嘆きの亡霊は死神と共に   作:ディーン・グローリー

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アニメのキルキル君が可愛く見える

アニメ2期は狐のところまでかな?
早くルーク達が登場する温泉のところをアニメで見たい!


第7話【変わらない幼馴染たち】

《1》

 

 

 ――俺は、相手と剣を合わせると相手の考えが少し分かる。心が読めるとか言うんじゃねえけど、どういう覚悟で剣を振ってんのか、俺を認めてんのか見下してんのか、そういうのを含めて。

 ――相手が強ければ強いほど、その伝わる心ってのはデカいんだ。

 ――剣を交えて、ルークの剣を振るう理由が嫌になるほど、自分の刀を通して流れ込んできた。

 

 斬る。

 

 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る!!!

 

 ――怖ぇよ!

 

 もはや怨念めいたルークの心が、濁流の如く一護の中に流れ込んでくる。

 一護も数々の剣士(ソードマン)と戦ってきたが、ここまで病的なまでに斬るという執念深い思いをぶつけられたのは初めてである。

 

 一護はここレベル8認定の宝物殿である〔万魔の城(ナイト・パレス)〕のボスを、ルシアが見守る中で無事討伐に成功した。

 最初は拮抗した激戦を繰り広げるも、徐々に一護がボスを押し始め、そこから流れるように技を叩き込んで幕を閉じた。

 そこそこ消耗したので一息入れようとした矢先、正規のルートであろう扉が斬られた。

 驚愕した次の瞬間には、幼い頃の面影を残したルークが何の躊躇もなく颯爽と一護に斬りかかり今に至るのだ。

 

 

   ***

 

 

 一護とルークが死闘を繰り広げる中、ルシアは茫然と立ち尽くすシトリーとアンセムに歩み寄った。

 両者の剣戟は周囲にも衝撃や斬撃が飛び交い、近くにいるだけで命の危険が発生するもそこを気にしないのが嘆霊(ストグリ)である。

 

「意外と早かったですね。もう少しかかると思っていました」

 

 ルシアは二人に声をかけると、シトリーが珍しく唖然とした表情で一護を指さした。

 

「えっと、もしかしなくても何ですが、あのルークさんと戦っているのはここのボスじゃなくて……一護さんですか?」

 

「はい、一護さんです」

 

 シトリーの質問に即答する。

 最初は誰しもここの宝物殿のボスだと思うだろうが、注意深く見ると幻影(ファントム)でないことには気づくし、それにあの髪の色、そして黒い変わった異国の服は嘆霊(ストグリ)のみんなの記憶に焼き付いている。仮面を被っている程度で判別ができないなんてことはあり得ない。

 よって聞くまでもない質問だったろうが、期待を確信に変えるため無意識に訊ねたのであろう。

 その回答を聞いたシトリーは、頬を紅潮とさせて舞い上がるように喜びの声を上げた。

 

「やっぱり! やっぱり一護さんなんですね! 私の推理は間違えていなかった、と言うことですね! ああもう、何でルークさん戦っちゃってるんですか!?」

 

「落ち着いてください」

 

 飛び跳ねて、珍しく興奮気味に喜ぶシトリーにルシアは軽く制した。

 とりあえずシトリーとアンセムに、一護から聞いた事の成り行きと自身の経緯を説明する。

 一護が一人でこのレベル8の宝物殿の攻略に挑み、その最中にリィズと再会を果たす。そして何を考えたのか、リィズはクライにその事を報告するため一人で帝都に帰っていった。

 そして外側から攻略を試みた一護を追いかけて、ルシアも一護と出会う。そこから一緒に宝物殿のボスのもとへと辿り着き、一護がタイマンの末に倒した、と。

 ルシアは細かいところを端折りつつ、簡略的に説明した。

 

「レベル8の宝物殿のボスは一度見てみたかったのですが、やっぱり倒されていたんですね。けど、流石は一護さんです。一対一で正面からやってしまうなんて、一体どこまで強くなってるんですか。気になって仕方ありません!」

 

「うむ」

 

