ先へと進んでいく。

 リィズの気まぐれは変わっておらず、レベル8の宝物殿から何を呑気なことをと叫びたくなるような理由で去っていった。

 この分だと、いやリィズの話だとみんなは変わっていない。

 だとしたら、ルークあたりは出会い頭に斬りかかってくるかもしれないと危惧した。

 

「仮面、外しておくか……いや、流石に仮面なしでレベル8の宝物殿は少しキツイよな」

 

 一護の付けている不気味な髑髏のような仮面は、自身にブーストをかけるもの。その増幅はかなりのもので、通常状態から倍以上。

 よって仮面をとってしまうと少し苦難を強いられる。

 だが外さないと、万が一ルークたちと遭遇した際、斬りかかられるかもしれない。辻斬りのようだ。

 

「しかもリィズであの強さなら、全員同じくらい強くなってるよな。こりゃ俺も気を引き締めねえと、置いて行かれそうだ。いや、その前にルークに斬られちまうな」

 

 他の幼馴染の成長した姿を想像して胸が弾むと同時に、少し悪寒が走った。ルークの評価が昔から変わっていない故である。

 そしてそんな中も一護は幻影(ファントム)を斬って斬って、斬りまくっていた。

 しかし減らないその幻影(ファントム)の数に、一護もそろそろ嫌気がさし始めていた。

 

「……これって、外側から飛んで行った方が早そうだな」

 

 まさに狂風暴雨と電光雷轟という言葉が相応しい、荒れに荒れ狂った外。これを見て外側から攻めようとするなど、愚の骨頂だろう。

 だが一護はそれを試みるため、斬月で城の壁を破壊した。

 

「よし、それじゃあ行くとするか」

 

 特段危機感を抱かず、地面を蹴って躊躇いなく城の外へと跳ぶ。

 瞬間、人間の身体を吹き飛ばすにあまりある烈風、そして目を開けてられない程の突き刺すレベルの豪雨。それら二つの脅威が一護を容赦なく襲ってきた。

 

「ッ、こいつぁ予想以上だな!」

 

 一護は霊子を足場にして空中に立ちながら、烈風と豪雨に耐えるため霊圧を纏う。

 そして猛威を物ともせず霊子の足場を蹴って、一気に跳躍して上へ上へと上昇していった。

 

「これならショートカットして、一気にボスのところまで行けるな」

 

 何て気楽な物言いをするも、脅威はその二つだけでは収まらない。

 天では常に稲妻が走り、雷鳴が轟いている。それが天雷となって光速で無差別に降り注いでいる。

 そして城の方からこちらを狙う幻影(ファントム)は、様々な魔法や銃器の類でこちらを狙ってきていた。

 先のルシアの言う通り、この宝物殿を外側から攻略するのは無謀と言えるだろう。

 だが一護はそれらをまさに神回避の勢いで躱して、どんどん城の頂上へと跳んでいった。

 

 

   ***

 

 

「ルシアちゃんならきっと行けます! だから挑戦してみましょう!」

 

「根拠のないその理屈はどこから来るんですか? さっきも言った通り外側から飛んでいくなんて今世紀一の馬鹿がすることです! もしくは自殺志願者です!」

 

「けどクライさんが、ルシアちゃんの飛行テクは世界一と言ってましたよ?」

 

「にいさ……リーダーの言うことを真に受けないでください」

 

「何だルシア、箒に乗っていくのか? なら俺も乗せてくれ! 早くボスと戦いたくて仕方ないんだ!」

 

「あの、私の話をちゃんと聞いてました?」

 

 城の階段を上がる嘆霊(ストグリ)一行は、どんな訳か外側からの攻略方法について話していた。

 

「外側から壁をよじ登るのはどうだ? この風と雨ならいい修行になりそうだぜ」

 

「十秒後には落雷に打たれて落下してますよ」

 

「お兄ちゃんなら雷くらい余裕ですよね?」

 

「う、うむ」

 

「流石にアンセムさんが壁をよじ登るのは……。仮りに達成しても、その頃には私たちがボスを討伐してますよ」

 

「だったら壁を足場にしてジャンプすればいいんじゃねえか? それなら雷だろうと避けてみせる。よっしゃ、善は急げだ。早速挑戦してみるぜ!」

 

