シャーレの五条先生   作:未来跳躍

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遅くなって大変申し訳ございません。
ついにエデン条約編始動です!
正直、色々と大変でしたが、何とか形に出来て良かったです。
読んだ感想などがあれば、是非ともよろしくお願いします。みなさんの感想と評価がやる気に繋がります!


エデン条約編
補習授業部、始動!


……つまるところ。エデン条約というのは、「憎み合うのはもうやめよう」という約束。

トリニティとゲヘナの間で、長きにわたって存在してきた角質にも近い敵対関係。そこに終止符を打たんとするもの。

互いが互いを信じられないがゆえに、久遠に集積していくしかなかった憎悪を解消するため、それに代わって新たに信頼を築き始めようとするプロセス。

より簡単に言おうか、つまりはゲヘナとトリニティの平和条約だ。

ただ、連邦生徒会長の失踪をきっかけに、この条約は何の意味も持たなくなってしまった。

「エデン」――それは太古の経典に出てくる楽園の名。そこにどんな意味を込められていたのかは分からないけれど、まあ連邦生徒会長のいつもの悪趣味だろうね。

キヴォトスの、「七つの古則」はご存じかい?その五つ目は、まさに「楽園」に関する質問だったね。

 

「楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか」

 

他の古則もまたそうであるように、少々理解に困る言葉の羅列だ。ただ、一つの解釈としては、これを「楽園の存在証明に対するパラドックス」であると見ることができる。もし楽園というものが存在するならば、そこに辿り着いた者は、至上の満足と喜びを抱くが故に、永遠に楽園の外に出ることはない。

もし択円の外に出たのであれば、つまりそこは真の悦楽を得られるような「本当の楽園」ではなかったということだ。

であるならば、楽園に到達した者が、楽園の外で観測されることはない。存在を補足されうるはずがない。

存在しない者の真実を証明することはできるのか?つまるところ……この五つ目の古則は、初めから証明することができないことに関する「不可解な問い」なのだよ。

しかしここで同時に、思うことがある。証明できない真実は無価値なのだろうか?この冷笑にも近い文章を通じて、何か真に問いたいことがあるのではないだろうか?

エデン……経典に出てくる楽園(パラダイス)。どこにも存在せず、探すことも能わぬ場所。夢想家たちが描く、甘い甘い虚像。

どうだい?そう聞いてみると、この「エデン条約」そのものが、まさしくそんなもののように思えてこないかい?

――先生。もしかしたらこれから始まる話は、君のような者には適さない、似つかわしくない話かもしれない。不快で、不愉快で、忌まわしく、眉を顰めるような――、相手を疑い、前提を疑い、思い込みを疑い、真実を疑うような――、悲しくて、苦しくて、憂鬱になるような――それでいて、ただただ後味だけが苦い……そんな話だ。

しかし同時に、まぎれもない真実の話でもある。どうか背を向けず、目を背けず……最後のその時まで、しっかり見ていてほしい。

それが、先生……「この先」を選んだ、君の義務だ。

 

愁いを帯びた瞳で見つめる少女に対して、五条はいつもの不敵な笑み浮かべて答える。

 

「――大丈夫でしょ。だって僕、最強だから」

 

エデン条約編

 

「もう嫌っ!!こんなことやってらんない!分かんない!つまんない!めんどくさい!それもこれも、全部先生のせい!!」

 

「え~、僕のせい?そんなわけないよね~」

 

「もう、コハルちゃん。そんな無茶苦茶なことを言ったら、先生が困ってしまうでしょう?あくまで先生は私たちを助けるために来てくださってるんですし……そもそも勉強が分からないのも試験に落ちたのも、先生ではなくコハルちゃん自身のせいで――」

 

「うっ……!!わ、私は正義実現委員会の一員だから!それで、授業に出られないことが多くて……そう!そのせいなの!」

 

「それは他の正義実現委員会のメンバーも同じだ。でもここに来てるのはコハルだけ」

 

