「……ん」
朝になって目を覚ましたコハルの耳に窓にぶつかる大きな雨音が聞こえる。
そんなコハルにハナコとヒフミが声をかける。
「あら、おはようございます。コハルちゃん」
「おはようございます。アズサちゃんは……まだちょっと起きられなさそうですね」
「んっ……んん……」
横のベッドに目をやると、アズサがまだ眠っていた。それを見たコハルは不思議そうに首を傾げる。
「どうしたの、アズサ結構早起きだったのに……」
「今までは、無理をしていたんじゃないでしょうか?少し寝かせておいてあげたいですね」
ハナコが優しそうにアズサの方に目を向けて小さく返す。するとアズサは寝ながら笑みをこぼす。
「んんっ……ダメ、かわいいものが……ふわふわで……それは、よくない……」
「それに、なんだか良い夢を見ているようですし♡」
「それもそうね」
正義実現委員会として規則正しい生活をと言いたいところだが、こんな幸せそうに眠る生き物を起こすなどという非道にはなれない。
その時外では雷の音が聞こえて雨の勢いも増してきていた。
「あ、あうぅ……雷まで……今日は一日雨ですかね」
「……あら」
ヒフミが窓から外の様子を眺めている時、ハナコが何かを思い出したかのような声を上げる。
コハルがハナコに尋ねる。
「どうしたの?」
「忘れてました、洗濯物が外に……!」
「「えっ!?」」
三人は急いで洗濯物を取り込むために外へと向かった。
それから騒ぎに起きたアズサが部屋に誰もいないことに気づき、遅れてみんなの元へと向かうのだった。
それから、約1時間後――。
「……君たち、何してんの?」
「あ、あうぅ……」
教室にいない補習授業部を探しに来た五条が、体育館にいた彼女たちを見つけた第一声がこれだった。
なぜなら彼女たちは電気の点かない体育館でスク水姿で集まっていたのだから。
「すいません、先生。これには事情がありまして――」
ハナコは事の経緯を説明する。
外に干してあった洗濯物は嵐でビショビショになっており、もう一度洗い直しが必要だった。傘も持たずに飛び出したために、パジャマの体操着も濡れてしまった。
また新しい服を出そうとした一行だが、着る服がもうないことに気づいた。
ハナコが下着姿で授業を受けようと提案するのだが、コハルがそれに猛反対する。しかし、いつまでも濡れたままだと風邪をひくとヒフミに諭され、洗濯が終わり乾くまでとりあえず水着姿でいることになった。
ここまでなら問題なかったのだが、洗濯中に雷で停電を起こし、洗濯機が動かなくなった。
洗濯は洗いまで終わったのだが、脱水ができておらず洗濯物を何とか干せる場所が広い体育館しかなかったので急いで体育館に来たのだという。
ハナコから事情を聴いた五条は、納得すると同時に大きく笑い出した。
「あっはははは!!それで着る服がないから、スクール水着でいたってわけか!あー、ウケる……ゲホゲホ」
笑いすぎて咽出す五条に、ヒフミは顔を真っ赤にして小さくなり、コハルが同じく顔を真っ赤にしながらも「笑うなー!」と叫んでいた。
アズサはいつもと変わらずにいたし、ハナコはどこか嬉しそうに手を叩き口を開く。
「そうですね。こうとなっては、パジャマパーティーならぬ水着パーティーくらいしかすることありません♡」
「あうぅ……な、何か他にもありそうな気はしますが……」
「なるほど、下着パーティーとかもありそうですね♡確かによく考えると他にも幾つかあると思いますが、それで本当にいいんですか……?ふふっ」
「あ、ありません……」
ニコッと笑うハナコの圧に押されたヒフミは何も言えなくなった。
停電となった体育館の天井を見上げるアズサが煩わしく文句をこぼす。
「こうなると授業もやりにくいし……こんな落雷くらいで全部の建物が機能不全だなんて、ひどいセキュリティだ」
「まあ、古い建物ですし……」
ここで五条にからかわれていたコハルがあることに気づきハナコに食って掛かる。
「――っていうか待って!流されないわよ!水着パーティーって何なの!卑猥!!授業もできないし着る服もないところまでは同意だけど、だったらおとなしく部屋で休めばいいでしょ!普通に考えて!」
「あら、ですがこういう時間こそ合宿の花だと思いませんか?みんな寄り添って、お互いの深い部分をさらけ出し合う……雨も降っているうえに停電で何も見えませんし、雰囲気は最高です!」
くるりと回ってにっこりと妖艶な笑みを浮かべハナコは問いかける。
「うふふふ……♡せっかくの休み時間なんですし、そうやって有意義に過ごしません?」
「あはは……た、確かに合宿の定番という感じはしますね」
「なるほど、それがこの水着パーティーと」
頷くアズサの横でコハルが待ったをかける。
「いやいやいや納得するか!水着と掛け合わせる意味は!?」
「あうぅ、確かに……」
