シャーレの五条先生   作:未来跳躍

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今回はホシノと五条の心境を書いたところが、一番のお気に入りです。
もうすぐ、4月になることに驚きです。Gquuuuuuxが楽しみですね。


アビドス砂漠へ

2年前、アビドス高校生徒会室。

 

『――ちゃん、ねえねえ聞いてってば、ホシノちゃん』

 

『……何ですか?』

 

自分を呼ぶ能天気な声に、ホシノは冷たく答える。

 

『じゃじゃーん、見てこれ!』

 

『砂祭り……』

 

自信満々に広げられたポスターは、古い祭りのものだった。自分はもちろん目の前の彼女だって、知らないであろうはずの古い祭りのポスターを引っ張り出してきたのだろう。

 

『この時はまだ、オアシスが湖みたいに広がってたんだよねー!

 はい、これ!記念にあげる』

 

手渡されたポスターを見つめて、彼女は嬉しそうに語り始める。

 

『ふふーん、すっごく素敵でしょー!もし何か奇跡が起きたら、またこの頃みたいに、人がたくさん――』

 

『奇跡なんて、起きっこないですよ。先輩』

 

楽しそうに夢を語る彼女を、ホシノは吐き捨てるかのように切り捨てる。

 

『ふえっ!?』

 

『そんなものあるわけないじゃないですか!それよりも、現実を見てください』

 

ホシノの冷たい言葉に、彼女は「はうぅ」とシュンとなって縮こまる。

 

『こんな砂漠のど真ん中に人が来るはずないでしょう。夢物語もいい加減にしてください』

 

『うぅ、だってー……ごめんねー』

 

謝る彼女に、ホシノは余計に苛立つ。彼女は自分の立場をもう少し考えてほしい。学校を存続させるのに、手一杯の今の状況で、オアシスが復活して祭りができるなど、夢物語にも程がある。そんな彼女に対する日々の小さな鬱憤がホシノの限界を超えた。

 

『そうやって、ふわふわと奇跡だのなんだのって、あなたはアビドスの生徒会長なんですよ!もう少し、その肩に乗っかている責任を、自覚したらどうなんですか!』

 

そう言い捨てて、ホシノは手渡されたポスターを破り捨てた。

そして、そのまま黙って部屋を後にするのだった。

ただの何気ない些細な喧嘩、明日になれば今日のことなんか忘れて、またいつもの毎日が起こる出来事だ。

そう、なるはずだったのに――。

 

 

 

「おはよう、シロコちゃん……」

 

シロコが校舎に入った時、ホシノが声をかけてきた。昨日のことがあったためか、二人の間に気まずそうな沈黙が続く。

ホシノは覚悟を決めて、いつもよりどこか硬そうな笑顔で口を開いた。

 

「あのさ、シロコちゃん……ちょっと、いいかな……?」

 

ホシノの言葉にシロコは無言で頷いた。

二人は屋上へ場所を移す。今日も快晴のいい空が広がる屋上で、二人は互いに顔を合わせず黙っていたが、ホシノがそのままの状態で少し気まずそうに謝るのだった。

 

「昨日は、ごめんね……」

 

「ううん、私も一方的に……」

 

「おじさんのこと、気にかけてくれてたんだよね」

 

「それは、当たり前。私たちは五人全員でアビドス対策委員会なんだし」

 

シロコの言葉にホシノは、少し微笑むのだった。

 

「嬉しいこと言ってくれるねー」

 

「ねえ、ホシノ先輩……先輩が何を隠してるかはわからないけど、私は先輩を信じるよ」

 

そう優しく話しかけるシロコに、ホシノはまた嬉しそうに笑みをこぼす。

 

「私は本当にいい後輩を持ったなー……」

 

ホシノの言葉はアビドスの晴れ渡る空へと消えていくのだった。

 

 

 

対策委員会の定例会議、先日の調査の結果が判明したので、本日は五条も会議に参加していた。

アヤネがどこか暗い表情で口を開く。

 

「みなさん、以前にアビドス自治区の土地が第三者の手に渡っていたというお話がありましたよね。

 それを調査した結果……現在、アビドス自治区の土地の所有者は『カイザーコンストラクション』という企業であるということが発覚しました」

 

アヤネの報告を受けて、シロコが椅子を倒す勢いで立ち上がる。

 

「ということは……やっぱり、カイザーコーポレーションが!?」

 

シロコの言葉に、アヤネははいと肯定する。そのまま端末を操作して、アビドス自治区の土地の状態を記した地図をみんなに見せるのだった。

 

「この校舎とその周辺以外の一部以外、砂漠に覆われてしまったアビドス高校本館とその周辺数千万坪の荒れた土地、さらには市内建物や土地までもが所有権を書き換えられていました」

 

「そんな……!?」

 

ノノミも驚愕の事実に言葉を失っていた。

 

「だけど、どうして?自治区の土地を売りに出すなんて、普通はできない――」

 

「アビドスの生徒会だろうね」

 

シロコの疑問に、ホシノが静かに答える。それを聞いて、アヤネも頷いた。

 

「はい、その通りです。取引の主体は、生徒会でした」

 

「ホント、何やってんのよ!生徒会は!!

