はじめてのキヴォトス   作:みやびさん

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7年未来の回想

「……おい……おい!」

「この教授厳しいんだから、起きろ……!」

 

"……っ、すまない"

 

「根を詰め過ぎじゃねえの?」

「来週から教育実習だろ?」

 

急に出て来た懐かしい友人との再会で混乱しているが

とりあえず頷いておく

 

周りを見渡すと講義室だろうか……

何処か懐かしい風景、隣で講義を受けている友人は……若いな

大学生の時にこんな光景をよく目にしていた気がする

 

私は……帰ってきたのか?

それともキヴォトスでの生活は……長い胡蝶の夢だったのか……?

 

いや、胸のポケットに何か入っている

これは……大人のカード……

 

----

 

シャーレへアロナが飛び込んできた日から数日後

 

D.U.は孤立無援のまま、機械の軍勢と戦う日々を過ごしていた

私の付け焼き刃の戦術支援は、物量差の前にはなすすべもなかった

 

最初にやられたのは通信網

各学園とは早々に連絡が取れなくなった

生徒達は自分の大切な居場所を護る為、今も戦い続けているのだろうか?

 

程なくして電気に水道、インフラが根こそぎ持っていかれた

 

敵の銃弾は生徒を殺す為のものだった

普段ライフルの狙撃を食らっても痛いで済ます生徒達が

血を流して泣き叫ぶ姿は想像以上に堪えた

 

陣頭指揮の為に出撃したアロナが、意識不明で血塗れになって運び込まれた時は

運び込んでくれた生徒への感謝も忘れ、アロナを抱き締めて泣き叫んだ

 

---

 

早々に限界を迎えた私は前線から降ろされ

まだ眠りから醒めないアロナに付き添っていた

 

今までの活躍は何だったのだろう

 

……誰かが言わなくても、言われなくても、自分が一番わかっている

 

私は元から無能な人間で、アロナの力で偽の光で輝かせていたのだ

 

生徒達の失望が、後悔が、自責の念が、綯い交ぜとなって襲い掛かってくる

 

---

 

「クックックッ、お久しぶりです、先生」

 

"誰……?"

 

「ご挨拶に伺いました」

 

黒いスーツを身に纏う異形の人形がそこに居た

 

"お久しぶり……?あなたと会った事は一度も……"

 

「ええ、確かに私は貴方と対面した記憶はございません」

「ですが、貴方は私と対面した事があるのでしょう?」

 

"……なぜ、それが分かるの?"

 

「クックック……ポーカーフェイスはお下手ですね」

 

「私達は貴方と同じキヴォトスの外から訪問した大人ですが」

「我々はキヴォトスよりも神秘を扱う技術が進んだ世界からの来訪者なのです」

「犬やロボットが道を行き交うキヴォトス、魂の吹き込まれた人形が居ても不思議ではありません、重要なのはそこに在る神秘の強さなのです」

 

「そんな私達が長年の経験や記録から結論付けた事が一つありましてね」

 

「運命は覆らない」

 

「放出される神秘の残滓を追うことで、生きとし生けるものの運命が追えるのですよ」

「例えばあの日、小鳥遊ホシノは私のモノになる筈であり、その日は目前まで来ていた」

「ところが当日、いきなり彼女は運命を変えて見せたのです」

 

「私は小鳥遊ホシノを手に入れる機会を失った失望よりも」

「運命を変える力に関して強く興味を引かれました」

「そうしてとある人物にアタリをつけました」

 

"それが、わたし……と?"

 

黒服はニィと口角を上げる

 

「連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの先生」

 

「貴方には未来予知かタイムリープかは知りませんが」

「歴史に干渉して未来を書き換える能力がある」

 

黒服はベッドに眠るアロナを、目に隈を作った私を一瞥し嘆息する

 

「しかしこの状況を見るに、貴方一人では未来をひっくり返す事は 出来なさそうですね」

 

「クックック……そんな怖い顔をしないでください」

 

"あなたは、私を嘲笑う為にここにきたの?"

 

「いえ、ヘッドハンティングです」

 

何……?

 

---

 

「未来視の能力こそはないとわかりましたが」

「貴方にはまだ運命を書き換える能力があります」

「運命が分かる私の能力と力を合わせれば、富も名声も、神秘も自由自在」

 

「私と手を組みませんか?」

「あなたにとっても良い話なのでは?」

 

"もし、仲間になれば生徒の皆を助けてくれる?"

 

「それは約束できかねます」

 

それは、どうして?

 

「先日、面白い拾い物をしましてね」

「名もなき神々の王女とその従者から、連邦生徒会に喧嘩を売られたので、壊滅させて欲しいと契約しておりまして」

 

こいつ、今……なんて……

 

アロナ達をこんな目にあわせたというのか?

怒りで真っ赤に染まりかけるが、ギリギリのラインで踏みとどまる

 

"喧嘩を売られた……って言ったね、何をされたの?"

 

「おや、先生はご存知なかったのですか?」

 

---

 

私は黒服の声に耳を傾け続けた

ミレニアムの郊外、ひっそりと鎮座する名もなき神々の王女

その遺跡に鎮座する少女を亡き者にしようと、連邦生徒会が遺跡を破壊したこと

 

しかし、生き残りがいた

彼女は名もなき神々の王女の従者

自身を電子化させることでG.Bibleとして連邦生徒会の端末に潜入、反撃の機会を伺っていた

 

そして、黒服に協力を要請した

キヴォトスを滅ぼす事を決意して

 

「生存競争なのですよ」

 

"生存競争……?"

