もし何か相違点がございましたら暖かくご指摘ください。
バトルコートに相対するのは、緑と黒のブレザーを羽織った男子生徒と、そして。
「キャー! スズラン様ー!」
「今日もお美しいですわー!」
スズランと呼ばれた少女が、観客席にニコリと微笑みながら手を振る。それだけで女子生徒の黄色い声援がより大きくなる。
アルメリア総合学園生徒会、
「アレ制服じゃないですよね」
「フッフッフ、甘いよカケルくん。各学園の生徒会に所属する生徒には特権の1つとして制服の改造が許されているのさ!」
「原型全くありませんけどね!?」
ない。あるはずもない。今スズランが着ているのはブレザーという洋装とは真逆の位置にある和装。申し訳程度に制服の色である緑と黒が採用されている所以外、何一つ共通点は無い。
カケルも自分が生徒会になればと一瞬だけ思ったが、絶対面倒そうなのでやっぱり普通の制服でいいやと諦めた。
「まぁ、彼女はエンジュシティ出身だからあの服装にこだわりがあるんじゃないかな」
確かにエンジュシティには、和装の舞妓はんや現代京都のような日本建築の風景が広がっている。そこで育ったのならば、服のチョイスにも頷ける気がした。
『まもなくバトルを開始します。両者、ポケモンを出してください』
「いけ! ムクホーク!」
「舞いや、ドレディア」
「キィィィィィン!!!」
「でぃでぃ!」
【ムクホーク ︎︎もうきんポケモン ︎︎タイプ:ノーマル ひこう】
【ドレディア(ヒスイのすがた) ︎︎スピンポケモン ︎︎タイプ:くさ かくとう】
ボールから飛び出したのは、ヒスイ地方でしか確認されないはずのヒスイドレディア。優雅に着地すると、カーテシーのような動作で観客に挨拶する。
「キャー! スズラン様の『舞姫』よ!!」
「おいおい、今日は『舞姫』を見れるのかよ! ラッキーだぜ!」
「博士、この地方って、ヒスイのポケモンもいるんですか!?」
「ああ。キタカミの里、もちろん知ってるだろうけど。あそことニコク地方。発見場所としては2つ目になるよ」
ポケモンLegendsアルセウスにて、シンオウ地方の昔の舞台として登場するヒスイ地方。ドレディアはそこのヌシポケモンの1匹として登場したのが初登場だ。
まさかヒスイのポケモンを見られるとは思わなかったカケルは、興奮気味にドレディアを見つめた。
「そして彼女のドレディアには『舞姫』という2つ名がある。まぁ、見てなよ」
そんな説明を受ける矢先、ムクホークがドレディアを睨みつけた。
「クルルル……!!」
「でぃ……」
『ムクホーク ︎︎は ︎︎いかく ︎︎している!』
『ドレディア ︎︎の ︎︎こうげき ︎︎が ︎︎下がった!』
「ほう、『いかく』か。いい特性を選んでいるね」
「こうげきが下がる特性でしたよね」
「ああ。バトル返し前からデバフを押し付けれるのは試合運びにも影響する」
今から始まるのは、カケルがやってきたようなタイプ相性だけを突けばいい訳では無い対人戦。リアルタイムでトレーナー同士が読み合い、騙し合う本気のバトル。
それは、かつてカケルの友人が言っていたオンラインバトルと同じようなものだ。
(見たい……! 早く見てみたい!)