「……」

 

「なるほど。つまりアズサちゃんが言おうとしているのは、ただただコハルちゃんがおバカさんだからですよ、ということで合ってますか?」

 

「まあ、それも強ち間違っていない。仕方のないものは仕方ない、人生は往々にして虚しいものだ」

 

「やーい、コハルのおバカ~!」

 

「ああもう、うるさいなぁっ!?そんなこと言ったらあんたたちもみんな一緒じゃん!私がバカならここにいる全員バカでしょバーカ!!」

 

「あ、あはは……えっと、それはその……」

 

「何も間違ってないでしょ?バカだからここにいるんでしょ!?あんたも!あんたも!!あんたも!!!あんたもっ!!!!」

 

「ざんね~ん!僕はGTG(グレートティーチャー五条)なので入りませーん!」

 

「ムッキー!!」

 

「あう……コハルちゃん、ちょっと落ち着いて……。先生も煽らないでください……!」

 

五条を追いかけまわして大騒ぎになる教室を見て、ヒフミは頭を抱えた。なぜこんなことになったのか、話は数週間前に遡る。シャーレでいつもの事務作業に追われている五条に、一通の手紙が届けられた。それをアロナが、机で項垂れている五条へ教える。

 

『先生、またお手紙が届いています。差出人は……えぇっ、トリニティ総合学園の『ティーパーティー』です!』

 

「『ティーパーティー』って確か……ヒフミのいたトリニティの生徒会だっけ?」

 

アビドスで出会った阿慈谷ヒフミが、ティーパーティーの名をなんか言っていたなと思い出す。そんな五条にアロナが簡単にトリニティ総合学園とティーパーティーについて説明を始める。

 

『はい、そうです。キヴォトス三大学園の一角で、その規模はゲヘナと並ぶほどの大きさです。歴史と文化を重んじる超エリート校です。そしてティーパーティーは他の学校の生徒会と違って、生徒会長が3人いるのが特徴なんです』

 

「3人……?」

 

『はい、ティーパーティーは『パテル』『フィリウス』『サンクトゥス』の3つの派閥から選出された代表者である3名が生徒会長と、複数の行政官とで構成されている組織なんです。各生徒会長が一定期間ごとに最高意思決定者となる『ホスト』を交代で回して学園を運営しているんですよ。そんなところの生徒会からお手紙だなんて……先生、すごいです!』

 

「はっはっは、それほどでもあるけどね!」

 

『どうやら大事な用件で先生の手をお借りしたいとのことです。詳しい内容は直接お話しするとのことだそうです。どうしますか?』

 

「そんなの決まってる。行くよ、トリニティ!」

 

『はい!』

 

こうして五条はトリニティ総合学園へと向かった。

トリニティ自治区の街はまるで中世の欧風のようなきれいな街だった。その自治区の中にある一際大きな建物が、トリニティ総合学園だった。

五条を迎えに来た行政官の子に案内され、学園と街が望めるテラスでは2人の少女が座っていた。少女は立ち上がり優雅な仕草で頭を下げる。

 

「こんにちは、五条先生。こうしてお会いするのは初めまして、ですね。ティーパーティーのホスト、桐藤ナギサと申します」

 

「やあ、五条悟。シャーレのスーパー先生だよ。よろしく」

 

「そしてこちらは、同じくティーパーティーのメンバー、聖園ミカさんです。あらためまして、お初にお目にかかります。私たちがトリニティの生徒会、ティーパーティーです」

 

「へー、これが噂の先生かー。あんまり私たちと変わらない感じなんだね?なるほどー、ふーん……うん、私は結構良いと思う!!ナギちゃん的にはどう?」

 

「……ミカさん、初対面でそういった話はあまり礼儀がなっていませんよ。愛が溢れるのは結構ですが、時と場所は選びましょうね」

 

ミカは値踏みをするように五条の周りをぐるぐる見渡しながら、一人で納得したのかうんうんと頷いた。それを止めるナギサであった。

ナギサに注意されたミカは、手を合わせて五条に軽く謝るのだった。

 

