シャーレの五条先生   作:未来跳躍

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第二章開始です。
今章は、アビドス対策委員会編とはまた違う意味で難しいものになりそうですが、最後までお楽しみください。


時計じかけの花のパヴァーヌ編
冒険の始まり


ミレニアムサイエンススクール。

そこは科学技術に力を入れている新興の学園であり、キヴォトスにおける「最先端」「最新鋭」と呼称されるものの多くはミレニアムで開発されたものであり、その多くはキヴォトスに普及している。そのため、歴史が浅いにもかかわらず、ゲヘナ学園やトリニティ総合学園などの巨大な古参校に引けを取らない影響力を持ち、キヴォトス三大学園の一角を担っている。

そんなミレニアムの校舎の一室に、とあるグループが存在していた。

最先端を追求するこの学校で、古き良き文化に触れてそこから新たなものを作り出す。それこそ――。

 

 

 

「私たち『ゲーム開発部』ってわけ!わかった?」

 

五条の前で胸を張る小さな少女を前に、五条は特に驚く様子もなく、淡々と相槌を打った。

 

「へえ、そう」

 

「ノンリアクション!

 もっと驚いてよ!」

 

駄々をこねる子供のように床を転げまわる少女に、一人の少女の少女が近づく。転げまわる少女と瓜二つの少女は転げまわっている子に向かって、腰に手を当てて怒った顔で注意する。

 

「もうお姉ちゃん、先生に迷惑だし止めてよね。

 すいません、先生。お姉ちゃんが恥ずかしい真似を」

 

五条に謝る少女に、手を振って笑って返す

 

「いいよ、気にしてないし。

 それよりも、君たちが手紙をくれたってことでいいんだね?」

 

すると、先ほどまで床で転げ回っていた少女が起き上がり、嬉しそうに飛び跳ねた。

 

「私たちが送った手紙、読んでくれたんだ!もし読んだとしても、本当に来てくれるなんて思ってなかったよ!」

 

五条がこのミレニアムサイエンススクールに来た理由、それは数日前に遡る。

シャーレのオフィスにて、五条はアロナから知らせを受ける。

 

「先生、ミレニアムサイエンススクールから要請が届きました。

 送り主は……ミレニアムのゲーム開発部?みたいです。読んでみますね。

 『ゲーム開発部は今、存続の危機に陥ってます。生徒会からの廃部命令により破滅が目前に迫っている今、助けを求められる相手はあなただけです。勇者よ、どうか私たちを助けてください!』

 これは……」

 

「あはは、中々面白い手紙だね」

 

手紙の内容に少し苦笑するアロナと違い、五条は手を叩いて笑っていた。

 

「そうですね……面白いというか、切羽詰まっているというか、とにかく大変だということはひしひしと伝わってきますね。

 あ、先生はミレニアムサイエンススクールについては御存じですか?」

 

「ミレニアムって、確かユウカの学校じゃなかったっけ?」

 

アロナの質問に、五条は早瀬ユウカを思い出す。彼女と会ったのは2回、キヴォトスに初めて来た日と対策委員会と一緒に水族館に遊びに行った日。どちらも、そんなに彼女と話す機会がなかったので、五条もキヴォトスでも三つの指に入るほどの大きな学校という事しか知らない。

 

「はい、その通りです。

 ミレニアムサイエンススクールは、トリニティ、ゲヘナと合わせてキヴォトス三大学園と呼ばれる大きな学園です。

 そんな学校で、一体何があったのでしょうか?」

 

アロナの言葉に、五条は少し考える。

キヴォトス三大学園の一角といわれる学校の部活の廃部騒動。前回のアビドス対策委員会のような大きな事件ではないし、シャーレが介入せずとも学校内で収まるほどの些細なことのはずなのだが、この依頼の手紙に、五条の心を揺さぶる『何か』があるという確信があった。

 

「よし、行こうか!」

 

そうして、五条はミレニアムサイエンススクールに向かうのだった。

そして、今に至る。

 

「あらためて……ゲーム開発部にようこそ、先生!」

 

「先生に来ていただけて、嬉しいです」

 

五条を歓迎する二人の少女は、それぞれ自己紹介を始める。

先に名乗りを上げたのはピンクの猫耳ヘッドホンを着けた方だった。

 