 アビドスの土地をあいつらに渡すなんて、どうかしてるでしょ!!」

 

セリカが今はいないアビドスの生徒会に対して怒りをぶつける。

それをホシノは黙って聞いていた。

 

「それぞれの学校の自治区は、その学校に帰属する。当たり前の常識です。

 私たちは借金にばかりに気を取られて、このことを見抜くことができませんでした」

 

ノノミの言う通り、学校の土地は学校のものである。そんな当たり前を持っているからこそ、その当たり前の虚を突いた相手の策略に対策委員会、いや、アビドス高校はまんまと踊らされていたのだった。

 

「すいません、私がもっと早くに気づくことができていれば……」

 

責任を感じて気落ちするアヤネに、ホシノが励ますために声をかける。

 

「いや、アヤネちゃんの気にすることじゃないよ。これはみんなが入学するより前の――」

 

「あっ、そういえば……ホシノ先輩も生徒会に所属されていたんですよね?」

 

「えっ、そうだったの!?」

 

唐突なノノミの言葉にセリカは驚愕と同時に、先ほどの言葉にバツが悪そうにホシノを見る。

 

「そういえば、ホシノ先輩は副会長だったんですよね?」

 

「えへへ……まあ、そんなこともあったねー。と言っても、会長と私の二人しかいなかったけどねー……」

 

少し気恥しそうに答えるホシノに、五条がいつものように笑って口を開いた。

 

「二人だけの生徒会……大変そうだねー」

 

ホシノはそれに頷いて答える。

 

「うん、そうだよ。その時は在校生も二桁になってたし、教職員もいなくて授業も当の昔に途絶えてた。

 生徒会室もただの物置みたいになってたし、会長は無鉄砲で校内随一のポンコツ。私の方はイヤな性格の新入生でさー……。何もかも滅茶苦茶だったよ」

 

「どんな生徒会よ……」

 

「まあ、肩書だけのお馬鹿さん二人が集まっただけだからね……。いやー、あの時はあちこちウロウロしまくって、ホントに馬鹿みたいに何も知らないままでさ……」

 

どこか自虐的に笑うホシノに、シロコがそれを否定する。

 

「ホシノ先輩が責任を感じることじゃない。昔の事情は知らないけど、対策委員会ができたのは間違いなくホシノ先輩のおかげ」

 

「……え?」

 

「ホシノ先輩は怠け者だし、いろいろとはぐらかしてばっかりだし、ダメなところもあるけど……でも、大事な時は誰よりも前に立つし、私は尊敬している」

 

「うぇっ!ど、どうしたの、シロコちゃん!?

 そんな急に青春っぽいこと言っちゃって……!?」

 

突然のシロコの言葉にテンパって照れだすホシノを、五条たちは優しく見守っていた。

話はアビドス自治区の土地の問題についてに戻る。

 

「でも、どうしてアビドス生徒会はカイザーコーポレーションに土地を売ったの?」

 

問題の根幹をセリカが尋ねる。

なぜ、アビドス自治区の土地を手放すことをしたのか、それを答えたのはホシノだった。

 

「たぶん、借金を返すためだろうね。私も関わってないから、ただの推測だけど、学校を守るために色々と起きちゃったんじゃないかなーって、思ってる」

 

「私もそう思います。ですが、砂に覆われたアビドスの土地に高値が付くはずもなく、利子程度の返済で借金の返済までには至らなかった」

 

「それで繰り返し土地を売ってしまうという悪循環に……ということでしょうか?」

 

そうして、少しまた少しと土地は奪われていき、最後にはアビドスの土地のほとんどを奪われてしまったのだろう。その理不尽な出来事にセリカは怒りで立ち上がる。

 

「なによ、それ!そんなの最初からどうしようもないっていうか――」

 

「そういう手口もあるんだよ」

 

セリカの怒りに五条が口を挟んだ。みんなが彼の方に向いた後、彼は静かに今回の手口を説明する。

 

