シャーレの五条先生   作:未来跳躍

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呪術廻戦の続編が連載され、死滅回遊が1月から放送開始され、水着サオリを無事に天井で迎えて、バトスピで自分の好きな烈火デッキを組んだりと、色々と情報が流れ込んだ結果、リアル無量空処状態になっています。


コハルの秘密

合宿開始して初めての夜が明けた。

今日もお日柄も良く、爽やかな朝が来た。

補習授業部の寝室のカーテンを勢いよく開けるアズサが、元気な声で一日の最初の言葉を話す。

 

「おはよう!」

 

カーテンが開いた窓から朝日が差し込む。その光に当たったヒフミがもぞもぞと布団の中に隠れる。すでに朝の支度を終えたハナコがシャワー室から戻ってきた。

 

「おはようございます、アズサちゃん。朝から元気ですね♡」

 

「うん、一日の始まりだから」

 

そう言ってアズサはヒフミとコハルの布団を勢いよくめくっていく。

 

「さあ。早く起きて歯磨き、シャワー、それから着替え、順番にこなしていこう」

 

「あうぅ……アズサちゃん……10分……あと10分だけ……」

 

「ん……もう朝……?」

 

眠そうに小さくうずくまるヒフミとコハルに、アズサは2人を起こしにかかる。

 

「ヒフミ、コハル、起きて。そろそろ起きないとダメだ」

 

「んぅ……」

 

「ん……起きてるってばぁ……」

 

コハルは眠たい眼をこすりながらゆっくりと体を起こすが、ヒフミはまだ起きそうにない。

 

「ヒフミちゃんの方はもう少し時間がかかりそうですね。昨日はどうやら、遅くまで起きていたみたいですし……」

 

「……補習授業部の部長だから、心理的なプレッシャーもあるのかもしれない。もう少しだけ休ませておこう」

 

くあぁと、小さなあくびをしたコハルの意識が徐々に明確になっていく。

 

「ん……あれ、ここ……私、どうして……」

 

「おはよう、コハル。朝の支度を始めよう」

 

「……?ん、え……?」

 

まだ自分の状況を把握できていないコハルの手を握ったアズサが、彼女を引っ張って行く。

 

「シャワールームはこっち、来て」

 

「……え、なに、なんで……?」

 

「あらら、ふたりで仲良く洗いっこですか?」

 

部屋を出てシャワー室の方へ向かうアズサとコハルを、保護者のような顔でハナコは見送っていった。

 

「うわぁぁっ!?なっ、なんで!?ちょっ、脱がさないでっ!?ひゃっ、うえぇっ!?冷たっ……!?あっ、もうっ、ちょっと……!んっ、シャンプーが目に……!!」

 

シャワー室から聞こえるコハルの声にハナコは頬を染めながら静かに呟く。

 

「いいですねー、裸の付き合い♡」

 

そして、後から起きたヒフミも同じ目に遭わされることを、この時のヒフミはまだ知らない。

 

 

 

「あうぅ……」

 

「うぅ……」

 

恥ずかしそうに顔を伏せながら歩くヒフミとコハルを見て、アズサが2人に尋ねる。

 

「どうした、ふたりとも?」

 

「どうしたもこうしたもないでしょう!朝起きたらいきなりシャワー室で服を脱がせるなんて……!」

 

「あうぅ……」

 

「エッチなのはダメ!死刑!」

 

「……?」

 

顔を真っ赤にして怒るコハルと同じくらい顔を真っ赤にして手で顔を隠すヒフミだが、アズサはなぜ起こられているのか全く理解できなかった。

荒ぶるコハルをハナコが宥める。

 

「まあまあコハルちゃん、いいじゃないですか。お互いに服を脱ぎ心も体も裸になって打ち解ける。これも合宿の醍醐味でしょう♡」

 

「そ、そんなわけないでしょう!」

 

「ほらほら、もう食堂に着きますよ。みんなで合宿最初の朝ご飯を食べましょう」

 

ハナコがそう言って、食堂の扉に手を掛ける。

扉を開けた先に――、

 

「ヘイ、らっしゃい!!」

 

法被とねじり鉢巻きを身に着けた五条が、大きく野太い声で補習授業部たちを迎える。

 

「よく来てくれたね!今日は活きの良いもんが入ってるよ!」

 

「「「「……」」」」

 

