みなさんは、ガチャ回しましたか?
自分はどちらも60連ずつ回して、両方爆死でした……
イベントストーリーも書いてみたいですね
便利屋68のオフィスにて、陸八魔アルは電話越しに頭を下げていた。
先日のアビドス高校の襲撃の失敗について先方から問い詰められていたのだった。
依頼の失敗によって、依頼主からのクレームにただひたすら謝るしかなく、しかも、1週間以内に成功させよという期限までついたのだった。
受話器を下ろしてうなだれるアルに、カヨコが口を開く。
「社長、またアビドスの子たちと戦ううつもり?」
それにムツキが続く。
「でも、この間の傭兵たちにお金全部使っちゃたじゃん。どうするのさ?」
うぐぐと返す言葉もないアルに、カヨコがさらに追い打ちをかける。
「こんなオフィス借りてるから、すぐに資金がショートするんじゃない」
「うるさいわね!ちゃんとした会社なら、事務所は基本でしょ!!」
アルは机を叩いて反論するが、ムツキに意地悪な笑みで返される。
「それで、お金が無くなったら意味ないんじゃない?
私は前みたいに、公園のテントでも構わないけど」
「わ、私もアル様とご一緒ならどちらでも……」
うるさーいと叫んだアルは机から立ち上がり、静かに口を開いた。
「……融資を受けるわ」
「あれ、でもアルちゃんって銀行のブラックリストに入ってなかったっけ?」
「違うわよ!私はただ、風紀委員会に指名手配されたから、銀行の口座が凍結されただけ!」
そうだったと意地悪っぽく返すムツキを横に、アルは声高らかに宣言する。
「見てなさい……このミッション、絶対に成功させてやるんだから!」
アビドス高校正門前
「カイザーローンとのお取引いただき、毎度ありがとうございます。
現金7,883,250円、確かにお預かりしました。
では、また来月伺います」
今月の借金の返済に伺ったカイザーローンの職員が現金が入ったアタッシュケースを受け取ると、そのまま車に乗り込んでその場を後にした。
それを見たホシノは胸をなでおろして口を開いた。
「今月も何とか乗り切ったねー」
安堵すると同時に、ノノミはある疑問を口に出した。
「そういえば、カイザーローンはなぜ現金でしか返済を受け付けないのでしょうか?」
「確かにねー。一々、金を用意するのもわざわざ取りに来るのも面倒なのにね」
五条が笑いながら返事している横で、じっとカイザーローンの車を見続けているシロコにセリカが注意する。
「シロコ先輩、あの車は襲っちゃダメだからね」
「……うん、分かってる」
そう答えつつも、シロコは見えなくなるまで車から目を離さなかった。
場所を変えて、対策委員会の部室で定例会議が始まった。
アヤネが前回のカタカタヘルメット団の戦車の部品について句を開いた。
「先日手に入れたこの部品ですが、やはりブラックマーケット経由だったことが判明しました。
キヴォトス内の条約で禁止されている違法な品物も多数流通し、連邦生徒会の許可を得ていない非認可の部活も集まる危険な場所で、あの便利屋68もよく出入りしているようです」
「便利屋68……」
「あいつらもヘルメット団と一緒で私たちの学校が目当てのようだったわね」
「こんな頻繁に襲撃されるなんて何か裏がありそうだね」
「気になりますね」
カタカタヘルメット団だけでなく、便利屋68が傭兵を雇ってまでアビドス高等学校に襲撃してくることに対策委員会も疑問に思っていた。
便利屋68はあれから全く姿を見てないので、捕まえて黒幕について聞きだすこともできない。
どうしようか考えていた横で五条が声をかける。
「分かんないことをここでうだうだ考えてもしょうがないでしょ。
捜査は足で、って言うしね。
というわけで、ここはワクワク課外授業といこうじゃない」
ブラックマーケット
闇市場とも呼ばれるそこは、シロコたちの想像を超える巨大さで違法なものであるものの、賑やかさならゲヘナやトリニティといった巨大な学区にも負けないほどの活気があった。
「ここがブラックマーケット……」
「すごい賑わってますね」
「連邦生徒会の手が及ばないエリアが、ここまで巨大化してるなんて……」
「私たちはアビドス学区内にばっかりいるからねー。
