シャーレの五条先生   作:未来跳躍

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ついに、パヴァーヌ編第1章の最終回です。
色々と大変なことがありましたが、ここまで来れて良かったです!
いつも皆さんの応援のおかげで、私は作品を書くことが出来ます。
それでは、どうぞ!


私たちゲーム開発部!

「お姉ちゃん!まだ!?」

 

「ま、待って、急かさないで!あとこれだけ入力すれば終わりだから……!」

 

「あと2分だよ!?急かさずにはいられないって!」

 

ゲーム開発部は今、修羅場の真っ最中だった。ミレニアムプライスの受付期限があと2分を切っていたことに、ミドリがモモイを急かしていた。そんな二人の横からアリスが補足の説明に入る。

 

「正確には96秒です、そう言ってる間に残り92秒……」

 

「わ、分かった分かった!もうできたから!」

 

テキストを打ち終えたモモイはすぐにテキストを保存、ファイルをアップロードする準備をする。ユズもゲーム動作の最終チェックを済ませて、モモイに渡す。

 

「簡単な動作も、問題なし!エラーは出ていない、モモイ!」

 

「オッケー!ファイルをアップロード、完了までの予想時間……15秒!アリス、あと何秒!?」

 

「残り19秒です……!」

 

「お、お願い……!」

 

四人が画面の前で無事に転送が完了できることを祈る。そして、ピロンという電子音が鳴る。

 

「転送完了……」

 

そう呟くモモイのモニターには『ミレニアムプライスへの参加受付が完了しました』と表示された。

それを見たモモイは勢いよく椅子から立ち上がり、歓喜の声を上げる。

 

「間に合ったああぁぁあ!!」

 

喜ぶモモイの横で、ユズが緊張が切れて安堵の表情で椅子に力なくもたれかかった。

 

「ギリギリ……心臓止まるかと思った……」

 

「あとは……3日後の発表を待つだけ、だね」

 

ミドリもホッと一息入れていたところに、モモイが真面目な顔で急に語り始めた。

 

「とりあえず間に合ったけど、まだ結果が出たわけじゃない。3に後には……このままこの部室にいられるのか、そうじゃないのかが決まる。

 ……でも3日って結構長いじゃん?そこで提案なんだけどさ……」

 

「「「――?」」」

 

「先に、web版の『テイルズ・サガ・クロニクル2』をアップロードしてみるのはどう?」

 

モモイの提案に三人は驚愕する。ミドリが驚きながらも、モモイにその理由を尋ねる。

 

「ど、どうして?」

 

「3日間も待てないよ!それに、審査員の評価よりも、ユーザーの反応を見たくない!?」

 

「うーん……」

 

ミドリは考える。モモイの言うことにも一理ある。けれど、ユーザーの反応を見ることに、少し怖いと感じる気持ちもある。また前回のように、低評価コメントで溢れでもしたら、と考えると今すぐにアップロードする必要はあるのかと躊躇してしまう。そんなミドリの気持ちを察知したモモイが、ミドリに発破をかけるように説得を開始する。

 

「何迷っているのさ!そもそも、ミレニアムプライスに出品するためだけ(・・)に作ったゲームじゃないでしょ!自信をもって、見てもらおうよ!私たちはベストを尽くしたんだから!」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

「……うん、アップしよう」

 

「え?」

 

モモイの言葉にミドリは渋っていると、ユズが大きく頷いた。予想外のユズの言葉に、ミドリは呆然となってしまう。

 

「作品っていうのは……見てくれる人、遊んでくれる人がいて、完成されるものだと思うから。わたしは……わたしたちのゲームを、きちんと完成させたい」

 

「ユズちゃん……」

 

心配そうにユズを見つめるミドリだったが、ユズの顔はいままでのようにおどおどしている弱々しいものではなかった。

 

「大丈夫。もし前みたいに、低評価コメントのオンパレードになったとしても――。全力で頑張ったから。それに……みんなが一緒だから、きっと受け止められる。

 わたしはもう、大丈夫」

 

ニコッと笑うユズを見て、ミドリは「うん」と微笑んだ。それを見たモモイが、「テイルズ・サガ・クロニクル2」をアップロードするために元気よくパソコンのエンターキーを押そうとする。

 

「よーし、それじゃあ今すぐアップロード――」

 

「開始ー!」

 

モモイがエンターキーを押そうとしたその瞬間、五条がモモイの横から先にエンターキーを押した。モモイとミドリが突如として現れた五条に驚愕していた。

 

「せ、先生!?」

 

「いつの間に!?」

 

「あと2分だよ!?って辺りから、かな」

 

「最初からじゃん!」

 

驚くモモイとミドリに対して、アリスはキラキラとした目で、五条を感心していた。

 

「アリス全く気づきませんでした。先生はすごいです!」

 

「まあね。だって僕、最強だから」

 

目隠しをくいッと上げてドヤ顔をする五条に対して、アリスは嬉しそうに頷いた。

 

「しかし、よく間に合ったもんだね。必死すぎるみんなの顔、面白くて思わず写真撮っちゃった」

 

「うんうん、そうでしょそうでしょ!……あれ、今どさくさに紛れてとんでもないこと言わなかった?」

 

「でも、信じてたよ。さすがは僕の生徒だ」

 

「いやいや、流されないからね」

 

そういった五条とモモイのやり取りがありつつ、みんなは作品の感想が出るまでの間、休憩することになった。モモイたちが休憩しようと各々動いている中、アリスだけはパソコンの前で正座していた。

 

「ん、アリス?何でパソコンの前に座っているの?」

 

ゲームをしようとしていたモモイがパソコンの前に座るアリスを見て尋ねると、アリスはパソコンのモニターに顔を向けたまま答える。

 

「アリスは、ここで待機します。みなさんがダウンロードを始めたようです。気になります」

 

じっとパソコンを睨んでいるアリスに、少し仮眠をとるために毛布を手にしたミドリが声を掛ける。

 

「これからゲームをプレイするのにまた時間がかかるだろうし、待っててもそんなすぐに来ないと思うよ?」

 

「はい、それでも待ちます」

 

「わ、わたしも……どっちにしろ、緊張で眠れないし……わたしも、待ってる」

 

そう言いながらユズもアリスの横に座る。それを見たモモイとミドリは、互いの顔を見合って少し笑うと、持っていたゲームと毛布を置いて二人の横に座った。

 

「私もドキドキしてきちゃった」

 

