世界大会で優勝した、妹が病んだ   作:サツマイモおいしい

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04:親交

 

 

 朝の練習メニューを終えてジムで軽く体を動かした後、いつもなら仮眠を取って午後の練習に備えてるところを今はオフシーズンのため自由時間に充てられる。

 と言っても特にすることないから、身バレしない程度に着込んで六年振りの地元を散策してるだけだけど。

 

「変わんねーな、この町は」

 

 誰もいないのは確認済みだけど念のため外用の口調に切り替えておく。

 家用だと陰キャってバレちゃうからね、自衛大事。

 

 しかし六年振りの地元だと言うのに驚くほど変化がない。

 前からあったお店とかはそのまんまだし、大型のショッピングモールが町の象徴なのも変わらず。

 都市開発や道路整備が行われた後もないし、相変わらず田舎って感じだ。     

 そういうとこ好き。

 

「飯でも食うか」

 

 向かうのは子供の頃に通い詰めてた定食屋。

 あそこのアジフライが絶品でずっと恋しかったのよね。

 昼時だけど、田舎だし平日真っ只中だし空いてるでしょ。

 

「ん?」

 

 電話、未登録の番号だ。

 普通なら無視一択だけど、知ってる人間なんて数える程度のプライベートの方に掛かってきている。

 誰だ? 心当たりないけど……一応出てみるか。

 

「俺だ」

「『おっすユッキー、元気してた?』」

 

 流暢な日本語から繰り出される馴れ馴れしい言葉遣い───瞬時に相手を判断できた。

 

「レガか」

 

 レガリア・ホーンスタイン。

 俺の所属してるクラブの選手の一人で、世界選手権で同じチームだった圧倒的陽キャ。

 土地勘分からなかった俺のこと案内してくれたり、遅くまで一緒に練習に付き合ってくれるいい奴ではあるんだけど正直苦手。

 だからプライベートの番号は教えてなかったんだけど、誰から聞いたんだ?

 

「『そうそう、ユッキーの相棒のレガちゃんさ。それなのにプライベートの番号教えてくれないもんだから俺の心はもうズタズタだぜ』」

「聞かれなかったからな。で、用件は?」

 

 もちろん誰から聞いたのなんて聞く勇気は僕にはありません。

 それが原因でチームの不和に繋がったら困るし、あんまり深掘りすると墓穴掘りそうで怖いし。

 こういう時はちゃちゃっと本題に入るに限りますよ。

 

「『つれねーな、一か月振りの相棒との電話だぜ? もっとこの時間を大事にして貰いたいもんだがね』」

「休暇中だ、用がねぇなら切るぞ」

「『ジョークよジョーク! 余裕のない男はモテないぜ?』」

「男にモテてもな」

「『そりゃそーだ。で本題だっけ? ちょっと面白い噂を聞いてその確認にね』」

 

 面白い噂……レガのこういう話題って、本人的には面白くても言われる側は全く面白くなかったりするんだよな。

 もう出だしから嫌な予感なんですけど。

 

「『今日本(そっち)で面白いことやってんだって? ぶっちゃけあんまり興味なかったけど、ユッキーも一枚噛んでるって聞いてな』」

 

 面白いことって何だ。

 しかも俺が関わってることって……いや完全フリーだし練習以外はホテルで映画とか動画見ながらゴロゴロしてるだけですけど。

 本当に心当たりがないぞ。

 

「『新世代英雄化計画。新しいユッキーを作ろうって話みたいだけど、そう言う訳じゃないんだろ?』」

 

 あー、あの強化プロジェクトか。

 いや名前使われてるだけで完全に蚊帳の外だよ。

 ていうか何、別の目的あったの? それすら知らないんだけど。

 

「『英雄を超えるかぁ、いつその新世代たちとバトんのよ』」

 

 バトる? 俺があのプロジェクトのメンバーと?

 うーん、そんな話聞かされてないし、多分やるのは俺じゃなくてエキシビションに駆り出される国内のプロチームのことじゃないかな。

 ただ訂正して電話長引くと困るし適当に受け流そう、結構お腹減って来たからご飯食べたいし。

 

「どうでもいいな」

「『何だよ、可愛い後輩たちに冷たいじゃん。もしかして焦ってる?』」

 

 焦ってはいるよ、あそこのアジフライ定食昼過ぎにはなくなってること多いからなるはやで食べに行きたいもん。

 

「興味ないし期待もしてねぇ」

 

 絶賛休暇中ですし。

 それに今の俺には、結ちゃんのトラウマをどうすればこれ以上嫌われないようにしつつ解決出来るか考えるので手一杯なんだ。

 もちろん結ちゃんが試合出るなら観に行くけども、それ以外のことに思考を割いてる余裕はないのです。

 

「『おいおい、そんなんで俺に勝てるのかよ』」

 

 なんでいきなりマウント取ってくるの? 今の会話の流れでどうしてそうなるんだよレガさん。

 ていうか1on1だったら全然俺の方が勝ち越してるからな。

 

「勝つさ」

「『…………へぇ』」

 

 何がへぇ、だ!

