シャーレの五条先生   作:未来跳躍

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あまり上手く文字にできず、ちょっと手間取ってしまいました。


そこにあったもの

ゲーム開発部の存続のために、幻のG.Bibleを入手するべく「廃墟」に向かったゲーム開発部。部長のユズと新入部員のアリスも加わった四人で廃墟攻略に挑んでいた。

 

「来た、ロボットたち……!」

 

「大丈夫、まだ引き付けられる……!」

 

波の如く押し寄せるロボットの軍勢に、モモイとミドリ、ユズの三人が応戦していた。

モモイとミドリ二人のコンビネーションで、ロボットたちの視線を誘って、ユズは少ない動きでモモイとミドリが動き回れるようにサポートに回っていた。

ロボットたちを倒すためではなく、引き付けるための戦い方をするのは、最後の一人がタイミングを待っていたからである。

 

「……よし、アリスちゃん!

 やっちゃって!」

 

ミドリの言葉に、アリスは頷く。手に持ったレールガンの照準をロボットたちに合わせる。レールガンの砲塔に光が収束する。それを見たモモイたちが、アリスの後ろに隠れる。

 

「今日の私の役割は、光属性広域アタッカー……前方のモンスターたちを、殲滅します。

 ……光よ!」

 

震える轟音と閃光が、ロボットたちを飲み込んだ。光が収まった先には、ロボットたちは跡形もなく消滅していた。

 

「よし、成功!」

 

「アリスちゃん、すごい!」

 

ガッツポーズを決めるモモイと感心するミドリだったが、すぐにユズが二人に声を掛ける。

 

「ま、まだ!敵の第二陣が接近中!」

 

ユズの言葉の通り、先ほどと同じ規模のロボットの軍勢が奥からこちらへ向かっているのを確認できた。それを見たミドリは、思わず辟易する。

 

「ここで立て続けはちょっと……流石に不利だよ、撤退しよう!安全第一で作戦を立て直した方が、きっと……!」

 

ミドリがそう提案するが、モモイは首を横に振る。

 

「……ううん。

 ここで退くわけにはいかない、突破しよう」

 

「ええっ!?」

 

「多分ここで退いても、状況は悪くなる一方。ロボットは今の戦闘音を聞いて、この後どんどん集まり続けるはず。

 全部でどれくらいの数がいるのか分からないけど、多分今が一番手薄のはず……G.Bibleの座標が示しているあの『工場』に入るには、今が最大のチャンスだと思う」

 

「で、でも……」

 

モモイの言うことに理解はしつつも、納得が出来ないミドリは渋っていると、後ろから五条がアドバイスを授ける。

 

「モモイの言う通りだろうね。手薄なのもあるだろうけど、今を逃せばミレニアムプライスには間に合わなくなるんじゃない?」

 

「せ、先生……」

 

「G.Bibleを手に入れるのは、これが最後のチャンスだから頑張ってねー♡」

 

気楽な声で手を振る五条に、文句を言おうとするミドリだったが、アリスが目を輝かせて拳を握って小さくガッツポーズをする。

 

「大丈夫です」

 

「アリスちゃん……?」

 

「私たちは今まで一緒に、27回のダンジョン探索と、139回のレイドバトルを成功させてきました。

 今回もきっと……このパーティなら、勝利できるはずです」

 

「で、でも、それは、ゲームの話でしょ!?」

 

ミドリはアリスの言葉に呆れていたが、ユズがアリスをフォローするように声を掛ける。

 

「どう転んでも、危険はある……わたしも、頑張るから」

 

「で、でも……」

 

「大丈夫です。

 どんな危機的な状況でも、アリスが先生もみんなも守ってみせます!」

 

アリスの真剣な目を見て、ミドリは諦めたようにため息をついた。

 

「ふぅ……分かった、私も覚悟を決める!

 ゲーム開発部、敵を突破するよ!」

 

ミドリも覚悟を決めたことで、ゲーム開発部は敵の隊列に向かう。工場に向かうために、モモイとミドリが切り込み隊長として、敵に攻撃を仕掛けた。

モモイとミドリのアサルトライフルの掃射によって、広域のロボットたちの動きを止める。ユズのグレネードランチャーの攻撃で、二人が撃ち漏らしたロボットを撃破していく。

 

「ミドリ!」

 

「お姉ちゃん!」

 

二人でスイッチしながら、ロボットたちを引き付けていく。そして、ロボットたちが二人に狙いをつけて集まってくる。ロボットたちが集まってきたところで、後ろでエネルギーをチャージを終えたアリスへと振り返る。

 

「アリス!」

 

「今だよ!」

 

「分かりました!