「先生、ごめんね?まあとりあえず、これからよろしくってことで!」

 

「ははっ、よろしく!」

 

いつもの明るく笑顔で返すと、ミカとナギサが少し微笑ましそうに小さく笑う。

 

「トリニティの外の方が、このティーパーティーの場に招待されたのは、私の記憶では先生が初めてです」

 

「そりゃ光栄だね」

 

「普段は、トリニティの一般の生徒たちも感嘆には招待されない席でして……」

 

「あー、何それナギちゃんちょっといやらしい!恩着せがましい感じー!」

 

ミカがケラケラ笑いながらナギサを指さすと、ナギサは笑顔を崩さないまま静かにミカの方に顔を向ける。ナギサの気持ちを察したミカは、バツが悪そうに顔を伏せるのだった。

 

「あー……ごめん、大人しくしてるね。できるだけ」

 

「コホン……では、あらためて。こうして先生をご招待したのは、少々お願いしたいことがありまして」

 

「お願い、ねえ……いいよ」

 

「わおっ、先生即決すぎない!?見てよ、ナギちゃんビックリしてるよ」

 

話の内容を聞かずにあっけらかんとした口調で答える五条に、ミカは分かりやすい驚きを見せ、ナギサも驚きのあまり目を丸くしていた。

 

GTG(グレートティーチャー五条)はいつだって生徒思いのナイスガイだからね!」

 

「あはは!先生、本当に面白いね!」

 

「……分かりました。先生にお願いしたいことは……補習授業部の、顧問になっていただけませんか?」

 

「補習授業部?」

 

「はい。つまり、落第の危機に陥っている生徒たちを救っていただきたいのです。『部』という形ではありますが、今回は顧問というより『担任の先生』といった方が良いのかもしれませんね」

 

ナギサとミカによれば、トリニティ総合学園は、昔からキヴォトスにおいて「文武両道」を掲げる、歴史と伝統が息づく学園であるのだが、そんなエリート校において成績の振るわない生徒が4人も出てしまったとのこと。本来ならば、学園のことは学園で何とかするはずなのだが、今は“とある事情”でバタバタして手が離せなず困っていたらしい。そんな時、ミカが新聞で五条の活躍を目にしたのだ。だったら「シャーレ」に任せてみようと思い、手紙を出したとのこと。

 

「そういうわけで、『シャーレの先生』ならこの面倒ごとも任せられそうだなって!」

 

「アハハ、スパッと本音を言うね~」

 

「『面倒ごと』なんて言ってはいけませんよ、ミカさん」

 

「ま、まあでも、ある意味本当のことでもあるし……。それに、『先生』なんでしょ?」

 

五条の方を見て問いかけるミカの目は、先ほどまでの天真爛漫な少女とはどこか違うように感じられた。瞬きのような瞬間ではあったが、五条はその瞬間を見逃さずにいた。

 

「今の授業ってBDで学習する時代だし、学校の職員とか、教授ならまだしも、『先生』って概念は珍しいんだよね。先の道を生きると書いて『先生』……つまり、『導いてくれる役割」ってことだよね?

 尊敬の対象、あるいは生きる指針としてみんなに手を差し伸べ、導く……『補習授業部』の顧問として、これはぴったりだなって思って!」

 

先ほどまでの調子で喋るミカに、ナギサは少し頭を抱えながら口を出す。

 

「噂では、『尊敬』という言葉が合うかどうかについては、意見が割れているようですが……」

 

「あー、そうだったね。報告書によって全然違うっていうか……まあ、これは先生の名誉のために何も言わないでおくね」

 

「そんな!?僕のような誠実に手足が生えたような男に……!?」

 

仰々しい感じで驚く五条に苦笑するナギサとそれを見てクスクスと笑うミカ、そんな二人を見て五条はあることに気づく。

 