 

「アトラハシス、ノアの方舟はご存知ですか?」

 

"話の流れが見えてこないが、世界が洪水に呑み込まれる話で、人類はノアの方舟に乗り込んで滅亡を避けた話らしいことは……"

 

しかし、黒服は要領を得ない顔を浮かべ……

 

「ふむ……あぁ、そうことですか……」

「先生、貴方の世界では最終的にそう伝わったのですね」

 

「順序が違うのです」

 

「元々キヴォトスという神秘の力が吹き荒ぶ過酷な世界がありました」

「そこで生まれた生物達は苦しみ、もがき、死に絶えました」

 

「僅かな生き残りはキヴォトスから別の世界へ逃げ出す事に成功したしました」

「辿り着いた世界で、脅威が追い掛けてきても対処出来るように警鐘を打ち鳴らした」

 

"話が見えてきた気がする……"

"本来のノアの方舟は種の保存を目的とした希望などではなく……"

 

「クックッ……流石ですね」

「推察の通り、人類を滅亡させてリセットする核爆弾なのですよ」

「その警鐘は伝言ゲームで意味を変え、いつしか、親が枕元で子へ伝える童話へと成り果てた」

 

"だから、相容れない相手であり、どちらが相手に止めを刺すかの生存競争だと"

 

「キヴォトスも一枚岩ではありませんので」

 

---

 

「話は戻りますが、先生は私達の仲間として活動してくれますか?」

 

"申し訳ない、その話は受けるわけにはいかない"

 

「……先生、貴方は感情的になり過ぎてはいませんか?」

「相手は貴方からすると見目麗しい女性かもしれませんが」

「そういう形を取っているだけの異世界の化け物です」

 

「利用し、利用されるべきであり、相手が隙を見せれば搾取する、そういう関係であるべき」

 

"私は……報酬の為だけに連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの先生を引き受けた訳では無い……"

"教職員を志したのも、こんな私でも、見捨てず見守ってくれた大人に感謝し憧れたからだ"

 

"目の前に一生懸命に今を生き、考え、迷い、前へ進む子供が居るのなら"

"側で励まし、支え、共に歩む"

"だから大人として、生徒達を裏切る事は出来ない"

 

「……そうですか」

「では先生、あなたにも力があれば……そう感じた言葉ありませんか?」

 

そう言いながら、1枚のカードを取り出す

 

"それはどういう……クレジットカード……?"

 

「ええ、クレジットカードです」

「ですが、それは一つの側面に過ぎません」

「これは生徒達のように神秘にアクセスし、信用取引の下に人造の奇跡を起こす事が出来ます」

 

「例えば、ベッドに横たわっている生徒会長を治癒させ、叩き起こすくらいでしたら造作もありません」

 

……!?

 

「クックック……急に顔付きが変わりましたね」

「ですが、一度話を最後まで聞いてください」

 

「これは信用取引……いかなる手段でも代償の踏み倒しは出来ません」

「例えタイムリープの能力を使ったとしても……」

「いえ、こちらは検証不足ですね、一度軽い願いで試して見ることを推奨します」

 

「そして、起こす奇跡に応じた代償が課せられます」

「例えば生徒の治癒ですと、寿命やあなた自身への怪我の置換でしょうか」

 

「ですがキヴォトスの頑丈な生徒ですらこの重傷」

「先生への置換だとすれば……」

「そのまま即死する危険性も考慮するべきでしょう」

 

「我々はこのカードを大人のカードと呼んでいます」

「社会的な信用の無い人間、つまりホームレスや生徒では発動すらさせられないことを確認しております」

 

"それで、その大人のカードの話をし始めたのはどうして?"

 

「クックック……」

 

「このカードを無償でお譲りしようかと思いまして」

 

あり得ない、相手は血も涙もないビジネスマンで、口約束で世界を滅亡させようとする狂人だ

タダほど高いものはないという言葉が頭を過ぎる

 

"その目的は?"

 

「単純な事です、私にはキヴォトスなんてどうでも良いからですよ」

 

「我々は神秘の探求者です」

「確かにキヴォトスに貯蔵されておる神秘の量が多く、また、それを多く内包する興味深い生物、それらを求めて移住してきました」

 

「ですが、わざわざ代償を支払ってまでしがみつく程の価値は感じておりません」

「他の世界へ移住しますよ、今までもそうしてきたのですから」

「小鳥遊ホシノは手に入りませんでしたが、別の玩具を手にする事は出来ましたので」

 

"要するに、キヴォトスを大切だと思う人間に、身も心も削ってタダ働きして貰おう"

"それでキヴォトスが救われればラッキー……だと?"

 

「クックックッ」

 

満点と言わんばかりに笑みを深める黒服

 

"そうか……ありがたく受け取るよ"

 

私はその場でカードを掲げて

 

血反吐を吐き、血塗れになりながら崩れ落ちた

 

薄れゆく意識の中で、耳障りな声で嗤う胡散臭い大人の声がやけに耳に残った




難産でした

黒服がやってきて、私はキヴォトスから逃げますさようなら
このついでで大人のカードを貰って死に戻るだけの話の筈ですが
どうしてこんな文字数になってしまったのだ……

アリスが名もなき神々の王女として目覚めるバッドエンドスチルには、黒服らしき手が彼女を抱き抱えてるとも解釈出来るらしいんすよね

それによって細かい台詞の整合性をとったら大惨事に……
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