 ……光よ!」

 

アリスの砲撃でロボットの軍勢のほとんどが消滅する。その空いた穴を、ゲーム開発部は一気に駆け抜ける。

 

「走れ走れ!」

 

「ここでつかまったら終わりだよ!」

 

「ヒイ……ヒイ……」

 

「ユズ、もう少しです!」

 

「ほらほら、早く早く!」

 

四人は、ロボットたちがまた集まってくる前に、一斉に工場に滑り込んだのだった。

ミドリが息を切らしながら、外の方を見ながら呟く。

 

「はあ、はあ……何とか成功、かな?」

 

「侵入、成功しました!」

 

「ねえねえ、私たちってもしかして実はすごく強いんじゃない?C&Cとか、他の学校の戦闘集団と戦っても勝てちゃうかも!」

 

アリスとモモイが嬉しそうに飛び跳ねている横で、ミドリは息を整えながら額の汗を拭った。

 

「まあ、実際に何とかなってるからね。私たちの実力ってどれくらいなんだろう?」

 

「知りたい?」

 

「「「きゃああああ!!」」」

 

「あっ、先生!」

 

後ろからぬるっと現れた五条に、モモイ、ミドリ、ユズの三人が大きな声を上げて驚いた。アリスは、笑顔で五条の方に駆け寄っていく。

 

「先生、おどかさないでよ!!」

 

「アハハ、ごめんごめん!」

 

軽い感じで謝る五条に、モモイは指さしても怒る。

 

「見てよ、ユズが驚きのあまり昇天しかけてるんだから!」

 

「ユズちゃーん、戻ってきてー!!」

 

その先で、ぐったりと倒れたユズをミドリが大声で揺さぶって起こしていた。

そして、ユズが意識を取り戻した後、五条の言葉をアリスが尋ねる。

 

「そういえば、先生の持ってる(それ)は一体何ですか?」

 

「良い質問だね、アリス。この紙に、君たちが今、どれくらいの強さかまとめてあるから、それを発表してあげようと思ってね」

 

その言葉に、モモイとアリスが目を輝かせて食らいついた。

 

「おお、すごい!」

 

「先生、アリス気になります!」

 

「よしよし、それじゃあ発表します!」

 

そう言って、五条は紙を広げた。

その紙には、五条が出会った生徒たちを強さ順で並べていた。ゲヘナの風紀委員やアビドス対策委員会、便利屋68などといった強豪たちが見える中、ゲーム開発部の文字がなかなか見えない。

そして――、

 

「あった!」

 

モモイが指さしたそこは最下層だった。

全員がこの結果に沈黙する。モモイがゆっくりと五条の方を見上げる。

 

「マジ?」

 

「マジ!」

 

「「「「……」」」」

 

「嘘だーっ!!」

 

モモイの魂の叫びと共に、全員が崩れ落ちた。それを見て、五条はケラケラと笑っていた。

 

「残念だけど、今の君たちの実力はこんなもんだろうね。でも、悲観する必要ないって。今がどん底なら、あとは上がるだけなんだから」

 

「……はい、そうです!アリスたちはこれからもっと強くなります!」

 

アリスが立ち上がり、拳を突き上げて、五条に向けて宣言する。それを見た五条は嬉しそうに、アリスの頭を撫でた。

 

「そうそう、アリスの真っ直ぐさは悠仁に似てていいね。ほら、他のみんなも見習いなよ」

 

「ユウカよりも低いことに一番のショックを受けた……」

 

「改めて見ると、ショックがデカい……」

 

「うぅ……」

 

未だにショックを引きづっているモモイたち三人は、その場で不貞腐れて横に転がったままだった。

 

「大丈夫です!アリスたちのパーティは、これからもっと強くなります。そのために、グランドマスターの先生もいるのですから!みんなで一緒にレベルアップです!」

 

「うっ、アリスの笑顔が眩しい……!」

 

アリスの眩しい笑顔に励まされたモモイたちは、ゆっくりと立ち上がった。目的のG.Bibleを探すために、ミドリが今の状況を確認する。

 

「そういえば、みんなの残弾数は?」

 

「バッテリーがチカチカしてます……『MPが足りません』、ということでしょうか?」

 

「私も、あと一回しか持ちそうにないかも……」

 

「じゃあ、できるだけ戦闘は避けていこっか」

 

そう言って歩き出すが、アリスは立ち止まったまま辺りを見回していた。

 

「ここは……」

 

見回していると、ある方向に目が止まる。

 

「あ……」

 