 そりゃ勝率十割じゃないけど、お前そんなこと言える側じゃないくらい負け越してるだろ。

 

「『そりゃ楽しみだ。休暇中に悪かったな、バイビ』」

「ああ」

 

 全然話嚙み合わなかったけど、結局何が言いたかったんだろう。

 休暇だからって羽目外しすぎるなよってことなのか。

 うーん分からない……ていうかめっちゃお腹空いた。

 

「飯行くか」

 

 その後、アジフライはちゃんと食べれました。

 何ならご飯二回お代わりしちゃった。

 やっぱり故郷の味が一番だね。

 

 

 

 

 

 

「ふぅー。こりゃ重症だな」

 

 ソファに身を沈ませ嘆息する。

 思い浮かべるのは日本に帰って休暇を満喫する相棒の姿。

 そのあまりの故郷(日本)アンチな姿勢に、愛国家の俺としてはこの機会に少しでも見方を変えてやりたいと思ったがあれは筋金入りだ。

 

「興味も期待もしてない、ねぇ」

 

 確かに日本のレベルは低い。

 それは世界ランキングが示してるし、昨今の成績を見ても明らかなだ。

 とてもかつての世界王者だった国とは思えないほど、あの国は弱く小さくなった。

 だが、

 

「あんだけ自慢してた妹が参加してるじゃねぇかよ」

 

 相棒は常々口にしていた。

 妹と二人なら世界一になれる、誰が相手でも負けはしないと。

 あの口下手部ぶきっちょが断言するほどだ、さぞかし素晴らしい才能の持ち主なんだろうと思った。

 そして、それは決して身内の贔屓目などでも大言壮語の夢物語でもなかった。

 ネットに上がっていた恐らく相棒の妹と思われる『ストライカー』の動画を見た。

 

「ありゃ才能の塊だ」

 

 確かに動きは拙くて、チームに出す指示も改善すべきところは見受けられた。

 しかしそれを差し引いても、プロの俺の立場(・・・・・・・)から見ても、あの才能は世界の脅威足り得ると断言出来た。

 

「あんなに嬉しそうなユッキーは初めて見たのにな」

 

 帰国する時、相棒は珍しく笑みを浮かべてた。

 機嫌よさそうに家族に、妹に会えるんだと言っていた。

 

「それが何でああなっちまったのか」

 

 余裕のない冷たい声音だった。

 何もかも関係ないと言わんばかりのあの言葉は、自分一人で世界と戦うという覚悟の表れだろうか。

 もしそうだとしたら、

 

「俺たちには絶対勝てねぇよ」

 

 それは一緒のチームで世界一になった相棒が一番理解してるだろうに。

 

「思えばお前との付き合いも長かったな」

 

 弱小国から来た自分を天才だと勘違いしてる凡人。

 初めて会った時は才能の差を突き付けてやろうと思った。

 地力の差を見せつけてやろうと思って一周するだけで何十キロとある施設の案内をした、凡人は平然と着いてきていた。

 入りたての頃は何度も食事を戻していた過酷な練習に無理やり参加させた、凡人は消灯するまで練習を続けていた。

 1on1で直接力の差を見せつけてやろうと幾度となく挑んだ、未だに俺は凡人に負け越している。

 

 そんな歪な交流を続けていく内に、いつしか俺は凡人を認め無二の相棒と呼ぶようになっていた。

 その結果が、あの世界一だった。

 

「あの瞬間が俺とお前のベストプレイだった」

 

 世界一を懸けた決勝の舞台で、膠着した試合に風穴を開けたコンビネーション。

 あれを超えるプレーは……きっともう出来ない。

 だから俺たちのコンビはあの日で解消して、その時に約束したじゃねぇか。

 

「次に会うときは敵同士、世界一の座を懸けて……だろ? 唯」

 