学園最強のポケモンバトル、その強さを、トレーナーとポケモンのレベルを、早く体感したかった。
しかしそんなカケルの期待を裏切るように、スズランは顎に手を当てる。
「さて、今日はどないしよか……」
「へ?」
思わずカケルは間の抜けた声を出してしまった。今からすごいバトルが始まるのだとばかり思っていたからだ。
「おいお前、知らないのか? スズランさんの『花選び』だぞ?」
「は、『花選び』……?」
「ああ、ここからは俺が話すよ。『花選び』ってのはね……」
「って、ススキノ博士!?」
男子生徒がその名を呼んだ瞬間、カケルの客席周りが急に騒がしくなる。
「え? ススキノ博士いんの!?」
「うお、本物じゃん!」
その騒ぎは全観客席を通して、バトル場の2人にまで伝達する。スズランも考える手を止めて客席に視線を向けた。
「ありゃりゃ、騒がしくなっちゃったね」
「有名人だったんですか博士」
「んまぁ、ちょっとだけね」
にヘラと笑いながら親指と人差し指で尺度を表す。ちょっと所ならこんなに騒ぎにはなっていないだろう。スズランも、ざわざわと騒がしい観客席にススキノの姿を認めた。
「あら、博士が見に来てはるの? ほな……」
スズランは何か思いついたように、自らの袖に閉まっておいた黒い扇子を広げる。バッ! と華やかな仕草と共に広げた扇子を、自らの口に持って行くと。
「今日は、『ジンチョウゲ』。華やかに行こか!」
「でぃでぃ!」
────雰囲気が変わった。
否、それだけでは無い。ススキノへ向いていた視線を、その動作1つでまたバトルコートへ戻した。
「っ……先手は貰うぞ! ムクホーク、“つばめがえし”!」
先に動きだしたのはムクホーク。軽やかに空を飛ぶと、そのまま滑空してドレディアを翼で一閃する。翼で切られて空中に投げ出されたドレディアだったが、綺麗に後転して着地した。
「さすがだね。上手い」
「何が上手いんですか博士」
「くさタイプ、そしてかくとうタイプを持つドレディアにひこうタイプの技は4倍弱点だから、さっきの一撃でも十分に致命傷なんだけど、彼女は技を食らう前に後ろに飛び退いて威力を減衰させたのさ」
恐らく、モロに食らっていればドレディアとて今ほど元気ではなかっただろう。技の受け方にも、技術があるということだ。
「クソ! 威力が足りなかったか!」
「さてねぇ。ドレディア、“にほんばれ”や」
対してドレディアは、晴れた大地に陽光を差し込んだ。陽射しがドレディアを照らし、その体に力を吹き込む。
【とくせい:ようりょくそ】
『ドレディア ︎︎の ︎︎すばやさ ︎︎が ︎︎ぐーんと ︎︎上がった!』*1
「“しょうりのまい”。華やかに踊るよ!」
続いてドレディアが動き出す。まるでバレエでもしているかのように、優雅に、軽やかに踊り始めた。
『ドレディア ︎︎の ︎︎こうげき ︎︎ぼうぎょ ︎︎すばやさ ︎︎が ︎︎上がった!』
「積み技だけでいいのかよ! もう1回“つばめがえし”!」
対してムクホークは、もう一度ドレディアを討つべく滑空する。振り上げられた翼が再びドレディアを切り裂こうと迫るその瞬間。
スズランの扇子で覆った口元がニヤリと笑ったのを、カケルは見てしまった。
「でぃっ!」
「クルル!?」
攻撃の当たる瞬間、ドレディアの姿が掻き消えた。翼は空振りに終わり、代わりにムクホークの背中にはつま先で立つドレディアの姿。
「なっ! “つばめがえし”って必中技じゃ……!」
「そうだよ。“つばめがえし”は必ず当たる。
「普通ならって……どういうことですか博士」
ススキノの方を向いたカケルに、説明しよう! とどこかで聞いたことがあるような口調で説明し始めた。
「元々、ムクホークよりドレディアの方がすばやさが高いんだ」
「え、そうなんですか?」
「ああ。詳しい話は省くけど、その状態で『ようりょくそ』に“しょうりのまい”。すでに3ランクもすばやさが上がっている」
「積み技とか『ようりょくそ』は分かりますけど、なんで必中技が外れたんですか?」
ゲームにおいて、必中技は絶対だ。どれだけ回避率をあげようと、どれだけ命中率を下げられようと、必ず当たる。それは常識であり、絶対だ。今のように外れることは決してない。
故にカケルは気づかなかった。
「カケルくん。絶対に相手を狙える位置でボールを投げたとして、そのボールは相手に当たるよね」
「はい」
「でも、相手の前に
「……
「当たらないよね。そう、この世界において、『常識を無視した絶対』は存在しない」
「で、でもドレディアの前には何もなかったじゃないですか!」
