渡された白い端末を観察する
タブレット端末は日本の学習課程でも採用され始めている
私は教職員という以前にゲームやPCを触るオタクなので、こういったデバイスもある程度は扱えはする
「この端末はシッテムの箱、オーパーツの一つです」
"オーパーツか……敵は神話をモチーフとした怪物や神、現象達だったね"
「ええ、例えば旧約聖書に出てくるノアの方舟」
「そういった類の物を指して私達はオーパーツと呼んでいます」
聖書の中身は、悪意のある言い方をすれば想像豊かな人間が創り上げたファンタジー小説でしかない
しかし、このキヴォトスでは実物として多数存在している
我々の祖先はキヴォトスから見聞きした情報を元に聖書として記したのかも知れない……
そんな話は偉い人に任せよう
電源スイッチらしきものは……これか
画面が点灯し、システム起動メッセージが流れ……
そして紫色の画面に切り替わる
"システムパスワードをご入力ください?"
「先生にも起動出来ましたね」
「起動パスワードは……」
──我々は望む、ジェリコの嘆きを。
──我々は覚えている、七つの古則を。
"ジェリコの嘆き?七つの古則……?"
「シッテムやジェリコは旧約聖書に出てくる都市の名前です」
「シッテム都市で作られた契約の箱を携え、角笛を吹くと、ジェリコの都市の外壁は崩れ落ち、民は皆殺しにされたそうです」
"それは……酷いね……"
「七つの古則とはキヴォトスに伝わる禅問答のような問いかけです」
「禅問答と言っても、転じて出来た噛み合わないよく分からない会話の方の意味で……」
「好きなんですよ……」
「答えのない問い掛けに私の想いを馳せたり」
「この問答を作った人は何と返して欲しかったのかを考えるのが」
寂しそうな笑顔……
ふと、彼女の半生が伝わってくる気がした
彼女は過去に戻る事が出来る
私が任意で過去に戻れるならば
例えば競馬で大儲けして、それを元手に株の売買で億万長者になるだろう
そして、一通り豪遊した末に、虚しくなって無かった事にするのかもしれない
次に来るのは名声か?
どんな試験でも、後から答えを調べて当日に戻れば余裕の満点
実務ですらカンニングの後出しジャンケンが出来るのだから余裕だ
やはり何処かで虚しくなり、無かった事にしたのだろう
そうして、暇を持て余して答えの無い難問に取り掛かる
彼女が生きる意味は、程々の権力と詰み盤面を与えられた連邦生徒会長
そこまで考えが至ると
控え目に微笑む少女はずっと脆く、儚い存在に見えた気がした
でも何も知らない私が訳知り顔で語っても響く事はない
長い共闘の中で少しずつ彼女を知っていこう
"そっか……"
一言だけ返して、教えてもらったパスワードを復唱する
──シッテムの箱へようこそ、新規ユーザー様
──生体認証及び証明書生成のため
──メインオペレートシステムA.R.O.N.Aに変換します
"A.R.O.N.A……君の名前だね?"
「はい、Augmented Reality Operating Navigator Arona」
「拡張現実ARを実現するナビゲーター」
「それに私の頭文字を乗せてA.R.O.N.Aとしました」
再帰的頭字語という奴だな
"ふふ、洒落た名前だね"
そう返すと頬を染める
「はい……ありがとうございます」
「シッテムの箱は多少の改造を施してあります」
「OSにはカーネルという核の部分がありますが」
「ここを変更する事は制作者以外にはほぼ不可能……」
「それとは別にシェルと呼ばれる翻訳機がありまして」
「人はシェルを操り、カーネルへ命令を伝える事が出来ます」
「今日のPCは全てこのような仕組みで動作しています」
"シッテムの箱も、古代の遺産とはいえ、同じロジックでシステムを構築した……"
「そういう事です」
「A.R.O.N.Aは私が時間をかけて作り込んだシェル」
「それを私達でも扱えるように元から存在していたシェルと交換しています」
そういえばPCオタクの友人が言ってたっけか?
