シャーレの五条先生   作:未来跳躍

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便利屋68参上!

アビドス自治区のとある雑居ビルの一画。

その事務所に鳴り響くのは、レトロな黒電話の受話器の音。

そして、一人の女性が優雅に受話器を取り応答する。

 

「はい、便利屋68、陸八魔です。

 ええ、もちろんターゲットの身辺調査から武装組織の撃退までどのような依頼にもお応えします。

 ――分かりました。その依頼、便利屋68にお任せください」

 

 

 

アビドス対策委員会・部室

 

セリカが誘拐された事件の翌日、部室に集まった対策委員会のメンバーと五条。

そこで、アヤネは部室の机の真ん中に金属の塊を置いた。

 

「アヤネ、これって……」

 

「はい。先日、カタカタヘルメット団が使用していた航巡戦車の装甲の一部です。

 確認したところ、現在は使用が禁じられている違法な物でした」

 

カタカタヘルメット団はあくまでチンピラたちの集まりでしかない。

そんな彼女たちがどうして違法な戦車を持っていたのか、そこは五条も気になってはいた。

この世界が五条のいた世界よりも銃器などが気軽に手に入る世界だとしても、戦車となればさすがに学生、ましてや不良のヘルメット団たちが楽に手に入れられるものではない。

セリカを誘拐したことといい、なぜか違法な戦車を数台も保有していることといい、謎は深まるばかり。

なにか手がかりがあればいいのだが、現状ではそれもない。

五条は天を仰いで考えていた。

すると、アヤネが横から尋ねてきた。

 

「先生、どう思いますか」

 

「そうだね……。とにかく、今はこの戦車の流通元を調べるしかないだろうね」

 

「分かりました。この件はここまでです。

 ここから、対策委員会の定例会議を始めます。

 今日は先生がいるので、いつもより真面目にお願いします」

 

「ちょっと!いつもは不真面目みたいじゃない」

 

 

「うへー、よろしくー」

 

不服そうなセリカの横で。ホシノがいつものふにゃっとした笑顔で五条に手を振る。

アヤネは軽く咳払いをすると、定例会議を進める。

 

「さて、本日は私たちにとって重大な問題『学校の負債をどうやって返済する』かについて、議論していきたいと思います。

 ご意見のある方は挙手をお願いします」

 

すると、真っ先にセリカが元気に挙手をした。

 

「はい、1年の黒見さん。どうぞ」

 

「……あのさ、なんで名字で呼ぶの?なんかむず痒いんだけど……」

 

「い、一応、会議だし……」

 

「いいじゃーん、おカタ~い感じで。今日は珍しく先生もいるんだしさー」

 

「ん、珍しくというより初めて」

 

「まあ、委員会っぽくっていいじゃないですか」

 

「委員会っぽいじゃなくて、委員会なんだけど……。

 先輩たちがそう言うならいいか」

 

なんだかホシノたちにいいように丸め込まれた気がしなくもないのだが、これでは話が進まなくなるので、セリカは自分の意見を述べ始める。

 

「対策委員会の会計として、現在我が校の財政状況は破産寸前としか言いようがないわ!

 これまで通り、指名手配犯を捕まえたり、アルバイトするだけじゃ限界があるじゃない。

 だから、ここはこう……一発でっかく狙わないと!」

 

「……でっかく?」

 

首をかしげる五条に、セリカは自信満々の笑みで懐からある一枚の紙を取り出す。

 

「ふふーん。ずばり、これよ!!」

 

そこに書かれていたのは『幸運を呼ぶゲルマニウムブレスレット!これを身に着ければ、健康と豊かさがその手に!今なら3人紹介すれば手数料無料!』と書かれたチラシだった。

ドヤ顔で胸を張るセリカに、ホシノが一言告げる。

 

「却下ー」

 

「……え?」

 

呆けるセリカにアヤネが説明する。

 

「せ、セリカちゃん……それ、悪質商法だから」

 

「儲かるわけがない」

 

「えぇーーーーっ!?」

 

絶叫したセリカはチラシを離して、糸が切れたかのように椅子に座り込む。

 

「そ、そんなぁ……。私、2個も買っちゃたのに……」

 

「セリカちゃん、騙されちゃいましたね。可愛いです☆」

 

ショックのあまり机に突っ伏して動かなくなったセリカの右手首に輝く2つのゲルマニウムブレスレット。

落ち込むセリカを五条は笑いながらスマートフォンのカメラでカシャッと写真を撮っていた。

 