「そういえば……ティーパーティーのメンバーって3人って聞いてたけど、あとの一人はどこに?」

 

「「……」」

 

二人の顔は先ほどまでの様子と一転し、暗い表情になって黙り込んでしまう。重い空気の中でミカが口を開いた。

 

「セイアちゃんは今、トリニティにいないの。入院してるんだ……」

 

「本来であれば、今のホストはそのセイアさんだったのですが……そういった状況で不在のため、私がホストに就いているのです」

 

「――そっか、それは悪かったね」

 

「ううん、気にしないで。セイアちゃん、もともと身体が弱いから」

 

ナギサが一枚の封筒を五条に差し出す。

 

「こちらが今回の生徒たちの名簿です。ご確認ください」

 

「つまりトリニティのやっか――」

 

「その表現は愛が足りませんよ、ミカさん。こう言いましょうか、トリニティにおける『愛が必要な生徒たち』」

 

「まあ呼び方は何でもいいけどねー」

 

五条は封筒を開けて中の名簿に目を通す。すると、その中の一人を見て五条は「おっ」と声を漏らした。

 

「ん?何か気になる子でもいた、先生?」

 

「いや、別に」

 

「詳しい内容についてはまた追ってご連絡いたします。他に気になる点はございませんか?」

 

そう尋ねられた五条は少し考えて、今までずっと流していたあることを聞くことにした。

 

「エデン条約……って、何のこと?」

 

それを聞かれたナギサは静かに紅茶を置き、ミカは腕を組んで考える。

 

「うーん……それは、何て言えばいいのかなあ」

 

「その説明にはなかなか時間がかかってしまいますので、また後日お話ししますね。一応、それなりに内部機密ということもありますし……。それに、補習授業部の件とはそれほど関係のないことですから……」

 

「えー、いけずー……ま、いいや。僕からは特にないかな」

 

「承知しました。また何かあれば聞いてください。では準備が整い次第、先生にはトリニティ総合学園に派遣という形で来ていただくことに出来ればと。先生のご協力に感謝します。これで一安心です」

 

話が終わって椅子から立ち上がると、ナギサは五条に会釈をしてミカは笑いながら手を振る。

 

「じゃっ、またね先生。また会えるのかどうかわからないけどっ」

 

「そうですね。特に今は忙しい時期ですし、ティーパーティーの面々がこうしてまたすぐに集まれるとも限りませんから」

 

「ふふっ、やっぱり忙しいんだ?ま、でも先生のおかげでナギちゃんの顔も見られたし、良かった良かった」

 

「はい、私もですよ。ミカさん」

 

「ふふっ」

 

ナギサとミカの和やかな様子を見てホッコリする五条だったが、いつまでもこうしているわけにはいかないのでテラスを後にしようとする。

扉の前に立ったところで、ナギサが五条に最後の挨拶をする。

 

「では、これからよろしくお願いいたしますね、先生。私もティーパーティーのホストとして、先生をエスコートいたしますので」

 

「うん、よろしく」

 

五条も手を振ってテラスを出る。とりあえず五条のやるべきことは一つ。それは――、

 

「あの子いるかなー?」

 

そう呟きながら手渡された補習授業部の名簿にあった、見たことのある名前の生徒に会いに行くことにした。

最初見た時は驚いて声が出てしまった。まさか彼女が補習授業部の一員だとは夢にも思わなかったからである。

その生徒のいる教室の扉を勢いよく開けて、部屋にいる彼女に向かって満面の笑みを浮かべて声を掛けた。

 

「ヤッホー!久しぶりだねー、――ヒフミ」

 

「あ、あはは……お久しぶりです、先生」

 

そこにいたのは、かつてアビドス対策委員会と一緒にブラックマーケットで知り合い、ともに銀行強盗を行い、最後には覆面水着団のボスになったファウストこと、阿慈谷ヒフミだった。

 

「いやー、ビックリしたよ。まさかヒフミが補習授業部の部員だとは、ね……」

 

