59話 初めての変身
貴虎「水瀬葉月…ヘルヘイムから世界を救うために君の力を貸してくれ…」
葉月「はい!!よろしくお願いします呉島さん!!」
貴虎「貴虎だ…」
それはユグドラシルの研究主任である貴虎さんと私の最初の出会いから2週間後の出来事だった。
1ヶ月前
いつもの静かなユグドラシルだが今日はいつもと様子が違っていた。
凌馬「これは…」
湊「プロフェッサーこれは!?」
廊下の窓ガラスは大きく割れており一階のフロアにはガラス片と赤いロックシードのパーツが散らばっており近くを通りがかったシドがロックシードのパーツを拾い上げた。
シド「おいおい…何だよ物騒だな…」
その様子を謎の黒いスーツを着た男性がシドと上にいる凌馬の方を見上げていた。
供界「戦極凌馬…」
貴虎Side
貴虎「凌馬!!」
凌馬「やぁ貴虎…どうしたんだい血相を変えて…ゲネシスドライバー完成なら遅れそうだよ?貴重な資材に被害が出たものでね」
貴虎「そうじゃない爆発の件だ!!」
凌馬「とっくに湊君が調査を開始しているよ…君の出る幕じゃ無い!!」
貴虎「爆発など尋常では無い…何が起こっている?」
貴虎はふと机の上に目をやると赤いロックシードのパーツが置いており貴虎はパーツを手に取った。
貴虎「見覚えの無いロックシードだな?」
凌馬「私が作った覚えは無い…」
貴虎「何だと?」
凌馬「私以外の何者かが作ったんだ…許せないなぁ…私の知らないロックシードなど…」
貴虎「お前以外が作った…?」
凌馬「そういえば開発チームから連絡があってね、私の作成した設計図を元に量産型ドライバーの試作品がようやく完成したそうだよ。ビートライダーズの連中から効率よくデータを収集出来たからね?」
貴虎「完成したのか…」
凌馬「最初の被験者は誰がする?」
貴虎「俺がやる…」
凌馬「相変わらず命知らずだね君は…量産型と言っても試作品だから危険が全く無い訳では無い…プロトタイプのテストの時と同じように大怪我をするかもしれないが?」
貴虎「今回のプロジェクトを引き受けた私には責任がある…プロジェクトリーダーである私が背を向けるわけにはいかないだろう?」
凌馬「本当に君らしいよ貴虎…でも…そろそろ君も秘書を付けたらどうだい?」
貴虎「何?」
凌馬「採用担当から何度も連絡が来ていてね…ユグドラシルの社員を目指す就活生がいて、他の部門では募集の定員が埋まって来ていて研究部門ではどうか…とね」
貴虎「ふん…我々の抱えている問題をただの一般人に教えられる訳ないだろう?仲間に加えるなど論外だ。」
凌馬「ま、そうだよね…我々としても今更メンバーを増やそうとも思っていない!!」
貴虎「なら…なぜ聞いてきた!?わかりきった事だろう?」
凌馬「一応、君からの直接の言葉が聞きたかっただけさ…あとは湊君に任せるよ。」
凌馬はそう言い残すと、再び自身のパソコンに視線を戻し作業に集中し始めた。
貴虎「秘書…か…」
葉月Side
先生「葉月さん秘書検定1級合格おめでとう!!」
葉月「やった!!ありがとうございます!!」
私は沢芽の大学である天樹大学の卒業を間近に控えており、秘書になるためにいくつもの検定を受けていた。
先生「でも…どうしてたくさんの検定を受けたの?秘書の資格が無くても秘書にはなれるのに…」
葉月「面接の時にアピールポイントになるかなーと思いまして。履歴書資格欄が埋まってると注目されやすいかな?と思って。」