あまりの状況に4人とも固まってしまった。それもそのはず、昨日の掃除ではトリニティの校舎らしく、綺麗にした食堂が大漁旗、壁掛けのメニュー、天井の角に置いてある小さなテレビなど、一晩で色々とカスタマイズさせられていた。そのあまりにも変わりように言葉も出なくなっていた。

 

「あの……先生……」

 

「へいっ、朝御膳四つ入りました!はい、よろこんでー!」

 

「まだ何も言ってませんけど!?勝手に進めるんですね……」

 

勝手に注文を受けて厨房に入る五条に何も言えなくなったヒフミたちは席に座って五条の調理を見ていた。

野菜を切り、魚をグリルに入れ、みそ汁を沸かし、土鍋から蒸気が溢れ出る。

そしてお皿とお椀に盛りつけてついに――、

 

「よーし、朝御膳お待ち!!」

 

見事な山盛りの生クリームとたくさんのメイプルシロップがかかったパンケーキが完成した。

 

「「なんでですか(なんでよ)!?」」

 

思わずヒフミとコハルのツッコミが重なる。

 

「和食作ってたのに、どうしてパンケーキになるんですか!?」

 

「さっきまでの味噌汁やらご飯はどこに行ったのよ!?」

 

「お客さん、文句を言うなら食べてからにしてください」

 

少し照れ臭そうに鼻の下を指でこすって腕を組みながら背中で語る五条に、コハルは額に青筋を浮かべる。

 

「ハナコとアズサも何とか言ってよ!?」

 

そう言って振り返った先には――、

 

「あらあら、美味しいですね」

 

「うん、先生は料理もできるんだな」

 

何も言わずにパンケーキを堪能しているハナコとアズサにコハルはズッコケた。

 

「どうしたんだ、ヒフミ、コハル?早く食べないのか?」

 

「そうですよ、このパンケーキ絶品ですよ♡」

 

「コハルちゃん、言いたいことは分かりますけど、多分これ以上言っても変わりませんし……私達も食べましょう」

 

「うぅ……なんか納得できない」

 

ヒフミの言う通りに席に座って、4人は五条の作ったパンケーキを食べるのだった。色々と疑問と不満が残るが、パンケーキの味は絶品だった。

そして彼女たちは補習授業の教室に向かった。

 

 

 

教室に着いた補習授業部はそれぞれの席に座る。部長であるヒフミは補習授業を始める前に説明するために教壇の前に立つ。

 

「お待たせしました、ではそろそろ始めましょうか?」

 

「は~い♡」

 

「うん」

 

「朝から疲れた……」

 

元気な挨拶を返すハナコとアズサに対して、コハルはもう力なく机に突っ伏していた。そしてもう一人、あの男はというと――、

 

「ははっ、ヒフミの髪の毛跳ねてる~」

 

ヒフミの横で彼女の跳ねた髪を笑いながら指でいじっていた。

 

「あの、先生、やめてください……」

 

ヒフミに言われて、五条は「ちぇ~」と少し不満げな顔をしつつ、ヒフミの髪をいじる手を止めて椅子に座る。ヒフミが改めて軽い咳ばらいをして、気持ちを切り替えて三人に向けて口を開く。

 

「みなさん、こちらをご注目ください!」

 

一同が何事かと言いたげな顔でヒフミに目を遣ると、ヒフミは一斉に視線が向くことに緊張しつつも続けて話す。

 

「……今日は補習授業部の合宿、その大切な初日です!私たちは大変な状態で、ともすれば慌ててしまいがちな状況ではありますが……。難しく考える必要はありません!一週間後の第二次特別学力試験に合格する、それだけです!」

 

「そうだね」

 

「ですね」

 

「……」

 

アズサとハナコは頷き、コハルは顔を下に向けて沈黙していた。

 

「そこで……今から、模擬試験を行います!」

 

ヒフミの高らかな言葉に、三人は困惑したようで横を見渡し、首を傾げる。

 

「模擬試験……?」

 

「……なるほど?」

 

「きゅ、急に試験!?なんで!?」

 

「闇雲に勉強しても、あまり効率が良いとは言えません。着実に目標達成のためには、何が出来て何が出来ないのか、今どのくらいの立ち位置なのか……まずそれを把握する必要があります!というわけで、昨晩こちらを準備してました!」

 

