俺と、ポケモンと、学園と。   作:爆砕肉団子

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お待たせしております。風邪等患っておりました。

ファッキン病。


第5話 試験当日

 スズランのバトルが終わった後、散っていく生徒達を横目に他の3年生のポケモンバトルを見学した。やはりトップ(生徒会長)には劣るものの、生徒達のトレーナーとしてのレベルは高いと感じた。

 

 積み技を意識して戦術を組み立てる者、ポケモンの持ち味を活かしてバトルを展開する者、ただひたすらに力押しでゴリ押していく者。多種多様なバトルの組み立て方がそこにはあった。

 

「いやぁ、凄かったねぇ」

「はい。素人目でも分かるくらいにはレベルが高かったですね」

 

 そうして学園の帰り道、車内にてススキノとカケルはさっきの3年生のポケモンバトルの感想会を開いていた。特にカケルは、画面の向こうでしか行われていなかったポケモンバトルを実際に見るという体験をしたことで、少し興奮気味であるのは言わずもがな。

 

「でも少し前まではあそこまでのレベルじゃなかったんだぜ?」

「そうなんですか?」

「ああ。昔のアルメリア総合学園のトレーナーとしてのレベルはせいぜい3番手くらいだったものさ」

 

 でもね、とススキノは続ける。

 

「そのレベルを格段に上げたのは、間違いなくスズランくん達、梅花園の面々だよ」

 

 スズランというその名前に、先程の和装美人の顔が思い浮かぶ。タイプ相性を突いたムクホークを手玉に取り、倒した学園最強。

 

 ……そして腹黒そう。

 

「そんなに強いんですか」

「ああ。彼女達、梅花園の面々は学園内でもトップクラス。特に生徒会長のスズランくんは学園都市の中でも5本の指に入る実力者だ」

 

 そこからもススキノの説明は続く。どうして5学園内の生徒の強さがわかるのか。それはこの学園都市内において採用されている学園総合ランキングによるものだ。

 

 学園総合ランキング。文字通り学園都市にいる1000名以上の生徒間での順位を決めるためのシステムで、学年や年齢は関係なく順位が近い者同士で申請を出せば自動的にマッチングしてバトルとなる。もちろん両者の同意が必要であり、無理に迫ることは出来ない。

 

 最下位の算出方法はその年の入学生徒の成績順となるが、各区分ごとにノーマル、スーパー、ハイパー、そしてマスターとクラス分けされている。

 

 そして、現状はスズランを含む5学園の生徒会長がトップ5に君臨しているそうだ。

 

「さすが、2年生で生徒会長になった子は格が違うよね〜」

「2年生ってことは……上の学年を押しのけてってことか」

「そう。彼女の人望と、バトルの強さ故だね」

 

 当然ながら、生徒会長の中でも順位分けがある。

 

 スズランは5人中3位。そう、3位なのだ。あれほどの強さを誇りながら、まだ上に2人いる。学園都市のトレーナーのレベルの高さが伺えるだろう。

 

「ま、君もそんな学園に入ろうとしてる訳だけど」

「そう、ですよね……」

 

 少し、不安が過ぎる。自分も将来的にあんなレベルのトレーナーになれるのか、全く初心者の自分がスズランのように強くなれるのか。あれを見ていると、僅かに尻込みしてしまう自分もいる。

 

 そんなカケルの様子を知ってか知らずか、ススキノは肩をポンポンと叩いた。

 

「大丈夫だよ。この1ヶ月、君には付け焼き刃じゃないしっかりとしたポケモンバトルを学んでもらう。もちろん、勉強の方もね」

 

 もちろん俺が教えるよ、と笑いかける。フレッシュなスマイルがカケルに向けられ。

 

「博士、信号青ですよ」

「え? やっべ」

 

 後続の車にクラクションを鳴らされるところだった。信号停止中であっても、よそ見はしてはいけない。

 

 

 ◇

 

 

 ───1ヶ月後、アルメリア総合学園構内。

 

「受験会場はこの先でーす!」

 

 教員を採用していないからか、代わりにボランティアの生徒達がこれから受験する未来の新入生達を案内している。当然ながらカケルも例外ではない。

 

