シャーレの五条先生   作:未来跳躍

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プロローグ
プロローグ


2018年12月24日 東京・新宿。

 

今、この都市は戦場となっている。

ビルは崩れ、街は破壊され、新宿の街並みは見るも無惨な姿へと変わり果てた。

この惨状はたった2人の男たちによって起こされた事は、一般の人々は知る由もないだろう。

そして、今、この新宿での大きな戦いが決着を迎えた。

一人の最強の敗北によって――。

 

「天晴れだ、五条悟。生涯貴様を忘れることはないだろう」

 

史上最強の呪術師、両面宿儺が語るは今はもう言葉を発することのない現代最強の呪術師。

五条悟死亡。

今ここに最強の男はこの世を去った。

ここから紡がれるのは、亡くなった男の先の物語。

 

 

 

(…ここは―?)

 

五条悟が目を覚ました時、その目の前には知らない光景が映し出された。

そこは電車の車内のようだった。自分は電車の席に深く座り込んでおり、体も動かせず、声も出せなかった。頭の中にずっと霞がかかった朧げな意識のまま目の前から声が聞こえた。

 

「私のミスでした…」

 

声の主は少女のようだった。

霞む視界の中で自分の目の前の座席に一人の少女が座っているのが分かった。しかし、今の彼には彼女がだれなのか思い出すこともできない。

そんな自分を前に少女は言葉を続ける。

 

「私の選択。そしてそれによって招かれたこのすべての状況。結局この状況にたどり着いて、あなたに頼らなくなってしまう私の未熟さをお許しください」

 

頭の中に存在しない記憶が流れこんで来る。頭が割れるような激しい頭痛に襲われる。

 

「今更図々しいですが、お願いします。五条先生。

 きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。

 何も思い出せなくても、あなたならきっと大丈夫です。

 あなたなら、正しい選択を選ぶと思いますから。

 大人としての責任と選択を――。

 あなたならこの捻じれて歪んだ先の終着点とは違う結果にたどり着けると信じています。

 だから、先生どうか…」

 

列車が急に揺れて五条の体は座席から落とされる。そのまま、彼の意識は深い闇へと落ちていった。

 

 

 

「…い。先生、起きてください。五条先生!!」

 

誰かに体を揺すられて、五条の意識は起きていった。

 

「あれ、ここは…?」

 

目を覚まして目にかけた黒い目隠しを持ち上げて、自分を起こした声の主へと目を向けた。

そこにいたのは白い制服を身に纏った聡明そうな少女だった。

 

「少々待ってくださいとお伝えしたのに、お疲れだったのですね。

 なかなか起きないくらい熟睡されてましたよ。

 …夢でも見ていたのですか?ちゃんと目を覚まして、集中してください」

 

「あ、あぁ…。ごめん――って、誰だっけ?」

 

「そう言えば、自己紹介がまだでしたね。

 私は七神リン、学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です。

 そして、あなたが私たちがここに呼び出した先生なんですよね?」

 

「いや、疑問形で言われても僕にはどうも言えないんだよね」

 

ケラケラと笑いながら軽口をたたく五条にリンは軽く咳払いをする。

 

「すいません。疑問形なのは、私たちも先生がここに来た経緯を詳しく知らないからです」

 

「えっ!?そうなの?」

 

「はい。混乱されるのは分かりますが、とりあえずついてきてください。

 話は移動しながらでも――」

 

そう言われた五条は椅子から立ち上がり、リンの後へと歩いて行った。

エレベーターに乗り込み、上に上がっていくと窓から街の全貌が眺められた。

 

「さて、まずは『キヴォトス』へようこそ。先生。

 キヴォトスは数千の学園が集まっている巨大な学園都市です。これから先生が働くところでもあります。

 先生のいらっしゃったところとは色々と違っていて、慣れるまで苦労するかもしれませんが、先生なら心配しなくてもいいでしょう。

 あの連邦生徒会長が、お選びになった方ですからね」

 

「へぇ。そりゃ光栄だね。

 でも、僕を呼ぶってことは今かなり大変な状況っぽいね。ここからでも揉めてるのがいくつも見えるしね」

 

エレベーターから街を見下ろす五条の言葉に、リンはため息をつく。

 

