嘆きの亡霊は死神と共に   作:ディーン・グローリー

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嘆きの亡霊のアニメ、温泉シーンやストグリ会議がカットされてて悲しい、、、

web版にはなかった小説版のストグリ会議の加筆部分が地味に好きだった


第8話【決着】

《1》

 

 白狼の巣の件から一日が経過した。

 クライはマスター室の机で、昨日の疲れを癒すために大好きな宝具を磨いている。

 鼻歌交じりにその作業に没頭しつつ、昨日の事を思い出していた。

 

 

 ガークさんから依頼と称した罰ゲームを受けて、それをティノに回した。

 レベル3クラスのクエスト。内容は認定レベル3の宝物殿『白狼の巣』で、三日前に行方不明となった5人のハンターの遭難救助。つまるところ骨拾いだ。どうせ生きている可能性は低いし。

 当初はアークに頼もうかと思ったが、この前に攻略した白亜の花園(プリズム・ガーデン)の件で貴族に呼ばれているらしく不在。なので暇していたティノにお願いした。

 レベル4のティノなら何の滞りもなく、事がスムーズに運んで依頼完了の知らせを受け取るだけだと思っていた。

 しかし何の因果か、ティノと臨時パーティであるルーダとグレッグ様、ギルベルト少年の四人で挑んでもらったが、行方不明になっているのが何とレベル5のハンターだった。

 認定レベル3の宝物殿でレベル5のハンターが行方不明など、流石の僕でも思わなかった。依頼内容を読み飛ばしていた僕が恐らく悪いのだが。

 なのでティノ達が心配になった僕が、珍しく宝物殿まで追いかけた。

 

 結果から言うと、ティノ達と合流し行方不明のハンター達を無事救出することができた。

 まさか生きているとは思わなかった。流石はハンター、衰弱していたものの生き延びる術に長けている。

 そして怪我人を連れて脱出しようとした矢先のこと。ティノ達では敵わない強力な幻影(ファントム)が現れ、窮地に陥った。

 あー、これはピンチだなぁと思っていたら、なぜかリィズが現れて幻影(ファントム)を倒してくれた。

 後から聞いたけど万魔の城(ナイト・パレス)から一人で帰って来たらしい。ホント自由だなぁ。

 

 そうして一日が過ぎ、僕は再び気ままな一日を過ごしている。

 

「……うんうん、今日も平和だなぁ。きっと、こんな平和がいつまでも続くんだろうな~」

 

 現実逃避をしつつ、宝具を磨きながら外を眺めた。

 実は今回の一件で、シトリーが作り出したシトリースライムと言う物を無くした。

 シトリー曰く帝都が滅ぶほど危険なスライムらしい。そんな物を作らないでほしいし、僕に預けないでほしかった。

 そんな危険なシトリースライムを無くしてしまった。探すのも億劫。現実逃避したくなるのも頷けると言うものだ。

 

「――クライちゃん! 入るねー!」

 

 マスター室の扉を勢いよく開けて入ってきたのはリィズ。

 昨日、走って帝都まで帰ってきて、その足で休みなしに白狼の巣にもやって来ての今日なのに、羨ましいくらい元気である。

 

「あれクライちゃん、もしかして元気ない?」

 

「ちょっとね、まぁけどリィズの気にするようなことじゃないよ」

 

 機嫌よくしていたつもりだったが、リィズもとい幼馴染たちには余裕で見破られてしまう。

 転換する人面(リバース・フェイス)を被っていても僕のことを見破って来るので、長年の付き合いと言うのは凄いものだ。逆の立場なら僕は絶対に気づけないけど。

 

「私で良かったら力になるよ? 何でも言ってよ」

 

「ごめんねリィズ。実は、今欲しいのは魔法生物の知識なんだよね」

 

「あー、それはシトじゃなきゃ無理だね。力になれなくてゴメンねクライちゃん」

 

「リィズが気にすることじゃないよ」

 

