嘆きの亡霊は死神と共に   作:ディーン・グローリー

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第9話【破面①】

《1》

 

 

 万魔の城(ナイト・パレス)を攻略し、無事ルークとの戦いに決着がついた矢先だった。

破面(アランカル)』と名乗る四人組が現れ、突拍子もなく宣戦布告をされた。

 奇しくも四対四の構図が出来上がり、睨みを利かせながら対峙するのだった。

 

「誰だか知らねえが、売られた喧嘩なら買うぜ。ちょうど頭数もいい――」

 

「よし! ならその喧嘩、俺一人で買ってやる! 連戦とはいい修行になりそうだぜ」

 

 一護の言葉を遮って、ルークが木刀の切っ先を相手に向けながら満面の笑みを浮かべた。

 

「しかも全員、剣を持ってるな。つまり剣士(ソードマン)ってことだ! これが世に聞く棚からぼたもちってやつか! 今日の俺はついてるぜ!」

 

「おいルーク、なに一人で熱くなってるんだよ。どう見ても、まともな剣士(ソードマン)には見えねえぜ」

 

 それに、恐らく人間ではない。

 精霊人(ノウブル)幻影(ファントム)、魔物、どれにも該当しないだろう。

 どちらかと言うとサヤなどの異能持ちに近いが、それもまた違うのだろうと一護は憶測を立てる。

 

破面(アランカル)……。私も初めて耳にしました。聞いたことのない種族ですね」

 

「うむ」

 

 ルシアとアンセムも初耳のようだ。

 しかもかなり危険な種族のようで、先程から肌を突き刺すような殺気が常に迸っている。何をきっかけに開戦の合図となるか分からない。

 

「ふむ、成程。なかなか腕は立つようですね。この宝物殿を攻略したのも頷ける」

 

 長身の男が、四人を観察するかのように言った。

 恐らく四人の中でもリーダー格、一護はそう予想した。

 

「しかし運が悪い。あなた達はここで、私たちに殺される。自分たちの不運を呪うといい」

 

「随分と上からじゃねえか。何者かは知らねえが、売られた喧嘩なら買うぜ」

 

「いや買うのは俺一人だぜ!」

 

「うるせぇよルーク」

 

「なかなか活きが良いじゃねえか。俺たちを前にそのでけえ態度を崩さねえのは初めてだぜ」

 

 好戦的な笑みを浮かべて、赤髪の巨漢が睨むようにして一護に視線を向ける。

 似たような力を感じる、そう思った一護は自身の仮面に思い至った。理由は分からないが、直感的なものが訴えかけて来たのだ。

 

「マナ・マテリアルを多く吸収して図に乗っているだけのハンターだろ。女子供が俺たちの相手になるとは思えねえな」

 

 そして金髪の男が落胆するように溜息をついた。

 

「言ってくれるわね。あの長ったらしい髪だけ凍らせて、ハゲにして上げたいわ。あの鬱陶しそうなロン毛をね」

 

「ま、お前もロン毛だけどな」

 

「何か言いました?」

 

 金髪の男に対して眉間に青筋をたてるルシア。

 その横で一護が余計な一言を追加したので、更に怒りを募らせた。

 

「はぁ~、どうしてリーダーがいないのに、こう面倒ごとが次から次へと舞い込んでくるのか。もしかして一護さんも、面倒事に巻き込まれやすいタイプなのですか?」

 

「クライがどうかは知らねえが、そうだな。森の中で仮眠を取ってたら、いつの間にか寝ている場所に宝物殿が出来ていたことくらいはあったな」

 

「それもうリーダーレベルです」

 

 これ、リーダーと一護さんが揃ったら災害級の天変地異が起きそうな、そんな嫌な予感がしたルシアだった。

 長身の男が顎に手を宛がい、四人に興味を持つ。

 

「本来の目的はディ・ロイを倒したものについてだったが、この様子だと知らないようだ。だがもういいだろう。収穫はあった。少しは、楽しめる戦いができそうだ。人間ども、退屈をさせないでくれたまえ」

 

「おい、何もう勝った気でいるんだ? こっちは斬りたくてうずうずしてんだ。口上はいいからよ、早くやろうぜ。俺一人でやってやるからよ」

 

 ルークが一歩前に出て、今にも斬りかかろうとした時、ルシアも同じく前に出た。

 

「ルークさん、いい加減にしてください。私とアンセムさんはずっと、一護さんとルークさんの戦いを黙って見ていたんですよ。私たちも混ぜてもらいますから。文句は言わせませんよ」

