シャーレの五条先生   作:未来跳躍

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ようやく初めての戦闘描写です。
楽しかった半面、不安もありますが、よろしければどうぞ。


ゲヘナ風紀委員会

こちらに向かってくるゲヘナ風紀委員会の一個中隊。

誰一人、乱れることなく規則正しく統率された兵たちを率いる2人の少女、銀鏡イオリと火宮チナツ。

チナツが手を上げた瞬間、中隊の隊長が声を上げて伝令する。

 

「全体、止まれ!!」

 

その掛け声とともにビシッと止まったのを確認すると、イオリはイライラと靴を鳴らしてチナツに話しかける。

 

「めんどくさ、なんで攻撃しちゃいけないのさ」

 

軽い舌打ちをするイオリに、チナツはため息をつく。

 

「我慢してください、イオリ。物事には順序があります」

 

「うちの厄介者どもを捕まえる労力が惜しい。

 邪魔するなら、問答無用で――」

 

イライラするイオリに、チナツが口をはさんで説明する。

 

「まずはこちらの事情の説明、次に相手の事情を確認、それから交渉、それでどうしても解決しなければ戦闘」

 

「それ、必要?」

 

「相手は部外者です。意図してなかったとはいえ、先ほどの攻撃……本来な許されるものでは――」

 

チナツが言い切る前に、イオリは一人前に出ていく。

 

「わかったよ……それなら、私が手っ取り早く説明してくる」

 

そう言って勝手に歩いていくイオリに、チナツは止めに入るが大丈夫と言って聞かないままアビドス対策委員会の元へと歩んでいった。

 

 

 

「おーい、アルちゃーん?」

 

「アル様!?」

 

ムツキとハルカの声にアルは目を覚ます。

ゆっくりと上体を起こすアルに、カヨコは小さな声でアルに声をかける。

 

「社長、今すぐここを離れるよ」

 

「離れるって、なんで?」

 

そう尋ねるアルにカヨコは車の陰からのぞき込んで答える。

 

「風紀委員会が来た」

 

目をパチパチして状況を理解したアルが叫びそうになるところを、カヨコが口元を抑えて黙らせた。

 

「静かに、気づかれる」

 

便利屋が隠れている一方で、対策委員会も状況が呑み込めていなかった。

 

「どうして、ゲヘナの風紀委員会が?」

 

「突然攻撃してくるなんて!ここはアビドスよ!」

 

「状況的に私たちではなく、便利屋68を狙って……!?」

 

セリカとアヤネの言う通り、いくら便利屋68がゲヘナの学生だったとしても、アビドスが廃校寸前だとしても、アビドス自治区での無断で砲撃していい理由にはならない。

本来ならば、学区内で他校の生徒が起こした事件はその学区内の生徒たちが対応し、その後、その学校への引き渡しとなる。

 

「ホシノ先輩とまだ連絡はつかないの?」

 

「うん……普段はここまで連絡が取れないことはないのに……」

 

対策委員会では、セリカがアヤネにホシノとの連絡が取れないか確認するが、アヤネは首を横に振る。

そんな彼女たちのもとに、イオリが姿を現した。

 

「やあ、アビドス高校の諸君」

 

尊大な態度のまま挨拶するイオリに、対策委員会は警戒状態で身構える。

 

「ゲヘナの風紀委員会がなぜここにいらっしゃるんですか?

 それに、さっきの砲撃は?」

 

ノノミが武器を構えたまま尋ねると、イオリは態度を崩さないまま答える。

 

「ああ、ここに逃げ込んだ校則違反者にお灸を据えようと思ってな」

 

「それって、便利屋68のこと?」

 

「その通り。だからお前たちに用はない。さっさと撤退するならな」

 

「もし、しなかったら?」

 

セリカがそう聞くと、イオリは不敵な笑みを浮かべる。

それが答えだと一瞬で理解した。

 

「相手はあのゲヘナの風紀委員会。下手に戦えば大ケガします。

 それに、政治的な紛争の火種になることも……」

 

「こんなことされて悔しいですが、あまりにも戦力差が違いすぎます。

 ここは撤退するしか……」

 

ノノミの言葉にアヤネも同意する。相手はキヴォトスの三大校の一角、対してこちらは全生徒5名の弱小校。しかも、その中の一人は不在という。

しかし、シロコがそれに待ったをかけた。

 

「アヤネ、それはできない」

 

「そうよ、便利屋の連中にはちゃんと償わせないと!」

 

セリカもそれに同意する。

 

「で、でも……」

 

「何も関係ない大将をあんな目に遭わせて、はいそうですかって黙ってられないわ!」

 

その言葉にノノミとアヤネは互いに目を合わせる。そして、決意を固めて頷きあう。

 