 この1ヶ月の間に目元まで隠れそうだった髪をバッサリ切り、根暗な印象は改善された。本人としては視界が開けて落ち着かない感覚もあるが、散髪を断ろうとした時には小一時間、見た目について研究所の女性職員に説教を食らったので我慢することにした。肌着も当初はジャージ姿だったが、しっかりとした外行き用の服に着替えて印象としては普通だ。

 

 持ち物は筆記用具、スマホロトム、そして身分証明のためのIDカード。今回はこれがカケルの世界で言うところの受験票の役割を担っている。

 

 誘導員の生徒と、今の時代には珍しい立て看板に導かれ、あれよあれよと大講堂までたどり着いた。既に席は半数以上埋まっており、教本を開いて勉強している者や、スマホロトムを触っている者など様々だ。

 

 この学園都市の入試内容は、どの学校も共通で筆記と実技。

 

 筆記は当然ポケモンについての知識だけでなく、国語、数学などといった5教科も含まれている。

 

 そしてそれが終わった後に、ポケモンバトルの実技がある。当然ながら自前のポケモンは禁止で、学校側が用意した試験用ポケモンを使ってのバトルとなる。

 

 ボールは完全ランダム、何のポケモンが出るのかも分からない。ただ、幸いなのは進化しないポケモンや未進化ポケモンばかりが集められている事だ。それは、進化状態による能力差でのゴリ押しをさせない為。如何にして同じ土俵でポケモンに差をつけることができるか、トレーナーの技量が試される。

 

 そうして始まった筆記試験。試験監督もまた生徒であり、生徒会である梅花園がその役割を担っていた。

 

 監督生の合図とともに筆記は開始され、カケルも問題を解き始めた。試験時間は50分、5教科とポケモンについての問題だ。

 

 結論から言ってしまえば、概ね過去の問題ばかりが出題されているため特に苦労することは無かった。カケル自身、特に頭が良い訳でもないがそれでも苦戦しなかったのは、しっかりと対策をしてきたからだと言えるだろう。

 

 あっという間に時は流れた。一通り問題を解き終えて、ふと顔を上げれば既に40分経過。そこから10分ほど解いた問題の見直しをして、刻限を迎える。

 

「時間です。答案を回収します」

 

 後方に待機していた手伝いの生徒が答案を手際良く回収する。恐らく名前の書き忘れを見ているのか、監督生が答案を1枚ずつ見ている。どこか見た事のある光景にカケルは少し懐かしさを感じた。

 

 そこから数分して、移動することになった。1ヶ月前にスズランのバトルを見た時は屋外のバトルコートだったが、今回は屋内のバトルコートだった。

 

(いや、そもそもどれだけバトルコートあるんだよ……)

 

 この学校に集まってくるのはポケモントレーナー。本懐はポケモンを育ててバトルをすることであれば、それを行うためのバトルコートは当然ながら多い。アルメリア学園には、屋内外合わせて30以上のバトルコートがある。

 

 今回は、屋内のバトルコート全てを貸切っている。受験生の量が量なので効率的に見なければいけないのだ。

 

 1度集められた受験生達は、このあと各バトルコートにてポケモンバトルをする。組み合わせはAIによってランダムで抽選され、合計3戦。そのバトル内容を評価基準とする。

 

「それでは、早速ですが実技試験を開始します」

 

 そうして始まった実技試験。カケルも既に抽選を終え、監督生の1人に案内されていた。最初に集められた部屋から少し遠いバトルコート、その待機室には3つのモンスターボールが置かれた台と、ソファしか置かれてない簡素な部屋だった。

 

(まるで御三家選びみたいだな……)

 

 3つのモンスターボール、それは確かにゲームの主人公が最初のポケモンを選ぶ構図に似ている。

 

 だが、これは現実だ。ゲームではない、それはカケル自身この1ヶ月で嫌という程ススキノに叩き込まれた。

 

 少しの緊張と、それを上回るワクワク、そして不安。初バトルをする各シリーズの主人公もこんな感じだったのかと夢想しながら、ボール台に表示された名前を見る。

 

「ブビィ、イシツブテ、ポッチャマか……」

 

【ブビィ ︎︎ひだねポケモン ︎︎タイプ:ほのお】

【イシツブテ⠀がんせきポケモン ︎︎タイプ:いわ じめん】

【ポッチャマ⠀ペンギンポケモン ︎︎タイプ:みず】

 

「ぶび?」

「ラッシャイ!」

「ポチャ」

 

 とりあえずボールから放り出してスマホロトムでスキャンする。カケルの眼前に3体のデータベースが一気に表示された。

 

 ソファに座りながら、じっと見つめて思案する。

 

 しかし、そう悩んでる時間はない。対戦まで用意された時間は、10分。この時間内にポケモンを決め、戦略等を組み立てなければいけない。

 

(どうする……? ほのおタイプだと扱いやすそうだけど、ポッチャマも捨てがたい……。だけど2タイプ持ってるイシツブテもありだよな……?)