「私もは心配でドキドキが止まらないよ……うぅっ、自分で言いだしたのに緊張でおかしくなりそう!」

 

モモイが頭を抱えていると、ピロンという音と共に最初のコメントが投稿された。

 

「あっ、初コメ」

 

「何て!?何て!?」

 

全員が初めてのコメントを開く。

 

〈hermet021:わお、これ前回のクソゲーランキング1位を取った、あれの続編?もうゲームつくりはやめたと思ってたけど、懲りないねえ〉

 

心無いコメントに、アリスが真顔になって黙っていた。ただならぬ気配を察知したモモイが、慌てて声を掛ける。

 

「あ、アリス、こういうのはあまり気にせず……」

 

「……」

 

アリスはゆっくり立ち上がる。

 

「マキに連絡。該当IPアドレスの方角に対して、最大出力のビーム砲を食らわせてきます」

 

光の剣を担ぎ、部屋を出ようとするアリスをモモイとミドリが必死に止める。

 

「アリス落ち着いて!」

 

「それはダメだから!」

 

「……大丈夫。ゲームをやっていない人の発言だから……気にしないで、ね」

 

ユズの言葉に、アリスが矛を収めると、次々とコメントが送られる。

 

〈Kotoka0507:前回の「TSC」は確かに、手放しで称賛できる作品ではなかったかもしれません。ですが新鮮味もあり、少なくともありふれた作品ではありませんでした。今回の2ではどんな目新しさを見せてくれるのか、楽しみです〉

 

〈QueenC:さて、鬼が出るか蛇が出るか……せっかくなら中庸なんかじゃなくて、たとえどっち側だったとしても、振り切った体験をしてみたいね〉

 

〈kirakiraNO1:前作はやったけど、良い思い出として残っていない。それどころか苦い記憶がいくつもの鮮明に思い出せるくらい。でも、どうしてかな……続編だって知ってるのに、ついダウンロードしちゃった〉

 

思っていた以上の期待されてるコメントに、ゲーム開発部の四人は嬉しさとプレッシャーの二つの感情で揺れていた。ずっと鳴りやまないコメントの通知音に止まらなくなり、ダウンロード数も始まって数分しか経っていないのに、2000を超えたのであった。

 

「だ、ダウンロード数が2000を超えてる!?」

 

「どうやら有名なポータルサイトに私たちのゲームが載ってるみたいだよ」

 

「うわあぁぁ……!無関心じゃなければ良いな、くらいに思ってたのに!ここまで増えると急に怖くなってきた!」

 

ハラハラドキドキしているモモイとミドリ、ユズの三人と違って、アリスはいまもダウンロードされてるのを見て、期待で胸を膨らませる。

 

「……ドキドキします」

 

ここで五条が、部室の扉へと顔を向ける。そして、静かに四人に告げる。

 

「……伏せて」

 

「え?」

 

モモイがポカンとした顔で聞き返すと同時に、大きな爆発音が鳴り響く。

 

「ええっ!?なになに!?」

 

「ゲーム機が爆発でもした!?」

 

「違う!この砲撃は13.97㎜砲……カリン先輩の!」

 

まるで出てこいと言わんばかりの砲撃に、アリスがすぐに相手の位置を観測する。

 

「遠距離攻撃を確認、部室正面に対して11時の方角!距離、訳1㎞……!」

 

「前回の報復!?」

 

「とにかく外に出よう!ここで戦ったら、部室が壊れる!」

 

モモイの言葉と共に、四人は扉をぶち破って一気に外へと出る。外には戦闘用ロボットたちが待ち構えていた。それを見たモモイが驚きの声を上げる。

 

「ゲエッ!何これ!?」

 

「せ、先生……どうしましょう?」

 

不安そうに顔を見上げるユズに、五条は冷静に答える。

 

「ここで止まっててもしょうがない。突破して逃げるが勝ちだろうね」

 

「確かに……アリス、私とユズが前に立つ!後ろはお願い!」

 

「はい。アリスがみんなをお守りします!」

 

「良し!行こう!」

 

モモイとユズが前に立ち、ロボットたちへと向かう。小柄な身体で素早く動きながら、次々とロボットたちを牽制する。モモイとユズの立ち回りを援護するミドリ、そして止めにアリスのビーム砲でロボットたちを薙ぎ払っていく。そうしてできた隙間を一気に走り去っていく。そのあとは必死に走ってロボットやセミナー部員から逃げ回って、気が付けばすっかり陽も落ちてしまっていた。少し薄暗い廊下でゼーゼー息を荒げるモモイ、ミドリ、ユズの三人とは対照的に走り回っていても息一つ乱さないどころか汗すらかいていない五条が、咳き込み三人を指さして笑っていた。

 

「ちょっとー、これくらいで情けないなー」

 

「せ、先生と……一緒に……しないで……」

 

「モモイ、これ買ってきました」

 

近くの自販機でドリンクを買ってきたアリスに手渡されたジュースを一気に口へと流し込む。ゴクゴクと音を立てて一気に飲み干した。ようやく息が整ってきたモモイは、周りを見渡す。

 

「ふぅ、ようやく落ち着いた」

 

「こ、これからどうする?」

 

「もうミレニアムプライスへの出品は終わってるんだし……とりあえず結果が出るまで、このまま逃げ続けよう」

 

「そうだね、そうし――」

 

「逃げ切れると思ってんのか」

 

「「「「――っ!?」」」」

 

廊下の奥から聞こえる声にゲーム開発部の四人は一斉に顔を上げる。その瞬間、マシンガンの連射が緑に命中する。

 

「きゃあっ!」

 

「ミドリ!」

 

悲鳴を上げて倒れるミドリを、アリスが駆け寄って彼女の身体を起こす。コツコツと足音と一緒に暗い廊下の奥から歩み出てくる一人の少女、それはC&Cリーダーの美甘ネルだった。

 

「……なるほどな」

 

ネルはモモイたちを見て、五条の方へと顔を向ける。

 

「どうりで、いちいち良い判断だと思ったぜ。さっきのこのチビたちを指揮したのも、ミレニアムの押収品保管庫を襲撃したのも。あんただったか」

 

ニヤリと笑うネルは、五条から目を離さず両手の武器を強く握りしめる。

 

「先生……って呼べばいいのか?」

 

「正確にはGTG(グレートティーチャー五条)って呼んでほしいね」

 

「はっ、おもしれー奴だな。アカネが調査した、例の『先生』……噂は大袈裟じゃなかったみてぇだな……」

 