「強さなら、私は一護さんのボス討伐を見ましたが、未知数ですね。正直、力の底が見えませんでした。現に、ルークさんと剣を交えている今でも、連戦のはずなのに全く衰えを見せていませんので」

 

 ルシアが振り返って、ルークと一護の火花を散らす激闘を見据えた。

 ルークの実力は嘆霊(ストグリ)のみんなが知っている。常日頃から鍛錬を欠かさず、全ての所業が剣の道に通じると信じて疑わない。剣が大好きで、それ以上に斬ることが好きな男。三千世界全てを斬ることを目標に、不屈の精神で今もなお高みを目指すため研鑽を誰よりも積んでいる。

 だからこそ、強さと言う点においては嘆霊(ストグリ)全員が全幅の信頼を置いているのだ。

 だが、そんなルークも一護の速さに追いつけずにいた。

 

 高レベルのトレジャーハンターともなれば、音速を超える銃弾を捉えることは容易に可能だ。だが銃弾など鼻歌混じりに超える速さを出している一護を視認するのは、嘆霊(ストグリ)のメンバーをもってしても困難だった。

 床が爆破されたかのように陥没した。それだけではなく壁も、そして全く別方角の床も穴が空き、陥没していく。

 これは一護が音など置き去りにして、空間を三次元的に飛び回っている証左だ。

 その後を追うように発生する爆撃じみた衝撃派は、それだけで戦いを見守っているルシアたちに打撃に近い突風となって襲った。

 そしてルークにとって更に最悪なのは――

 

「黒い、斬撃だとッ!?」

 

 多角的な波状攻撃、走る黒い斬撃は一発一発が未知の高エネルギーを宿しており、この宝物殿そのものを破壊してしまいかねない威力を有していた。

 連続して空を裂く斬撃の疾風、それをルークは飛び跳ねながら躱していた。

 同時に鋭い眼光が、一護を捉え機関銃さながらの剣戟を放つもそれは影だった。

 

「クソォオオッ! 斬ら、せろッ!」

 

 剣閃の嵐が乱舞する。

 奔る木刀が、刃の如く一護を斬り裂かんと振るわれた。

 木刀で斬るなど、常識外れも甚だしい行為だが、ルークはそれを可能にしている。

 そしてルークの卓越している点は、戦いの中で成長している事だろう。

 戦う前より速く、巧く、そして徐々にだが一護の速さに身体が慣れ始めていた。

 一護の姿が不可視なのと同時に、ルークの剣閃も既に火花散らす烈風の軌跡のみが走っているようにしか見えない。

 

 飛び火を全てアンセムが防御しながら、シトリーとルシアが戦いの行く末を見守る。

 

「ルークさんもあの動きに付いて行けて凄いですけど、一護さんもボスとの連戦で何であんなに動けるのでしょう? もしかしてボスが大したことがなかったとか?」

 

「いいえ、ここのボスは今まで私たちが攻略してきた、どのボスよりも格上かと思いますよ。単に一護さんがそのボスよりも強くて、体力も図抜けているだけってことです」

 

「それってもうどっちがボスでどっちがトレジャーハンターか分かりませんね」

 

「ルークさんは間違いなくボスだと思っていそうですが」

 

「うむ」

 

 黒い着物、そして漆黒の刀に、不気味な仮面。確かにパッと見は幻影(ファントム)と見間違いそうになる見た目だが、それでも注視すればボスではないことは瞭然である。

 だが斬ることしか考えていないルークが、それを看破することはなかった。

 

「お話を聞く限り、お姉ちゃんも間違いなく一護さんと気付かず、出会い頭に襲ってますね」

 

「ですね。ルークさんとリィズさんは、まず相手が強いと直感的に気付けば、相手の有無を言わさずに迷わず戦いを挑みますから」

 

「そうですね。【足跡】に一護さんを連れて行ったら、模擬戦をしたい人が一挙に押し寄せますよ」

 

「一護さん、律儀ですから一人一人としっかり相手をしそうですね」

 

 何て言うも、そこは嘆霊(ストグリ)

