俺と、ポケモンと、学園と。   作:爆砕肉団子

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難産オブ難産
亀更新で非常に済まないと思っています


第6話 VS推薦組(1)

 あの後、縋り付くポッチャマを何とかボールに戻したカケルは、次の戦いに挑んだ。初めての1勝、それはカケルにとってまたとない追い風であり、自分は勝つことが出来るという自信でもあった。

 

 しかしカケルは秀才になることが出来ても天才にはなれない。秀才は、必ずミスを犯す。

 

 1戦目の興奮のままに意気揚々と挑んだ二戦目、カケルなりに善戦したものの、結果は敗北。トレーナーとしての経験の差が出た戦いだった。体格差を活かして立ち回られ、何とか追い詰めたが最後の隠し札を見破れなかった。

 

 悔しいと、素直にそう思う。

 

「ハハッ、悔しいって思うのは何年ぶりだろうな」

 

 最終戦の控え室、先程のモヤっとした感情の正体を口にして、実感する。

 

 理想は3勝0敗。しかし理想はただの理想、そんなことはカケルも分かっている。理想のまま勝てたら良いなどという楽観が僅かにあったのは否定出来ない。

 

 ちなみに、異世界人だから上手いこと俺TUEEEEできる等という驕りはススキノとの特訓で砕け散った。世の中、そう上手く回らないことを思い知らされたのだ。

 

「ま、引き摺っても仕方ないよな」

 

 気を取り直して、台座に並べられたボールを眺めようとしたその時。

 

「ろぉる!」

「おわっ!」

 

()()()()()()()()()、中から飛び出してきたのは、リオルだった。

 

【リオル ︎︎はもんポケモン ︎︎タイプ:かくとう】

 

「リオルじゃん!」

「ろぉ」

 

 リオルといえば、アニポケにて主人公が卵から孵して育てていたり、その進化系であるルカリオが映画にも登場している。一時は、ウィンディのように伝説のポケモンと間違われていた時もあったと聞く。

 

 リオルと、カケルの目が合った。2人はそのまま数秒間同じ姿勢で見つめあっていたが、先に折れたのはカケルだった。

 

「なにか俺の顔についてるか?」

「ろぉる」

 

 リオルは、両手を前に出して目を瞑った。すると、紫のオーラと共にカケルの中にイメージが伝わってくる。

 

(もしかして、これが『波動』ってやつか!?)

 

 リオル、そしてその進化系のルカリオは『波動』と呼ばれる気のようなものを操る性質を持つ。相手の波動を察知して場所を割り出したり、自らの波動を伝えてイメージを共有したりと、用途は多義に渡る。

 

 そしてリオルが伝えてきたのは、なにかカケルの中を高ぶらせるようなイメージ。

 

「もしかして、戦いたいのか?」

「ろぉ」

 

 肯定するように、頷く。1戦目で共に戦った擦り付きペンギンがチラッと頭に過ったが忘れることにした。なんかこの展開デジャブだなとは思いつつも、他のボールをチラリと見る。

 

 他のボールはエイパムとプリン。まさかのどちらともノーマルタイプである。

 

(エイパムは隠れ特性が強いけど、ここで引ける確証もなければ技構成的に恐らくそれを活かせない。プリンの方は……フェアリータイプを持ってるけどまぁ、除外か)

 

 カケルの脳内で、虚ろな目のプリンがホームラン音と共に相手を空の彼方へ吹き飛ばしている構図が浮かんだが首を振って消し去る。

 

「それに、勝ちたいんだろ、お前」

「ろぉる!」

 

 シュッ、シュッとシャドーボクシングのように手を突き出して、パンチのつもりなのだろう。ファイティングポーズまでとり出した。流石かくとうタイプ。

 

「んじゃ、よろしくな」

「ろぉ!」

 

 挨拶代わりに拳を合わせる。やる気は十分と言った表情だ。

 

(なんかポッチャマと同じだな)

 

 まるで1戦目を追体験しているような不思議な感覚に陥る。まぁ、頬を打たれていないが。

 

 プロの選手は必ず試合前にルーティンをして心を落ち着かせると言うが、まさに今偶然、そうなのかもしれない。戦いたいと自ら志願してきたポケモン、そしてグータッチ。それは奇しくも、初戦のポッチャマと同じ構図。

 

 カケルの中に、もう先程の負けは残っていなかった。

 

「えっ……」

 

 コートに入って最初に目にした光景に、思わず言葉が漏れた。

 

 なぜなら、そこには()()()()()()()()()()()()大観衆がいたのだから。

 

「なんだこの観客の量……あの生徒会長の時の比じゃないぞ……!」

 

 余談だが、屋内と屋外、どちらともに観客席は併設されており、その容量は同じ。つまり、これから始まるカケルと『誰か』のバトルを見るために、スズランがバトルした時と同程度の観客が集まっているのだ。

 

 当然、カケルは自分が集客できるような知名度を持っているとは微塵も思ってない、故に、これ程までに観客が集まるのは、何か他の要因が絡んでいる。

 

 その元凶候補は、カケルの視線の先にいた。

 

「げ、生徒会長……!?」

 