外は結構変なとこが多いんだよ」
そう答えるホシノにシロコは質問を投げかける。
「先輩、ここに来たことがあるの?」
「いんやー、私も初めてだねー。
他の学区にはへんちくりんなものがたくさんあるんだってさー。
ちょーデッカい水族館もあるんだって。アクアリウムっていうのー。
今度行ってみたいなー」
楽しそうに話すホシノを見て、シロコは笑みを浮かべていいねと同意する。
『みなさん、そちらでは何が起こるか分かりません。十分気をつけてください』
通信機から聞こえるアヤネの注意が聞こえた瞬間、前方で銃声が聞こえた。
全員が前を向くと、白い制服を着た一人の少女が三人組の不良たちに追いかけられていた。
「待て!!」
「う、うわああ!まずっ、まずいですー!!つ、ついてこないでくださいー!!」
「そうはいくか!」
追いかけられている生徒の制服にドローンのカメラ越しでアヤネが気付いた。
『あれはトリニティの!?どうして、ここに!?』
「はうう~!!だ、だれかー!!」
「……任せて」
こちらに向かって走ってくる少女をかばうように、シロコが不良たちの前に立ちふさがる。
「なんだよ、お前らは!?あたしらは、そいつに用があるんだ!」
「そいつはキヴォトスで一番金持ちのトリニティの生徒だ。そいつを拉致して、たんまりと身代金をいただくのさ」
「拉致って交渉、なかなかの財テクだろ。興味があるなら、お前らも――」
不良の言葉を待たずにシロコたちの先制攻撃で不良たちはあっという間に、地面に倒れてノビてしまった。
「……興味ない」
そう吐き捨てて、シロコたちは少女の方へと向き直る。
少女は頭を下げて礼を言った。
「あ、ありがとうございました」
「いやいや、これくらい当然さ」
「先生は何もしてないでしょ……」
我が物顔でお礼を受け取る五条に、セリカが突っ込んだ。
「私、阿慈谷ヒフミといいます」
「ヒフミちゃんかー、よろしくね。
それにしても、トリニティのお嬢様がなんでこんなとこに?」
ホシノの問いに、ヒフミは気まずそうに苦笑交じりの笑みで答える。
「あはは……それはですね……実は探し物がありまして……もう販売されていないものなんですが、ここでは密かに取引されるという噂を聞いて……」
「もしかして……戦車?」
「違法な火器とか?」
「化学兵器ですか?」
「見たら呪われる呪いのビデオとか!?」
目を輝かせるシロコたちに、ヒフミはあわててリュックからあるものを取り出して答える。
「い、いえいえ!探してるのは、
この限定生産で100体しか作られなかったペロロ様の限定ぬいぐるみなんです」
その手に出されていたのは、アイスを咥えた白いぬいぐるみだった。
みんなが分からず首をかしげている中で、それを見たノノミがヒフミに寄り添うように語りかける。
「わあ☆モモフレンズですね!私も大好きです!ペロロちゃん可愛いですよね!
私はミスター・ニコライが好きなんです」
「分かります!ニコライさんも哲学的なところがカッコ良くて。
最近出たニコライさんの本『善悪の彼方』も買いましたよ!それも初版で!」
ノノミとヒフミがキャッキャッと話してる横で、五条はペロロを見て冷静に口を開いた。
「可愛いのか……これが?」
「大丈夫だよ、先生。おじさんもよく分かんないから」
横にいたホシノになぜか慰められたことに、不服そうな顔をする。
「そういえば、みなさんはどうしてここに?」
「私たちも探し物でね。ここにあるはずなんだけどねー」
「そう。今は生産されていなくて手に入れにくい物なんだけど、ここにあるって話を聞いて」
「そうなんですか……なんだか、似てますね」
「それがどこにあるかさっぱりでねー」
ホシノが両手をあげてお手上げのジェスチャーをとる。
「ブラックマーケットは連邦生徒会の手が及ばない場所でありながら、学園数個分の規模に匹敵しますからね。
さらに様々な『企業』が、この場所で違法な事柄を巡って利権争いをしていると聞きました。
だからこそ、探し物は簡単に見つからないこともよくあります」
「スケールが桁違いですね……」
「それだけじゃありません。ここ専用の金融機関や治安機関があるほどですから……」
「銀行や警察があるってこと……!?