「返済目途が立たない融資をして、利子分だけでも返させるために、建物や土地を売るように仕向ける。

 大方、アビドスには砂漠しかないから大丈夫とかなんとか言って、少しずつ土地を売らせる。そうすれば、後は向こうの思うつぼさ。土地を売ることに慣れてしまった生徒会の人たちは、段々と土地を売っていく。借金を返すという大義のためにね。盲目になった生徒会が気付いた時には、土地のほとんどが奪われて、今のアビドス高校の校舎しか残ってないという寸法ってわけ」

 

その説明を聞いて対策委員会のみんなは、カイザーコーポレーションの侵略の手口を理解した。

 

「確かに、元々そういう計算だったのかもしれない」

 

「アビドスにお金を貸した時点でこうなるように……」

 

「だいぶ前から仕掛けられていた罠だったのかもしれないね。それこそ、何十年も前から……」

 

「そんなの、あいつらに弄ばれてただけじゃん!こんな詐欺みたいなやり方に騙されて……!」

 

「セリカ、落ち着きなよ。こんなふざけたことする奴らが悪いに決まってるんだから」

 

怒りに震えるセリカに、五条が声をかける。

 

「わかってるわよ!でも、でも……」

 

怒りと悲しみのまじりあった複雑な感情で、セリカは言葉が出なくなっていく。

そんな中、ホシノが静かに口を開く。

 

「切羽詰まるとさ、人は何でもやっちゃうものなんだよ。

 悪くなるとわかってても、手を出しちゃう。それだけの話だよ、セリカちゃん」

 

その言葉にセリカは黙って頷いて席に着くのだった。

一方で五条は、この事態を頭の中で整理していた。

 

(学校の借金、このアビドスが陥っている状況、そして、みんなが見つけた事実、すべてがつながり始めているな。あとは……)

 

思考した五条は「あっ!」とわざとらしく声を上げた。

それにアヤネが反応する。

 

「どうしたんですか、先生?」

 

「いやー、そう言えば大事なことを忘れてたよー」

 

「大事なこと?」

 

「ゲヘナの戦闘の後に、あの風紀委員長が情報をくれてね。

 アビドス砂漠に『カイザーPMC』が謎の施設を建てて、何かコソコソやってるみたいなんだよねー」

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

五条の情報に対策委員会全員が驚愕する。

 

「先生、なんで黙ってたの!?」

 

「いやいや、ごめんねー。僕も色々と忙しくて、ついうっかり!」

 

シロコが静かに睨みつける様子に、五条は舌をペロッと出して軽いノリで謝る。

みんな、彼に対して言いたいことはあるが、ここはぐっと堪えてその情報を確かめてみることが優先である。

 

「とにかく、土地を買い占めているのが、『カイザーコーポレーション』。それが何か企んでいるのなら……」

 

「セリカちゃんの言う通りです。すべての答えはアビドス砂漠にあるはずです」

 

その言葉に、全員が立ち上がる。

 

「さてと、それじゃあ……行こうか、アビドス砂漠に!」

 

五条が窓の外を指さして、ビシッと決める。それをスルーして、対策委員会のみんなは身支度を始めるのだった。

 

 

 

場所は変わって、アビドス砂漠にて――。

 

「――って、言ってた本人がなんでいないのよ!」

 

『まあまあ、セリカちゃん、落ち着いて……』

 

セリカの怒りの雄たけびが砂漠に響く。それを通信機越しのアヤネが宥める。

 

「仕方ないよー、ここから先は歩きだし……」

 

「こちらは私たちにお任せください」

 

ホシノとノノミがフォローを入れるが、肝心の五条はというと――。

 

『いやー、悪いねー。なんか気を遣わせちゃったみたいでね』

 

教室で暢気にお茶とお菓子を一人で満喫していた。

 

「アヤネちゃん、そこのバカからお茶とお菓子を没収しといて」

 

『うん、わかった……先生、失礼しますよ』

 

『ああ!そんな……ひどい!』

 

セリカに言われて、アヤネがテーブルの上のお茶とお菓子が乗ったお盆を取り上げた。

こんな状況でもマイペースな五条に振り回されるセリカたちを見て、ホシノはクスッと笑った。

 

「ホシノ先輩、どうしたの?」

 

シロコに尋ねられて、ホシノはにこやかな笑顔で手を振って答えた。

 

「うんにゃ、何でもないよー。ちょっと、ここの景色を懐かしいと思ってね」

 

「先輩はここに来たことがあるの?」

 

「生徒会の仕事で何度かね。もう少し歩けば、そこにはなんと広大なオアシスがっ!」

 

「オアシス!?」

 

ホシノの言葉にセリカは驚愕した。それにホシノは笑顔で頷いた。

 