 ルークやリィズのせいで曇るも、他のメンバーも皆、強いトレジャーハンターとは模擬戦をしたいと切に願っている。

 それは【足跡】のクランのほとんどに該当し、ルークと互角以上の死闘を繰り広げる一護はまさに打って付け、もしくは格好の獲物となる。

 そのような、未来予想図を思い描いていた時だった。

 文字通り空気が変わった。

 

「……ッ、きます。一護さんの持つ、あの力が」

 

「――霊圧ですね」

 

 瞬間、空気が重くなった。

 大気が重みを持ち、重力が倍増しになったかのような圧力。大地に亀裂が走り、立っているのだけでも辛く苦しいものになる大圧力だが、それはこれだけではない。

 まるで魂そのものが恐怖に慄くような、身体から抜けて逃げ出してしまいそうになる、判然としない未知の力に、三人は冷汗を流しながら苦悶の表情となる。

 それはルークも同じだったようで、その霊圧の力により一瞬動けなくなった。

 そして一護との戦いで、その一瞬はまさに命取りとなる。

 

「――月牙天衝」

 

 一護はルークの懐に入り込むと、漆黒の霊圧を乗せた斬撃が放たれた。

 それを正面からまともに受けてしまったルークは、吞まれるようにして吹き飛ばされたのだった。

 

 

   ***

 

 

「お久しぶりです一護さん。まさか宝物殿で一護さんと再会できるんなんて、夢にも思いませんでした」

 

「ご無沙汰だな一護。元気そうでよかった」

 

 ルークが絶賛気絶する中、一護は仮面を消してルシア達に近づいた。

 幼い頃の面影を残すシトリーに、面影を残すも身長がバカでかくなっているアンセム。

 少し面喰いながらも、懐かしい顔ぶれに郷愁に駆られた。

 

「ようやく会えたぜ。久しぶりだなシトリー、アンセム」

 

 二人と挨拶を交わし、倒れているルークを一瞥した。

 

「ルークにも挨拶してぇところだけど、しばらくは起きねえだろうな」

 

「起きてもきっと、直ぐに斬りかかってくるかもしれませんよ」

 

「あいつは辻斬りか何かか?」

 

 しかしルシアの指摘は的を射ているのかもしれない。

 ルークと剣を交えて伝わってきた思いは、狂気なまでの斬ると言う思いのみ。実際戦っていて、悪寒が走ったほどだ。

 起き上がったら躊躇いなく斬りかかってきそうだ。落ち着いて会話ができない。そもそも犯罪者になっていないか心配になる。

 

「それにしてもアンセム、お前そんなに身長高くなったんだな。男子三日会わざれば刮目して見よっつう古い言葉があるが、それにしたってなぁ」

 

「うむ」

 

「けど、無口なところは相変わらずだな。そこら辺をリィズに見習わせるのは無理だったか」

 

 スマート兄妹は見事に性格が被っていない。

 リィズの破天荒ぶりは相変わらずだったので、少しくらいアンセムに似ていたらと何度も思った。

 

「だけど、どうして一護さんはこの宝物殿に?」

 

「帝都の近くまで来てな。けど、ここの宝物殿が近辺で一番レベルが高いって聞いてよ、つい寄っちまった」

 

「つい寄っちまったって、ここはそんな気軽に挑戦できる宝物殿じゃないんですが。でも、それでこそ一護さんです。ボスも一人で倒されたと聞きました」

 

 シトリーは少し利発そうな女性になっている。

 それ以上に、随分とお胸の辺りがふくよかになっていた。リィズとは大違いだ。

 そんな一護の視線に気づいたシトリーは、茶化すように悪戯的な笑みを浮かべた。

 

「一護さん、どこを見ているのですか?」

 

「っ、別に、どこも見てねえよ……!」

 

「10年振りに再会した幼馴染の胸元を凝視するなんて、いけないことですよ? けど、一護さんなんで許します」

 

「うるせぇよ、別に見てねえって!」

 

 ああ、時の流れがシトリーを小悪魔みたいにしてしまったと、一護は胸中で嘆息した。

 

「シト、一護さんには無闇に近づかないでください」

 

「え、ルシアちゃん、妬いてるんですか?」

 

「違いますっ! 風紀の乱れを問題にしているだけです!」

 

 シトリーとルシアがそんなやり取りをする中、次に一護の視線は別の存在に映っていた。

 紙袋を被った、ブーメランパンツ以外なにも着用していない筋骨隆々の大男。傍目にはただの変態にしか映らないそれを見やり、気づいたシトリーが説明してくれた。

 

「ああ、一護さん。この子はキルキル君です。私の言うことを聞く従者で、魔法生物です」

 

「キルキル君……斬る斬る」

 

 ルークが名付けの親かな?

