シャーレの五条先生   作:未来跳躍

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みなさん、GWどう過ごせましたか?
自分は忙しくて、死にそうでした……。
皆さんの感想やお気に入り登録が癒しでした。


私はアリス

廃墟にある謎の地下室に落ちた先で、謎の少女が一人静かに眠っていた。

廃れた部屋の中で何一つ身に纏っていない少女の身体は、塵一つの汚れのないほど綺麗で、神秘的に見えるほど美しかった。目の前のこの状況に驚愕して言葉を失うするモモイとミドリだったが、五条はこの状況に驚くことはしなかった。ただ、彼の六眼()は眠っている少女を一目見た瞬間、少女の中にあるものに興味を持った。

 

「へえ、面白そう……」

 

新しい玩具を見つけた子供の様に楽しそうに笑いながら、もう少し近くで見るために、少女に近づこうとするが――。

 

「ストーップ!!先生はここにいて!!」

 

モモイが大声を上げて、五条を止める。眠っている裸の少女に、大人の男が近づくのはマズいと考えるのは当たり前である。しかし、五条は、あからさまに不満げな顔をしながらぶっきらぼうに言う。

 

「別に子供の裸に興味ないって」

 

「いいから!」

 

「先生はここで待っていてください!」

 

五条は、子供の裸に興奮するような性癖は持ち合わせていないのだが、そんなことは関係ないとモモイが声を荒げて叫ぶ。モモイだけでなくミドリも睨んでくるので、五条は渋々と後ろに下がるのだった。

五条が下がったのを見たモモイとミドリは、眠っている少女に恐る恐る、ゆっくりそーっと近づいていく。そして、少女が眠る椅子の前に到着する。

 

「お、女の子?」

 

「この子……眠ってるのかな?」

 

モモイはそっと少女の頬を指で軽く突いてみる。しかし、少女から反応は帰ってこなかった。

 

「……返事がない。ただの死体のようだ」

 

思わずボソッと呟くと、ミドリがモモイの頭を叩いた。

 

「不謹慎なこと言わないで!」

 

「あ痛っ!」

 

頭を押さえるモモイに、ミドリは少女を指さしながら気になったことを指摘する。

 

「それより、お姉ちゃん、見て。

 この子、眠ってるというより……『電源が入ってない』みたいな感じがしない?」

 

「そう?確かに言われてみれば、何だかマネキンっぽいね。どれどれ……」

 

モモイは眠る少女の頬を指で突いてみる。指先に触れた感触は、自分の頬と同じくらいの柔らかな感触に驚くのだった。

 

「うっわ!すごい、肌もしっとりぷにぷにだ……あれ?ここに何か、文字が書かれてる」

 

モモイが少女に触れていると、少女の眠る大きな椅子に何かの文字が刻まれていることに気が付いた。

 

「……AL-IS……。

 ……アル、イズ……エー、エル、アイ、エス?どう読むのか分からないけど、この子の名前?

 ……アリス?」

 

モモイがどう読むのか考えていると、ミドリが文字を近くでよく見るとあることに気が付いた。

 

「ちょっと待って、これよく見ると全部ローマ字なわけじゃなくて……AL-1S、じゃない?」

 

「えっ、そう?」

 

そう言われてよく見てみると、1に見えなくもない。

ただ一番の謎は――。

 

「いったいこの子は……それにこの場所は何なんだろう?」

 

ミドリが疑問を考えていると、モモイはある結論にたどり着く。

 

「この子に直接聞いた方が早いんじゃない?」

 

「起きて、話してくれるなら良いんだけど……とりあえずこのままじゃかわいそうだし、服でも着せてあげようか」

 

ミドリはカバンを下ろして、中から猫のプリントされた下着を取り出す。

 

「へえ、予備の服なんて持ってきてたんだ……ってそれ私のパンツじゃん!」

 

「違うよ、これは私の。猫ちゃんの表情が違うでしょ」

 

恥ずかしそうに怒るミドリは下着を穿かせて、予備の制服を眠る少女に着させていく。そして、最後に頭に髪飾りを着けてあげたミドリは、満足げに額の汗を拭う。

 

「……よし。これでいいかな」

 

「せんせーい、もういいよー!」

 

無事に少女の着替えが終了して、モモイが後ろで待っていた五条を呼び込む。「やれやれ、やっとか」と言いながら、五条は少女の元に近づく。

その時、ピピピと謎の電子音が鳴り始める。

 

「な、何この音!?」

 

「警報音みたいだけど……もしかして近くにさっきのロボットが?」

 