「さてと、セリカが世間知らずなことを露呈しただけに終わったけど、次に意見はないの?」

 

「はーい」

 

五条がそう言うと、次に手を挙げたのはホシノだった。

 

「あっ!はい、3年の小鳥遊ホシノ委員長。……嫌な予感しかしない」

 

「うむうむ。我が校の一番の問題は全校生徒がここにいる数人だけってことなんだよねー。

 生徒の数イコール学校の力。トリニティやゲヘナみたいに生徒数を桁違いに増やせれば、それだけ学校に入ってくるお金も増えるってわけ」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「そうだよ、アヤネちゃん。それに、生徒数が増えれば我が校から議員も輩出できて、連邦生徒会での発言権も与えられる」

 

そう力説するホシノの言葉にアヤネは頷く。

 

「なるほど……でも、その肝心の生徒数をどうやって増やすのですか?」

 

アヤネの問いにホシノは笑って答える。

 

「簡単だよ。他校のスクールバスごと拉致すればオッケー!」

 

「はいぃー!?」

 

「アッハッハッハ!なにそれウケる~!」

 

驚愕するアヤネの横で、五条は爆笑していた。

ホシノはそのまま説明を続ける。

 

「スクールバスをジャックして、うちへの転入届にハンコを押さないとバスから降ろさないようにするの。

 これで生徒数爆上がり間違いなし!」

 

呆然とするアヤネだったが、シロコがホシノのアイデアに反応する。

 

「それ興味深いね。

 ターゲットはどこ?トリニティ?それともゲヘナ?ミレニアム?」

 

彼女の眼光が光る。その目は一流の狩人の目をしていた。

しかし――。

 

「却下ーーっ!!」

 

アヤネが大声で二人に指摘する。

 

「他校の生徒がそんな状況でハンコを押すと思いますか!?ましてや、その学校の風紀委員会が黙っていません!」

 

「ありゃー、ダメかー」

 

「ダメかー、じゃありませんよ、ホシノ委員長。

 もっと真面目に考えてください」

 

ため息をつくアヤネに、今度はシロコが手を挙げた。

 

「アヤネ、私にも考えがある」

 

「はい……2年の砂狼シロコさん……」

 

呼ばれたシロコは自分のライフルを持ち出して、堂々と語る。

 

「銀行を襲うの」

 

「はいーーーっ!?」

 

「ギャハハハッ!ヒーッ!お腹痛い」

 

とんでもない提案にホシノの時以上の声をあげて驚愕するアヤネ。

五条は笑いすぎて膝から崩れ落ちて、床をバンバンと叩いた。

 

「確実かつ簡単な方法。

 ターゲットは市街地にある第一中央銀行。

 金庫の位置、警備員の動線、現金輸送車のルートは事前に把握しておいた」

 

そして、シロコは懐からあるものを取り出して机の上に置いた。

それは強盗の定番、目出し帽だった。額には0から4までの番号が刺繍されており、それぞれのイメージカラーで分けられてるほどのこだわりようである。

 

「うわー、これ、シロコちゃんの手作りー?」

 

「レスラーみたいです!」

 

シロコから渡された目出し帽を手にしたホシノとノノミがキャッキャッと騒ぎ立てる。

 

「いやー、いいねぇ。やっぱ人生一発でキメないと。ねぇ、セリカちゃん」

 

「そんな訳あるかー!!」

 

「そうです!却下です。犯罪はいけません!」

 

セリカとアヤネに反対されたシロコは無言かつ不服そうな顔で睨みつける。

 

「そんなふくれっ面してもダメなものはダメです!」

 

アヤネはあまりの悲惨な提案ばかりしか出ないこの状況に頭を抱える。

 

「はぁ……みなさん、もうちょっとまともな提案をしていただかないと……」

 

「はーい!次は私が!」

 

既に疲弊してるアヤネだったが、ノノミが笑顔で無邪気に手を挙げた。

 

「はい……2年の十六夜ノノミさん。犯罪と詐欺は抜きでお願いします」

 

「もちろんです。犯罪でも悪質商法でもない、とってもクリーンかつ確実な方法があります」

 

「ノノミ先輩……!」

 

アヤネの顔に笑顔が戻っていく。

ここまで頭のおかしい提案に振り回されてきたが、ようやくまともな意見が出て議題が進み始める。

 

「それはですね……アイドルです!学園アイドル!」

 

「……はい?」

 

「ハハッ、またすごい意見だね。ノノミ、説明を」

 

「はい、先生!