 中央の観客席の下。そこには、集まった生徒に笑顔で手を振っている現生徒会長の姿があった。黒髪のボブカットに黒縁メガネをかけて、腕には生徒会長と刻まれた腕章。そして服は和装。緑の高級感溢れる着物を羽織っており、締め帯は黒に赤い下駄。菊乃木スズランがバトルコートに降り立っていたのだ。

 

 彼女はカケルの視線に気がつくと、こちらに歩き出してきた。

 

「初めまして、やね。博士の助手さん?」

 

 今まで遠くからしか眺めたことが無かったが、いざ間近で見てみると意外と小さいんだなとか、そんなことを考えてしまう。

 

 そしてなぜ生徒会長が無名の自分に話しかけてきたのか、少し警戒するのは自然なことだろう。

 

「……俺の事、知ってるんですね」

「知っとるも何も、1か月前の授業の時、博士の横におったやろ? 覚えとるよ〜」

 

 驚いた、まさか自分の顔まで覚えられていたとは。有名人の博士に比べれば、カケルは無名の、ましてやこの世界の住人でもないというのに。

 

「あ、申し遅れました。アルメリア総合学園生徒会、『梅花園』首座。菊乃木スズランです。よろしゅうね」

「……()()カケルです。よろしく」

 

 時野の苗字はもちろん偽名だ。本名は別にあるのだが、それを使わないことをカケル自信が望んだため、この世界で生活するならとススキノ博士から提案された名前だ。

 

『君は別の世界から来たんだろ? じゃあ世界を超えて来たわけだから……いや、時をかける……時をカケル…………時野カケル! どうだい?』

 

 ダジャレじゃねぇかとツッコむのは野暮である。

 

「それにしても災難やなぁ、君。まさかあの子と当たるなんて」

「あの子?」

()()()の子やねんけどね」

「っ!」

 

 推薦組。

 

 事前に聞いた話であれば、この学園都市への推薦権を持つのは各地方のジムリーダー、四天王、そしてチャンピオン。

 

 何より、推薦を受けるにはトレーナーとしての腕が()()()()()()()()()()()()()()でなければならないという決まりがある。

 

 つまり推薦組とは、少なくともジムリーダー級のトレーナーである者達のことを指す。

 

(……おいおい、勘弁してくれよ)

 

 運が悪い、とカケルの表情が一気に強ばる。受験の内容は筆記とポケモンバトルであり、筆記はともかくとして、バトルはここまで1勝1敗。敗北した試合の内容もあまり良くは無いため、実質的にプラマイゼロのような状態だ。

 

 そのため、確実に合格を目指すならこの試合は絶対に勝って2勝1敗にするのが安定策。だが最終局面のラスト1試合で、相手はよりによって推薦組。

 

 少し強いスライムかと思ったらキングスライムが出てきた気分だ。

 

「その子、前の試合の内容が圧倒的やったみたいで、こないして最終戦も人だかりが出来とるんよ」

「……はぁ」

「元々今回の試験では注目株やったんやけどね、まぁ流石って感じやな」

「そうなんですか。……ていうか、対戦相手とか試合の内容とか、こんなところで開示しちゃダメなんじゃないんですか?」

 

 そう言われたスズランは、ハッとしたような表情をうかべる。そしてそのまま数秒だけ困ったように沈黙し、ポンと手を叩いた。

 

「ウチの特権でオフレコにしよ♡」

「職権乱用だ……!」

 

 などと話していれば、観客席がざわつき始めた。見れば、全員がカケルが入場してきたゲートとは反対側のゲートに視線を向けている。

 

「言うとったら来たな。推薦組が」

「っ!」

 

 推薦組の3文字を聞いて、カケルに緊張が走る。ゲートが開かれ、学園最強であるスズランですら注目している対戦相手のその姿が、明らかになった。

 

()()()()()()()推薦、扇紅アンリさんや」

 

 扇紅アンリと、そう呼ばれた少女。照明に反射して煌めくオレンジの瞳に、歩く度に揺れるツーサイドアップの紅い髪はまるで炎を連想させる。身長はカケルより少し低いくらいだろうか、全体的にスラッとした印象だ。

 

 そして、纏う雰囲気から溢れ出てくる自信。自分の勝利を信じて疑わないといった所だろう。

 

「ほな、相手も来たことやしウチは審判するから戻るわ」

 

 そう言ってスズランは踵を返す。最後に「頑張りや」と告げて持ち場に戻って行った。

 

 というか今、さらっと審判するから持ち場に戻ると言っていた。合格か不合格かの瀬戸際で、審判は生徒会長で、対戦相手は強敵。どんな運命のめぐり合わせだろうか。

 

 とりあえず深呼吸をしながら、トレーナーゾーンに入ったアンリに習う。

 

 現状を整理しよう。相手はジムリーダーどころか四天王級の格上。迎えるのは1勝1敗の重要局面。当然、負ける確率の方が高い。

 

「それでは今から試験バトル最終戦を行います。両者、ポケモンを前に」

 

(でも……!)

 

 でも、負けたくはない。例え格上だろうと、勝たなければならない時がある。バシン、と両手で頬を叩いて気合を入れ直す。しり込みなど、自分らしくもない。

 

「行きなさい、ヒコザル!」

「ウキャキャ!!」

推薦組狩り(ジャイアントキリング)、やったろうぜ! リオル!」

「ろぉる!」

 

 心は熱く、頭は冷静に。運命のフィールドに、リオルを投げ入れた。

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