周りを見渡すミドリに、モモイが眠る少女を見つめながら静かに答える。

 

「ううん……『この子』から聞こえた気がする」

 

「え?ま、まさか……」

 

――状態の変化。及び接触許可対象を感知。休眠状態を解除します――

 

少女の椅子のモニターにそう表示されると、少女はその瞼をゆっくりと開く。

 

「め、目を覚ました」

 

「……」

 

少女は黙ったまま、辺りを見渡して五条に向けて口を開いた。

 

「状況把握、困難。

 会話を試みます……説明をお願いできますか」

 

「え、えっ!?せ、説明?何のこと?」

 

「せ、説明が欲しいのはこっちの方!あなたは何者?ここは一体何なの!?」

 

少女の口から説明を聞くどころか、逆に説明を要求されることにモモイとミドリの二人は慌てふためく。そんな二人の問いかけに、少女は機械的な口調で静かに答える。

 

「本機の自我、記憶、目的は消失状態であることを確認。データがありません」

 

「へえ、一目見た時から気づいていたけど、やっぱりこの子は……」

 

回答する少女を、五条は目隠しを少し上げて間近で見る。最初に見た時、この少女はただの人間ではないなと思っていたが、こうして近くで直接目にすることで、彼の考えは確信へと変わった。このキヴォトスではロボットの住民は多数存在しているが、この少女は、彼らとはが似て非なる全く別物であった。しかし、彼の眼は呪術を見るものであり、呪術無きキヴォトスの神秘を見るものではない。なので、結局のところは五条でもこの少女のことはなんかすごそうという事しか分からないということが分かっただけなのであった。

五条の後ろに隠れて、ミドリが恐る恐る少女に向けて問いかける。。

 

「……い、いきなり攻撃してきたりしないよね?」

 

その問いに、少女は緑のことを真っ直ぐ見つめて返す。

 

「肯定。接触許可対象への遭遇時、本機の敵対意思は発動しません」

 

それを聞いたモモイは嬉しそうにはしゃいでいた。

 

「うわ、すごい。ロボットの市民はよくいるけど、こんなに私たちに似てるロボットなんて初めて!」

 

子供の様にはしゃぐモモイとは対照的に、ミドリは困った顔で五条の方に顔を上げて尋ねる。

 

「うーん……先生、どうしましょう?」

 

そう聞かれた五条は、少女に向けて軽く手を上げていつものように明るく挨拶を始める。

 

「や!僕の名前は五条悟、先生をやってる。

 君の名前は?」

 

「回答不可、本機の深層意識における第一反応が発生したものと推定されます」

 

難しい言葉で回答する少女に、モモイとミドリはヒソヒソと話し合う。

 

「深層意識って、何のこと……?」

 

「うーん……」

 

モモイは、これまで状況を考える。

 

「工場の地下、ほぼ線らの女の子、おまけに記憶喪失……」

 

普段あまり使わない頭を稼働させていると、モモイの中にある閃きが浮かんだ。

 

「ふふっ、良いことを思いついちゃった」

 

ふっふっふと悪い笑みを浮かべるモモイを見て、ミドリは嫌な予感が脳を過る。

 

「いや……今の言葉の羅列からは、嫌なことしか思い当たらないんだけど……」

 

「???」

 

何かわからずポカンと立ち尽くす少女は――。

 

 

 

 

「???」

 

なぜか、ゲーム開発部の部室で同じように立ち尽くしていた。

それを見たモモイは満足げに腕を組んで一言――。

 

「これでよし!」

 

「なにがよし、よ!!」

 

そんなモモイの頭を、ミドリが後ろから思い切り叩いた。叩かれた後頭部を押さえながら、ちょっと涙を目に浮かべてモモイはミドリに向かって声を上げて怒る。

 

「いったーッ!何すんの!?」

 

すると、ミドリはモモイの襟元を掴み上げて、前後に大きく揺さぶりながら声を荒げる。

 

「何すんのじゃないよ!?