 学校復興の定番といえばアイドル!私たちが全員がアイドルとしてデビューすれば――」

 

「却下ーーーーっ!!」

 

「えー、せっかく決めポーズまで考えたのにー」

 

ノノミは自信が考えたかわいらしいポーズをとってブーイングする。

すると、アヤネは机を叩いて大声をあげる。

 

「みなさん、真面目に考えてますか!?

 このままじゃ、一向に議論が進みません!」

 

「それじゃ、先生に任せちゃうってのはどうかな?

 先生、今日出た意見で、やるならどれがいい?」

 

ホシノの突然の提案に全員の視線が五条へと向けられる。

 

「断然、銀行強盗」

 

「いやいや、バスジャックでしょー」

 

「アイドルでお願いします☆」

 

3人が期待を込めた眼差しを向ける。それに五条は――。

 

「いや、全部ダメでしょ」

 

冷静に3人の提案を全否定した。

 

「「「「「……え?」」」」」

 

予想外の答えに対策委員会全員がポカンとなる。

 

「シロコとホシノは面白いけど論外だし、ノノミのは見てみたいけど現実的じゃない。

 どうあがいても、これで問題解決は無理だしね」

 

五条は淡々と説明するが、時計を見て部屋を後にする。

 

「それじゃ、僕は用事あるから!あとは頑張ってね~」

 

そう言って五条が出ていった部室に残された彼女たちは、すこし呆けた後――。

 

「いやー、今回もいい議論だったねー。

 おじさん、疲れちゃったし、もう帰ろっか」

 

「そうだね、帰ろう」

 

「はい!今日もいい議論でした!」

 

ホシノが笑いながら帰り支度を始めた。それに、シロコとノノミも便乗する。

そんな3人に対して、アヤネは黙ってうつむいたままプルプルと震える。

それを見たセリカはアヤネにそおっと声をかける。

 

「ア、アヤネちゃん……」

 

「……い……」

 

「い……?」

 

「いい加減にしてください!!」

 

アヤネの怒声とともに机をちゃぶ台返しのようにひっくり返した。

ホシノたちは怒髪天となったアヤネにバツが悪そうに呟いた。

 

「「「「アヤネちゃんが怒った……」」」」

 

その後、4人はアヤネにめちゃくちゃ説教されたのだった。

 

 

 

柴関ラーメン

 

「いやぁー、悪かったてば、アヤネちゃーん。ラーメン奢ってあげるからさ、怒らないで、ねっ?」

 

「怒ってません……」

 

ホシノたちは会議の後から今もふくれっ面なアヤネを宥めていた。

ノノミが手拭いでアヤネの口周りを拭いてあげる。

 

「はーい、お口拭きましょうねー☆」

 

「私、赤ちゃんじゃありませんからっ」

 

「アヤネ、チャーシューもっと食べる?」

 

「ふぁい」

 

「……なんでもいいんだけどさ。なんでまたウチに来たの?」

 

シロコも自分のチャーシューをアヤネに食べさせる。

それをバイトしながら横から見ていたセリカがこの育児プレイみたいな状況に突っ込んでいると、店の扉が開いて一人の少女が申し訳なさそうな感じで扉から半身だけ出して声をかける。

 

「あ……あのう……」

 

「いらっしゃいませ!何名様ですか?」

 

セリカが尋ねると、少女はずっともじもじとして恐る恐るとセリカに質問してきた。

 

「……こ、ここで一番安いメニューって、お、おいくらですか?」

 

「一番安いのは、580円の柴関ラーメンです!看板メニューなんで、美味しいですよ!」

 

と笑顔で返すと、少女の顔がパアッと明るくなり、ありがとうございますと頭を下げると、そのまま扉を閉めていった。

 

「……?」

 

セリカは訳が分からず首をかしげると、再び扉が開き4人の少女たちが入ってきた。

 

「えへへっ、やっと見つかったよ、600円以下のメニュー!」

 

小柄の少女を筆頭に赤いコートを羽織った優雅そうな佇まいの少女が自信ありそうに答える。

 

「ふふふ。ほら、何事にも解決策はあるのよ。全部想定内だわ」

 

「そ、そうでしたか、さすがアル様、何でもご存じですね」

 

先ほど店に入ってきた少女が嬉しそうに褒め称える。

 

「はあ……」

 

最後に入ってきた少女がため息をついた。

 

「いらっしゃいませ、4名様ですか。お席にご案内しますね」

 

「いやいや、どうせ1杯しか頼まないんだし、テイクアウトでいいよー」

 

「どうせなら、ごゆっくりどうぞ。今の時間なら席は空いてますし」

 