そ、それってもちろん、認可されていない違法な団体よね!?」
「はい……そうです」
ヒフミの知識に感心する対策委員会。
五条がヒフミに話しかける。
「ヒフミ、ここのことよく知ってるんだね」
「えっ?そうですか?危険な場所なので、事前調査をしっかりしたせいでしょうか……」
ここで、ホシノがポンと手を叩いてあることを思いついた。
「よし、決めたー」
突然のことに首をかしげるヒフミに、ホシノは笑って言う。
「助けてあげたお礼に、私たちの探し物が見つかるまでついてきてもらうねー♪」
「え?ええっ!?」
「いいでしょー。おねがーい」
猫なで声ですり寄ってくるホシノに困惑するヒフミだったが、少し考えた後返事を返す。
「あ、あうう……私なんかでお役に立てるか分かりませんが……アビドスの皆さんにはお世話になりましたし、喜んで引き受けます」
「よーし。心強い仲間ができたことだし、行ってみよー」
パンパカパーン!ヒフミが仲間に加わった。
あれから数時間が経過したが、なんの手がかりも得られないまま疲労感だけが残ったのだった。
「はあ……しんど」
「さすがに疲れましたね……」
「いや~、おじさんも参ったなー」
シロコが辺りを見渡して尋ねる。
「ねえ、先生は?」
「えっ!?」
そう言われてみると、確かに五条の姿がいなくなっていた。
「本当にいないじゃない!」
「迷子になったんでしょうか?」
「それなら大変ですよ!」
セリカ、ノノミ、ヒフミたちは五条がブラックマーケットで迷子になったかもしれないことに慌てる。
そんな3人の背後から、ゆっくりと語りかける一つの影。
「誰が大変だって?」
「「「きゃあっ!!」」」
全員が振り返ると、先ほどまでいなくなっていた五条がそこにいた。
セリカが大声で叫んで問い詰める。
「どこに行ってたのよ!心配したじゃない!」
「へー、セリカは僕のこと心配してくれたんだー」
ニヤニヤと笑う五条に、セリカは顔を真っ赤にしてうるさーいと叫んでそっぽを向いた。
シロコは五条が手に抱えている紙袋を指さす。
「先生、それは?」
「あー、これ?そこで買ったたい焼き」
「おー、おじさんたちのために買ってきてくれたのー?」
嬉しそうにするみんなに対して、五条は左手を振って否定する。
「ちがうちがう、これは僕のおやつー」
大の大人が堂々と一人だけたい焼きを買うという、大人げない最低な行動をすることに生徒たちからブーイングが飛び交う。
「ははは!冗談だって、僕がそんなひどい大人に見えるかい?」
「うん、正直見えるねー」
「うん」
「まあ……」
「見えるでしょ」
『えっと、まあ……』
「わ、私はノーコメントで……」
全員からの辛辣な返しに五条は黙ってたい焼きの袋を生徒たちに手渡した。
こうして、一人の大人の心に傷を作ったおやつタイムでみんなは英気を取り戻すのだった。
たい焼きを食べ終えたヒフミがここまで一切の手がかりがないことに疑問を持つ。
「ここまで情報がないなんてありえません……妙ですね。
販売ルート、保管記録……すべて何者かが意図的に隠しているような、そんな気がします
いくらここを牛耳っている企業でも、ここまで徹底してブラックマーケットを統制することは不可能なはず……」
「そんなに異常なことなの?」
「異常……というよりかは……普通ここまでやりますか?という感じですね……。
ここに集まっている企業は、ある意味開き直って悪さをしていますから、逆に変に隠したりしないんです。
例えば、あそこのビル」
そう言って、ヒフミが指さした先にあるのは、この付近で最も大きなビルにある銀行だった。
「あそこはブラックマーケットに名を馳せる闇銀行です」
闇銀行?と首をかしげるセリカに、ヒフミは頷いて続ける。
「ブラックマーケットで最も大きな銀行のひとつです。聞いた話だと、キヴォトスで行われる犯罪の15%の盗品があそこに流されているそうです……。
他にも横領、強盗、誘拐などなど、様々名犯罪によって獲得した財貨が、違法な武器や兵器に変えられて他の犯罪に使われる……。
そんな悪循環が続いているのです」
「そんなの、銀行が犯罪を煽っているようなものじゃないですか」
そう憤るノノミに、ヒフミははいと返す。
「その通りです。ここでは銀行も犯罪組織なのです」
「ひどい!連邦生徒会は一体何やってんの?」
「現実は、思った以上に汚れているんだね。