すると謎にヘッドフォンを身に着けた五条がそそくさとプリントをヒフミに手渡す。そしてスケッチブックをヒフミの方に広げて謎のジェスチャーを始める。

スケッチブックには『ファンサして!』と大きく書いてあった。それを見たヒフミが驚く。

 

「う、うえぇ~!!せ、先生~、そんなの聞いてません……!」

 

「いいから、早く」

 

右腕を大きく回し、左手を口元に当て小声で話しかける五条に急かされたヒフミはパニックになりながら、顔をキョロキョロする。

 

「えと、えっと……ハイ♡」

 

顔の横に両手のピースを添えた固い笑顔を見せるヒフミ。

それに三人の反応は――、

 

「「「……」」」

 

好感触は掴めなかった。アズサは何をしているんだろうと純粋な目でヒフミを見つめ、ハナコは少し苦笑を見せて何も言わず、コハルは冷めた目でヒフミを見下していた。

ついにヒフミの心は砕けて膝から崩れ落ちた。

 

「あうぅ……」

 

暗いオーラを纏って小さくなるヒフミを見て、五条がプリントを手に取り教壇に上がる。

 

「はーい、これは過去のトリニティの試験問題を基に作った第二次特別学力試験を想定した模擬試験だよ。まあ、難しく考えずに気楽に受けてね」

 

そう言って、五条は手に持った模擬試験用紙を裏向きに配り始める。

 

「ヒフミー、何時までそこにいるのー?早く席に戻りなー」

 

「あうぅ……どうして私がこんな目に……」

 

もう諦めを悟ったヒフミは、シクシクと涙を流しながら席に戻り、試験用紙を受け取る。

 

「それじゃあ試験時間は60分、100点満点の60点で合格。準備はいい?」

 

四人は静かに頷く。それを見た五条は右腕を上げて声高らかに宣言する。

 

「では……試験、開始ぃぃっ!!」

 

補習授業部のみんなが試験用紙を表にして問題を解き始める。

 

「……」

 

アズサは表情帰ることなく黙々とペンを進める。

 

「あら、これは♡」

 

ハナコはある問題を見て、どこか嬉しそうに答えを書いていく。

 

「えーっと……どこかで見たことがあるような……ないような……」

 

コハルは頭を抱えて自分の知識の引き出しを探していた。

 

(みんな、頑張りましょう)

 

ヒフミは問題を解きつつ、他のみんなの心配をしていた。

 

「Z~Z~」

 

五条は椅子にもたれかかり、思い切り爆睡していた。

そして、試験終了のアラームが鳴る。

 

「……うん、もう終わった?」

 

五条が目隠しを上げて眠たい眼をこすりながら大きな欠伸をする。

 

「結局最後まで寝てたわね……」

 

そんな五条を見たコハルがボソッと悪態をつく。

 

「それじゃ僕は採点するから、少し待っててね」

 

そう言って、五条はテストの採点に教室を出る。

そしてすぐ教室に戻ってきた。

 

「終わったよ~」

 

((((早い……))))

 

正直採点に不安はあるが、文句を言うとまた面倒なことになるとわかってきたので、ヒフミは五条に結果の発表をお願いする。

 

「では先生、結果発表お願いします」

 

「結果はこれだー!」

 

第一次補習授業部模試

 

ハナコ―4点(不合格)

アズサ―33点(不合格)

コハル―15点(不合格)

ヒフミ―68点(合格)

 

「……そうか」

 

「え……?」

 

「あらまぁ」

 

上からアズサ、コハル、ハナコの順で黒板に書き出された結果に絶句する。

そんな3人の様子を見たヒフミが静かに口を開いた。

 

「これが今の私たちの現実です。このままだと、私たちの先に明るい未来はありません……」

 

顔を上げて立ち上がり声を大にして告げる。

 

「ここからあと一週間、みんなで60点を超えるためには、残りの時間を効率的に使っていかなければならないのです!そこで!まず、コハルちゃんとアズサちゃんがどちらも1年生用試験ですので……私とハナコちゃんが、お二人の勉強内容をお手伝いします!」

 

「えっ!?」

 

ヒフミの提案にコハルが驚きの声を上げる。ヒフミはハナコの方に向き直り、ハナコの目を見て尋ねる。

 

「最近何があったのか知らないのですが、1年生の時の試験では高得点だったんですよね?」

 

