4周年の時にブルアカに出会い、もう1年が経過したことを嬉しく思います。
死滅回遊のアニメも始まって呪術廻戦もブルアカも盛り上がっていくでしょうね。
ミカとの密会を終えた五条はいつものように元気なテンションで教室に入る。
五条が教室にやってきたことに補習授業部のみんなが彼へと目を向ける。
「お疲れサマンサー!」
「あ、先生!どこに行ってたんですか?」
「ひ・み・つ♡」
人差し指を口元に当てて可愛らしく話す大人にヒフミが呆れたように引き笑いを見せる。
そこであることを思い返したヒフミは、急いで用紙を見せながら話し出す。
「――ところで見てください!こちら、ちょうど先程受けた模試の結果です!」
「どれどれ……」
手渡された答案用紙に目を配ると、その結果は以下の通りだった。
第2次補習授業部模試、結果――
ハナコ―8点
アズサ―58点
コハル―49点
ヒフミ―64点
「ほほう!」
思わず感服の声を上げた。それを見たヒフミもどこか嬉しそうな顔を見せる。
「……紙一重の差だった」
「はい!今回は本当に紙一重でした!アズサちゃん、すっごく惜しかったです……!」
最初の試験と同じように悔しがるアズサだったが、その結果は全く違う。アズサの成績がかなり上達している。
コハルもまだまだ合格点には届いていないが、最初のころに比べると成績は上がっている。
「み、見た!?ヒフミ、私も結構上がったよ!?」
「はい、しかと見ました!コハルちゃん、前回は15点だったのに急に49点まで……伸びしろは一番です、すごいです!」
「ふっ、ふふーん!言ったじゃない、本当の実力は隠してんたんだって」
「すごいねー、さすが僕!」
胸を張るコハルを見て、五条はキリっと決め顔を決める。
そうして皆が賑わってる中、ただ一人それを離れたところで静かに見ていた者がいた。ヒフミが少し気まずそうに彼女へ声をかける。
「そして、えっと……は、ハナコちゃんは……」
「あら?ヒフミちゃん、どうしてそんなに声量が下がってしまうのですか?最初の試験が2点、次の試験が4点、今回は8点ですよ?これは数列として考えたら、あと3回受ければきっと合格圏内に届くはずです♪」
「そ、そう考えたらそうかもしれませんが……――」
「まあ、みんな頑張ったから、今晩は僕が腕によりをかけて頑張ろうかな」
「先生はもう厨房に立たないで!今朝も大変だったんだから!!」
「え~」
今朝のホールケーキ事件のことを思い出したコハルが五条に詰め寄る。ギャーギャーと騒がしくなる教室でヒフミは模試の結果を見直す。
「うん!この調子でしたら、思ったより早く目標に届くかもしれません……!」
「必ずや任務を成功させて、あの可愛いやつを受け取ってみせる。それが、私がここにいる理由であり戦う目的だ」
横から声をかけるアズサに驚きの声を上げる。
「あ、アズサちゃん!?私たちがここにいる理由は試験と勉強であって、目的は落第を免れることですよ!?いつの間に変わって……!?」
「そんなこともあったな。ついでにそれもやっておこう」
「ついで!?ついでなんです!?かあうぅ……も、モモフレンズファンとしては嬉しくもあるのですが……」
モモフレンズと補習授業部の間に揺れるヒフミだったが、その思考を止めるように来客用のベルが鳴った。
「あれ……?」
「どなたかいらっしゃったみたいですね?」
「そうですね……この合宿所に、どんな用事で――」
この合宿所に来客が来るとは聞かされていないので、誰だろうと首を傾げていると入口の方から声が聞こえてくる。
「し、失礼いたします……!」
「あら、この声は……」
ハナコが声の主に心当たりがありそうな感じになった横で、アズサが腕を組んで口を開いた。
「侵入者か。大丈夫、準備はできてる」
「アズサちゃん、準備って……?」