「流石ですね。ええ、そうです。今、このキヴォトスは存続の命運をかけた大事な局面に立たされています。

 それを止めるために先生には――」

 

リンの言葉を遮るようにエレベーターの電子音が鳴り、扉は開いた。

二人はエレベーターから降りてレセプションルームに出たその瞬間――。

 

「ちょっと待って!代行!見つけた、待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!」

 

一人の少女が大きな声で叫びながら、こちらへと走ってきた。その後ろから三人の少女たちも最初の少女と同じようにこちらへと駆け寄ってきた。

 

「早くこの混乱を何とかしなさいよ!連邦生徒会でしょ!この前なんかうちの風力発電所がシャットダウンしたんだから!」

 

「連邦生徒会長に会いに来ました。矯正局で停学中の生徒が脱走したとも聞きます。風紀委員長がこの状況について納得のいく説明を求めています」

 

「スケバンのような不良たちがうちの生徒たちを襲う頻度が急激に上がって、治安の維持が難しくなっています」

 

「他にも違法な武器や出所が不明な戦車やヘリコプターが不法流出しています。

 これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」

 

一斉に四人の女生徒たちがリンに詰め寄って猛抗議の嵐を浴びせる。

リンは深くため息をついて、顔を上げると事務的な口調で口を開いた。

 

「あぁ。面倒な方々に捕まってしまいましたね。

 こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会その他時間の持て余している皆さん」

 

リンの辛口な言葉と嫌そうな顔に五条は後ろでニヤニヤと楽しそうに笑う。そんな彼を無視して少女たちはリンに詰め寄る。

 

「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの?どうして何週間も姿を見せないの?今すぐ合わせて!」

 

青髪の少女の言葉にリンは眼鏡を直して静かに口を開いた。

 

「……連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言うと、行方不明になりました」

 

その言葉を聞いて少女たちはざわつきだす。

 

「結論から言うと、『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。

 認証を迂回できる方法を探していましたが……先ほどまで、そのような方法は見つかっておりませんでした」

 

リンの言葉に黒髪の背高の少女が反応する。

 

「それでは、今は方法があるということですか、首席行政官?」

 

その問いかけにリンはコクリと頷いた。

 

「はい。この先生が、フィクサーになってくれるはずです」

 

「「「「!?」」」」

 

「えっ。僕?」

 

リンが五条へと手向けると少女たちはいっせいに彼へと目を遣る。

 

「ちょっと待って。そういえばこの先生はどなた?どうしてここにいるの?」

 

「キヴォトスではないところからきた方のようですが……先生だったのですね」

 

「ええ。こちらの五条先生は、これからキヴォトスで働くかたであり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です」

 

リンに持ち上げられた五条は謎にキメ顔で彼女たちの方へ向く。

 

「行方不明になった連邦生徒会長が指名……?ますますこんがらがってきたじゃない」

 

頭を抱える青髪の少女を前に、五条は挨拶をする。

 

「ヤッホー!僕は五条悟。このキヴォトスの先生さ。よろしくね」

 

軽く手を振る彼を前に、青髪の少女は慌てた様子で返す。

 

「こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの――」

 

「そのうるさい方は気にしなくていいです。話を続けましょう」

 

「誰がうるさいって!私は早瀬ユウカ!覚えておいてください、先生!」

 

ユウカが挨拶をしたのを皮切りに他の生徒たちも挨拶を返す。

 

「ゲヘナ学園風紀委員会の火宮チナツです」

 

「トリニティ総合学園、正義実現委員会の羽川ハスミと申します」

 

「同じくトリニティ自警団の守月スズミです。よろしくお願いします」

 

「よろしくね~」

 

五条は軽く返すと、リンの咳払いとともに彼女の説明を続けた。

 

「先生は連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました」

 

「部活?」

 

そういう五条の言葉にリンは静かにうなずく。

 

「連邦捜査部『シャーレ』

 単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒たちを、制限なく加入させることすらも可能で、各学園の自治区で、制約無しに戦闘活動を行うことも可能です」

 

「そりゃまた、すごいね」

 

「ここから30㎞ほど離れた外郭地区にシャーレの部室があります。そこの地下に『とある物』が連邦生徒会長の命令で持ち込まれています」

 

リンはスマホを取り出して電話をかける。

 