 この子を部室まで連れてきてどうするの!」

 

「うっ、首絞めないでって!苦しっ、ゲホッ、ゲホッ!」

 

ミドリの手が襟から離れて、涙目で咳込みながらモモイは慌てて弁明する。

 

「し、仕方ないじゃん。そもそもあんな恐ろしいロボットたちがいる場所に置いておくわけにも……あれ?」

 

モモイが少女を指さしたが、先ほどまでポカンと立っていた少女がいなくなっており、首をかしげていると少女は部室の隅でゲームのリモコンを口に入れてしゃぶっていた。

それが自分のリモコンだと気づいたミドリが、慌てて少女の元へ駆け寄る。

 

「ああっ、私のWeeリモコンを口に入れないで!ペッてして!ペッて!」

 

「ほらね……やっぱり、放っておくわけにもいかないでしょ」

 

「それはそうだけど……」

 

少女の口からリモコンを取り上げたミドリは、モモイの言葉に一部は納得はできた。

しかし、それでもこの部室に置いておくことはできないので、普通に通報した方が良いかを尋ねる。

 

「今からでも、連邦生徒会かヴァルキューレ辺りに連絡した方が良くない?」

 

連邦生徒会かヴァルキューレ警察学校ならば、身元の分からない記憶喪失の少女を保護してもらうように連絡すれば動いてくれるだろう。それが一番の解決策なのだが、モモイは含みのある笑みを浮かべて答える。

 

「それはそうだけど……それはまだ(・・)。私たちのやるべきことが終わった後にね」

 

「やるべきこと?

 ……というか、先生はどこに行ったの?」

 

首をかしげるミドリだが、モモイはそれに答えずに、少女の方に顔を向けてあることを考え始めた。

 

「さてと、とりあえず名前は必要だよね。どうしようかな……『アリス』ってのはどうかな」

 

「……本機の名称、『アリス』。確認をお願いします」

 

少女の名前を考えるモモイに、ミドリは横から割り込むように入ってモモイを注意する。

 

「ちょ、ちょっと待って!それお姉ちゃんが勝手に呼んだ名前でしょ!?本当ならAL-1Sちゃんなんじゃないの?」

 

「そんな長い名前呼びにくいじゃん。どう、アリス?気に入った?」

 

モモイは少女に尋ねると、少女は少し沈黙した後、どこか嬉しそうに見える顔で静かに答える。

 

「……肯定。

 本機、アリス」

 

すると、モモイは嬉しそうにガッツポーズをとって、ミドリに勝ち誇るかのように小躍りする。

 

「やったー!ほら、見たか私のネーミングセンス!」

 

「うーん……本人が気に入ってるならいいけど」

 

「さあ、それじゃ次のステップに行ってみよっか」

 

楽しそうにするモモイを見て、ミドリは心配そうにモモイの目的を聞いてみることにする。

 

「お姉ちゃん、一体何を考えてるの……?子猫を拾ってきたとか、そういうレベルじゃないんだからね!?」

 

「ミドリの方こそ、よく考えてみてよ。そもそも私たちが危険を冒してまで、G.Bibleを探してた理由は何だっけ?」

 

「それは……良いゲームを作って、部活を廃部にさせないためでしょ?」

 

「そう、今一番大事な問題はそれ。

 良いゲームも作りたいけど、まずは部活の維持が最優先。それで、そのためには二つの条件のうち、どっちかをクリアする必要がある。

 ミレニアムプライスで受賞を狙うのは、あくまでもそのうちの一つに過ぎない」

 

「あくまでも何も、方法は実際のところ一つしかないでしょ?お姉ちゃんがそう言ったんじゃん、だってこれ以上『部員を増やす』のは無理……あれ?」

 

ここでミドリの言葉が止まる。それと同時に、何か嫌な予感も感じる。

 

「お、お姉ちゃん、まさかとは思うけど……この子をミレニアムの生徒に偽装して、うちの部に入れようとしてるんじゃ……!?」

 

モモイはアリスに向き直り、満面の笑顔で元気にお願いする。

 

「アリス!

 私たちの仲間になって!」

 

そうお願いされたアリスは、今度はモモイの携帯ゲーム機を口に咥えてガジガジと噛んでいた。

 

「ああっ!私の『ゲームガールズアドバンスSP』食べちゃダメっ!8コア16スレッドカスタムCPUに8K解像度を誇る、キヴォトス唯一の16bitゲーム機なんだよ!?」

 

「ああ、もう……大丈夫かな?」

 

慌ててアリスから、ゲーム機を取り上げようとするモモイを見て、ミドリはこの先何が起きるのか分からない不安に頭を抱えるのだった。

ゲームを噛むアリスからなんとかゲーム機を取り上げて息の上がるモモイを見て、ミドリの不安は大きくなっていく。

 

「うーん……。

 この子をうちの部員に偽装するなんて……本当に大丈夫?」

 

「『大丈夫』の意味を確認……『状態が悪くなく問題が発生していない状況』のことと推定、肯定します」

 

機械的な口調で答えるアリスにミドリは頭を抱えるのだった。

 

「……いやいや、肯定できないって!こんな口調じゃ絶対疑われるよ!