 申し訳なさそうにするリィズだったが、何かを思い出したのか笑みを浮かべて近寄ってきた。

 

「そうだクライちゃん! とっておきのお土産話があるんだけど、いま時間いいよね!?」

 

「うん、構わないよ」

 

 目をキラキラさせて、僕の机の前に立つリィズは興奮さめぬ様子となっていた。

 この感じ、僕は少しだけ話の内容を予想できた。

 

「みんなで万魔の城(ナイト・パレス)を攻略中にね――一護ちゃんに会ったんだよ!」

 

「そっか、一護が帝都にぜんぜん来てくれないのは、そっちにいたからか」

 

「……あれクライちゃん、なんで驚かないの?」

 

 リィズはその話をすれば僕が驚くと思ったんだろうけど、残念ながら既にティノから帝都近くまで来ている報告を受けていた。

 その報告を受けた時は、部屋に飾り付けをして歓迎ムードで一護を待っていたんだけどビックリするほど来なかった。

 だからどこかに立ち寄ってると思ったんだけど、まさか万魔の城(ナイト・パレス)にいるなんて、そこは驚いた。

 

「実はね、ティノが前の依頼で一護と会っているらしいんだ。だから、帝都の近くにいることは知っていたんだよ」

 

「えーティノも会ってたの! すごい偶然じゃん。そんなこと私聞かされてないよ」

 

 そりゃ君は帰ってきたばかりだし。ティノは依頼中だったしね。

 僕は磨いていた宝具を机の上に置くと、幼馴染だからこそ聞けることを聞いた。

 

「それでリィズ、一護は変わってた? 最後に会ってから10年くらい経つけど」

 

「え、全然変わってなかったよ。あの大きな剣も持ってたし、髪の色も同じ。性格もね、ホント昔のまんま!」

 

「それは良かった。僕も早く会いたいなぁ」

 

「たぶん近いうちに帝都に来るよ。アンセム兄達も一緒に帰ってくると思うし。後ね、凄く強くなってたよ! 本気で戦ってないから力の底は分からないけど、多分相当強くなってる。もしかしたら今のルークちゃんより強いんじゃないかな?」

 

「戦ったんだ……。けど、そんなに強くなってるの?」

 

 あの剣しか頭にない修行大好きルークより強いとなると、これは僕の予想以上に強くなっている。そもそも万魔の城(ナイト・パレス)に一人で挑んでる様子だし、確かにそれくらい強くても頷けるってもんだ。

 もしかしたらハンターレベルも、見合ったレベルはあるのだろう。

 

「一護のハンターレベルについては話したりした?」

 

「うん聞いたよ。ハンターレベルは2だって」

 

「……ん? ハンターレベルが2?」

 

「そうなんだよね。私もそこが一番ビックリしちゃった」

 

 ハンターレベルが2と言えばルーダより一つ下だったかな?

 確かうちのクランの中堅レベルが5で、世間的には3が中堅だったかな。

 だとすると、随分と低いぞ。

 

「一護ちゃんはシトみたいに降格って訳じゃなくて、単純に昇格試験に受けてないだけらしいよ」

 

「へぇ、それはまたどうして?」

 

「帝都に向かう中で受ける暇がなかったって。宝物殿とか巡りながら大陸を跨いだらしいし。いいよねー、私も世界中の宝物殿を見て回りたいなぁ。……ねぇクライちゃん、一護ちゃんが帝都に来たら、一度世界中の宝物殿をみんなで攻略しに行こうよ!」

 

「うんうん、そうだね」

 

 君たちだけで行ってきてね。

 そんな命がいくつあっても足りない艱難辛苦な旅行は絶対嫌だよ。

 帝都の外に出るなら、せめてバカンスがしたい。……今度みんなで温泉に入りたいなぁ。

 

「あ! そうだクライちゃん、一護ちゃんから預かってきた宝具があるんだった!」

 

「宝具?」

 

 思い出したかのように声を張り上げたリィズは、ポケットに手を突っ込む。

 宝具、それは何とも甘美な響きだ。しかも一護からとなると、それはプレゼントと思っていいのかな?