「私たちは、撤退しない!」

 

そして、シロコが堂々とイオリに向かって啖呵を切ったのだった。

それを車の陰から見ていた便利屋68の面々は動揺を隠せなかった。

 

「あの子たち、風紀委員会の申し出を断った!?」

 

「うっそー!敵うわけないじゃーん」

 

ゲヘナにいたからこそわかっている、風紀委員会の恐ろしさを。

なのに、彼女たちは立ち向かうことを選んだ。

カヨコとムツキが呆れている中、アルは静かに呟いた。

 

「ねえ、やってしまったことをいつまでも後悔するのって、アウトローじゃないわよね」

 

「「え?」」

 

カヨコとハルカがキョトンとする。アルはそのまま続けて話しかける。

 

「自分のミスを他人に擦り付けて、こそこそ逃げるってのもアウトローじゃないわよね」

 

そんなアルを見て、ムツキは面白そうに笑う。カヨコが慌てて、アルを止めようとする。

 

「何言ってるの!?今はそんなことを言ってる場合じゃ――」

 

「アウトローって……私たちが目指すアウトローって、誰が相手でも自分の信念を曲げないことじゃない!」

 

そう言うアルの目は、いつもの情けないものではない。

気高い誇りを胸に抱いた炎が燃えていた。

その目を見たカヨコは何も言えなくなったのだった。

 

「それが答えってことでいいんだな?」

 

イオリの問いにシロコは首を縦に振る。嘆息した後、イオリの雰囲気が重くなるのを、対策委員会の面々は感じ取った。

 

「後悔するなよ!」

 

そこから放たれたイオリの弾丸が開戦の狼煙となった。

シロコのライフルが応戦するが、イオリはそれらをすべて躱していく。

互いに一気に距離を詰めて、最初に動いたのはシロコだった。真正面からの零距離攻撃に移ろうと銃を噛めた瞬間、下からイオリの銃で打ち上げられシロコの後方へと飛んでいった。

銃に意識が向いたシロコの僅かな隙をイオリは見逃さない。そのまま、振り上げた銃身をシロコの頭部目掛けて横に振り回す。シロコが上体を反らしてこれを回避するが、上体を反らしてがら空きになった腹部に蹴りを入れられて後方へと飛ばされる。

しかし、シロコも受け身をとってダメージを最小限に抑えつつ、飛ばされた銃を回収、そのまますぐ後ろにある車をバク中で飛び越えて隠れるのだった。

 

「やるじゃん」

 

そう笑ってイオリは銃を構えて発射する。放たれた弾丸は車を貫いて、シロコに襲い掛かる。とっさに、自分の銃で弾丸を防いだが、勢いは殺せずシロコは倒れた。

 

「シロコちゃん!!」

 

ノノミがガトリング砲の連射でイオリを撃つが、彼女は華麗なステップで後方に後退して、乗り捨てられた車を盾にする。ノノミのガトリングが車に穴をあけて爆発を起こす。しかし、この爆発はノノミにとって悪手になってしまった。爆発の黒煙がノノミの視界を遮り、動けなくなったところを、イオリは上空に高く跳び上からの奇襲を許してしまった。何とかガトリングで上空からの蹴りを防いだのは良かったが、イオリはその体勢のまま銃を構えて発射する。至近距離の弾丸を避ける術を持たないノノミは、腹部に弾丸を食らって倒れるのだった。

 

「この……よくも!!」

 

セリカが銃を構えて撃とうとするが、イオリに一瞬で背後をとられてしまう。慌てて振り返るセリカの鳩尾に、逆手に持ったイオリの持ち手が突き刺さる。

慌ててアヤネが自分の拳銃で、倒れたセリカから守るために発砲するが、オペレーターであるアヤネは銃の扱いがそれほど得意ではない。それをすぐに見抜いたイオリは、一瞬で距離を詰めてアヤネの持つ拳銃を豪快な回し蹴りで弾くのだった。そして、後ろによろけて座り込んだアヤネに銃身を向ける。

 

「ふん、大したことのない奴らだ」

 

イオリはそう呟いて引き金を引こうとしたその時。

 

「ちょっと、ちょっとー!みんな情けないなーもう……」

 

声のする方向に、イオリが振り向く。そこには頭をかきながら、気怠そうな態度で出てくる五条の姿があった。

 

「あんた、何者?」

 

イオリがそう尋ねた時、チナツが慌てて走ってくる。

 

「待ちなさい、イオリ!……あれは、五条先生っ!?」

 

チナツが五条の姿を発見して、驚愕の表情を露わにする。チナツの言葉にイオリはすぐに反応する。

 

「先生……ってことは、あんたはシャーレの――」

 