声を漏らして、一点を見つめたまま立ち止まったアリスに、モモイが声を掛ける。

 

「アリス、どうしたの?」

 

「……。分かりません……ですが、どこか見慣れた景色です。こちらの方に行かないといけません」

 

そう言って、アリスは一人で歩き始めた。

 

「えっ……?アリス、ちょっと待って!」

 

モモイが慌ててみんなを呼んで、アリスの後を追いだした。

アリスは、どんどん歩いていく。全く見覚えのないはずの道なのだが、なぜか分かっていた。

 

「アリスちゃん、ここ知ってるの?」

 

ミドリがそう尋ねると、アリスは胸に手を当てて静かに答える。

 

「アリスの記憶にはありませんが……まるで『セーブデータ』を持っているみたいです。この身体が、反応しています。例えるなら、そう、チュートリアルや説明が無くても進められるような……或いはまるで、何度もプレイしたことのあるゲームを進んでいるかのような……」

 

「どういうこと……?確かに、アリスがいたところに似たような場所だけど……」

 

アリスはどんどん歩き続ける。そして、歩き続けた先で、一台のコンピューターが置かれている部屋にたどり着いた。

 

「あっ、あそこにコンピューターが一台……あれ?」

 

「あのコンピューター、電源が付いてる……?」

 

誰もいないはずの工場で、なぜか電源が付いていたコンピューターを不思議そうに眺めていると、ピピッという電子音と共に、スクリーンに文字が流れ出した。

 

[Divi:Sion Systemへ、ようこそお越しくださいました。お探しの項目を入力してください]

 

「おっ、まさかの新設設計!G.Bibleについて検索してみよっか?」

 

「それじゃあ、僕が失礼してっと……」

 

「あっ。先生!ズルいよー、私もやりたーい!」

 

「アリスも打ってみたいです!」

 

ワーワー言い合う三人を見て、ミドリはため息をつきながら、注意の声を上げた。

 

「いや、それどころじゃないでしょ!?ちょっとは怪しもうよ!」

 

「わーい!アリスが勝ちました!G.Bibleと入力しますね」

 

「聞いてよ!」

 

マイペース過ぎる三人に振り回されるミドリを置いて、アリスはキーボード入力し始めた。G.Bibleと入力した途端、スクリーンいっぱいに様座な記号や文字の羅列が流れ出した。

 

「ちょっ、壊れた!?アリス、いったい何を入力したの!?」

 

「い、いえ、まだエンターキーは押していないはずですが……」

 

すると、画面は暗くなり、真ん中に文字が入力される。

 

[あなたはAL-1Sですか?]

 

「「っ!?」」

 

「「……?」」

 

入力された文字を見て、モモイとミドリは驚愕する。そんな二人を見て、アリスとユズは何のことか分からずに首をかしげるのだった。

 

「いえ、アリスはアリスで……」

 

アリスはそう答えて、キーボードに触ろうとした瞬間、ミドリが大きな声でそれを止めようと動く。

 

「待って、アリスちゃん!

 ……何かおかしい。今は入力しない方が……」

 

[音声を認識、資格を確認できました。おかえりなさいませ、AL-1S]

 

「音声認識付き!?」

 

「えっと……AL-1S、っていうのは、アリスちゃんのことなの?」

 

「あ、ごめん。そういえばユズちゃんには言ってなかったかも」

 

首をかしげるユズを見て、ミドリは前回の廃墟探索でのことを教え忘れていたことに気が付いた。

 

「AL-1S……。

 アリスの、本当の名前……本当の、私……。あなたはアリスについて知っているのですか?」

 

アリスがそう尋ねると、モニターの動きが遅くなる。

 

「反応が遅い?」

 

「なんか画面もぼんやりしてきたけど、処理落ちかな?」

 

モモイとミドリがモニターに近づくと、画面が急に乱れだした。

 

「わっ、何っ!?」

 

ミドリがビックリして跳びのく、画面の乱れは止まる。そして――、

 

[緊急事態発生。

 電力限界に達しました。本プログラムは、電源が落ちると同時に消失します。残り時間51秒]

 

と、映し出された。

 

「ええっ!?ダメダメ!せめてG.Bibleのことを教えてからにして!」

 

モモイが慌ててそう言うと、モニターに文字が流れる。

 

[あなたが求めているのは、G.Bibleですか? <YES/NO>]

 

「っ!? YES!」

 

[G.Bible……確認完了、コード:遊戯……人間、理解、リファレンス、ライブラリ登録ナンバー193、廃棄対象データ第1号。残り時間35秒]

 

