幸せ   作:こんたぽ

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メジロアルダンのちょっぴり切ないお話
※このSSはメジロアルダンのアプリ育成ルートを通りつつ少し史実に即したものとなっています。キャラエミュが上手く出来てるか分からないのでそこらへんはご了承お願い致します。


割れたガラスの靴

すっかり黄色く染まってしまった欅並木を俺は進んでゆく。トレセン学園は俺の住むトレーナー寮から歩いて10分もかからない。いつものトレーナー室に向かう足取りに躊躇いはない。薄っぺらいスーツでは肌寒くなってきた今日日、舞い落ちる黄色い葉を横目で眺め通り過ぎる。そういえば彼女にとって3度目の「秋」なのか、と俺は今更当たり前のことを噛み締める。去年のこの時期、この時間もこんなにも暗かっただろうか。そんなことを考えてしまったのは早朝で目が覚めきっていなかったからだろう。いかんいかんと首を振りつつ俺は誰もいない廊下の中トレーナー室へ向ける足を早めた。トレーナー室の前に着くと小さなクリスタルのついたキーホルダーがついた鍵を取り出し鍵穴へ差し込んだ。ガチャリ、と鍵の開く冷えた音を確認して扉を開けようとすると

 

「トレーナーさん……?」

 

声のした方向には俺の愛バ、もとい担当ウマ娘のメジロアルダンが後ろ手を組んでそこに立っていた。

 

「なんだ、随分早いな、アルダン」

「ふふっ、なんだか今日は早く目が覚めてしまって。トレーナーさんこそ今日はお早いのですね。」

 

そう言いながら微笑む彼女の儚げな顔に俺はいつもながら少しどきりとさせられる。

 

「いや、今日のトレーニングに少し器具を準備する必要があって、結構重さがあるからその準備でちょっとね。」

「あら、そうでしたか。よかったらその準備、ぜひ私にお手伝いさせてくださいな」

「いいのか?でも、その…まだ」

「はい、大丈夫ですよ」

 

そう言い切る彼女の表情はいつかのレース前の練習で見たことがあったような気がした。

 

「そうか、じゃあ2人でさっさと用意しちゃおうか」

「はい、2人で早めに終わらせてしまいましょう」

 

そんな会話をしてまだ薄暗い中、俺たちは何往復かしてなんとかトレーニング倉庫からお目当てのトレーニング器具を取り出し、トレーナー室へ運び終えた。

 

「ふぅ……意外と終わるのに時間かかったな。少し紅茶でもどうだ?」

「まぁ、いつものトレーニング後のトレーナーさんのお紅茶、こんな朝から入れていただけるんですか?」

「あぁ、アルダンがいなかったらこの倍以上は時間がかかっていただろうからな。これはそのお礼だ。そのソファーで座って待ってて。」

「ふふっ、では、ありがたくいただきます」

 

そう言いながら俺はトレーナー室に備え付けられたキッチンで水を入れたやかんに火をかけ、その間にティーポットと茶葉、ティーカップを用意する。やがて沸騰したお湯をティーポットに注いで蓋をすると、か茶葉のすかな良い匂いが鼻口をくすぐる。紅茶を蒸らしている間、横目でアルダンの方をちらりと見ると彼女は手持ち無沙汰そうにその滑らかな足を少しぶらぶらさせている。そんな彼女の姿はまるで西洋絵画の中から飛び出して来たような、淡い水色をした人魚のようで、思わず見惚れてしまった。紅茶を蒸らし終わり、ティーカップに薄紅色の雫を注ぐ。アルダンの好きな薄めのダージリンティー。2人分のカップに注ぎ終え、ティーカップを彼女へ手渡すそのまま彼女の隣に腰掛け、分け合った2つのティーカップをチン、と鳴らして俺たちは中身を味わう。いつもより大分早めのティータイムはしばしの静寂をもたらす。

 

「………あと、1週間で天皇賞か」

「………はい、そうですね」

「………これで、終わりなんだな」

「………はい、そうですね」

 

静寂を破って飛び出した言葉はそれっきりで、また沈黙が訪れる。

 

