ギリシャ系の神々の家である
が、ドランクの調査の最中にある少女を助けた事が彼の揺らぎの少ない心にそれだけでない感情を抱かせるきっかけになり…?
「──酒は飲んでも呑まれるなってね」
※こちらは読み切り版です、連載版とは多少変動がある事をご了承下さい。
母さんの声が聞こえる。
父さんが無理をして自分の部屋に入ろうとしているのを止めようとしているようだった。
「──…──」
「まだあの子が覚醒するには早いって、貴方も分かっているでしょう!?なのに、どうして…」
母さんの制止を振り切って俺の部屋に入ってきた父さんは手に何かを持っていた。
そして、それを開けると俺に多量の
「っ、っ!?!」
父さん。
何が、あったんだよ。
「やめて、それ以上はヴィータが持たないから──…!」
母さんの鬼気迫る声と共に、その時の俺の意識は暗転した。
朝を告げる
金髪の毛先に薄紫のインナーカラーが見える、青い目の青年。
「うるさ…」
彼はそう呟くと、再びベッドの中で丸まる。
カーテンの僅かな隙間から出ている陽の光にすら、当たりたくないらしい。
それから暫くして、部屋の外で少しノックの音がすると共に扉が開き、クラシカルメイド服を着た茶髪のポニーテールに青い目の女性が入ってくる。
彼女は青年の眠るベッドに近づくと、掛け布団に包まる彼を優しく揺り起こす。
「ヴィータ様、起きて下さい」
「
「…ゼット様がお見えになりましたので」
「はぁ…。朝食と身支度済ませたら細かい話は聞くけど、とりあえず今は待たせておいて」
「分かりました」
クラシカルメイド服を着た茶髪のポニーテールに青い目の女性──
「今日の予定はどうなさるおつもりで?」
「いつも通り、人間界の見回り。何もなければ直ぐに帰ってくる」
「承知しました」
着替えを終えたヴィータはベッドの近くにある、人の顔が彫られた金色のコインを手に取り、それをポケットにしまうと、実と共に朝食を取る為、屋敷内の大広間へと向かった。
*
──人間界
路地裏でピアスをつけた赤い髪に薄緑色の目をした男性が、
ボトルに貼られたラベルには「
「…今回は其方で?」
「あっ、あぁ…。これじゃないと…ダメなんだ……」
「『
「か、金は渡しておく…。…じゃあ」
男性は急ぎ足で走り去った顧客を見送り、軽くため息を吐く。
「リピーターになる分には構わないんだが…。……あの調子だと、そろそろ依存症状態になりそうだ」
そう言って、男性は姿を消した。
*
──上界と人間界の狭間 リベル家の別邸
ヴィータは実が用意した朝食を見る。
野菜スープ、トースト2枚、チーズオムレツ、ベーコンとソーセージ、フルーツの盛り合わせ、紅茶。
「ヴィータ様?」
「……ん、お願い」
「…せめて、お客様が来た時にはなさらないようにお願いしますね」
実はそう言い、ヴィータに朝食を食べさせていく。
2人にとってはよくある日常の一幕でしかないのだが、世間一般で自立している人物が見れば、少し意外に見えるだろう。
「過去の影響とはいえ、まだ心身が完全には回復していませんし…。しょうがないのも分かってはいますが……」
「言いたい事はなんとなく分かってる。…ごめんね、俺の家の事に勝手に巻き込んで」
「いえ。遠縁の親戚なのは事実ですし、私にとって
「…俺より実の方が年上だったっけ」
「ですね」
「……あんまり実感ないなあ」
「
「それはそうだけど、家の事業は母さんに任せてるし…。俺はもっと他にやらなきゃいけない事があるから」
「…同じ血を継ぐのに何故、争わなければならないんでしょうね」
「俺にだって分かんないよ」
朝食を食べ終えたヴィータに、実が一杯の小さなグラスを持ってくる。
ヴィータにとっては
「…ゼット、1人で騒いでそうだなぁ…」
「では、私は片付けておきますのでお先にどうぞ」
「うん。……はぁ」
グラスのそれを飲み終えた後、実に朝食の片付けを任せてヴィータはピーターの待つ屋敷の一室へと向かった。
*
──屋敷の一室
「ヴィータ〜!お願い、ちょっとの間でいいから匿って!!」
「また……。どうせ、