「あら……?えっと、まあそうですね……」

 

ハナコは少しヒフミの目を逸らすように小さく頷く。そんなハナコの手を取ったヒフミは、目を輝かせて優しく話す。

 

「実はその、1年生の時のハナコちゃんの答案を見つけてしまいまして……それでハナコちゃんについては後ほど、今の状況になってしまった原因をしっかり把握したうえで、私と先生と一緒に解決策を探しましょう!」

 

「え、ええ……ありがとうございます……」

 

「……」

 

ヒフミにニコッと笑って返すハナコを五条は静かに見ていた。

 

「今日から定期的に模試を行って、進捗具合も確認することができればと思います。これがおそらくは、今できるベストの選択……。頑張りましょう!きっと、頑張ればどうにか、みんなで合格できるはずです……!」

 

みんなを鼓舞するヒフミを見て、五条は嬉しそうに微笑む。彼女なりに特別学力試験を合格できるように頑張ろうとする姿を見て、心が弾む。

こういうひたむきに頑張る姿を見るのは良いものだと思う。

そしてそれは他の3人にも伝わっていた。

 

「……うん、了解。指示に従う」

 

「わ、分かった……」

 

「ヒフミちゃん、すごいですね。昨晩だけでこんなに準備を……」

 

ハナコが感心していると、ヒフミは両手を顔を横に振って照れ臭そうにする。

 

「いえいえ!違うんです!先生にも手伝ってもらいまして……」

 

「なるほど、先生が」

 

謙虚なヒフミとは違い、五条は腕を組み、胸を張って天狗の様に鼻高々になっていた。

 

「それだけではありません。何とご褒美も用意しちゃいました!」

 

「ん、ご褒美?」

 

初耳の言葉に五条が止まる。するとヒフミは教室の後ろに行き、ロッカーをゴソゴソと何かを探す。

 

「えっと……」

 

ロッカーから彼女の両腕いっぱいに抱えたものを机の上に並べる。

それは――、

 

「こちらです!良い成績を出せた方には、この『モモフレンズ』のグッズをプレゼントしちゃいます!」

 

机には独特なキャラクターの大小様々なぬいぐるみやキーホルダー、マスコットなどがたくさん山積みされていた。

 

「モモフレンズ……?」

 

「……なにそれ?」

 

ハナコとコハルは机に積まれたモモフレンズを怪訝な目で首を傾げた。

一方で、アズサはモモフレンズを見て目を見開く。

 

「あ、あれ……?最近流行りの、あの『モモフレンズ』ですが……もしかして、ご存じないですか……?」

 

思った反応を得られなかったヒフミが、慄きながらハナコ達3人に尋ねる。

 

「初めて見ましたね……いえ、どこかでちらっと見た気も……?」

 

「えぇっ!?」

 

コハルはペロロのぬいぐるみを持ち上げ、ある疑問を口にする。

 

「何これ、変なの……豚?それともカバ……?」

 

「ち、違います!ペロロ様は鳥です!見てください、この立派な羽!そして凛々しいくちばし!」

 

「……目が怖い。それに、名前もなんか卑猥だし……」

 

ペロロの顔をじっと見つめた感想を正直に口にする。それにヒフミが驚愕する。

 

「えぇっ……!?た、確かにそう仰る方も一部にはいますけど……よ、よく見てください。じっくり見てると何だか可愛く――」

 

「あ、思い出しました。そういえばヒフミちゃんのカバンや、スマホケースがそのキャラクターでしたね。たしかに、舌を出してよだれを垂らしながら、もう許して……っ!と泣き叫ぶキャラクターだったとか……?」

 

「え。いえっ。後半部分は色々と違いますよ!?」

 

ハナコのどこか官能的に聞こえる感想をヒフミが慌てて訂正しようとする。そしてコハルはぬいぐるみから目を背けて小さく言う。

 

「……わ、私はいらない」

 

「あうぅ……」

 

ハナコとコハルに拒否されるヒフミは寂しそうに肩を落とす。最後にアズサの方に目を遣ると、彼女は黙ってゆっくりとモモフレンズに近づいていく。

 

「……アズサちゃん?」

 

「……」

 

何も言わないアズサの口が開く。

 

「……か」

 

「……か?」

 

「可愛い……!!!」

 

「「「「え……!?」」」」

 