 世界中の宝物殿を巡っている一護からの宝具だ。それはきっと、レアに違いない。転換する人面(リバース・フェイス)ならいいなぁ。

 

「これこれ、使い方は教えてくれなかったけど、クライちゃん分かる?」

 

 リィズが取り出したのは、黒色の手帳ほどのサイズの薄い板。つるつるしており、リィズの指が黒い面に触れると発光した。そこには数字が表示されており、どうやら現時刻のようだ。

 僕はそれを知っており、ゆえに瞠目した。

 

「『スマートフォン』だ……電話の宝具だよ!」

 

「電話? あー、何かどっかで聞いたことあったかな」

 

 電話とは技術国が未だ実験段階の通信システムのことだ。

 そのシステムを内包しているのが、この高度物理文明の遺物であるスマートフォンである。

 僕も仔細にわたって把握しているわけではないが、何でも様々なバージョンがあり、それによって機能が大幅に変わってきたりする。手帳に地図、メッセージ交換、カメラ、ビームを出したり、食べ物を冷蔵したりと多機能であり、僕からすれば是非とも一つは入手しておきたかった宝具である。

 そして一番肝要なのは、全てのスマートフォンには番号が振られており、話したい相手の番号を押すと遠くにいても会話ができる点だ。

 まぁそれは相手がスマートフォンを持っていないと意味がない。そして知り合いは誰も持っていない。

 けど、それでも喉から手が出るほど欲しかった宝具に変わりない。

 僕はリィズからスマホを受け取ると、目をキラキラとさせて見入ってしまった。

 

「ねぇクライちゃん、それってそんないい物なの?」

 

「レアと言えばレアだよ。この宝具は特殊で、愛好家がいるくらいだからね。……あ、これが登録されている番号かな?」

 

 夢中になって、黒い板をぽちぽち操作していると登録番号の一覧、いわゆる電話帳に辿り着いた。

 そこには一つだけ番号が登録されており、その番号先の名前も表示されている。

 

「……黒崎一護」

 

 ドクンと心臓が波打った。

 スマホを握る手が強くなる。スマホ一つで、一護が近くにいるとそんな気がしてしまった。

 10年間、会えずにいた幼馴染であり親友。ティノから報告を受けて最初は喜んだものの、どこか現実感がなかった。

 本当に会えるのか? それは本当に一護なのか? 確証を得ていても、不安を拭うことができなかったのが本心だ。

 だがこうしてリィズから話を聞き、スマホまで渡され、そこに一護の名前を見てしまうと確固たる確信へと変わった。

 だから僕は無意識に、笑みを浮かべた。スマホを入手した幸福にではなく、親友に再会できる喜びにーー。

 

「あれクライちゃん、いま凄く嬉しそうだね」

 

「うん、これで一護といつでも話せるからね。いやー、ホントいい宝具を届けてくれたよリィズ。ありがとう」

 

「褒められるのは嬉しいけど、それってどういう宝具なの?」

 

 リィズの質問に僕は簡潔に答えた。

 それを聞いたリィズは目を輝かせながら、早速こう言った。

 

「じゃあさクライちゃん、早速一護ちゃんに電話してみようよ!」

 

「けど今はレベル8の宝物殿にいるんでしょ。ゆっくり話したいから、後での方がいいんじゃない?」

 

「大丈夫だって、一護ちゃんなら片手間でも電話できるから」

 

「そんなに余裕なのレベル8って……」

 

 少しの逡巡の後、リィズの後押しもあり僕は決める。

 

「電話っていうのもしてみたいし、そんなに言うんなら、ちょっとだけ一護に掛けてみよっかな」

 