「あ、ルークさん。上から幻影(ファントム)が雪崩のようにやって来ますよ」

 

 窓枠に手をかけていたルークが、シトリーの言葉に動きを止めた。

 階段の先を見ると、確かに複数の黒騎士の幻影(ファントム)がこちらに向かって下りてきていた。

 

「お、おお、すげぇ来るじゃねえか! こっちの方が修行になりそうだな」

 

 ルークは木刀を構えて、階段を一気に駆け上がり幻影(ファントム)に突っ込んでいった。

 

「良かったです。ルークさんが下まで落ちたら、合流するのが大変そうでしたので」

 

「勝手に先に進んだら文句言ってきそうですもんね」

 

 ホッとするルシアとシトリーが、ふと窓の方を見た瞬間だった。

 窓の外を人影が下から上へと駆け抜けていったのだ。

 

「――は?」

 

 二人は同時に窓にへばりつく様にして見上げると、大剣を背負った男が空中を蹴るようにして頂上を目指していた。

 

「……ルシアちゃん、外側からの攻略って不可能なんですよね?」

 

「……あくまで私の見解ですが」

 

「でしたら今のは?」

 

幻影(ファントム)……ではありませんでしたね。それに今のってもしかして……」

 

「え、あれ、ルシアちゃんなにしてるんですか?」

 

 ルシアは窓枠に手をかけて、外に飛び出そうとしていた。

 

「……皆さんは先に進んでください。私はあの人を追いかけます」

 

「外に出てですか? それこそさっき言ってたことと矛盾しますよ」

 

「そうですね、では私も今世紀一の馬鹿で構いません。では失礼しますね」

 

「えっ、ちょっと待ってくださいルシアちゃん!?」

 

 シトリーの制止の声を聞かず、ルシアは箒を片手に城の外に飛び出した。

 箒には乗らない。

 ルシアの箒は宝具でも何でもなく、ただの市販品。クライからの無茶振りで、箒に乗って飛行を可能したが、実のところは箒を使わない方が飛びやすい。

 ルシアは空中に身を投げると、重力に逆らってふわりと浮かび上がる。

 そして上空を跳び上がるようにして上昇している男に向けて、ルシアも飛翔した。

 一拍の間で自分たちがいたところから、一気に先へと進む。

 

「これはやっぱり無茶で無謀、自殺志願者レベルの人がする行いですね……ッ!」

 

 突風で吹き飛ばされそうになる。雨で視界が霞む。

 帽子を魔法と手で抑えつつ、周囲の環境に一切の影響を受けていない男を見据えた。

 落雷を感電することすらなく躱し、男を狙っている幻影(ファントム)の攻撃魔法や射撃の類の猛攻は全ていなしていた。

 

「助かったわ……。あの人のお陰で問題なく行ける」

 

 幻影(ファントム)は全員、男に意識を向けているためルシアは狙われていない。

 落雷も男の動きに追従、もしくはそれに意識を集中すれば自身の魔法でも対処は出来る。

 逆に言えば、その男がいなければいくらルシアでもこの環境の中で雷と幻影(ファントム)の攻撃を対処するなど不可能であった。

 それを可能にしている男は、それこそ嘆霊(ストグリ)のルシアから見ても化物めいていた。

 

「……背負っている変わった大剣、そしてあの髪色。もう疑いの余地はないわ」

 

 ルシアは男の姿を見て確信を得た。

 そしてだからこそ、この緊迫した中でも躊躇いなく言えた。

 

「一護さん!!」

 

 雨風と落雷などの音に掻き消されないよう、大きな声で男の名前を叫んだ。

 男はその名前に反応を示し、こちらに仮面を付けた顔で振り向いてきた。

 

「――お前、ルシアか!?」

 

 驚きの声が仮面越しからでも、こちらに伝わった。

 

 

 

《2》

 

 

 城の外側から駆け上がる一護は不意に、後ろからの声に足を止めた。

 自分の名前を呼ぶ声。そのどこか聞き覚えのある声に、一護は直ぐさま振り向いた。

 そして最後に会ったのは十年ほど前になるが、どこか面影を残した顔立ちだったので直ぐに名前を呼んだ人が誰なのかを見極めた。

 

「お前、ルシアか!?」

 