私たちはアビドスばかりに気を取られすぎて、外のことをあまり知らな過ぎたかも……」
そう話していると、ヒフミは何かを発見した途端声をあげた。
「みなさん、隠れてください!」
ヒフミに言われて、全員が路地裏に隠れると、バイクに乗った武装集団が近づいてきた。
「なんなのあれ?」
そう聞くセリカにヒフミは答える。
「あれはマーケットガードです。先ほどお話しした、ここの治安機関でも最上位の組織です。
……パトロール?護衛中のようですが……」
複数のマーケットガードの真ん中に1台の車があった。その車は闇銀行の前に止まって中から出てきた人を見て、対策委員会のみんなは驚愕する。
「あの人って……」
「間違いない。うちに取り立てに来るカイザーローンの職員じゃない」
「あれ、ホントだ」
そう、今朝も集金に来たカイザーローンの職員だった。
カイザーローンの職員は闇銀行の職員に書類と今朝シロコたちが渡したアタッシュケースを手渡して、そのまま去っていった。
「カイザーローンと闇銀行は繋がってるとみて間違いないね」
五条がそう言うと、ヒフミは驚愕する。
「カイザーローンですか!?」
「ヒフミちゃん知ってるの?」
「カイザーローンと言えば……かの有名なカイザーコーポレーションが運営する高利金融業者です……」
「マズいところなの?」
シロコの問いにヒフミは頷く。
「カイザーグループは合法と違法の間のグレーゾーンで上手く振舞っている多角化企業で……。
もしかして……みなさんはカイザーローンから融資を……?」
ホシノは気まずそうに頬をかきながら答える。
「あはは……その辺を話すと長くなるんだよねー」
「思えば、返済が現金だけだったのは、履歴が残らず足がつきにくいから……」
「まさか、闇銀行に流れていたなんて……」
「てことは、私たちはずっと犯罪資金を提供し続けていたってこと!?」
憤りを隠しきれないセリカに、アヤネが落ち着かせようとする。
『まだはっきりとは……。カイザーローンが私たちのお金を闇銀行に運んだという証拠がありませんし……』
確かにアヤネの言う通り、このままではこのことを連邦生徒会に通告しても、履歴がない以上、カイザーローンはいくらでも言い逃れができる。
どうしようもないとあきらめていたその時、ヒフミがあることに気が付く。
「あっ!集金の際は受領証明書が出ますよね。その記録さえあれば証拠になりませんか?」
ヒフミの言葉に活路を見つけた対策委員会は顔をあげるが、ヒフミがある重大なことに気づく。
「でも考えてみたら、書類はもう銀行の中ですし……無理ですよね。
ブラックマーケットの中でもより強固なセキュリティを誇る銀行の中となると……うーん……」
何とか知恵を出そうと考えるヒフミだが、シロコはホシノにあることを提案する。
「ねえ、ホシノ先輩。ここは例の方法しか……」
「例の方法?あー、あれかー!」
「そうですね、確かにあの方法なら」
「あれって、まさか……」
意思疎通で話が進んでいき、話に取り残されるヒフミが何なのか尋ねる。
「あの、いったい何を……?」
「残された方法はたった一つ」
そう言って、シロコは懐から覆面を取り出して言う。
「銀行を襲う」
「はいっ!?」
シロコの提案にヒフミは驚愕し、五条はまた腹を抱えて笑い出した。
「あの、それはちょっと……他にも何か方法があるのでは……」
さすがに銀行を襲うなんて馬鹿げた方法を止めようとするヒフミだが、シロコは自信満々に言う。
「大丈夫、犯罪の証拠を明らかにするだけ」
「いや、でも……」
通信機越しからアヤネのため息が聞こえる。
『了解です。こうなったら止めても聞く耳持たないでしょうし……』
シロコはヒフミの肩を叩いて悔しそうに話した。
「ごめん、ヒフミ。私の想定が甘かったせいで、ヒフミの分の覆面がない」
「えー!私も!?」
「仲間外れだなんて可哀そうすぎます!」
「そ、そんな……私は全然気にしませんから……」
いつの間にか自分が加担することになりかけていることに、ヒフミは後ろに下がりながら遠慮するそぶりを見せてこの場から逃げようとするが、トンと何かにぶつかる。
恐る恐る見上げると――。
「大丈夫、これがあるから♪」
たい焼きの紙袋を持ってとても楽しそうな五条がいた。
「ちょ、ちょっと待ってください……。あ、あうう……」
五条に無理やり紙袋を被せられ、額にマジックで5と書かれたのだった。
「ん、完璧」