「あの、これはその、やむを得ない事情がありまして……」

 

「やむを得ない事情……まさか、覆面水着団のファウ――!」

 

「わ、わー!!わー!!」

 

五条が言い終える前に、ヒフミは慌てて大声を出して五条の言葉を止めた。目に涙を浮かべながら必死に止めようとするヒフミをからかうのが楽しい五条だったが、とりあえずヒフミが補習授業部に入った理由を聞いてあげることにした。

 

「さてそれじゃあ、ヒフミが補習授業部に入った理由を聞かせてもらおうか」

 

「あ、あうぅ……こうなったやむを得ない事情、というのは……。ペロロ様のゲリラ公演に参加するために、テストをサボってしまって……それで……」

 

「思った以上にロックな理由だね……」

 

「うぅ……そ、そんな引かないでくださいぃ……!ちゃんと試験の日程は確認していたはずなんですっ。何かの間違いと言いますか、手違いと言いますか……」

 

「……」

 

目隠しで隠れていても感じる冷ややかな視線の圧にヒフミはどんどん縮こまっていく。

 

「あうぅ……ご、ごめんなさい……」

 

「いや、僕に謝れても……どうしようもないからね」

 

「は、はい。えっと、それで……。その……ナギサ様に、先生のサポートを頼まれまして……」

 

ヒフミが言うには、ナギサから直々に呼び出されて、五条の手伝いと補習授業部の部長として補習授業部のみんなを引っ張っていくようにと頼まれたのだと言う。

前回のアビドスの事件で、ヒフミはナギサに大きな借りが出来ていたので断ることなぞ出来るはずもなく、ただ首を縦に振るしかできなかったらしい。

それを聞いた五条は神妙な面持ちで口を開く。

 

「補習授業部の部長って……なんかバカ代表みたいな感じがするくない?」

 

「ひ、ひどいですぅっ!まあ、私も薄々感じていましたけど……。ですが……補習授業部は、特殊な形で限定的に作られた部活ですし……。ぜ、全員が落第を免れたら、自然に部は無くなるはずです。な、なので、えっと……その時まで、よろしくお願いします。先生」

 

「ははっ、よろしくね、ヒフミ」

 

「こんな状況ではありますが……担当の方が先生でよかったです。先生と一緒だと安心できます」

 

ヒフミの顔を見るに、本当に安心したのだということが分かった。まあ、実際にこの状況で不安にならない方が無理だろう。五条を除いて――。

 

「あ、補習授業部のほかのメンバーには、まだ会われていないんですよね?」

 

「うん、そうだね。名簿には四人の名前が載っていたね」

 

「はい。とりあえず会いに行きましょうか、先生。まずはみんなで、どうすれば落第せずに済むかの計画を立てないと……」

 

張り切って向かうヒフミの後ろをついていく。

そうして、二人が向かった先は――、

 

「ここは……」

 

五条が顔を上げて扉の上には、「正義実現委員会 本部」と書かれていた。

 

「あ、あぅ……あんまり来たくはなかったのですが……」

 

ヒフミがノックをして、そーろっと扉を開ける。

 

「えっと、失礼します……どなたかいらっしゃいますか?」

 

部屋に入り見渡すと、少女が立っていたのを確認する。小柄な体躯に頭に翼の生えたその少女に、ヒフミは近づいていき挨拶をする。

 

「あっ、こ、こんにちは」

 

「……」

 

「え、えっと……」

 

「……何?」

 

「あ、あう……そ、その……」

 

「……」

 

何も言わずずっと睨んでくる少女にどうすればいいのか分からなくなったヒフミは、助けを求める目で五条の方に振り返る。

 

「あうぅ……せ、先生……」

 

「ただの人見知りのシャイガールでしょ。なに戸惑ってんのさ」

 

「……だ、誰が人見知りよ!?た、ただ単純に知らない相手だったから、警戒してるだけなんだけど!?」

 