 やめておこう!?これは無理だって!」

 

モモイの袖を掴んで何とか諦めるように説得するが、モモイはため息をついてミドリの方に向き合う。

 

「今やめるって選択肢の方が無理だよ。何としても、私たちのゲーム開発部を守らなきゃ。

 そうしないと、ユズの居場所が……寮に戻るわけにはいかないし……」

 

「うっ……」

 

「それに先生も言ってたでしょ。これは私たちの問題だから、私たちの力で解決しなきゃ。そのためなら私は、目の前に降りたこのチャンスを何としてでもものにするよ」

 

真っ直ぐと見つめるモモイの眼差しに、ミドリは反論することはできなかった。

 

「……そうだった、ね」

 

モモイはアリスを見直して、必要な物の確認を行う。

 

「服装はある程度整ったし、あとは武器と……学生登録をして、学生証を手に入れないと。

 学生証については、私の方で何とかするから。

 ミドリはユズと二人で、アリスに『話し方』を教えてあげて」

 

「は、話し方?」

 

「さっき自分で言ってたでしょ。今のままだったら、疑われちゃうかもしれないから。

 このままじゃユウカに『友達もいないあなたたちに、新しい部員の募集なんて出来るはずないでしょ』って言われるだろうし……。そうなって、何かの拍子に『本当にゲーム開発部なの』って聞かれた時……。

 『肯定、あなたの質問に対し、アリスの回答を提示。私はゲーム開発部の部員』……なんて言っちゃた暁には、全部台無しになりかねない」

 

ミドリもその時の瞬間を想像した途端に、全身が震えあがった。首を横に振って嫌な想像を頭から追い払うが、自分の肩にのしかかるプレッシャーに重いため息が出る。

 

「分かった、やれるだけやってみるよ」

 

「よし、じゃあ任せた!」

 

親指を立ててすぐさま部室を飛び出したモモイはあっという間に見えなくなっていた。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

まだ心の準備が出来てないのに、いなくなった姉にミドリはゆっくりとアリスへと顔を向ける。

 

「???」

 

状況を理解できていないアリスに、ミドリはたどたどしく声を掛ける。

 

「え、えっと……アリス、ちゃん?」

 

「肯定。本機の名称、アリスです」

 

「うん、じゃあアリスちゃんって呼ぶね。それにしても話し方かあ……よく考えると、どうやって習得するんだろ。普通は動画を見たり、周りの言葉を真似していくうちに自然に、って感じだと思うけど。

 ……うーん。子供用の教育プログラムって、インターネットに落ちてるかな……」

 

ミドリが考えている後ろで、アリスは部室内を興味深そうに見渡す。

 

「正体不明の物を発見、確認を行います」

 

「ん?」

 

アリスの声に気づいたミドリが、そちらに目を向けるとアリスが手にしていたには1冊の雑誌だった・

 

「そ、それは……。

 えっと……ちょっと恥ずかしいけど、実はその中に、私たちが作ったゲームが載ってるの。まあ、すごい酷評されちゃったんだけどね」

 

自分たちの苦い思い出に少し恥ずかしくなるのだが、ここでミドリはあることを思いつく。

 

「そうだ!

 クソゲーランキングでは1位になっちゃけど、アリスちゃんがどう思うのか分からないよね……。

 アリスちゃん、私たちのゲーム……やってみない?」

 

「……?」

 

首をかしげるアリスに、ミドリは軽く説明をする。

 

「『会話』をしながら進められるから、ゲームをやってみるのも勉強になるかも」

 

「ここまでの言動の意図、完璧には把握しかねます。しかし……。

 ……肯定、アリスはゲームをします」

 

その言葉に、ミドリの顔はパアッと明るくなる。アリスの両手を握って上下に激しく振って、嬉しそうに喜びを露わにした。

 

「ほ、本当に!?ちょ、ちょっと待ってて、すぐにセッティングするから!」

 

急いでゲームの準備に取り掛かり、すぐにセッティングを終えたミドリはアリスをゲームの前に座らせた。

 

「よし、準備完了!」

 

「……。

 アリス、ゲームを開始します」

 

ゲームの起動音が鳴り、テレビにテイルズ・サガ・クロニクルのタイトル画面が映し出される。横でミドリが嬉しそうにゲームの解説を始めた。

 

「タイトルから分かるかもしれないけど、このゲームは童話テイストで、色彩豊かな王道ファンタジーRPGなの」

 

あらすじが流れる。

 

『コスモス世紀2345年、人類は豪華の炎に包まれた……』

 

開幕から意味が分からず、アリスは首を傾げた。それを見たミドリは、慌てて補足説明に入る。

 