「あ、あの……本当に私も参加するんですか……?」
「さっき約束したじゃーん?ヒフミちゃん、今日は私たちと一緒に行動するって」
「わ、私、もう生徒会の人たちに合わせる顔がありません……」
両手で顔を隠してヒフミは肩を落とすのだった。
「問題ないって!私たちは悪くないし!悪いのはあっちなんだから!」
セリカに励まされるヒフミを横に、シロコは五条に向かって親指を立てて言う。
「先生、例のセリフを」
五条は軽く咳払いをして、銀行を指さして声高らかに宣言する。
「オッケー!よーし!それじゃあ、みんな!銀行を襲うよー!」
「「「「『オー!』」」」」
「オ、オー……」
その頃、アルはアビドス高校襲撃のための資金を得るために、ブラックマーケットの闇銀行にて融資の相談に来ていた。
しかし、受付を済ませて少しお待ちくださいと言われてからすでに半日が経過しようとしていた。
そして、ようやく銀行の審査員がアルの前に戻ってきた。
「お待たせしました、お客様」
「ええ、待ちに待ったわ。それでどうなの?早めにまとまった資金が必要なのだけど……」
そう尋ねるアルに審査員は事務的に答える。
「誠に残念ながら、今回は御縁がなかったということで」
「えっ!?ちょっと待って!それって融資できないってこと!?」
「さようでございます」
「ちょ、ちょっと!ちゃんと事務所だって構えているのにどうしてよ!」
机を叩いて抗議するアルに、審査員はアルの審査に必要な書類にもう一度目を通す。
「事務所は賃貸、資産と呼べるものは重火器類のみ。これでは融資のしようがありません。
担保できる財産、あるいは貴女に信用があれば、融資は可能なのですが……まずは、その前に日雇いの期間工などをなさってはいかがでしょう」
「はあっ!?」
アルは審査員の言葉で震え上がった。
(ムカつく……もういっそ、ここで暴れて銀行の金を持ち出しちゃおうかしら。
いや、それはダメね。マーケットガードがいるし……仮にここを抜け出してもブラックマーケットから抜け出すことなんかできない。
やっぱり無理。ブラックマーケットを敵に回すなんて、そんな勇気ないわ。
もう、何よこれ、情けない……キヴォトスで一番のアウトローになるって、そう心に決めたのに。融資だのなんだの……こんなつまらないことで悩まされて……。
私が望んでいるのはこれじゃない……何事にも恐れず、何事にも縛られない、ハードボイルドなアウトローに……そうなりたいのに……)
アルが自分の理想と現実の違いに涙が出そうになったその時、銀行のシャッターが閉まり、銀行内の電気、パソコンなどがすべて消え、闇に包まれた。
突然のことで客だけでなく、銀行員やマーケットガードたちも困惑していた。
すると、ガードたちのすぐ後ろでドカァンと大きな爆発が起こり、ガードたちが吹き飛んでいく。
さらに、そこから追い打ちをかけるかのように、ライフルの連射音が鳴り響いた。
そして、電気が点いたその場に覆面を被った対策委員会とヒフミが武器を抱えて立っていた。
「全員、武器を捨てて、その場で伏せて!」
シロコが先陣を切って声をあげた。ノノミがマシンガンを構えて笑顔でそれに続く。
「言うことを聞かないと、痛い目にあいますよ☆」
「え、えっと……みなさん、ケガをされないように大人しくしててくださいねー」
ヒフミがオロオロしながら注意してる後ろで、マーケットガードの1人が目の前に落ちている自分の銃に手を伸ばそうとするが、セリカが彼の頭にライフルを突き付けて口を開く。
「武器は捨ててって、聞こえなかった?」
「ひっ……」
頭に銃を突きつけられて、ガードは両手をあげて無抵抗を示した。
そして、1人の銀行員が机の裏にある緊急警報装置のボタンを何度も押すが、反応しなかった。
それに気づいたホシノが銀行員に向かって自信満々に語る。
「うへ~無駄無駄ー。
外部に通報される警備システムの電源は落としたからねー」
銀行員にショットガンを突き付けたままホシノは、ヒフミの方に顔を向ける。
「うへ~ここまでは計画通り!次のステップに進もうかね。
さあ、リーダーのファウストさん!指示をよろしく!」
辺りを見渡すヒフミは自分が指名されていることに驚愕する。
「えっ!?えーっ!?ファウストって、わ、私ですか!?」
困惑するヒフミにノノミが笑顔で賛成する。
「ヒフ、いえ、ファウストさんがリーダーです!ボスです!