 僕は番号をタッチし、慣れない所作でスマホを耳元に持っていく。

 すると、プルルルプルルルと電子音が聞こえてくる。恐らくこれが話に聞くコール音というやつだろう。

 

 しばらくしてコール音が消えると、僕は文献で読んだ通りの台詞を言った。

 

「えっと、もしもし――一護さんですか?」

 

 

   ***

 

 

 ガレスト山脈の一角にて――

 白い衣服に身を包んだ四人が、リィズとディ・ロイが戦っていた跡地にいた。

 凶暴なモンスターが跋扈するこの山脈だが、この四人にはどのモンスターも攻撃どころか近づこうとすらしない。

 本能が、この四人の危険性を総身で感じてしまい、近づいた瞬間に狩られると理解してしまったからである。

 そして四人の中で、一番線の細い男が顎に手を宛がい考察するように言葉を吐いた。

 

「ディ・ロイの霊圧はここを最後に消失している。恐らく、何者かにやられたのだろう」

 

 慇懃な物言いながらも、冷酷な印象を禁じ得ない。

 同じく金髪の長い髪を靡かせる眉目秀麗な顔立ちの男も、冷たく言い切る。

 

「あのカス、ハンター狩りをすると言うから単独行動を許したというのに、この様とは。全くカスはどこまでいってもカスか」

 

「奴は出来損ないだからな。高レベルハンターにでもやられたんだろうよ」

 

 同調するように、赤髪の大男も溜め息混じりに言った。

 そんな中で何一つ言葉を発さない大男からは、何の感慨も抱いていないように思われる。

 

 四人が仲間であろうディ・ロイが倒されたと推測するも、誰一人として哀れむ者はいなかった。

 

「それでディ・ロイを倒したと思われるハンターはどこにいると思う?」

 

「ディ・ロイの霊圧が消えてから、まだそう時間も経っていない。恐らく遠くには行っていないだろう」

 

「なら、あそこか?」

 

 ガレスト山脈の遥か先、同じ方角に四人が視線を向ける。

 そこにはレベル8の宝物殿{万魔の城(ナイト・パレス)}がある。

 

「カスだが、低レベルハンターに負けるほど落ちぶれてもいないだろう。なら、必然的にこの辺の高レベル宝物殿にいる可能性もある。まぁ無駄足になる可能性の方が高いがな」

 

「いいじゃねえか。憂さ晴らしに、その辺の宝物殿にいるトレジャーハンターと戦うってのもよ。もしあのレベル8にハンターがいたら、ディ・ロイの事とは無関係にいい戦いができるってもんよ」

 

「グリムジョーへの報告も必要だ。なら、即座に確認に向かうとしよう」

 

 四人の意見が合致し、謎の集団は{万魔の城(ナイト・パレス)}へと向かうため姿を消したのだった。

 

 

 

《2》

 

 宝物殿{万魔の城(ナイト・パレス)}のボス部屋。

 既にボスは倒され、今この場では黒崎一護とルーク・サイコルが激闘を繰り広げていた。

 剣戟が乱舞し、黒い斬撃と不可視の斬撃が飛び交うその様相は近くにいるだけで危険と隣り合わせになる。

 よってそれを見守るルシアは【不動不変】の二つ名を有する守護騎士ことアンセムの背後に立ちながら、戦いを見守っていた。

 

 かれこれ何千何万と熾烈な鍔迫り合いを行い、鎬を削って火花を散らしたことか。

 乱れ咲く火花は、もはや花火の如く。互いに目視困難な動きを見せるせいか、素人目には花火が上がっているようにしか見えなくなっていた。

 

 

 そうして何度目か、ルークは一護の圧倒的な霊圧と月牙天衝により戦闘不能になり気絶していた。

 

「いや、いつまで続けんだよ……!?」

 

 うつ伏せに倒れるルークを一瞥して、一護は腹の底から鬱憤にも似た声を張り上げた。

 あれから数日が経過している。

 ルークと戦い、ルークが倒され、また起きたルークと戦い、再び倒す。

 これを延々と繰り返し、気づいた時には1日が経過、そして次に気づいた時には数日の時を刻んでいた。

 