スーツを着た、薄金の髪に黄金色の目をした男性──ゼット・ピーター。
リベル家と比べれば、その規模はかなり大きい。
「それは〜…っ!…人間界の仕事の関係で、女性と関わる事があったからであって…っ!!」
「ヘラの血を継いでる
「仕事の関係ですら
「頭に響く……。…お願いだから声抑えて…」
「…ともかく、どうにかお願い!君の家に対する支援の手は後で幾らでも打つから…」
「全くもう…」
「ダメ?」
こんな言動をしているものの、
突然、部屋にあるアンティーク調の黒電話のベルが鳴る。
それに気づいたヴィータは僅かに揶揄うような目でゼットを見る。
「……誰だと思う?」
「ヴァルカかベリルだったらいーなー……」
「どうだろうね」
そう言いつつヴィータは黒電話の元に行き、電話をかけてきた主を確認する。
「…もしもし」
『ヴィータですか。…ゼットは其方に?』
「…あぁ、うん。今いるよ」
「ちょっとヴィータ!?」
『なら、外に出しておいて頂けますか。後ほど詰めますので』
「そんな気はしてた。…でも、この時期若干寒いから、詰めるんならもうちょっとあったかいところでしなよ」
『お気遣い、痛み入ります』
電話口の声はパイス・ユノーだった。
ヘラの血を継ぐ家の現当主であり、
基本的にゼットの補佐をしており、
「詰めるんだったら、もう少し優しくしなよ。それを主に聞かされる他の子達の身にもなってってば」
『彼はベリルとは別の方向性で自由人ですから。誰かが手綱を握りませんと』
「相変わらず辛辣だなぁ…」
『……つかぬ事を聞くようで申し訳ありませんが、分家の方々との事は大丈夫なのですか?』
「気にしないで。君達の力は借りれる範囲で借りるけど…これは
『…粗悪品ネクタルの件はこちらも聞き及んではいます。ですが、何も貴方1人が背負う必要なんてないのだと他の当主の方々も思っておられるはずです』
「…ありがとう。その心遣いだけで十分だよ」
『幾ら貴方の使うシステムを
「分かってる。…いつ迎えに来る?」
『直ぐに参ります。実さんに用意をしておくように伝えていただければ』
「オッケー。じゃあ、また」
パイスと電話口で話をした後、電話を置く。
パラス・グラウコス、アレウス・グラディウス。
それぞれアテナ、アレスを祖神に持つ
何よりそれぞれの家の現当主であり、戦略、戦闘を得意とする。
それ故か、互いをライバル視しているようだが。
「…また稽古つけてもらおうか……」
「ヴィータ〜…もう、どうして言っちゃうのさ」
「どっちみち、俺に電話してきたって事は割と直ぐにバレてたんじゃない?」
「ヴィータ様」
片付けを終えた実が2人のいる部屋に来ると、ヴィータにコートを着せる。
「ん、ありがとう。…俺が行った後パイスが来るみたいだから、粗相のないようにね」
「承知しております。…お気をつけて」
「うん」
実が一礼してからヴィータを見送った後、彼はそのまま庭にある1本の木の下に向かう。
「…っ!」
その木の枝を掴み、僅かに力を込めると一瞬の内にヴィータの姿はそこから消えていた。
*
──人間界
─雑踏の中
「…日本か」
ヴィータにとっては馴染みのない場所。
最も、あの
「とりあえず…」
彼がおもむろに取り出したのは、ポケットに入れていた人の顔が彫られた金色のコイン。
下の部分には「
そのまま深呼吸をし、コインを人差し指と親指の間に置く。
「人に聞くなら表、自分で探索するなら裏」
呟いた後、コインをそのまま空に向かって弾く。
どっちみち調査をするのは変わらない。
指針を決める為だ。
僅かな間の後、空に飛んだコインは彼の手の中に収まる。
出たコインの上を向いた面は無地、つまり裏。
「…指針は決まった。じゃあ、行こう」
面倒だが、これをこなせるのは自分だけ。
周囲を見回し、ヴィータは再び歩き出した。
*
アパートの一室にある薄暗い部屋の中で、男は赤い髪に薄緑色の男性から受け取った
部屋の中には男と付き合っていたらしい女性が映っている写真や幾つかの缶、衣服などが散乱しているが、男はそれを気にも止めず、グラスに何回も注いでは飲んでいく。