「廃棄!?どうして!?それはゲーム開発者たちの、いやこの世界の宝物なのに!」

 

モモイがそう訴えると、モニターはある提案を映し出した。

 

[G.Bibleが欲しいのであれば、データを転送するための保存媒体を接続してください]

 

「えっ……?G.Bibleの在り処を知ってるの?」

 

[はい。G.Bibleは、私の中にあります。しかし現在私は消去寸前、新しい保存媒体への移行を希望します]

 

目指していたG.Bibleが目の前にあるということの喜びと、それが今にも消えてしまうという悲しみが混ざり合って、モモイとミドリはパニックになった。

 

「そ、そんなこと急に言われても……!?」

 

「ど、どうしよう!?」

 

二人が慌てふためいていると、五条はユズにあるものを手渡した。それを受け取ったユズは、コンピューターに近づいて、それを繋げる。

 

「データケーブル……接続、完了」

 

[接続確認しました。転送開始……保存領域が不足、既存データを削除します]

 

ピピピという電子音と共に、データが移行されていく。モモイは、コンピューターに繋がっているものを見た。それは、彼女の最新ゲーム端末だった。

 

「えええっ!?ちょっと、私のゲーム機じゃん!?ダメダメ!お願いだからセーブデータは残して!そこまで装備を揃えるのすごく大変だっ――」

 

[削除します]

 

「ちょっとおおぉぉぉぉおおお!?」

 

モモイの魂の叫びは届かず、ゲーム機は無情にも電源が落とされてしまった。

 

「ああぁぁ!私のゲームガールズアドバンスのデータがあぁぁっ!!」

 

膝から崩れ落ちて悲痛な叫びをあげるモモイ、しかし、彼女のゲーム機はすぐに電源が入る。

 

「ちょっと待って!何かが画面に……?」

 

ミドリがそれに気づくと、画面に再び文字が映し出される。

 

[転送完了。新しいデータを移行しました]

 

その画面には、<G.Bible.exe>の文字が映し出されていた。それを見たゲーム開発部の顔は明るくなる。

 

「こ、これって!?」

 

「こ、これ今すぐ実行してみよう!本物なのか確認しなきゃ!」

 

モモイは、G.Bibleのフォルダを起動させる。

 

「あ、何かポップアップが出て……って、パスワードが必要!?何それ、どうすればいいのさ!?」

 

ファイルを開くためには、パスワードが必要であることに、モモイは苛立ち地団太を踏んだ。そんなモモイに、ミドリが横から宥めるように、声を掛ける。

 

「……大丈夫。普通のパスワードくらいなら、ヴェリタスが解除できるはず……!」

 

ユズもその言葉に強く頷く。つまり、これでゲーム開発部の目的は達成されたことになった。ゲーム開発部の四人が、喜んでいるのを見ていた五条だったが、アリスの様子がどこかおかしいことに気が付いた。

アリスの元へ近づき、彼女にそっと尋ねる。

 

「どうしたの、アリス?なんだか浮かない顔をして」

 

「あっ、いや、そんなことないです!伝説の宝を手に入れて、アリスはとても嬉しいです!

 ただ……」

 

にこやかに答えるアリスは、最後に言葉を詰まらせる。アリスの言いたいことはなんとなく察せられる。電源の落ちたこのコンピューターが、アリスのことを知る唯一の手掛かりだったのだが、それを失ったことに言いようのない感情でいっぱいなのだろう。

 

「いいんじゃない」

 

「……え?」

 

五条の言葉に、ポカンとするアリスだったが、五条は穏やかに話し続ける。

 

「別にアリスはアリスだよ。昔に何があったかは知らないけど、今のアリスは、『ゲーム開発部のメンバーで僕の大事な生徒』なんだから」

 

「……」

 

「アリスが本当に、自分のことを知りたいって言うなら、僕も手伝うさ。けど今は、ね?」

 

そう言って五条は、モモイたちの方を指をさす。かけがえのない仲間たちを見て、アリスは今度こそ屈託のない笑顔を見せる。

 

「そうです。アリスは、アリスです!」

 

そう言って、アリスはモモイたちの元へ走っていった。

 

「やったあぁっ!これでミレニアムプライス……いや、キヴォトスゲーム大賞も受賞確定だよ!!私たちの新作は今度こそ、キヴォトスのゲーム界に良い意味での衝撃を与えてやれるんだ!!」

 

大きな声で飛び跳ねながら喜びを大々的に表すモモイに、ミドリが指を立てて静かにするように注意する。

 

「お、お姉ちゃん、声大きすぎ。そんな大声で叫んだら……」

 

時すでに遅し、大量のロボットたちが取り囲んでいた。

 

「ここにいるって、言ってるような、も、の……」

 

「あちゃー……」

 

モモイたちの血の気が引いていく。そして、ロボットたちに、ニコッと笑いかける。

 

『■■■ ■ ■!■■■!』

 

「な、何だかものすごく怒ってる!?」

 

ロボットたちは怒りに身を任せるかのように、ゲーム開発部に向けて攻撃を始める。四人は慌ててその場から逃げる準備を始める。

 

「いやー、最後の最後で楽しくなってきたね……!