ヒフミが恐る恐る尋ねると、爆発音が合宿所に響いた。
「きゃあっ!?」
「ブービートラップ。誰かの侵入を感知したら起動するようにしてある」
「アズサちゃん!?」
音を聞いただけでも侵入者を捕らえるものではなく、侵入者を撃退するものであることがわかる。ヒフミがアズサの肩を掴んで驚きの声を上げていると、奥から客人の声が聞こえてくる。
「こ、これは一体……?え、あ、こっちにも……!?きゃぁぁぁっっ!?」
「逃げても無駄だ。逃げる方向を予測して、その先にもちゃんと仕掛けてある」
「なるほど。考えてるね」
静かに解説するアズサに感心する五条の横でヒフミが2人を怒鳴りつける。
「先生っっ!!?!!?アズサちゃんっっ!!?!?」
場所は合宿所の入り口に移る来客の少女は煙が立ち込めるロビーの真ん中で座り込み咳払いをしていた。
「けほっ……こほっ……」
「だ、大丈夫ですか……!?け、怪我とかは……?」
慌てて駆け寄るヒフミを見た客人は手を合わせて会釈をする。
「きょ、今日も平和と、安寧が……けほっ、けほっ……あなたと共に、けほっ、ありますように……」
「傍から見ると言ってる本人がもっとも平和と安寧から遠いよね」
「先生は黙ってください!あれ、よく見たらその服装、シスターフッドの……?」
「あら、マリーちゃんじゃないですか?」
ハナコが客人の姿を見て声をかける。マリーもハナコの姿に気づく。
「あ、は、ハナコさん……」
「はい、お水」
マリーを教室に連れて休ませたところにコハルが水の入ったコップを差し出す。
「あ、ありがとうございます」
コップを受け取ったマリーは静かに水を飲んで落ち着くのだった。
「……ふぅ。びっくりしました、入った途端に何かが作動して……」
「アズサちゃん……」
ヒフミがアズサの手を掴んでマリーの前まで引っ張る。そこで手を離され、マリーの前に立ったアズサは気まずそうに少し目をそらすが、すぐに彼女に向き直り頭を下げて謝罪をする。
「ごめん、てっきり襲撃かと」
「え、えぇっと……?」
いきなり襲撃者扱いされたことに困惑するマリーだったが、ヒフミが手を叩いて話題を変える。
「と、ところでどうして、シスターフッドの方がこんなところに……?」
「あ、それはその……。こちらに補習授業部の方々がいらっしゃると聞きまして……ただ、ハナコさんがここにいらっしゃるとは存じておりませんでしたが……」
「……私も、成績が良くないので」
「そう……でしたか。はい……」
マリーの反応を見る限り、彼女は一年前のハナコの成績については知ってるのだろうと察した五条だったが、コハルがハナコにマリーとの関係について尋ねる。
「ハナコ、知り合いなの?」
「あはは……少しだけご縁があって、と言いますか。マリーちゃんは、私を訪ねて……というわけでもなさそうですね。補習授業部に、どういった用事で?」
「あ、はい。本日は、補習授業部の白洲アズサさんを訪ねてこちらに参りました。伺ったところ、ここにいらっしゃると聞きまして」
「私?」
マリーから名前が出たアズサが首を傾げる。今日ここで初めて出会った何の関係もないアズサをなぜマリーが訪ねてきたのか疑問を浮かべていると、マリーは小さく頷いた。
「はい。実は、先日アズサさんが助けてくださった生徒の方から、感謝をお伝えしたいとのことでして。諸事情がありまして、こうして代わりに」
「……?」
「感謝……?」
何のことか分からず補習授業部の全員は顔を見合わせる。当の本人であるアズサも分かっていなかった。
「クラスメイトの方々から、いじめを受けてしまっていた方がいらっしゃいまして……その日もどうやら突然、建物の裏手に呼び出されてしまったのだと聞きました」
「そ、そんなことが……!?」
「いやだねー。そういう陰険なの、人として恥ずかしくないのかね?」
