俺と、ポケモンと、学園と。   作:爆砕肉団子

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第3話 学園都市

 コンプレンズシティ。それは5つの学園とその自治区で形成される学園都市の中心部だ。高層マンション、一般企業のビルなどが大量に立ち並んでおり、まさに都会とはこの場所のためにある言葉だろう。

 

 そしてその中心部を囲うようにして、東西南北それぞれにまた街が形成されている。これを総称して、『学園都市』と呼称するのだ。

 

 現在カケルがいるのは、その東の街イーストシティ。

 

 街に入った瞬間、見渡す限りの高層ビル。車が頻繁に往来するのはもちろん、電車、地下鉄、バス、なんでもござれだ。都会出身のカケルでさえ、その街並みに圧倒されていた。

 

「す、すっげぇ……」

「ハハハ、俺も研究者としての立場上ここに何度も足を運ぶけど、未だにこの発展具合には驚かされるね」

 

 そんな雑談を踏まえながら、ススキノは中心部へ向かって車を走らせる。道中、街を歩く人々の隣には様々なポケモンが居た。

 

 人とポケモンが日常的に暮らしている。

 

 そんな光景を見れば、やはりここがポケモンの世界なのだと再認識する。

 

「そういえば、試験ってなんですか?」

「ああ、その話ね。……まぁ、結論から言えば君には学園に入ってもらいたいと思ってる」

「学園?」

「そう。この先のコンプレンズシティにある5学園のうちのどれかにね」

 

 学園都市にある学校と聞けば、この地方の住人は誰もが思い浮かべる5つの学び舎。パルデア地方のアカデミーも有名所だが、ニコク地方の5学園も世間にはよく知られている。

 

 第1の学院、クリムゾンハイスクール。

 

 第2の学院、アクアマリンユニバーシティ。

 

 第3の学院、エレキサイエンスカレッジ。

 

 第4の学院、アルメリア総合学園。

 

 第5の学院、リュウラン学院。

 

 この5つの学び舎の何れかに所属した15歳の少年少女は、18歳まで3年間の学園生活を送る。この地方の出身ならば誰もがそうするそうだ。

 

「時にカケルくん。君はどのタイプが好きかな?」

「タイプ? ポケモンのですか?」

「おいおい、さすがにこんな朝っぱらから女性のタイプについて聞いたりなんてしないぜ? もちろんポケモンのさ。ちなみに……」

 

 ススキノがその次の言葉を言おうとした瞬間、彼が助手席に置いていた3つのモンスターボールのうちのひとつが揺れた。

 

「ふぃーあ!」

「うおっ!?」

 

【ニンフィア むすびつきポケモン タイプ:フェアリー】

 

 ボールから飛び出した光のシルエットは、助手席でニンフィアとなった。もちろん私よねと言わんばかりにリボンをススキノの腕に絡ませている。

 

「ふぃーふぃ〜?」

「おっと、驚かせたかな。あんまり勝手にボールを飛び出しちゃいけないよ、ニンフィア」

「……ふぃ〜」

 

 主に少し諌められ、面白くなさそうな顔をしたニンフィアはそっぽを向いて眠り始めてしまった。

 

「ハハハ、悪いねカケルくん。彼女、俺が運転してると時々こうやって出てきちゃうんだよ」

「いや、大丈夫です。むしろもっと見たいです」

「興味が尽きないのはいい事だ。この先に行くともっと見られるからね」

 

 そう言いながらススキノが視線を向けた先には、巨大なゲートが鎮座していた。まるで城門のようにも思えるそれに、車は正面から侵入する。

 

「このゲートは防衛装置にもなっていてね。城門の天井付近に認証装置が埋め込まれているんだよ」

「ああ、だから出発前に」

「そう。出発前に君に渡したカードがそれさ」

 

 ススキノは後ろ手に自分のIDカードをチラつかせる。カケルの首にも、同じようにIDカードがあった。出発前にススキノから持っておくようにと渡されたものだ。

 

「ちなみにそれ、無くしたら再発行に1ヶ月かかるからね〜」

「さすがに1日程度で無くすようなことはないと思いますけど……」

「まぁまぁ、頭の隅に覚えといてよ。今後の為にもね」

 