「えっと、王道と言っても、色々な要素を混ぜてたりするんだけどね。トレンドそのままでもダメだけど、王道に拘りすぎても古くなるからってことで」

 

「……ボタンを押します」

 

アリスがボタンを押すと、画面に新たな文が流れる。

 

『チュートリアルを開始します。

 まずはBボタンを押して、目の前の武器を装着してみてください』

 

「Bボタン……」

 

アリスは説明の通りBボタンを押す。

――すると、なぜか爆発音とともに画面は暗転する。

 

「???」

 

何が起きたのか分からないアリスに、次に映し出されたのは赤い〈GAME OVER〉の文字だった。

 

「!?!?」

 

「あはははっ!」

 

突然のゲームオーバーに混乱するアリスの後ろから、モモイの笑い声が聞こえた。モモイは楽しそうにアリスの横で自信満々に何が起きたのかの説明を始める。

 

「予想できる展開ほどつまらないものはないよね!本当はここで指示通りじゃなくて、Aボタンを押さなきゃいけないの!」

 

「お姉ちゃん……?学生証を作りに行ってたんじゃなかったの?」

 

ミドリが尋ねると、モモイは背中を伸ばしながら気楽に答える。

 

「いやー、行ってきたんだけどさ。もう遅い時間だったから誰もいなかったの。だから、また明日にする」

 

「そうなんだ。

 それはさておき、あらためて見てもこの部分はちょっと酷いと思う」

 

自分の作ったゲームの反省点を見直すミドリだったが、アリスは再びコントローラーを握り直して再びゲームを始める。

 

「再開……テキストでは説明不可能な感情が発生しています」

 

「あっ、私それ分かるかも!きっと『興味』とか『期待』とか、そういう感情だと思う!」

 

「どう考えても『怒り』か『困惑』だと思うけど……」

 

再びゲームを始めるアリス。今度はしっかりとAボタンを押して武器を装備する。

 

「装備完了……」

 

「お、良い感じ。そのまま進めば、RPGの華である戦闘が……」

 

『エンカウントが発生しました!』という文字が流れて、アリスに緊張感が走る。

 

「緊張、高揚、興味」

 

「Aボタンを押して!今度は嘘じゃないから!」

 

モモイの言う通り、Aボタンを押すと技の選択画面に入り技の説明が映し出される。

 

「Aボタン……『秘剣つばめ返し:敵に対して2回攻撃をする』。

 行きます、プニプニに対して……秘剣!つばめ――」

 

攻撃を開始するためにボタンを押そうとしたその時、『プニプニの早撃ち攻撃!即死した』というメッセージと共に、またゲームオーバーになってしまった。

 

「!?!?」

 

『プニプニ:ふっ、いかに剣の達人と言えども我が銃の前では無力……』というメッセージが流れたところで、モモイは不満げに腕を組んで考える。

 

「うーん、やっぱりプニプニが『ふっ』って言うのは不自然かな」

 

「……ツッコミどころはそこじゃないと思う」

 

あまりのことにアリスは混乱し続けていた。

 

「思考停止、電算処理が追いつきません」

 

「あ、アリスちゃん?大丈夫?」

 

ミドリが心配そうに声を掛けるが、アリスはまたゲームの方に向き直る。

 

「リブート、再開します。

 今度は銃の射程距離把握に努めながら、接近しすぎないようにプニプニを排除します」

 

諦めないアリスの姿勢を見たモモイが、嬉しそうに手を叩いた。

 

「そう、まさにそれ!諦めずに繰り返し挑戦して、試行錯誤の末に答えを見つける!それがレトロチックなゲームのロマンだよ!」

 

そうして、アリスはゲームを続ける。次々と襲い掛かる鬼畜かつ理不尽なゲームに、トライアンドエラーの要領で何度も何度も挑み続けた。そうして、アリスがゲームを開始して2時間が経過していた。

 

「……電算処理系統、および意思表示システムに致命的なエラーが発生」

 

心の奥に渦巻く言いようのない感情にアリスは、既にエラーになりっぱなしだった。

 

「頑張ってアリス、ここさえ乗り越えれば待望のクライマックスだよ!」

 

「うう……今のはどう考えても、『草食系』って言葉が思い出せないからって、それを『植物人間』って書いたお姉ちゃんのせいでしょ!?