「親切な店員さんだね。それじゃ、お言葉に甘えて」

 

彼女たちはシロコたちのいる席から隣のテーブルに行き席についた。

そのあと、小柄な少女がセリカに向けて話す。

 

「あっ、我がままついでに箸は4膳でよろしく」

 

「えっ!?ま、まさか1杯のラーメンを4人で分け合うつもり?」

 

驚愕するセリカにもじもじしてた少女が立ち上がり、大声で謝罪を始めた。

 

「ご、ご、ごめんなさいっ。貧乏ですみません!!お金がなくてすみません!!」

 

「あ、い、いや……!その、別に謝ることじゃ……」

 

「いいえ!お金がないのは首がないのも同じ!生きる資格なんてないんです!

 虫けらにも劣る存在なのです!虫けら以下ですみません!」

 

「ちょっとハルカ、声デカいよ。周りに迷惑……」

 

もう一人の少女が謝り続けるハルカと呼ばれた少女を止めようとしたが――。

 

「そんな!お金がないのは罪じゃないよ!」

 

「へ?……はい!?」

 

セリカが謝まるハルカの手を握って励ます。

 

「そうよね、大将?」

 

「応よ!金は天下の回り物、ってね。あんたたちまだ学生だろ。

 そんな子たちが小銭をかき集めて食べに来てくれたなんて嬉しいじゃねえか!」

 

「もう少し待っててね。すぐに持ってくるから」

 

セリカと柴大将は感動して、厨房でラーメンを作り始めた。

 

「……なんか妙な勘違いをされてるみたいだけど?」

 

「まあ、私たちはいつもそんなに貧乏ってわけじゃないんだけどね。しいて言えば、金遣いの荒いアルちゃんのせいだし」

 

小柄な少女がアルへと意地悪な笑みで話す。

アルはムッとした顔で睨みつけて返す。

 

「社長と呼びなさい、ムツキ室長。肩書は大事っていつも言ってるでしょ」

 

「ん?だってもう仕事は終わったからいいじゃん。それより、社長なら社員にラーメン1杯しか奢れないなんて」

 

「そうだね。明日の襲撃任務に人員を雇うために、ほとんどの資金を使っちゃたし……」

 

アルは目の前の2人の小言に余裕っぽく振舞った笑みで返す。

 

「ふふふ。でもこうしてラーメンは口にできるわけでしょう、カヨコ課長。これくらい想定内よ」

 

「でも社長、そこまでしなきゃいけないほどそのアビドス高校の奴らは危険な相手なの……?」

 

「そ、それは……」

 

カヨコの質問に言い淀むアルを前にムツキはこっそりとカヨコに耳打ちをする。

 

「多分アルちゃんにもよくわかってないと思うよ。だから、ビビッていっぱい雇ってるんだよ」

 

ムツキの挑発めいた言葉に、アルは立ち上がり大声で反論する。

 

「誰がビビってるですって!?失敗は許されない。あらゆるリソースを総動員して臨むわ。それが我が便利屋68のモットーよ」

 

「初耳だね。そんなモットー……」

 

「今思いついたに決まってるよ」

 

「う、うるさい!」

 

図星をつかれて焦るアルたちに、セリカが1杯のラーメンを運んできた。

 

「お待たせしました」

 

セリカはラーメンを机の真ん中に置く。

そのラーメンを見て、アルたちは驚愕する。

 

「な、なにこれ!?」

 

「ラーメン超大盛じゃん!」

 

「ざっと10人前はあるね……」

 

「こ、これはオーダーミスなのではないのでしょうか?

 こ、こんなの食べるお金なんて、ありませんよう……」

 

机に置かれたラーメンはとても巨大なメガ盛りサイズのラーメンだった。

ハルカがセリカに間違いではないかと尋ねるが、セリカは大将の方へ顔を向けて返す。

 

「いやいや、これで合ってますって。580円の柴関ラーメン並!ですよね、大将?」

 

「ちょっと手元が狂っちまってな。せっかくだから、食べってってくれ」

 

そういう柴大将にアルは特に追及はしなかった。

これ以上の詮索は野暮になるので、受けた厚意は素直に受け取ることにする。

 

「そうね、これは想定外だったけど……。ありがたくいただくわ」

 

「アルちゃん、早く食べよう!」

 

4人はラーメンをどんぶりに取り分けて、手を合掌して食べ始めた。

 

「「「「いただきます」」」」

 

出来立て熱々のラーメンを一口すすった4人は目を輝かせて感激する。

 