 

「うむ」

 

「けどよ、相手が剣士(ソードマン)なら俺に譲るっていう――」

 

「いいじゃねえかルーク。ルシアとアンセムは俺たちが戦い終わるのを待っててくれたんだぜ。それにちょうど頭数も合うし、一人につき一人。サシでやろうぜ」

 

「そうか……ならしょうがねえ。今回は譲ってやるぜ。けど、次は譲らねえ!」

 

 眉間にしわを寄せながら諦めるルーク。

 そんな四人の姿を見て、破面の一人である金髪の男が目を細めて言った。

 

「随分と余裕な態度だな。今まで色んなハンターと相対してきたが、どいつもこいつも俺たちに恐怖していたものだ。前言を撤回しよう。その威勢に見合った力があることを祈ってるぜ」

 

「どいつとやるよ? 何なら俺一人が相手してやってもいいぜ。なかなか骨のありそうな連中じゃねえか」

 

 巨漢の男が闘争心を剝き出しにしながら、一護たちを見やる。

 

「ここは彼らの望み通り一対一でやろう。こちらも、久方ぶりに良い戦いができそうだ」

 

 長身の男が言うと、一護たちと破面たちの視線が交差する。

 それが開始の合図となった。

 

 ルークが長身の男に斬りかかり、ルシアが金髪の男の攻撃を魔法で防御し、アンセムが巨漢の男と拳を激突させ、一護が一言も口を開かなかった肥満体の男の拳を天鎖斬月で受け止めた。

 

「斬るぜ! いや斬らせろ!」

 

「血の気の多い男だな。しかし悪くない力量をしている。どうやら当たりとみていいようだ」

 

「八つ当たりで申し訳ないですけど、溜まっている鬱憤を貴方で晴らします」

 

「威勢のいい女だな。虚勢でねえことを祈ってるぜ」

 

「うむ!」

 

「ほぉ、なかなかいい剛力だ。これは無駄足でなくてすみそうだな!」

 

「…………」

 

「おい、何か喋れよ。先に仕掛けてきたのはアンタだぜ。黙ってちゃ、こっちも手ェ出しにくいんだよ」

 

 そうして今ここに、破面のと初陣か開幕した。

 

 

《2》

 

 

「ふんッ!」

 

「うむ!」

 

 互いに巨漢、そしてぶつけ合うは無骨な拳。

 衝撃が走り抜け、両者の足元は踏み込みで地面にヒビが入り砕ける。

 

「すげェ拳じゃねェかよ。よくもまぁ人間の身でここまでパワーを上げれたものだ」

 

「…………」

 

「それにその体格、宝具によるもんじゃねェな。人間でここまででけぇ男を見るのは初めてだぜ」

 

「…………」

 

「おい黙ってねぇでお前さんも口を開け。さっきから、うむしか言ってねえじゃねえか」

 

「うむ」

 

「おいおい、ナキームと同じか? まだアイツの方が口を開くぜ」

 

 赤髪の男は後退し、掌をアンセムに向ける。

 

「なら苦痛の声を上げさせてやる。手加減はしねえぜ」

 

 そして掌から赤い光が収縮していき――

 

「――『虚閃(セロ)』!」

 

 次の瞬間には破壊の閃光が迸った。

 未知の高エネルギーが迫る。宝物殿の床を木っ端微塵に粉砕しながら、破壊の光がアンセムを呑み込もうとする。

 

「――うむ!」

 

 しかしアンセムは回避行動をせず、真っ向から破壊の閃光に受けて立った。

 そもそも高速で迫る閃光に回避は困難だが、アンセムなら巨体に見合わない俊敏性と反射神経で躱せたかもしれない。

 だがそれをしなかったのは、単純な理由。

 余裕をかました相手をビビらすには、これが一番だからだ。

 

 そして虚閃がアンセムを貫いたが、その場から微動だにしていなかった。

 

「……なに?」

 

 唖然とする赤髪の男。

 その数瞬の隙を突き、アンセムは特攻を仕掛ける。

 握った拳が、赤髪の男の顔面にめり込み、その勢いのまま地面に叩きつけた。

 地面が陥没する。同時にそのまま床が砕け、完全にアンセムと赤髪の男の床が砕け落ちた。

 

 ここは宝物殿最上階のボス部屋。

 故に二人はそのまま下の階に落下し、別の階へと強制的に移動したのだ。

 