「私はゲーム開発部、シナリオライターの才羽モモイ!」

 

次に、緑の猫耳ヘッドホンを着けた少女が頭を下げてお辞儀をする。

 

「私は双子の妹の才羽ミドリ。イラストレーターで、ゲームのビジュアル全般を担当しています」

 

「あと今はここにいないけど、企画周りを担当してる私たちの部長のユズを含めて……私たちが、ミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部だよ!」

 

「へえ……」

 

五条は一瞬だけ視線をロッカーへと反らすが、すぐにモモイの方へと向き直した。

そんな様子に気づかないまま、モモイは元気よく拳を振り上げて、声を上げる。

 

「よーしっ!先生も来たことだし、このまま『廃墟』に行こうか!」

 

「お姉ちゃん、いきなり言っても分かんないよ。ちゃんと説明して」

 

ミドリがモモイを注意すると、モモイは舌をペロッと出してから軽く咳払いをした。

 

「おっと、そうだった。じゃあ最初から順に説明するね。

 えっとね、まず私たちゲーム開発部は今までずっと、平和に16ビットのゲームとかを作ってたんだけど」

 

「16ビットって、またずいぶん古いね」

 

このご時世に16ビットなんて言葉が出たことに、五条はいろんな意味で感心した。モモイはそのまま説明を続ける。

 

「ある日……生徒会の連中が急に襲撃してきたの!

 一昨日には、生徒会四天王の一人であるユウカから最後通牒を突きつけられて」

 

「ん、最後通牒?」

 

五条が首を傾げたその時――。

 

「それに関しては、私から直接ご説明しましょうか?」

 

後ろから聞いた覚えのある声が聞こえた。

 

「ひえっ!」

 

「こ、この声は!?」

 

モモイとミドリがその声に震えており、五条は後ろを振り返る。

 

「……」

 

そこには、早瀬ユウカが扉の前に立っていた。

 

「出たな、生徒会四天王の一人!『冷酷な算術使い』の異名を持つ生徒会の会計、ユウカ!」

 

ユウカに向けて指をさしながら声を上げるモモイに、ユウカは眉間に皺を寄せて静かに口を開く。

 

「勝手に人をモンスターか何かみたいに呼ばないでくれる?失礼ね。

 それよりも……先生」

 

「やあ、これで会うのは3度目かな」

 

にこやかに笑って挨拶する五条に対して、ユウカは難しい顔をしながらため息をついた。

 

「……はあ、こんな形で会うなんて。

 先生とは色々と話したいこともありますが、それはまた後にするとして……モモイ」

 

名前を呼ばれたモモイがビクッと反応する。

 

「本当に諦めが悪いわね。廃部を食い止めるために、わざわざ『シャーレ』まで巻き込むだなんて。けど、そんなことをしても無意味よ。たとえ連邦生徒会のシャーレだとしても……いえ、あの連邦生徒会長が戻ってきたとしても!部活の運営については概ね、各学校の生徒会に委ねられてるんだから。

 ゲーム開発部の廃部はもう決まったことなの、これはもう誰にも覆せない」

 

自信満々に告げるユウカに、モモイも何と食らいつこうと声を上げる。

 

「そ、そんなことない!

 言ってたでしょ、部員が規定人数に達するか、ミレニアムの部活として見合う成果を出せれば……」

 

「……それが出来れば良し。もしできなかったら廃部、部費はもちろん部室も没収する。私、そこまでちゃんと言ったわよね。

 あなたたちは部員数も足りないうえに、部活としての成果を証明できるようなものも無いまま、もう何か月も経ってるんだから……」

 

一呼吸吸ってユウカはモモイたちを睨みつける。

 

「廃部になっても、何も異論はないはずだけど?」

 

その言葉に、モモイがすかさず手を上げて反論する。

 

「異議あり!すごくあり!私たちだって全力で部活動をしてる!

 だからあの、何だっけ……上場閣僚?とかいうのがあっても良いはず!」

 

「それを言うなら『情状酌量』でしょう。それより、今なんて言ったかしら?全力で活動してる……?