先生「本当頑張り屋さんだよね葉月さんは…それで…どこの企業の秘書の試験を受ける予定なの?」
葉月「ユグドラシル・コーポレーションですよ!!」
先生「沢芽市の巨大企業じゃないの!!凄いじゃない!!」
葉月「医療系・福祉系事業を手掛けて沢芽の中核を担っている会社ですよ!!私、沢芽をもっと住み心地の良い町にしたいんです!!そのためにユグドラシルに入社したいって前から決めてました。」
先生「凄いわね…ちょうど企業説明の資料もあるから見てみなさい…でも秘書の募集をかけてるかわからないわよ?」
葉月「秘書の枠が無ければ最初は事務職からスタートかな?って思ってます…秘書の枠があれば受ける予定ですが…」
先生「分かったわ。必要書類を揃えておくから、貴方は履歴書を書いておきなさい。」
葉月「はいっ!!」
2週間後
葉月「き、緊張する…」
私はユグドラシルに応募して無事書類選考を突破し、採用試験を受けるためにユグドラシルの会社へと歩みを進めていた。
葉月「?」
私はしばらく人気の無い道を歩いていると、大勢の人々がどこかに歩いて行くのが見えた。私は明らかに様子がおかしい事に気がついて、人々に駆け寄った。
葉月「あの〜すみません…大丈夫ですか?あの!!」
私は何度も呼びかけるが、人々は正気を失っているのか、私の問いかけには答えず、1人の黒いスーツの男性に視線が集中されているようだった。
供界「我々は黒の菩提樹…あまねく世界を救う者である…」
葉月「あの…助けて下さい!!この人達様子が…」
供界「世界の終わりが近づいている…我々がもたらす救済を受け入れるんだ…」
葉月「世界の終わり?救済?何を言ってるんですか?」
供界「救済の道標を君はもう持っている筈だ…」
謎の男性は赤い錠前のような物を取り出すと私に掲げてみせた。
葉月「それは…」
私はバックの中のユグドラシルの案内資料が入った袋を見ると、男性が手にしている物と同じ錠前が入っており、私は錠前を取り出した。
葉月「大学に届いた会社の案内の書類の中になぜか入ってたこれ…何なんですか!?」
供界「さぁ…君も救済を受け入れるんだ…我々と一緒に…」
葉月「嫌…やめて…来ないで…」
私は逃げようとしたが、後ろにいた正気を失った人達に体を掴まれてしまい、身動きが取れなくなってしまった。
葉月「うっ…ぐっ…離して!!離して下さい!!」
私は必死に体を動かして抵抗するが、男性は私の目の前までやって来て錠前を私の目の前に掲げると、ロックシードは赤い光を放ち始めた。
葉月「嫌…嫌です…やめて…」
私は錠前の淡い光に飲み込まれ始めて動きを止めたが、不意に光が治まり男性が首を傾げた。
供界「どういう事だ?」
葉月「嫌ぁ!!」
一瞬錠前の魔力のような物に飲み込まれそうになったが、私はすぐに正気を取り戻して、周りにいる人を振り切ってその場から逃走した。
葉月「はぁ…はぁ…逃げなきゃ…逃げなきゃ…」
私は必死にその場から逃げ去り、途中で自身の錠前を地面に落としてしまったが、振り返りもせずに走り去った。
凌馬「これは…どういう事だ?なぜ彼女だけが洗脳が効かない?彼女は一体…」
すぐ近くで知らない人物がこちらを覗いているのには全く気がつかなかった。
凌馬Side
湊「ここ数週間市民の間で幽霊の目撃情報が増加しています。その正体は神出鬼没である狗道供界でないかと推測出来ます。」