 さてみんなー、遠足は帰るまでが遠足だからねー!こんなところでゲームオーバーになんて、ならないよね?」

 

ワクワクとした様子の五条に、ゲーム開発部の四人は武器を構えて一斉に声を上げる。

 

「「「「うん!」」」」

 

やる気に満ちてる顔を見て、五条は嬉しそうに頷いた。

 

「うんうん、その意気だ。それじゃあ、ゲームガールズアドバンス(これ)は僕がもっててあげる」

 

ゲーム機を懐にしまい、五条はゲーム開発部の前に立つ。

 

「よーし、僕の後に付いておいでー!」

 

そのまま一人先にスタコラと走っていくのだった。

 

「ええっ!?ちょ、速……っ!」

 

「先生、待ってー!」

 

ゲーム開発部のメンバーも急いで、五条の後を追って走るのだった。

 

 

 

そして、廃墟から脱出したゲーム開発部は、何とか部室に到着した。

 

「や、やっと帰って来れた……」

 

「ぜー、ぜー、し、死にそう……」

 

「……」

 

息を荒げるモモイとミドリ、ユズは一言も言わず床に突っ伏したまま、何も言わない屍と化していた。そんな中、アリスだけは特に疲れた様子は見られず、三人のためにジュースを持って部屋に入ってきた。

 

「はい、ポーションです。これでHPを回復させてください」

 

「あ、ありがとう……アリスちゃん」

 

「助かったよ、アリス!

 ほら、ユズも」

 

アリスから受け取ったジュースを口にする。疲れ切った体に、冷たいジュースが体の隅々まで浸透していくのを感じた。

 

「ぷはーっ!生き返るぅ!」

 

「本当に死にそうだった」

 

「でも……」

 

「はい、アリスたちはついに手に入れることが出来たのです!伝説のお宝……G.Bibleを!」

 

アリスが大きな手振りで喜びを表現していると、五条が部室に入ってきた。

 

「お疲れサマンサー!」

 

「お疲れサマンサー!」

 

アリスが五条と同じように挨拶を返すと、ミドリが五条に尋ねる。

 

「あっ、先生。ヴェリタスに渡してくれましたか?」

 

「もちろん、解析はすぐに終わるってさ」

 

「わかったー」

 

モモイが手を振って返事をすると、五条は肩を叩いてソファーに座る。

 

「いやー、ホント苦労したねー」

 

「先生、何もしてないじゃん」

 

「モモイも言うようになったねー」

 

五条がモモイの軽口を笑いながら流していると、ミドリとユズが今回の冒険を振り返って安堵の息を漏らした。

 

「私たち、よく生きて帰って来れたよね」

 

「ホントそう……。

 走馬灯が流れた時は、もう終わりかと……」

 

「でも、ユズちゃんしっかり動けて驚いたよ」

 

「えへへ……」

 

嬉しそうに照れるユズを見て、五条が一言言う。

 

「ちなみに、今回の問題点を紙にまとめたよ」

 

五条がピッと渡された紙には、個人の問題点がずらっと並べられていた。それを見て、モモイたち三人のテンションは大きく下がるのだった。

ただ、アリスは紙を読んで、強く頷いて拳を強く握って、五条に宣言するのだった。

 

「アリスの問題点もこんなに……やはり先生はグランドマスターですね!

 アリスももっと強くなります!」

 

「ハハッ!アリスはこう言ってるけど、三人は?」

 

「「「うっ」」」

 

モモイたち三人は、顔を背けて黙り込むのだが、そんな三人を見てアリスが少し悲しそうな顔になる。

 

「モモイたちは、アリスと一緒に強くなりたくないんですか……?」

 

キラキラとした瞳が涙ぐんでウルウルと揺れる。モモイたちはそれを見て、心の中に罪悪感がずしんとのしかかる。

 

「そ、そうだねー!私たちもアリスと一緒に強くなりたいと思っていたんだー!ねえ、ミドリ、ユズ!?」

 

「う、うん!私もそう思ってた!」

 

「わ、私も……みんなで強くなりたい……!」

 