 見た目と相まって物騒だ。しかも得体の知れない用途不明の機器を引いている。

 

「きるきる」

 

「ど、どうも、黒崎一護です」

 

「きるるる」

 

 と、軽く会釈してくれるキルキル君。

 言葉は通じないものの意思の疎通は出来るのかもしれない。ルシアの声に似ているのは気のせいかな?

 そして何より、もしかしてこのキルキル君と言う生命体はシトリーが作ったのかなと、一護は少し不安を募らせる。

 

「…………」

 

「一護さん、どうかされましたか?」

 

「いや、なんつうか。シトリー、お前なにか危ねえことに手ぇ出したりしてねえよな?」

 

「どういうことです?」

 

「勘だ。何つうか、お前は昔っから目を離せないところがあったからよ。隠れてこそこそ、とんでもねえことをやってるんじゃねえかって不安なんだよ」

 

 よく子供の頃は、シトリーが家にやってきて薬学について勉強していた。

 多種多様な薬の知識を付けていくにつれて、根拠はないがどこか危ない臭いがしていたのを一護は覚えている。

 引っ越す際も、そして再会しても尚、一護は幼馴染の中で唯一、シトリーのことだけは気がかりで仕方なかったのだ。

 

「ん~、一護さんが心配していることは何もしていませんよ?」

 

「そうか。けど、何かあったら直ぐに相談しろよ。再会したばっかの俺が言うのも何だけど、これからは研究とか、色々と付き合ってやるからよ」

 

 リィズから既にシトリーが錬金術師と聞き及んでいる。

 錬金術師としての本懐は素材集め、研究、実験だ。なら、その程度のことくらい幼馴染として付き合ってやるのもやぶさかではない。

 

「え、本当ですか!? 今の言質を取りましたけど、信じていいんですよね!」

 

「お、おう。とりあえず、離れろシトリー」

 

 ぐいぐいと一護に身体を寄せ付け、顔を近づけてくるシトリーに赤面してしまう一護。

 そこにルシアが割って入った。

 

「ちょっとシト、近すぎます! 一護さんが、困ってるじゃありませんか!」

 

「えー、そんなことありませんよね一護さん?」

 

「…………アンセム、お前の妹だろ。少しは節操を持たせようぜ」

 

「う、うむ」

 

 10年の時を感じさせない会話、それは根っこのところは変わってないが故である。

 一護は見た目が変わってもあの頃から変わらないこのやり取りに、改めて帰ってきたと実感したのだった。

 

「……そろそろか」

 

 不意に一護は、徐々に濃くなる気配を感じ取った。

 ルークが目を覚ます。

 ここで自身に二択を迫る。

 ルークに自分の正体を明かすか、このまま仮面を付けてルークが納得もしくは飽きるまで戦いに付き合うか。

 しかし特に逡巡や葛藤もなく、一護は片手を顔に持っていき仮面を付けた。

 

「……また、戦うのですか?」

 

「ああ、ルークは昔から気が済まねえと落ち着きのねえ性格してるからな。あいつが満足するまで付き合ってやるぜ」

 

「全く、相変わらず誰に対しても優しいですね」

 

 溜め息混じりに言葉を吐くルシア。

 昔からルークやリィズの無茶な特訓にも嫌々ながらも、断ることは決してなかった一護の姿が今と昔とで重なった。

 

「回復ならアンセムさんがいるので、思いっきりやっていいですよ一護さん。死なない限りは大丈夫ですので」

 

「おう、頼りにするぜアンセム」

 

「うむ」

 