ちなみに私は……水着覆面団のクリスティーナだお♧」
「その名前はやめて」
可愛くポーズをとるノノミにセリカが突っ込む。
柱の陰に隠れていたムツキ、カヨコ、ハルカの3人はここまでの騒ぎを陰から見ていた。
「あれ、あの子たちって……」
「うん、アビドスの子たちだね」
「い、今が好機ではないでしょうか。か、返り討ちにしちゃいますか?」
銃を構えて臨戦態勢に入ったハルカを、カヨコが制止する。
「いや、ターゲットは私たちじゃないみたい」
今、ここで戦ってもブラックマーケットに目を付けられる可能性があるため、カヨコたちはここは隠れて様子を見ることにした。
一方、シロコはカウンターのほうへ歩いて、銀行員に近づいていく。
「全員、無駄な抵抗はしないこと」
そして、彼に自分の目的を告げる。
「さっき到着した現金輸送車の集金記録を……」
そう言い切る前に、銀行員はパニックになって土下座したまま何度も頭を下げた。
「わ、分かりました!なんでも差し上げます!現金でも、金塊でも、債券でも!!」
「いや……私たちが欲しいのは集金記録だけ」
そう言うが、銀行員はシロコの話を聞かないまま金庫の方へと走って、バッグに現金を詰め始めた。
それを近くで見ていたアルは、シロコたちを羨望のまなざしで見ていた。
(や、ヤバーい!!この人たち何なの!?ブラックマーケットの銀行を襲うなんて!
めちゃくちゃ手際良いし、超プロフェッショナル。
か、カッコいい……!シビれるっ!これぞまさに真のアウトロー!うわあ……涙出そう!)
覆面水着団に感激しているアルを、柱の影に隠れているカヨコとムツキは見ていた。
「社長、全然気づいてないみたいだけど……」
「むしろ目なんか輝かせちゃって」
アルがどこかズレてる人だとは思っていたが、まさか気付いてないとは思わず、カヨコはため息をつく。
「わ、私たちはここで待機でしょうか……?」
「……あの子たちを手助けする理由も、銀行を助太刀する理由もない。
それに社長が今あんな状態だから……とりあえず隠れていよう」
そうしてカヨコたちが話してる間に、銀行員がパンパンに膨れたバッグをシロコに差し出す。
「出来ました。だからこれでどうか命だけは……」
想定外の出来事にシロコは内心戸惑っていたが、通信機から五条の声が聞こえた。
『こちら、グレートティーチャー。ブルー2号、ブツは手に入ったかい?どうぞ』
「あ、うん。でも……」
シロコが言い切る前に先頭に立ったホシノが振り返って声を掛けた。
「よーし!それじゃあ、逃げるよー。全員、撤収!」
「アディオース」
「怪我人はいないようですし……さよなら!」
そういって、彼女たちは嵐のように去っていった。
あっという間の出来事に客も銀行員も少し呆然としていたが、すぐに我に返った銀行員が大声で命令を叫ぶ。
「や、奴らを捕らえろ!道路を封鎖し、マーケットにいる全マーケットガードを呼びかけろ!」
銀行員の命令にすぐに倒れていたまーっけとガードたちが慌てて起き上がり、封鎖のために右往左往とせわしなく動き回っていった。
アルは颯爽と去っていった覆面水着団の活躍を目に焼き付けていた。
「はあぁ……ナイスアウトロー!」
マーケットガードの包囲網を、アヤネのサポートのおかげで何とか潜り抜けた対策委員会たちは、覆面を脱いでようやく一息ついた。
『封鎖地点を突破しました。みなさん、お疲れさまでした』
「みんな、お疲れサマンサー!」
「やった!大成功!」
「あ、あうう……」
作戦の成功に喜ぶ対策委員会と五条達。ただヒフミは顔をうつむかせたままずっと「生徒会のみなさんに何と言えば……」と呟いていた。
ホシノがシロコに今回の目的について尋ねる。
「シロコちゃん、集金記録の書類はちゃんと持ってきた?」
「う、うん……バッグの中に」
そういってシロコは肩に担いでいたバッグを下ろす。それをホシノが明けると、その中を見て驚きの声をあげた。
「なんじゃこりゃーー!」
中には大量の札束がぎっしりとは詰まっていた。
「シロコ先輩、現金を盗んじゃったの!?」
「違う……目当ての書類はちゃんとある。
これは銀行の人が勝手に勘違いしただけ……」
「うへー、ざっと1億はあるね……」
「やったあ!!早く持って帰ろう!」
セリカがバッグを持って帰ろうとしたとき、アヤネが声をあげて止めた。
『ダメだよ、セリカちゃん!!そんなことしたら、本当に犯罪になっちゃうよ!!』
「……」
その言葉に誰もが沈黙する。しかし、セリカも声をあげて反論した。
「なんでよ!?このお金はそもそも私たちが汗水流して稼いだお金じゃん!