「「「「美味しい!」」」」

 

その言葉を聞いた柴大将は嬉しそうに尻尾を振って笑った。

そして、隣の席にいた対策委員会たちも席を立って話しかける。

 

「でしょう、でしょう!ここのラーメンは本当に最高なんです」

 

ノノミの言葉にアルは納得して頷く。

 

「分かるわ、いろんなところでいろんなものを食べてきたけど、このレベルのラーメンはなかなかお目にかかれないもの」

 

「その制服、ゲヘナの?遠くから食べに来たんだね」

 

「あ……はい……」

 

「うへへー、私たちここの常連なんだー」

 

「そうなの!?羨ましいわ」

 

アルと対策委員会の面々が仲良く談笑している横で、カヨコとムツキはあることに気づいた。

彼女たちがこれから自分たちが襲うアビドス高校の学生であるということに。

 

「アルちゃん、気づいてないみたいだね」

 

「どうする、社長に教える?」

 

カヨコはムツキに尋ねるが、ムツキは面白そうに笑って首を横に振る。

 

「……面白いから放っておこ」

 

そう言って、2人はそのままラーメンを食べ続けた。

その横でアルはとてもいい笑顔で対策委員会の対策委員面々と身の上話に花を咲かし続けて、最後には仲良く握手まで交わしていた。

そうして、時間はあっという間に過ぎ去っていき夕方になった。

 

「それじゃ、気を付けて」

 

「お仕事うまくいくといいですね」

 

「あなたたちも学校の復興頑張ってね。私も応援してるから!」

 

アルは小さくガッツポーズして対策委員会の今後を応援する。

そのあと、大きく手を振ってサヨナラの挨拶までして対策委員会のみんなが見えなくなるまで見送ったのだった。

そして、事務所に戻る道中、アルは今日の出会いを嚙み締めていた。

 

「ふふ。本当にいい人だったわね」

 

喜びに震えてるアルの横で、カヨコとムツキは目を合わせて頷いてアルに話しかけた。

 

「ねえ、社長……」

 

「なに?カヨコ課長」

 

「あの子たちの制服気づいた?」

 

「え、制服?それが何か?」

 

質問の意図が読めずにきょとんとしているアルに、カヨコはため息をついて、ムツキは面白そうに答える。

 

「アビドス高校の生徒たちだよ、あの子たち」

 

「……え?」

 

一瞬理解が追い付かなかったが、すぐにアルの顔が青くなる。

 

「ななな、な、なんですってーー!!!」

 

「あはは!その反応ウケるー!」

 

自分の想像以上に取り乱すアルを見て、ムツキは腹を抱えて笑った。

 

「そ、それって、次のターゲットってことですよね。私が始末してきましょうか?」

 

「おそいおそい、どうせもうちょっとしたら攻撃を仕掛けるんだし。その時暴れよ、ハルカちゃん」

 

「……は、はい」

 

アルはまさか自分たちが仲良くなった相手がターゲットだった状況に、頭がパニックを起こしていた。

 

「う、うそでしょ……。あの子たちがターゲットだなんて……」

 

「情け無用!お金さえもらえれば、なんでもやりますがうちのモットーでしょ。

 今更なに悩んでるの」

 

ムツキの言葉にハッと我に返ったアルだったが、それでも未だにどうしようか悩んでいた。

それを見たカヨコは一言呟いた。

 

「心優しい社長にはキツいかもね」

 

それを聞いたアルは、頭を振って自分の中に雑念を振り払う。

一企業の社長である自分がウジウジと悩んでなんかいられない。

迷いを振り切り、コートを靡かせてアルは一歩前へと歩き出す。

それが自分の目指す最高の『アウトロー』なのだから。

 

「さあ、行くわよ!」

 

決戦は明日。たとえ相手にどんな事情があろうとも、自分たちは冷酷に残酷に徹して任務をこなす。

それが彼女たち、便利屋68である。

 

 

 

翌日、対策委員会の部室でみんなは昨日のことを五条に話していた。

 

「へえ……そんなことがあったんだー」

 

「はい、それでそのゲヘナの生徒さんと仲良くなったんです☆」

 

「大将のラーメンに感動してたよね」

 

「うん」

 

「確かに大将のラーメンはうまいからね。

 ていうか、そんな面白イベントを僕抜きでするなんてひどいじゃーん」

 

子供のような理由で不貞腐れたように不機嫌になる五条にセリカが突っ込む。

 

「いや、先生が先に帰ったからでしょっ!」

 

「まあまあ、いずれ会えますよ」

 