「ご自分の正体を明かさないからです。最初からそうしていれば、こんなことにはなりませんでしたよ。いい加減、この戦いに付き合わされている私たちの身にもなってほしいです」

 

「うむ」

 

 呆れた物言いなルシア。既に口が酸っぱくなるほど言い切っており、一護の耳にタコが出来そうになる。

 

「ここまで来たら、最後まで付き合わねえといけねえ気がしてよ。俺も、こんなに長いこと戦うことになるなんて思ってもみなかったぜ」

 

「諦めるしかありません。一度火がついたルークさんを止める術はありませんから。例え一護さんが正体を明かしても、自分が満足するまで剣を振ってきますよ。あ、木刀でしたね」

 

 後悔の念が強くなる。

 しかもルークは戦う毎に、天井知らずに強くなっている。

 この高濃度のマナ・マテリアルの中にいるので、当たり前と言えばそうなのだが。それでも許容量のマナ・マテリアルを一気に吸収することで起こるマナ・マテリアル酔いと言うものがある。高レベルの宝物殿でハンターが稀に起こす現象で、吸収能力が高ければ高いほど起こしやすく、酔いが起これば立つことすらままならなくなる。つまり病人状態だ。

 しかしルークがそのようなことを起こす兆しすらない。

 ルシアから初のレベル8宝物殿の挑戦と聞いていたので、マナ・マテリアル酔いを起こしてもおかしくはないのだが、一護と連戦するほどピンピンしている。

 

 最初に戦った時は、本音を言うとここのボスよりルークの方が弱かった。

 しかし今ではレベル8のボスよりも、ルークの方が強くなっている。

 その上、ルークが握っているのは剣ではなく木刀。

 それでこの強さになっているのだから、末恐ろしくある。

 

「それでも、まだ一護さんは余裕がありますね。アンセムさんがルークさんを回復させて上げてますが、一護さんは回復がいらないレベルらしいので。一体どんな身体をしているんですか?」

 

「どんな身体って、別にお前らと変わらねえよ。それに、俺からすればルークのあの気力の方が怖ぇよ」

 

「ルークさん、恐らく一護さんを倒すまでやめませんよ」

 

「ったく……諦めの悪さは昔から変わらねえな」

 

 だからと言って手加減など一切しない。

 面倒だから加減して斬られてやった、などと無粋なことをすればルークだけではなく、ルシアやアンセムにも縁を切られるかもしれない。

 それに一護も、そのような野暮なことは決してしない。相手の矜持を損なう行為にもなるからだ。

 

「…………そういや、クライは元気にしてんのか?」

 

 ふと、まだ会っていないクライの顔が頭をよぎった。

 リィズやみんなから聞くには『嘆きの亡霊(ストレンジ・グリーフ)』のリーダーでありながら、帝都有数のクラン『始まりの足跡』のマスターも務めている。

 基本的に単独でしか行動してこなかった一護からしたら、その多事多端は想像することすら出来ない。

 しかし楚々としたルシアの表情は、酷く渋面となり深い溜息をついた。

 

「兄さ……リーダーはいつも元気ですよ。どうせ今も仕事を放棄して、大好きな宝具でも磨いているんじゃないですか。言っときますけど一護さん、絶対にリーダーと再会しても甘やかしたら駄目ですよ! 絶対ですから!」

 

「お、おう……分かった」

 

 何やら凄みと言うか、脅しにも似た威圧感がある。

 よほど苦労したのだろうか。一護は後でこの事もクライに追求しようと心に決めた。

 

「――まだ、まだァア!」

 

 するとアンセムが回復させた瞬間、ルークが漲った活力を放出させるようにして、気合いと共に立ち上がった。

 一護はそのルークの姿に冷や汗を流す。

 