 

 カケルの脳内に、様々な選択肢が浮かび上がる。何が正解で何が間違いなのかは分からないが、それでもパッと決めて戦略を決めれるほど経験豊富ではない。

 

 故に時間がかかる。優柔不断では無いのだが、はっきり言えばどれを選んだらいいのか分からない。どれを選んでも勝てるかもしれないし、負けるかもしれない。全ては戦い方次第だがもし負けたらという怖さがカケルを締め付けていた。

 

「うーん、どうしたもんかなぁ……」

 

 そして、そんなカケルを見ていたポケモンが1匹。そのポケモンは、自らの手を振りかぶると───

 

「ポチャ」

 

『ポッチャマ ︎︎の ︎︎“はたく”!』

 

「ぶへぇっ!!!」

 

 ───カケルの頬へ振り抜いた。

 

 まるで大人にビンタされたような衝撃を受け、思わずソファから落ちてしまった。ジーンと痛い頬を押えながら衝撃の来た方向を見やると、そこには眉をひそめたポッチャマが仁王立ちでソファに立っていた。

 

「痛ぇ!! 何すんだお前!」

「ポッチャマ!」

 

 ポッチャマは、そんなカケルに対して胸を張るとドンと叩いた。まるで自分を選べと言っているみたいだ。

 

「お前、もしかしてバトルしたいのか……?」

「ポチャ。ポッチャマ!」

 

 カケルの言葉に返すように頷き、再び胸を張る。どうやら、先程はいつまで経っても自分を選ばないカケルに少しイラッとしたらしかった。

 

 スマホロトムを操作して、ポッチャマのデータを見る。技と能力値、そして特性。

 

(……! 、これなら……!)

 

 データを見ながら、1つ作戦を思いつく。ポッチャマの自信、そして技構成に能力値と特性。やれそうだった。

 

「……わかったよ。どうせボールに戻る気はないんだろ」

「ポチャ」

 

 当然だと言わんばかりに食い気味に返事が返ってくる。そんな姿を見れば、こちらも拒否する訳には行かない。まだ少し痛む頬を抑えながらカケルは立ち上がった。

 

「じゃあ頼んだぜポッチャマ」

「ポッチャマ!」

 

 グータッチを促せば、ポッチャマは小さな手で快く返してくれた。

 

 残りの時間でシミュレーションをしながらブビィとイシツブテをボールに戻して台座に置く。

 

『時間です、各トレーナーは入場してください』

 

 刻限を告げるアナウンスと共に、バトルコートへ続くゲートを通った。

 

「ここが、コート……!」

 

 目の前に広がるバトルコート。コートの中間ほどにいる審判の生徒と、対岸には対戦相手。そして何より、まばらではあるが観客席に黒と緑を基調としたブレザーを着た、この学園の生徒達が座っていた。

 

(観客いるのかよ……)

 

 カケルとしてはこのまま審判員の生徒と対戦相手、そして自分の3人で粛々と進むと思っていたため、自分のバトルを見られるというのは少し気が重い。

 

「これより、試験バトル1戦目を開始します。両者、ポケモンを前に」

 

「いけ、パチリス!」

「頼んだぜ、ポッチャマ!」

「ポッチャ!」

「チパチパ!」

 

【パチリス でんきりすポケモン タイプ:でんき】

 

 こちらはポッチャマ、そして相手は、白い体毛に空色のラインが入ったリスのようなポケモン、パチリス。

 

(よりによって相性不利(でんきタイプ)かよ……!)

 

 現存するポケモンのタイプは18種類、そのうちポッチャマの不利なタイプは2種類。タイプがひとつなので少ないのは当然だが、相性不利を引く確率は9分の1にまでさがる。

 

 こればっかりは運任せだが、どうやら運はカケルに味方してくれないらしかった。

 

(ああそうかい神様。……でもな、相性不利でも、勝ってやるよ!)