飲んでいく内に面倒になったのか、グラスに注ぐ事すら止め、直で飲むようになっていた。
「──…なんで、おれだけいきて…っ」
男の目の前にはその女性が
女性が、何かを言おうとしている事も。
「あぁ、そうか──最初から、そこに……」
その言葉を皮切りにして、男の姿が変化していく。
最後に嘴と翼を押さえつけるかのように金色の装飾、背中部分にネジが無理やり装着される。
『っ〜〜……!!』
鳴くことも出来ない墓場鳥は、そのままどこかへと飛び立った。
*
ヴィータは適当に歩きつつ、気配を探っていた。
分家筋が無理に改良しようとしているネクタルはそもそも
下手に手を加えれば、どうなるのか分からないのがネクタルだ。
「
過ぎた事を言ってもしょうがない。
再び依存者の気配を探ろうとした矢先、ふと聞こえた声がした。
「…?」
見ると赤いカチューシャを着けた青緑色のミディアムカットに赤い目の少女が、粗暴な輩に突っかかられているのが見える。
少女の方も言い返してはいるようだが、このままだとヒートアップして最悪面倒な事になりかねない雰囲気もしている。
「……穏便に助けるなら表、そうでないなら裏」
2回目のコイントス。
出たのは表。
なら。
*
「──君達、なにしてるの?」
赤いカチューシャを着けた青緑色のミディアムカットに赤い目の少女──
突然割り込んできた青年を男達は
「なんだ、お前?…見た目はいいとこ育ちみてえだし、カネ寄越せよ」
「…随分昔に大きい災害が起きたのは知ってたけど、まだ
「あ?何ぼそぼそ言ってやがる?」
「…別に。
「っ…!!このやろ…!」
輩の1人が青年に殴りかかるも、彼はそれを避けてから一言呟いた。
「……穏便に済ませる心づもりだった、んだけど…なぁ。…はぁ」
襲ってきた輩を青年は1人ずつ沈めていく。
1人は掌底打ちで、1人は手刀で、また1人は蹴り、そして突きで。
最後の1人は回し蹴りで。
「…あんまり激しいやり方はしたくなかったから、これで手打ちにしてあげるけど。逃げるなら、今のうちだよ?」
そう言う彼の目には感情が見えない。
いや──喜怒も威嚇も感じようがない目だった。
まるでそうなってしまったかのような、
「っ…!」
輩達は青年に対して恐怖が上回ったのか、慌てて逃げていった。
「えと、助けてくれたのはありがたいんだけど…。名前、聞いても大丈夫?」
「ん、うん」
「──俺はヴィータ・リベル。よろしく」
*
──鍋料理専門店の一席
「…貴方、かなり食べるのね」
聖愛は表情をあまり変えずにキムチ鍋を食べるヴィータを見ながらそう言った。
というのも、あの後にヴィータはそのままどこかへと行こうとしたのだが、助けて貰った以上何か返せるものはないかと打診した結果、こうして彼に鍋料理を奢る形になったのだ。
「家じゃあんまり食べないから…。基本的にコース料理みたいなのも大きいけど」
「というか、今食べてるやつって最大の辛さよね?平気なの?」
「
言いつつ、既に鍋は空になりつつある。
「…あと鍋2つ分」
「まだいけるの?!」
「まともに味だと思えるのがこういうのしか無いから…。…そういえば、君って篝コンツェルンのところの娘さん?」
「知ってるの?」
「…知らない?クラテル酒造。うちの家がやってる酒造系企業」
「そりゃ名前くらいは知ってるって。本社がギリシャにあるらしいから、日本に支社置いてるって事くらいしか」
「俺、そこの後継ぎ。正確に言えば、まだ一部の事業は母親に任せてるけど……」
「は?!その内息子がちゃんと社長になるって言われてるとは聞いてる…。…アンタなの?」
「勿論。でも、今は家の中で色々
「…そう」
「深くは聞かないんだ」
「そういう関係性じゃないもの。それに聞いたところで私がどうこう出来るわけじゃないでしょ」
「…今の俺は君の髪や目の色が薄らとしか分からない、立体的には見えるけど…霞む。辛味は感じられても、それ以外の味覚は分からない。それ以外の嗅覚も触覚も聴覚も、かなり鈍ってるんだ」
「…!」