イオリが言い切る前に、倒れていたシロコが起き上がってイオリに向けて発砲する。すぐに殺気を感じ取ったイオリは後方へ飛んで、軽い舌打ちをしてチナツの方へと近づいていく。

五条はチナツに向けて元気に手を振って挨拶をする。

 

「ヤッホー!久しぶりだねー、チナツー!」

 

「やっぱり、先生だったんですね。まさか、こんなところでまたお目にかかるとは……。

 先生がここにいらっしゃると知っていたら……私の失策です」

 

起き上がったアヤネがチナツに向けて説明を要求する。

 

「私はアビドス対策委員会の奥空アヤネです。ゲヘナの風紀委員会とお見受けしますが、これは一体どういうことなのでしょうか?」

 

「そ、それは……」

 

『私から答えさせていただきます』

 

答えを言い淀むチナツに代わるかのように、突然飛来してきた1機のドローンから声が聞こえた。

そして、そのドローンから立体映像として一人の少女が映し出されるのだった。

 

『こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属の風紀委員会行政官、天羽アコと申します。

 それでは改めて、対策委員会のみなさん、この度は失礼いたしました』

 

そう謝るアコだが、誰もそれを受け入れられなかった。

なぜなら、その後ろで、多数の風紀委員会の生徒たちが、一斉にこちらに向けて銃を構えているのだから。

 

「そう思うなら、銃を下ろしてからにしてもいいですか」

 

『これはこれは……全員、銃を下ろしてください』

 

アコがそう言うと、風紀委員たちは一斉に下すのだった。

本当に下したことに、セリカは驚愕する。

 

『さて、先ほどまでの愚行については、私の方から謝罪させていただきます』

 

「愚行って……!?私は、命令通りにやったんだけど……」

 

反論するイオリに、アコは静かに問いかける。

 

『イオリ、反省文のテンプレートがどこにあるか、ご存じですよね?』

 

「ちょ!?アコちゃん!?」

 

『命令にまずは無差別に発砲せよ、なんて言葉が含まれていました?』

 

「い、いや……それは……」

 

どんどん言葉を濁していくイオリに、アコは淡々と詰め寄っていく。

 

『ましてや、ここはゲヘナではありません。余所の学園自治区の付近なのだから、キチンとその辺りを注意するのが当然でしょう』

 

「う、うぅ……」

 

言い返せなくなるイオリに、アコは静かな笑みで再び問いかける。

 

『改めてイオリ、反省文の場所はご存じですね?』

 

「……アコちゃんの机の左の引き出し」

 

力なくうなだれてしまうイオリに、アコは『よろしくお願いいたしますね』と笑顔で返すのだった。

 

『それでは本題ですが、私たちはあくまで学園の校則違反者を捕える為に来ました。

 風紀委員会の活動にご協力いただけませんか?』

 

そう笑いかけるアコに、アヤネが唾を飲み込んで聞き返す。

 

「それはお願いでしょうか?それとも――」

 

『お願いですよ。今はまだ、ね』

 

そう笑いかけるアコの後ろに立つ風紀委員会の生徒たちがこちらを睨みつける。

その意味をアヤネはすぐに理解した。理解した上で、彼女の答えは決まっている。

 

「……飲むことはできません」

 

『あら、どうして?』

 

「ここは、私たちの自治区です。そこで堂々と戦闘行為をするなんて、明確なルール違反です。

 便利屋68の処遇は私たちで決めます」

 

『シャーレの先生も同じご意見ですか?』

 

アコに話を振られた五条はニヤニヤと軽薄な笑みを浮かべて毅然と答える。

 

「そうだねー、僕もアビドスの子たちに賛成かな」

 

『それはなぜ?』

 

「面白いから」

 

『……は?』

 

ニッと笑う五条に、アコは理解できずにポカンとする。

そんな彼女に、五条は笑って続ける。

 

「自分たちが強いと思い込んでいるバカを返り討ちにする方が面白いでしょ」

 

『……!?ずいぶん頓狂なことを言いますね。勝てると思ってるんですか』

 

額に青筋を浮かべながらも笑みを崩さないアコに、五条はさらに自信満々の様子で返す。

 

「勝つさ!

 この子たちを誰だと思ってるんだい?