「そうだね、また食べに来るって言ってたし」

 

「そういえば、先生こそ昨日はどうしたの?」

 

シロコが尋ねると、五条は待ってましたと言わんばかりの不敵な笑みを浮かべた。

 

「ああ、それはね今日の授業の準備さ」

 

「準備ですか?」

 

アヤネが首をかしげて五条へと目をやる。

 

「ふふん、今日やる授業は――」

 

五条が嬉しそうに発表しようとしたその瞬間、アヤネの端末から大きな警報が鳴り響いた。

 

「校舎南方にて、監視カメラが武装集団を感知しました!」

 

「まさか、またヘルメット団!?」

 

アヤネがすぐに監視カメラの映像を端末に出す。

そこに映っていたのは、カタカタヘルメット団ではなかった。

 

「いえ、これは……民間の傭兵のようです!」

 

「へー、傭兵かあ。結構高いはずだけど」

 

「これ以上接近されるのは危険です!

 先生、出動命令を……って、あれ?」

 

アヤネが五条の方に振り向くと、五条は力が抜けたようにだらけた姿で椅子にもたれかかっていた。

 

「はあああ……僕は気が乗らないから、今日はみんなだけで行ってきて……」

 

深いため息と言葉に覇気が全く感じないほどやる気がなくなった五条。

昨日、柴関ラーメンでの出来事を除け者にされたことと、せっかく用意した自分の授業を邪魔されて完全にやる気スイッチは完全にオフになってしまった。

 

「大の大人がくだらないことで拗ねるんじゃないわよ!シロコ先輩!ノノミ先輩!」

 

この状態の五条は言っても仕方ないのは短い間ながらも分かってきたので、セリカはシロコとノノミに声をかける。呼ばれたシロコとノノミは五条の肩を掴んで立ち上がらせる。

 

「うん。行こう、先生」

 

「はーい。先生、行きましょうね」

 

そして、そのままシロコとノノミに後ろから背中を押されて五条は嫌々ながら出動していった。

 

 

 

アビドス高校校舎の南方近くにて、アルは雇った傭兵たちに声をかける。

 

「準備はできたかしら?」

 

「もちろん。何でもいいけど、残業は無しで」

 

「時給も値切られたしね」

 

「うっ、細かいことは後!

 さあ、アビドス高校をしゅうげきするわよ!」

 

傭兵たちがはーいと気だるげな返事を返したその時、対策委員会のメンバーと五条が現場に到着した。

対策委員会は傭兵たちの前に立つ4人組の後ろ姿にすぐに気が付いた。

 

「あれは柴関ラーメンで会った……」

 

「ノノミ、知り合い?」

 

そう問う五条にホシノが答える。

 

「先生、あれがさっき話してたゲヘナの子たちだよ」

 

「へえ……」

 

五条が便利屋68の面々を見ていると、セリカが噛みつくように大声をあげた。

 

「あんたたち!ラーメン特盛にしてあげたのに、この恩知らず!」

 

その言葉にアルが一瞬バツが悪そうに怯むが、ムツキがからかうかのような笑みで返した。

 

「あははは、その件はありがと。

 でも、それはそれ、これはこれ。こっちも仕事でさ」

 

「公私ははっきり区別しないと。受けた仕事はキッチリこなす」

 

「ええ、それこそが私たち『便利屋68』!」

 

アルの言葉に便利屋68たちは銃を構える。

 

「……なるほど。その仕事っていうのが、便利屋だったんだ」

 

「もう!学生ならもっと健全なアルバイトがあるでしょう!」

 

ノノミの言葉にアルが慌てて言い返す。

 

「ちょっ、アルバイトなんかじゃないわ!これはれっきとしたビジネスよ!肩書だってあるんだから!」

 

自分の胸に手を当てて、

 

「私は社長!」

 

次にムツキの方に手を伸ばし、

 

「あっちが室長で」

 

カヨコの方に手を伸ばして、

 

「こっちが課長……」

 

と、自己紹介をしていく。そんなアルに、カヨコはため息をついて呆れる。

 

「そういうことを言うと、余計薄っぺらさが際立つ……」

 

ハルカは自分の紹介をされるのを、少し楽しみにしていたが、シロコがそれを遮る。

 

「誰の差し金?」

 

「それは企業秘密」

 

「そう……なら、力づくで言ってもらう」

 

シロコの鋭い眼光に臆することなく、アルは笑みを浮かべて自身のスナイパーライフルの銃口をターゲットに向ける。

 