「随分昔にまだその時じゃないタイミングで必要なものを過剰摂取したから、って言われてるけどね」
「…感情の起伏が薄いな、とは助けて貰ったあの時から感じてたのよ。……まさか」
「あぁ、
「っ…」
「どうしたの?」
2杯目のキムチ鍋に手をつけたヴィータが不思議そうな顔をしているように見えた。
きっと、それは気のせいじゃない。
「なんでもない。…この後はどうするつもり?」
「依存者の探索。早めに見つけないと大変な事になるから」
「治療でもするってこと?」
「ちょっと違うかな」
手をつけていた小皿の上に箸を置くと、ヴィータははっきりと聖愛の目を見ながら言った。
「これはうちの家で起きてる事だから。だから、当事者である俺が片付けなきゃいけない事でもある」
「でも、アンタまだ成人してないんじゃ?」
「
「…実年齢考えたくないわね…」
「?」
「こっちの話よ」
「…ん、これ」
ヴィータが聖愛に見せたのは持ち歩いている金色のコイン。
「コイン?」
「俺が普段の行動の指針にしてるんだ。…表に彫られてる
「ディオニュソス…?」
「うん」
聖愛が恐る恐るコインを眺めるのをヴィータは気にせず食べている。
「…とりあえず返すわ」
「ありがとう」
その後ヴィータが3つ目のキムチ鍋を食べ終え、聖愛もその探索についていく事にした。
*
金色の装飾が着いた褐色の鳥の怪人は
背中のネジを無理くりに巻いて動かしながら。
まるで自らの体も無理やり動かしているかのように。
*
「そう簡単には見つからないか…」
「当てはあるの?」
「気配を探ってる。粗悪品と言っても、うちの技術が使われてるのは変わらないから」
「気配って…」
「…こっち」
「ちょっと?!」
突然歩こうとしていた方向とは反対の方に歩き出したヴィータを慌てて追いかける。
次の瞬間。
「避けて」
「っ!?」
咄嗟に回避したものの、先ほどまで聖愛が立っていた場所には褐色の羽が刺さっていた。
「…いた、ドランク」
ヴィータが目線を向けた方には嘴と翼に金色の装飾をつけた歪なサヨナキドリのような怪人が2人を見ている。
嘴は装飾で押さえつけられているはずなのに、鳴き声が聞こえる。
「ドランク?」
「細かい事は後で話す。…今は下がってて」
ヴィータはそう言い、茶色いガラスのような色合いのドライバーを取り出して腰に装着する。
《ブルーイングドライバー》
それにブドウの描かれたラベルが貼られたタリスマンを装填し、更に皮の黒い葡萄を模ったコルクをセットする。
《
そこからドライバーを操作すると、内部の炉心が点火し、操作。
《
《
そして、ヴィータはその為の言葉を口にした。
「──変身」
まるで全身から脱力したかのように待機状態になると、同時に両目が紫色に光る。
それと共に装填されていた空のタリスマンに赤いワインが封入されていく。
ブドウの蔓がヴィータの全身に巻きつき、それが変化する。
黒いアンダースーツの上にワインレッドの装甲が各部に装着。
顔部分に牡鹿を模した同色の仮面が展開され、ブドウの冠が仮面上部に合着。
最後に複眼が金色に光り、各部の装甲の隙間から煙が発生して消える。
《──
「酒は飲んでも呑まれるな、ってね」
仮面越しに言う彼の声色はどこか
*
「サヨナキドリ…。命名するならナイチンゲール・ドランクか」
ナイチンゲール・ドランクは嘴で攻撃するも、ニューサはそれを片手で受け止め、そのまま上へと持ち上げ、反対側の壁へと吹っ飛ばす。
ナイチンゲール・ドランクは咄嗟に受け身を取るも壁に激突する。
『っ、っ〜♪』
「…また、あの鳴き声?」
『?!』
だが、その鳴き声はニューサにはまるで効いていない。
それにドランクは動揺していた。
「鬱屈とした感情を引き出す鳴き声…ホント、面倒な粗悪品に踊らされてる」
動揺したドランクを尻目にニューサは連続蹴りで追撃し、更に打撃を見舞う。
「……はぁ」
「っ…!」
起きあがろうとするドランクを横目にニューサは前髪をかきあげるかのような動作をした後、ドランクを見やる。