「それはそうなんだけど……先生がそんなこと言うの、ものすごく違和感あるんだけど」
「ひどい!」
コハルの辛口に五条はわざとらしく泣いたふりをする。マリーが心配そうに見ているが、ヒフミが「気にしないでください」と言った。
「……まあ、あまり聞かない話ではありませんね。皆さん狡猾に、それに陰湿な形で行うせいで、あまり表には出てきにくい話ですが」
「はい。私たちも、その方から相談を受けてようやく知ったのですが……。そうして呼び出されてしまった日……そこを偶然通り過ぎたアズサさんが、彼女を助けてくださったとのことで」
「そ、そうなんだ?」
コハルが意外そうな目でアズサの方に顔を向ける。アズサもようやく思い出したのか、気怠そうに口を開く。
「……そういえば、そんなこともあったな。ただ、数にものを言わせて弱い対象を虐げる行為が目障りだっただけだ」
「そしてそのあとアズサさんに怒られた方が、正義実現委員会と連絡を取られて……どこで情報が歪曲されたのか分かりませんが、何やら正義実現委員会とアズサさんの間でそれなりの規模の戦闘に発展してしまったとか……」
それを聞いたコハルがアズサが正義実現委員会に連れられてきた時のことを思い返した。アズサが催涙弾の倉庫を占拠し、正義実現委員会を相手にトラップを駆使して、3時間以上戦い続けた挙句、弾薬が切れたアズサを正義実現委員会が取り押さえたのだった。
「ちょっと、それってあの時の!?」
「何がどうあれ、売られた喧嘩は買う。あの時も弾薬さえ切れてなければもっと長く戦えたし、あれ以上に道連れも増やせたのに」
悔しそうにするアズサを見て、そこはそうじゃないと心の中で突っ込むヒフミは「あうぅ……」と漏らした。
「それで、その方が報告も兼ねて私たちの元を訪れてくださり、アズサさんに感謝したいと……ただ学園では見つけられずに、ここにたどり着いたという次第です」
「……そうか。別に、特別感謝されるようなことじゃない。結局私も最終的に捕まったわけだし」
「後半は特に関係ないと思いますが……」
「それにあの事態は気の毒だけど、いつまでも虐げられてるだけじゃダメ。それがたとえ虚しいことであっても、抵抗しづけることを止めるべきじゃない」
「……そうかもしれませんね。はい、あの方にもそう伝えておきます。アズサさんは、暴力を信奉する氷の魔女……だなんて噂がありましたが、やはり噂は噂ですね」
マリーの言ってることが理解できないのか、ポカンとしているアズサを見てハナコが優しく微笑みながらマリーに語り掛ける。
「ふふっ。それはそうですが、アズサちゃんには意外と『氷の魔女』らしいところもありますよ?ほら、他の方からするとちょっとだけ表情も読みにくいですし」
ムッとするアズサを見てみんなが笑っている中、マリーはハナコに心配そうに顔を向き直す。
「ハナコさん……」
「……マリーちゃんが元気そうでよかったです」
「はい、私は……ですが……」
「玄関まで送りますね。さあ、一緒に行きましょう」
「あ、はい……。で、ではみなさん、お邪魔いたしました。先生も、急に訪ねてきてしまってごめんなさい。それでは、また」
「はーい、またねー!」
こうしてハナコに送られ、マリーは帰っていった。色々と大変な1日が今日も終わる。
晩飯も食べ終えた補習授業部の部屋で、ハナコがみんなに声をかける。
「さあ、では洗濯を始めましょうか。みなさん制服や下着や靴下など、洗うものは全部このかごに入れてくださいね」
「ありがとう、よろしく」
「はい……はいっ!?し、下着もですか!?」
「なんで!?下着は各自でいいでしょ!?」
いくら女の子同士とはいえ、自分の下着を渡すことに羞恥心が抵抗する。そんな2人へアズサが説得をする。
「選択はまとめて一気にしたほうが水と洗剤の節約になる。ハナコの言ってることは間違ってない」
