はじめてのキヴォトス   作:みやびさん

8 / 22
顔繋ぎ

──シャーレ・執務室

 

紙が擦れる音とペンが髪を引っ掻く音で執務室が満たされる

私とアロナの2人が鬼気迫る顔で書類を片付けている

アロナの手なんて残像が出来るレベルで動いている、これが超人の仕事だ

 

「はい、スプリントおしまーい♪」

 

まだ書類の山は残っているにも関わらず

アロナは仕事を放棄して立ち上がってしまう

 

こうなっては私だけが作業を続けても無駄だ

大きく背伸びをしてから、一番上にある書類を手にして内容をのんびりと読み始める

 

「ちいずっ、ちいずっ!ちいずけーき嬉しいなっと♪」

 

まだ数週間の付き合いではあるが

アロナはオフでは口調がガラリと変わる事がわかった

今も変な歌を歌いながら冷蔵庫へスキップしていくのがそれだ

 

程なくしてトリニティの某有名ケーキ屋で買ってきた

お高いレアチーズケーキの乗ったお皿を2つ持ってくる

 

"私はもう要らないから、アロナが食べていいよ"

 

「そぉ?それじゃ遠慮なくいただきます♪」

 

大口を開けてケーキを頬張る

普通もっと少しずつフォークで切って大事に味わうと思うんだけどな……

いつの間にか用意していた苺牛乳でお口をリセットして二皿目に飛び掛かる

 

まぁいいか、これでもう4回目だし

 

そう、最初の凄まじい仕事の速度はタイムリープを利用したズルだったのだ

 

アロナは完璧超人に見えるが

好きでは無い仕事には全く興味がわかず集中力が持続しない欠点があった

 

それでも片付けなければならない仕事はあるものだ

アロナはそういった仕事に対しては5分だけ一気に作業を行い

都度おやつやジュース休憩を挟む

 

しかもその後はソファーやお布団で何十分もゴロゴロして

十分に満足したら続きの予習を行った後に時間を巻き戻して無かったことにしている

 

すると傍から見て何十分でも集中力が持続し

鬼気迫る速度で仕事を片付ける完璧超人の出来上がりだ

ついでに用意したオヤツは他の生徒に押し付ければ自分に付く贅肉対策にもなる

あれだけバクバクと飲み食いし散らかしておきながら

 

聞いた話によると普段はモモカなる生徒の好みに合わせて

明太子チップスをおやつ休憩のお供にしているようだ

 

そんなアロナのおやつ休憩の次が問題だ

 

「よっこいしょ」

 

私の膝の上に腰掛けて頭を撫でろと迫ってくる

お前ソファーやベッドでだらけるんじゃないのか

 

"はぁ……我儘なお姫様だね……"

 

「なぁに?嫌なの……?」

 

上目遣いで頬を膨らませてくる

 

どうも、普段の書類業務の休憩時間は他の生徒には絡まないらしい

理由を聞くと、毎回寸分違わず同じ言動を返されたらどう思う?と質問が返ってきた

 

その場面を想像するだけでゲンナリするな

そりゃ精神病むわ、質問が悪かったなと頭を撫でる

 

「だからね、あなたとこうしてる時間が新鮮で心地良いの……」

 

しょうがないな……

 

しょうがなくないわ

日本に居れば男も女も振り返る美少女が

良い匂いを撒き散らしながら、男の膝に腰掛けて胸元に頭を擦り付けてくるんだぞ?

 

すっかり彼女の色香にやられた副担任が

いつこんにちはしてもおかしくない

無防備な振りして大人を挑発し続けるメスガキにはわからせが必要だ

 

しかし、その決行日は今日ではない

 

今までずっと一人で戦い続けた少女が

こんなに安心したように目を細め、寄りかかってくる光景を見て

誰が危害を加えようと思うのか

 

"いいや?仰せのままに……マイレディ"

 

「ふふ、なにそれ……♪」

 

彼女が椅子から落ちないよう

包み込むように抱き寄せて

もう片手で頭を撫で続けた

 

次のスプリントではお姫様抱っこを命じられた

お菓子を制限しているだけで健啖家なアロナは

出る所は出ていて正直おも……いや何も言うまい

 

脂汗を流しながらアロナを抱き上げ続けたが

これからは毎日筋トレを誓う私だった

 

----

 

どれだけサボっていたんだ……

次の陽が昇る程過ごしていた気がするが

実時間換算ではものの1時間で全て片付いた

 

アロナの肩を揉みながら労っていると、アロナから提案があった

三大マンモス校であるゲヘナ、トリニティ、ミレニアムの

治安維持組織の生徒達と顔繋ぎをしたいとの事だ

 

今はシャーレが発足した直後だから居るけど

数日に一度、週に一度位のペースになるとのこと

まぁ重責が伸し掛かる連邦生徒会長だからね……

 

各校の生徒に公の場で説明する事は以下

・独立連邦捜査部シャーレを作ったこと

・生徒の為に活動するので協力よろしくね

・やってる事を透明化する為に生徒を派遣する当番制度を始めるよ

・当番制度で拘束した分は、お給料としてシャーレの予算から支払うよ

 

なるほどね、アロナが忙しいから

当番制度を使って労働力を捻出するわけか

 

ついでに各学校の事実上のトップ層にも根回ししちゃおうと

流石はアロナ、卒がない

 

----

 

その日の内にというのは無理だったが、

数日後、私達が最初に訪問したゲヘナでは行政官のアコに会った

心底嫌そうに対応する姿が印象的だった

 