「モモカ、これからシャーレに向かうからヘリを用意してもらえないかしら」

 

『え。あそこは今、矯正局を脱走した生徒たちが押しかけて暴動起こしてるよ。どうやら連邦生徒会がシャーレに大事なものを隠したと言う噂を聞きつけて大騒ぎだよ。

 あっ、先輩、そろそろお昼のデリバリーが来たからまた連絡するね』

 

そういわれて、一方的に通話を切られたリンは静かに震えていた。

 

「大変そうだね~」

 

「だ、大丈夫です…。少々問題が発生しましたが、大したことではありません」

 

まるで他人事のような五条の自然な煽りにも怒りを抑えて笑顔でいようとする。

深呼吸を数回したリンはユウカたちの方へ向き直り、素敵な笑顔で口を開いた。

 

「なぜなら、ここには時間を持て余している優秀な生徒たちがいるのですから」

 

「「「「……え?」」」」

 

 

 

 

D.U.外郭地区・シャーレ部室付近

 

「な、なんでこんなことになっているのよー!!」

 

爆撃音が鳴り続く激震地のど真ん中でユウカの叫びが寂しく響いた。

 

「仕方ありません。サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためにも、シャーレの部室の奪還は必要なのですから」

 

「それはそうなんだけど…。私これでも、うちの学校の生徒会に所属していて、それなりの扱いなんだけど!なんで私が……!」

 

後ろからチナツに慰められるが、納得できないのか一人文句を言う。

 

「口より先に手を動かしてください。私たちがやるしかないのですから」

 

「大丈夫ですよ。この程度の相手なら私たちでやれます」

 

ハスミとスズミもライフルを構えて暴徒たちとの銃撃戦に応戦する。

その様子を五条は後ろで悠々と見学している。

 

「先生はこちらに。キヴォトスの外から来たので、私たちとは違って弾丸一つで生命の危機にさらされるので」

 

「あぁ。大丈夫。僕は後ろで君たちの戦いを見せてもらうから」

 

「でも…」

 

「ほらほら。今はそんなこと言ってる場合じゃないんじゃない?前見てないとあぶないよ」

 

余裕の笑みの五条に彼女たちは困惑する。

彼に指摘されて、前の暴徒たちの方に向き直り、武器を構えて彼女たちは前進する。

その戦いを見ていて五条は考える。

 

(弾は本物だね。でも彼女たちには数発程度なら命中してもそこまでのダメージにはなってなさそうだ。

 このキヴォトスでは喧嘩で銃撃戦が起こるらしいし、僕の知ってる常識とは根本的に違うっぽいね。

 なるほど。頑強さだけではなく、膂力も個人差はあれど僕のいた世界の人間より上っぽいね。

 これは――)

 

「面白くなってきた」

 

これから教える生徒たちのまだ見ぬポテンシャルに、彼の中の教育者としての血がうずいて笑みがこぼれる。

そんな五条の不敵な笑みなぞ知らずに、ユウカたちはシャーレのビルの前までやって来れた。

それと同時にリンからの通信が入ってきた。

 

『今、この騒ぎを起こした生徒の正体が判明しました。

 ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。

 似たような前科がいくつもある危険な人物なので、気を付けてください』

 

リンの通信のあった同刻、シャーレの入り口にたどり着いたワカモはあたりを見渡す。

 

「あらら。連邦生徒会はまだ来てないみたいですね。

 この建物に何があるかは存じませんが、連邦生徒会が大事にしている物があるというなら…壊さないとですね。うふふ」

 

そうして優雅に愉しそうな足取りで彼女はシャーレのビルの中に入っていった。

 

 

 

あれから、まだまだ立ちふさがる暴徒たちを相手したユウカたちもシャーレのビルの入り口前まで到達する。

 

「よし!建物の入り口に到着!