 カケルは再度、首に提げたIDカードを見つめる。自分の名前と顔写真、何やらシリアルコードのようなものが刻まれていた。

 

「さて、話が逸れたね。まぁ、俺がこうして君に好きなタイプを聞くのも理由があるんだよ。というのもね……」

 

 ススキノ曰く、各学園にはその場所に適したタイプを使うトレーナーが集まるらしい。

 故に好きなタイプに適した学園に入ってもらいたいというのが意図であった。

 

「俺は…………どのタイプが1番ってのは決められないと思います」

「ほう? それはなんで?」

「だって、全部好きだから」

「ハハハ、じゃあしっかりと学園紹介を見てから決めないとね」

 

 そう言ったススキノの声音は、どこか嬉しそうだった。

 

「…………俺も、昔は君みたいに純粋な子供だったよ」

「今は純粋じゃないんですか?」

「ま、そりゃ大人になれば多少は捻くれてくるもんさ。ほんっと、学会の保守派のジジイ達ときたら…………」

 

 そこまで言って、ハッとしたように「ごめんね」とススキノは謝る。

 

「愚痴なら付き合いますよ」

「いやいや、年齢的に話が分かる歳だとしても子供に愚痴を聞いてもらう大人なんてみっともないでしょ?」

「まぁ、確かに」

「うん、だからこの話はここで終わり。ほら、もっと明るい話をしようぜ!」

 

 コンプレンズシティの東大門大通りを車で進むこと数十分、ようやく見えてくるのはアルメリア総合学園の自治区だ。

 

 車窓から見える住宅街は、流石にゲームの世界で見るような簡略化された外観ではなかったが、どこか日本建築とも似つかない造りだった。

 

「……なんか、ちょっと変な造りですね。ここの家って」

「そうかい? 俺は普通だと……って、まぁカケルくんから見たらそりゃそうか」

「洋風か和風で言ったら洋風に近いですよね」

「そうだね。俺もしっかりとした和風建築を見たのはエンジュシティくらいだよ」

「ああ、ジョウトの」

「そうそう。いやぁ、あそこは壮観だったね。今は焼け落ちちゃったけどカネの塔とかね」

「ルギアが舞い降りるための塔でしたよね?」

「お、そこまで知っているのか。それも君の世界で言う所の()()()()()()なのかい?」

「そうですね、概ねそんな感じです」

 

 そこからは、ススキノが興味を持った為にカケルがやってきた歴代ポケモン作品の話に花を咲かせた。カケルの話を様々な反応をくれるススキノには、話がいがあるというものだ。

 

「まさか、噂に聞くレッドの顛末まで知れるとはね」

「レッドはやっぱりこっちでも有名なんですか?」

「ああ。赤い帽子をかぶった無口の青年。バトルは鬼のように強く、公式戦では無敗。今は姿を眩ませているらしいけど、君の話が本当ならシロガネ山にいるのかもね」

「まぁあくまでゲームの話ですから。本当とは限らないですよ」

 

 ススキノは話半分と言いながらも、その話を信じているようだった。確かに、そこまでバトルジャンキーでポケモン馬鹿であるならば本当にシロガネ山にいるのかもしれない。

 

「お、言ってる間についたね」

 

 黒塗りの頑丈な校門が自動で開かれ、その全体像が明らかとなる。カケルの知っている日本の学校とは似ても似つかない近未来な校舎。それらの中央に位置する、ドダイトスのようなポケモンを模した噴水。彩り用の花壇や植木などもあり、海外の大学のキャンパスを連想させる。

 

 この世界でいえば、パルデア地方のオレンジ(グレープ)アカデミーに近い造りをしていると言えるかもしれない。

 

「ここはコンプレンズシティのちょうど中央に位置する学園、アルメリア総合学園だよ」

「なんか大学みたいですね」

「大学? いや、大学より凄いさ。設備や内装含めてあらゆる面で世界トップクラスの学校のひとつだからね」

 

 ススキノの説明を聞きながら、構内を歩く。

 