 僕の自慢の教え子たちだよ」

 

「先生……」

 

シロコたちがそれを聞いて嬉しそうに微笑んだ。

 

「それに――」

 

『ん?』

 

「そんな恥ずかしい服着てる女に、負ける方が恥ずかしいっしょ!」

 

五条がアハハと笑いながら、とても自然に入った煽りに風紀委員たちの空気が凍り付く。

風紀委員会の生徒たちが恐る恐るアコの方に目を遣る。

俯いたままプルプルと震えるアコに、風紀委員たちは震えあがった。

 

「あ、アコちゃ……」

 

「行政官、どうか冷静に……」

 

イオリとチナツが宥めようとするが、それを待たずして、アコは勢いよく顔を上げて大声で命令を下す。

 

『全員、攻撃準備!!あのバカ目隠しをコテンパンに分からせてやりなさい!!』

 

風紀委員たちがすぐに銃を構えたその瞬間、彼女たちの隊列の中に何かが投げ込まれた。

足にコツンと当たった風紀委員の生徒は顔を下げてそれを覗き込んだ。

それは、手榴弾だった。気が付いた瞬間には爆発を起こして、数名が吹っ飛んでいった。

 

「な、何!?」

 

無論、これは対策委員会のものではない。彼女たちも混乱する中、爆炎に包まれた風紀委員たちはパニックに陥っていた。

 

「落ち着け!周囲を警戒……っ!?」

 

イオリがパニックになった風紀委員たちを落ち着かせようとした瞬間、後ろに殺気を感じて慌てて振り返る。

そこに、銃を構えたハルカが恐ろしい顔で、イオリに迫ってきた。

 

「よくもアル様を……!!

 許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないうわあああ!!」

 

発砲しながら向かってくるハルカから距離をとるために、後ろに後退するイオリ。

しかし、後退したその時、彼女の耳にピーっと鳴る電子音が聞こえた。それは仕掛けられた爆弾の起爆装置が作動した音だった。

回避する暇もなく爆発に巻き込まれたイオリは吹っ飛ばされていった。

 

「イオリ!」

 

心配するチナツにも、突然の攻撃で彼女の横にいた風紀委員が倒れていく。

 

『なっ!?』

 

目の前に現れた集団を見て、アコは何が起こったのかようやく理解する。

 

「さあ、楽しい時間の始まりよ!」

 

優雅に佇むアルを筆頭に、便利屋68が対策委員会の横に現れたのである。

突然現れた便利屋68に反応するのは、風紀委員会だけではない。

対策委員会の彼女たちも驚愕するが、セリカがすぐに銃をアルに向ける。

 

「あんたたち、よくも大将を――」

 

「悪かったわ」

 

突然の謝罪と罪悪感に苦しむアルの顔を見て、セリカは何も言えなくなってしまった。

 

『そちらから姿を見せるとは……探す手間が省けて助かりました』

 

目の前に現れた便利屋68を見たアコは笑って指を鳴らす。すると、それを合図に続々と増援が現れて、対策委員会と便利屋68は囲まれてしまうのである。

 

「二重の包囲か……」

 

「ま、そんな簡単にはいかないよねー」

 

カヨコとムツキは流石に今ので突破できるとは思っていなかったが、想像以上の増援に肩をすくめた。

 

『これは偶然ですね。便利屋を追ってアビドスに来たら、シャーレと出会えるなんて』

 

「白々しいね、アコ」

 

『あら?』

 

カヨコの言葉に、アコがわざとらしく首をかしげる。

そんなアコに、カヨコはそのまま答え合わせを続ける。

 

「偶然なんかじゃない。あんたが狙ってたのはこの状況。

 態々アビドスまで私たちを捕まえるためにこの兵力、無駄が多すぎる。

 あの風紀委員長なら絶対にしない。あんたの目的はシャーレ、最初からこの先生が狙いだったってことだ」

 

そう言ってカヨコは五条へと目を向ける。それを聞いて五条はキョトンとするも、すぐにいつもの軽薄な笑いをする。

 

「僕?いやー人気者はつらいねー」

 

「それはどうことなんですか?アコ行政官」

 

チナツがアコに聞くと、アコは嬉しそうに語り始める。

 

「流石カヨコさん、お察しが良いようで。いいでしょう……せっかくですし、この際、事の次第をお話ししましょう。

 きっかけはティーパーティーでした。ゲヘナ学園と長らく敵対しているトリニティ総合学園、その生徒会がシャーレに関する報告書を手にしている。そんな情報がうちの情報部から挙がってきまして。

 当初は私もシャーレとは一体何なのか全く知りませんでしたが、ティーパーティーが掴んでいる情報ならば、私たちも知る必要があります。

 それで、チナツさんが以前にシャーレの先生と出会った報告書があったことを思い出して確認しました」

 

(もうだいぶ前のことなんですけど……)

 

チナツの方に目を向けるアコに、チナツは心の中でため息をついた。

そしてアコは、話を続ける。

 

『連邦生徒会長が遺し、そちらのバ…コホン、先生が担当する正体不明の組織、それがどんな影響を及ぼすのか、分かったものじゃありません。

 ですから、せめて、エデン条約が締結されるまでは、私たち風紀委員会の庇護下に先生をお迎えさせていただきたいのです』

 