「あいつ、復帰する時間もどんどん短縮されてやがる」

 

 戦いへの執着、強者と死闘を繰り広げたいと思うその気概は、まさに圧巻の他ない。

 再び仮面を付け直した一護は天鎖斬月を構え直して、ルークと対峙する。

 アンセムが下がりつつ、ルシアもその近くへと移動した。

 

「次こそ斬るぜ。こっちはまだ一太刀も喰らわせてねぇからよ!」

 

「受けて立ってやるぜ!」

 

 そして再び一護とルークが剣を交えた。

 

   ***

 

「ルークさんも強いですが、やっぱり一護さんの方がまだまだ上手ですね」

 

 戦いを見守るルシアが、何度目になるであろうか激闘を見据えながら呟く。

 剣術はほぼ互角。だが、吸収してきたマナ・マテリアルの量や場数を踏んできた経験、そして一護にしかない霊圧。

 それらを総合すると、アドバンテージは圧倒的に一護の方に軍配が上がる。

 だが、それでもなお喰らい付こうと獅子奮迅するルークも、また著しい成長を戦いの中で開花させていた。

 故に見ていて飽きない。飽きないのだが……。

 

「いくら何でも、一護さんを倒すまで付き合うのは現実的じゃありませんね」

 

「……うむ」

 

 確かにルークは強くなっている。

 しかしそれは一護も同じで、戦いの中でマナ・マテリアルを吸収し、互いに命懸けの切磋琢磨をしているような感じなので、後追い状態になっていた。

 

「せめてリーダーがいたら……ああもう、何でこんな時にいないんですかうちのリーダーは!?」

 

 不在であるクライに、ルシアが八つ当たりの如く怒りの矛先を向けた。

 そもそもクライが宝物殿の攻略に来ることすら超珍しいので、いる方が不自然なのだが、呑気にマスター室でダラダラしていると思うと苛立ちも立ってくる。

 

「それに一護さんに私の魔法も見てもらいたいのに、ずっとルークさんの相手ばかり。別に構って欲しいわけじゃないですけど、少しは私の習得してきた魔法にも興味を待って欲しいです、全く」

 

「う、うむ」

 

 愚痴るルシアに、それを聞かされているアンセムは頷くことしかできなかった。

 どこか嫉妬めいた色合いも見せ始めているため、このままではルシアも参戦してしまうかもしれない、何て危惧の念をアンセムが抱いた時だった。

 

「――斬るぜ一護ォオオオオ!!」

 

 ルークが渾身の一撃を、一護に加えていた。

 

 

   ***

 

 

 一護に油断はなかった。

 鬩ぎ合う二人は、まさに均衡した接戦を繰り広げていた。

 伯仲する両者の力、しかし一護が霊圧を上げるごとにルークが押され始める。

 そして最終的には一護が均衡を崩して、そこから剣戟なり拳なり、月牙天衝を放つなりしてルークを倒す。お決まりの流れである。

 だがここで、一護は一つ不安を有する点があった。

 それはルークが霊圧に耐え始めてきたことである。

 最初のうちは動くことすら満足にできていなかったが、今ではその重圧すら修行のものと捉えて俊敏な動きを取り戻してきている。

 経験を踏んだ慣れと、マナ・マテリアルの恩恵、そして斬りたいという執念がそれを可能にさせた。

 戦いにおいて天賦の才を持ち合わせたルークだからこそ、それを短時間でこなせたと言えるだろう。

 一護からしたら嬉しくも、そして楽しくもあるが、反面では疲労困憊も否めなくなってきた。

 

「――ッ、ルークの奴、膂力を上げてきやったな!」

 

 剣林弾雨の如く休む間もない剣閃の嵐。

 そして振るわれる斬撃の強さが、振るわれる毎に上がっているため一護も憔悴を隠せない。

 

 ――なら、こっちも霊圧を上げて行くぜルーク!