 

 これはゲームではない。タイプ相性が絶対じゃ無いということは、1ヶ月前に知っている。全ては戦い方の問題だと。

 

「それでは、始め!!!」

「パチリス、“スパーク”だ!」

「チパチパぁ!」

 

 いきなりの弱点技(でんきわざ)、当然ながらポッチャマには大打撃だ。そして何より、パチリスのすばやさ種族値は90。

 

(速いっ……!)

 

 電気を纏いながらポッチャマ目掛けて体当たりしてくる。10m程の距離をすぐに詰めるのは、パチリスにとって簡単な話だった。

 

 しかし、カケルだってこの1カ月間、胡座を掻いていた訳では無い。

 

「ポッチャマ、()()()()()避けろ!」

「ポチャ!」

 

 カケルの脳内に、ススキノが教えてくれたポケモンバトルの基礎知識が思い出される。

 

『ポケモンに回避の指示をする時は、どう避けるのかを具体的に言ってあげると、その後のイメージにも繋がりやすいよ』

 

 回避方法の指示、それは意外とバトルに慣れたトレーナーでもやっていないことがある。技に対する回避の方向、そしてその後の反撃。バトルをする上で、細部まで指示することによって戦況を組み立てる時にイメージしやすくなる。

 

 それを踏まえた上で、カケルはポッチャマに横方向への回避を指示した。さっきまでポッチャマがいた所に体当たりしたパチリスの攻撃は、空振りとなる。

 

「くそ、避けられた!」

「パチっ!?」

 

 相手を見失ったことによる技の解除、それこそ隙になる。

 

「“はたく”だ!」

 

 先程カケルをぶった1発が、パチリスに直撃する。カケルすら仰け反らせる衝撃を、小柄なパチリスが耐えられる訳もなく。その小さな体を、振り抜いた手がぶっ飛ばした。

 

「大丈夫かパチリス!」

「パチっ! チパチパ!」

 

 だが、有効打にはならなかったようで、パチリスはまだ元気そうだ。

 

 しかしカケル自身もこれで決まるなんて思っていない。依然油断などせず。

 

『隙が産まれたら、どんどん追撃しよう。あ、限度はあるけどね』

 

 博士の言葉に習うのみだった。

 

「ポッチャマ、追撃だ。“はたく”連打!」

「ポッチャマ!」

 

 今度は、ポッチャマから仕掛ける。パチリスに肉薄し、両手でビンタの連打。バシバシとパチリスの体を叩いていく。

 

「ポチャチャチャ!!!」

 

 連打連打連打。まるでボクサー選手のラッシュのように、小さな手がパチリスを襲う。あまりの猛攻に先程までとは打って変わって、パチリスは防戦一方になってしまった。

 

 だが、しかし。

 

「近いなら外さねぇぜ! “でんきショック”!」

「な、しまっ」

「ポチャっ!?」

 

 耐えていたパチリスの体が発電。稲妻が、ポッチャマを撃ち抜いた。

 

 バチン! とポッチャマは感電する。だが、それでも痛みに耐えながらパチリスから距離をとった。

 

「ポッチャマ!」

「ポチャ……」

 

 さっきの“でんきショック”がかなり効いたのか、ポッチャマの声は少し辛そうだった。やってしまった、こちらが有利になったあまり、攻めすぎてカウンターを貰ったのだ。

 

「さすが有利技、よく効いたろ! じゃあオマケに食らえ! “つぶらなひとみ”!」

「っ!!」

 

 “つぶらなひとみ”、相手の情に訴えかけてこうげきを下げる技。

 

「ポ、ポチャ……」

 

『ポッチャマ ︎︎の ︎︎こうげき ︎︎が ︎︎下がった!』

 

 デバフがかかったことを意味する青いオーラがポッチャマに発生してしまう。同時にポッチャマも、少しやり辛そうにしてしまった。

 

「まだまだ対策させてもらうぜ! “あまえる”!」

 

 再びポッチャマに近づいたパチリスは、今度は頭を擦り付けてさせてポッチャマに甘え始めた。

 

「パチパチ〜♪」

「ポ、ポッチャ……」

 