アズサの口から出た言葉に、ハナコとコハルとヒフミだけでなく、五条も思わず驚きの声が出た。

それまでに見たこともないほどの眩い笑顔で、アズサはモモフレンズのグッズを触るのだった。

 

「か、可愛すぎる……!何だこれは、この丸くてフワフワした生き物は……!!この目、表情が読めない……何を考えているのか全く分からない……!」

 

「あ、アズサちゃん……?」

 

興奮しているアズサにハナコがおそるおそる声を掛けようとする。しかし、ヒフミが割り込んでアズサに語り掛ける。

 

「さすがはアズサちゃん、ペロロ様の可愛さに気づいてくれたんですね!そうです!そういうところが可愛いんです!」

 

「うそぉ……!?」

 

「マジか……」

 

コハルが驚き、五条でさえ引いた顔で思わず言葉を漏らした。

そんな外野を余所に、アズサはヒフミにモモフレンズのキャラクターを指さして興奮気味に尋ねる。

 

「こ、こっちは?この長いのは?イモリ……いや、キリン?なんだか首に巻いたら暖かそうな……!」

 

「それはウェーブキャットさんです!いつもウェーブして踊っている猫なのですが、仰る通り最近ネックピローのグッズが……」

 

「これは?この小さいのは?」

 

「それはMr.ニコライさんです!いつも哲学的なことを言って不思議な目で見られてしまう方ですね!今回の褒美の一つとして、そのニコライさんが書いた『善悪の彼方』という本があるんですよ、それも初版!」

 

「すごい、すごい……!!これを貰えるのか?ま、まさか、選んでも良いのか?」

 

「はい!アズサちゃんが欲しいものを持っていってください!」

 

ヒフミとアズサの会話に入って来れない蚊帳の外の3人はその様子を見ていることしかできなかった。

 

「あらあら……」

 

「な、何なの……」

 

「わっかんねー」

 

ヒフミのモモフレンズ談義を終えたアズサは一呼吸置いた後、改めてヒフミの顔へと向き直る。

 

「……やむを得ない。全力を出すとしよう。良いモチベーション管理だ、ヒフミ。約束しよう。必ずや任務を果たして、あの不思議でふわふわした動物を手にしてみせる!」

 

「は、はいっ!ファイトです!えへ、えへへへへへ……」

 

新しいモモフレ仲間ができてうれしいのか、ヒフミの顔は口角が上がり過ぎてすごいニヤケ顔になっていた。

それを見ていた3人は――、

 

「あら、なんだかヒフミちゃんが楽しそうに、と言いますかお人形さんと同じような表情に……♡」

 

「女の子のする顔じゃないけどね」

 

「言い方……!」

 

ただ後ろで呆然と見ているだけだった。

ちなみにこの時の顔を五条に撮られているとは、ヒフミはまだ知らない。

 

 

 

その後も勉強は続き、アズサが横にいるコハルに質問をする。

 

「コハル、質問」

 

「うん、え?私?私に!?」

 

質問されるとは思っていなかったコハルが驚きを露わにする。アズサは眉一つ変えずにこくりと頷いた。

 

「そう、コハルに。今同じところを勉強しているはずだ。この問題なんだけど――」

 

「う、うん……」

 

コハルはアズサが指さす問題を覗き込む。

 

「……あ、これ知ってる!これはたしかこうやって、下のところと90度になるように、線を引いて……そうすると、この三角形とこの三角形が一緒。分かった?」

 

「……なるほど、そういうことか。助かった。これは確かに、正義実現委員会のエリートというのも頷ける」

 

「……!?そ、そうよ!エリートだもの!!」

 

嬉しさを隠しつつ胸を張るコハル。コハルは横目でアズサを見ながら、少し気恥しそうに喋る。

 

「……も、もし何かまた分からなかったら、私に聞いてもいいから。アズサはその、特別に」

 

「ありがとう、助かる」

 

そんな二人を見たハナコがどこか嬉しそうにする。

 

「あらあら……。流石は裸の付き合いをしただけはあると言いますか、もう深いところまで入った仲なのですね……♡」

 

「え、そうなの?」

 

五条が面白い玩具を得たような顔でハナコに尋ねる。そんな二人の会話にコハルが慌てて止めに入る。

 

「ちょっ、何言ってんの!?そういうアレじゃないから!?」

 

「うん?ハナコも身体を洗ってほしいのか?」

 