 いい情報を得た。

 アンセムが回復術持ちなら、少し無茶をしても大丈夫だ。

 そう安堵した瞬間だった。

 

「では、私はお先に失礼しますね」

 

 シトリーが踵を返しながら、耳を疑うような発言をしたのだった。

 奇しくも先ほどのリィズの突拍子のない発言によく似ていた。

 

「え、シト、今なんて言いました?」

 

「帰ると言ったんですよ。ちょっと急用を思い出しちゃいましたので」

 

「マジで言ってます?」

 

「はい。マジです」

 

 にっこりと微笑んで答えるシトリーに、再び溜息をつくルシア。

 一護もこの姉妹は、一見似てはいないもののこう言う型破りな行動はよく似ていると思った。

 

「シトリー、一人で大丈夫か? 何ならルークを説得して一緒に帰るぜ」

 

 恐らく止めても効かないと感じた一護は、シトリーに声をかけた。

 

「いいえ、大丈夫です。キルキル君もいますし。一護さんはルークさんにお付き合いください。あくまで私の用事なので」

 

「けど、ここはレベル8の宝物殿だぜ。一人でここから帰るのは危険で――」

 

「一護さん、私より前、気にした方がいいですよ?」

 

「ッ!?」

 

 気付いた時にはルークが再び一護に斬りかかってきていた。

 

「斬らせろォオオ!!」

 

「お前はそれしか言えねえのかよ! ああもう木刀取り上げといたら良かったぜ!」

 

 そして再度斬り合う中で、シトリーがルシアとアンセムに声をかける。

 

「じゃあ私は帝都に一足先に帰りますね。お兄ちゃん、ルシアちゃん、帝都で帰りを待ってます」

 

「言っても無駄でしょうから、気を付けて」

 

「うむ、念のためだ」

 

 と、アンセムがシトリーに何やら術式を施した。

 シトリーはそれを把握しているのか、特に驚きもせず歩き出した。

 

「ありがとう、お兄ちゃん。じゃあ、また帝都で」

 

 そしてリィズに続き、シトリーも帰ったのだった。

 

 

 

《2》

 

 

 時は少し遡る――

 リィズは〔万魔の城(ナイト・パレス)〕から飛び出して、強力な魔物が跋扈するガレスト山脈に入っていた。

 数多の魔物がリィズに襲い掛かってくる中、それらを殴り、蹴り飛ばし、引き千切り、そして轢き殺していく。レベル8の宝物殿の幻影(ファントム)に比べたら、遥かに格下だ。

 来るときは馬車を使ったが、一人で帰るため馬車は使えない。

 そしてリィズは持久力よりも瞬発力の方が優れている。

 故に走って帰るのは少々苦労するが、そんなものは気合で何とかするのがリィズである。

 

「じゃまぁあああああああ!!」

 

 弾丸よりも速い速度で、山脈を駆ける絶影。

 帰る。早く帰って、土産話を沢山するのだ。

 クライはクランの運営で宝物殿に来られないことが多い。だからこそ冒険譚をクライに持って帰り、楽しく話すのがリィズの楽しみでもある。しかもいつもはルークやシトリーが一緒になって話すが、今回は独占できる。

 それに……

 

「どけぇえええええええ!! クライちゃんに一護ちゃんのことを話すんだよぉおおおッ!」

 

 何より一護と再会できた話をできる。

 それはどんな冒険譚にも勝る、最高の話になるだろう。

 だからこそ、一刻も早く帰りたいのだ。

 

「――早ェな。なに急いでやがんだ女」

 

「ッ!?」

 

 リィズが直感的に足を止め、身を引いた刹那、自身の前方に破壊の限りを尽くす紅い閃光が迸った。

 そこにいた魔物も、草木も全て容赦なく蹴散らすそれはリィズも少し驚きの表情を浮かべた。

 

「いい勘してんじゃねェの。少しはやるようだな」

 

「……誰、アンタ? こっちは急いでんの、邪魔すんな殺すぞ」

 

 木陰から、一人の男が姿を現す。

 頭に白い被り物のような物を付けており、それに包帯を巻いている。服装は一護の着ている服に似ているが、色は真逆の白で趣も少し違う。

 そして何より彼の纏う力が一護に似ており、リィズは眉を顰めた。

 