 幼い頃、魔法使いを目指して魔法の勉強から実技に至るまで努力を欠かさなかったクライの妹であるルシア。

 その頃の面影を残しつつ、成長したルシアの姿がそこにはあった。

 

「お前、ルシアだよな! どうしてここに――」

 

 十年ぶりの再会に気が緩んでしまった一護。

 城の方、その窓枠から幻影(ファントム)がこちらに向けて魔法を放ってきていた。

 特大の炎魔法だろうか。爆発的に広がる灼熱の炎が、降り注ぐ雨を瞬間的に蒸発させながらこちらに迫ってきていた。

 一護は油断はしない。

 だが、未曾有の事態や不意な状況に少し弱く鈍重になってしまう。まさに今がそれだった。

 咄嗟の判断で斬月に霊圧を込めた、その刹那の時――

 

「させ、ませんっ!」

 

 ルシアの手に小さな竜巻が形成されると、それを炎の魔法に向けて放つ。

 すると次の瞬間には極大の旋風を生み出し、烈火の如く燃え盛る炎を容易に防ぎ切った。

 苛烈極まりない魔法に、一護は度肝を抜かれた。

 しかし一護は直ぐに我に返り、込めていた霊圧を幻影(ファントム)に向けて放つ。

 月牙天衝、同じく凄まじい斬撃が放たれ、両者の魔法を引き裂いて城の窓枠にいた幻影(ファントム)の悉くを吹き飛ばした。

 

「一護さん、大丈夫ですか?」

 

「助かったぜルシア」

 

 飛び寄ってくるルシアだったが、ここでは危険だと踏み、一度城の内部に避難することとした。

 場所は一護が月牙天衝で吹き飛ばした場所。幻影(ファントム)も先の一撃で消し飛んだので、今のところは安全である。

 一護は仮面を消し、改めてルシアと対面した。

 

「お前、やっぱりルシアで間違いなかったんだな」

 

「はい。私も、まさか一護さんがここにいるなんて思いませんでした」

 

 十年の時を経て再会した二人は、積もる話が山のようにあるものの、ここはレベル8の宝物殿。

 リィズと話した時のようなセーフルームでもないため、長話はできない。それは二人とも理解している。

 故に周囲に気を配りながら、二人は再会を祝した。

 

「悪かったな。あれから全然、帝都に行けなくて。本当はもっと早く再会したかったんだぜ」

 

「一護さんにも事情があったのは、私たちも承知しています。けど、まさかこの宝物殿にいるなんて夢にも思いませんでしたよ」

 

「それは俺もだ。さっき下でリィズとも会って、全員ここにいるって聞いてたから、ボスのところにいたら会えると思って向かってたんだ」

 

「やっぱりそうでしたか」

 

 つまり、この宝物殿に侵入してきたトレジャーハンターは一護で、向かったリィズとも無事に再会を果たしていた。

 ルシアはシトリーの読みが当たっていたことに驚きつつ、当のリィズがいないことに気づいた。

 

「あの、リィズさんは一緒じゃないんですか?」

 

「リィズか。あいつなら俺と再会したことをクライに報告するって言って、帝都に帰っちまったぜ」

 

「何て自分勝手……。まぁらしいと言えばらしいんですけど、放漫もいいところです」

 

「まぁリィズは昔からあんな感じだしな。俺的には変わってなくて嬉しかったぜ」

 

「一護さんも近々、リィズさんの破天荒ぶりに振り回されますよ。それで同じことを言えたら、脱帽して上げます」

 

 溜息をつき肩をすくめるルシア、それとは対照的に安堵している一護がいた。

 みんな、根っこの部分は幼い頃から変わっていない。

 身体も成長した。知識も付いた。トレジャーハンターとしての経験とスキルも身についている。

 しかし人としての性は変わっていないので、安堵すると同時に懐かしさすら感じた。

 

「何ですか一護さん、急に微笑んだりして」

 

「いや、何でもねえよ。こうしてルシアとも再会できて嬉しいんだ」

 

「そ……っ。それは、私も、同じです……っ」

 

 どこか恥ずかしそうに、しかし嬉しさも孕ませながら俯き加減で答えるルシア。

 ルシアにとってクライも兄だが、同じくらい一護も兄として見ていた。

 粗暴なところがあるものの、正義感が強く、誰よりも優しく義理堅い一護を、ルシアはどこか惹かれるものがあった。

 それは今も昔も変わらない。

 一護はそれには特に気づく様子もなく、代わりに幻影(ファントム)の気配を感じ取った。

 