「まあまあ、せっかくなんですし楽しむとしましょう。そうはいってもただのおしゃべりですし、話題も何でもアリという事で♡」
ハナコが差し出した手の先ではすでにブルーシートの上に紅茶とスイーツセットを用意した五条が笑顔で手招いていた。
「みんな~!甘いスイーツに暖かい紅茶もあるよ~!」
「まあ、先生ったら準備万端ですね♡せっかくですし、いただきましょう」
ハナコに続きヒフミとアズサも五条の元へと向かう。
真っ暗な体育館に目隠しをした大人と水着姿の生徒三人が紅茶とスイーツを堪能する。ただ一人残されたコハルだけがこの異様な光景を目にして一人引いていた。
ただ一人残っているのに寂しさも感じていた。しかし自分であんなに反対する手前、今更入りたいとは言えなくなっていた。
そんなコハルの様子を見た五条が水筒から紅茶をカップに入れてコハルに差し出す。
「ほら、コハルもそこで立ってると風邪ひくよ」
「そうですよ、コハルちゃんも一緒に飲みましょう」
「コハル、早く来るんだ」
「コハルちゃん♡」
「しょ、しょうがないわね!そんなに言うなら一緒に飲んであげるわ!」
口とは裏腹に頭の羽がぴょこぴょこ嬉しそうに弾む。カップを受け取り、紅茶を口に運ぶ。
そんな様子をハナコは楽しそうに見ていた。
「ハナコ、楽しそうだね」
「ふふっ♡実を言うと、私こういうこと、すっごくしてみたかったんですよね。なので、ちょっとテンションが上がっていると言いますか……」
そう答えると、アズサも同じように頷く。
「気持ちは分かる。私も何なら、補習授業部に入って以来ずっとそういう気持ちだ」
「あら、そうなんですか?」
「うん。何か学ぶという事も、みんなでご飯を食べることも、洗濯も掃除も、その一つ一つが楽しい」
「あら……♡」
「水着は泳ぐ時に着るものだと思っていたのに、こんな活用方法があるなんてことも初めて知った。知らなかったことを知れるというのは、楽しいことだ」
そう語るアズサの顔はいつもと変わらないが、その言葉は心の底から嬉しさが出ていた。
「み、水着の件はちょっと違う気もしますが……」
ヒフミはボソッと独り言ちる。
「でも、動きやすいし通気性も良い。ハナコがこれを着て学校を歩いてたというのも納得がいく」
「そうですよね、だから言ったじゃないですかコハルちゃん」
ドヤ顔で胸を張るハナコにコハルが食って掛かる。
「いやそれで外に歩くのは犯罪だから!納得しちゃダメ!公然淫猥剤だよ!?」
「コハルと一緒に勉強するのも楽しい」
「――っ!?きゅ、急に何!?なんでそんな急に恥ずかしいことを!?」
突然の告白にコハルは顔を真っ赤にして照れ臭そうにもじもじする。
「あらあら……♡」
「ま、まあ、私みたいなエリートと一緒に勉強して、タメになることは多いと思うけど?」
「うん、本当にそうだ」
そう答えるアズサの口角が少し上がっていることを五条とヒフミは見ていた。
「先生、アズサちゃん……最初はあまり表情の変化も読み取れなくて心配でしたが……良かったですっ」
「……そうだね」
アズサがこちらに気づき、ヒフミに向けて小さく微笑む。
「もちろんヒフミもだ。本当にいつも世話になってる、ありがとう」
それを聞いてヒフミの涙腺が決壊する。
「あ、アズサちゃんっ!!うわーん!!」
思わずアズサの元へ駆け寄り、そのまま彼女に勢いよく抱き着いた。
あまりの嬉しさにアズサをぎゅうと抱き着くのだが、思わず抱き着いた腕がアズサの喉にしっかりキマッてしまい、アズサの顔色がどんどん白くなっていく。
それに気づいたコハルとハナコによって救出されるのだった。その後ヒフミはアズサに何度も謝っていた。
ヒフミがコハルに叱られているのを楽しそうに見ている五条の元に、アズサがこっそりと近寄る。
「先生」
「ん?」
「先生が補習授業部の顧問になってくれてよかった」
「嬉しいこと言ってくれるじゃん!そんなアズサにこのクッキーをプレゼント!」
自分の持っていたクッキーをアズサに渡すと、アズサは嬉しそうにクッキーを口に運ぶ。口に広がるクッキーの甘さが彼女に幸福感で満たす。
「先生に出会うまで、こんな『大人』がいるなんて知らなかった」
『知ってるかもしれないけどあの子、実はトリニティに最初からいたわけじゃないんだ。ずいぶん前にトリニティから分かれた、いわゆる分派……『アリウス分校』出身の生徒なの』
ミカの言葉を思い出した五条は、アズサがアリウスでどんな生活をしていたのか察せられた。
トリニティから追放されたアリウスがまともな生活を送れているわけがないのは、ミカからの話で理解している。
だからこそここでの生活が新鮮なのだろう。
「だから、私はここで先生と出会えてよかった。ありがとう」
「――そう言ってくれるとありがたいね」
五条は優しく微笑むと、アズサの頭を撫でるのだった。