「………結局、メジロラモーヌには…」

「……仕方がありません。このガラスの靴は、割れてしまいましたから。この前のレースタイムも去年から比べて縮まりませんでしたので。」

「……そう、か」

「ヤエノさんとチヨノオーさんには一度は勝ちたかったですけれど……」

「……あれだけ、色々と、準備したのに、本当にすま」

「トレーナーさん、それ以上はダメです。」

 

いつのまにか、俺の唇に押し当てられる彼女の人差し指。驚いた俺に彼女は微笑み、人差し指を俺の唇からそっと離す。

 

「どちらにせよ、私はもう長くは持たなかったんです。タイムリミットが早かったか、遅かったかの違いだけなのです。」

「……アルダン」

「それに、私は」

 

そう途中で話すのをやめ、彼女は可憐な花のような満面の微笑みを俺に向ける。

 

「トレーナーさんのお陰で、私はこの一瞬でも輝くことができたんですよ?確かに他の方と比べれば、その旅路は短いかもしれないけれど、私は私自身の生きた軌跡を、今に残すことが出来ております。」

「……アルダン」

「だから、トレーナーさんはそんなに自分のことを責めないでください。あなたは、私との約束をちゃんと守ってくださりました。」

「……アルダン」

 

俺たちは、冷めきった紅茶を一口啜る。

 

「……このレースを終えたら、どうするつもりなんだ?」

「そうですね……ご存知かと思われますが、私のこの体ではもうトゥインクルシリーズを駆け抜けることは厳しいと言わざるを得ません。」

「……そうだな」

「実は以前からばあやに、卒業後に保養地へ移り住む提案を受けておりました。卒業後は、そちらへ参るのもよろしいのかもしれませんね。」

「………」

「中国にメジロ家が保有する、緑豊かな保養地だそうです。水も空気もとっても澄んでいて、温泉だってあるんですよ」

「そうか……それは、よかった、な」

「……ええ、」

 

そのままどちらも口を開くことのなく、ただ紅茶を啜る音だけが2人だけしかいないトレーナー室に響き渡る。

 

「…そろそろ、私は戻らないと。チヨノオーさんも起きてくる時間ですので。」

「あ、ああ、長々と付き合わせてしまってすまなかったな」

「いえいえ、私自身が望んで一緒にいたかっただけですから。」

「…そうか」

「お紅茶、ありがとうございました。それでは私はこれで。」

 

アルダンはトレーナー室の扉を閉めて去っていく。その彼女の後ろ姿は、どこか遠くて。その彼女の足音は、今にも割れてしまいそうで。

 

「ーーーメジロアルダンっ」

「ーーーーっ」

 

気づけば、俺はトレーナー室を飛び出して、彼女の後を追いかけていた。その勢いのまま、階段を降りようとしていた彼女を後ろから抱きしめる。

 

「ーーー嫌だ。君は、俺の永遠の輝きだ。俺は、君の未来を描くと約束した!俺じゃ力不足なのかもしれない!もしかしたら、今後一生GIなんて夢も叶わないのかもしれない!だけど!」

「………」

 

それでも、俺は

 

「……だけど、俺は、俺は君のトレーナーでいることを、諦めたくないッ……!」

「………やっぱり私も、あなたもずるい人です。」

 

そう言って、アルダンは背後から抱きしめる俺の手を優しく包み込む。

 

「…元々、私はトゥインクルシリーズを辞めるつもりなんてありませんよ。」

「………え?」

「ふふっ、先程はあんなことを言ってしまいましたけれど、私自身の気持ちとしては、まだまだトレーナーさんと一緒に走りたい思いは諦めていませんから。それにーーー」

 

甘い、かすかな匂いがふわりと舞い、アルダンは俺へと向き直る。

 

「あなたが今おっしゃってくれたでしょう?私とあなたの2人で、未来を描くと。」

 

そう微笑む彼女の表情は、どこか暖かくて、儚げで、…とても輝いていた。いつのまにか朝日は高く登って、人の喧騒も鳥の囀りも遠くなって。俺たちはいつまでも抱きしめ合って、互いの温もりを確かめ合っていた。




史実のメジロアルダンはGI一勝どころかG2一勝のみなんですよね…
怪我が多くデビュー時期が遅かったのもあり善戦マンで止まってしまいましたがそれでも彼女の輝きはあのスーパースター達にひけることはなかったと思います。
てかアプリアルダントレほんまにスパダリすぎませんかね…
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