 笑わせないで!」

 

ユウカの怒鳴り声にモモイは一瞬たじろいでしまう。そのままユウカは説教を始めた。

 

「校内に変な建物を建てたと思ったら、まるでカジノみたいに装飾してがギャンブル大会を始めるし、レトロゲームを探すとか言いながら古代史研究会を襲撃するし……いつも全力の出し方を間違えて、これだけの迷惑をかけておいて、よく毎度のように部費なんか請求できるわね!?

 真っ当な言い訳くらいしてみたらどうなの!?」

 

両手を合わせてごまをすりながら、モモイは弁明をする。

 

「と、時には結果よりも、心意気を評価してあげることも必要……」

 

「負け犬の言い訳なんて聞きたくない」

 

「聞きたいのか聞きたくないのかどっちなのさ!?」

 

「無意味な言い訳は聞きたくないってことよ。ミレニアムでは『結果』が全て」

 

ユウカの言葉に負けず、拳を振り上げてモモイは反論する。

 

「け、結果だってあるもん!私たちも、ゲームを開発してるんだから!」

 

「そ、そうですよ!『テイルズ・サガ・クロニクル』はちゃんと、『あのコンテスト』で受賞、も……」

 

「『テイルズ・サガ・クロニクル』?それに、受賞って?」

 

ミドリから出た聞いたことのないゲームに反応した五条と違い、ユウカはそれを聞いて肩を竦める。

 

「……そうね。確か受賞、してたわ。

 その反応を見るに、先生はご存じないようですね。

 『テイルズ・サガ・クロニクル』……このゲーム開発部における、唯一の成果です。

 ゲームそのものもさることながら、レビューが大変印象的でした」

 

「へえ、そのレビューってどんなんだったの?」

 

そう五条が問いかけると、ユウカは深いため息をついた後、静かに答えた。

 

「『私がやってきたゲーム史上、ダントツで“絶望的”なRPG。シナリオの内容としてではなく、ゲームとしての完成度が』」

 

「うぐっ」

 

「『このゲームに何が足りないのかを数えだしたらキリがないけど……まあ、一番足りてないのは“正気”だろうね』」

 

「うぐぐっ」

 

「『このゲームをプレイした後だと、【デッドクリームゾーン】はもしかして名作の部類に入るんじゃ……って思っちゃうわ』」

 

「うぐぐぐっ」

 

地面に倒れるモモイだが、息も絶え絶えの様子で何とか立ち上がろうとする。

 

「わ、私たちのゲームは、インターネットの悪意なんかには……」

 

「たとえユーザー数が無限にいたとしても、たくさんの評価が収束すれば、それは真実に一番近い結果よ。

 そう、あなたたちの持っている『結果』はこの『今年のクソゲーランキング1位』だけでしょう」

 

「あっはははは!

 逆に気になるね。そのクソゲー」

 

「「「……」」」

 

手を叩いて爆笑する五条に、モモイとミドリは悲しそうな顔をして何も言えなくなり、ユウカもここまで直球的に言う彼の無神経さに少し引いていた。

 

「コホン。……とにかく。

 あなたたちのような部活がこのまま活動していても、かえって学校の名誉に傷をつけるだけよ。

 それに、その分の部費を他に回せば、キチンと意義のある活動をしてる生徒たちのためにもなる……。

 だから、もし自分たちの活動にも意義があるのだと主張したいのなら……証明してみせなさい」

 

「照明、って……?」

 

首をかしげるモモイに、ユウカは静かに毅然とした態度で答える。

 

「何度も言ったでしょう。きちんとした功績や成果を証明すれば、廃部は撤回するって」

 

「つまり、何かの大会で受賞するとか?」

 

ミドリが尋ねると、ユウカは首を縦に振る。

 

「そう、スポーツならインターハイに出るとか、エンジニア部なら発明品を公表するとか、そういう類のものよ。

 ゲーム開発部なら、そういうコンテストも色々あると思うけど……。

 とはいえ、出せば何とかなるとも思えないわね。あなたたちの能力は、あのクソゲーランキングが証明済み」

 

「ぐっ……」

 

フッと鼻で笑うユウカに、ミドリは何も言い返せず悔しそうに歯を噛み締める。

 

「どうせなら、お互い楽な形で済ませましょう?今すぐ部室を空けて、この辺のガラクタも捨てて――」

 