「ねえ、あの子……今、僕のことバカって言おうとしなかった?」

 

「先生、あの今は大事な話し中ですので……」

 

横にいるアヤネに、アコを指さして文句を言う五条。それにアヤネはヒソヒソと注意をするのだった。

そして、シロコとセリカが前に出て、その要求を声を上げて蹴っ飛ばす。

 

「ふざけたこと言わないで!」

 

「先生は渡さない!」

 

もちろん、ノノミとアヤネも口にしていないが、思いは同じでそれが顔に表れていた。

そんな対策委員会の覚悟を目の前にして、アコは残念そうに口を開いた。

 

『やはり、こういう展開になりますか……。

 私たちも必要な対処とあらば、止むを得ません。

 委員長に知られてしまったら、イオリと仲良く反省文ですね』

 

「アコちゃん!?」

 

『たった5人で勝てると思っているのですか?』

 

「9人よ!」

 

アルの言葉に、対策委員会が目を丸くする。

 

「風紀委員会の標的はあなたたちじゃないんですよ!」

 

そういうアヤネに、アルは静かに答える。

 

「この状況で借りも返さず逃げるなんて、そんなの三流の悪党がすることよ」

 

「わーお!言うねえ、アルちゃん!」

 

「あの生意気な風紀委員会に一発食らわせないと、気が済まないわ」

 

そのアルの言葉にシロコとセリカは頷いた。

そして、セリカは少し恥ずかしそうに口を開く。

 

「……黒見セリカよ」

 

「?」

 

「一緒に戦うんだから、名前くらい覚えときなさい……バイトちゃんじゃ、ないんだから……」

 

そう言われて、アルはフフッと笑って彼女も紹介を返す。

 

「陸八魔アルよ」

 

それに続いて、残りの便利屋の面々も自己紹介する。

 

「鬼方カヨコ」

 

「浅黄ムツキだよー」

 

「い、伊草ハルカです。よろしくお願いします」

 

次に対策委員会の紹介も始まる。

 

「十六夜ノノミです☆」

 

「私は奥空アヤネです」

 

「砂狼シロコ」

 

そして、最後にこの男が名乗りを上げる。

 

「そして、最後に名乗るはこの僕ことスーパーパーフェクトマスターグレートミラクルアルティメットティーチャーの――」

 

「五条悟、知っての通りシャーレの先生ね」

 

「……」

 

「先生、ドンマイ」

 

「大丈夫ですよー、私は先生の良さを知ってますから☆」

 

セリカにオチを取られて体育座りでいじける五条の肩にシロコとノノミが手をのせて慰める状況に、アルとカヨコはどういう反応すればいいのか分からず戸惑っていた。

アヤネが引き攣った笑みで頭を下げる。

 

「大丈夫です、気にしないでください」

 

「あははー!面白ーい!」

 

いつもの五条に振り回される対策委員会と便利屋が仲良く話しているのを見て、アコは咳払いをして口を開く。

 

『まさか、あなたたちが共闘するなんて……まあいいでしょう。

 風紀委員会の恐ろしさを嫌というほど――』

 

言葉を待たずにムツキがアコに発砲する。立体映像であるアコにダメージはないものの、自分の話も聞かずに撃ってくることに腹を立てる。そこに、この男がナチュラルにアコを煽り立てるのである。

 

「話が長いね、もしかしてビビってる?」

 

軽薄な笑みで自然に煽る五条の言葉に、アコの堪忍袋の緒が切れる。

 

『総員、攻撃開始!!』

 

一斉に向かってくる風紀委員会達に、対策委員会と便利屋が迎え撃つ。

ノノミとハルカが左舷を、セリカとムツキが右舷を、そして、シロコとアルが正面に回って走り出す。

敵に向かって躊躇なく突き進んで攻撃をするハルカに、ノノミが後方でアシストをする形で迎撃をする。

ハルカは攻撃を受けても、自身のショットガンをぶれずに構えて撃ち続ける。

しかし、建物の陰に隠れていた風紀委員会の生徒が後ろからハルカを狙おうと身を乗り出したその時、後方のノノミのガトリングを全身に喰らって倒れるのだった。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「いえいえこちらこそ」

 

ペコペコと頭を下げるハルカに、ノノミは笑顔で返す。

その後ろでチナツが自身の拳銃でハルカの頭部に照準を合わせていた。

それにノノミが気付き声を上げる。

 

「ハルカさん後ろ!」

 

ノノミに声を出されて気づかれたチナツは慌てて銃を発砲するが、ハルカがそれを紙一重でかわす。

すぐさま駆け出してチナツへの距離を詰めていく。チナツがすぐに攻撃しようとするが、ハルカが先に後ろに回って自身のショットガンをチナツの腕に絡めて関節を極める。

関節を極められたチナツの眼前に、ノノミのガトリングの銃身が突き付けられる。

 