「だーかーらー、それを人見知りっていうんでしょ」

 

五条の正論パンチで殴られた少女は、何も言い返せず五条達がここに来た理由を聞こうとする。

 

「うっ……。そ、それで、正義実現委員会に何の用?」

 

「え、えっと……探してる方がいまして……」

 

ヒフミが言うと、少女は物凄い剣幕で怒りだした。

 

「はぁ!?正義実現委員会に人探しを依頼しようってこと?私たちのこと、ボランティア団体か何かだと勘違いしてるわけ?そんなに暇じゃないんだけど?」

 

「いえ、えっと、ここに閉じ込められてるって聞いて……」

 

少女に詰め寄られたヒフミが慌てて説明すると、少女は睨みながら首を傾げる。 

 

「……はぁ?」

 

「ですから、えっとその、良くないことをした方がここに……」

 

「え、それってもしかして……?」

 

少女が止まったその時、部屋の奥から一人の少女が現れる。膝まで届く長い髪を揺らして、奥ゆかしい仕草で部屋から出てくるその姿はまさしく生徒でありながら大人な女性に見間違えるかと思うものだった。

 

「こんにちは。もしかして、私のことをお探しでしたか?」

 

「「――!?」」

 

「ほー」

 

にこやかな笑顔でこちらに尋ねる長髪の少女を見て、ヒフミと正義実現委員会の少女が驚いて固まる。五条はその横で面白そうな顔で声を漏らした。

なぜなら、その長髪の少女の姿は水着姿だった。いや、正確に言うにはスクール水着を着用し、靴下とローファーという奇抜な組み合わせを着用していたのだった。しかし、彼女は何の恥じらいもなく、これが自然であるかのような立ち振る舞いを見せていた。

正義実現委員会の少女は驚きを隠せないまま、水着姿の少女を指さしていた。

 

「え、は、何で!?あ、あんたどうやって牢屋から出てきたの!?ちゃんとカギ閉めたのに!?」

 

「いえ、開いてましたよ?私のことを話されているような声が聞こえたので、こちらに来てみました。何かご用でしたか?」

 

水着姿の少女は五条に気が付くと、優雅な佇まいで礼をする。

 

「あら。大人の方、ということは……先生、ですね。あらためまして、こんにちは。なるほど、もしかして補習授業部の?」

 

「おっ!ということは、君が――」

 

「ま、待って!!その格好で出歩かないでよ!?あんたも普通に話してんじゃないわよ!?」

 

正義実現委員会の少女が二人の間に入り、ギャーギャーと騒いでいるのを見たヒフミが名簿を取り出して、長髪の少女を確認する。

浦和ハナコ、補習授業部の2年生。水着姿で学校を徘徊し、その現場を正義実現委員会に捕らえられる。現在、正義実現委員会の元で監禁中だったはずなのだが、見ての通り自由に闊歩している。

ハナコは訝しげな顔で、五条との間に立った少女に問いかける。

 

「……?何か問題でもありましたか、下江さん?」

 

「あるに決まってるでしょ!?何で学校の中を水着で徘徊するの!?」

 

「ですが、学校の敷地内であるプールでは、皆さん普通に水着になられますよね?ここもあくまで学校の敷地内で……あ、もしかして下江さんは、プールでは水着を着ないタイプですか?」

 

「え、は?それってどういう……」

 

「そうでしたか、下江さんは全裸で泳ぐのがお好きなんですね。流石は正義実現委員会、そう言った分野まで網羅されているなんて――」

 

「ばっ、バカじゃないの!?着るに決まってるでしょ!?そ、そんなことするわけ……」

 

「それにしても裸こそが正義、とは……かなり前衛的ですね。あまり考えたことはありませんでしたが、なるほど。試してみるのもまた一興……」

 

「う、うるさいうるさいっ!!バーカ!!この公共破廉恥罪!!」

 

二人の言い争い、というか、ハナコの話術に翻弄される少女たちを尻目にして暢気に眺めている五条の元へ、ヒフミがやってきてこっそりと耳打ちをする。

 