「ガラクタとか言わないで……!」

 

その言葉にモモイが立ち上がり、声を荒げる。それをユウカは冷たい目で見下ろしながら、問いかける。

 

「……じゃあ何なの?」

 

「そ、それは……」

 

ユウカの目から顔を背けて黙り込むモモイだったが、唇を嚙み、拳を握り締めて静かに口を開く。

 

「……分かった。全部、結果で示す」

 

「へえ……」

 

その言葉を聞いて、ユウカは不敵な笑みを浮かべる。そんな彼女に負けじと、モモイは声を上げて続ける。

 

「そのための準備だって、もう出来てるんだから!」

 

「そうなの!?」

 

「なんでミドリが驚くのさ!?

 とにかく、私たちには切り札がある。その切り札を使って、今回の『ミレニアムプライス』に私たちのゲーム……『TSC2』……『テイルズ・サガ・クロニクル2』を、出すんだから!」

 

モモイの言葉に、この場にいる者全員に衝撃が奔る。ただ一人の男を除いて――。

 

「ミレニアムプライスって、何なの?」

 

再び初めて聞く言葉に五条が尋ねる。モモイがそれを答えてくれた。

 

「ミレニアム中の部活が各々の成果物を競い合う、ミレニアムでも最大級のコンテスト!

 ここで受賞さえすれば、いくら何でも文句は言えないでしょ!」

 

モモイの言葉にユウカは笑みを浮かべて頷いた。

 

「ええ、そうね……受賞出来たなら、の話だけど」

 

しかし、その笑みもすぐに消えて、冷たい目で静かにモモイを睨んで続ける。

 

「けどねモモイ、今あなたが言ってるのは運動部がインターハイに出場するとか、そういうレベルじゃなくて……『高校球児がいきなりメジャーリーグに出る』みたいな、雲をつかむような話よ」

 

「そんなの分かってるよ」

 

冷たい目で見下ろすユウカの言葉に負けず、彼女をじっと見つめて返すモモイを見て、再び笑みを浮かべ直して頷いた。

 

「……分かったわ。そこまで言うなら待ってあげる。

 今日からミレニアムプライスまで二週間……この短い時間でどんな結果が出せるのか、楽しみにしてるわ」

 

そう告げたユウカは、五条の方へと歩み寄って彼に頭を下げる。

 

「……ふう。ごめんなさい、先生。こんなことに巻き込ませてしまって。

 まさか先生の前でこんな、可愛くないところを見せてしまうなんて……。

 ただ、これも生徒会の仕事なので」

 

「ははっ、気にしてないよー」

 

軽く手を振る五条に、ユウカもフフッと先ほどまでとは違う柔和な笑みを浮かべて、もう一度軽く頭を下げた。

 

「次はもっと違った、落ち着いた状況でお会いしましょうね、先生。それではまた」

 

そのままユウカは部室から出ていく。部屋に佇むモモイに、ミドリが心配そうな顔で近づいていく。

 

「……」

 

「……お姉ちゃん。

 どっちも確率は低いだろうけど……今から私たちがゲームを作るより、部員を募集する方がまだ良いんじゃないの?」

 

「それならこの一か月、散々やってみたでしょ……結局、誰も入ってくれなかったし。

 『ぷーっ!VRですら古いのに、何がレトロ風ゲームだよ』ってバカにされるのは、もううんざり」

 

その言葉に、ミドリは何も言い返せなかった。最先端を重視するこのミレニアムで、16ビットのレトロ風ゲームを作ることは受け入れらない。これまで、数多くの手段で勧誘をしてみても、話すら聞いてもらえないことばかりだった。そして、話を聞いてもらうために強引な手段を講じた結果、何時も失敗に終わっていたのだった。

 

「あーもう!ユウカの卑怯者め!私たちみたいなオタクは友達が少ないってことを利用するなんて!許せない!」

 

「いや……それはユウカじゃなくて、100%私たちの自業自得だと思うけど」

 

「とにかく、これ以上部員の募集をしても明るい未来は見えない。

 それに、まだほかに希望はある!」

 

「あ、そうだ。さっき言ってた『切り札』って、いったい何のこと?」

 