 体勢を立て直し、地面に着地する赤髪の男。

 かなりの高さから落下したのに、それに対するダメージは無に等しい。

 しかしアンセムに殴られた顔面からは鼻血が滴っていた。

 

「っ、痛ェじゃねえか。本当に人間かお前?」

 

 鼻血を拭いながら、同じく大地を大きく揺るがしながら着地したアンセムに視線を向ける。

 

「いやいい、どうせ答えはしないだろう。だが、その強さは認めてやる」

 

 フルフェイスの鎧を纏っているため顔も拝めないが、赤髪の男は目の前の男を本気で戦うに値すると見極めた。

 

「ここからが本番だ。お前のような男には、どう足搔いても勝てないという絶望を叩き込んでやる。見てみたいものだ、その隠れたツラが歪むのをな」

 

 帯刀している刀を抜き、鋭い視線をアンセムに向けた。

 

「お前になら名乗りを上げよう。俺は破面(アランカル)、エドラド・リオネスだ。そして、こいつも覚えて逝け」

 

 瞬間、爆発的に力を解放し――

 

「――熾きろ『火山獣(ボルカニカ)』!」

 

 本当の力を解き放った。

 

 

   ***

 

 

 アンセムは兜の中で、驚愕のあまり目を見開いた。

 相手の姿が一変した。

 肩のから両腕にかけての部分が巨大化し、見た目は鎧のような形状となっている。その肩の先から炎が噴出しており、先とは比較できないほどに剣呑とした雰囲気を溢れ出していた。

 しかし、そんなものは些事なこと。

 

 出会い頭から感じていた、一護と酷似している力……霊圧。

 恐らく破面という種族は霊圧を有しているのだろうと踏んでいたが、一護と比べたら微々たるもの。

 だから危険視はしていなかったし、先の攻撃もほぼ無傷で耐え切ったのを見るに大したことはないと思った。

 

 だが破面もといエドラドと名乗った男の姿が変わった途端、破格なほど霊圧と言うものが上昇している。

 恐らく切り札と思っていいだろう。

 破面という種族がどういった存在かは未知でしかないが、この昇華した姿を前にアンセムは拳を握った。

 

「これが破面の刀剣解放。刀に宿った力の核を解放することにより、本来の能力と真の姿を発現させる。俺たち流に言うなら帰刃(レスレクオン)とも言うな」

 

 エドラドは片腕に灼熱の炎を纏い、

 

「そしてこの『火山獣(ボルカニカ)』こそ、俺の真の力だ!」

 

 霊圧を合わせた炎がアンセムを燃やした。

 周囲が溶け落ちる程の爆炎が舞い、巨漢のアンセムを吹き飛ばす。

 

「うむ!」

 

 だが自慢の耐久力を有するアンセムは、この程度では屈しない。

 爆炎を振り払いながら、エドラドに突貫を仕掛けようとしたが、先に相手が動いていた。

 

「先の返しだ!」

 

 巨大な拳がアンセムの鎧に莫大な一撃を加える。

 マナ・マテリアルにより強化した耐久度も、未知の霊圧の前では無力だった。

 壊れることを知らないアンセムの鎧型宝具『変幻自在の砦(フォーリナー・メイル)』に罅が入り、貫通するようにしてアンセムの身体に痛烈なダメージを与えた。

 

「俺の戦闘能力はさっきの数倍だ! お前じゃあ俺に勝つことはできねえ!」

 

 アンセムも巨体に見合わず速い動きを見せるが、それは相手とて同じだった。

 瞬間的な速さを見せ、アンセムの眼前に迫ると猛火の拳が襲い来る。

 連続する拳を前に、アンセムも負けずに攻防を繰り広げた。

 

「うぉぉおおおおおおおお!!」

 

「ッ! やるじゃねえか、面白ェ!」

 

 咆哮を上げながらアンセムは、エドラドに拮抗を見せる。

 光霊教会に所属しており、神聖系魔法――封印術や結界術、癒しの術を扱う。

 帝都最強の聖騎士(パラディン)。圧倒的な耐久力、巨体からくる怪力、光霊の力を借り癒しと守りの術を使いこなす。そしてマナ・マテリアルの吸収したアンセムは、あらゆる攻撃や状態異常も寄せ付けない≪不動不変≫の二つ名を有した。

 

 その二つ名に恥じないアンセムの激烈なまでの攻撃に、エドラドはどこか敬意を表する気持ちとなった。

 

「人間の分際でここまで強い奴を見るのは初めてだ。一体どれほどの修練を積んだのかは知れねえが、その力は俺にとって脅威に値すると認めてやる」

 