「あ、あうぅ……で、ではお願いします……」
「えぇ……わ、私がおかしいの……?」
アズサの言ってることに間違いはないので、そのまま押し負けたヒフミとコハルが渋々下着を洗濯かごに入れる。
「はい、ありがとうございます♡あれ、先生は……?」
「またいないの?」
さっきまで「女子会しよう♪」とダルがらみをしていた五条がいつの間にか消えてしまったのだが、もう探す気にもなれない。明日になればヒョコっと顔を出すだろうと思い、ハナコは洗濯かごを持ち上げる。
「仕方ないですね。では、洗濯機回してきますね。何も問題が無ければ、きっと明日の朝までには乾かすところまで終わるはずです♪」
ハナコがランドリールームまで向かう。部屋に残ったアズサが電気のスイッチに手をかけて2人に話しかける。
「じゃあ、そろそろ寝る準備をしよう。今日もお疲れ様」
「……うん」
「おやすみなさい」
一方、五条の部屋で彼はシッテムの箱の中にやってきていた。
いつものように水の張った教室でアロナが元気に迎えてくれる。
「アロナ、お疲れー」
「お疲れ様です、先生」
頭を撫でられ笑みがこぼれるアロナに、五条は本題を尋ねる。
「頼んでいたものは終わってる?」
「はい。補習授業部の生徒さん達についてここ1年の情報を調べました。どうぞ」
アロナが手渡してきた資料に目を通す。生徒達の情報に特にめぼしいものはない。特に白洲アズサについては、ミカの言った通りアリウス分校の情報がないのでその情報は特にない。そして、問題のハナコについては――、
「特にこれといった情報はないか……」
「はい……」
アロナが小さく項垂れる。ハナコについて特に変わった問題はない。去年までは文武両道、清廉潔白、まさに誰もが羨む深窓の令嬢にふさわしい姿であった。
活動記録を見てもその優しさから、あらゆる組織に平等に公平に接してきていた。
しかし――、
「うん?」
ページをめくっていた五条の手が止まる。そこには、ハナコが体調不良の為に学校を欠席したと記されていたのだった。ただの風邪で数日休んだと記されていたのだが、五条は考え込む。
その時、ドアをノックする音が聞こえる。アロナに別れを告げ、シッテムの箱をしまう。
「……失礼します」
「開いてるよ」
そう返事をするとドアを開けられる。部屋に入ってきたのは――、
「こんばんは、先生」
スク水姿のハナコが礼儀良くお辞儀をするのだった。
突然のスク水姿の少女が部屋に入ってきても、五条は特に慌てたりする様子はなくいつものように笑って迎え入れた。
「こんばんは、ハナコ」
「あら、先生は驚きませんか。少し残念です」
「僕を驚かせたら大したもんだよ。で、なんか用?」
「うふふっ。それより先生、ちょっと相談したいことがありまして……。実は……アズサちゃんのことなのですが」
「アズサ……?」
ハナコが静かに五条へ近寄り、アズサのことについて尋ねることに、彼は首を傾げる。
その時――、
「し、失礼します……先生、いらっしゃいますか……?昨日より遅い時間になってしまってごめんなさい、実は――」
ヒフミが部屋に入ってくる。ヒフミとハナコの目が合う。本来ここにいるはずのない二人が邂逅することに二人の時が止まる。
「本当に失礼しましたぁ!?ご、ごめんなさい!私、そんなこととは知らずに……!ぜ、全然知らなかったんです本当です!?え、一体いつから!?」
「……ヒフミちゃん、今『昨日より遅い時間』って言いましたね!?つまり昨晩も来たという事ですよね!?そうなんですよね!?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!?また後で、はダメですよね!?どうすれば良いですか、今晩はやめたほうが良いですか!?知らなくてごめんなさい間に入ってごめんなさい空気壊してごめんなさいっ……!?」