アカネに今回の事件について調査してもらって興味が湧いたことが一つあった。五条悟、連邦捜査部「シャーレ」の先生でもあり、自他ともに認める『最強』。その二文字にネルが興味を示さないはずはなかった。自他ともに認めるミレニアム最強を背負う者として、目の前のこの男がどれほどのものなのか、それを確かめずにはいられない。だが、こうして対面に立つことで実感する。五条悟の実力を――。軽薄そうな態度に見えて、隙が無い。いや、どう攻めればいいのか分からないと言うべきか。今まで感じたことのない感覚に、ネルは心から愉しんでいた。

ポカンとこっちを見ている五条に対して、ネルが狂暴そうな笑みを浮かべたまま尋ねる。

 

「どうした、ボーっとして。何とか言ったらどうだ!?」

 

そう言うと、五条はネルを指さして笑いながら衝撃の一言を告げる。

 

「チビたちって言うけど、君の方が普通にチビじゃ~ん!」

 

「――あ゛!?」

 

ビキッとネルの中で何かが切れた音がした。それを察知したモモイとミドリとユズの三人が、ものすごい形相で五条に詰め寄る。

 

「バカー!!なんてこと言うの先生!!ネル先輩をチビって呼ぶなんて!!」

 

「ネル先輩をチビって言った人がどうなったか知ってんの!?」

 

「ね、ネル先輩をチビって言った人は、もれなく全員病院送りにされたんだから……!」

 

「いや、君たちもチビチビ言ってるからね」

 

「「「あ……」」」

 

三人は恐る恐る振り返ると、怒りのオーラを全開にしたネルが鬼の形相でこちらを睨んでいた。

 

「「「ひ、ヒエー!!」」」

 

三人は急いで五条の後ろに隠れる。

ネルの後ろから他のC&Cのメンバーがネルを宥める。

 

「……落ち着いて、リーダー!」

 

「なんだか最早新鮮ですね。まだネル先輩に対して、身長の話が出来る人がいたなんて」

 

「ふぅ、ふぅ……」

 

カリンとアカネに宥められて、息を荒げながらも徐々に冷静さを取り戻すネルは、少し深呼吸をする。

 

「危うく冷静さを失うところだったが……まぁ、こんな話はどうでもいい。おい、そこの無駄にデケぇ武器をもってるあんた」

 

ネルの言葉にアリスは五条と目を合わせて、二人でキョロキョロと見まわす。それを見たネルは右手のマシンガンをアリスに向けて、声を大にして叫ぶ。

 

「あんただよ、あんた!」

 

「アリスのことですか?」

 

「そうだ、てめぇには用がある。うちのアスナ(バカ)に、一発食らわせてくれたらしいじゃねぇか。ちっと面貸せや」

 

首でこっちに来いという仕草をするネルを見て、アリスはポンと手を叩く。

 

「あ、アリス、このパターンは知っています。『私にあんなことをしたのは、あなたが初めてよ……』告白イベントですね。このチビメイド様はアリスに惚れていると。スチル獲得です」

 

「ふ、ふっざけんなこの野郎っ!ってか、誰がチビメイド様だ!?ぶっ殺されてぇのか!?」

 

「ひっ……!」

 

大きな声を荒げて睨みつけるネルの迫力に、アリスも怖気ついて五条の後ろに隠れる。

 

「あの子怖いわねー」

 

「ねー、最近の子って怖いわねー」

 

「てめぇら、ぶっ殺す!」

 

「アハハ、リーダー駄目だよー!」

 

「そうだ、落ち着いてリーダー」

 

「離せ!コラッ!」

 

五条とモモイが近所の井戸端会議をする主婦のものまねをしながら、ネルの方をチラチラと見ながら小声で話す。そんな二人を見て、ネルがまた怒りだすのだが、アスナが笑いながら後ろからネルを抱き上げる。アスナに抱き上げられ足をバタバタさせるネルを、カリンとアカネが再び宥めだす。その様子を見て、五条は楽しそうに笑ってみているのだった。そんな騒ぎが収まり、少し疲れた様子で深呼吸をするネルが肩を落としながら、再びアリスの方へと顔を向き直した。

 

「はぁ……。なかなかにイラつかせてくれるじゃねぇか、まあ良い。誤解してるかもしんねぇから一応言っておくが、別にC&Cに一発食らわせた分の復讐ってわけじゃねぇ。あちこちに怪しい部分はあったが、こっちとしては正当な依頼の中での出来事だった。そっちはそっちで、あたしらを相手に目標を達成しただけだ。別にそこに恨みはねぇが……俄然、興味湧いてきてな」

 

「興味……?」

 

「確認、って言った方が良いかもしれねぇが……さあ、ちょっくら相手してもらおうか」

 

ネルは両手にサブマシンガンを持ち、戦闘態勢になる。

 

「あたしと戦って勝てたら、このまま大人しく引き下がってやる。お互いを理解するには、これが一番手っ取り早いからな。どうだ、難しい話じゃねぇだろ?」

 

アリスは静かに考える。相手はミレニアム最強、戦うべきかどうか迷っていた。アリスは不安気な顔で五条へ見上げる。五条は優しく笑いかけ、アリスに向けて親指を立てる。それを見たアリスの迷いは吹き飛んだのだった。

 

「分かりました」

 

「お、やる気満々と来たか」

 

「一騎打ちのイベント戦闘……みたいなものですね、理解しました」

 

「イベ……なんつった?」

 

「あの時は狭かったですし、『鏡』を持って帰るという使命がありましたが……今なら!」

 

ガシャンという音と共に光の剣を携えて、アリスはエネルギーをチャージする。

 

「魔力充電100%……!」

 

「――っ!これは――!」

 

光の剣に込められる膨大なエネルギーを目にしたネルは舌打ちをする。ネルが動き始めた瞬間に、アリスは100%の極大な光が放たれる。

 

「――光よ!!」

 

アリスの光の剣から辺り一面が光に包まれるかと思うほどの眩い極大な光が放出され、アリスの眼前の全てを吹き飛ばし、校舎に大きな穴が開いた。

光の剣の威力を初めて見たアスナ、カリン、アカネの三人は、その圧倒的な火力に驚きを隠せずにいた。

 

「くっ……!」

 

「わおっ!」

 

「何て威力……!校舎の壁を、こうも簡単に消し飛ばすほどの……!」

 

モモイとミドリも初めて見る威力に呆然としていた。

 