先ほどの会話を思い出したミドリが、モモイの言う切り札について尋ねる。それにモモイは、胸を張って五条の方に腕を伸ばして答えた。

 

「それはもちろん、先生のことだよ」

 

「……僕?」

 

「最初の方に話を戻すけど、私たちの目的は『廃墟』にあるの。

 『廃墟』っていうのは……元々は連邦生徒会が出入りを制限してた、ミレニアム近郊の謎の領域。

 出入りを制限してたのは、『危険な地域だから』って言われてたけど……実際のところ、具体的に何がどう危険なのかを誰も知らない。

 誰も入ったことが無いのか、そもそも入ることが出来ないのか、それとも戻ってきた人が誰もいないのか……それすらもよく分からない。

 ……そういう、謎に包まれた場所があるの」

 

「へえ……それは興味深いね。でも、どうしてそこに?」

 

五条が面白そうに笑って問いかけると、モモイは自信満々に答える。

 

「いいゲームが作りたいから!」

 

「……ほう」

 

ハッキリと答えるモモイの目を見て、五条は思わず声を出した。

 

「私は、証明したいの。

 たとえ、今の私たちのレベルが『今年のクソゲーランキング1位』に過ぎないとしても。

 私が大好きな……私を幸せにしてくれた、このゲームたちが……決してガラクタじゃない、大事な宝物なんだってことを!」

 

「……お姉ちゃん」

 

「そのためには、どうにか廃墟に入って『あれ』を見つけないと」

 

「あれ?」

 

何やら話がいまいち繋がらないことに、またしても首をかしげていると、モモイがうっかりしたと云わんばかりに五条に尋ねる。

 

「あ、順番が良くなかったかも。今度は、この話をしないとね。

 先生、『G.Bible』……って、知ってる?」

 

「G.Bible?」

 

「やっぱり知らないよね。G.Bibleというのはね、昔のミレニアム……いや、昔のキヴォトスに存在した『伝説のゲームクリエイター』が遺した聖書。

 その中には『最高のゲームを作れる秘密の方法』が入ってるんだって!」

 

「……それ、どこかのゲームクリエイター学校の広告じゃなくて?」

 

ニコニコと笑って説明するモモイに、ミドリが訝しげな顔で思ってることを口にした。

 

「違うよ!G.Bibleはあるって!読めば最高のゲームを作れるようになる『ゲームの聖書』は、絶対にある!

 そのG.Bibleを読めば、最高のゲーム……『テイルズ・サガ・クロニクル2』が作れるはず!」

 

「お姉ちゃん、騙されてない?」

 

「そんなことない!」

 

ギャーギャーと言い合う双子を置いて、五条は静かに考える。正直、G.Bibleの話については眉唾物なので、信じてはいない。けれど、それがあるという「廃墟」という場所には興味がある。まだ、出会ったばかりのこの子たちのレベルも知らないし、話に聞く連邦生徒会長が立ち入りを禁止したというのも気になっていた。

ならば、思い立ったが吉日。とにかく行動してみるのが一番早い。口喧嘩する二人にパンパンと手を叩いて、けんかを止めて口を開いた。

 

「はいはーい。言い争ってもしょうがないし、とりあえず行こっか。謎に満ちる廃墟弾丸ツアーに」

 

「さすが先生!」

 

「じゃあ出発するよ。40秒で支度しな」

 

こうして五条とゲーム開発部の三人は、謎の廃墟に向かうのだった。

 

 

 

ミレニアム近郊に位置する廃墟に到着したモモイとミドリは早速――。

 

「「う、うわーっ!!た、たすけてー!!」」

 

大量の警備ロボットに追いかけまわされていた。逃げ回りながらミドリが横にいるモモイに声を荒げて問う。

 

「どうするのお姉ちゃん!?」

 

「うぅーっ!!先生めー!!」

 

拳を握り締めて悔しそうに恨み言を呟くモモイ。なぜこうなったのかは、数分前に戻る。

 

『ここが「廃墟」か』

 

五条達は、廃墟にたどり着いて辺りを見渡す。廃墟という名前だが、その規模は想像よりはるかに大きい。建物ではなく、街そのものが廃墟になったとでもいった方が正しいと言える。

 