「先生、止めてください……」

 

「え~、面倒だから嫌だー」

 

「そ、そんなぁ……」

 

相変わらずわがままな五条に困るヒフミがどうしようかと考えていると、ついに正義実現委員会の少女がハナコの背中を押して奥の牢屋に無理やり戻そうとする。

 

「いいから、早く戻りなさいよ!ほらっ!!」

 

「あらあら、すみません。どうやら色々と混乱している状況のようですので、また後ほどお会いしましょう」

 

ハナコは五条とヒフミに向けて手を振りながら笑顔で部屋の奥へと戻っていった。あまりの状況で呆然としていたヒフミは、扉を閉め息を荒げている少女に恐る恐る声を掛ける。

 

「え、えっと……。この状況は一体……ハナコさんは、この後どうなるんですか?」

 

「そんなの当然死刑よ!エッチなのはダメ!死罪!」

 

「そ、そんなはずはないと思いますが……」

 

あまりの暴論を言う少女に、ヒフミはやんわりと否定しようとするが――、

 

「水着で学校を歩き回ったんだよ!?真っ昼間から!生徒がたくさんいる、広場のど真ん中で!!」

 

少女の物凄い剣幕でまくしたてる様子に圧されるのだった。

 

「で、ですが、校内では校則で決められた服を着るものですよね?ですからきちんと学校指定の水着を――」

 

「どうしてそこで水着なの!?制服を着ればいいでしょ!?っていうか話に入って来るな!」

 

「あ、あうぅ……」

 

結局、少女の勢いに負けたヒフミが小さくなって五条の元へと戻ってきた。

 

「おかえりー、いやーヒフミはレスバ弱いね!」

 

「うぅ……今はちょっとハナコさんとお会いするのは難しそうなので……。一旦、次のメンバーに会いに行きましょうか……」

 

五条の言葉に何も言い返せないヒフミはさらに小さくなる。しかし、ここで縮こまっていても仕方がないので、気持ちを切り替えて次のメンバーの元に向かうべく、名簿を取り出した。

 

「えっと……。もう一人は白洲アズサさん」

 

その時、五条達が入ってきた扉が開く。ヒフミが驚いて五条の後ろに隠れると、部屋に入ってきたのは――、

 

「ただいま戻りました」

 

正義実現委員会の副委員長、羽川ハスミを筆頭とした正義実現委員会の面々だった。

 

「任務完了です!現行犯で白洲アズサさんを確保しました!」

 

「はっ、はいぃっ!?」

 

ハスミの後ろにいた少女の言葉を聞いて、ヒフミは驚きの声を上げた。

 

「あっ、ハスミ先輩、マシロ」

 

「コハルさん、お疲れ様です。あれ……?」

 

「五条先生?」

 

マシロとハスミが五条に気づいて驚きの顔を見せる。二人が驚いているのを見た五条は、二人に笑顔で手を振って挨拶をする。

 

「ハスミー、久しぶりー!」

 

「ええ、先生もお元気そうで何より」

 

「それよりさ、その後ろにいるのが……白洲アズサで間違いない?」

 

五条が指さす先にいたのは、後ろ手に手錠をかけられ、さらにロープで体をまかれたガスマスクの少女が連行されていた。

シューシューとガスマスクが音を立てるその無機質さに、ヒフミは何も言えなくなっていた。

 

「――惜しかった。弾丸さえ足りてれば、もう少し道連れに出来たのに。もういい、好きにして。ただ、拷問に耐える訓練は受けてるから、私の口を割るのはそう簡単じゃない」

 

補習授業部の2年生、白洲アズサ。校内の暴力行為の疑いで正義実現委員会から追われていたところ、教材用催涙弾の弾薬倉庫を占拠。約1トンの催涙弾を爆破させ、3時間にわたる抵抗の末に逮捕。逮捕の寸前まで、各種ブービートラップやIED(即席爆破装置)を用いて激しく抵抗。被害多数。