「す、すごい……」

 

「こんな火力、見たことない……」

 

「――やったか?」

 

「アリスちゃん!その台詞は無闇に言っちゃダメ!」

 

目の前の黒煙に向かってアリスがそう呟くと、慌ててミドリが止めに入る。必殺技を使って「やったか?」などのセリフは、絶対やれていない鉄板のセリフであるからだ。

それに気づいていないアリスは、勘違いをしたまま訂正をする。

 

「あ、ネル先輩は3年生でした。言い直します。や、やっつけられましたか……?」

 

「いや、敬語の問題じゃなくて……!」

 

「まだだよ」

 

五条が低い声で呟く。

煙の奥からSMGの掃射がアリス目掛けて撃ち出される。光の剣を構えるアリスに避けることなどできる訳もなく、全て命中する。弾丸を受けて後ろによろめくアリスは、煙を切る様に奥から歩いてくる影に驚愕する。そこには無傷のネルが姿を現した。

ネルは服についた汚れを払い落とし、アリスを見据えて笑う。

 

「確かに、並大抵の火力じゃねぇが……。ただ、それだけだ。射線さえ見極めれば躱す事なんか、赤子の手をひねるより楽だ」

 

「もう一度……」

 

「遅ぇよ」

 

再び光の剣を発射すべく構えるアリスだが、ネルは一気にアリスとの間合いを詰める。2丁のSMGの連射だけでなく、壁や天井も縦横無尽に動き回るネルの動きに、巨大な武器を持つアリスは眼で追うのがやっとなのであった。とても武器を構える余裕はなく、光の剣を立ててその陰に隠れることで攻撃を凌ぐので精一杯だった。

そんなアリスを見て、ネルは余裕の笑みを浮かべながらも攻撃の手は止めない。

 

「てめぇの武器は確かに強い。だが引き金を引いた後、発射まで最低でもコンマ数秒はかかる。その上、その強すぎる火力のせいで、相手にある程度の距離まで入られたら撃てねぇ。爆圧に、自分(てめぇ)まで巻き込まれるからな。そしてこの間合いであたしに勝てる奴なんざ、キヴォトス全体でもそう多くは……いや、一人もいねぇ」

 

「うぅ……」

 

激しい攻撃を受けたままアリスは一歩も動けなくなっていた。ネルの言う通り、ネルの射程でヒカリの剣を放てば、アリスもただでは済まない。それどころか、この射程でネルが自分に向けられた攻撃を許すはずがない。

だが、このまま受け身でいればいつか自分のHPが0になってしまう。モモイたちが心配そうな目をしている。ここで倒れるわけにはいかない。みんなでミレニアムプライスを見届けるまで、少しでもみんなと一緒にいるために、アリスは全思考を計算する。そして今一つの結果が導き出された。

 

(もうこれしか……)

 

「思った以上にがっかりだったな。この程度で、あいつらがやられたとは到底……」

 

片膝をつくアリスを見て、ネルが落胆した顔でアリスを見下ろす。片手で空になった弾倉をを捨てて、空いた片手ですぐに新しい弾倉を交換する。そのままゆっくりとアリスへと歩み、彼女にSMGを向けたその瞬間――。

 

「うわあぁぁ!!」

 

「――ぐッ!」

 

アリスが大きな声を上げて、光の剣を振り回した。突然の行動に少し驚くも、ネルは後ろに飛び退き、難なく躱す。そのまま狂暴な笑みを浮かべて、アリスを睨みつけた。

 

「はっ、接近戦としては悪くねぇ判断だ……けどな」

 

すぐさま攻撃に移るネルに、アリスは振り回した光の剣を地面に突き立てて、再び守りの姿勢に入るのだった。

 

「相変わらずこの距離じゃ、あたしの方が圧倒的に有利。てめぇは発射しようにも、あたしに照準を合わせられねぇ!」

 

「……照準は、必要ありません。行きます!」

 

「だから無理だって――ん?」

 

アリスの光の剣にエネルギーが充填されていく。それに気づいたネルの眉が吊り上がる。地面に突き立てた光の剣、そしてその砲門は地面に向いている。そこから導き出される答えに、ネルはいち早くたどり着いた。

 

「この状態で発射準備――まさかてめぇっ……!?あたしじゃなく……床に!?正気か!?このまま撃ったらてめぇも――!?」

 

ネルの焦燥する顔を見て、アリスはフッと不敵な笑みを浮かべる。そしてそのまま引き金を引く。

 

「光よ!!」

 

地面に放たれた光の剣の一撃はアリスとネルを巻き込んで爆発を起こした。廊下の床が崩れる音と煙幕で辺り一辺が見えなくなる。モモイたちはアリスの安否を確認するために大きな声を上げた。

 

「アリスちゃん!どこ!?」

 

「アリスちゃん!煙で何も――」

 

「床がほぼ崩れて……見つけた、アリス!」

 

モモイが指さした先には、瓦礫の上で仰向けで倒れるアリスの姿があった。砲撃のダメージが大きくて、アリスは動けなくなっていた。

 

「に、肉体損傷48%……後退を望みます!」

 

すると、すぐ近くの瓦礫を壊してネルが這い出てきた。流石のネルも至近距離の爆発を完全には避けられず、服と体は多少の傷がついていた。

動けなくなったアリスに向けて銃を向ける。

 

「自爆覚悟の決死の攻撃か……。悪くない策だったが、爆圧に近いてめぇがダメージが大きいのは自明の理だな」

 

「……」

 

「それじゃあこれで……終わりだ」

 

ネルがゆっくりと引き金を引く。モモイたちが何か叫んでいるが、爆発の影響で聴覚機能が軽度の障害を起こしてよく聞こえない。アリスは諦めてゆっくりと瞼を閉じる。

 

「はい、そこまで」

 

銃を向けるネルの腕を掴んで止めたのは、他でもない五条だった。

 

「もう十分でしょ。これ以上の戦いは何の得にもならないと思うけど……?」

 

「……」

 

「まあまだ暴れ足りないなら、僕が相手しようか?」

 

「――いや、いい」

 

掴んだ五条の手を振りほどいてネルは背を向ける。そこにアスナたちも天井の穴から降りてきた。

 

「リーダー!」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「問題ねぇよ」

 

「リーダーただでさえ小っちゃいのに、もっと小っちゃくなっちゃったらどうしようかと――」

 

「よし、お前、後でしばく」

 

「アハハ、面白いね君たち」

 