 “あまえる”。“つぶらなひとみ”と同じくこうげきを下げる技。しかし後者がワンランクなのに対して、前者は2ランクもこうげきを下げる。

 

『ポッチャマ ︎︎の ︎︎こうげき ︎︎が ︎︎がくっと ︎︎下がった!』

 

 再びポッチャマの周りに青いオーラがまとわりつく。どちらも受けてしまったポッチャマは今、こうげきランクが3ランクも下がってしまっているのだ。

 

「自分から近づいてくるなんてチャンスだろ! ポッチャマ、“はたく”!」

 

 ポッチャマは再びパチリスに攻撃するべく、その手を振りあげた、が。

 

 ペち。

 

「ポチャ……」

 

 力ないその手がパチリスを叩くことは無く、パチリスの頬の電気袋に優しく触れるだけだった。

 

「こうげきが3段階も下がってるのに、大した攻撃になるわけないだろ! “スパーク”だ!」

「チパチパぁ!!」

 

 バチバチと電気がほとばしり、発光。ポッチャマの体に電気が流れる。

 

「ポッチャマ!!!」

 

 カケルの悲痛の叫びと共に、ポッチャマは黒煙を上げて倒れる。効果バツグンの電気技を2発も受けたのだ、もはや瀕死になってもおかしくは無い。

 

「ポ、ポッチャマ……!!」

「ポッチャマ、お前……!」

 

 ふらふらとではあるが、立った。電気技を2回受けてもなお、耐えたのだ。しかし、有効打を2回も受けたポッチャマの身体は、限界が近い。

 

「タフなポッチャマだな。でも、終わりだ! パチリス!」

「パチ!」

「“でんきショック”だ!」

 

 電気が迸り、発光。稲妻がポッチャマを襲う。既にフラフラなポッチャマには、避けられるかどうか。

 

「クソ! ポッチャマ、避けてくれぇぇぇぇぇ!!!」

「俺達の勝ちだぁぁぁ!!!」

 

 電撃がポッチャマを撃ち抜き、勝負は決した。

 

 ───はずだった。

 

()()()()()

 

 勝ちを確信した相手は、カケルがニヤリと笑っているのに気づかなかった。

 

 ポッチャマを撃ち抜くはずだった電撃は、空振りに終わる。なぜなら、ポッチャマは既にそこに居ない。

 

「なっ、お前、動けないんじゃ……!」

「ポッチャマのタフネス、舐めんなよ!」

 

 そう、こればかりはポッチャマが通常の個体より耐久力が高かったことに感謝するしかない。そして、これに賛同してくれたポッチャマにも。

 

『いいかい、相性が有利な相手は、必ずこちらに有利があるからと1回は油断する』

 

 カケルの脳裏に、ススキノの言葉が過ぎる。

 

「『その油断を誘って出来た隙を突く』、ですよね博士!」

「クソっ!」

 

 床を駆けるポッチャマが、高く跳躍する。その体に、能力上昇を意味する赤いオーラを纏った。

 

【特性:かちき】

 

『ポッチャマ ︎︎の ︎︎とくこう ︎︎が ︎︎ぐーんと ︎︎上がった!』

『ポッチャマ ︎︎の ︎︎とくこう ︎︎が ︎︎ぐーんと ︎︎上がった!』

 

「なにか積み技を積んだとこで、ここからひっくり返せる技なんか───」

「あんたがこうげきに()()もデバフくれたおかげで、こっちのとくこうは4段階上がってんだよ!」

「く、来るな! “でんきショック”で撃ち落とせ!!」

 

 稲妻が迸り、電撃がポッチャマ目掛けて飛ぶ。当たれば、今度こそ瀕死になる攻撃だ。

 

「“みずでっぽう”、逆噴射だ!!」

 

 パチリスにぶつける為の技を、空中で放つ。通常、“みずでっぽう”はその威力の低さ故に反動すら伴わない。だが今、特性により威力のあがった“みずでっぽう”は、ポッチャマの小さな体では踏ん張れないほどの威力を持つ。

 

 その慣性の利用。小さな体を撃ち抜くはずだった電撃は、ポッチャマが技の反動で横に逸れたことによって空振りに終わる。

 

 真っ直ぐの滑空ではなく、不規則な滑空によってパチリスの狙いが定まらない。

 