シド「プロフェッサーアンタの予想通りだ…そのロックシードがばら撒かれたのは黒の菩提樹の勢力が増した時期のピッタリ一致する…何が仕掛けがあるぜ」
凌馬「2人ともご苦労…やっぱり君達は有能だね!!このロックシードは所有者の精神をトランス状態にする…言わば一種の洗脳だね…さらにこいつを起動させると…ドッカーン!!」
湊「洗脳と自爆…テロ専用のロックシードですか!?」
凌馬「許せないなぁ…私の研究をこんなつまらない事に応用するなんて」
シド「供界の目的は何なんだい?アンタに対する復讐か?」
凌馬「さぁねぇ…でもこのまま大人しくしているつもりは無い…だが1つ気になる事がある…」
湊「気になる事…とは?」
凌馬「洗脳された市民の中にいたあの女性…彼女も例のロックシードを所持していたようだったがトランス状態になっていなかった…どういう事だ?」
シド「ロックシードの洗脳に耐性があったのかい?」
凌馬「さぁねぇ…引き続き情報を集めないとね」
凌馬(ロックシードによる洗脳…いや本当に耐性があるのか…?興味深いね彼女は…)
湊「そういえばプロフェッサー…ユグドラシルの採用担当からまた連絡がありました…秘書志望の大学生がユグドラシルの秘書を志望していると。」
凌馬「ほぅ…だが何度も言うが我々研究部門はヘルへイムなどの重大な秘密を常に抱えている…他の人を採用するなど論外だよ…」
湊「わかっています…一応履歴書を…」
凌馬「全く…この狗道供界の件で忙しいと言うのに…うん?」
凌馬は秘書志望の大学生の履歴書を見てすぐに湊に突き返そうとしたが、顔写真を見て動きを止めた。
湊「プロフェッサー?」
凌馬「ほぅほぅ…なるほど…彼女がそうか!!」
凌馬は履歴書を一通り確認すると、履歴書を手に部屋から退室しようとする。
湊「やはり採用担当にはお断りを…?」
凌馬「いや…面接をしよう!!他の部門の連中に彼女を渡すわけにはいかない」
シド「おいおい…一体どういった風の吹き回しだ?」
凌馬「彼女はもしかしたら…我々の…いや…詳しくは直接会ってみなければ!!」
湊「彼女は一体?」
凌馬「彼女だよ…さっき話した唯一トランス状態にならなかった子は…ロックシードの力に耐性があるって言った子だよ…非常に興味深い!!」
葉月Side
私は数日前の恐怖体験をした事で試験会場であるユグドラシルへと逃げるように辿り着き試験を受けたもののいまいち集中出来なかったが会社から面接の案内の連絡があり私は前回とは違う道を通ってユグドラシルの会社に向かっていた。
葉月「もう…あんな怖いのは嫌だ…」
私は道をしばらく歩いていると再び虚ろな目をした大勢の人達がどこかに歩いて行くのを目撃して私は元いた道を引き返すように駆け出した。
葉月「また…あの変な人達が…きっとあの怖い男の人もいる…」
私はあの時の恐怖が再び蘇り慌てて走り出すが曲がり角を曲がろうとした時に誰かとぶつかってしまい尻餅を突いた。
葉月「きゃっ…」
研究員「ぐっ…」
思い切り正面衝突をしてしまい、私と白衣を着た男性が倒れ込んでしまい、男性の手荷物の黒いケースが地面に落ちて落下し、蓋が開いて中身がこぼれ落ちてしまった。
葉月「ああっ…ごめんなさい!!」
研究員「気をつけろ!!全く…」
私は地面に散らばった物を慌てて収納するのをみて中身をチラリと見てしまい首を傾げた。
葉月(あれ…あの黒いやつ…配信で観たチーム鎧武の確か…仮面の戦士?になるための変な機械?)