「うん!まあ、もう今は全部干上がっちゃてるんだけどね……。

 昔、そこでアビドスの砂祭りが開かれていたんだ」

 

「砂祭り?」

 

「聞いたことがあります!アビドスでは有名なお祭りで、すごい数の人が集まったって」

 

そう答えるノノミに、ホシノは砂祭りについて教えてあげるのだった。

 

「そうそう、別の自治区からもたくさんの人が見に来るぐらい大きなお祭りだったみたいだよ」

 

「こんな砂漠のど真ん中で?」

 

「いやー、この辺りも昔は住みやすい場所だったらしいよ」

 

ホシノがそう教えると、シロコたちは感嘆の息を漏らすのだった。

そんな様子を見て、ホシノは思い返す。

かつて、自分を引っ張りまわした彼女との思い出を――。

彼女に連れられた先には、すでに何もない跡地だけだったが、彼女はそこで嬉しそうに、そこにあったかつてのお祭りや暮らしていた人々について教えてくれたのだった。

今になって、自分がそれを後輩たちに教えていることに、どこか嬉しさと懐かしさが胸にこみあげてくるものがあった。

そんな思い出に浸ったり、通信機越しで五条が眠っていることがセリカにバレて怒られたりなどがあったものの、歩き続けていると、アヤネが端末のカメラにあるものを見つける。

 

『あっ!前方に巨大な施設があります』

 

「えっ!こんなところに!?」

 

『おそらく、それがゲヘナ風紀委員長が仰ってたものかもしれません。

 全員、警戒を怠らないようにお願いします』

 

「「「「了解」」」」

 

少し歩いた先に例の施設が肉眼で確認できたホシノたちは、ゆっくりと近づいていき、砂漠の陰からこっそりと覗き見る。

それは施設というよりは、要塞ではないかと見間違うほどの巨大な施設であり、入り口だけでなく、外壁の周りや門の上の監視塔には多数の警備が配置されていた。

 

「すごい警備……」

 

「何なのこの施設は!?」

 

シロコとセリカはその厳重な警備体制で守られているこの施設の規模に驚愕する。

ホシノは五条が言ってた情報を思い返す。

 

「先生の言ったとおりだ。ここはカイザーPMCの基地だね」

 

「それも、カイザーコーポレーションの系列会社なの?」

 

首をかしげるセリカに、ノノミが横で説明する。

 

「PMC、『Private Military Company』つまり、民間軍事会社のことです」

 

「ヘルメット団とはレベルが違う。プロの戦闘集団ってことだよ」

 

ノノミとホシノが説明をしているその時、外壁の上の通路を見回りしている兵士が上から砂漠に隠れているホシノたちを発見する。

兵士はすぐに緊急警報を作動させて、アラームが基地の内外に響き渡った。

ホシノたちもその音に反応したその瞬間、巨大な門が開かれて中から兵士たちが姿を現すのだった。

 

「うげ……何なの、この数!?」

 

「下手すると、風紀委員会より厄介」

 

「どうしましょう、ホシノ先輩?」

 

すぐさま、武器を構える対策委員会のみんなだったが、圧倒的な数の兵士たちに、冷や汗が流れる。

 

『みなさん、無茶せずそこから撤退してください』

 

アヤネからの言葉に従いのは山々だが、それを見逃してくれるほどの相手ではない。

戦うしかないとシロコが銃のグリップを強く握りしめたその時、開いた門の奥から一台の車がこちらに向かって走ってきた。

その車は黒の高級車で、門と兵士たちを通り抜けていく。すると兵士たちは銃を下ろして、きれいに整列を始めるのだった。

何事かと思っていた対策委員会の前で車は止まって、中から大柄の恰幅のいい男が出てきた。

 

「これはこれは……侵入者とは聞いていたが、まさかアビドス高校の生徒だったとはなぁ」

 

目の前の男はホシノに気づいて、額に指を当てて思い出そうとするような仕草を見せる。

 

「おや、君はあのゲマトリアが狙っていた生徒会長……いや、副会長だったかな」

 

「……あなたは、誰ですか?」

 

警戒状態の緊張感の中で、ノノミがゆっくりと尋ねた。男は少し落胆したように肩を落とす。

 

「ほう、まさか、私のことを知らないとはな……私は、カイザーコーポレーションの理事だ」

 

『やはり、そうでしたか……』

 

アヤネが端末から、理事と名乗った男が本物であることをすぐに調べ上げる。そして、それはある一つの結論に到達する。

 

「つまり、お前がアビドス生徒会を騙して、土地を搾取した張本人!」

 

シロコが鋭い眼差しで目の前の理事を睨みつける。

 