 『ごめんなさい。私は植物人間ですので、女性に対して気軽に声を掛けることはできません』ってテキストを読んだ瞬間に、アリスちゃんが一瞬意識を失ってたじゃん!」

 

「……質問。どうして母親がヒロインで、それでいて実は前世の妻で、さらにどうしてその妻の元に、子供のころに別れた切りの腹違いの友人がタイムリープしてきているのか……いえ、そもそも『腹違いの友人』という表現はキヴォトスの辞書データに登録されていな――」

 

理不尽な難易度、意味不明な文章、そして盛りに盛りすぎた設定に、とうとうアリスの頭は許容範囲を超えた。

 

「エラー発生!エラー発生!」

 

「が、頑張ってアリスちゃん!クライマックスまでもう少しだから!」

 

ミドリに励まされてアリスは落ち着きを取り戻すために深呼吸をする。

 

「……リブート。プロセスを回復。

 ……ふぅ。

 これが、ゲーム……」

 

自分の知らない未知に出会い続けることに、アリスの心は高鳴っていた。

コントローラーを握り締め、アリスはゲームに挑む。

 

「再開します」

 

そして、それから1時間が経過して、ついにゲームはエンディングに到達した。モニターには〈CONGRATULATION

〉という派手なメッセージと祝福を彩る音楽が流れていた。そして、無事にゲームを終えたアリスはというと――。

 

「こ、ろ、し、て……」

 

死に体のありさまだった。

 

「すごいよアリス!開発者二人が一緒とはいえ、3時間でトゥルーエンドなんて!」

 

アリスの横で一緒に感動を分かち合って喜ぶモモイ。一方で、ミドリはここまでの3時間であることに気が付いた。

 

「そ、それもそうだけど、もしかして、本当にゲームをやればやるほど……アリスちゃんの喋り方のパターンが、どんどん多彩になってきてる……!?」

 

「勇者よ、汝が同意を求めるならば、私はそれを肯定しよう」

 

アリスの口調が最初と違ってきていることに、モモイも少し違和感を覚えながらも感じ取っていた。

 

「うん、確かにそう……かも?」

 

「ゲームからそのまま覚えたせいで、ちょっとまだ不自然かもだけど……言葉を羅列してただけの時よりは、かなり良くなったと思う!」

 

アリスの変化に喜ぶミドリだったが、少し恥ずかしそうに大事なことを聞き出すことにする。

 

「と、ところでその……こういうのを面と向かって聞くのは緊張するんだけど……わ、私たちのゲーム、どうだった?面白かった!?」

 

モモイとミドリはワクワクしながらアリスの感想を待ちわびる。アリスは少し考えた後、静かに答える。

 

「……説明不可」

 

「ええっ!?なんで!?」

 

驚くモモイにアリスは続けて答える。

 

「……類似表現を検索。

 ロード中……」

 

考えるアリスを見て、ミドリは不安そうにアリスに問いかける。

 

「も、もしかして、悪口を探してる……?そんなことないよね?」

 

「……面白さ、それは、明確に存在……」

 

「おおっ!」

 

「プレイを進めれば進めるほど……まるで、別の世界を旅しているような……夢を見ているような、そんな気分……もう一度……。

 もう一度……」

 

すると、アリスの目から涙が零れ落ちた。

 

「ええっ!?」

 

突然の涙に驚くモモイとミドリは、慌ててアリスに尋ねる。

 

「あ、アリスちゃん!?どうして泣いてるの!?」

 

「……」

 

アリスは答えない。なぜなら、アリス自身もなぜ涙が零れたのか分からずに戸惑っていたから――。

涙を流すアリスの理由を、モモイは即座に理解する。

 

「分かった!それぐらい、私たちのゲームが感動的だったってことでしょ!」

 

「い、いくらなんでもそれは……というかこのゲーム、ギャグよりのRPGのはずだし……」

 

「ありがとうアリス!その涙はその辺の評論家の言葉より、100倍嬉しいよ!あー、早くユズにも教えてあげなきゃ……!」

 

モモイは急いで部室を飛び出そうとしたその時――。

 

「……ちゃ、ちゃんと、全部見てた」

 

三人ではない声と共に、ロッカーの扉がひとりでにゆっくりと開いていく。それを見たミドリが、驚いてプライステーションを持ち上げる。

 

「きゃあっ!お、オバケッ!」

 

「落ち着いて、ミドリ!プライステーションを投げないで!」

 

モモイがミドリを羽交い絞めにして抑え込む。そんな二人を余所にロッカーから一人の少女が出てきて、アリスを無言のまま、ソワソワとした様子でアリスを見つめていた。

 

「……」

 

「……?」

 

アリスは何のことか分からず、首をかしげるが、モモイとミドリは開いたロッカーから現れた少女を見て驚愕する。

 

「ユズ!?」

 

「ユズちゃん、あれだけ探しても見つからなかったのに!いつからロッカーの中に!?」

 

「み、みんなが、廃墟に行く時から……」

 

ユズが恥ずかしそうに小声で話すのを聞いて、モモイとミドリはまた驚いた。

 

「だいぶ前じゃん!?その時からずっとロッカーの中にいたの?