そうして、補習授業部一同は話に花を咲かせていた。
「そういえば今はトリニティのアクアリウムで、『ゴールドマグロ』という希少なお魚が展示されているみたいですね」
ハナコの話にヒフミが嬉しそうに反応する。
「あ、私もそれパンフレットで見ました!『幻の魚』と呼ばれているんですよね?」
「はい、どうやら近くの海で発見されたとか。見に行きたいのですが、入場料も安くないので……」
「海、か……そういえば一度も行ったことないな」
「そ、そうなんですか!?一回も……!?」
そうつぶやくアズサにヒフミが驚きを見せる。
そうやって話していくうちに、今度は買い怪談話に移る。
「そうして、誰もいないアミューズメントパークにひと……ひと……と誰かの気配が――」
「そ、そんなわけないじゃん!聞き間違いよ!」
「まあ、私もそういううわさとして聞いただけですが……」
「いやだっ!絶対嘘!全部誰かの悪ふざけ!」
断固として否定するコハルに五条がニヤニヤしながら尋ねる。
「コハル、もしかして……怖いの?」
「は、はあっ!?そ、そんなわけないでしょ!私はエリートなのよ!そんな私が怖いなんてありえないから!」
「そうかそうか……コハルはエリートだもんね。エリートだから一人で調査も行けるよね?」
「え……そ、それは、その……」
コハルの顔が青ざめていき、さっきまでの勢いはどこへ行ったのか見る見るうちに小さくなっていく。
「……ぷっ、あはははは!本当にコハルは可愛いね~」
「はい、コハルちゃんは可愛いです♡」
「む、むきーー!!」
そんな様子を見て笑う五条とハナコにコハルは顔を真っ赤にして追いかけるのだった。
そうして話はハナコの公衆の面前の水着問題に移る。
「――だから、水着で街や学園の中を歩くのは別に、そこまで変なことじゃないですよ?」
「そんなわけないでしょ!?勝手に常識改変しないでっ!」
「ですが、これは私がシスターたちから聞いた話ですが……どうやらキヴォトスのどこか化の無法地帯では、『覆面水着団』なる犯罪集団があるらしいですよ?」
「ふ、覆面水着……!?ど変態じゃん!?なにそれ!?っていうか『犯罪者集団』なんじゃん!そんなの何もしてなくたって、見た目からしてすでに犯罪よ!」
「そういう集団があるくらい、他の地域では普通なんですよ。ですからコハルちゃんも今度一緒に――」
「いやっ!何言いだすか分からないけどとりあえず嫌っ!!」
にじり寄るハナコから逃げ回るコハルそんな二人を見ていたヒフミだったが、五条がなぜか自分の方を見てにやにやしているのに気付いた。
「あ、あの……何か?」
「いや、べっつにー」
どこか含みのある笑みを浮かべる五条にヒフミはいろんな意味でドキドキしていた。
そんな時、アズサが小さく欠伸をした。
それを見たハナコが今朝のことを思い出して、アズサに注意をする。
「アズサちゃんはもっと、夜はきちんと眠った方が良いと思いますよ?」
「……うん。今朝は寝坊して迷惑をかけてしまった。慣れない場所で寝坊なんて、これまでほとんどなかったのに……。もうここは、『慣れない場所』じゃないからかもしれないな」
「……とにかう、もっとしっかり寝た方が良いです。深夜の見張りは減らしていただいて」
「見張り……?なにそれ?」
アズサが深夜に見張りをしていたことを知らないコハルが首を傾げる。
「ああ、毎晩夜中にちょっと見張りを……」
「ハナコ、アズサのことすごく心配してたからさ」
「そうなのか……?」
五条に言われてアズサが初めてそのことに気づく。そしてハナコに向けて頭を下げるのだった。
「……ごめん。実は見張りは言い訳で……ブービートラップとかを設置してたんだ」
「ブービートラップ……?」
ハナコたち三人が不思議そうにしているとアズサは説明する。
「心配しないで、ここに悪意を持って侵入しようとするルートにだけ設置してるから。普通の生活をする上では、安全面に問題はない」
(昨日のマリーさんのことを考えると、そうでもない気がしますが……)
「なるほど……ですが、それならそれで教えてくれると嬉しいです。どうしても、心配しちゃいますから」
優しく諭すハナコに、アズサは納得したように頷いて返す。
「……そうか。うん、これからは気を付ける。私のせいで、先生とみんなが被害を受けるのは望むところじゃないから」
「ははっ。分かればいいんだよ」
子供に諭すように言う五条に、アズサは少し恥ずかしそうに顔を伏せる。
「なっ……こ、子ども扱いしないで、先生。私は別に……そんなのじゃない。だってこの世界は、すべてが無意味で、虚しいものだ。だから、もしかしたら……。私はいつか裏切ってしまうかもしれない……みんなのことを、その信頼を、その心を」
どこか自嘲するかのようには言うアズサをハナコたちは心配そうに黙っていたのだった。