『想像以上の大きさだね。この建物の大きさから見る限り、ここはキヴォトスでも有数の大都市だったんだろうね』

 

『ゴーストタウンという感じですけど、こんな大きな街がどうして……?』

 

『そんなのどうでもいいじゃん。私たちの目的は、G.Bibleのみ!』

 

一人先に歩いていくモモイに、ミドリが慌てて声を掛ける。

 

『お姉ちゃん!勝手に行かないで!』

 

モモイの後を追うように走るミドリと、ポケットに手を入れたまま悠々と歩く五条の二人。先に進みながら、ミドリがモモイに、気になっていることを尋ねた。

 

『そういえば、お姉ちゃんはどうしてここの事とか知ってたの?』

 

『あっ、それはね、ヒマリ先輩に教えてもらったんだ』

 

『ヒマリ先輩って……ヴェリタスのあの、車椅子に乗った美人のヒマリ先輩?』

 

モモイは親指を立てて頷く。

 

『そう!

 ヒマリ先輩が言うには、ここは『キヴォトスから消えて忘れ去られてものが集まる、時代の下水道みたいな場所かもしれない』……って』

 

『いつもRPGの賢者みたいに『私は何でも知ってますよ』って言うヒマリ先輩が、『かもしれない』って言葉を使うのも珍しいね……それくらい、未知の場所なんだ』

 

『まあ、そうなんじゃない?

 ついでに、ヒマリ先輩にお願いして、『最後にG.Bibleの稼働が確認された』場所の座標も調べてもらったし、楽勝楽勝!』

 

声高らかに笑うモモイに、五条はその場所について問いかける。

 

『へえー……んで、それはどこにあんの?』

 

『それはねえ……あっち!』

 

歩きながら端末の地図を見ていたモモイは、示された方角に向かって指をさす。

その前には、警備ロボットが立っていた。

 

『『『……』』』

 

三人は黙っていると、警備ロボットは警報をかき鳴らして、銃を向ける。

 

『に、逃げろーっ!!』

 

モモイが叫んだと同時に、警備ロボットは発砲を開始する。しかも、先ほどの警報を聞きつけた他のロボットたちも続々と駆け寄ってきた。

 

『ど、どうするの!?』

 

ミドリが走りながらモモイに問いかける。すると、モモイは策があるかのように含みのある笑みを浮かべる。

 

『ふっふっふ、安心しなよミドリ。何のためにシャーレの先生に助けを呼んだと思ってるの。すべてはこの時のため!

 さあ、先生!お願いします!』

 

バッと、五条の方に振り返る。最強である五条の噂を聞いていたモモイは、この時のために五条を呼んだのだった。この危険な廃墟でも、先生がいるなら無敵アイテムをゲットしたも同然。戦闘は先生に任せて、自分たちはG.Bibleの探索に集中できるという寸法だった。

しかし、振り返った先には、五条の姿は影も形もなかった。

 

『あ、あれええぇぇっ!!』

 

いつの間にか消えた五条にモモイは驚愕し、声を上げた。走りながら辺りをキョロキョロと見渡していると、ミドリがモモイの背中に何か張られていることに気が付いた。

 

『お姉ちゃん、これ背中に!』

 

貼られていた紙を剥がして、モモイに渡す。そこには、五条が書いた文字で「先に行きます。後は頑張って♡」と書かれていた。

 

『『う、噓ーっ!!』』

 

二人の叫びが重なり合って、廃墟に響いた。

そして、現在に戻る。

警備ロボットに攻撃を当てて距離を保ちながら、二人は逃げ続けていた。

 

「うわあ!!どうしよー!?」

 

慌てふためくモモイに、ミドリはある場所を指さす。

 

「お姉ちゃん、あの工場!あそこなら隠れられるかも!?」

 

「ナイス、ミドリ!」

 

モモイが警備ロボットたち目掛けて、広範囲にライフルを連射する。攻撃が止まった隙を見て、二人は工場に向かって一気に走り出す。

自分たちの持てる体力の全てを使って全速力で工場に駆け込んだ。扉を閉めて、息を整える。

 

「はあ……はあ……」

 

「つ、疲れた……は、早く隠れなきゃ……!」

 

逃げ込んだところはバッチリみられている。こうしている間にも、すぐに警備ロボットたちが追いかけてくるので、早く隠れなきゃと思い、ミドリが隠れる場所を探していたが、モモイがあることに気が付く。

 

「あれ?