仲良さそうにしているC&Cを見て、五条はつい笑ってしまう。すると、アスナが五条の元に走ってきた。

 

「あっ、先生――って言い方はなんかしっくりこないなー。ねーねーご主人様って、呼んでいい?」

 

「うん、いいよ」

 

「やったー!じゃあ、ご主人様ねー!」

 

嬉しそうにはしゃぐアスナを見て、人懐っこい大型犬みたいだなと思う五条を余所に、アスナは嬉しそうに尋ねた。

 

「今度私たちと一緒に仕事する時があったら、その時はよろしくね。ご主人様!」

 

「そうだね、その時はよろしく」

 

「それじゃあ約束だよ、約束――」

 

「何時まで駄弁ってんだ。一応、今はまだ敵対関係だってこと忘れてんじゃねぇぞ」

 

アスナの首根っこを掴んで帰ろうとするネルに、五条が声を掛ける。

 

「また時間がある時にいつでも来なよ」

 

「ああ、何時かな……」

 

「またねー、ご主人様ー!」

 

引きずられながら満点の笑顔で手を振るアスナと軽く会釈するカリンとアカネ、ネルは一切振り返ることなく帰っていった。C&Cがいなくなったことを確認したモモイたちが、アリスの元に駆け寄った。

 

「アリス、大丈夫!?」

 

「アリスちゃん!」

 

「とりあえず帰ろうか、君たちの部室に」

 

五条がアリスを背負って、モモイたち四人はゲーム開発部の部室へと帰還した。部室に戻った途端、緊張の糸が切れたことで疲れがどっと出て、猛烈な眠気に襲われ床に倒れ込んですぐに眠ってしまった。「TSC2」を作るのに、ここ数日間は碌に寝ていなかった上に、今日は逃走と戦闘に1日を費やした。身体が限界を迎えていても仕方がない。まるで死んだように眠る四人を見て、五条は彼女たちにそっと毛布を掛けてあげた。

 

「大変な一日だったね……。でも、君たちはやり遂げた。本当に素晴らしい生徒だよ」

 

そう言って、五条は四人を起こさないように静かに部室を出ていった。ミレニアムプライスの発表まで残り2日、五条に出来るのはもう何もない。

結果はどうなるか分からない。しかし、五条にはあの四人ならこの試練を突破できるという確信があった。別に未来が見えるわけではない。正直ただの勘に過ぎないが、五条はあの四人の頑張りを見てきた。

お調子者だけど、みんなを引っ張て行くモモイ、お調子者のモモイを止めるしっかり者のミドリ、引っ込み思案だけど、なんだかんだみんなをまとめるユズ、そしてみんなの支えとなる部のマスコットであるアリス。この四人だからこそ、突破できると五条は自信を持って言える。

五条は笑みを浮かべて、帰宅するのだった。

 

 

 

一方、C&Cのメンバーはアリスとの戦闘を終えて帰還している中、ネルが何も話さないことにカリンとアカネはどう声を掛けるべきか迷っていた。

その時、二人の心配を余所にアスナがネルに声を掛けた。

 

「ねえねえ、リーダー」

 

「あん?」

 

「右手、大丈夫?」

 

「……はあ、相変わらず無駄に勘が良いな」

 

ネルは右腕のスカジャンの袖の部分をめくる。そこには手首付近が真っ赤に腫れていた。それを見たカリンとアカネがギョッとする。アカネがすぐにネルの元へと駆け寄って、彼女の手首を包帯で巻き始めた。

 

「だ、だ丈夫ですか!?」

 

「うっせぇ、別に痛かねぇよ」

 

「それは、あの先生に?」

 

カリンが鋭い目つきでそう問いかける。ネルは肩をすくめて、小さく首を横に振る。

 

「いや、あの時無理やり引き離したあたしのせいだ。あの野郎が本気なら、あたしは……あたしたちは絶対逃げられなかった」

 

「リーダー……」

 

「ふっふーん、すごいでしょーご主人様!」

 

「おめぇはどっちの味方なんだよ!?――つぅか、邪魔だ!」

 

なぜか自分の頭の上で胸を張るアスナ、彼女の豊満な胸がずしっと頭に乗っかかるのを、ネルはイラっとする。

しかし、今回のことであのアリスという少女と五条という先生のことは理解できた。あの時、リオがなぜ自分に急遽戻るよう言ったこと、依頼を撤回したことについて納得はできた。

アリスは色々と未熟な部分が多いが、まだまだ伸びしろのある奴ではあったし、先生も色々とムカつくとこはあるが、彼が正真正銘の最強であることを確信できた。

 

「リーダー?」

 

「……思い切り暴れたら腹減ったな。なぁ、ラーメンでも食いに行こうぜ」

 

「良いですねー」

 

「賛成賛成~!」

 

「うん、そうだね」

 

笑いながらラーメンに向かうC&C。彼女たちが五条と共に豪華客船の任務に向かうことになるのは、また別の話。

 

 

 

あれから時が過ぎて、ミレニアムプライスの発表当日となった。この日でゲーム開発部の運命が決まる。こんな大事の日に彼女たちはと言えば――。

 

「ねえねえアリス、見て見て~!じゃ~ん、メイド服~!」

 

「ひぃっ!」

 

「アハハ、良い反応!」

 

なぜかメイド服を持ったモモイがアリスを追いかけまわしていた。それを見たミドリがモモイの頭を叩いた。

 

「何してるの、もう!アリスちゃんが完全に怯え切ってるじゃん!アリスちゃん、大丈夫?」

 

「あ、アリス、しばらくメイド服は見たくありません!」

 

「身体の方は全部治ったみたいだけど、心の方はもうちょっとかかりそうだね」

 

ミドリは、自分に抱きつくアリスの頭を撫でる。あの戦いの後、アリスはメイドがトラウマになっていた。どうやら余程ネルが怖かったのだろう。メイドはおろか、メイド服を見るだけでもこのように逃げ回るようになっている。

すると、部室の扉が開き、ユズが帰ってきた。

 

「あの、建物を破壊しちゃった件について、生徒会に行ってきたんだけど……幸いなことに、部活動中の『事故』処理してもらえたよ」

 

「嘘っ!ユズそれどうやったの!?もし部が存続できたとしても、弁償代として部費は諦めなくちゃと思っていたのに……!」

 

「わたしじゃなくて、C&Cがの方が処理してくれたみたい。それと……ネル先輩からの伝言。『また会おう』……って」

 