「クックック!口の利き方には気を付けた方が良い。

 君たちは今、我々『カイザーPMC』の私有地に対し、不法侵入をしていることを理解するべきだ」

 

余裕の笑みを浮かべる理事は、シロコたちが黙って睨みつけたまま、話を続ける。

 

「おっと、どこまで話したかな……ああ、そうだ!アビドス自治区の土地についてだったな。

 ああ、買ったとも。すべては合法的な取引、記録もしっかりと存在している。

 我々が土地を買ったことに気づいた聡明な君たちなら、疑問に思ったはずだろう。

 『なぜ、こんな砂に覆われた土地を?』とね。ならば、教えてやろう。

 私たちはアビドスのどこかに埋められているという“宝物”を探しているのだよ」

 

『『!?』』

 

五条とアヤネが、理事の言葉に驚愕する。

このアビドス砂漠に“宝物”が埋まっている情報は見たことも聞いたこともない。

それは、シロコたちも同じようで、セリカがそれを口に出して反論する。

 

「でまかせ言ってんじゃないわよ!そんな話、聞いたことないわ!」

 

「それに、宝探しが目的なら、この兵力は何?

 私たちの学校を武力で占拠するため……違う?」

 

シロコがそう尋ねると、理事はプッと噴き出して笑い始めた。

 

「はっはっは!冗談じゃない、あくまでこれは、宝探しを妨害された時のためのもの。

 君たちのために用意したものではない。

 君たち程度など、何時でもどうとでもできるのだよ。例えば……」

 

理事は懐からスマホを取り出して、電話をかけ始める。

 

「何?急に電話……?」

 

「私だ……ああ、そうだ。進めろ」

 

そう言って、通話を切った理事は笑いながら、口を開いた。

 

「非常に残念なお知らせだ」

 

『なんだいったい……?』

 

五条が疑問に思うと、アヤネの端末に一通のメールが届いた。

そのメールを見て、アヤネは驚愕と絶望の声を上げた。

 

『ど、どういうことですか!?来月以降の金利が3000%も上昇しています!』

 

「はあっ!?なによ、それ!?」

 

困惑する対策委員会の様子を見て、理事は高らかに笑う。

 

「これで分かったかな。君たちの首にかけられた紐が今、誰の手にあるのか」

 

理事は自分のスカーフを首元まで上げて、対策委員会を笑う。

 

「ひどい……」

 

「そんな金利、払えるわけないでしょ!」

 

「なら、学校を諦めて去ったらどうだ?

 自主退学でもして、転校でもすればいい。

 そもそも、学校が責任を取るべき借金だ。なにも君たちが進んで背負う必要はないのではないか?」

 

「そ、そんなこと……できるわけないじゃないですか!」

 

「そうよ!見捨てれるわけないでしょ!」

 

「アビドスは私たちの学校で、私たちの街」

 

シロコたちが必死に反論しようとするが、理事は嘲笑して彼女たちに嫌らしく尋ねるのだった。

 

「だったら、どうするのかね?」

 

「そ、それは……」

 

シロコもノノミもセリカも言い返せなくなって、黙って悔しそうに顔を伏せるのだった。

そこにホシノが静かに口を開く、

 

「……みんな、帰ろう」

 

全員がその言葉に驚愕するが、ホシノはそのまま話を続ける。

 

「これ以上ここで言い争っても、意味がない。

 弄ばれるだけだよ」

 

そう言うと、理事は拍手してホシノを誉め始めた。

 

「いやー、流石は副生徒会長。君は賢そうだな……思い出したよ。

 賢そうな君と一緒にいた、あのまったくもって馬鹿な生徒会長のことを」

 

それを聞いた瞬間、ホシノは鬼の形相で、素早くショットガンを理事に突き付ける。

しかし、理事の余裕そうな笑みと、後ろで心配そうな眼差しで見つめる後輩たちによって、息を整えて冷静になって、銃を降ろすのだった。

 

『ホシノ……』

 

五条はホシノの様子を端末から見て、彼女の名をただ呟いた。その声色はいつものひょうきんさはなく、色々な感情が混ざり合ったものだった。

シロコたちが帰っていくのを見て、理事はとても醜悪な笑みで彼女たちに挨拶を残すのだった。

 

「それでは、来月以降の返済をお待ちしていますよ、お客様」

 

背中越しに聞こえる酷く高らかな笑い声が、アビドス砂漠と彼女たちの脳裏に響いていくのだった。

 

 

 

「もう、なんなのよ!」

 

アビドス高校に帰ってからも、対策委員会部室の空気は非常に重たいものだった。

セリカが八つ当たりのように、机を叩いて声を荒げる。

 