それがあの闇銀行に流れてっんだよ!」
セリカの言うことにも一理はある。このお金をそのままにしておけば、犯罪者の武器や兵器に変えられてしまうかもしれない。
しかし、だからっと言って、このお金を本当に持って帰ってしまえば、対策委員会は本当の犯罪者になってしまう。
「悪人のお金を盗んで、何が悪いの!?」
「……私はセリカちゃんの意見に賛成です」
ノノミもセリカに同意する。みんながノノミんの方へ向くと、彼女はその理由を続けた。
「犯罪者の資金ですし、私たちが正しい使い方をした方が……」
「そうよ!それにこれだけあれば、学校の借金もかなり減らせるんだよ!」
「――セリカ」
「何……?」
五条の口が開き、セリカは五条の方へと顔を上げる。
「本当にそれでいいのかい?」
そう尋ねる五条の口調はいつものおちゃらけたような軽口ではなく、静かに、そして、少し低いものだった。
口調だけでなく、いつもと違う雰囲気にセリカは言葉を詰まらして、答えられなくなった。
そうして、再び沈黙が訪れたが、今度はホシノがシロコに向かって口を開いた。
「……シロコちゃんはどう思う?」
「答えるまでもない。ホシノ先輩が反対する」
そうきっぱりと答えると、ホシノはニコッと笑った。
「さすがはシロコちゃん、私のことをわかってるねー。
私たちに必要なのは書類だけ。お金じゃない。
今回は悪人の犯罪資金だからいいとして、次はどうする?その次は?」
そう言われて、セリカは何も言えなかった。そんなセリカを見て、ホシノは優しくいつものようにゆるく語りかける。
「これに慣れちゃうと……この先またピンチになった時……仕方ないよねとか言いながら、やっちゃいけないことに手を出すと思う。
おじさんとしては、可愛い後輩がそうなっちゃうのはイヤだなー」
ホシノの答えを聞いて、五条は微笑んだ。正直少しだけ、ほんの少ーしだけ不安はあったものの、生徒が道を踏み外さないことに安堵したのだ。
教育者として、ダメと言うことは簡単ではある。しかし、ダメと言うだけでは意味がない。本当に大切なのは、どうしてダメなのかを理解し、それを身にすることなのだから。
ホシノは本当に頼りになる先輩でよかったと、五条は思う。
そして、この子たちは本当に自慢の教え子だということを改めて実感するのだった。
「こんな方法を頼るくらいなら、最初からノノミちゃんの持ってる燦然と輝くゴールドカードに頼ってたよー」
「……そうでしたね。きちんとした方法で返済しないと、健全なアビドス高校ではなくなってしまう」
「そういうことー」
考えがまとまったところで、五条が手をパンと叩いていつもの軽口で口を開く。
「それじゃ、書類だけ持って行こうか。こんなお金持ってたって、面倒に巻き込まれるだけだしね」
「うん!」と全員が頷いて、さっさと帰ろうと思っていたその時――。
「ちょっと待って!!」
と、後ろから声をかけられた。全員が慌てて覆面を被りなおして、五条はいつの間にか姿を消していた。
「あ、落ち着いて。私は敵じゃないから」
息を切らしながら両手を上げるアルに、みんな集まってひそひそと小声で話をする。
「何であいつが……?」
「撃退する?」
「どうかな。戦う気がない相手を叩くのもねえ」
「お知合いですか……?」
「まあねー、そこそこー」
ひそひそと話をする覆面水着団に、アルは勇気をもって自分の言いたいことを口にする。
「あ、あの……た、大したことじゃないんだけど……。
銀行の襲撃、見せてもらったわ……。
ブラックマーケットの銀行をものの数分で攻略して見事に撤収……あなたたち、稀に見るアウトローっぷりだったわ」
銀行にいたのかと全員が思った。正直、あの時は書類を手に入れるために必死だったので、あまり周りのことを見ていなかったので気づかなかったのである。
「正直、すごく衝撃的だったというか、このご時世にあんな大胆なことができるなんて……感動的というか。
わ、私も頑張るわ!法律や規律に縛られない、本当の意味での自由な魂!
そんなアウトローになりたいから!」
何の話とセリカが小声で聞くが、全員、さあっと首を傾げた。
「そ、そういうことだから……な、名前を……あなたたちの名前を教えて!!」
「名前……!?」
「その、組織ていうか、チーム名とかあるでしょう?
私が今日の雄姿を心に深く刻んでおけるように!!」
何やら壮大な勘違いをしているみたいだが、ここで正直にアビドスですと名乗っても面倒になりそうだなと思い、どうしようかと考えていたら、ノノミが一歩前に出ていく。
「……はいっ!おっしゃることは、よーくわかりましたっ!」
(のっ、ノノミ先輩!?)