話す内に次第に真面目に考え込む姿勢を見せていき、

当番として派遣する生徒としてチナツを紹介してもらった

 

チナツは愛想よくはしてくれるものの

これは疲労が積み重なっているな

教育現場もモンスターペアレントややたら高い平均点のノルマに疲弊していたしな……

何処も同じなんかね……いやだいやだ

 

これは私達がどうのじゃなくて

何か別の要因で二人とも疲れていそうだな……

余計な事はすんなよ?と視線で釘を刺す姿が印象深かった

 

----

 

その次にトリニティへ向かった訳だが

対応してくれた正義実現委員会のハスミは露骨に機嫌が悪かった

どうも彼女は筋金入りのゲヘナ嫌いで

先にゲヘナへ挨拶しにいった事が気に食わなかったらしい

 

会話の中で少し溜飲を下げたのか

ハスミ本人が当番要員として来てくれる事になった

 

流石お嬢様学校のトリニティ

おやつに関しては人一倍注文が多かった

おやつだけで済んだのは不幸中の幸いかもしれない

 

----

 

トリニティ訪問の帰りにコンビニへ寄った所、

スケバンに絡まれ閃光弾を携えた少女に助けられた

 

ブチ切れたアロナに殴られる前に済んで良かったね

ゴリラパンチでヘイロー割れてたかもしれないね

縛られたままヘッドホンを被せられ、大音量で音楽を聴かせ続けられる拷問とどちらがマシだったのかは分からない

 

彼女に光る素質を感じた私達は口説いて

当番のローテーションに加える事に成功した

 

非公認な部活であるトリニティ自警団は活動資金の面で心細く

シャーレの当番制でまとまった金額が貰えるのであれば願ったり叶ったりだと快諾してくれた

 

----

 

──ミレニアム・応接室

 

「ミレニアムにようこそ、連邦生徒会長」

「そして……先生はじめまして、セミナーの早瀬ユウカです」

 

「同じく、生塩ノアと申します」

 

にこやかに礼儀正しくお辞儀される

こんなに好意的に挨拶されたのはキヴォトスに来て初めてかもしれない!

 

……

 

「独立連邦捜査部シャーレ……」

「権限が強過ぎて抗議が必要かと危惧していましたが」

「確かに連邦生徒会では仲裁が難しい問題もありましたね、合点がいきました」

 

「あなたのような方であれば協力もやぶさかではありません」

「言ってる事とやってる事が一致している間は……ですが」

 

鋭い眼光で釘を刺される

流石は生徒会の幹部として任される人物である

 

きっと「ものすごいプラスになるやつだ」等という

中身の無い感想を言う事のない、隙の無い人物なのだろう

 

"決して失望させないと誓うよ"

 

初めてユウカを当番に呼んだその日の内に、

別の意味で失望されてしまったのは秘密にしておこう

 

「当番制に関しても承知しました」

「出来たばかりの組織と言うことで、裁量があり、事務手続きに慣れた生徒が必要でしょう」

 

少し手を口元に当てて思案した後

 

「暫くの間は私が承ります」

 

"ありがとう!助かるよ!!"

 

ユウカと握手を交わす

 

「あっ!ユウカちゃん!そして先生、暫くそのままでよろしいですか?」

「校内新聞の為に写真を撮りたいのです」

 

「ちょっと!ノア!?」

 

なるほど

まだシャーレは連邦生徒会が作った謎の組織だ

イメージ払拭の為に生徒会役員との握手の写真を使うのは良い案かもしれない

 

"ありがとう、良い写真映りのモノを頼むよ!"




原作ブルーアーカイブでは特定生徒に対して
お姫様というワードを使って居ますが
連邦生徒会長が主役のSSなら彼女をお姫様にしてチヤホヤすべきですよね!!

彼女を忘れてしまったかもしれない原作先生は
もしかするとセリカやミカをお姫様呼びしたかも知れませんが
本先生はどういう選択肢を取るのでしょうね

先生の私達には出来ない立派なとこだよな〜と感じてる点の一つが
どんな金持ちでも、才能がある天才でも、能力があっても
理解を示して寄り添えることです

タイムリープを自在に操る化け物なんて絶対に理解出来ないし
羨ましいだけだし、絶対に寄り添えねえよ!
それでも、彼女がどう育ってどんな思いをし続けたんだろう
頭を捻り、空想しながら書いてます、正直めっちゃ楽しい

本SSの連邦生徒会長ちゃんがチョロく可愛い理由付けはある程度出来たかなと思います
本物はどうなんでしょうね?
可愛くて守って上げたくなる健気な子なのは間違いなさそうですね

さて、今回のSSではプロローグをRABBIT小隊と組む事で
原作で組んだユウカ、ハスミ、スズミ、チナツとは縁が切れてしまいました
そのフォローとして、シャーレの治安維持の一環として3校わ訪れて縁を繋ぐというエピソードを追加しました

いっつも貧乏くじを引かされるユウカ
アコに命令されて仕方なく訪れそうなチナツの2人はともかく
ハスミとスズミが連邦生徒会に押し掛ける姿は考え辛いですね

イチカあたりがやって来る方が自然だと思います
ただイチカは初期実装組には居なかったのでメンツの都合で
あまり深く考えずにハスミやスズミを捩じ込んだのかも知れんませんがね

なおユウカは1周目でも弄られてしまう模様

さて、次回からはアビドス対策編に入ります
原作周回でもあの塩対応なのに、初回だなんてどうなっちゃうの?
お楽しみに
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。