それを聞いて、アリスの顔はパァッと明るくなる。

 

「はい、アリスたちはもっと強くなります!オー!」

 

「「「お、オー……!」」」

 

ゲーム開発部が、結束するのを見た五条は、伸びをしながらミドリたちの方へ向き直る。

 

「さてと、休憩はこれくらいにして、ヴェリタスに行こっか」

 

「「「「は~い」」」」

 

カルガモの親子のようについて行くゲーム開発部の四人。移動している中、アリスは手を上げて問いかける。

 

「そういえば、ヴェリタスってどんな部活なんですか?」

 

アリスの疑問にミドリたちは答える。

 

「ヴェリタスは非公認の部活で、全員がハッカーなんだよね」

 

「ミレニアムのセキュリティを担ってたりすることもあるんだよね」

 

「でも、問題も起こしたりすることも多々あって、その度に副部長のチヒロ先輩に怒られてるんだよねー」

 

「なるほど、ヴェリタスは裏ボスということですね!」

 

「うーん、ちがうよ」

 

そうこう話をしている内に、一行はヴェリタスの部室前に到着する。

モモイが扉をノックして、声を掛ける。

 

「こんにちはー、入るよー」

 

返事が返ってくる前に、扉を開けて中に入ると、白髪の少女がモモイに注意をするように声を掛ける。

 

「モモイ、勝手に入ってくるのやめてよね」

 

「そんなこと言ってもいつも返事しないじゃん、ハレ先輩」

 

そこに赤髪の少女が、アリスを指さしながら声を上げて近づいてきた。

 

「ああっ、君がアリスだね!噂は聞いてるよー。エンジニア部からあの武器を貰うなんてすごいねー!」

 

「ふふんっ!」

 

嬉しそうに口角を上げるアリスに、ハレと呼ばれた少女は自分たちの紹介を始める。

 

「ああ、自己紹介がまだだったね。私は小鈎ハレ、2年生」

 

「小塗マキ、1年生!よろしくね!」

 

「音瀬コタマ、3年生です。後は、部長と副部長もいるのですが、生憎と今は不在なんです」

 

「チヒロ先輩、ウタハ先輩に引きづられてエンジニア部の部室の調整を行かされてたねー。ウケるよねー!」

 

「マキ、怒られるよ」

 

ケラケラと笑うマキをハレが注意する。軽く咳払いをした後、アリスたちの方に向き直る。

 

「さてと、話はそこにいる先生から聞いてるよ。このゲームにダウンロードされたプログラムについてだよね?」

 

「はい、そうです!」

 

「知っての通り私たち『ヴェリタス』は、キヴォトス最高のハッカー集団だと自負してる。システムやデータの復旧については、それこそ数えきれないほど解決してきた……。その上で、単刀直入に言うね」

 

ハレの真剣な目に、ゲーム開発部の四人に緊張が走る。

 

「モモイ、あなたのゲームのセーブデータを復活させるのは無理」

 

「うわあぁぁん!もうダメだーーー!」

 

その場で膝から崩れ泣き出すモモイ、そんなモモイの元に五条が近寄って、彼女の肩にそっと手を置く。

 

「モモイ」

 

「先生……」

 

「ドンマイ☆」

 

「ムキーー!!」

 

ププーっと笑う五条に、モモイが両腕を上げて、怒りを露わにする。

 

「そうじゃないでしょ」

 

「あ痛っ!」

 

ミドリが荒ぶるモモイの後頭部を叩いて止める。頭を押さえて蹲るモモイを置いてミドリがハレ達に尋ねる。

 

「えっと、G.Bibleのパスワードの解除はどうなったんですか?」

 

「それなら、マキが作業してましたよ。マキ、教えてあげてください」

 

「はいはーい!ちゃんと分析できたよ。あれはかの伝説のゲーム開発者が作った神ゲーマニュアル……G.Bibleで間違いないね」

 

マキの言葉に、ミドリとユズ、アリスの顔が明るくなる。

 

「や、やっぱりそうなんだ!」

 

「ファイルの作成日や最後に転送された日時、ファイル形式から考えても確実。作業者についても、噂の伝説のゲーム開発者のIPと一致してた。それと、あのデータはこれまでに一回しか転送された形跡しかない」

 

「っていうことは……」

 

「うん、オリジナルの『G.Bible』だろうね」

 

その言葉を聞いた三人は、喜びのハイタッチを交わして嬉しそうに飛び跳ねた。

 

「す、すごい!」

 

「や、やった……!」

 

「アリスたちは、ついに伝説のお宝を手に入れたのです!」

 