私は最近推しのチーム鎧武のメンバーである葛葉紘汰さんが変身していた仮面の戦士が使用している物と同じ物だとすぐに気がついた。
葉月「あの…それ…」
研究員「これは子供の玩具じゃないんだ…君には関係ない!!私はこれで失礼する!!」
葉月「いや…私、子供じゃ…それよりこの先は危ないですよ!!」
研究員「うわっ!!」
私に背を向けて早足でその場を立ち去ろうとする男性の目の前に大きなジッパーのような物が突如現れて中から謎の怪物が現れた。
葉月「っ…怪物!?」
研究員「インベス!?」
頭部にシカの様な長い2本の角をもつ人型の怪物は研究員へと襲い掛かり研究員は悲鳴を上げた。
研究員「ぎゃあああっ!!」
葉月「あっ…あぁ…」
シカのような怪物は研究員に襲い掛かり角を使って研究員を狙うが、研究員は黒いケースを盾に攻撃を防いだ。しかし、同時にケースが壊れて地面に落ちて、再びケースの中身が地面に散乱してしまった。
研究員「うわああああ!!助けてくれ!!」
葉月「待って!!私を置いていかないで!!」
私は逃げ去る研究員を追おうとしたが、シカの怪物は私に標的を変えたのか、私に向かって突進して来た。
葉月「やめて…来ないで!!」
私は慌てて突進を躱すが再び接近を許してしまい、胸倉を掴まれ顔を思い切り殴打されてしまい衝撃で地面に倒れ込んだ。
葉月「あぁっ…うぐっ…」
地面に倒された私はそのまま踏みつけられてしまい、再び地面で呻いていたが、シカの怪物は私の胸倉を掴むと強制的に立たせて再び私を思い切り殴打してしまい、私は口から血が流れてそのまま投げ飛ばされてしまった。
葉月「ぐっ…がはっ…」
私の口から出血し就活用のスーツのジャケットとスカートはぼろぼろになって、スーツのジャケットのボタンも無くなっており、中の白いシャツが露わになってしまっていた。
葉月(このままじゃ…殺される…)
私は地面にお尻を付けたまま後ろにズリズリと下がるが、私の手に何かが当たり私はそれを掴み取った。
葉月(これ…さっきの…)
私の手に当たったのは地面に散らばったあの黒い機械であり、私はそれを手に持ち壊れた黒いケースの側に駆け寄ると、同じく側にはフルーツの錠前のような物がいくつもあり、その中から1つを掴み取った。
葉月「イチゴ…これ…使えるのかな?」
私が選んだのはイチゴの形をした錠前だった。選んだ理由は好物がイチゴだったのもあり、迷わずそれを選んだ。
葉月「確か…こう!!」
私は配信で見たチーム鎧武の戦士の変身の仕方を思い出して、黒い機械を腰に力強く押し当てた。
葉月「わっ…」
私の腰に銀色のベルト帯が巻き付いて私の後ろでベルト帯が固定されるのを確認すると、選んだイチゴの錠前を構えて解錠した。
(イチゴ)
私はイチゴの錠前を開錠すると頭の上にジッパーが開いて中から大きなイチゴのような何かがゆっくりと降りて来た。
シカインベス「グアッ?」
突如現れた大きなイチゴに怪物はイチゴの方を見上げると、その隙に私はイチゴロックシードを機械の窪みに装着してハンガーを閉じた。
(ロックオン)
機械から法螺貝のような待機音が流れ始めて私は困惑してしまい機械の方を見た。
葉月「ここからどうすればいいの…?」
私はここからどうしていいか分からず法螺貝の音が流れる中もたもたしてしまう。
シカインベス「グアアッ!!」
再び私に狙いを定めた怪物は、私に向かって角を向けながら迫って来て、私は慌てて機械をガチャガチャ弄った。
葉月「わかんない…わかんない…配信の時どうしてたっけ!?」
(ソイヤ!!)
葉月「えっ?」
私の機械のあちこちを弄る手がブレードの様な物に当たり、そのままブレードは下に下がり、装着されているイチゴをカッティングし、イチゴは断面を晒すように割れた。
(イチゴアームズ!シュシュッと スパーク!)
葉月「えっ…えっ!?」
気づくと目の前の怪物はなぜか吹き飛んでおり、私の顔はマスクに覆われていき全身を薄く黒いスーツが覆い最後に空中のイチゴが私に被さりゆっくりと展開して鎧のようになり私の体に装着した。
葉月「えっ…えっ…私…どうなったの!?」
私は全身の感触を確かめるようにペタペタと触ると硬い鎧と薄いスーツが私の体を包み込んだ事を確認した。
葉月「これって…確か…DJサガラが配信で言ってた…えっと…」
葉月「アーマード…ライダー?」
後にヴィーナスと呼ばれるライダーに変身を遂げた葉月は、自身の初めての変身に驚きを隠せなかった。