 あ、もしかして……先生が怖かったの?」

 

ミドリが尋ねると、ユズは小さく頷く。

 

「あ、あの先生、私の事……気づいてた」

 

「えっ、そうなの!?」

 

「うん、一瞬だけだったけど、ロッカーに隠れていた私の方に目を向けてた。他の人がいたから、何も言わなかったけど」

 

ユズが小さい声で話していたが、モモイとミドリはあの時に全く気付いてなかったことの動揺でいっぱいだった。ミドリが我に返ると、ユズに向かって安心した様子で声を掛ける。

 

「まあ、いいか。モモトークで伝えてくれれば良かったのに、ビックリしたよ」

 

「うう……」と声を出して蹲るユズを、モモイはアリスに紹介する。

 

「あ、アリスは初めてだよね。この人が私たちゲーム開発部の部長、ユズだよ」

 

黙ってユズを見つめるアリスに、ユズは立ち上がって、一歩、また一歩とゆっくり進み、アリスへとそっと手を差し伸べるのだった。

差し伸べられた手に、アリスは何のことか分からずキョトンとしていると、ユズはしどろもどろになりながらもゆっくりと話しかけはじめた。

 

「あ、あの、その……。

 あ、あ、あ……」

 

「あ……?」

 

「……ありがとう」

 

小さい声ではあるものの、ユズは感謝のありがとうを口にする。そして、一歩踏み出して、アリスの手を握って自分の思いを口に出していく。

 

「ゲーム、面白いと言ってくれて……もう一度やりたいと言ってくれて……。

 泣いてくれて……本当にありがとう」

 

「???」

 

まだ何も知らないアリスにとって、感謝を言うことも言われることも分かっていない。

それでも、ユズは自分の思いを最後まで口にする。

 

「面白いとか、もう一度とか……そういう言葉が、ずっと聞きたかったの」

 

「「ユズ(ちゃん)……」」

 

モモイとミドリも、ユズと同じ気持ちになって胸の奥からこみ上げるものを感じていた。

 

「とにかく、あらためまして。

 ゲーム開発部の部長、ユズです。

 この部に来てくれてありがとう、アリスちゃん。

 これから、よろしくね」

 

「よろ、しく……。

 ……理解」

 

アリスは言葉の意味を調べ始め、小さく頷いた。そして――。

 

「ユズが仲間になりました、パンパカパーン!」

 

と、まだ機械っぽさが残る単調的な口調で、嬉しそうに両腕を上に広げた。

 

「……合ってますか?」

 

「あ、うん。だいたいそんな感じ、かな」

 

アリスの返答に、戸惑っていたユズだったが、すぐにフフッと笑みがこぼれる。

 

「その様子だと、本当に私たちのゲームを楽しんでくれたんだね……仲間が増えるのは、RPGの醍醐味の一つだもんね。

 あ、もしRPGが面白いなって思ってくれたなら……わたしが、他にもおすすめのゲームを教えてあげる」

 

嬉しそうに微笑みながらアリスに自分の好きなゲームを薦めようとするユズに、モモイが声を上げてそれを制止させる。

 

「ちょっと待ったぁ!おススメするのは私が先!良質なゲームをやればやるほど話し方も自然になって、私たちの作戦の成功率も上がるんだし!

 さあ、まずは『英雄神話』と『ファイナル・ファンタジア』と『アイズ・エターナル』と……」

 

「何言ってるの、アリスちゃんはゲーム初心者だよ!?『ゼルナの伝説・夢見るアイランド』から始めるのが一番だって!」

 

「これだけは譲れない、次にやるべきは『ロマンシング物語』だよ。あ、でも第3弾だけはちょっと、個人的には、やらなくても良いかなって……」

 

三人が三人とも、自分のおススメをアリスに最初にやってもらいたいゲームを決めようとギャーギャーと言い合っていた。

残されたアリスは、何が何なのか分からず三人の言い合いを後ろで黙って見ていた。けれど、三人がゲームについて熱く語っている姿を見て、アリスは、胸の奥に湧き上がる高揚感に思わず笑みがこぼれるのだった。

 

「……期待。再び、ゲームを始めます」

 