そんな三人を見て、マキは少しバツが悪そうな顔で頬をかいて話に入る。

 

「えっと、喜んでるとこ悪いんだけど……まだファイルのパスワードについてはまだ解析できてないの」

 

「ええっ、じゃあ見られないってことじゃん!?ガッカリだよ!」

 

ようやく復活したモモイが、不満げな顔で文句を垂れる。マキはため息をついて、モモイに反論を返す。

 

「あのねえ、あたしはあくまでクラッカーであって、ホワイトハッカーじゃないんだよ!でもね、方法が無いわけじゃない」

 

「そうなの?」

 

「あのファイルのパスワードを直接解析するのは、ほぼ不可能。でも、セキュリティファイルを取り除いて丸ごとコピーするって手段なら、きっと出来るんじゃないかな……。

 で、そのためにはOptimus Mirror System……通称『鏡』って呼ばれるツールが必要なの」

 

マキの説明にゲーム開発部の四人はポカーンと口を開けて、首をかしげていた。そんな四人を見て、コタマが横から説明する。

 

「要するに、あなたたちがG.Bibleを使うためには『鏡』が必要なだけです」

 

「うん、わかった!」

 

「それで、その『鏡』というプログラムは今どこに?」

 

ミドリが尋ねると、ヴェリタスの三人はプイッと顔を反らした。そして、マキが申し訳なさそうに答える。

 

「えっと、今は……持ってない」

 

「「「「え?」」」」

 

思わず四人が同時に声を漏らした。それにマキは、慌てて説明に入る。

 

「生徒会に押収されたんだよ!昨日、ユウカが押しかけて『不法な用途の危機は没収!』って言って部室の機材全部持っていったんだよ!」

 

「ええ……」

 

「おのれ、大魔王ユウカッ!またしても私たちの邪魔をするなんて!」

 

「その『鏡』って……そんなに危険な物なの?」

 

ミドリの質問に、ハレは首を横に振って答える。

 

「そんなことないよ。ただ暗号化されたシステムを開くのに最適化されたツールなだけ。

 ただ……世界に一つしかない、私たちの部長が直々に制作したハッキングツールで」

 

「部長ってことは、ヒマリ先輩が作ったの?」

 

「ヒマリ……?」

 

初めて聞く名前にアリスは首をかしげる。ミドリは、アリスに向けて説明しだした。

 

「アリスちゃんはまだあったことないよね。ヴェリタスの部長で、ちょっと体が不自由だから車椅子に乗ってるの。とてもすごい人で、ミレニアム史上でも三人しか貰えてない学位、『全知』を持ってる人なの」

 

「そうなんだよ!G.Bibleが廃墟にあるというのを教えてくれたのも、ヒマリ先輩なんだ!だから、アリスと私たちが出会うきっかけをくれた人でもあるんだよね」

 

モモイがしみじみと思い返しているのを見て、アリスは笑顔で元気よくヒマリに向けて感謝を口にするのだった。

 

「なるほど、アリスはそのヒマリ先輩に会ってお礼を言いたいです!」

 

「うん、そうだね。ヒマリ先輩も喜ぶと思うよ」

 

「それで話を戻すけど、どうして『鏡』を取られちゃったんだよ!?」

 

「「「……」」」

 

モモイがマキたちに詰め寄ると、三人は黙りこくってしまう。そして、ゆっくりとその理由を話し始めた。

 

「実は……――」

 

「ええっ!?健康診断の数値を改竄したーっ!?」

 

あまりの理由にモモイが大きな声を上げて驚愕した。三人が言うには、先日のミレニアム健康診断で自分たちの測定結果(主に身長と体重)が納得できなかった三人は、ミレニアムのデータベースにハッキングしてその結果を自分たちの好きなように改竄した。その時に、データベースのセキュリティを突破するために「鏡」を悪用、そして、まんまとデータベースに侵入して自分たちの結果を書き換えたのだった。しかも、それだけでは飽き足らず、ユウカの体重も勝手に100㎏に改竄したことで、ユウカの怒りを買い、昨日の押しかけで「鏡」が押収されたのだという。

何とも言えない理由に、ゲーム開発部の全員が呆れた顔で三人を見ていた。マキは突き刺すような視線をはねのけるかのように腕を大きく振って「とにかく!」と話を振るのだった。

 

「あたしたちは『鏡』を取り戻したい。あなたたちはG.Bibleを開くために『鏡』がいる。そうでしょ!?」

 

「そ、それはそうだけど……まさか!?」

 

ミドリが何か嫌な予感を察する。モモイは頭を搔きながら、ため息をつく。

 