ドランクは尚も諦めていないのか、立ち上がって翼を無理くり動かす。
すると華美な装飾のサヨナキドリの怪人がもう1体現れる。
「…分身か」
『『〜〜♪』』
「──だから、何?」
刹那、2体のドランクをブドウの蔓が拘束し、ゆっくりと手を動かして頭上より上に。
「持ち味活かせないなら、意味ないよ?」
ニューサはドライバーを操作すると装甲が僅かに動き、変身の時と同じように煙が発生する。
《
ドランクを拘束している蔓をバネのようにし、上空へ。
空中で体勢を整え、利き脚蹴りの状態に。
「……短期決戦で決める」
《
そして、空中からの連続蹴りが2体のドランクを仕留めた。
僅かな爆発と共にドランクだった男は倒れる。
「…後は然るべきところで治療かな。……ん」
ニューサはおもむろにラベルの貼られていない空のタリスマンを取り出し、男の近くに発生している霧のような物をタリスマンの中に。
タリスマンの中身が満たされた事を確認すると封をし、変身解除する。
「大丈夫?」
「君の方こそ」
「また助けられたわね。ついていったのは私の責任だけど」
「気にしてないよ。…!」
「何?」
「──冷やかしなら帰ったら?」
ヴィータの目線の先には彼とそう年の変わらないように見える赤紫の髪に黄緑色の目をした青年と赤い結い髪に深緑色の目をした少女に向けて言った。
「酷いな、せっかく合間を縫ってきたのに」
「管理と醸造・蒸留作業も大変なんだから〜」
「…グーズベリー、チェリー」
「……知り合い?」
「知り合いどころじゃない。俺の
赤紫の髪に黄緑色の目をした青年──グーズベリーと赤い結い髪に深緑色の目をした少女──チェリーに対し、明確に警戒するかのように聖愛の前にヴィータは立った。
「
「祖神に由来する力を発現させられない癖になんだって?」
「
「どうせ口先
「私達だって
「──そうやって、自分で決めないで逃げるんだ?」
「っ!!」
「…行こう、チェリー」
ヴィータが先ほど言った言葉が何かまずかったのか、2人は姿を消した。
ヴィータは溜め息を吐きつつ、聖愛に向き直る。
「そうだ、今から時間ある?」
「?」
「せっかくだから、色々説明しておきたいと思って」
*
──上界と人間界の狭間 リベル家の別邸
「実、ただいま」
「おかえりなさいませ。…そちらの方は」
「ん、色々話したい事あるから連れてきた。用意は飲み物だけでいいから」
「承知しました」
要件を聞いた後立ち去った実を聖愛は不思議そうな顔で見送る。
「…あの人しか雇ってないんですか?」
「色々あって。…ほら、こっち」
「わ、分かった」
彼が案内したのは恐らく自室だった。
「とりあえず座って」
「……込み入った事情があるのは、さっきの2人とのやり取りで分かった…けど」
適当な椅子に腰掛けつつ、思った事を口に出す。
ヴィータはそれを予測していたのか、1個の写真立てを聖愛の近くに。
写真立ての写真の中には恐らく幼いヴィータ、そして金髪青目の母親と思しき女性、濃紫の髪を軽く結んだ金色の目の父親と思しき男性が一緒に映った写真が1枚。
「…これ……」
「俺が今の歳になるかなり前、父さんがなんでか分からないけど、俺の直系としての力を無理くり覚醒させようとした時があったんだ。……今俺の体に起きてる諸々は半端に覚醒した影響で発生したハンデみたいなもの」
「…お母さんは?」
「俺の代わりに表向きの会社の事業を取りまとめてる。旧姓はスパークスって聞いたから、多分嫁いできたんだと思う。今はシードル・リベルって名前だから多分君も知ってるはず」
「……じゃあ、お父さんは?」
「さっき話した一件以降、行方不明。協力的な他の家の人達が探してくれてるけど、まだ見つかってない」
「っ…」
「ごめん、一気に話しちゃって」
「大丈夫。…ドランクはなんなの?」
「
「?人間だけじゃないの?」
「上界には俺達の家だけじゃなくて、かなり薄く神の血が混ざってて殆ど人間と変わらないニュンペーって存在が大半でさ。無自覚に人間界で暮らしてる子達もいるけど…そういう子達が過剰摂取しても、ドランクになる」