 さっさと、中に――」

 

ユウカの声遮る大きな轟音ともに現れたのは――。

 

「気をつけてください!巡航戦車です……!」

 

「おそらく不法に流通された物を不良たちが買い取ったのでしょう」

 

「つまりガラクタってことだから、壊しても構わないわね!行くわよ!!」

 

「「「はい!」」」

 

巡航戦車との戦いに突入したユウカたちだが、その後ろにいる五条はというと――。

 

(なんか暇になってきたな~。普通に考えたら戦車と戦うなんてありえないけど、ここまでの道中の戦いを見る限りユウカたちでも問題はなさそうだし、マジで飽きてきたな~)

 

退屈になっていた。

考えた結果、彼は近くにいたチナツに声をかける。

 

「チナツ」

 

「な、なんでしょうか?先生」

 

「僕、暇になったから先に行くね♪それじゃ、あのデカブツは任せたから!」

 

「……えっ!?先生!?」

 

困惑するチナツを余所に五条はその場から姿を消した。

こうして、この男は生徒を置いて一人だけ先にシャーレのビルに入っていった。

 

 

 

シャーレ・建物の地下

 

「うーん……これが一体何なのか、まったく分かりませんね。これでは壊そうにも……」

 

ワカモは考えていた。シャーレに侵入しこの地下まで来れたまではいいが、その地下の部屋に置いてあったこれが本当に連邦生徒会が隠した大事な物なのかは分からなかった。

試しに色々と触ってはいるが、何の反応もしない。もうこれはただのガラクタなんじゃないかと思い始めたその時――。

 

「……あら?」

 

背後に感じた気配に振り替えると、そこには五条の姿があった。

 

「や!」

 

手を振り上げてあいさつする五条だったが、正直感嘆していた。気配を消すのが得意な彼はよく人の背後に立って驚かすのが好きだったが、まさか部屋に入った瞬間に気づかれるとは思っていなかった。

おそらくこの目の前にいる狐面の少女がこの騒動の首謀者であるワカモだと思うのだが、一目見ただけで分かるのがこの少女の強さ。

この場にユウカたちがいないことが幸運だっただろう。もしも今この場で彼女たち四人が一斉にかかっても、無事では済まないだろうと確信するほどの強さを彼女は持っている。

そして、そのことに五条は少し心が躍っていた。

 

「……」

 

ワカモは動かない。

もしここで彼女が襲い掛かってきたなら、軽く相手はできるので特に警戒はしていないが、どうしようかと考えていると――。

 

「し、し……。

 失礼いたしましたー!!」

 

ワカモは慌てて部屋を飛び出して行ってしまった。

彼女の予想外の行動に、五条も呆気にとられてしまった。

 

 

 

それから、少ししてリンが部屋に入ってきた。

 

「お待たせしました。

 ……?何かありましたか?」

 

「いや、別に」

 

「……そうですか。ではこれを」

 

そういってリンは先ほどワカモが持っていた白い板状の物を差し出す。

 

「……受け取ってください」

 

「タブレット端末かい?」

 

「はい。これが、連邦生徒会長が先生に残した物。

 『シッテムの箱』です」

 

初めて聞くはずの名前なのに、どこか懐かしさを感じる。

 

「連邦生徒会長は、この『シッテムの箱』でタワーの制御権を取り戻せると言っていました。

 我々には起動させることはできませんでした。しかし、先生ならこれを起動させられるはずです。

 私にできることはここまでです。先生、あとはお願いします」

 

そう言われて、五条は『シッテムの箱』を受け取る。

リンは部屋から出ていき、一人残された五条は『シッテムの箱』の電源ボタンを押す。すると、画面が付きそこには『シッテム接続パスワードをご入力ください』と出た。

初めて触るタブレットのパスワードなぞ知るはずがないのだが、彼は頭に思い浮かんだ言葉を入力した。

 

『……我々は望む、七つの嘆きを。

 ……我々は覚えている、ジェリコの古則を。』

 

そう入力すると、『シッテムの箱』から光が溢れて彼の体を包む。

次の瞬間、彼の見る景色は先ほどの地下室から見たことない教室が映し出されていた。

 

「これは……」

 

五条は机に突っ伏して眠っている一人の少女を見つけると近づいてみる。

少女は気持ち良さそうに寝息を立てて眠っていた。

 

「むにゃ、カステラにはぁ…イチゴミルクより…バナナミルクのほうが…。Zzz……。

 えへっ……まだたくさんありますよぉ……」

 

どうやら幸せな夢を見ているようだが、ここは心を鬼にして起こしてあげなければならない。

決して、自分を放って寝ている目の前の少女がムカつくなんてことはない。断じてない。

 

「必殺、マジデコピン」

 

スヤスヤと眠る少女の額に狙いを定めて、中指を親指で抑えて力を溜めて一気に放つデコピンを炸裂させる。

 

「うひゃあっ!」

 

パチンと音と共に少女は飛び上がった。額を抑えてあたりをを見渡して五条と目が合った。

 

「えっ!?せ、先生!?