 思い出しただけで身震いするほどの歓喜が全身を駆け巡る。

 それほどまでに、俺はあの時のお前の言葉に惹かれたんだ。

 だってのに……お前は、

 

「何で一人で戦おうとしてんだよ」

 

 日本は今変わろうとしている。

 必死に、命懸けてお前に喰らいつこうとしてるぞ。

 こんな離れた俺の耳にだってあの計画の全貌が届いてるのに、当事者のお前に届いてない訳ないだろ。

 

「もう少し周りを信じてみろよ」

 

 英雄たちは必ず生まれる、そんでお前の前に現れる。

 お前は一人じゃないと示すために。

 その時にその手を取るか、それとも振り払うか……それがお前の転換期だ。

 

「期待してるぜ、ユッキー」

 

 仲間に恵まれたお前と、最高の舞台で戦えることを願ってるよ。

 

 

 

 

 

 

 月明りが照らす寮の中、寝静まった皆を起こさないように注意しながら歩みを進める。

 向かう先はこれから一年間の練習の中心地となるセンタースタジアム。

 

 僕たちの前でこのプロジェクトの真実を話した男性──波瀬(ハゼ) (トオル)さん。

 彼の言った神嵜 唯を倒すという目標は、真実を聞かされ反骨心を刺激された私たちの共通目的となった。

 

 そして、そのための練習が明日から始まる。

 

「選ばれるのは一番から十六番まで」

 

 奇しくもそれはクラウンハーツの代表枠と同じ数で、察しのいい人たちは恐らく気づいているだろう。

 ここで選ばれた十六人が、日本代表として選出される可能性が高いことに。

 

「日本代表かぁ」

 

 自分がそうなるイメージが沸かないのは、自信のなさの表れかはたまた別の理由か。

 振り返り、自分が出てきた寮を見上げる。

 

 このプロジェクトに招集されたのは千人。

 千人を纏めて同じ寮に入れる訳にはいかないということで、僕たちは百人ずつ十のグループに分けられて各寮に配属され共同生活を送ることになった。

 と言っても、男の子も女の子も混ざってるから、そこはしっかり男女別の寮で生活しているけど。

 

 僕に割り振られたのは第十寮。

 数字の意味はイマイチ理解してない。

 結さんは第一寮だったから成績順かと思ったけど、明日奈さんが僕と同じ十寮だったので深く考えるのはやめた。

 

「この中から代表が決まる……」

 

 そう考えると本当に凄い場所に来てしまったんだなと、改めて自分の場違い感を再認識させられる。

 ここに来るまでに色んな人たちの話を聞いていたけど、やっぱり皆小さい頃から競技者として活躍していて色んな大会で結果を残している人たちばかりだった。

 僕はまだ競技歴半年でしかも大会にすら出場したことがないのに、ほとほと僕が選ばれた理由が分からなかった。

 

「……でも、やるからには負けたくない」

 

 胸に手を当てれば、波瀬さんの前で宣言した気持ちが今も胸で脈動するのを感じる。

 負けたくない、この思いは紛れもない僕の本心だった。

 

「───いい心意気ね」

「うぇッ!?」

 

 目を閉じ没頭していたからか、背後からの声に肩が跳ね上がる。

 慌てて振り返れば、そこには波瀬さんに誰よりも早く啖呵を切ったあの人が月明りを背に佇んでいた。

 

「あ、明日奈さん!」

「ご機嫌よう。寮から出ていくのが見えたからついね」

 

 細心の注意を払っていたが明日奈さんにはバレバレだったらしい。

 気まずくなって苦笑いを浮かべていると、明日奈さんは近くのベンチに腰を下ろしその隣を軽く叩いた。

 どうやら座りなさいということらしいので、言われた通りに隣に腰を下ろす。

 

「知っているみたいだけど一応言っておくわ。私は久遠 明日香、よろしくね」

「あ、えと、涼宮(すずみや) (つむぎ)です」

「紬……ふふ、いい名前ね。紬って呼んでもいい?」

「も、勿論です! 僕も明日奈さんって呼んじゃってますし」

「名前で呼ばれる方が好きだし気にしないでいいわよ、紬」

 

 名前で呼ばれるのは初めてじゃないのに、明日奈さんに名前で呼ばれると何処かふわふわした気持ちになってくすぐったい。

 もちろん嫌な気持ちは全くないし、むしろ距離を縮められたみたいで嬉しかった。

 