すると――、
「あ、電気が……」
体育館の電気がついたのだった。外を見ると、雨もすっかり止んで日が差し込んでいた。
「そうですね。では、もう一度改めて干し直しましょうか」
「うん、じゃあ、第1回水着パーティーはここで閉幕か。2回目も楽しみにしてる」
「二回戦とかないから!こんなの最初で最後だからっ!」
顔を真っ赤にするコハルの横でみんなで洗濯物を干し直したのだった。
そうして、乾いた洗濯物を取り込んで、今日の残り時間は休息をとることにした。そうやって一日が過ぎ――。
「いいえ、まだです!このまま一日が終わりだなんて、そんなもったいないことはさせません!」
「は、はい……!?」
「な、なに!?急に飛び上がって、びっくりした……」
ハナコが急に立ち上がって大きな声を上げた。
ヒフミたちも急な声にびっくりしていると、ハナコは笑って続ける。
「突然のことでしたが、せっかくのお休みじゃないですか。みんな裸で交わったのに、このままはいおやすみなさいなんて――」
「勝手に記憶を捏造しないで!裸じゃないから!」
コハルが顔を赤くして否定するが、ハナコはそれを無視する。
「それはともかく、このまま寝てしまうのはもったいないです。まだ火照っていると言いますか、物足りないと言いますか……」
「具体的には?」
「うふふっ♡合宿といえば、やはり合宿所を抜け出すこと……それも一つの醍醐味だと思いませんか?」
「え……?」
思いがけない提案に思わず声が漏れ首を傾げる。
「さあ!今からみんなでこっそり外に出て、お散歩しましょう♡トリニティの商店街は夜遅くまで営業している店も結構ありますし、食べ歩きとかショッピングとかもできます!」
「そ、そんなの校則違反じゃん!ダメっ!」
正義実現委員会のコハルが毅然とした態度で止めに入る。
「細かい校則は知りませんが、結構みなさんこっそりやってると思いますよ?意外とそういう肩回りにいませんか、ヒフミちゃん?」
話を振られたヒフミは冷や汗をかきながら顔を背ける。
「あ、あはは……そ、そう、ですね……?で、ですが普段であればまだしも、今は補習授業部の合宿中ですし……いいんでしょうか……?」
「遠出するわけでもありませんし、すぐそこですよ。コハルちゃん、いかがですか?楽しそうだと思いません?」
「え、っと……きょ、興味はあるけど……でもダメ!先生に怒られるわよ!」
ハナコの甘い誘いに少し惹かれそうになるが、それでも自分の信念を貫くために曲げないコハル。
「そう言ってますけど、どうなんですか?先生」
ヒフミがそう聞くために五条の方に振り返ると――、
「何してんの、みんな。早く行くよ!」
すでに準備万端な五条が今か今かとワクワクした様子で待っていた。
「いつの間に!?っていうか、良いの!?」
「モチ!!」
「準備はできた。もうすぐにでも出発できる」
「アズサちゃん!?いつの間に着替えて……!」
五条の横で同じく準備ができているアズサが早く行きたいと待ち望んでいた。さすがにここまでくると、コハルは何も言えなくなっていた。
「では決定ですね♡」
「よーし、『ドキッ!突撃深夜の買い食い散歩!』開催だー!」
こうして補習授業部のみんなは夜の街に出発するのだった。
合宿所を出て夜のトリニティの街を歩く5人。補習授業部にとっては初めての夜の外出でみんな嬉しさと緊張が出ていた。
「うふふ……♡」
「あはは……き、来ちゃいましたね」
「どうですか?もうすでに楽しくないですか?禁じられた行為をしているというこの背徳感、そして同時にみんなで一緒にしているからこその安心感、この二つが合わさって――!」
「何言おうとしてるのよ!このヘンタイ!」
コハルがハナコを止めようとしている横で、アズサは初めての夜の街に驚愕していた。
「なるほど、深夜の街はこんな感じなのか……思ったより活気がある」
「そうなんですよ、24時間営業の店も多いですし」
「あれはスイーツショップ?24時間開いてるところがあるのか……あ、喫茶店も開いてる」
夜中でも営業しているお店という事が初めてなアズサは瞳を輝かせていた。
そんなアズサにヒフミが街について教える。
「ここからもう少し行くと、モモフレンズのグッズショップもあるんですよ。その向かいには限定グッズだけを取り扱う隠れたお店もありまして……」
「ヒフミ、オタク特有の早口だね~」
少し早口気味で説明するヒフミを、五条がズバッと切り捨てる。
「あ、あうぅ……」と顔を赤くして俯くヒフミを笑うこの男は相変わらずのノンデリだったが、アズサがヒフミの肩に手を置き慰めた。
そんな様子を一歩後ろで見ていたコハルは、一緒に来てしまったことを今になって後悔し始めてきたのだった。
「うぅ……結局乗っちゃったけど、こんなことろ万が一ハスミ先輩に見られたりしたら、すっごい怒られそう……」