 この空間に入ってきたっていうことは、ま、ま、まさか五条先生……?!」

 

「そうだよ」

 

五条がそう答えると、少女は慌てて立ち上がる。

 

「う、うわあ!えっ、えっと、そうだ!まず自己紹介から!

 私はアロナ。この『シッテムの箱』に常駐しているシステム管理者であり、メインOS、そしてこれからせんせいをアシストする秘書です!

 やっと会うことができました!私はここで先生をずっと、ずーっと待っていました!」

 

「えー。寝てたんじゃないの?」

 

「あ、あうう……も、もちろんたまに居眠りしたりしたこともあるけど……」

 

「ま、いいや。よろしくね」

 

「はい!よろしくお願いします!

 まだ身体のバージョンが低い状態でして、色々と調整が必要なのですが……。

 これから先、頑張って先生のことを色々とサポートしていきますね!」

 

アロナの頑張る意気込みに五条はなんか父性のようなものを感じて笑みが浮かべる。

 

「あ、そうだ!ではまず、形式的ではありますが、生体認証を行います。

 うう……。少し恥ずかしいですが、こちらに来てください」

 

なぜか恥ずかしそうにするアロナに言われて、五条は近づいていく。

そしてアロナは五条に向けて人差し指を向けた。

 

「さあ、この私の指に、先生の指を当ててください」

 

そう言われて、五条は同じく指をアロナの指に重ねる。

 

「これで先生の指紋を確認するのです。すぐに終わります。こう見えても目はいいので!」

 

自信満々に胸を張るアロナだが――。

 

(うーん……よく見えないかも……。

 ……まあ、これでいいですかね?)

 

適当に生体認証を終えてしまった。

 

「…はい!確認終わりました♪」

 

「すごい適当に終わらせたね」

 

五条に指摘されてアロナはビクッとする。

 

「そ、そんなことありません!」

 

慌てるアロナに五条は意地悪な笑みを浮かべる。

 

「最近の機械なら、指紋認証なくらい自動ですぐにできるんだけどな~」

 

「わ、私にはそんな最先端の技術はないですが……。

 そ、そんな能力なくてもアロナは役に立ちますから!?目でも十分確認できますから!」

 

アロナの必死の弁論に五条はニヤニヤと悪い笑みを続ける。

やがて、耐えられなくなったのか涙目になってアロナはプイっといじけてしまう。

 

「ハハっ。ごめんごめん。いやあ、アロナが可愛くてついからかいたくなっただけだよ。

 さてと、そろそろ本題に入ろうか。僕がここに来た目的は、サンクトゥムタワーの制御権のことなんだけど……連邦生徒会長が言うにはこの『シッテムの箱』があれば何とかなるらしいんだけど……」

 

笑いながら謝る五条は、ここに来た目的をアロナに伝える。

 

「なるほど、先生の事情は分かりました。連邦生徒会長が行方不明になって、そのせいでキヴォトスのタワーを制御する手段がなくなった……」

 

「連邦生徒会長のことは知ってるの?」

 

「いえ。私はキヴォトスの情報の多くを知っていますが、連邦生徒会長のことについてはほとんど知りません。

 ですが、サンクトゥムタワーの問題は私が何とか解決できそうです」

 

「じゃあお願いね、アロナ」

 

「はい!分かりました。それでは、サンクトゥムタワーのアクセス権を修復します。少々お待ちください」

 

それから少しして、アロナはこちらに振り返り笑顔で答える。

 

「……サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了…。

 先生。サンクトゥムタワーの制御権無事に回収できました」

 

「おお!早いね!さすがアロナだ!」

 

五条はアロナの頭をわしゃわしゃと乱雑になでる。

 

「ひゃあ!せ、先生!あんまり激しくなでないでください」

 

「え~。いいじゃん!減るもんじゃあるまいし」

 

五条は文句を言いつつもなでる手を止め、アロナは乱れた髪を手で整える。

それから軽く咳払いをした後、再び口を開いた。

 

「今サンクトゥムタワーは、私アロナの統制下にあります。

 先生が承認さえしてくだされば、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管できます」

 

「そう。じゃあ、よろしく」

 

「分かりました。これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管します!