「やめなさい!!」

 

キャーキャーと騒ぐコハルとなぜ怒られているのか理解できていないアズサの二人を、五条とハナコが楽しそうに眺めている。そんな様子にヒフミは力なくため息をつくのだった。

 

「あ、コハル。もう一つ聞きたい」

 

勉強を再開していた中、アズサがまたコハルに質問する。

 

「ん?この問題は、えっと……」

 

「コハルも知らない問題か?」

 

「うーんと、これ、確か参考書で見たような……。ちょ、ちょっと待って!参考書持ってきてたはず……」

 

机の横に置いてあるカバンに手を伸ばして中を探る。

 

「あ、あった!これよ、これ」

 

「その参考書に載ってるのか?」

 

「うん、この参考書――」

 

カバンから取り出した参考書を机の上に引っ張り出す。

しかし――、

 

「……あれ?」

 

机の上に置かれたのは参考書ではなく――、

 

「エッチな本ですねぇ」

 

「エッチな本だね」

 

ハナコと五条の言う通り、いわゆる「エロ本」と呼ばれるものだった。

 

「うわあぁぁぁっ!?な、なんで!?」

 

慌てて本を隠すコハルだったが、時すでに遅し。

 

「コハルちゃん、それエッチな本ですよね?まあある意味参考書かもしれませんが。隠しても無駄です、『R18』ってバッチリ書いてありましたよ」

 

「ち、違う!見間違い!とにかく違うから!絶対に違う!!」

 

「いや、確実にエロ本じゃん。コハルも思春期なんだねー」

 

「ちがっ、違うもん!」

 

「いいえ、私の目に間違いはありません。それはキヴォトスでもなかなか見ることができないレベルの内容とお見受けしました。どうしてそのような本を持ってるのですか?確か校則でも禁止されていたと思いますが……?」

 

「い、いや、そのっ……これはホントに私のじゃなくて、えっと……」

 

しどろもどろに否定するコハルをハナコが詰め寄る。

 

「でもそれ、コハルちゃんのカバンから出てきましたよね?それを合宿所まで持ってくるなんて……お気に入りなのですか?そうですか、あの真面目なコハルちゃんが、エッチな本を……いえ。なるほど、そうですね。考えてみたらそんなに変な事でもありませんね?予行演習もバッチリ……つまり、合宿のために必要なものなんですよね、コハルちゃん♡」

 

「そ、その、ハナコちゃん……その辺りで……」

 

ヒフミがハナコを止めようとしたその時――、

 

「こっ、これは違うんだってばあぁぁぁぁっ!!」

 

コハルの大きな叫びが教室に響いた。

そしてコハルはその場で泣き始めてしまった。ハナコはコハルに頭を下げて謝罪する。

 

「やり過ぎてしまったかもしれませんね、本当にごめんなさい。お話が合うかと思って、つい……」

 

「コハルちゃん、ハナコちゃんもこうして謝っているので許してあげてください」

 

泣きじゃくるコハルはヒフミに言われて「うん」と小さく頷いた。

それからヒフミがコハルに事情を伺った。

 

「えっと、コハルちゃん……。その、正義実現委員会として活動中に差し押さえた品を、つい入れたままにしてしまった……そういうことでいいんですよね?」

 

「……うん。私、押収品の管理とか、してたから……これは、その時のやつで……」

 

「だったら、早く返さないとまずいんじゃない?」

 

五条の疑問に、コハルは小さな声で答える。

 

「た、確かに……ずっと忘れてたけど……」

 

「数が合わなくて騒ぎになる前に、返しに行った方が良いかもしれませんね……」

 

ヒフミの言う通り、押収品の数に間違いがあると大問題になる。ハナコがあることを思いつく。

 

「今のうちにこっそり行って、バレないように正義実現委員会のところに戻してくれば大丈夫じゃないですか?」

 

「え、今?」

 

今はもう下校時間も過ぎているので学校に一般生徒はいない。しかし、正義実現委員会は自治区のパトロールのために昼夜問わずに働いているので、正義実現委員会の部屋は開いてはいる。

けれども一人でこっそり返しに行くのが怖いのかコハルが悩んでいると、ハナコがある提案をする。

 

「だったら先生と一緒に行くのはどうでしょう?」

 

「え、僕?」

 