 

「はい。そうですが……」

 

「あの子、僕が貰ってもいい?」

 

「……はい?」

 

五条の突然の言葉に、啞然とするハスミ。突然捕まえた逮捕者をよこせと言う五条に教室中の空気がピリつく。そんな空気を察したヒフミが慌てて、ハスミの前に立って説明を入れる。

 

「す、すいませーん!私が事情を説明しますぅっ!」

 

ヒフミの必死の説明によって事情を理解したハスミは頷いた後、五条の方に向き直る。

 

「――なるほど、お話は理解しました。先生が、補習授業部の担任になられると」

 

「そういうこと」

 

「……残念です、できればお手伝いをしたかったのですが」

 

「あの二人、連れて行ってもいいかな?」

 

五条がそう尋ねると、先ほどの少女が走ってハスミの前に立ち、大きな声で拒絶する。

 

「はぁ!?ダメに決まってるでしょ!?絶対ダメ、凶悪犯なのよ!?」

 

ガルルと犬の威嚇のように低く唸る少女に対して、ハスミは諭すように窘める。

 

「コハル。先生はシャーレの方として、ティーパーティーからの依頼を受けてこちらにいらっしゃったのです。規定上は何の問題もありません。補習授業部の顧問、担任の先生になるのですから」

 

「え、えぇ……まあでも、先輩がそう言うなら……」

 

窘められその場を引くが、今度は上からの態度で五条達を鼻で笑った。

 

「ふ、ふん!まあでも良いザマよ!こっちはこんな凶悪犯たちと一緒にしなくて済むし、そもそも補習授業部だなんて!恥ずかしい!あははっ!良いんじゃない、悪党と変態の組み合わせ!そこに『バカ』の称号だなんて、私なら一緒にいるだけで羞恥心で死んじゃいそう!」

 

「……ふぅ、コハル……」

 

ゲラゲラ笑う少女にハスミは頭を抱えていた。ヒフミが高笑いする少女を見て、どう反応するか悩んでいたが――、

 

「そう言えば、補習授業部って全部で4人いたよなー。あれー、この名簿を見る限りー、最後の一人ってー!」

 

五条がわざとらしく名簿を読んで、ヒフミに手渡す。名簿を渡されたヒフミは驚き、五条の顔を二度見するが、五条は笑って「言ってやんな」のジェスチャーを見せる。

ヒフミは諦めて重いため息を吐いた後、覚悟を決めて顔を上げる。

 

「――その、非常に言いにくいのですが……最後の一人は……下江コハルさん、あなたです」

 

「………………え、私っ!?」

 

補習授業部の1年生、下江コハル。すでに3回連続で赤点をたたき出し、留年目前。

補足事項:成績が向上するまで、正義実現委員会には復帰できないものとする。

 

 

 

かくして、ここに補習授業部のメンバーは揃った。教室に集められた精鋭を今、五条が明るく迎え入れる。

 

「さて、今ここに補習授業部が揃いました。全員、拍手!」

 

教室に、五条だけの拍手がパチパチと音を立てる。

ヒフミはどう返せば良いのか分からず、苦笑だけしかできず、ハナコはニコニコと笑っているだけで、アズサはガスマスクを装着したままシューシューと音を出すだけ、コハルは目にいっぱいの涙を堪えて俯いていた。

 

「ちょっとちょっと、テンション低いよみんな!」

 

こうして、補習授業部のメンバーが集まった。

 

この時は誰も知らない。この落第寸前の少女たちに、ただの補習授業をするだけの部活動が大きな戦いの序章になるとは、五条悟でさえ思い得ないことだった。




ちなみに、みなさんは今回のイベント楽しみましたか?
自分も何とか全員をお迎えすることができた上に、欲しかったリオも引けて大変満足でした。
今回のストーリーもとても良いもので、ミカを褒め尽くしたい気持ちでいっぱいです!
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