「銃を捨てて、降伏してください」

 

そう言われて、チナツは諦めて銃を放して両手を上にあげるのだった。

一方、右舷のセリカとムツキは、ムツキが投げた束になったダイナマイトをセリカの狙撃によって束になった接合部を打ち抜くことで、ダイナマイトがほどけて拡散されて落ちていく。

急に爆弾の範囲が広くなったことで、対応に遅れた風紀委員会たちが爆発に巻き込まれて吹き飛ばされる。

 

「さあ、どんどんいくよー!」

 

そうして、ムツキは次に手榴弾を投げる。放物線を描いて、風紀委員会の集団に向かって飛んでくる手榴弾。

風紀委員生が慌てて逃げる中、駆け出したイオリが逆手に持った自身の愛銃をバットのように構えて、飛んできた手榴弾を打ち返すのだった。

 

「あれ、マジ?」

 

驚くムツキの背後に打ち返された手榴弾が戻ってきて、セリカとムツキは急いで前方に走って逃げだす。爆発から逃れたものの、彼女たちの前にイオリが立ちはだかる。

 

「出てきたな、子鼠ども。今度こそ、タダじゃ置かない!」

 

こちらに向かってくるイオリに、ムツキが小型爆弾を地面に投げつけて煙幕にする。

煙幕に舌打ちをして、そのまま真っ直ぐ突き進み煙幕から抜け出すイオリ。

しかし、セリカとムツキの姿はそこにはおらず、辺りを見回していると、後ろの煙幕から他の風紀委員会たちの断末魔の叫びと倒れる音が聞こえる。

しまったと思ったのも束の間、煙幕が風で消えていきそこには、倒れる風紀委員生とニヤニヤと笑うムツキがいた。

 

「貴様……!」

 

イオリが鬼の形相で睨み付けても、ムツキは笑みを止めなかった。

ムツキのライフルが一斉にイオリに向かって放たれるが、イオリは俊敏な動きでそれをかわして、チーターのような動きで一気にムツキに向かって駆け抜ける。

 

「早っ!?」

 

焦るムツキにイオリは逆手に持った銃を振り上げる両腕を交差させて守ろうとするムツキだが、力では敵わず彼女は後ろに弾き飛ばされる。

しかし、そんな状況でムツキは笑っていた。そして、彼女は相方に向けて話す。

 

「任せたよ、バイトちゃん」

 

そんなムツキの言葉をイオリが聞いた時には、すでに遅かったのだった。

先ほどムツキが持っていたカバンがいつの間にか自身の足元に置かれていた。

それをセリカが後方から狙う。

 

「私は、バイトちゃんじゃない!」

 

そう言って、放たれたセリカの銃弾はカバンに命中する。

カバンの中には、ムツキの爆弾がぎっしりと入っており、銃弾が当たったことで爆発を起こす。

爆発ですぐ下のマンホールの蓋が飛ばされて大きな音を立てて地面に落下した。

そして、黒煙が晴れて中からマンホールの穴から上半身を出してしがみついてるイオリが姿を現す。

そんな、彼女の前にセリカとムツキが出てくる。

 

「さーて、どうしようっかー?」

 

「よくも子鼠呼ばわりしてくれたわね」

 

そういう二人に、イオリはしがみついたままで睨みつけて噛みつく。

 

「こんなマネしやがって……!どうした、かかってこい!」

 

そんなイオリにセリカが近づいて口を開く。

 

「じゃあね、子鼠さん」

 

そう言って、セリカは足でイオリの腕を軽く掃った。しがみついてる腕が解けてイオリはそのまま叫びながら下水道へと落ちていくのだった。

それを見たセリカとムツキは笑ってハイタッチをして勝利を分かち合うのだった。

 

「セリカちゃんとノノミ先輩から報告!ともに敵勢力を鎮圧しました!あとはお願いします、シロコ先輩!」

 

アヤネが報告を受けて、正面で戦うシロコに目を向ける。

シロコとアルが背中合わせで戦う中で、アルが口を開く。

 

「さっきは邪魔が入っちゃったけど……あのまま戦ってたら、どうなってたかしらね?」

 

そう聞かれたシロコは顔を後ろに向けて静かに答える。

 

「そんなの、決まってる」

 

その目を見たアルも不敵に笑う。アルもシロコと同じ目をしていた。

 

「確かに決まってるわね……」

 

その言葉と同時に、二人は一斉に振り返って銃を突きつけあう。

 

「「私たちが、勝つ!!」」

 