「待ってくださいヒフミちゃん、詳しく教えてください!昨晩はお二人で何をしていたんですか、今晩は何をする予定だったのですか!?ぜひ説明を、いえ、いっそ今から私の前で実際に再現を……!!」
パニックになっているヒフミと興奮しているハナコが嚙み合っていない会話をしているのを見ていた五条はため息をついて二人の間に入って彼女たちを止めた。
「はいはい、とりあえず落ち着こうね」
五条に止められて二人は落ち着きを取り戻す。その後、話し合って互いの誤解を解いた。ついでにハナコはヒフミに怒られてちゃんと着替えてきた。
「……なるほど。先生と一緒に、これからについてのご相談を……」
「ハナコちゃんも先生に相談したいことがあって……。で、ですがどうして水着で来るんですか!?パジャマが水着ってどういうことですか……!?」
「水着だと落ち着くんですよね。前に礼拝堂での授業にも水着で参加しましたし。ヒフミちゃんもどうですか?」
「あうぅ……」
笑顔でじりじりと寄ってくるハナコにヒフミが涙目になっているのを横目に、五条がハナコに先程の話について問いかける。
「ハナコ、さっきの話の続きは後にする?」
「……アズサちゃんの件、ですよね」
「――っ!」
アズサの名を聞いてヒフミの顔がこわばる。ハナコはそんな彼女の顔を見て静かに答える。
「……いえ、大丈夫です。ヒフミちゃんも一緒に聞いていただければと思います。実はアズサちゃん……毎晩のように、どこかへ出かけては夜明けまで戻ってこないことが続いていて」
「そう、だったんですか……」
「最初は慣れない場所で眠れないのかと思ったのですが、そうではないようです。……私はアズサちゃんが夜にちゃんと眠っているところを、ほとんど見たことがありません」
「確かに私も……アズサちゃんのはいつも先に起きてますし、私より早く寝てることもなかったような……」
ハナコに言われて記憶をたどってんみると、アズサが寝ているところはおろか、眠そうにしているそぶりも見せなかったので気にしていなかった。
「……アズサちゃんが一体何をしてるのかはわかりません。ですがそろそろ、多少無理矢理にでも寝かせてあげないといけないのでは、とおもうんです。何だかアズサちゃん……どこか、すごく不安そうで」
「……」
「どんな事情なのかは知りませんが、どうにかその不安を少しでも軽減してあげたくって……。このままですと、いつかは倒れてしまいます。……先生とヒフミちゃんも、ですよ?しっかり寝ないとダメです」
「ええ!?」
突然矛先が向けられたことに驚くヒフミにハナコは指さしながら続ける。
「確かに試験も大切ですが、ただ落第というだけです。体の健康と比べられるようなものではないと思いませんか?」
「それは……その……」
試験に失敗すれば落第で済まないことを知っているヒフミが答えを言いあぐねていると、五条はあきらめたように肩をすかして口を開く。
「ヒフミ、ここまで来たら隠しても意味ないよ。ハナコにも知る権利もあるんじゃない?」
「先生!?」
「ヒフミちゃん……?」
何のことか分からずキョトンとするハナコにヒフミはとうとう黙っていたことを打ち明けた。
「ただの『落第』で済む話ではないんです……!あと2回、どちらの試験も不合格だったら……退学なんです!私たちは、トリニティを去らないといけないんです……!!」
突然の白状した内容にハナコは頭が追い付かず、少し呆けた後にゆっくりと口を開いて尋ねる。
「……退学?ヒフミちゃん、それはどういう……?そ、そんなこと、校則的に成り立ちません。退学は様々な手続きと理由が必要で、そんな簡単には――」
言いかけていたハナコが止まる。そんな無茶なことができる存在にハナコはたどり着いた。
「……もしかして、ティーパーティー……ですか?」