「活きが良いな。外れでないことを祈るぜ!」

 

 問答など不要と言わんばかりに、手刀のように手を固めるとリィズの目前まで瞬く間に移動した。

 そして突くように手刀を突き放つも、リィズは顔色一つ変えずにそれを素手で掴む。

 

「なッ!?」

 

「だから邪魔すんなって、言ってんだろうがゴラァ!」

 

 怒りを孕んだドスの効いた声と共に間髪入れず、リィズは空いているもう片手に拳を作り、男に向けて振るった。

 だが男は何とかリィズの掴んでいる手を振りほどくことに成功して、距離を取った。

 

「ちっ、避けてんじゃねえよ」

 

「……やるじゃねえか。高レベルハンターってやつか。前にここを通った奴といい勝負するんじゃねえの。けど、まぁいい、ハズレじゃなさそうで良かったぜ」

 

 正体不明の男は、愉快に微笑むと声高らかに名乗りを上げた。

 

破面(アランカル)、ディ・ロイだ。さァ……どーやって殺してやっかなァ……久しぶりなんだ、楽しませてくれよ」

 

「……ねぇ、前にここを通った奴って、一護ちゃんのこと?」

 

 リィズは相手の名に興味ないが、先の台詞には引っかかるものがあった。

 

「あん、やっぱ知り合いか? オレンジ色の髪をした巨大な包丁みてェな剣を持った男だ。殺気を向けてやったら、敏感に感づきやがった。一撃で仕留めてやろうと思ったのによ。興醒めしたんで、見逃したがな」

 

「へぇ、一護ちゃんのことをやろうとしたんだ。そっか、ふ~ん」

 

 適当に相槌を打ちながら、溢れる出る赫怒の念を隠そうとしなかった。

 それに男ことディ・ロイは構えるも、遅かった。

 

「それ嘆霊(ストグリ)を、リィズちゃん達に喧嘩売ったことだって分かるよね? なあ!!」

 

「グヘッ!」

 

 踏み込みから放たれる大砲のような拳が、ディ・ロイの顔面にめり込んだのだった。

 歯が砕け、上顎骨や鼻骨頬骨の砕ける嫌な音がなり、血反吐を吐いた。目を背けたくなるような痛ましい絵だが、リィズの猛攻は終わらない。

 足技が、肘技が、そして拳がディ・ロイの全身を瀑布の勢いで叩き込まれていく。

 

「オラオラどうした! こんなもんで一護ちゃんをやろうと、そしてこのリィズちゃんにまで喧嘩売ったのか!? 舐めてんじゃねぇよクソがッ!」

 

「ガハッッ!」

 

 ディ・ロイは手も足も出せずに、リィズの攻撃を浴びるように受け続ける。

 リィズにとって自分が舐められたことは、矜持を踏みにじられたことに等しい。そしてこの程度の力で一護を殺そうとしたことも、許されたものではない。

 そして相手の戦意喪失など関係なく殴り、最後に右足に力を込めた。

 

「ゴミはゴミらしく、吹き飛べッ!」

 

 斬撃に近い蹴りが閃光の如く放たれ、文字通り血飛沫を上げたディ・ロイを天高く吹き飛ばしたのだった。

 

「……ふ~、スッキリした」

 

 吹き飛ばした先を見据えながら、清々しい気持ちになると同時に呆気ない幕引きに溜飲が下がりきることはなかった。

 

「つか、アイツ誰だったんだ?」

 

 どっかの犯罪組織か、考えられる組織はいくつかあるが興味はない。

 リィズは再び準備運動をすると、さながら戦いなどなかったかのような気楽さで走り出した。

 

「邪魔者は倒したし、早く帰ろっと!」

 

 土煙を上げながら、帝都に向けて駆ける。

 この頃のリィズはまだ知らない。

 

 その破面(アランカル)という連中が、後に嘆霊(ストグリ)どころかクランをまとめて大戦争を起こすことに。

 ……嘆霊(ストグリ)からしたら最高の時間のなるだろう、そんな戦いが。

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