「あら、そうなのですか?ハスミさんは後輩たちに優しい方だと聞いていましたが……?」
コハルの言葉に疑問を抱いたハナコがコハルに尋ねる。
「も、もちろん優しいわよ!それに文武両道、さいしょくけんび……だったっけ?で、品もあってすっごい先輩なんだから!で、でも起こるときはほんとに怖くて……」
「そういえば、前にハスミがゲヘナに本気で怒ってなかった?」
「ゲヘナ、ですか……!?それは本当ですか!?」
五条の疑問にヒフミが驚愕する。正義実現委員会の副委員長であるハスミがゲヘナに本気で怒ったという事が、外交問題に直結する可能性もあることに戦慄する。
そんなヒフミにコハルが唾を飲んで緊張の面持ちで頷く。
「う、うん……前に一回あって、私もその場にいたんだけど……」
話は数週間前に遡る。
正義実現委員会の部室で大きな物音が鳴り響く。ハスミが机の上の物に当たり散らし、部屋は散々たる状況になっていた。委員長のツルギに、同じく正義実現委員会のイチカとマシロも何も言えなかった。無論、その場にいたコハルも怒るハスミを恐れて部屋の隅で小さくなっていた。
しかし、一人の部員が荒れるハスミに進言する。
「は、ハスミ先輩、落ち着いてくださ――」
「絶対に、絶対に許しません!!万魔殿!!ゲヘナっ!!どうして、どうしてあそこまで……!!」
「ひっ……!」
普段なら部員の言葉に耳を傾けるハスミが、一切聞く耳を持たず荒れ続ける様子に他の部員たちも恐怖に慄いてしまう。
それを語るコハルに、ヒフミたちも思わず息を飲むのだった。
「あら……それは激しいですね。一体何が……?」
「エデン条約の件で、ゲヘナの首脳部と会議をした時で――」
コハルは説明を続ける。
荒れ続けたハスミは息を荒げてようやく口を開いた。
「……よく、よく聞いておいてください。私は今ここに、宣言します。これから私は……私は……っ!」
一呼吸おいて声高らかに宣言する。
「今度こそダイエットをします!!」
マシロを始めとした部員たちが驚愕する中、ツルギだけは呆れたように肩を下ろすのだった。
「だ、ダイエット……ですか?」
思わぬ言葉に一人の部員が恐る恐る尋ねる。それに対してハスミは大きく頷いて答える。
「はい、ダイエットです!これから私が一日に二回以上食事をしたり、おやつを口にするところを発見したらその場で指摘してどうか叱ってください!こういったことは自分だけの力では難しいので、宣言しておくほうが良いと聞きました!みなさんの助けが必要なんです!」
やる気に燃えるハスミに、尋ねた部員が事の経緯についてもう一度質問をする。
「は、ハスミ先輩……ゲヘナとの会議で一体何か……?」
ハスミは少し黙るが怒りに震えて拳を握り締める。
「許せません……!なんて、なんてことを……!」
ハスミは語る。ゲヘナでの出来事についてを――。
場所はゲヘナ学園生徒会『万魔殿』の応接室にて、万魔殿のトップである羽沼マコトは来賓であるハスミに挨拶していた。
『……なるほど、お前が「トリニティの戦略兵器」と呼ばれる剣崎ツルギか』
『……え?あ、いえ、私は――』
自分のことをツルギと勘違いしているマコトに訂正を入れようと口を開くハスミだったが、マコトは聞く前に勝手に話を続ける。
『そうか、想定以上に規格外だな。不愉快になるくらいに。キキッ!だがそんな戦略、このマコト様に通用しない!出会い頭のインパクトで我々に勝とうなど甘いわ!』
『……はい?』
『イロハ、サツキを連れて来い!トリニティの奴らに負けてなどいないことを示してやるぞ!!』
イロハと呼ばれた赤髪の少女はため息をついて面倒そうに説明する。
『マコト先輩、この方は委員長のツルギさんではなく副委員長のハスミさんです。あらかじめ書類にもあったと思いますが。それと、今もし胸の大きさの話をされているのであれば、多分サツキ先輩が来ても勝てないと思いますが』
その言葉を聞いたマコトはまるで聞いていなかったような驚きを見せる。
『な、なにぃっ!?ツルギじゃないだと!?なるほど、代役か……舐められたものだ、この期に及んで小細工とは……!はっ!つまりそもそもこの会議はフェイクという事か!?我々を呼び出しておいて、身長と胸の迫力でこちらの出鼻をくじいておこうだなんて……!』
『いえ、ですから元々ハスミさんです。私の話聞いてますか?聞いてませんね?』
『くっ、不愉快なぐらい大きな胸を見せつけおって……!喧嘩を売ってるのか、この万魔殿のマコト様に対して!!』
『落ち着いてください、あともう胸の話やめてください。そろそろ万魔殿として恥ずかしいです』
イロハが諫めようとするが、マコトのヒートアップは止まらない。
『イロハ、こうなったらあれを用意しろ!このままこのデカ女に負けてたまるか!』