その言葉と同時に二人は前に飛び出して、同時に攻撃を開始する。

そこに言葉はなく、合図もない。しかし、二人は互いに背中を任せる。

互いが互いをカバーした連携で風紀委員会たちを次々と打倒していく。

目の前の二人に手こずる様子を見たアコは、最初に使用した迫撃砲を用意する。

 

『撃ちなさい!』

 

その号令と共に発射される迫撃砲に、シロコとアルは離れて遮蔽物に隠れる。

このままでは隠れ続ければジリ貧になる。しかし、目の前に出れば、迫撃砲の餌食になる。

その時、シロコはすぐ近くに落ちていたあるものを見つける。

 

『ふふふ、あなたたちが手を組んだところで、この戦力差の前には手も足も出ないことが――』

 

そう余裕を見せるアコは、爆炎の中から出てくるシロコに反応する。

左手に迫撃砲で大破した自動車の扉を盾にして突っ込んでくるシロコ。

それを見た風紀委員会たちは一斉に攻撃を開始するが、シロコは扉で防いでいく。真正面に向かってくるシロコに注意が集まることで後方のアルの狙撃で、一人また一人と風紀委員会の生徒が倒れていき、さらにそこからシロコが白兵戦で一気に相手の陣形を瓦解させていく。

 

『次弾、装填準備!』

 

アコに言われて迫撃砲に次の弾が装填されて発射される。放たれた砲弾はシロコ目掛けて落ちていく。爆発を起こした様子を見て、ひとりの風紀委員会の生徒が静かに呟く。

 

「やったか……っ!?」

 

呟いた瞬間に、自分に影が落ちていく。その上空を見上げると、ドローンにぶら下がったシロコがそこにいた。

上からの銃撃で倒していくシロコを墜とすため、次の迫撃砲の次弾を込めて発射する瞬間に、アルの狙撃が迫撃砲の砲身を捕らえる。銃弾で砲身が真上に向いたまま、発射された砲弾はそのまま落下して風紀委員会の陣地で爆発をした。

迫撃砲の誤爆で混乱する風紀委員会にシロコは引導を渡す。

 

「これでお仕舞!」

 

ドローンから放たれた大量のミサイルで風紀委員会たちは地に伏して、アコだけが残るのだった。

アコは静かに口を開く。

 

『なるほど……素直に要求は聞いてもらえないようですね』

 

「この状況になっても、よくまだそんなことが言えるわね」

 

「そろそろ降参したら?」

 

アルとシロコの言葉にアコは不敵な笑みを浮かべる。

 

『まだわからないんですか?私たちの要求を呑むしかないということが……。

 後方にはまだまだたくさんの兵士たちが控えて――』

 

「アコ」

 

『え?』

 

突然背後から自分を呼ぶ声に、アコは止まる。その声はこの場にいるはずのない声なのだから。

恐る恐るアコは振り返る。そして、その相手を見てアコは驚愕する。

 

『ひっ、ヒナ委員長!?』

 

そこにいたのは、ゲヘナの風紀委員会のトップである空崎ヒナだった。

 

「この状況、キチンと説明してもらう」

 

ヒナの冷たい言葉に、アコは慌てて弁論する。

 

『委員長、これはですね!?そ、その……素行の悪いたちを捕まえようと……』

 

「便利屋68のこと?どこにもいないけど」

 

『あはは、何を言ってるんですか?ここに、あれ?

 そんな馬鹿な!ここにいたはず!?』

 

ヒナの言う通り、アルたち便利屋68の姿はどこにもいなくなっていた。これにはアコだけではなく、すぐ横にいた対策委員会のみんなも驚いていた。

ただ一人の男を除いて――。

 

『委員長、これは事情がありまして!』

 

アコが説明しようとするが、ヒナはため息をつく。

 

「いや、もういい。大体把握した。

 アコ、私たちは風紀委員会であって、生徒会ではない。

 そういった面倒なことは『万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)』のタヌキたちに任せておけばいい」

 

『そ、それは……』

 

「詳しい話は帰ってから。校舎で謹慎していなさい」

 

ヒナの鋭い眼光にアコはこれ以上何も言えず、『はい』と項垂れて彼女の映像は消えるのだった。

「さて」と対策委員会の方へと向き直るヒナに、アヤネが口を開く。

 

「ゲヘナの風紀委員長、この状況についてはすでに理解されてますでしょうか?」

 

「ええ。事前通達なしの他校自治区の無断兵力の運用、および、他校生徒たちとの衝突」

 

「はい、つまり――」

 

ヒナが状況を理解していることを知ったアヤネは、このまま風紀委員会を撤退するように交渉に持ち込もうとした瞬間、ヒナが「けれど」と口をはさんでアヤネの言葉を止めて鋭い眼光で睨んで続ける。