「これも仕事だから……。悪く思わないでちょうだい」

 

アルの放たれた弾丸をホシノが受け止める。それが開戦の合図となった。

真っ先に動いたのは傭兵たちだった。彼女たちが放った弾丸をホシノが先頭に立って盾で受け止めていく。

そこをノノミが後ろからマシンガンで傭兵たちを倒そうとしたその時、ごめーんと言う声とともに彼女の足元に何かが投げられた。それは少し大きなボストンバッグだった。なぜこれが今投げられたのか、ノノミがキョトンと戸惑った次の瞬間、ボストンバッグは大きな音と共に爆発したのだった。

 

「「「ノノミ(先輩)!」」」

 

三人が声をあげると、大丈夫ですとノノミは手を振って返事をする。

そうして、安心したセリカの背後にカヨコが奇襲を仕掛ける。

突然の背後からの攻撃に怯んだ隙をカヨコは見逃さず、一気に距離を詰められる。

 

「舐めるんじゃないわよ!」

 

「舐めてないよ。どんな相手でも全力で任務を遂行する、それだけだよ」

 

近距離だとカヨコの武器のほうが有利、そう判断したセリカが後ろへと後退する。

しかし、ピンと足にワイヤーが引っかかった感覚を感じ、カヨコの口元がわずかに緩むのを見た。

しまったと思った時にはすでに遅かった。ワイヤーにつながった手榴弾のピンが抜けて爆発に吹き飛ばされた。

 

『セリカちゃん!!』

 

「セリカちゃん、大丈夫!?」

 

「大丈夫……このくらい……」

 

セリカは立ち上がりカヨコに距離を詰められないようにライフルで距離をとっていく。

シロコがセリカのサポートに向かおうとしたその時――。

 

「――C4」

 

と、ハルカの声が聞こえたと同時に、彼女が手に持ったスイッチを押す。すでに仕掛けられたC4爆弾がシロコの背後で爆発しシロコの体前方へと吹き飛んでいった。

それを見て、ハルカは笑う。

 

「クレイモア」

 

再びスイッチを押す。吹き飛ばされたシロコの眼前に設置されたクレイモアが爆発を起こす。

 

「「シロコちゃん(先輩)!」」

 

「……平気」

 

「うへー、間一髪」

 

シロコはとっさに駆け寄ったホシノが盾で爆発から助けてくれたことで何とか事なきを得た。

しかし、傭兵たちの銃撃に、爆弾を使った多彩な搦め手、そして、アルによる狙撃。

これらによって、シロコたちは徐々に押されていくのだった。

そして、時間と共にどんどん後退していき、空が茜色に染まっていく頃には校舎の正門前まで追い詰められていた。

正門前のバリケードで何とかしのいでいるが、傭兵たちの大量の銃撃は続いている。

シロコたちは窮地に立たされていた。

 

「思った以上に強い」

 

「このままじゃ、大ピンチですー!」

 

「ていうか、先生は何してるのよ!?」

 

「先生ならあそこに……」

 

ホシノが指さした方に目を向けると、校庭の一画にビーチパラソルを立てて、その下でサマーベッドで優雅にくつろいでいる五条がいた。

 

「何してんのよー!!」

 

セリカが激昂して詰め寄ると、五条はだらけ切った状態で答える。

 

「しょうがないでしょー、暇なんだからー」

 

「こっちは死にそうなんだけど!?」

 

「先生、なにかない?」

 

シロコが尋ねると、五条はフウっと息をついてから、上体を起こして口を開く。

 

「確かにこのまま守ってばかりじゃ、いずれ押し通されるよね。

 じゃあ、どうするかは簡単だ。押し通されるなら、こっちが押し通せばいい」

 

「……先生?」

 

「シロコ、できるよね?」

 

ニッと笑う五条に、シロコは頷く。

五条のアドバイスによって、対策委員会の反撃が始まる。

 

「そろそろ限界のはずだわ。このまま降参するまで撃ち続けるのよ!」

 

敵を追い込んで余裕の笑みを浮かべるアルは銃撃を続けていたが、アビドスが動き出したのを察知する。

 

「よっしゃー!いっくよー!」

 

ホシノが盾を構えたまま、単身で突っ込んできたのだった。

追い詰められて自棄になったのかと考える傭兵たちに、ホシノの後ろからセリカとノノミが現れた。

伏兵の存在に気を取られて傭兵たちが3人の攻撃に当たって次々と倒れていく。

正面の敵を排除しての中央突破、彼女たちの作戦を理解したカヨコが、残った傭兵たちに止めるように指示をする。傭兵たちがノノミとセリカの動きを止めるが、ホシノは止まらない。