「ひぃっ!?」

 

「ああっ、アリスちゃん!ロッカーの中に入っちゃダメ!ユズちゃんを見て変なこと覚えちゃったよ!」

 

ロッカーに隠れるアリスを見てお母さんのように呆れるミドリの後ろで、ユズが小さくごめんと謝った。

 

「ふぅ……まあそれならそれでよかった。ところで……」

 

「……うん。ミレニアムプライス、始まったね」

 

「もし受賞できたならクラッカー鳴らそっか。でも、もしそうじゃなかったら……」

 

「……すぐに、荷造りしないとね。私たちはさておき、ユズちゃんとアリスちゃんは……」

 

ユズとアリスは何も言わず黙っていた。ユズは寮に戻ることはできず、アリスは元々ミレニアムの生徒ではない。もしこのゲーム開発部を失えば、二人の居場所は本当になくなってしまう。

そんな四人の不安を置いて、テレビではエンジニア部のコトリがナビゲーターとなってミレニアムプライスの授賞式の開始を始めていた。

 

『これより、ミレニアムプライスを始めます!司会進行を担当するのは私、エンジニア部のコトリです!今回は、これまでのミレニアムプライスの中でも最多の応募となりました。おそらくは生徒会の方針変更により、部活動維持のための「成果」が必要になった影響だと思われます!』

 

テレビに映るコトリを見て、ミドリたちは彼女たちが無事であったことを安堵していた。G.Bibleを解析してもらっていたヴェリタスは無事であることは知っていたが、エンジニア部とは全く連絡を取っていなかったので、彼女たちが無事であることを今ここで知ったのであった。

 

「……コトリちゃんたちの方も、無事だったみたいだね」

 

「エンジニア部は元々、ミレニアムの中でもかなり功績が認められている部活なこともあったし……でも、本当に良かった」

 

「うん。ところで、史上最多の応募って……」

 

「それはちょっと困るなぁ……」

 

自分たちと同じ状況の人たちの応募が多いことにモモイたちは先行きが不安になる。

 

『昨年の優勝作品であるノアさんの「思い出の詩集」は、本来の意図とは少し違ったようですが……その形而上(けいじじょう)的な言葉の羅列が、ミレニアム最高の不眠症に対する治療法として評価されました。今回も「歯磨き粉とし見せかけてモッツァレラチーズが出る持ち歩きチーズ入れ」、「ミサイルが内蔵された護身用の傘」……「ネクタイ型のモバイルバッテリー」、「光学迷彩下着セット」、「ちょうど缶一個なら入る筆箱型個人用冷蔵庫」……。そして!今キヴォトスのインターネット上でセンセーションを巻き起こしている、スマホでマルチプレイが楽しめるレトロ風ゲーム、「テイルズ・サガ・クロニクル2」などなど!』今回出品された三桁の応募作品のうち、栄光の座を手にするのは、たったの7作品!』

 

間もなく始まる結果発表の時がやってくる。テレビの明るい雰囲気とは違い、部室内の緊張感に満ちる空気にモモイたちは思わず唾を飲んだ。

 

『それでは、7位から発表します!第7位はエンジニア部、ウタハさんの「光学迷彩下着セット」です!これは身に着けてもその下のため、着ていても脱いでるような感覚になれるエキセントリックな作品ですが……。露出症の患者を合法的に趣味生活を営めるようになるという点で、大変高い評価を得て7位とさせていただきました。……これ、誰が審査したんですか?』

 

「ま、まぁ……私たちのゲームは7位に収まるような器じゃないよね」

 

「そ、そうだよね」

 

四人は笑っているが、その笑みはどこかぎこちない。明らかに虚勢を張っているのが見え見えだが、発表はどんどん進んでいきあっという間に4位まで発表された。ここまで来ると彼女たちの顔に笑みは消えており、テレビの前で必死に祈っていた。

 

「ううぅっ!そろそろお願い!」

 

「そろそろ心臓がもたない」

 

『さあ、ここからはベスト3です!第3位は……!』

 

「お願いします!お願いします!」

 

『僅差で第2位を受賞したのは……!』

 

「――お願いします、私たちの名前を……!」

 

しかし、彼女たちの祈りとは裏腹にゲーム開発部の名前が呼ばれることはなかった。もうここまで来て残るのは1位だけ……。彼女たちは全身全霊の思いを込めて、目の前の発表に祈る。

そして、遂に最後の名前が発表される。

 

『最後に!今回のミレニアムプライスで、最高の栄誉を受賞した作品です!その1位は――!』

 

「お願い……!」

 

「うぅっ……!」

 

「お願いします……!」

 

「……!」

 

『――CMの後で!』

 

CMに入った瞬間、モモイとアリスの中で何かが切れる音がした。

 

「アリスっ!」

 

「はいっ、いつでも撃てます!」

 

「気持ちは分かる!気持ちは分かるけど、授賞式会場も画面も撃っちゃダメ……!」

 

光の剣を携えてテレビごと授賞式会場に向けて、エネルギーを充填するアリスを止めるミドリ。この大事な場面でCMに入るのは本当に腹が立つし、同じ思いをしている人たちもたくさんいるだろう。しかし、ここで暴れていてもしょうがないので、ミドリが二人をなんとか宥めるのだった。

そうして、二人を宥めているうちに、CMが明けて最後の発表に入る。

 

『さあ!それでは発表します!第1位は……新素材開発部の――!』

 

名前が出た瞬間、モモイが立ち上がり自分のライフルでテレビを破壊した。突然の行動に、横にいたミドリが驚いて顔を上げる。

 

「きゃあっ!本当に撃ってどうするの!?」

 

「どうせ全部持っていかれるちゃうんだし、もう関係ない!うえぇぇん!もう終わりだぁぁぁぁ!!」

 

――選ばれなかった。残酷なその現実に、ゲーム開発部の四人は何も言葉が出なかった。みんな涙を流して泣き続けていた。やがて、ユズがポツリと消えるような小さな声で口を開いた。

 

「うぅ……。結局、こうなっちゃうなんて……」

 

ユズから流れる涙は、本気で悔しいと思う涙だった。

 

「落ち着いて、お姉さん。でも……」

 

「――分かってるよ!全部が否定されたわけじゃない、へこたれる必要なんかないって……。ネット上の評価も悪くなかったし、クソゲーランキング1位のあの時から、ちゃんと成長した。これからも、きっと成長していける次こそはもっと良い結果を出して、今より立派な大きな部室だって貰えるはず!でも……」