 それでは、五条先生。私にやれることはここまでです」

 

「ありがとね。それじゃ、また。今度はカステラ持ってきてあげるよ」

 

「はい!」

 

そう言って別れを告げると、五条の意識はまた光に包まれた。

 

 

 

意識が戻るとシャーレの地下室にいた。サンクトゥムタワーを取り戻した影響なのか薄暗かった部屋に電気が点いていた。

そして、部屋の外にいたリンが戻ってきた。

 

「お疲れ様です、先生。無事にサンクトゥムタワーの制御権の確保を確認できました。

 キヴォトスの混乱を防いでくれたこと、連邦生徒会を代表して深く感謝いたします。

 最後に連邦捜査部『シャーレ』をご案内いたします」

 

そう言われて、五条はリンの案内の元、シャーレを見回った。

シャーレは思っていた以上に大きく、様々な施設があり、見回るだけでも色々と面白いものがあった。

そして、最後に案内されたのは――。

 

「ここがシャーレの部室。つまり、先生の職場になります」

 

「ほう」

 

中は広く、放置されてたと言う割には奇麗なものだった。

五条は椅子に座り、その座り心地を確かめたりしてみる。

 

「……シャーレは、権限だけはありますが目標のない組織なので、特に何かやらなければいけない……という強制力は存在しません」

 

「えっ!そうなの?」

 

「そうなんです。面白いですよね。

 捜査部とは呼んでいますが、その部分に関しては、連邦生徒会長も特に触れていませんでした。

 とはいえ、今回の件が既にSNSで広がっているようなので、これからシャーレに依頼が舞い込んでくると思います。恥ずかしながら、本来は我々連邦生徒会が対応しなければならないのですが、今は行方不明の連邦生徒会長の捜索で手がいっぱいなのです」

 

「大丈夫。僕のやることはすでに理解はしたよ。GTG(グレートティーチャー五条)は困ってる生徒を見捨てないのさ」

 

親指を立てて自信ありげに返事する五条に、リンは不思議と安心感を覚える。

 

「そうですね。それでは私はこれで。必要な時には、またご連絡いたします」

 

リンは礼をして、部屋を後にする。そして、五条は椅子から立ち上がり、シャーレの入口へと降りていくのだった。ここまで頑張ってくれた生徒たちを労うために――。

 

 

 

「みんなお疲れサマンサー!」

 

「あっ!先生、お疲れ様でした。見てください!もう先生の話題で持ち切りですよ!」

 

シャーレの入り口に降りた五条にユウカはスマホのニュースページを見せてもらった。

そこにはすでに連邦生徒会が立ち上げたシャーレがワカモを撃退したというニュースが書かれていた。

マスコミの速さに感心していると、ハスミとスズミが近づいて五条に会釈と共に挨拶をした。

 

「これでお別れですが、近いうちにぜひ、トリニティ総合学園に立ち寄ってください。先生」

 

ハスミがそう言い、スズミもぺこりと頭を下げて二人は帰っていった。

 

「私も、風紀委員長に今日のことを報告しに戻ります。ゲヘナ学園にいらっしゃった時には、ぜひ訪れてください」

 

「ミレニアムサイエンススクールに来てくだされば、またお会いできるかも?先生、ではまた」

 

チナツとユウカも帰っていき、五条はシャーレのオフィスに戻る。

オフィスに戻ると『シッテムの箱』からアロナの声が聞こえてきた。

「あはは……なんだか慌ただしい感じでしたが……ある程度、落ち着いたみたいですね。お疲れ様でした」

 

「いやあ、大変な初日になったねー」

 

「はい!でも、本当に大変なのは、これからですよ?

 これから先生と一緒に、キヴォトスの生徒たちが直面している問題を解決していくのです……!

 単純に見えても決して簡単ではない……とっても重要なことです。

 それではキヴォトスを、シャーレをよろしくお願いします。先生」

 

「そうだね、でもなんとかなるでしょ」

 

そういう五条は自信満々に不敵な笑みを浮かべて告げる。

 

「だって――。僕、最強だから」

 

 

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