マコトの言葉がハスミの琴線に触れる。
『デカ女…………?』
怒りに震えるハスミを見てイロハはこの会議の行く末を察する。
『「あれ」と言われても何のことかさっぱりですが、とりあえずこの会議がおじゃんなのはよく分かりました。もう逃げましょう』
さっと逃げるイロハにマコトは何のことか分からず首を傾げる。
『……ん?』
そんな彼女に怒りの頂点に来たハスミが自分の銃を構える。
『ああ……あああぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
そのまま大暴れをしたハスミにボコボコにされたマコトが部屋の窓から飛んでいったのだった。
そんな様子を話し終えたコハルに、ヒフミたちは何を言えばいいのか分からず黙っていた。ただこの男はというと――、
「あは、あっはははは!!ぎゃはははは!!」
腹を抱えて笑い転げていた。
「笑うんじゃないわよ!あれ以来ハスミ先輩、あんまりご飯も食べないんだから心配なのに……!」
「そんなことがあったのですね……ゲヘナの方々に怒るのも分かります、無理もありません……」
「でも、ハスミ先輩は色んな意味で強いから大丈夫!あれからずっと、自分との約束を守って頑張ってるし……!」
コハルはあの一件からハスミがダイエットを頑張っているのを思い出す。食事量を減らし、正義実現委員会に届いた差し入れも全部断って、雨の日も風の日も運動しているのを見てきた。そんな自分に負けないハスミだからこそ、コハルは憧れるのだ。
「あ、ここにもスイーツ屋が」
アズサがここにも開いているスイーツ屋を見つける。
「なんだか食べ物の話をしていたらおなかが減ってきましたし、ここで何か食べましょうか?」
「あ、ここの限定パフェすっごい美味しいんですよ!こんな時間もやってるとは知りませんでした」
ヒフミの言葉に甘党の男とアズサが反応する。
「パフェ!?」
「パフェか……うん、悪くない。行こう」
みんなが店に入るのをコハルは慌てて辺りを見渡す。
「うぅ……だ、誰も見てないよね……?」
誰も見てないことを確認するとすぐさま店に入る。
お洒落な内装の店にピシッとした服装の店員が出迎える。
「いらっしゃいませ」
五条が右手を広げて店員に告げる。
「ああ、五名ね」
「かしこまりました。お席にご案内します」
五条の所作にどこか大人っぽさを感じた補習授業部の四人は後ろでワクワクしていた。
席についたヒフミは嬉しさをにじませながらメニューを開く。
「あはは、真夜中にスイーツ屋さんだなんて……緊張もありますが、なんだかすごくワクワクしますね」
「確かに」
アズサが頷くと、席に案内した店員が注文を伺う。
「ご注文はお決まりになりましたらどうぞ」
店員が訪ねてきたこのタイミングでヒフミが目的のパフェについて尋ねる。
「えっと……あ、限定パフェってまだありますか?」
「ああ、申し訳ございません……限定パフェはちょうど先程、別のお客様が三つ購入されたのが最後でして……」
目的のパフェが品切れであることを聞き、補習授業部の四人は残念そうに落胆する。
「あ、そうでしたか……」
「一歩遅かったか……こんな時間まで狙われているなんて、侮れないな」
「あらあら、残念ですね」
「もう!せっかくここまで来たのに食べられないなんて最悪なんだけど!」
コハルが悔しそうに地団太を踏む。
「大体こんな時間にパフェ3つも食べるなんて卑しいにもほどがあるんじゃないの!?」
「まあまあ、コハルちゃん。こういうのも夜の外出の醍醐味ですよ」
ハナコが宥めようとするが、コハルの怒りは収まらず口から文句を垂れ流す。
「でも3つは食べすぎでしょ!こんな時間にパフェ3つも食べるなんて心が弱い証拠よ!」
怒りで荒ぶるコハルの姿を見て、五条が面白そうに笑う。
「へえ……コハルはそう思うんだ」
「当たり前でしょ!こんな――」
「あら……せ、先生……?」
コハルにとって聞き馴染みのある声が後ろから聞こえて思わず固まる。ギギギっと首を回してみた先にいたのは、コハルが尊敬するハスミだった。
「は、ハスミ先輩!?」
思わず大声を出して立ち上がる。ハスミが自分の後ろにいるとはつゆ知らず、こんな深夜に外出していたところを見られてしまったコハルは慌てふためいた。
慌てふためくコハルの横でハナコがハスミのテーブルの上にあるものに気が付く。
「あら、それが限定パフェですか?何やらたくさん……」
ヒフミたちも目にすると、大きなパフェを三つ目の前にして、美味しそうに食べているハスミの姿があった。
「先生、それに補習授業部の皆さん……」
「あ、あぁあぁぁぁ……!」
目の前の状況を処理できずにパニックになるコハルを余所に、ハナコと五条が面白そうに笑ってハスミに近づく。
「ハスミさん、奇遇ですね♡あら、真夜中にパフェを三個も……たしか、ダイエット中だと伺いましたが?」