 

モモイは、その先の言葉に詰まる。自分たちは成長した、けれども結果を出せなかった。約束通り、この部室はゲーム開発部のものではなくなる。そうなると、ユズとアリスはどうなるのか。モモイとミドリは不安そうに二人へと目を遣る。ユズは涙を拭いて、モモイとミドリへと顔を上げる。

 

「……心配しないで、二人とも。わたし、寮に戻る」

 

「「え?」」

 

「もうわたしのことを、クソゲー開発者って呼ぶ人はいないと思う。ううん、もし仮にいたとしても、大丈夫。今のわたしには、みんながついてる」

 

にこやかに笑うユズを見て、モモイとミドリは自分のことのようにうれしく笑う。

 

「ただ、アリスちゃんは……」

 

「……」

 

「……アリスちゃん、ごめんね」

 

「いえ。みんなで頑張ったのです、アリスはこの結果を受け入れます。ですが……もう……もうみんなとは……一緒に、いられないのですね」

 

「「「――っ!!」」」

 

その言葉で、全員の目に再び涙があふれてきた。モモイたち三人はアリスに抱きつき泣き出した。

 

「いやだよぉっ!アリスとお別れなんて、私いやだ!」

 

「私もアリスちゃんと離れ離れになりたくない!」

 

「わたしも、ずっと一緒にいたい!」

 

「みんな……」

 

四人が抱き寄せ合い、声が枯れそうになるほど大きな声で泣いた。一緒にいた時間は長くはないが、彼女たちには確かに絆があった。

そうして泣いてるところで、急に部室のとびが勢いよく開かれた。

 

「みんな~、おつかれ~!いや~、波乱万丈会ったけど良かったね~!流石は僕の自慢の生徒!」

 

五条がクラッカーを鳴らしながら、いつも以上に陽気な声を上げて入ってきた。彼の背中には大きく『祝』という文字が書かれた看板を担いで、パーティーグッズを身に纏っている五条の姿を見て、ゲーム開発部の四人はフリーズしていた。

 

「あれあれ、もしかしてもう嬉しくて泣いてるの?いや~、僕もすぐにお祝いに行こうとしてたんだけど、このメガネが♡の形か☆の形にするか迷っちゃってねー!」

 

「……」

 

「ちょっとちょっと、みんな暗いよ。ほら、テンション上げて!」

 

「いい加減にしてよ!!こんな時にふざけるなんて、どうかしてるよ!!」

 

モモイの今までにないほどの怒鳴り声に場が静まり返る。モモイは空気を読まない五条に、激怒していた。いくら先生と言えども、こんな時にも軽薄な態度をとるその姿に怒りを隠しきれずにいた。ミドリとユズも、同じく失望の眼差しで五条を睨みつける。

五条は、今の状況をなんとなく察して頭を掻きながら、モモイたちに尋ねる。

 

「えっと……もしかして、君たち授賞式見てないの?」

 

「見たよ!私たちが1位まで発表されなくて、笑いに来たの!?」

 

「あー……そういうことか」

 

モモイの言葉と奥のテレビが壊れているのを発見した五条は、すべて理解した。五条は「シッテムの箱」を取りだして、授賞式の中継を映し出す。

 

「ほら、これを見なよ」

 

そう言って、四人に見えるように掲げる。そこには審査員の一人が何やらスピーチを行っていた。

 

『ミレニアムプライスはこれまで、生徒たちの才能と能力で作られた作品に対し、「実用性」を軸に据えて受賞を行ってきました。これはより良い未来を求め、実現していくという趣旨に基づいています。しかし今回の作品の中には、新しい角度から「実用性」を感じさせてくれたものがありました。とある「ゲーム」が実際に、懐かしい過去をありありと思い出させ、未来への可能性を感じさせてくれたのです。よって私たちはこの度、異例の選択をすることになりました。今回は「特別賞」を設けます。その受賞作品は……ゲーム開発部の「テイルズ・サガ・クロニクル2」です』

 

「ええっ、嘘!?」

 

「何が起きてるの……?」

 

モモイたち四人は驚きのあまり、互いの顔を見合わせる。絶望のどん底にいた彼女たちは、まさかのどんでん返しに、これは夢なのかと錯覚しそうになっていた。そんな中、審査員が何故受賞したのか、その理由を説明し始めた。

 

『レトロ風という時代を超えたコンセプト、常識に縛られず次々と想像を超えていく展開、一見それらとマッチしそうにない不可思議な世界観、と、最初は困惑の連続でしたが……。新しい世界を旅して、ひとつひとつ新たな絆を結びながら、魔王を倒しに行く……。そういったRPGの根本的な楽しさが、しっかりと込められた作品だと思います。プレイしながら、かつて初めてゲームに夢中になったあの頃の思い出を、鮮明に思い出しました。そういった点を評価して、この作品に……今回、ミレニアムプライス「特別賞」を授与します』

 

本当に楽しんだことを理解させる審査員の表情と言葉に、四人はこれが現実であるということを実感した。

身体が震える四人は、ゆっくりと五条の顔を見上げる。五条は、彼女たちに先生として優しく口を開いた。

 

「おめでとう。君たちの勝利だよ」

 

「「「「せ、先生ーっ!!」」」」

 

五条は、胸元に抱きつく四人を受け止める。四人は思い切り声をあげて泣いた。その涙は先ほどのものとは違い、心の底から喜びを表した涙だった。

 

「うわぁぁぁぁん、じぇんじぇー!ざっぎはごべんなざーい!」

 

「ごめんなさい、そして……ありがとうございます」

 

「先生……ありがとうございます」

 

「いいよ、気にしてないって」

 

「先生、アリスはここにいてもいいのですか?」

 

「もちろん、アリスの居場所はゲーム開発部(ここ)だよ」

 

「はい!」

 

五条の服は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになるが、そんなことを気にせず五条は四人を優しく抱きしめた。

そこに、ユウカが急いだ様子でやってきた。

 

「みんな、おめでとう!」

 

「ユウカ!」

 

「本当におめでとう!その、実は私もプレイしてみたの。決して手放しに面白かったとは言えないけれど……良いゲームを遊んだ後の、あの独特の感覚を味わえた」

 

「モモ、ミド!あたしも『TSC2』やってみたよ、すっごい面白かった!今ネットでも大騒ぎだよ!ヴェリタスの調べだと、有名アイドルの名前より、『TSC2』の検索数の方が多くなってるってさ!」