突然の事に自分を指さしながらキョトンとする五条。コハルも首を傾げていると、ハナコが説明する。

 

「先生が一緒であれば、万が一ハスミさんあたりにバレたとしてもそこまで怒られないでしょうし……」

 

「う、うーん……」

 

「ねえ、僕まだ行くって言ってないんだけど――」

 

「大人である先生なら、コハルちゃんのために付いて来てくれると言ってますし……」

 

「あれ、僕の意見無視?」

 

「というわけでお願いしますね、先生♡」

 

「えー……」

 

ハナコの強行で五条はコハルと共に正義実現委員会まで行くことが決定した。

 

 

空は日が暮れ始め、少し暗くなり始めていた。

五条の前を歩いていたコハルは立ち止まり、後ろに振り返る。

 

「……その、い、行っておくけど、こればっかりは本当に間違いだから!」

 

「――?」

 

「いつもはちゃんと隠……じゃなくて、あんまり持ち歩いたりしないし……」

 

「――ふふっ、バレないように、うまく隠さないとね」

 

五条がニヤニヤと笑いながら優しく諭すように、コハルの横を通っていく。その言葉を聞いたコハルが驚愕の表情を見せて、慌てて五条の方に振り返る。

 

「な、なに言ってるの!?それ、バレなきゃ持ってても良いって言ってるのと同じじゃん!?せ、先生なんでしょ!?何考えてるの!?エッチなのはダメ!死刑!」

 

「その理論だと、コハルも死刑じゃない?」

 

「え、や、ちがっ……!?わ、私は、その……こ、これについては間違いだから!だからノーカン!!」

 

「じゃあ、そういうことにしてあげる」

 

子供っぽくも大人っぽくも見える余裕の笑みを浮かべる五条に、コハルは顔を赤くする。

 

「……!?なっ、何それ!大人の余裕ってわけ!?」

 

「別に無理に縛られる必要なくない」

 

「え……?」

 

「コハルはコハルだから」

 

「……。分かったような、分からないような……」

 

正直、目の前の男は未だによく分かっていない。いつも軽薄で、我が儘で、子供っぽいくせにどこか俯瞰して物事を見ているところがあるつかみどころのない男だけど――、

 

「うん、でも……。先生が私のことを考えてくれてるってことは、少しわかった……」

 

コハルは少しは五条を受け入れる。コハルは少しの間黙っていたが、顔を上げて声を上げる。

 

「……。じゃ、じゃあっ!お返しに、一つ私の秘密を教えてあげる!」

 

「秘密?」

 

コハルはとてとてと近づいて五条の耳元に顔を近づけようとする。身長差があるので五条がしゃがむとコハルは五条の耳元に近づきひそひそと話し始める。

 

「実は、私……補習授業部が上手く回っているかを監視するための、スパイなの!」

 

「……スパイ?」

 

五条が怪訝そうな顔でコハルを見るのだが、コハルは胸を張って答える。

 

「つまり、秘密のミッションを遂行中の身ってこと。だから今は私がバカみたいに見えているかもしれないけど、これも全部フェイクってわけ!」

 

「ミッション……誰からの指示で……?」

 

五条が聞くと、コハルは目を泳がしながら答えようとする。

 

「う、えっと……だ、誰って、その……。んと……は、ハスミ先輩!そう!ハスミ先輩はトリニティの中でもすっごく強くて、正義実現委員会の副委員長だし!」

 

コハルは誇らしく答えているうちに、正義実現委員会の大事な人を忘れていることに気づく。

 

「あ、あと、そう!つ、ツルギ委員長だっているんだから!」

 

「ツルギって、正義実現委員会の委員長?会ったことないな……どんな人なの?」

 

正義実現委員会の委員長の名前を聞いた五条は、興味津々にツルギのことを聞く。

 

「つ、ツルギ委員長はその、えっと、委員長だし……そう、何でもできるの!ぶ、文武両道……?だから!多分!」

 

「えらく曖昧だなあ」

 

「しょ、しょうがないでしょ。何回しかあったことないんだから……と、とにかくすごいの!だから、そういうこと。私は別に、本当に勉強できなくて補習授業部に入ったわけじゃないってこと、覚えといて!私はスパイとして大事な任務を任されている、エリートなんだから!」

 

「へえ」

 

「ふふんっ」

 

「でもこれ、教えちゃって大丈夫な事なの?」

 