「嘘でしょ…?!」
「ホットドリンクをお持ちしました。どうぞ」
「あ、ありがとう」
実からホットドリンクを受け取った聖愛は一口飲む。
ヴィータはそんな彼女を見つつ、実を見た。
「実も、そういうニュンペーの1人なんだ。俺の親戚筋に当たるから、色々手伝って貰ってる」
「ポセイドンの直系であるガイオス家の遠縁でもありますが」
「なるほどね。…そのネクタルっていうのがアンタがああしなきゃいけない理由になってるんだ」
「うん。…実、細かい事はお願い。ちょっと外の空気吸ってくる」
「承知しました」
「あ、ちょ…!」
自室から出ていったヴィータをそのまま見送る形になった実と聖愛。
一方、実はというと聖愛を見ながら僅かに微笑んでいた。
「なによ」
「いえ。ヴィータ様が外から
「その言い方だと結構古い仲みたいだけど…?」
「…貴女様が推察なさった通り、ヴィータ様が戦う要因の1つにネクタルが関係しているのも事実です。彼の体がそれに関連しているのも、それが要因ですから」
「どういう事?」
「本来なら、然るべき年齢の時に専用酒を一定量飲む事で覚醒する家なのですが…彼はまだ若年の時に専用酒を過剰摂取した事で五感の殆どが鈍くなってしまっていまして。彼が変身に使うシステムはそれの解毒をゆっくりとではありますが、進める目的もあるのですよ」
「!」
「…でも」
一呼吸置いて実は聖愛に対し、はっきりと言った。
「ヴィータ様が自らの意思で客人を入れたのは
*
──別邸内 庭
「はぁ…」
ヴィータは庭を散策しつつ、ため息を吐く。
「父さんも父さんだ。なんで、まだ…」
その先は言おうとして止めた。
自分の父が、先代当主であるミード・リベルがそんな事をするはずがないと頭では分かっていたから。
「…正規ネクタルの製造法は
だから、変に
どっちみち、
耐えられるわけがない。
「…でも、グーズベリーもチェリーも昔はあんなんじゃなかった」
なら、この違和感はなんだ。
この妙な感覚はなんだ。
行方知れずの
「…繋がりそうで繋がらない」
また、思考回路に
「早くなんとかしないと」
実父のいない今。
──正規ネクタルの製造法を
*
──上界 使われていない社屋と工場
「ただいま〜」
「グーズベリー、チェリー。何をしていた?」
「プラム叔父さん、ちょっとヴィータのところに顔出してただけだって」
「そうそう。景気付けに仲良くってな」
ピアスをつけた赤い髪に薄緑色の目をした男性──プラムがグーズベリーとチェリーに問うも、2人はなんて事のない様子で振る舞う。
「ローズ母さんは?」
「アナナスと共に資料探し中だ。まだ帰ってくるのに時間がかかるだろうな」
「分かった。じゃあチェリー、いつも通り仕事に戻るか」
「だね〜」
仕事に戻った2人を見送ったプラムは別の靴音に気がつく。
異なる結び方をした濃紫の髪に薄黄色の目、
「シトラス
「…支援者から連絡があった。
「それくらいなら、流通担当の私には関係ありませんね」
「ローズと婚約している以上、君にも
「承知してますよ」
─同施設内 最奥
濁った金色の目をした男性が拘束されている。
衣服や肌には数えきれないほどの傷が見える。
男性は僅かながらに目を開けながら、辛うじて言葉を紡ぐ。
「ヴィータ……すまない…」
その言葉と共に男性は再び意識を失った。
Grand.0
オリュンポス十二神及びその番外位の神々の血筋である、15の直系の家。
各々が先祖に当たる神に類似した能力等を有するが、それらを行使出来るのは基本的に直系の血筋のみである。
リベル家/クラテル酒造
ギリシャ神話の酒の神「ディオニュソス」を祖神とする家。
上界ではコンセンテスやその血縁者にしか効力を発揮しない飲料「ネクタル」を主に生産しているが、人間界に於いては酒の販売などをメインとする企業「クラテル酒造」を経営している。
過去の騒動により、嫁入りしてきたシードルが表向きの事業を取りまとめ、まだ幼いヴィータが当主となった。
現当主はヴィータ・リベル(但し、表向きの事業は母であるシードルが行っている)。