 

ユウカに続くようにマキも部室に飛び込んできた。マキの言葉にミドリたちは信じられずにいた。そんなミドリたちに答えるかのように、アリスが静かに口を開いた。

 

「確認しました。3日前にアップした『テイルズ・サガ・クロニクル2』は、先ほどまでダウンロード7705回、合計1372個のコメントが付いていましたが……。ミレニアムプライスの発表以降、約26秒間でダウンロード回数が1万を超えました」

 

「ええっ!?」

 

「コメントも約500個追加、言葉のニュアンスからして否定的・疑惑のコメントが242個、肯定的・称賛のコメントが191個、残りは不明、もしくは評価を保留しているコメントです」

 

「え……あれ?そ、そしたら私たち……結局ダメってこと!?」

 

「ううん、そんなことはない」

 

思ってる以上に肯定的なコメントが少ないことに疑問を持つミドリに、ユズは首を横に振ってそれを否定する。

 

「ユズちゃん……?」

 

ユズはパソコンを開いて、『テイルズ・サガ・クロニクル2』のレビューページを開く。そこのコメント欄までスクロールしてあるものを見つけると、ユズの顔は嬉しそうにほころんだ。そしてそれをミドリたちに見せる。そこには全コメントの中で一番いいねを貰っているコメントがあった。

 

「見て。今同率で、一番多くいいねをもらってる、二つのベストコメント……」

 

〈chicken:実際にプレイするまで、最初は散々迷いました……でも今はこう思っています。このゲームに出会えて、よかったです〉

 

〈Kotoha0517:これまでミレニアムに対して、偏見を持っていました。冷静さと合理性しかないミレニアムの生徒たちへの偏見は、今回のミレニアムプライスと、この『テイルズ・サガ・クロニクル2』を通じて、完全になくなったと断言できます〉

 

ベストコメントが高評価のコメントであることの意味をモモイとミドリはすぐに理解した。二人はこのコメントを見て、すぐにユウカへと顔を向ける。

 

「こ、これって……」

 

「廃部にはならないんだよね!?」

 

期待に目を輝かせる二人を見て、ユウカは笑顔で頷いた。

 

「ええ、そうよ。あ、でもあくまで『臨時の猶予』だから。正式な受賞ではないし、生徒会としてはまた来学期まで……ゲーム開発部の部室の没収及び廃部を、『保留』することにしたの」

 

それを聞いて、モモイとミドリは嬉しそうにハイタッチをした。ユウカは、モモイに向かって少し恥ずかしそうに何か言い淀んでいた。

 

「えっと、それから……。その……」

 

「ん?」

 

「……ご、ごめんなさい。ここにあるゲーム機のこと、ガラクタって言って……。あなたたちのおかげで思い出したわ。小さいころに遊んだ、いろんなゲームのことを。久しぶりにあの頃の……新しい世界で旅をする楽しさを感じられた。……ありがとう。それじゃあ、部室の延長申請とか部費の受け取り処理とかは必要だから、落ち着いたら生徒会室に来てね。じゃ、また後で!」

 

最後にはいつもの様子で平然と部室を出ていくユウカだったが、五条だけが彼女の耳が真っ赤になっているのを見てクスッと笑っていた。ユウカがいなくなった部室は少し静寂に包まれる。四人はは嬉しさに震えていた。

 

「や……」

 

「「「「やったああぁぁぁぁ!!」」」」

 

全員で抱き合いながら自分たちの居場所を守れた喜びと初めて自分たちのゲームが評価されたことに対する喜びが同時に湧き上がった。

 

「アリスはこれからも、みんなと一緒にいて、良いのですか?」

 

「「うん!」」

 

「これからも、よろしくね……!」

 

その言葉に、アリスの目に涙が溜まる。そんなアリスの手を取り、四人は円状に繋がる。

 

「アリスちゃん!!」

 

「私たち……っ!!」

 

「これからも、ずっと一緒だよ!」

 

「――はい!これからも、よろしくお願いします……!」

 

こうして、五条のゲーム開発部の依頼は完了した。色々とあったが、彼女たちゲーム開発部のだいぼうけんはまだまだつづく。

 

 

 

エピローグ

 

ミレニアムプライスのあった夜、みんながお祝いで楽しんだ後の部室は静かなものだった。四人は遊び疲れてぐっすりと眠っている中、モモイのゲームガールアドバンスSPがひとりでに点いた。その画面にはこう映し出されていた。

 

〈Divi:sion〉

 

それはすぐに消える。そして次に映し出されたのは――。

 

〈AL-1S……いえ……アリス……私の……私の、大事な……!@#$%$^&*(!@$!!〉

 

まるでちぐはぐな文字が打たれた様な文が出たと思えば、ゲームガールアドバンスSPの電源はすぐに落ちた。無論、この一部始終を見ていたものは誰もいない。

 

この部室には誰も――。

 

「やっぱり、そうね」

 

誰もいなくなったセミナーの執務室、そこで一人の少女がとあるデータを見ていた。それを見た少女は、静かに頷いた。

 

「このままでは、このミレニアムが……いえ、キヴォトスが滅んでしまう。そうなる前に止めないと……。例え何を犠牲にしてでも――」

 

そこに警備ロボットが巡回する。

 

『誰カ、イマスカ?』

 

ロボットのライトが照らし出される。しかし、そこには誰もいなかった。ロボットは誰もいないことに首を傾げるが、そのまま巡回に戻っていった。

スヤスヤと眠るゲーム開発部の四人はまだ知らない。彼女たちが、大きな戦いに巻き込まれることを――。

そして、その大きな戦いの中心にいるのが、アリスだということを……。彼女たちはまだ知らない。

もちろん、この男も――。

 

「――ハッ!?今、誰か僕のことをクールビューティーナイスガイと褒めたかい?」

 

……知らないのだ。




ついに書ききった!前回のアビドス対策委員会編とはまた違うストーリーで色々と苦労しました。パヴァーヌ編第1章はあまり戦闘メインの物語ではないから、色々と大変でした。
本当は五条の戦闘も入れようか考えたのですが、それを入れるとストーリーのノイズになったので、泣く泣くカットしました。
次回は少しゲーム開発部の日常のミニストーリーを描いてから、エデン条約編に入ります。エデン条約編は第1章部分はほのぼのですが、後半は怒涛の展開になるので、応援してくださると励みになります!

乞うご期待!
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