「上に急ぐぜ。そろそろ幻影(ファントム)が集まって来る頃合いだ」

 

「は、はい、そうですね。積もる話は、この宝物殿を攻略した後でしましょう。随伴させてもらっても?」

 

「当たり前だろ。行こうぜルシア」

 

「はいっ」

 

 二人は頷き合うと、再び天候乱れる外に身を投げた。

 外側から攻めるは至難だったが、二人となったことによりそれは余裕を持って可能となった。

 一護の斬撃が舞う、ルシアの攻撃魔法が躍り出る。

 落雷や幻影(ファントム)の脅威など一切感じさせずに、二人はどんどんと先へ進んだ。

 

「一護さん、先ほどの仮面は出さないのですか? 宝具でもなさそうでしたけど、自身をブーストさせるといった力ですよね」

 

「ルシアがいるから必要ねえよ。つか俺の仮面について、直ぐにその効果に気づいたんだな」

 

 仮面について、何の説明もなく看破してくるとは、流石はルシアである。

 

「ルシアも、クライが作ったあの目の部分に穴が空いてねえ仮面持ってるんだろ? リィズから聞いてるぜ」

 

「持ってますけど、今は付けませんよ。そんな余裕ありませんので」

 

「なら一蓮托生で行こうぜ」

 

 見据える先、そこには黒い雷雲に隠れた巨大な影が一つ。

 この〔万魔の城(ナイト・パレス)〕に入る前から気づいていた、分厚い雲の中を蠢いている魔物だろう。

 それが顔を出したのだ。

 さながら巨大な龍。

 しかし内包されているマナ・マテリアルの総量は、この宝物殿に現れたどの幻影(ファントム)より上と言う規格外。

 狂った龍の瞳が二人を見据える。それだけで心身が凍てつき、全身が硬直するほどの猛悪な眼光は、周囲を圧迫するほどの破壊と殺戮の念に満ちていた。

 そして一護は、あの龍の顔の下顎部分を覆う、不自然な仮面のような物を確認した。

 

「ルシア、気を付けろ。ありゃただの竜種じゃねぇぜ」

 

「心配無用です。行きますよ一護さん!」

 

 こんなところで時間を浪費したくない、と言うより一護の目の前で格好悪いところを見せたくない故だろう。恐れ慄く姿は見せず、勇敢な佇まいで毅然と言い放った。

 ルシアは手の平に氷の粒を含んだ小さな竜巻を生み出す。

 

「合わせてください!」

 

「任せろ!」

 

 ルシアが叫ぶと、その小さな竜巻が巨大な龍に放たれる。

 それが瞬く間に大きくなり、龍を包み込むほどの大きさへと変貌した。

 

「『ヘイルストーム』!」

 

 逆巻く氷嵐の竜巻が、龍を文字通りズタズタに引き裂き、固い鱗も引き剝がされていった。ルシアが放つ桁外れの魔力により生み出された魔法は、その全ての事象が必殺技になり得る。

 そこに一護が止めを刺すかのように、斬月に莫大な霊圧を込めた。

 

「月牙、天衝ォォオオオ!!」

 

 ルシアの魔法により表皮が剝がされた状態の龍。それは鎧を脱ぎ捨てた、裸同然と言えるだろう。

 だからこそ放たれた月牙天衝が、巨大な龍を正面から容易に一刀両断したのだ。

 

「流石です一護さん」

 

「ルシアもな。……このままボス部屋まで行くぜ」

 

 消滅していく龍を尻目に、この城の頂上である部屋へと二人は踏み込んだ。

 

 

 ――〔万魔の城(ナイト・パレス)〕のボスは六本の腕を生やし、それぞれに刀剣を持った剣士だった。

 対峙するだけで、否応にも理解する。

 隙が無い、油断もない。迸る殺気だけで、並の人間なら昏倒するほどの重圧をボスは宿していた。

 常に首元に刃を突き付けられているような、下手に動けば殺意の念だけで身体が両断されてしまいそうな圧迫感がボスから流出している。

 この宝物殿で現れた幻影(ファントム)とは比べ物にならない程の桁外れの脅威。

 全細胞が逃げろ逃げろと喚き散らしているのが、本能で理解してしまえる。

 そしてこれは、まだボスは戦おうともしていない域でのプレッシャー。

 これが戦意に変わったらどうなるか、もはや想像すらできない。

 