そう、先程はドレディアとムクホークを遮る障害はなかった。その理論で行けば、確実に当たるはずだ。
遠回しにそう言ったカケルに、ススキノはクイとメガネを上げながら告げた。
「───
「……へ?」
「
「た、確かに……」
「これがさっきの絡繰。そして
“スピードスター”でも、“はどうだん”でも、見えているから放つことが出来る。しかし放ったその技に指向性は無いのだから、狙った方向にしか飛ばないのは明白。
この世界においての必中技というのは、野球で言うところの
「まぁ、“ロックオン”すれば話は別だけどね」
「あ、その手があったか!」
なお、例外あり。
「さ、お話はここまでにして。先程の説明を加味して観戦しようじゃないか」
ススキノに促されて、カケルも目の前のバトルに集中する。
先程からムクホークはトレーナーから“つばめがえし”の指示を受けているが、ドレディアはフィールドを縦横無尽に駆け回って翻弄している。
それはまるで、スケートリンクで滑るプロスケーターとただの靴を履いて必死にもがく素人のようだ。
「クソっ! なんで当たんねぇ!!!」
「あらあら。綺麗やねその翼、進化したてみたいやね?」
「え? 分かるか。そうなんだよ!」
違う、今のは絶対に褒めてない。そもそもこんなバトル中に相手に賞賛を送るわけが無い。
カケルにはわかった、遠回しにバカにしている。日本で言うところの京都弁だ、間違いない。
「トレーナーの頭も随分良さそうやね」
「いやぁ……照れるなぁ」
訳:お前割とバカだな
何となく、そんな風に聞こえた。
「ほんま、ボケやな」
「え? 今なにか……」
「なんでもありまへん。そろそろ終いにしよか!」
スズランのその声に、ドレディアが呼応する。追っていたムクホークの眼前から再び姿が掻き消える。
「クソ、またか! 注意しろムクホーク!」
「クルル!!」
次の攻撃に備えるため、ムクホークは周囲を警戒する。だが、それすらも。
「───遅いねん」
「でぃ!」
「クルッ!?」
ムクホークの背後、完全に死角の位置からドレディアは飛び出した。そして避けろと指示するトレーナーの声よりも早く足を振り上げ。
「“かかとおとし”や」
その強靭な足がムクホークの脳天に突き刺さる。ひこうタイプにかくとうタイプは効果いまひとつだが、ノーマルタイプがあるため技は等倍になる。だがここまでドレディアが避けるだけだったのを考えれば、ムクホークは十分に耐えれるはずだ。
「まだだ!」
「キィィ!!!」
───耐えた。
そしてムクホークが、キッ! とドレディアを視界に捕える。ムクホークもトレーナーも、反撃の炎は消えてなかった。このまま“つばめがえし”を当てる。攻撃後の僅かな硬直、そしてポケモン同士の距離。今度こそ外さない。
「いいや、終わりや」
パチンと、スズランの扇子が閉じる。無情に、残酷に。ニコニコと浮かべていた笑顔がスンと無表情になり。それはこのバトルが終わることを示していた。
「この距離なら外さへんで。“メガトンキック”や」
「でぃっ!!!」
“つばめがえし”が決まるより早く、振り下ろした足を軸に横回転。強靭な足から放たれたヤクザキックが深々とムクホークに突き刺さり、体格差を物ともせず吹き飛ばす。
「ムクホーク!!?」
そのまま地面を跳ね、転がり、ようやく停止する。トレーナーが安否を確認する頃には、ムクホークは目を回して倒れていた。
再びカーテシーのような動作で一礼するドレディアを、スポットライトのように陽光が照らした。
『ムクホーク戦闘不能。ドレディアの勝利です』
無情に告げた電子音に、観客が湧く。あらゆる場所から、賞賛の声が止まない。
ドレディアを戻したスズランも、またニコリと笑みを浮かべて各方面に手を振って答えていた。
「すげぇ……!!!」
初めてこの世界で見たポケモンバトルは、常識を無視したとんでもないものだったが、それがまた彼を興奮させる。
「これが、学園最強のトレーナー……!」
タイプ相性など物ともせず、戦術で相手を翻弄して勝利する。『蝶のように舞い蜂のように刺す』という言葉を体現したかのような戦い方だった。
そして。
ドレディアの2つ名の所以を嫌という程に分からされた試合だった。
ちなみにストックはこれで終わりです。これ以降は不定期投稿となりますのでご了承ください。
『花選び』
スズランが必ずバトル前に行う、バトルスタイルを決めるための行為。選んだ花の花言葉に従ってバトルを展開する。
・ジンチョウゲ
花言葉は『不死』『不滅』『栄光』等。