「はあ、しょうがないな……旅は道連れだもんね」

 

「なるほど、レイドバトルということですね!アリスにお任せください!」

 

モモイとアリスの顔を見て、慌ててミドリがモモイの肩を掴んで必死に止めようと説得する。

 

「ちょっと待って!まさかヴェリタスと組んで、生徒会を襲撃するつもり!?」

 

「そのまさかだよ!大丈夫だって!ヴェリタスがいれば、生徒会から『鏡』を持ってくるなんて、ちょちょいのチョイだよ!」

 

アッハッハッハと笑うモモイに、マキが神妙な面持ちで声を掛ける。

 

「あのー……笑ってるところ悪いんだけど、実は一つ問題があってね」

 

「問題?」

 

「『鏡』は生徒会の『押収品保管所』に保管されてるんだけど、そこを守ってるのが実は……メイド部、なんだよね!」

 

ニコッと笑うマキに、モモイも笑い返す。

 

「なんだそうかー。C&Cのことかー。ミレニアムの武力集団、メイド服でどんな相手も『清掃』しちゃうことで有名なあの……」

 

「そうそう!まあ些細な問題だけどね~」

 

「そっかー!」

 

「「アハハハハ!」」

 

「諦めよう!!!ゲーム開発部、回れ右!前進っ!!」

 

全力で逃げだすモモイの裾を掴んで、マキが慌てて止める。

 

「待って待って待って!諦めちゃダメだよモモ!G.Bibleが欲しいんでしょ!?」

 

「そりゃ欲しいよ!でもだからって、メイド部と戦うなんて冗談じゃない!そんなの、走ってる列車に乗り込めとか、燃え盛る火山に飛び込めとか言われた方がまだマシ!」

 

「で、でもこのままじゃあたしたちが部長に怒られ……じゃなくて!ゲーム開発部もおわりだよ!それでいいの!?」

 

「諸行無常盛者必衰!このまま終わるのも運命なんだよ!」

 

ギャーギャー言い合う二人を見て、五条が間に入って二人を宥める。

 

「まあまあ、落ち着きなよ。ところで、そのメイド部っていうのは何なんだい?」

 

「メイド部、正式名称は『Cleaning&Clearing』略して『C&C』。ミレニアムサイエンススクールのエージェント集団で、戦闘力はこの学校でトップクラス」

 

「その名の通り、メイド服に身を包み、ミレニアムの生徒会セミナーに『ご奉仕』すると同時に、この学校に仇なすものを『清掃』するのがC&Cなんだ」

 

「この学校の生徒なら、C&Cと真正面に立ち向かおうとするバカはいません。モモイたちの反応が正しいです」

 

三人の説明を受けて、五条はC&Cというものがどういったものか大体把握することが出来た。

その横でモモイが声を大にして訴えかける。

 

「そりゃ部活は守りたいけど、ミドリにアリス、そしてユズの方が圧倒的に大事!危険すぎる!」

 

「何も真正面から喧嘩しようってわけじゃないよ。あたしたちの目的は『C&Cを倒す』ことではなくて、『鏡を取り戻す』ことなんだから~……」

 

「それの何が違うの!?」

 

「その口ぶりだと、何かあるんじゃない?」

 

五条の言葉に、マキたちは静かに頷く。

 

「さすが先生、その通りです。実はC&Cは現在完璧ではありません。C&Cのメンバーは確かにどのメンバーも優秀なエージェントなのは違いないのですが、彼女たちが『最強』と呼ばれている何よりも大きいのは、『彼女』の存在。

 メイド部の部長、コールサイン・ダブルオー……ネル先輩」

 

「けど、彼女は今この学校にいません。彼女は現在別の任務でミレニアムを離れていると、私の盗ちょ……コホン、私の独自の情報網によって判明しています」

 

「なるほどね……つまり、ゲーム部のメンバーでも保管庫から『鏡』を取り戻すことが出来る、と」

 

うんうんと頷く五条を見て、モモイたちは何か嫌な予感を感じた。このパターンは、経験上、彼が次に言う言葉を想像できた。そして、その予感はすぐに的中する。

 

「よし!それじゃ、次の作戦は奪われたお宝を取り戻す。潜入大作戦を開始しようか!」

 

「「「「やっぱり……」」」」

 

こうしてゲーム開発部は、ヴェリタスと共にセミナーの押収品保管庫から鏡を取り返す一大作戦を決行することになったのだった。




次回はもしかしたらミニストーリーになるかもしれないです。
間違いなどがあれば、遠慮なく報告ください。
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