「ハスミ~ここに君のことを信じていた後輩がいるっていうのに~」
「こ、これはですね、その……」
顔を真っ赤にして慌ててパフェを隠そうとするハスミに、ハナコは笑って肩に手を置く。
「はい、心中お察しいたします。真夜中に襲ってきた悪しき欲望に導かれて、ここまで来てしまったのですよね?」
「え……!?い、いえその……」
「そうして欲望のままめちゃくちゃにしてしまった後、理性を取り戻したころにはもう取り返しがつかないほどに乱れて……」
「ははは、面白ー!」
恥ずかしそうに顔を伏せるハスミをパシャパシャとスマホで写真を撮る五条に、ハスミも負けじと咳払いをして反論を開始する。
「せ、先生……こほん。その、自分のことを棚上げするようですが、補習授業部の皆さんはそもそも、合宿中の外出が禁じられていたはずでは……?正義実現委員会として規則違反を許すわけにはいきませんよ」
そう言って睨むハスミの顔が正義実現委員会副委員長としての顔つきになる。その凄みでコハルは思わず五条の後ろに隠れる。
「え~そんな悲しいことを言うと、この写真を正義実現委員会のみんなに見せちゃいそうだな~」
そう言って五条はスマホの画面を見せる。先程のパフェ3つを食べているハスミの姿がバッチリと映っていた。すでにハスミがダイエットしているという事が五条の耳に入っているのを気づいたハスミは悔しそうに唸る。
少し考えた後、彼女は諦めたように溜息を吐いて五条の方に向き直り口を開く。
「……分かりました。ここはお互いに、見なかったことにするとしましょうか」
「話が早くて助かるね」
ハスミの緊張が解け、彼女は五条の後ろにいるコハルの元に近づき優しく補習授業の様子を伺う。
「コハル、お勉強頑張っていますか?」
「あ、えっと、それは、その……」
「コハルはちゃんと成績上がってるよ」
しどろもどろになっているコハルを助けるように五条がハスミに答える。ヒフミが一緒になってハスミに答える。
「は、はい、そうです……!コハルちゃんはこのままいけば全然合格できるくらい、頑張っていて……!」
「なるほど、そうでしたか」
「うぅ……その、えっと……」
緊張で何を話せばいいのか分からないコハルに、ハスミは微笑みながらコハルの頭を撫でる。
「それは何よりです。言ったではありませんか、コハルはやればできると。あの時も言った通り――」
それを聞いて五条はコハルとともに正義実現委員会の部室に参考書を取りに行った日のことを思い出す。あの時はコハルとハスミは五条の待つロビーの隣の部屋に移動していたが、二人の会話は五条の耳にばっちり届いていた。
『応援していますよ、コハル。お勉強、頑張ってください。本来の目的を忘れないでください、ただ目の前の勉強の話だけをしているわけではないのです』
『でも、そんな……私には、到底無理です……。そんなすぐに成績を上げるなんて……先輩と一緒にいたい気持ちは本当ですが、私にはあまりにも難しいことで……』
『それではダメなんです!』
弱気になるコハルはハスミの怒りの声に驚いて顔を伏せる。
『ごめんなさい、急に大声を出してしまって……ですがコハル、私たちがこれからもずっと一緒にいるためには、今頑張ってもらわないとダメなのです。それに先生も、必ず手助けしてくれます。そんな先生のためにも、勉強を頑張るのが今コハルがやるべきことです』
『……はい。私、精一杯頑張ります』
そんな会話があったことに自分なりに頑張ってきたコハルは笑顔で返す。
「……えへへっ。は、ハスミ先輩の期待を裏切りたくないですから」
「はい。引き続き応援していますよ、コハル。早く正義実現委員会に戻ってきて、一緒に任務を遂行できる時を心待ちにしていますから」
「はい、頑張ります……!」
キラキラと笑うコハルを見て、ヒフミたちは良い話だなと感激していた。
その中で五条がポツリ漏らす。
「でも、その先輩のことをさっき卑しいって言ってたよね」
それを聞いたヒフミたちが五条にとびかかり余計なことを言わせないようにするが、五条の無下限でピタリと止められてしまう。
幸いにも二人に聞こえなかったのだが、ハスミのポケットからスマホのバイブ音が聞こえる。
「……?こんな時間に、連絡……?はい……イチカ?どうかしましたか?」
『ハスミ先輩、ちょっと問題が発生しちゃいまして。今どちらに?』
「問題……?詳しく聞かせていただけますか?」
『どうやら学園の近郊にゲヘナと推測される生徒たちが無断で侵入、さらに無差別に銃撃を行いつつトリニティの施設を襲撃している、との情報が』
イチカの話を聞いたハスミが驚きを露にする。
「襲撃……ゲヘナの風紀委員会ですか!?それとも万魔殿がついに本性を……!?」
『あ、いえ、それが……』