 あのロボットたち、急に追ってこなくなった……?この工場に入るまでは、恐ろしい勢いで向かって来てたのに。

 やった、ラッキ~!」

 

喜ぶモモイとは対照的に、ミドリはその場で座り込んで泣き始めた。

 

「良くないよ!うわあああん!もういや!いったいなんでこんなところで、ロボットたちに追われなきゃいけないの!?」

 

泣きわめくミドリの肩に手を置いて、モモイは諭すかのように語り掛ける。

 

「落ち着いて、ミドリ。生きていればいつか良い日も来るよ」

 

「そもそもお姉ちゃんのせいでしょ!!このあんぽんたん!!」

 

「なっ!?人が優しくしてあげてたら……そんな言い方しなくてもいいでしょ!!ミドリの泣き虫!!」

 

「あんぽんたんあんぽんたんあんぽんたん!」

 

「泣き虫泣き虫泣き虫泣き虫!」

 

子供の喧嘩のような言い合いが起こって、ぐぬぬと二人が睨み合っていると、奥から聞こえのある声が二人の耳に入る。

 

「こらこら、喧嘩しないの」

 

奥から五条が二人に向かって歩いてくる。

 

「「せ、先生!」」

 

五条の顔を見た二人はにこやかに顔が晴れ渡っていく。そして、五条に向かって駆け出し始めた。

 

「「せんせ~い!!」」

 

「おいでー、僕の可愛い生徒たちよ~!」

 

「「ウフフフフ」」

 

「アハハハハ」

 

キラキラとした背景が映し出されそうな笑い声を上げながら、五条との距離がどんどん短くなっていく。

そして、五条の胸に飛び込もうと二人はジャンプし、五条もそれを受け入れようと両手を広げる。

 

「「――と、思わせて……死ねーっ!!」」

 

突然殺意むき出しに拳を振り上げて、目の前の五条の顔目掛けて振り下ろした。しかし、その拳は五条の無下限によって空中で止まった。

 

「――おっと、危ないなあ。どうしたの、いきなり?他人様を理由なく殴っちゃいけないって、お母さんに教わらなかったの?」

 

アハハと笑いながら拳が止まっている二人に注意する五条だったが、そんな五条にモモイが声を荒げて怒りをぶつける。

 

「理由ならあるに決まってるでしょ!私たちをあんなところに置き去りにして!死ぬかと思ったんだから!」

 

「でも、実際には死んでないでしょ。なら、良かったじゃん」

 

「良いわけなーい!!先生が戦ってくれたなら、楽勝だったのに!」

 

「そうです!先生ならあのロボットたちなら簡単に倒せますよね!」

 

モモイとミドリの二人の怒りの猛抗議に対して、五条はつまらなそうに頬を膨らませて返す。

 

「えー、そんなのおもんないじゃーん」

 

「「えー……」」

 

まさかの予想外の答えに、二人は引いてしまっていた。そんな二人を見て、五条は深くため息をついて、静かに告げる。

 

「あのねえ……G.Bibleを探すのは何のため?僕のためじゃない。君たちのためでしょう?」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

「僕は君たちならあのロボットくらいなら逃げ切ることくらいはできると確信しているんだよ。

 それくらい見ればすぐに分かるからね。

 それよりも、最初から僕の力に頼っている時点で、二人とも甘えてるって自覚くらいは、持った方が良いよ」

 

「「……」」

 

五条の説教に、二人は何も言い返せなくなっていた。モモイも五条に頼り切っていたつもりだったし、ミドリもモモイが何とかすると思って自分で考えていなかった。

 

「僕はね、君たちに強くなってほしいんだよ。力だけじゃなくて、心もね。そのためには、自分たちのことは自分たちでできるようにならないと、ね」

 

「はい……」

 

「ごめんなさい……」

 

しょんぼりと反省する二人を見て、五条はニコッと笑って、二人の肩を叩く。

 

「分かったならいいよ。それじゃ、とりあえず進もうか」

 

「「うん(はい)!」」

 