 

 木刀を弾き、その刹那の時のタイミングを見計らい霊圧を上げようとした。

 その時だった。

 

「それを待ってたぜ!」

 

 ルークの鋭い眼光が、一護を完全に捉えた。

 ルークはこの時を待っていたのだ。

 幾度も交えてきた剣と、そして数日の戦いに渡り、一護の癖を見破った。

 一護が霊圧を上げる時の呼吸、筋肉の動き、構え方、そして自身の感覚の感じ方。それらを何パターンも分析し、そして剣士としての勘を信じてルークは吠えた。

 

「斬るぜ一護ォオオオオ!!」

 

 一護が霊圧を上げるその数瞬を狙い踏み込んだ。

 そしてルークは一護の正体を既に看破している。

 例え顔が分からなくとも、子供の頃から幾千幾万と研鑽を重ねてきたが故に剣筋を覚えていた。

 年月がいくら経とうとも、全ての細かい癖が抜ききる訳はない。

 だからこそルークは一護の正体を最初の頃から見破っていたのだ。

 

「ッ!? ルークお前――」

 

「おりゃァアアッ!!」

 

 そして木刀による一閃が、一護の胸元を浅くだが斬り裂いた。

 

「くッ……!?」

 

「よっしゃぁああ! 斬ってやったぜ!」

 

 ようやく一太刀入れたことにより、ルークは歓喜の声を上げた。

 斬られた一護は胸元を滴る血を確認すると、溜息をついて仮面を消した。

 

「喜んでんじゃねえよ。つか、気づいていたならとっとと言えよルーク」

 

「一護こそ、まさか俺が気づいていないと思ってたのか? いくら何でもあり得ねえって。馬鹿になったか?」

 

「お前にだけは言われたくねえよ、その言葉」

 

 そうして二人の激闘は幕を閉じたのだった。

 

 

   ***

 

 

 二人は戦いを終え、お互い剣をしまった。

 

「気づいていたんですねルークさん。絶対に気づいていないと思っていました」

 

「おいおいルシア、俺はガキの頃から一護と剣の修行をしてたんだぜ。気づかねえ訳ねえだろ?」

 

「だったら一護さんを、問答無用で斬ろうとするようなことはしないでください」

 

 ルシアが軽く注意するように言うと、ルークはまだまだ戦い足りないのか興奮冷めやらぬ様子で一護を見る。

 

「最後の勝負は斬った俺の勝ちだが、まだ俺は本気の一護を斬れてねえ。だから、次は霊圧を上げ切った一護を斬る! さぁ第二ラウンドをしようぜ一護!」

 

「やらねえよ! しかも、さっきのはお前に一度斬られただけで負けてねえよ」

 

「何だと!? 普通は斬られた方の負けだろ!」

 

「そんなルール知らねえよ。それにお前が俺を一回斬るまでに、俺は何回お前を斬ったと思ってんだよ。斬った数なら俺の方が圧倒的に上だからな」

 

「だったら勝負してくれよ。こっちはいつでも準備万端だぜ」

 

「いい加減にしてくださいルークさん。一護さんも、いちいちルークさんに噛み付かないでください。二人とも負けず嫌いなのはよく分かりましたから」

 

 ルシアが二人の間に入り、再戦を始めそうなのを制止した。

 

「全くもう、私とアンセムさんは二人の戦いを何日も見せられてるんですよ。付き合わされている私たちの気持ち、考えたことあります?」

 

「あー、悪かったよ。しょうがねえ、じゃあまたいつの日か再戦させてもらうぜ一護」

 

「しばらく先で頼むぜ。お前と剣を交えると、こっちの方が疲れる」

 

 一護が疲れの色を表情に出しながら答える。

 そもそも自分の正体に気づいていた上で、斬るという無謬の執念しか伝わってこなかったので改めて恐怖を感じた。

 

「けど、これでようやく言葉で交わせる。久しぶりだなルーク。会えて嬉しいぜ」

 