「誰であれ、きっとエデン条約を邪魔しようとする意図に違いありません……!規模は何個中隊ですか?場所は、その施設はどこですか!?」
物凄い剣幕で捲し立てるハスミにイチカは宥めながら答える。
『落ち着いてほしいっす先輩。とりあえずゲヘナの風紀委員会ではなく、兵力も全然少なくて、確認されてるのは4名だけっすね』
「風紀委員会ではなく……4名……?」
『はい。それで襲撃されたのは……アクアリウムみたいっすね』
「あ、アクアリウム……?どうして、そんなところを……?」
『さあ。あたしも良く分からないっすけど、なんだか展示中だった希少種の「ゴールドマグロ」を強奪して逃げてるとかで』
「ゴールドマグロ……?」
敵の数も意図も何もかも分からず、思わずハスミも混乱する。
『すげー高い魚らしくって、多分どこかに売り飛ばそうと……あ、追加でいくつか情報が送られてきたっすね。えーっと……どうやら正体はゲヘナのテロリスト集団、「美食研究会」らしいっす。首謀者は会長の黒舘ハルナ、ゲヘナの中でも要注意人物とされてる例のやつっすね。で、どうします先輩?』
「……美食研究会?」
美食研究会、キヴォトスでもその名を知らぬものはそこそこいないというテロリスト集団。自分達の感性で気に入らない店は容赦なく爆破することで有名な彼女たちが何故アクアリウムのゴールドマグロを盗んだのか。それについて考えていると、電話の向こうでイチカが何やら抑え込んでいるような声が聞こえる。
『ところで先輩、今どちらです?早くご命令を頂かないと、このままだとツルギ先輩が発射……じゃなかった。飛び出ちゃいそうっすけど』
それを聞いてハスミは慌てる。ツルギが向かえばすぐに美食研究会を捕まえることはできるだろうが、ツルギの戦闘でゴールドマグロが巻き添えを食らう恐れがある。
希少種のゴールドマグロに万が一傷物、いや最悪の場合死亡なんてした日には正義実現委員会にどれほどの被害請求が届くのか分からない。
「つ、ツルギはとりあえず止めてください。私は今その、使用で少々外に……」
『いやー無理っすよ。ハスミ先輩以外じゃそうそう止められな――あっ、ツルギ先輩!行かないでください!あとそっちはドアじゃなく壁――』
電話の向こうから大きな破壊音が聞こえる。その後イチカの諦めたような声が聞こえてくる。
『あー……とりあえずあたしらも一旦追いかけて、出撃しますね』
通話が終了し、ハスミは頭を悩ませる。
「近いな。爆発音からして、ここから1㎞以内のところか」
「え、えぇっ……!?」
店の中にも聞こえる爆発音からアズサが騒ぎの方向と距離を推測する。ヒフミが近くで戦闘が行っていることに戦慄する中で、ハスミがこちらに近寄って頭を下げる。
「……皆さん。突然のことで済みませんが、皆さんの力が必要です。お願いできますでしょうか?」
「ええぇっっ!?」
先程とは違い驚愕の声を上げるヒフミに、ハスミはその理由を語る。
「今はエデン条約を目前に控えて、色々と過敏な時期です。この問題が傍から見て『トリニティの正義実現委員会とゲヘナ間の衝突』と捉えられてしまうと、状況が不利になることは想像に難くありません。つまり第三者である補習授業部と『シャーレ』が一緒に解決してくださる……そういう構図が望ましいのです。先生、お願いできますでしょうか……?」
「ま、しょうがないよね。ほら、みんな行くよ」
この状況でも椅子に座ってメニューを見ていた五条も机にメニューを下ろして席を立つ。
「了解した。先生の指示に従う」
「えぇっ!?い、いきなり戦闘ですか……!?あ、あうぅ……」
「ふふっ……まあ、先生がそう仰るのであれば♡」
「あっ、わ、私も……?先生と……ハスミ先輩と、一緒に……?」
銃を構えていつでも行ける準備が万端なアズサに、この状況に戸惑っているヒフミ、どこか楽しそうに準備をするハナコ、そして、ハスミと一緒に現場に向かうという正義実現委員会に入ってからの夢に直撃してどこか呆けているコハルの方にハスミが手を置く。
「いつかこうして肩を並べる時期が来るとは思っていましたが……想像より早かったですね、コハル」
「は、はい!頑張ります……!」
憧れの先輩に元気よく今までで一番の笑顔で答える。
「そういえば、しっかり先生と共に戦うのは初めてか。遠慮はいらない、先生。私のことは道具だと思って存分に使ってくれ」
「あらまぁ……♡」
「アズサー、いくら僕が最強でもその言葉はちょっと面倒だからやめてね」
こうして、補習授業部とハスミたちは美食研究会の暴れるところへ向かう。
補習授業部の初めての戦闘が始まる。
シャーレの五条先生シリーズが1周年を迎えました。
このシリーズがたくさんの人々に読んでもらってここまで来れました。
こうして続けられたのは皆さんのおかげです。
これからもシャーレの五条先生をよろしくお願いします。