「『宝物を探している』と、言っていましたが……」

 

「あの砂漠に、石油のような地下資源は何一つ残っていません。はるか昔に、そういった調査結果が出ているんです」

 

アヤネとノノミが話している横で、シロコは静かに席を立って、銃を手に取った。

 

「シロコ先輩、どこ行くの?」

 

「もう一度、行ってくる。あそこで何をしているのか、調べないと」

 

「まさか、また砂漠に行くつもり!?」

 

「徹底的に準備すれば、なんとか潜入できると思う」

 

「待ってください、それよりも今は、借金の問題を何とかしませんと……」

 

アヤネが止めに入るが、シロコはそれに対して、眉間に皺を寄せて淡々と返す。

 

「もう、借金はまともな方法じゃ返せない」

 

それに対して、ノノミも立ち上がってシロコを 責する。

 

「ダメですよ、シロコちゃん!そんなことをしてはいけません!」

 

「……私は、シロコ先輩に賛成!学校が無くなったら全部終わりなんだから、もうなりふり構ってられない!!」

 

「え?」

 

セリカもそう言って、立ち上がるのを見て、アヤネが声を上げる。

 

「冷静になって、セリカちゃん!それじゃあ、闇銀行を襲った時と同じ。人から奪ったお金で借金を返したとして、本当にアビドス高校を取り戻したって言えるの!?」

 

「じゃあ、どうすんのよ!!今の利子を支払うので、手いっぱいだったなのに、あんなの払える手段があるっていうの!?」

 

「そ、それは……」

 

セリカの言うことは正しい。しかし、だからといって、このまま二人を犯罪者にしたくはない。今まで一緒に戦ってきた友達を見捨てるわけにもいかない。

どうしようかと考えていると、五条が重い口を開いた。

 

「無理だね」

 

「……え?」

 

突然の四文字に、シロコが聞き返す。それに五条は冷たい口調でシロコとセリカに言い放った。

 

「今の二人で、あの施設に忍び込んでも捕まるのが落ちだね。

 それに、犯罪とか無理でしょ、君たち」

 

「何を根拠に……」

 

シロコは自分の腕を見誤ってる五条を、怒りの眼で睨みつける。それに臆することなく、五条は静かに笑いかけて彼女に返した。

 

「わかるさ……だって僕は、先生だからね。

 君たちは優しいから、犯罪とか向かないし、仮に犯罪に手を染めたとしても、借金を返すより先に、君たちの心が死んでしまうだろうね」

 

「「……」」

 

優しく語り掛ける五条の言葉に、シロコとセリカは何も言えなくなってしまった。

部室が静寂に包まれた時、ホシノが立ち上がった。

 

「そうだね、先生の言う通り、シロコちゃんとセリカちゃんは優しいもんね。

 今はただ、ちょっと焦っただけでしょ、シロコちゃん?」

 

「……ごめん。こんな風にしたいわけじゃなかった」

 

「うん、みんなわかってるよ。

 ま、今日はとりあえずこの辺にしておこう。一旦、頭を冷やして、また明日集まることにしようよ。これは、委員長命令ってことで」

 

ホシノの言葉で、室内の緊張の空気はほぐれていく。

 

「そうですね」

 

「先輩の言う通りです」

 

アヤネとノノミもホシノの言葉に賛成する。すると、セリカが少し照れ臭そうにアヤネに向き直って頭を下げた。

 

「う、うん……。ごめんね、アヤネちゃん……さっきは大声出して……」

 

「うんうん、気にしてないよ」

 

シロコも五条の方に近づき、頭を下げる。

 

「先生、ごめんなさい」

 

「ははっ、大丈夫大丈夫!」

 

シロコと目を合わせて、軽く手を振る。それをシロコは黙って頷くのだった。

 

「じゃあ、みんな……また明日」

 

ホシノの別れの挨拶で、対策委員会のみんなは帰宅していった。みんなが帰った夕方の屋上で、ホシノは外を黙って眺めていた。

そこで思い返すは、彼女がいなくなった後、誰もいなくなった生徒会室のテーブルには、自分が破り捨てた砂祭りのポスターが置いてあった。

彼女が直したのであろうと思われるそれは、不器用に、でも、ちゃんと頑張ってテープで貼り直されていた。

それを抱きしめ、あの時の彼女の笑顔を思い出して、泣き崩れた自分。

 

「ふわふわと、奇跡だの幸せだのなんだのって、ね……」

 

かつて、彼女に吐き捨てた言葉を、今度は自分に言い聞かせるように呟いた。

すると、後ろからやってくる気配に気づく。

 

「や、ホシノ」

 

「なんだ、先生か」

 

「そう、みんな大好きな五条先生だよー!」

 

「そういえば、私の可愛いシロコちゃんといつの間に、目と目で意思疎通できる仲になったわけ?