五条の直球の質問がコハルにぶつけられる。慌てふためくコハルは少し涙目になりながら五条に縋りつく。

 

「せ、先生が生徒の秘密をやたらに言いふらしたりしないでしょ!?しないよね!?」

 

「分かった分かった、しないって……」

 

「じゃ、じゃあ大丈夫!」

 

そのまま正義実現委員会の押収品保管庫まで行き、コハルは押収品をこっそりと元に戻すのだった。

 

「……うん、これで良し」

 

押収品保管庫を閉めたコハルが安堵の声を漏らした。ここまで誰にも出会うことなく辿り着けたのは幸運だった。

あとはこのまま合宿所に帰るだけである。

 

「とりあえずひと安心――」

 

そう言ったその時――、

 

「……コハル?」

 

「は、ハスミ先輩!?」

 

ハスミとバッタリ遭遇してしまった。いるはずのないコハルと五条に驚きを隠せないハスミはキョトンとした顔で2人を見ていた。

 

「それに、先生まで……?確か合宿で別館にいると聞いたのですが、どうかしましたか?成績が良くなるまで、ここへは出入り禁止になっているはずですが……」

 

ハスミのコハルを睨む目が鋭くなる。

 

「そ、その、違うんです、その、えっと……」

 

ハスミの圧にコハルが挙動不審になっていた時、五条がコハルの肩に手を置いて口を開いた。

 

「補習授業に使う参考書が向こうで用意されてなくてさー。するとコハルがここに参考書が置いてあるってことを思い出してくれて、それじゃあいっちょ行くか!となったから、コハルに案内を頼んだんだよ」

 

「せ、先生……」

 

「そうだよね、コハル?」

 

五条が顔をコハルに向けると、コハルは「はい」と頷いた。

それを見ていたハスミは、小さなため息とともに肩をすかして微笑む。

 

「そういうことでしたら、仕方ありませんね」

 

「は、はい……」

 

「ですが、ある意味ちょうど良かったです。コハルにあらためて伝えておきたいこともありましたし……」

 

「え?わ、私ですか……?」

 

ハスミからの言葉に戸惑うコハル。ハスミは五条の方に向き直り、五条に軽く頭を下げてお願いする。

 

「先生、申し訳ないのですが少し席を外していただけますでしょうか?正義実現委員会としてお話ししたいこと、言いますか……」

 

「うん、いいよ」

 

「……すみません、ありがとうございます」

 

とりあえず五条は隣の部屋に移動して待つことにした。

部屋の椅子に座りのんびりとくつろいでいると、ハスミとコハルの会話が聞こえてきた。

常人なら聞こえるかどうかの声だが、五条悟の耳にはバッチリと2人の会話が聞こえていた。

そして話を終えたコハルが、扉を開けて五条のいる部屋に入ってきた。

 

「お、お待たせ……先生?」

 

「おっ、終わった?」

 

「う、うん……」

 

「それじゃあ、帰ろっか」

 

そう言って、五条とコハルは合宿所まで帰る。本校舎を出た時にはすっかり暗くなっていた。

 

「さてと、今日の晩御飯も僕が腕によりをかけて作ろうかな!」

 

「またパンケーキじゃないでしょうね」

 

そんな他愛ない会話をしながら、2人は帰路につく。こうして補習授業の1日目は終わっていくのだった。




じゅじゅさんぽミニ

五条「コハル、ちょっといい?」

コハル「どうしたの、先生?」

五条「しー!ここではみんなに聞かれる。実はコハルに大事な話があるんだ」

コハル「え……!?な、なにっ!?」

五条「実はこれを」(1枚の封筒を手渡す)

コハル「こ、これって……」

五条「あとで一人の時に読んでね。くれぐれも誰もいないときに開けるんだ、いいね」

コハル「わ、分かった……」

五条「それじゃ」

コハル「こ、これってもしかして……噂のラブレ――」

コハル「だ、ダメよ!生徒と先生の間でそんな関係になるなんて……認められないんだから!」

コハル「で、でも……先生がどうしてもって言うなら、仕方なく……」(そう言いながら嬉しそうに手紙を開く)

手紙には大きく『チンコ』の文字と可愛らしいぞうさんが描かれていた。

コハル「…………せ、先生ーッ!!エッチなのはダメ!死刑!」



五条「あー、おもしろ」
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