 

「そちらが我々の公務を妨害して、多数の負傷者を出したことも事実。違う?」

 

ヒナの威圧感にアヤネたちが臆した瞬間、いつもの気だるげな感じで割り込んでくる見知った顔がやってきた。

 

「うへ~、こいつぁまた……すごいことになってるねー」

 

「ホシノ先輩!」

 

ようやくやってきたホシノにセリカが小言のように声を上げる。

 

「もう!今までどこに行ってたのよ!」

 

「うへ~、ごめんよーセリカママー」

 

「誰がママよ!」

 

アヤネも同じくホシノに心配そうな顔で声を上げる。

 

「全然連絡がつかないから、心配しましたよ」

 

「いやー、あまりのお昼寝日和だったから、ついね?」

 

セリカとアヤネが「もう!」とプンプンして、ノノミはあらあらと微笑んでいる中、シロコと五条がそれを黙って見ていた。

一方、ヒナは突然やってきた生徒がホシノと呼ばれたことに、とある疑問が胸の中で出てきた。

もしや、この少女があの小鳥遊ホシノ(・・・・・・)なのではないかということに。

そう考えているうちに、足を止めたホシノがヒナに向けて尋ねる。

 

「事情はよくわかんないけど、こんなに大勢連れてどうしたの?風紀委員長ちゃん」

 

「……一年生の時とはずいぶん変わった、人違いじゃないか思うほどに」

 

そう答えるヒナに、ホシノは反応する。

 

「おっ!私のことを知ってるの?」

 

「情報部にいた頃、各学自治区の要注意生徒たちをある程度把握してたから」

 

「うへへ~、おじさんもしかして、有名人?」

 

少し照れ臭そうに頬をかくホシノ。そんなホシノから目を離さず警戒したまま、話を続ける。

 

「小鳥遊ホシノ、あなたを忘れるはずがない。

 あの(・・)事件の後、アビドスを去ったと思ってたけど……そうか、だからシャーレが……」

 

そう言ったヒナは視線をホシノから五条へと移す。

 

「なーに?ちゃんと自分の気持ちを言葉にしてくれないと、おじさん困っちゃうなー?」

 

和やかな笑顔を見せるホシノに、ヒナは一息入れた後、後ろの風紀委員会に伝令をかける。

 

「撤収準備」

 

その言葉に後ろにいた風紀委員会の生徒たちは困惑する。

さらに、次のヒナの行動で彼女たちはより困惑するのだった。

なぜなら、ヒナが対策委員会に向けて頭を下げたのだから。

そして、ヒナはその姿勢のまま謝辞を述べる。

 

「事前通達なしでの無断兵力運用、そして、他校自治区で騒ぎを起こしたこと。

 このことについては、ゲヘナ風紀委員長空崎ヒナより、アビドス対策委員会に公式に謝罪する」

 

そう述べた後、後ろにいる風紀委員会の生徒たちに再度伝令をかける。

 

「撤収、行くわよ」

 

その言葉とともに、風紀委員会の生徒たちは急いで撤収作業に入る。

そして、ヒナは五条の元へと歩んでいき、彼の横で止まった後、ボソッと言葉を残して去って行ったのだった。

シロコが五条に尋ねる。

 

「先生、今なんて?」

 

五条は少し考えた後、人差し指を口元に当てていたずらっぽい口調で答える。

 

「えーっと、ねえ……大人のひ・み・つ」

 

ムスーっとふくれっ面になるシロコに笑いながら「冗談だよ」という五条。

 

「アビドスの捨てられた砂漠、あそこでカイザーコーポレーションが何かを企んでいる」

 

ヒナに言われた言葉を思い出して、五条は考えていく。

砂漠に何があるのか、カイザーコーポレーションがアビドス高等学校を奪うことに関係するのか、頭の中で情報を整理して、とりあえず、後でみんなには報告しようかと結論を出した。

一方、ホシノはノノミたちに状況を伺う。

 

「いやー、おじさんいまだに状況が分かってないんだけど、何があったの?」

 

「しっかりしてよ、ホシノ先輩!」

 

「そうですよ、肝心な時にいないんですから!」

 

セリカとアヤネに怒られるホシノは、五条に困った顔を向ける。

 

「うへ~、先生~二人が厳しいよー!」

 

「あははー、アヤネママとセリカパパは教育熱心だねー」

 

「「もう、先生!」」

 

いつものようにみんなが笑っている中、シロコが少し胸の中にある小さな不安を残したまま、ホシノを見るのだった。




ゲヘナ正月イベントが常設化!
ブルアカ初めて1月半のぺーぺーですが、美食研と給食部は推しなので、全員揃えたいですね!
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