 やっぱり、先生は侮れない大人だなー」

 

いつものようにふるまおうとするホシノに、五条はポケットから一枚の紙を取り出した。

そして、先ほどから打って変わって真面目な口調でホシノに尋ねる。

 

「ホシノ、これについて聞いてもいいかい?」

 

「んー、なにを……って、そっか」

 

取り出した自分の書いた退学届けを見て、ホシノはすべてを察して、静かに頷いた。

すぐに五条の方へと顔を戻して黙っていたが、五条がこれ以上問い詰めないことを察すると、ホシノは諦めて話すことにした。

 

「仕方ないなー……面と向かってっていうのはなんだし……先生、ちょっとその辺を歩かない?」

 

屋上から校舎に戻る頃には、すっかり陽が沈んで暗くなって綺麗な月明かりが校内を照らして、アビドス高校は昼間とは違う幻想的な雰囲気に包まれていた。

そんな中を五条とホシノは、二人で校内を歩いていた。

 

「ねえ、先生……せっかくの高校生活が全部砂色だなんて、ちょっとやるせないと思わない?」

 

「そうだね、ちょっとどころか、かなりやるせないよね。

 でもさ、ホシノはこの学校が好きなんでしょ」

 

五条の返事に、ホシノは静かに微笑んだ。

 

「砂漠化が進む前は、アビドスはかなり大きくて力のある学校だったと言われている。けど、そんな記憶も実感もおじさんには、全くないんだよねー。

 最初から全部滅茶苦茶で、ちゃんとしたものなんて何一つない学校だった」

 

「それでも、ホシノにとっては大切な母校なんでしょ」

 

「おじさんが入学したアビドス本館は、もう砂漠の中に埋もれちゃったんだよねー。今いるここは、砂漠化を避けて何回も引っ越した結果たどり着いた別館。

 まあ、ここに来て、対策委員会のみんなと出会えたから……ふふっ、やっぱり好きなのかもしれないなー」

 

そう笑うホシノを見て、五条も優しく微笑んだ。

そして、ホシノは五条に、自分の中で秘密にしていたことを打ち明けることにした。

 

「先生……私は2年前から、変な奴らに提案を受けてた」

 

「変な奴らから提案?」

 

首をかしげる五条に、ホシノは頷く。

 

「カイザーコーポレーション……。

 提案というかスカウトというか……アビドスに入学した直後からずっと、何回もね。

 あのゲヘナの風紀委員長ちゃんが来た時もね、先生は気づいてたみたいだけど……」

 

「まあ、ホシノがなんか用事があるとは思っていたけど、まさかストーカーされてたとはねー」

 

「うへへ、言い得て妙かもー。そいつはこう言ってきたんだ」

 

『あなたに、決して拒めないであろう提案を一つ。

 アビドス高校を退学し、私共の企業に所属する……その条件を吞んでいただければ、今アビドスが背負っている借金の半分近くをこちらで負担しましょう。

 ククッ、ククククッ……さあ、答えを聞きましょう。もしイエスならば、この書類にサインを』

 

その話を聞いた五条はホシノに尋ねる。

 

「それで、ホシノはサインしたの?」

 

「もちろん、断ったよ。確かに、それは誰から見たって破格の条件だった。でも、当時は私がいなくなったらアビドス高校が崩壊するって思ってたからこそ、ずっと断ってたけど……。

 ……あいつら、PMCで使える人材を集めていたみたい」

 

「そいつは何者なの?」

 

五条が聞くと、ホシノは首を横に振る。

 

「私も、あいつの正体は知らない……ただ、私は黒服って呼んでる」

 

「黒服……」

 

「何となくぞっとする奴で……キヴォトスといえども、ああいうタイプの奴は見たことなかったし……。

 怪しい奴だけど、別に特段問題を起こしたりはしなかった……。

 何なんだろうね。あのカイザーの理事ですら、黒服のことは恐れているように見えたけど……」

 

「じゃあ、この退学届けは……」

 

五条はそう言って、手元の退学届けに目を遣る。それを見て、ホシノは頬をかいて少し恥ずかしそうに答える。

 

「うへ……まあ、1ミリも悩んでなかったって言ったら嘘だし。ちょっとした気の迷いって言うか……」

 

そう答えたホシノは少し黙ってうんと頷いて五条から退学届けを取り上げた。

 

「もう捨てちゃおっか」

 