「もしかしてだけど、紬も眠れなかったクチ?」

「そ、そうです。恥ずかしながら考え出したら目が冴えちゃって……あれ? ″も″ってもしかして明日奈さんも?」

「そうよ。しかも紬と全く同じ理由、意外?」

 

 意外かと言われれば、すごく意外だ。

 てっきり考えるだけ無駄って割り切るタイプだと思っていたから、真逆だと知って尚更。 

 

「意外って顔に書いてあるわよ、この」

「いひゃひゃ、ごめんにゃさいぃ」

 

 どうやらこれもバレバレだったらしい。

 引っ張られた頬を擦りながら頻りに謝る僕を見て満足したのか、明日奈さんは笑みを溢しながらポツポツと話し出す。

 

「私、ずっと神嵜選手に憧れてたの。だから今日の結とあの人の言葉は、正直目が覚める思いだったわ」

 

 あの人、というのは波瀬さんのことだろう。

 となると二人の共通点は一つだけだ。

 

「神嵜選手を超えること」

「ええ。勿論いつかは超えるべき壁だと思ってた。でも、いつかはいつかのことで、少なくとも今だとは思ってなかったの」

 

 私、選抜で結に負けちゃったし。

 そう悔しそうに言葉を吐く明日奈さんは、思い出すように目を閉じながら言葉を続けていく。

 

「紙一重だった、あと少し何かが違ってたら、相手の運が勝っていただけ……色んな慰めの言葉をかけられたけど、何を言われても私が負けたという事実は変わらない」

 

 プロの世界は結果が全て、過程は関係ない。

 そう言って目を開いた明日奈さんには、どこか後悔するような雰囲気が宿っていた。

 

「私が目指していた世界はもう一回が通じるような生易しい場所じゃない。勝ち続けなければすぐに自分の価値なんてなくなってしまうような、そんな修羅の道」

 

 世界総人口の八割が競技者として存在している以上、代わりは幾らでもいるということなのだろう。

 それならば、一度の敗北がこれまでの勝利の全てを無に帰すことは道理だと僕も思った。

 

「今日結に言われて思ったわ。もし私が明日からプロの世界に入ってその時の対戦相手が神嵜選手だったら……私は相手が悪かったから負けた、なんて情けないことを言うつもりだったのかって」

「あ……」

 

 明日奈さんにはプロのスカウトが幾つも来ていた。

 もしこの場所に来ないでスカウトを受けていたら、万に一つだとしてその可能性が百パーセントないとは言い切れない。

 

「まだまだ私の覚悟が甘かった。これじゃ結に雑魚だのカスだの言われても言い返せなくて当然よ」

 

 いや、流石にカスは言いすぎだと思いますけど……そんな言葉は口に出さずに飲み込んでおく。

 

「そんなこと考えてたら眠れなくってね。結にも勝てなかった私がどうしたら神嵜選手に勝てるんだろう、って」

 

 でもね、とどこかスッキリした表情で明日奈さんは笑った。

 

「紬の言葉で吹っ切れた」

「え、僕の言葉……ですか?」

「ええ」

 

 困惑し見当のつかない僕に、明日奈さんはその状況を再現するように自身の胸に手を当てて言葉を紡いだ。

 

「やるからには負けたくない」

「あっ」

 

 ようやく思い当たった僕を見て、明日奈さんは思い出すの遅いわよと笑っていた。

 

「勝てる勝てないって、気持ちで負けてたら世話ないわよね。負けたくないから死ぬ気で努力する、たったそれだけのことだったのに」

 

 あーあ、無駄な時間過ごしちゃった、と彼女は言葉とは裏腹にスッキリした表情で空を見上げている。

 

 勝負の世界なんだから勝ち負けがつくのは必然、ならば勝ちたい負けたくないという気持ちは当たり前のこと。

 それなら限られた時間をどう活用して上を目指すか考える、下を向いている暇なんてない……それが久遠 明日奈という競技者なんだろうなと思った。

 

「ていうか結ってば性格変わりすぎ! あんな冷めたヤツじゃなかったのに、この短期間で何があったってのよ」

「そんなに変わってたんですか?」

「そりゃあもう、正反対かってぐらい変わってたわよ。初めて会った時なんてね───」

 

 そうして星々が瞬く夜空の下、僕と明日奈さんは心行くまで語り続けた。

 その頃には僕の胸の内にあった漠然とした不安は消え去っていて、ただただ女の子同士の他愛ない会話に花を咲かせることが出来た。

 

 当然、翌日は寝坊しかけて大惨事だったのは言うまでもない。

 

 

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