こうして、アリスは次々とゲーム開発部の薦めるゲームをプレイしていった。王道のRPGも対戦ゲーム、パズルゲーム、パーティーゲームなどをひたすらプレイして、同じジャンルのゲームでも全く違う物語や難易度、そして、面白さにアリスはどんどん夢中になって、代わる代わるゲームを遊んでいくのだった。

夜も更け、三人が眠ってしまっても、アリスは寝る間もなく黙々とゲームを進めていく。ゲームをクリアすれば、次のゲームをやっていく。そうしてアリスは、ゲームの奥深さにのめり込んでいった。

 

「……クリア」

 

そう呟くアリスの顔は、最初の感情のない機械のような真顔ではなく、無邪気に楽しそうな笑顔で笑っていたのだった。その様子を部屋の外から見守る五条は、クスッと笑って静かにその場を後にした。

そして、時は流れて朝を迎える。

 

「うーーん……。

 えっ、もう朝!?しまった、準備しなきゃ……!」

 

ミドリは、いつの間にか寝てしまっていたことに慌てて、アリスの準備のために急いでソファーから飛び起きる。そんなミドリに、アリスはそっと近づくのだった。

 

「……。

 ようやく目を覚ましたか。無事に目を覚ましたようで何よりだ、君は運がいいな」

 

「えっ!?」

 

アリスの話し方が昨日とはまるで別物になっていたことに、ミドリは驚愕する。

 

「あ、アリスちゃんか……調子はどう?色々と覚えられた?」

 

「君の言葉を肯定しよう、必滅者よ」

 

眩しい笑顔で頷くアリスだが、言葉がRPGのセリフのままなのに、ミドリは少し違和感を覚えた。

 

「な、何か偏った台詞ばっかり覚えてない……!?」

 

「ふぁ……みんな、おはよう……」

 

ユズも起きたその時、部室の扉が開いて、モモイと五条が元気よく入ってくるのだった。

 

「「おっはよう!!」」

 

「うるさい……」

 

朝の寝起きに二人のハイテンションと声は頭に響くので、ミドリはげんなりとする。そんなミドリを置いて、モモイはアリスの元へ寄って、あるものを手渡した。

 

「アリス、これ」

 

「……?」

 

手渡されたものを不思議そうに見つめるアリスは、それを元気に上に掲げた。

 

「アリスは『正体不明の書類』を獲得した」

 

嬉しそうに腕を掲げるアリスを見て、五条は面白そうに笑う。

 

「いやー、少し見ない間に、だいぶ流暢に話せるようになったじゃないの」

 

「流暢っていうか、レトロゲームの会話調そのものだけどね」

 

「まあまあ、いいじゃん!アリス、これは『学生証』だよ」

 

「学生証……?」

 

モモイから聞かされる言葉に、アリスは首をかしげる。そんなアリスを見て、モモイは詳しく教えてあげるのだった。

 

「この学生証は、私たちの学校の生徒だっていう証明書。生徒名簿にもヴェリタスがハッキ……いや、登録してくれたから、もうアリスも正式に私たちの仲間だよ!」

 

「仲間……なるほど、理解しました」

 

モモイの説明を受けて、アリスは頷く。その後、両手を広げて嬉しそうに笑うのだった。

 

「パンパカパーン、アリスが『仲間』として合流しました!」

 

わーい!と喜ぶアリスを横目に、ミドリがモモイに静かに耳打ちをする。

 

「ねえ、今『ハッキング』って言わなかった……?」

 

「大丈夫大丈夫!さて制服と学生証、それに話し方!この辺は全部解決できたから……。

 あとは……武器、だね」

 

高らかに笑うモモイは両手をパンと合わせて、アリスと五条に向かって声を掛ける。

 

「よし。アリス、先生、せっかくだし案内するよ」

 

「……案内?」

 

キョトンと尋ねるアリスに、モモイは自信満々に胸を張って元気に答える。

 

「私たちの学校、ミレニアムを!」




モモイ「みんな、なんか恥ずかしいことってある?」

ミドリ「どうしたの、急に?」

モモイ「いや、この前知り合いだと思って声を掛けたら、赤の他人でさー。
 というわけで、みんなの恥ずかしい話を聞いて、私の恥ずかしいことを上書きしようかと」

アリス「なるほど、モモイは天才です!」

モモイ「いやー、それほどでもあるけどね!」

ミドリ「……いや、そもそも最初にそれを言わなければ、私たちに恥ずかしいことバレなかったんじゃ……」

アリス「次回、『資格審査』お楽しみにです!」

モモイ「……しまったぁッ!!」

ミドリ「バカだね」
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