「…………」

 

「何を言っても受け答えはしねえか。ここまで貫くと尊敬すらしちまうぜ」

 

 お互い距離を取り、攻撃の手を止める。

 熾烈を極めた拳による攻防は、周囲にいるはずの幻影(ファントム)ですら近づいてこなかった。

 

「単純な力対力、どっちが強ェか。白黒はっきりつけようぜ」

 

「……うむ」

 

「俺も名乗りを上げたんだ。お前も、名乗ったらどうだ?」

 

「……アンセム・スマート」

 

「アンセムか。覚えておく。俺と力で勝負できる、唯一の人間だったとな!」

 

「うむ!」

 

 拳を構えたアンセムと、霊圧を上げたエドラドが渾身の一撃を叩き込んだ。

 

 

   ***

 

 

 ボス部屋にて――

 

「月牙天衝!」

 

 一護の刀より、漆黒の斬撃が放たれ襲ってきた名前不詳の破面を吹き飛ばした。

 そしてその男は壁に激突すると、そのまま外へと落下していった。

 

「……あれ、倒しちまったのか?」

 

 呆気ない幕引きに、一護はポカンとしてしまった。

 敵の正体やら目的やら探る予定だったが、一撃で沈めてしまえるとは思わなかった。

 

「俺と同じ霊圧を使っていたけど、一体なんだったんだ?」

 

 頭を掻きながら、ルークとルシアの方へと目をやる。

 ルークは長身の男に斬りかかり、ルシアと金髪の男は戦いの舞台を空中へと変えていた。

 ちなみにアンセムは床下、恐らくかなり下の階へと落下していった。

 

「斬る! 斬る! 斬る!!」

 

 ルークに至ってはもう、どっちが敵か味方か分からない発言を繰り返していた。

 

「手ぇ貸すほど苦戦もしてねえようだし、大丈夫か」

 

 そもそも下手に手出しすれば、怒られそうな気がする。

 なので一護は決着がつくまで待とうとした矢先だった。

 

 ――プルルプルル

 

 と、軽快な電子音が鳴り響いた。

 

「電話か」

 

 ポケットにしまっているスマホを取り出し、ナンバーを確認する。

 

「……クライか」

 

 リィズに渡したスマホの番号からだった。

 つまり無事にクライに渡せたことを意味し、早速かけてきてくれたのだろう。

 

「……あれ、何か緊張すんな」

 

 10年ぶりの友からの電話。

 早く出たい反面、どこか緊張してしまう。

 リィズ達のように直接ばったり会うならまだしも、電話越しとなると妙な緊張感が大きな波となってこみ上げる。

 

「……たく、どこからでも通話できるバージョンの高いスマホも便利すぎていけねえな」

 

 元来、スマホは街の近くでないと通話できない変な特性があるが、このスマホは他のものよりバージョンというものが高いらしく、どこでも通話できる優れ物。

 一護は深呼吸すると、意を決して通話ボタンをプッシュする。

 そしてスマホを耳元に当てると、懐かしい声色が聞こえて来た。

 

『えっと、もしもし――一護さんですか?』

 

 ああ、昔と変わらないクライの声を聞いた。

 向こうも緊張しているのか、そわそわしているのが伝わってくる。

 

「あ――」

 

 それに応えようとした、その刹那の時だった。

 

 部屋の中心に凝縮されたマナ・マテリアルが収束し始めたのだ。

 

 この宝物殿のボスが復活する。

 宝物殿のボスは倒しても、マナ・マテリアルが蓄積すれば再発生する。神殿型の宝物殿など例外はあるが。

 しかし、ここまで早々と再発生することなど有り得ない事象である。

 

「……くそっ」

 

 一護は申し訳なさそうに通話を切ると、復活を始めるボスを見据える。

 ここでリィズから聞いた、ある事を思い出した。

 

 クライちゃんは、クランメンバーに千の試練を課すことがある。

 何でも死ぬギリギリの試練を与えて、乗り越えさせることによって成長を促すとか何とか。

 まさか今の通話で? もしくはここに一護が来ることも読んでいた? などと思ったが、いやいやまさかと一護は首を横に振って否定した。

 

 そんな考えを巡らしている内に、凝縮されたマナ・マテリアルが昇華し、遂にボスが復活してしまった。

 同時に感じ取った。

 

「――これは霊圧か!?」

 

 瞬く間に復活したボスは、顔に仮面を付けていた。

 

 

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