 アルメリア総合学園。豊穣の神を象徴とする学び舎であり、外部から来た生徒が多数所属する学校。そのため生徒数も多く、多種多様な生徒が所属している。

 

「ほら、あっちを見てごらん」

 

 そう言われて向いた先には、恐らくこの学園所属であろう男女の生徒が居た。まず男子は緑と黒のツートンカラーのブレザーを羽織っており、ズボンは無難な黒色。そして女子はブレザーこそ同じだが、下は鮮やかな緑のスカートだ。

 

「あれがこの学園の制服だよ。もちろん制服は5学園全部違うから、楽しみにしておいてね」

 

 などと会話をしながら、学園のエントランスにやってきた。てっきり受付の事務員でもいるのかと思いきや、周りを見渡しても学園の生徒ばかりだ。

 

 しかしススキノはそれが当たり前だとばかりに、テーブルに表示されている電子パネルを操作していく。

 

「受付の人とかって居ないんですね」

「ああ、そうだよ。そもそもここには『先生』すら居ないからねぇ」

 

 さらっとススキノが言った言葉は、当然ながらカケルにとって衝撃的なことだ。先生、つまりは教育者。授業を教える者がいなければなんのために学校はあるというのか。

 

 ススキノ曰く、この5学園は特殊で、人口AIによる学習教材の発達により教育者という人件費を削減している。皆映像を見て授業を受け、テスト等は外部の教育機関に委託するそうだ。

 

「大丈夫なんですか、それ……」

「まぁ心配になるのもわかるよ。でもその心配は、時間と共に薄れてくるさ」

 

 他の地方とは違う異例の教育体制。創立当時はその体制を不安視する声の方が多かった。だが、実際に入学した生徒はこの教育体制の中に放り込まれ、そして無事卒業して行った。社会に出てその生徒達が積み上げた実績、それが現在の学園の信頼と実績を勝ち取っている。

 

「というわけなんだよね」

「やっぱり違和感しかないですけどね」

「まぁそこはギャップってことで」

 

 そんなことを話しているうちに、ススキノの電子画面がプツンと閉じた。話しながらも手を止めている訳ではなく、しっかりと作業を進めていたらしい。

 

「よし、手続きは終了。これで君はもう試験を受けられる」

「受けられるって……今からですか!?」

「いやいや。流石になんの準備もできてないのに受けさせないよ。試験は1ヶ月後さ」

 

 1ヶ月後、またこの場所に来る。高校受験を体験しているカケルは、あの時を思い出して少しナイーブな気持ちになった。

 

「おい! 次は3年のバト学だって!!」

「マジ!? ()()のバトル見られるんじゃね!?」

「第3バトルコートだって! 行こうぜ!」

 

 カケルたちの横を、複数人の男子生徒が通り過ぎて行った。何やら誰かのバトルが始まるらしいが。

 

「お、そういや今日この時間は3年のバト学の時間か」

「博士、バト学って?」

「運がいいねカケルくん。今日は、“彼女”のバトルが見れるぜ!」

 

 ポケモンバトル学、通称バト学。電子教材による授業の中で、唯一対人を要する授業だ。ポケモンの世界で、未成年の少年少女が集まる学舎で、ポケモンバトルの授業がないわけが無い。

 

 授業の内容は、1対1(タイマン)、制限時間なしの1本勝負。ただ勝つだけで評価されるのではなく、どのように勝ったのか、ポケモンとトレーナーの練度、技のキレ、戦術等、様々な観点からAIが公平に評価を下す。当然ながら敗北側にも同じことが適用されるのは言うまでもない。

 

 ススキノの説明を受けながら、カケルは第3バトルコートに辿り着いた。芝生のバトルフィールドには2人の学生、併設された簡素なベンチの観客席はそんな2人のバトルを見ようと多くの人が溢れていた。

 

 幸いにもススキノがその身長を活かして空いてる席を見つけてくれたため、無事2人とも着席することが出来た。

 

「うわ、さすがアルメリア学園最強のバトル観戦だ。人が多いねぇ」

 

 そう言ったススキノ自身の声音は、どこかワクワクしたものだった。

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