そう言って退学届けを破って床にポイと捨てた。

 

「うへ~、スッキリした。

 余計な誤解を招いてゴメンね。ただ、こんな話をみんなにしたところで、心配させるだけで良いこともなにも無さそうだったからさ」

 

両腕を上に伸ばして伸びをした後、ホシノは笑って今回のことを話すことを決めた。

 

「でもまあ、可愛い後輩たちにいつまでも隠し事をしたままっていうのは良くないし……明日、みんなにちゃんと話すよ。

 聞かされたところで困らせちゃうだけだろうけど、隠し事なんて無いに越したことはないだろうし。

 実際のところ、今はあの提案を受ける以外、他の方法は思いついてないんだけどね……」

 

「大丈夫だよ、シロコたちなら一緒に考えてくれるさ。それに、このGTGがいるんだからね!」

 

ニコッと笑う五条を見て、ホシノはどこか嬉しそうに微笑んだ。

 

「そうだね、先生がいるなら大丈夫かもね。

 ……さ~てと、この話はこれでおしまい。

 じゃあ、また明日。先生。

 さよなら」

 

そう言って、ホシノはくるりと回って歩き始めた。その背中を見ていた五条は、突然ホシノの名前を大きな声で呼び始めた。

 

「ホシノ!!」

 

突然の大声にホシノはビクッとした後、五条の方に顔を向ける。

 

「な、なに……?」

 

「大丈夫だよ!なんたって僕、最強だからね!」

 

自信満々に笑う五条の言葉に、最初は呆然としたホシノだったが、噴き出して笑いだした。

 

「……プッ、あはは!もう、先生は本当に面白いな~。

 うん。ありがとう、先生」

 

ホシノは安心した顔で帰っていった。

それを見送った五条は、自室である応接室へと戻っていった。

応接室の椅子に腰かけ、深い息を漏らす。

 

「いやー……それにしても、本当にいろんなことがあった一日だったなー」

 

机の引き出しを開けて、おやつであるクッキー缶を取り出す。

缶を開けて、中に入った色とりどりなクッキーを一つ手に取り、今日のアビドス砂漠での件、そして、ホシノの口から語られた件について思い返す。

 

「カイザーコーポレーション、それに黒服か……。

 子供相手にいい大人が色々と好き放題にしてくれちゃって、まあ……。

 ……舐めやがって」

 

腹の底から湧き上がる怒りが言葉となって口から溢れ出る。抑えきれなかった怒りが呪力となって、手に持ったクッキーを粉々に砕いた。こんな姿は可愛い生徒たちの前では見せられないなと少し反省して、五条は再びクッキーを取って口に入れるのだった。

 

 

 

翌日、アビドス対策委員会の部室に最初に訪れたのは、アヤネだった。

 

「はぁ、お疲れ様です……」

 

扉を開けて誰もいないことに気づく。

 

「あれ、私が一番乗り……?」

 

昨日の件で、みんな疲れているのかなと考えたアヤネは、机の上に置かれている封筒に気づいた。

 

「……?」

 

いったい誰だろうと思い、アヤネは封筒を開ける。

中には一枚の紙が入っていた。

 

「これは……?」

 

紙を取り出し、開いた中身を見たアヤネは驚きのあまり、眼を見開いた。

 

「……嘘」

 

その時、セリカとノノミも部室に到着して、先にいたアヤネに声をかけようとした。

 

「あっ、アヤネちゃん、おは……」

 

「何でっ、どうしてっ!!!!??」

 

激しく取り乱し錯乱するアヤネに、異変を感じた二人はすぐさま駆け寄った。

 

「アヤネちゃん、どうしたの!?」

 

「アヤネちゃん、大丈夫ですか!?」

 

「セリカちゃん、ノノミ先輩……ホシノ先輩が、ホシノ先輩が……」

 

抱き着いて泣きじゃくるアヤネに、セリカとノノミはそっと抱きしめる。

 

「おはよう、どうしたの?

 これは……っ!?」

 

そこに遅れてやってきたシロコは、アヤネが落とした紙を拾い上げる。

 

「みんなー、おはよう……って、なに?」

 

いつものように最後にやってきた五条は、部室での騒ぎに眉をひそめる。

そこに、シロコが五条へと向かって、紙を渡した。

 

「先生、これ……」

 

「なに、どうしたの……。

 ……は?」

 

手渡された紙を見て、五条は驚愕し声が漏れた。

それは、昨日ホシノが破り捨てたはずのホシノの退学届けと対策委員会のみんなへの手紙だった。

突然の出来事に五条は理解することができず、退学届けを持ってただ立ち尽くすのだった。

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