「おうよ、俺も一護が強ぇ剣士(ソードマン)になってて嬉しいぜ。また帝都に帰ったら模擬戦な」

 

「だからやらねえよ」

 

 これは気づけば戦いを挑まれそうだ。

 そんな期待と不安が入り混じった気持ちでいると、ルシアが追撃するかのように忠告した。

 

「一護さん、一応覚悟はした方がいいですよ。恐らく帰ったらリィズさんはもちろん、他のクランメンバーに模擬戦を必ず挑まれますから。休む暇、ないかもしれません」

 

「マジかよ。お前らのクランってルークみてえな奴の集まりなのかよ。帝都に行くのが嫌になっちまう情報だな」

 

「ルークさんみたいではありませんが、かくいう私も、習得してきた魔法を見てもらいたいです。だから、私にもとことん付き合ってもらいますよ。もちろん最優先でお願いします。いいですよね?」

 

「あ、ああ。構わねえよ」

 

 ルシアから何やら妙な圧を感じた一護は、それを断るという勇気はなかった。

 しかもルシアとアンセムはルークとの戦いに黙って付き合ってくれていたので、前提からして断ることなどできない。

 

「つうか、俺はその前にトレジャーハンターの昇格試験を受けねえとな。リィズから聞いたぜ。みんな高レベルなんだろ?」

 

「平均よりは、そうですね高い方かと。……え、一護さん、今レベルはいくつなんですか?」

 

「レベルは2だ。言っとくけど、お前らが高すぎるくらいだと俺は思ってるぜ」

 

「何ィ!? 一護、お前レベル2なのか? 俺より下じゃねえか。何だ、何かやらかしちまったのか?」

 

「何もやらかしてねぇよ」

 

 案の定だがルークが驚きの声を上げ、隣にいるルシアとアンセムも驚きの表情をしていた。

 

「レベル2、一護さんの強さでそれはおかしいです。探協の怠慢、もしくは他に理由が?」

 

「強いて言えば、悪いのは俺だ。昇格試験も蹴ってたし、同じ場所に留まることもしなかったからな。国から国へ点々としているうちに、レベルも上がらなかったんだよ」

 

「そうなのか、人でも斬って下がったのかと思ったぜ」

 

「お前にだけは言われたくねえな。むしろレベル6なのに驚きだ」

 

 一護はルークのレベルを訝しる。

 実力は申し分ないが、普通に強者もとい剣士がいたら問答無用で斬りかかりそうな気迫があった。犯罪者になっていないのが不思議で仕方ない。そこはリーダーであるクライの手腕なのかもしれない。

 

「一護さんなら心配しなくても、すぐにレベルを上げられますよ。帝都に帰ったら昇格試験の手続きに行きましょう。付き合いますよ」

 

「おう、俺も付き合ってやるぜ!」

 

「うむ」

 

「そ、そうか。なら頼む」

 

 帝都の地理も試験もよく分かっていないので、一護は渋々好意に甘えることとした。

 

「では帝都に帰りましょう。リーダーも首を長くして待ってそうですし」

 

「何だ、クライって首を長くできんのか?」

 

「……そう言う意味じゃありません」

 

 そうしてこの宝物殿から去ろうとした、その瞬間だった。

 

「――成程、良い力をお持ちのようですね」

 

 空間が上下に割れたかと思うと、そこから四人の男が現れた。

 一護たちはその光景に驚愕するも、一呼吸置いた後には万全の臨戦態勢に入っていた。

 四人の男たちが前に出ると空間が元に戻り、そこで一人の高身長の男が慇懃な態度で言った。

 

「初めまして、トレジャーハンターの皆さん」

 

「誰だテメェら……?」

 

「そうですね、このレベルの宝物殿を踏破したようですし、名乗る価値はありそうだ。私たちは――『破面(アランカル)』。これから、あなた達を殺すものです」

 

 そして新たな刺客が現れ、ここでの戦いは佳境へと入ったのだった。

 

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