目に涙を溜めたヒフミは黙って頷いた。このままヒフミに説明させるのは酷だと感じたので、五条がハナコにこれまでの経緯について説明をした。
「……なるほど、そうだったのですね。すべて不合格であれば、全員退学……。この仕組み自体そもそもおかしいですが……なるほど、シャーレの超法規的権限が……」
「ハナコちゃん……」
ぶつぶつと考え込むハナコを見て、口を出すことに一瞬躊躇う。
「あ、そ、そういえばハナコちゃん、本当は成績良いんですよね!?1年生の時に、3年生の難しい試験まで全部満点でしたよね……!?」
ついに踏み込んだ質問をするヒフミにハナコは沈黙に伏せる。ヒフミは申し訳なさそうにするが、それでもずっと気になっていたことを尋ねる。
「あの、ごめなさい……模試のために昔のテスト用紙を探す途中に、見つけてしまって……。ど、どうして今は、あんな点数を……?わざと、ですよね……?」
「……ごめんなさい、知らなかったんです。失敗したら、まさか『全員が退学』だなんて……。いえ、知らなかったと言って、許されるものではありませんね……。先生にも、ヒフミちゃんにも……アズサちゃんとコハルちゃんにも、申し訳ないことをしました。ごめんなさい、先生。ヒフミちゃんも、ごめんなさい」
「い、いえ、その……」
真摯に頭を下げて謝罪するハナコにヒフミは慌てふためいた。
「……ヒフミちゃんの言った通り、私のあの点数はわざとです」
「や、やっぱり……!?ハナコちゃん、どうしてそんなことを……?」
「……ごめんなさい、言えません」
何か事情があるなら相談してほしいヒフミだったが、ハナコはそれに首を横に振って断った。言えないことにどこか罪悪感があるのか申し訳なさそうに続ける。
「私の、すごく個人的な理由なので……ですが、それで皆さんが被害を受けてしまうのは望むところではありません。なので、安心してください。最低限みなさんが退学にはならないよう、今後の試験は頑張りますので」
「ハナコちゃん……」
「先生もそれでよろしいでしょうか?」
五条の方に向き直るハナコに、彼は優しく微笑み返す。
「ハナコがそうしたいなら、僕は何も言わないさ」
「ふふっ、ありがとうございます。ところで……この事実を知っているのは、ヒフミちゃんと先生だけですか?」
「そうですね、私たち以外はまだ誰も……」
「なるほど……となると、アズサちゃんの不安は試験に起因するものではなさそうですね。何か私がまだ知らないことがある、と……。……いえ。それ以上に今は、この補習授業部の存在そのものが気になりますね。セイアさんはこんなことしないでしょうし、ミカさん……は無理でしょうし、まあこんなことをたくらむのはナギサさんでしょうか」
手を組み推理を始めるハナコはすぐに真相に到達する。ただ頭が良いだけでなく、頭の回転が速く真理に到達することができるのは彼女の長所なのだろう。
「ですが、そうしてエデン条約を目の前にしてこんな……。いえ、むしろ目の前だからこそ……?」
目を閉じてじっと黙っていたハナコが目を開き、ゆっくりと口を開いた。
「……なるほど。この補習授業部は、エデン条約を邪魔しようとしている疑惑がある容疑者たちの集い、というところですか」
1を聞いて10に到達しようとするハナコの頭脳にヒフミは驚愕し、五条でさえ思わず感心するのだった。
「ナギサさんらしいと言いますか、相変わらず狡猾な猫ちゃんですねぇ」
「ね、猫……?」
困惑するヒフミを余所に、ハナコは五条の方に向けて自身の推理を聞かせる。
「どうせならまとめて処理してしまったほうが効率的、といったロジックでしょうか。何だか私たちまるで、洗濯ものみたいな扱いですね」
「あはは、正解!ナギサはもっとひどい言い方してたけどね」