「それなら近づいてきたところを“スパーク”で……」

「遅い!」

 

 天空へ向かって“みずでっぽう”を逆噴射。発射した反動によりポッチャマは更に加速し、パチリスの眼前に躍り出る。

 

「チっ、チパぁ!?」

「決めろ! “みずでっぽう”!!!」

 

 ガパッ、とポッチャマの口が開く。口内には既に、発射準備を終えた高威力の水流。

 

「ポッチャマァァァァァァ!!!!」

 

【ポッチャマ ︎︎の ︎︎“みずでっぽう”!!】

 

 ゼロ距離で放たれた“みずでっぽう”が炸裂、爆風を起こす。反動で吹っ飛ばされたポッチャマは、空中で綺麗に回転して着地する。

 

 煙が晴れたそこには、目を回して倒れるパチリスの姿があった。

 

「な、なんなんだよそれぇぇぇぇ!!!」

「パチリス戦闘不能。ポッチャマの勝利!」

 

 瞬間、観客が湧く。ただ勝ったから騒いでいるのではない。どう足掻いてもパチリス有利だった盤面を一瞬にして変えたカケルの奇策。不利を覆しての逆転劇。

 

 未進化、進化しないポケモン等のバトルでこれほど手に汗握る戦いはそうそう目にできないからだ。

 

「勝った……?」

 

 電光掲示板に表示されるWINNERの文字、そして自分の名前。勝利という華々しい2文字が、カケルを祝福した。

 

「ポッチャ〜!!」

「うおっ! ありがとなポッチャマ!」

「ポチャ!」

 

 飛びついてきたポッチャマを受け止め、ハイタッチ。ポッチャマも嬉しそうにしている。記念すべき、カケルの初勝利だ。

 

「受験生、何をしているのですか。次のバトルがありますよ」

「あ、すいません!」

 

 初勝利に浮かれていたカケルは、審判の生徒に促されてバトルコートを後にする。まだ油断しては行けない。初勝利、されど1勝。バトルはあと2回あるのだから。

 

「よし、次もその次も勝つぞ!」

「ポッチャマ!」

「でも俺とはここでお別れだぞお前」

「ポチャ!?」

 

 

 ◇

 

 

 屋内第8バトルコートにて。

 

「す、ストライク戦闘不能! チラーミィの勝利!」

「嘘だろぉ!?」

「ミィ♪」

 

 そのバトルコート内には、席を埋め尽くすほどの観客がいた。なんなら立ち見客までもいる。そのお目当ては、ストライクを倒したチラーミィ、そのトレーナー。

 

 しかし、その観客の全てが響いていた。それは、今行われたバトルの内容と結果である。

 

「おい、あのストライク、特性はテクニシャンだったよな……?」

「マジかよ! 当たりの部類だぜ!?」

「相手のチラーミィもテクニシャンの個体だって言ってたけど、それにしたって……」

 

 外野の男子学生が言い淀んだ先を言うなら、「圧倒的だった」というのが正しいだろう。

 

 ストライクVSチラーミィ。種族値の差、そして体格差を物ともせずチラーミィを勝利させたのは、涼しい顔で佇んでいる少女。まるでそれを恐れるように、とある男子生徒がその名を口にした。

 

「あれが()()()扇紅(せんこう)アンリ……!」

 

 真っ直ぐにバトルコートを射抜くオレンジの瞳、燃え盛るような赤い髪をツーサイドアップに纏め、纏う雰囲気からは自分への自信が溢れてるように感じる。

 

「お、おまっ、お前! 得意なのはほのおタイプだけじゃないのかよォ!」

「もう退場していいですか」

「えっ、え? あ、はい、どうぞ」

 

 呆気にとられていたのは審判も例外ではない。退場の許可を取ったアンリは、淡々とバトルコートを後にする。振り返った際に揺れた髪は、まるで美しく燃える炎のようだった。

 

「もうちょっと強いヤツと戦いたいんだけど」

 

 去り際に放った何気ない一言が、対戦相手に突き刺さる。『当たり』と呼ばれる部類のポケモンを使っても、なお勝てなかった。それは言い訳もできない、トレーナーの実力差である。

 

 燃え尽きた後の灰のように真っ白になった対戦相手を置いて、アンリは退場口の先へ消えていった。

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