二人も笑って奥に進む。そして、少し進むと奥に大きな扉のある部屋に到達する。扉は古いものでとても開きそうになかったので、引き返そうとしたその時、突如どこからともなく響く謎の声が三人の耳に聞こえだした。

 

『接近を確認』

 

「えっ、な、なにっ!?」

 

「この声、部屋全体から響いている……?」

 

慌てふためくモモイと声の聞こえる場所を探そうとするミドリ、そんな二人の様子を見ているかのように、謎の声は語り続ける。

 

『対象の身元を確認します。才羽モモイ、資格がありません』

 

「え、え!?なんで私のこと知ってるの!?」

 

突然自分の名前を呼ばれたことに、動揺して頭がパニックになろうとしているモモイだが、そんなモモイを無視するかのように、謎の声は続く。

 

『対象の身元を確認します。才羽ミドリ、資格がありません』

 

「私のことも……一体どういう……?」

 

ミドリも自分の名前を呼ばれたことを、訝しげに首をかしげる。

 

『対象の身元を確認します……「五条悟先生」』

 

「うん、僕?」

 

自分の名前も呼ばれたことに、五条が緊張感のない声で返事をすると、謎の声はピピピと謎の音を出して急に何も言わなくなった。そのことに疑問を持ったモモイが、不思議そうな顔で首をかしげると、再び声が聞こえ始めた。

 

『資格を確認しました。入室権限を付与します』

 

「ええっ!?」

 

「え、どういうこと!?先生って何時からこの建物と仲良くなったの!?」

 

それまでとは違う返答に、ミドリとモモイの二人が五条の方に向き合って驚愕する。

 

「あはは!さすがの僕も、建物の友人はいないなー」

 

(資格?一体何のことだ?)

 

いつものように笑って答える五条だったが、心の中でこの不可解な出来事について考える。廃墟について何も知らなかった五条をはじめ、モモイやミドリについても名前を知っていたこの声は、一体誰が、何時、何のために作られたのか、そう考えていると、謎の声は今度はモモイとミドリに向けて、話し続ける。

 

『才羽モモイ、才羽ミドリの両名を、先生の「生徒」として認定、同行者である「生徒」にも資格を与えます。承認しました。

 下部の扉を開放します』

 

「え、下部の扉?」

 

「それって、もしかして……」

 

モモイとミドリに、何やら嫌な予感が二人の背中を奔る。すると、三人の立っていた床が、ガチャンと大きな音を立てて開いた。

 

「床が無くなっ……落ちるっ!?」

 

「うわわわっ!」

 

そのまま二人は、開いた床の中へと落ちていったのだった。

五条はというと、一人落ちることなく、無下限の応用で宙を浮いていたが――。

 

「おっと、さすがにこのまま落ちたらマズいか……しょうがない」

 

穴に落ちていった二人を助けるために、順転の応用で穴の奥へと瞬間移動していったのだった。

 

 

 

「きゃあああ!!」

「うわあああ!!」

 

穴の奥へと落ちていく二人は、地面とぶつかりそうになり思わず目をつむる。しかし、彼女たちは固い床にぶつかることなく、ポスッと優しく受け止められた。

 

「あ、あれ……?」

 

「私たち落ちたはずなのに……?」

 

ゆっくりと目を開けると――。

 

「や、平気?」

 

二人を五条が両腕で抱きかかえるかのようにキャッチしていた。

五条が二人を地面に下ろすと、二人は五条を見てお礼を述べる。

 

「せ、先生!?助かったよ!」

 

「あ、ありがとうございます」

 

五条が「いいよ」と手を振って答えると、モモイとミドリは周囲を見渡す。

 

「えっ……?」

 

「お姉ちゃん、どうしたの……って、えっ?」

 

モモイが突然声を上げて驚愕した。そして、ミドリと五条にその見つめる先を指さす。それを見て、ミドリも同じように驚愕のあまり声が出た。

そこには、薄暗い部屋の中で天窓から差し込む光に照らされて、一人の女の子が一糸纏わぬ姿で、椅子で眠っていた。

この出会いが、ゲーム開発部の未来を、ひいてはキヴォトスの未来を大きく変えるものだということは、五条悟でさえ知りえないものだった。

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