「……ようやく、レベル8に来たって実感が湧いてきたぜ」

 

 だが一護は、そんなボスの前で別段危機感を抱かずに笑みを浮かべていた。それどころか滾る思いが胸中の中で燃えていた。

 手で顔を覆い、そこから仮面を現出させる。

 

「一護さん、まさかお一人でやるつもりですか?」

 

「ああ、悪いなルシア。ここは俺に任せてくれ」

 

 大前提の話になるが、一護は既に一人でレベル8の宝物殿を攻略している。

 だからこそ、相手にとって不足なしなのを誰よりも理解していた。

 

「下がっててくれ。こっちも本気で行くからよ」

 

「……はぁ、分かりました。ここは譲ります。貸し一ですよ」

 

 不満ながらもルシアは一護の言われた通り、壁際まで下がる。

 それを確認した一護は、斬月を前に突き出して霊圧を上げて叫んだ。

 

「――『卍解』!」

 

 

   ***

 

 

「まさかルシアちゃんまでいなくなるなんて、思ってもみませんでした」

 

 時は少し経ち、リィズとルシアのいなくなった嘆霊(ストグリ)はシトリーとアンセム、ルークのみとなっていた。

 戦力は大幅に減少しているはずだが、それを全く感じさせないのが嘆霊(ストグリ)の凄いところだろう。

 迫る幻影(ファントム)を虫でも払うかのように斬り裂くルークは、どこか憤慨していた。

 

「リィズもルシアもズルい! 先に美味しいところを全部持っていきやがってよ」

 

「それルークさんが言いますか? この宝物殿でのキル数トップはルークさんですよ。つまり一番楽しんでいるってことです。次点でルシアちゃんですね」

 

「お、本当か? けどメインはボスだろ。多分、ルシアに取られちまうな」

 

「凹まないでください。流石のルシアちゃんも、レベル8の宝物殿のボスを一人で倒そうとはしないはずです」

 

「うむ」

 

 どうにかルークを宥め納得させようとするシトリー。

 既に玉座は近いのだが、それよりもシトリーはルシアが追いかけた謎の男が気がかりだった。

 

「うちの中では比較的に冷静なルシアちゃんが一目散に飛び出した理由、まさか……いえ、その答えも直ぐに分かるはず」

 

 考える続ける中で、もしかしたらという人物が一人思い浮かばれる。

 黒崎一護、現状の状況下で考えられるのは彼しかいないのだ。

 

「……お、見えてきたぜ。でけぇ扉がよ」

 

 ルークが笑みを浮かべながら、玩具を見つけた子供のように言う。

 そこには城門レベルの大きな鉄製の両開きタイプの重厚な扉があった。

 アンセムが前に出て、扉を開けようとしたがルークが手で制する。

 

「ここは俺に任せろ。こんな扉……俺が斬ってやる!」

 

 ルークが手に持つ木刀を構えたかと思うと、そこから一気に大きく振るった。

 すると鉄製の大きな扉が斬り裂かれ、そのまま扉が瓦解した。目を疑いたくなる光景である。

 

「よっしゃぁああ! 俺が一番乗りだ!」

 

「ようやくボスですね、少し楽しみです」

 

「うむ」

 

 そして三人は中へと入る。

 頂上の部屋。この宝物殿の玉座なだけあって広い部屋だった。

 そしてそこには黒衣の着物に身を包んだ白い仮面の男と、ルシアが壁際に立っていた。

 

「あ、ルシアちゃん。それにあの人は……」

 

 シトリーの視線がルシアから、黒衣の男に映るとそこからの展開は早かった。

 

「お前が、ここのボスだなぁああああ!!」

 

 地面を蹴って、ルークが木刀を携えながら目を爛々とさせて突っ込んでいた。

 黒衣の男も最初はその勢いに驚き怯んだものの、漆黒の刀を構える。

 これにより火蓋は切って落とされた。

 

「いざ尋常に勝負だぁあッ!!」

 

「――ッ!」

 

 ルークの木刀と黒衣の男の刃が交差し、この宝物殿での最後の戦いが幕を開けたのだった。

 

 

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