何を言うのと言いそうになる前に、ノノミがキメポーズでビシッと名乗りを上げる。
「私たちは、人呼んで……覆面水着団ですっ!」
「……覆面水着団!?」
(あっ、終わった……)
セリカの心が音を立てて崩れそうになった。
止めてといった覆面水着団とかいう恥ずかしい名前を堂々と名乗ったことで、勘違いとはいえ憧れの眼差しを向けるアルに、こんな恥ずかしい名前で銀行を襲ったのがバレれば、さすがのアルでも落胆するだろう。
しかし――。
「や、ヤバい……!!超クール!!カッコ良すぎるわ!!」
(……えぇ~)
なんか余計にツボに入ったことにセリカは内心引いていた。
そこに、ホシノがさらに付け加える。
「ふふふのふー!目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く。
これが私らのモットーだよ!!」
(変な設定を付け足した……)
もう何も言うことはないが、アルの方を見てみると――。
「か、カッコいい……」
さらに目を輝かせて、大好きなアニメショーに行った子供のようにはしゃいでいた。
そして、それをまた別の離れたところからカヨコたちも見ていた。
「……何してるの?あの子たち」
「アルちゃんものすごくはしゃいでるねー」
あの後、一人で銀行を飛び出したアルを追ってきてみれば、何やら面白い状況になっていることにムツキはおもちゃを得たかのように笑い、カヨコはまたため息をついた。
「もういいでしょ?適当に逃げようよ」
そろそろセリカがホシノたちにこっそりと耳打ちをする。
確かに、封鎖地点を抜けたとはいえ、まだブラックマーケットの中であるので、余裕はそこまでない。
ホシノたちもそれをわかっているため頷いて答える。
「それじゃあこの辺で。アディオス~☆」
「行こう!夕日に向かって!」
「夕日、まだですけど……」
そう言って、覆面水着団は華麗に去っていった。
アルは小さくなっていく彼女たちの背中を見て、今一度、心に誓うのだった。
「我が道の如く魔境を行く……その言葉、魂に刻むわ!私も頑張る!」
そんな楽しそうなアルの背中を見て、カヨコはムツキに話す。
「……いつ言う?」
「面白いから、しばらく放置で」
「あ、あの……」
ハルカが地面に落ちていた覆面水着団のバッグを指さして口を開く。
「このバッグ、どうしましょう?あの人たちが置いていったみたいなんですけど……」
「まさか、覆面水着団が私のために!?」
「そんなわけないよ。ただの忘れ物でしょ」
「でも、このバッグかなり重いよ。中身はなんだろね?」
そう言ってムツキは勝手にバッグを開ける。
その中には大量の札束が入っていた。
3人が驚愕する横で、ハルカはポツリと呟いた。
「……これでもう、食事を抜かなくて済みますか?」
ブラックマーケットを抜けてアビドス高校に戻ってきた対策委員会と五条たち。
学校に就いたその時、ノノミがあることに気づいた。
「……あれ?現金のバッグ……置いてきちゃいました」
「別にいいでしょ。どうせ捨てるんだからさ」
「そうだね。誰かに拾われるでしょ、きっと」
楽観的に答える五条に、シロコも頷く。
「ですよね☆お金に困ってる人が拾ってるといいですね」
「あはは……良いことをしたって思いましょう」
ノノミとヒフミも良しと思うが、セリカは未練がましく文句を言っていた。
「うう……もったいない……どう考えてももったいなさすぎる!!まったくもう、みんなお人好しなんだから!!」
そう言いながら、アヤネが待つ対策委員会の部室へと向かうのだった。
その日の夕方、便利屋の事務所では、アルはずっと帰ってきても覆面水着団のことばかり考えていた。
覆面水着団のモットーを紙に書いて、便利屋の事務所に貼っておこうなどとずっと1人で呟く始末だった。
そんなアルを見て、ムツキは意地悪そうな笑みで、いつ気づくかとワクワクしていた。
ハルカは真実を言った方が良いのか、言わない方が良いのか考えてキョロキョロしていた。
この状況に、カヨコがため息をついてアルに真実を語ることにした。
「社長、覆面水着団のことだけど……あれ、アビドス高校の連中だよ」
「へー、そうなのねー…………えぇっ!?
な、ななななんですってーー!!!」
「あはは!アルちゃん、ショックウケてるー!」
ようやく真実を知ったアルを見て、ムツキは腹を抱えてゲラゲラと笑った。
そして、カヨコは頭を抱えるのだった。
「そ、そんな~」
アルの悲痛な叫びが夕焼けに寂しく消えていったのであった。
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