 

「アル様!!」

 

ハルカが前に出てホシノめがけて撃ち続けるが、ホシノはそのまま盾を構えたままハルカに突撃して突き当てる。シールドバッシュと呼ばれる攻撃にハルカはよろめいて後ろに下がる。それをホシノは見逃さず、空いた彼女の腹部に自身のショットガンを当ててそのまま引き金を引いた。

 

「ハルカちゃんっ!?」

 

ハルカが倒れたのを見て、ムツキとカヨコがホシノに向かって銃を放つ。

急に動きが良くなったアビドスの行動にカヨコが考えながら応戦していた。

傭兵たちが2人を食い止め、残る1人も自分とムツキで必死に食らいつけば止めるだけなら可能なはず。

このまま3人を止めれば数のあるこっちが有利なのは変わらない。

そう考えたところで、彼女は重大なことを見落としていたことに気づいた。

 

「……!?社長、気を付けて!!」

 

「えっ!?なに?

 もしかして……!?」

 

カヨコの声が聞こえて一瞬慌てるアルだったが、上からの気配に気づく。

見上げた先には、すぐ近くの屋根から自分めがけて飛び降りるシロコの姿があった。

 

「ええええっ!?」

 

アルが驚いたのもつかの間、地面に着地したシロコがまっすぐにこちらへと向かってくる。慌ててスナイパーライフルを構えてシロコへと照準を向ける。

 

「――っ!私たちは便利屋68!どんな依頼も成功させてみせる!観念して学校を明け渡しなさい!」

 

アルの銃撃を紙一重でかわして、シロコは前を見据えて答える。

 

「それは、無理!!」

 

互いに銃を構えたまま距離が近づいていく。そして、一発の銃声と共に互いの眼前に銃口が向けられた状態で硬直する。

緊張が走る重大な場面で夕方のチャイムが鳴り響いた。

すると、傭兵の一人が銃を下ろして告げる。

 

「あっ、定時になったので上がりまーす」

 

「……へっ?」

 

キョトンするアルだったが、他の傭兵たちも武器を下ろして帰っていく。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!もう少しなのよ!?」

 

アルは慌てて傭兵たちを引き留めようとするが、傭兵たちは砕けた態度で返す。

 

「でも、給料が出ないんじゃねー」

 

「あとは自分たちで何とかしなよ」

 

「この後、ナック寄らない?」

 

そう軽くおしゃべりをしながら傭兵たちは帰っていき、残されたアルは白目をむいたまま呆然と立ち尽くすしかなかった。

 

「み、皆さん帰ってしまいました……」

 

「しょうがないね」

 

「こりゃ、やばいねー。アルちゃんどうする?逃げる?」

 

そう聞かれたアルは軽く世紀払いをした後、シロコたちの方へ指をさして声高らかに宣言する。

 

「これで終わったと思わないことね!」

 

「あはは!それじゃ、三流悪役みたいだね」

 

ムツキのからかいにうるさいと返して、アルたちは退却していった。

嵐のように去っていった便利屋68たちに、シロコたちが呆然としていると後ろから五条が笑いながらやってきた。

 

「いやー、面白い子たちだったねー」

 

「いったい何だったのでしょうか?」

 

遅れてやってきたアヤネが尋ねると、セリカはさぁ?と答えた。

すると、ぐうぅっとシロコのお腹の音が鳴る。

 

「お腹すいた」

 

「じゃあ、ひと段落ついたことだし、なんか食べに行きましょうか」

 

「さんせー!先生、ゴチになりまーす」

 

「ははっ、全く手間のかかる生徒たちだねー」

 

こうして、今日もドタバタした一日が終わった。五条と対策委員会のみんなは街へと向かうのであった。

 

 

 

どこかのビルの執務室にて、男は一つの報告書に目を通していた。

 

『アビドス高等学校 占拠失敗の報告』

 

便利屋68の陸八魔アルからの本日の報告書を机に置いて、男は吐き捨てる。

 

「ふん、役立たずめ。

 どうやら、データよりアビドス高校の生徒はしぶといようだな」

 

すると不敵な笑みと共に足音が近づいてくる。

 

「データは常に変化するもの。

 ですが、ご安心を。原因を捉えてみせましょう」

 

暗闇の中から現れたのは、漆黒のスーツを身に纏った異形の存在だった。

瞳の炎を揺らめかせて、黒服の男は再び闇へと溶けていったのだった。




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