窓OSのシェルの操作性が悪いから
林檎OS風のシェルに差し替えてやったぜみたいな
あの時はちょっとした操作性の違いで
そんな手間暇かけてまでやるのか?と思ったけど
古代人にしか扱えない過去の遺物を扱う目的でそれをやるのか……
"アロナは凄いね……ありがとう、大変だったでしょ?"
実家に居る歳の離れた妹にするように
半ば無意識でアロナの頭を撫でる
懐かしいな、私が大人になって一人暮らし始めてから
こうして撫でたことは殆ど無かったもんな
「起動完了、ようこそ、新規ユーザー様」
「困惑、新規ユーザー様?……新規ユーザー様?」
"あっ……ごめんね……つい"
端末に呼び掛けられたことで正気に戻り、離れる
嫌そうどころか少し嬉しそうにするアロナが可愛くて
機会を見付けてまたやりたいと思う
シッテムの箱の画面はアロナによく似た
可愛らしい女の子を映し出している
"無彩色のアロナ……?"
「あはは、ミレニアムに発注して出来上がった子がこの子なんです」
なるほど、連邦生徒会で仮装のナビゲーターさんと仕事をする
そのAIナビゲーターの名前はアロナ
となればデフォルメされた無彩色の連邦生徒会長が納品されてくるわけだ
これに関しては予測出来てなかったアロナが悪いな
"アロナそっくりでとても可愛いよ"
顔真っ赤にしてる、可愛いな
"それで、この子には名前はある?"
「肯定、私の名前はプラナです、アロナ先輩から名付けて貰いました」
"アロナ先輩ね……ふふ、私もアロナ先輩の後輩だよ"
"よろしくね、プラナ!"
「ふぇ……こほん、先生!時間が押しているので早く初期手続きを済ませて下さい」
連邦生徒会長の名前はシンプルにアロナとしました
苗字は他の方の考察である白鶴がしっくり来たのですが、多分使わないと思います
A.R.O.N.Aの当て字は半分オリジナルです
先人の知恵ということで暫く検索で探したところ、
有能考察班がAROまでは突き止めて下さっていました
拡張現実のARに、OperatorのO、納得感が強い
後はNとAをどうすんねん?
Nは連邦生徒会長の苗字?それとも名前か?等と考えてましたが
Navigatorにしてしまって、Operating Navigator
私の本職はWebプログラマーですが
本場アメリカでは頭文字を取ったサービスやプロダクトがゴロゴロ出て来ます
例えばPHPの略称は「PHP is Hypertext Preprosessor」
ここから再帰的頭字語というアイデアを貰い
最後のAを連邦生徒会長の名前であるAronaで埋める事を考えました
ここまでドヤ顔で語っておきながら違ってたら恥ずかしいですね
起動パスワードですが、調べたら意外な事がわかりました
プロローグで先生が口ずさんだパスワードと
プレナパテスが口にしたパスワードはジェリコと七つの部分が逆なんですね
しかもwiki考察の見解を元にすると
ジェリコは都市らしく、古則・問答とは関係ありません
つまりワードの繋がり的にはプレナパテス版の方が正しい?
一応元ネタであるヨシュア記の6章によると
エリコ(ジェリコ町)に攻め込む時に、7人の司祭が7日間町を巡って、7本のラッパを吹き鳴らしなさいという記述があります
7というワードはジェリコ攻めのルールを指している、という所から出て来たのだとすれば、一応逆でも成立しそうな気がしますね。
ただまぁ、生徒会長から初回先生に伝えられるパスワードはプレナパテス版としました
誰が何時、何処で起動パスワードを入れ替えた?理由は?
これがタダのミスでないならば重大な理由が隠されていそうですよね
エタらずこの下りを書けるよう頑張ります