アルティメットガール ~元スーパーヒーローの新たな異世界冒険者生活~ 作:金のゆでたまご
「この俺の邪魔をしたことを今度こそ後悔させてやる!」
不意打ちを食らった彼は、その怒りを乗せた正拳をアルティメットガールのアームブロックへ叩きつける。押し飛ばした彼女へ追いうちの中段の回し蹴りを放ち、初撃に倍する距離を打ち飛ばした。
「あら、ホントに今までよりも力が乗っているわ。ハッタリじゃなかったようね」
「どうだ? ここまでの強さだとは思わなかっただろう!」
最初の二発の攻撃以降彼女はガードすることをやめて大きく回避していた。
(セミールさんから距離を置かなきゃ)
木の陰で震えながらこちらを見ている彼を案じて回避しつつ後退していく。これは範囲攻撃による巻き添えを想定してのことだ。
魔族は攻撃するほどに回転速度を上げていき、それに相まって破壊力も増していく。まだ生々しい傷からは血が滲み、ときおり苦悶の表情を浮かべながらも、これまで発揮することのできなかった力がその攻撃には乗っていた。
「ちょっと、傷口が開いてるじゃない。あなたがそんな状態じゃ、気が引けちゃって反撃しづらいわ」
「手が出ない言い訳か? 今の俺は最高潮に乗っているんだ」
その言葉のとおり、いつしか彼は傷の痛みを感じなくなっていた。腕を振るうほどに、無理を強いるほどに力が湧いてくる。まるで燃え尽きる寸前に激しく燃えるロウソクの火のように。
魔族は高揚から痛みを忘れ笑顔さえ見せている。それはアドレナリンの分泌によってこの戦いに快楽を感じているからだろう。
「今の自分の状態がわかってないのね。このままだとあなた自滅するわよ」
強い意思によって引き出された力でアルティメットガールを猛撃する魔族が叫ぶ。
「この俺に三度の敗北などない。あってはならないのだ!」
目まぐるしい猛攻で追撃する彼の左フックがアルティメットガールのガードに炸裂した。
「知らないの? 二度あることは三度あるのよ」
角無しの魔族の様子を心配げに見つつ彼女は言う。
「ちなみに三度目の正直っていうのは、正しいおこないや万全の状態で挑んだ者に適用されるべきものだわ」
「黙れ!」
ボディーアッパーを受け止めたアルティメットガールの体が浮き上がり、吼える魔族は現状で最高の力が乗った渾身の拳を打ち伸ばした。
「らぁぁぁっ!」
唸りをあげる一撃が顔面を撃ち抜いたと思ったそのとき、彼は頭部に強い衝撃を受けて目の前が真っ黒になった。
「な……にが?」
魔族は仰向けに倒れていた。
最高の一撃はヘッドスリップによって躱され、会心のカウンターをもらったことに気づいていない。
最高潮だった脳と体はその反動を受け、もはや指の一本も動かず大の字で空を見上げている。そんな魔族を両腰に手を当てたアルティメットガールが覗きこんでいた。
「あなた無茶し過ぎよ」
「ぐ、ぐぐぅ」
「まだやる気なの?」
その意思と行動にちょっと呆れ気味の彼女は、しゃべることもままならない彼に対し、指をさしてこう告げた。
「万全な状態で負けないとわからないのなら、その怪我を治してから出直してきなさい」
「なん……だとっ!」
怒りが生み出すパワーでもその体は動かない。そんな彼にアルティメットガールはもうひと言付け足した。
「でも……。できればこれに懲りて万全になっても挑んでこないことね」
そう告げて彼女は魔族に背を向けた。
悔しさに震える彼を残し、彼女は森の木の陰に身を隠すセミールの元に向かった。
「セミールさん」
「ア、ア、ア、アルティメットガール!」
「わたしはエリオさんたちのところに行きます。あなたはここで待っていてください」
まだ震えの静まらないセミールに対して少し早口で言った。
「ここで待つって、ひとりでか!」
彼の視線は大の字で倒れている角無しの魔族へと向けられている。いくら行動不能になっているとはいえ、この場にひとり残されることに抵抗があった。
「俺は腰が抜けていて……」
そう言いかけた彼の腕を掴んだアルティメットガールが空へと浮かび上がる。
「お、おい。何を?」
「エリオさんが心配です。急がないと」
無意識でハルカの心情を口にしたアルティメットガールは、セミールが身を隠していた大樹の中腹あたりの太い枝に彼を股がらせた。
「あとでエリオさんたちが迎えに来ますからここにいてください」
「え? 待ってくれ。ここよりはまだ地面のほうがっ」
彼女はセミールの言葉も聞かずに猛スピードで町に向かって飛んでいった。
木の上に置いていかれた彼は茫然としていたが、アルティメットガールが完全に見えなくなったころで、ふと思った。
「なんで俺の名前を知っているんだ?」