「……先生も、ナギサさんにしてやられた形でしょうか。『成績の振るわない生徒たちを助ける』という名目で、善意を利用されてこの役割を担い、その実シャーレの超法規的権限が利用されている……。ですが逆に言えば、先生は純粋に私たちのために頑張ってくださっていたのですね……ありがとうございます、先生。先生はやはりいい人ですね、ふふっ♡」
「ハナコちゃん、すごい……探偵みたいです!」
ハナコの推理に聞き入っていたヒフミはそのすごさに興奮していた。
「『トリニティの裏切り者』……ナギサ様は、それを私に探して欲しいと仰っていました」
「……ふふ、なるほど。『トリニティの裏切り者』ですか……ナギサさんらしい表現ですね。ティーパーティーのホストである彼女の計画を邪魔したら該当する、とも考えられるロジックですし。……アズサちゃんは書類の時点で怪しかったので、疑われるのも無理ありませんね。コハルちゃんは、どうして……しいて言えば、正義実現委員会の人質という観点なら無茶ではありつつも、納得できますが……」
「トリニティの裏切り者」というワードから、補習授業部の面々についての怪しいところを推理していくが、ここで目の前の少女についてある疑問が生まれる。
「……あら、そう考えると、ヒフミちゃんはどうして容疑者になっているんです?ナギサさんと親しかったはずでは?」
「えっ!?わ、私もやっぱり容疑者なんですか……!?た、確かに、親しくさせていただいていたような感じですが……ど、どうして私なのでしょう……?」
本人ですら心当たりがなく、考えているとヒフミの頭の上に肘を置く五条が笑いながら答える。
「そりゃもちろん、ヒフミはなんたってブラックマーケットに入り浸る問題児だからね~」
「……え?」
「わ、わぁーっ!!そ、それはペロロ様の為でして――!?」
五条の言葉とヒフミの慌てようから、ハナコはすぐに推理する。おそらくヒフミがブラックマーケットに行っていることがナギサの耳に入ったのだろう。自分の親しくしている子がブラックマーケットに行っていると聞いたナギサはヒフミのことにも疑惑の念がでてきたのだろう。それが実はモモフレンズのためだと知らずに――。
「……とにかくアズサちゃんとは、後でもう少しお話をしてみた方が良いのかもしれません。その他についても幾つか、私の方でも確認してみます」
「はい。もし何かわかりましたら、教えてもらえると嬉しいです」
「分かりました。という事は私もこの、深夜の密会に参加させていただけるという事でよろしいですか?うふふ、嬉しいです♡深夜の密室で、三人寄り添って秘密の遊びだなんて……ドキドキが止まりません♡」
「そ、その言い方はちょっと……」
「はいはい、もう遅いし今日はここまで」
「はい、ではまた明日という事で」
「そうですね、おやすみなさい」
解散しようとしたその同刻、コハルは尿意で起きた。
「んん……トイレ……」
部屋を出た時、目の前の五条の部屋から明かりが漏れていたことに気づいた。
「あれ……先生の、部屋?こんな時間まで……」
不思議に思っていた時、ガチャリとドアが開く。
「それでは先生、ありがとうございま……あれ?」
「……!?」
部屋から出てきたヒフミと鉢合わせになる。
「ひ、ヒフミ!?せ、先生の部屋で一体何を――!?」
「ふふっ。では、、また夜の密会をお楽しみに――あら?」
さらにハナコまで出てくるのを見て、コハルの顔は真っ赤になる。
「さ、三人……!?バカ、ヘンタイ!淫乱族っ!!」
コハルの怒声が夜に響いた。
おまけ
ヒフミ「私はそんな問題児じゃありません!」
五条「そう言うなら一つ聞くけど、この合宿中にモモフレンズの限定グッズの販売があったら?」
ヒフミ「もちろん行きます!たとえどんな手段を使っても」
五条「やっぱ問題児じゃん」
五条(ヒフミは呪術師向いてるな)