誰かの声が聞こえる。
何に、誰に怒っているんだろう。
「俺の寿命が尽きる前に
「──さん、そんな事をして彼女が耐えられると思っているんですか…?手立ては他にだって……」
「あの襲撃の後、生き残れたのは俺達2人と彼女だけだ。…α社やβ社に勘づかれないように完遂するにはこれしかない」
ねえ、どうして貴方は。
そんな悲しい目でどこか遠くを見ているの?
「始めよう。彼女を称える為の────を」
ある企業がこれまで存在した技術とは全く異なる、文字通り神の御業に等しい
以降、この世界ではその技術やそれの派生によるものが大半を占めていき、宗教や信仰は廃れていった。
料理、衣服、武器、生活の為のエネルギー、生活必需品、治療技術、肉体強化の
もし、この急速に変化していった世界を異世界から来た人が見れば、こう言うだろう。
「神は死んだ」と。
だが、超常的な技術を安定的に確保し供給するのは簡単ではない。
最初にその
そういった技術を扱う作り手や、戦える者は工房を設立する事もあれば、
地区の住民は裏路地の住民よりいい暮らしが出来る事を望みながら、どこかの
裏路地の住民は夜に現れる脅威に震えながら命を繋ぎ、都市に入れない外界の住民は外界の怪物を恐れ。
契約不履行や、裏路地を支配する組織による報復による死はまだ序の口で。
それによる死を受けた誰かが報復を求めて立ち上がり、連鎖が続く。
誰も彼も、夢を見る事も、希望を信じる事も、何かを信じる事も無くなった。
そうして、この都市は回っている。
*
──
地区の一角にある家の中でどうにか起き上がって準備している女性が1人。
今日は彼女にとって、初出勤の日でもあると同時に入社日でもある。
「遅れちゃだめなのに〜!」
近くにあるネームプレートには「
黒いショートヘアに金色の目をした女性──メアリーは簡易的なスーツを着ると、近くにあった眼鏡を着ける。
「…うん、これでよし」
姿見に映った自分の姿を確認して、彼女は小さく頷く。
「…靴は動きやすい方がいいかな」
靴を履き終え、そのまま彼女は急ぎ足で向かう。
この地区にあるΛ社は都市でも有数のエネルギー事業を行っている
噂によると、他の
その前に「Λ」の席に座っていた
勿論、地区が同じ文字を冠しているという事はその地区に本社があるという事でもある。
メアリーは時間に間に合わせる為、更に急いでΛ社本社に向かった。
*
──Λ社本社
本社内の廊下にて、メアリーは迷子になっていた。
というのも、同期の職員達の姿が中々見当たらないからだ。
「どうにか見つけられたのはいいけど、なんで地下に埋まってるんだろ…?」
「よーっす!」
「…わあ?!」
「うわ、びっくりした…。…って、なんだ。お前も今日から入った奴?」
「そうだけど…。…デュークさん?」
「おー、よろしく」
メアリーの目の前に突然現れたのは、スーツを着た金髪青目の男性。
胸元のネームプレートには「
「…ん、メアリーか。よろしく」
「は、はい」
「お前も
「違います!…入社式の会場探してるんですってば」
「あー、それは俺もだわ。せっかくだから一緒に行くか、同期だろうし」
「ありがとうございます」
デュークと一緒に会場に向かう中、ふとメアリーは質問する事にした。
「そういえば、なんでデュークさんはΛ社に?
「そりゃあ、この会社がクリーンなエネルギー産業やってるとこだし。それに
「地区の移住権…?」
不思議そうな顔をするメアリーに対し、デュークは僅かに目を細めつつ、少し語気を強めた。
「ピンと来てないみたいだが。…さてはお前、地区出身か?」
「記憶の限りではそうだったと…」
「なんだその曖昧な言い方。…まー、外界出身の住民はそんな簡単に地区にある支社とかには入れないだろうし、もしかしたら裏路地辺りの出身だったんじゃねえの?」
「…かもしれないですね」
「後はまあ〜…ここの会社って他のとこと比べて、煩雑な試験がねえの。だから、あっさり入れさせて貰えたわけだ。それに」
「?」
「……いや、お前に明け透けに話すにはまだ早いか。着いたみたいだぞ」
「ありがとうございます」
「俺も一緒に入るんだから誤差だよ誤差。…ほら入った入った」
デュークはそう言い、メアリーが会場に入った事を確認すると自分も同じように入った後、音もなく扉を閉めた。
*
相当数の職員が会場にいる中、メアリーが一番に目を引かれたのはこの暗い地下の灯りの中でも目を引く、青空のような青いワンサイドアップの女性。
目を細めながら此方を見ている為か、完全な目の色は遠目からでは分からない。
ぼーっと見惚れていると隣に座ったデュークが小声で話しかけてきた。
「あの人、気になるか?」
「はい?!…ま、まあ…」
「なんでも、今のΛ社の社長代理兼管理人秘書なんだってよ」
「社長代理兼管理人秘書?」
「噂程度だけど。…あぁ、でも──」
デュークが言っていたらしい言葉は女性がオンにした音声アナウンスと共に掻き消えて聞き取れなかった。
「皆様、今回の入社についてお慶び申し上げます。…Λ社本社の社長代理と統括を務めているAIのアンジュと申します」
その一言に会場内が大きくざわついているのが分かった。
何故そんなにざわついているのかは分からなかったが。
しかし、青空のように青いワンサイドアップの女性──アンジュは気にせず言葉を続けた。
「本社はクリーンなエネルギー事業として、エルケファリン生産事業を行っております。ここに来るまで皆様も一度は使った事があるでしょう」
「ですが、それはあくまで創設者が目指したものの過程で発生した副次物に過ぎません。我が社の社訓は『
「本日入社した皆様は式の後、教育部門に移動し教育を受けてから適性のある部門に向かっていただきます。…後ほど、個別で話をしたい方がいますのでそちらの方は式後に残っていただけますよう」
そう言ったアンジュの目は一瞬メアリーを見ていた。
「また、Λ社では安定した引き継ぎ業務を行えるようにする為、
その言葉の前後に渡された紙を確認していた者達が多かったのは当然だろう。
そして、意外だったのが。
「…えっ」
メアリーの紙にははっきりと「
それを横目で見たデュークに小突かれたのは言うまでもなく。
その後も形式的な話が続き、アンジュが形式的な挨拶を終え、式は終わった。
デュークは先に立ち上がり、他の面々と共に教育部門に行くようだ。
「お前は目指しで待機って言われたんだろ?…また後でな」
「う、うん」
他の面々がいなくなったのを確認すると、2人きりになった部屋の中でアンジュはメアリーの傍にやってくる。
そして、メアリーにとって意外な一言を彼女に告げた。
「歓迎致します、管理人様」
「──えっ?!?」
*
──Λ社本社内
式の後、メアリーはアンジュについてくるように言われ、「管制モニター室」と呼ばれる場所に案内された。
モニター室に入室し、椅子に腰掛けてからメアリーは思っていた疑問を口にした。
「…どうして私を管理人に?」
「創設者様のご意向です。…そして、貴方様に仮面ライダーの資格があるとも言っておられました」
「仮面ライダー…?」
「それぞれの
アンジュが言いつつメアリーに渡したのは、レモン色、紫色、オレンジ色、緑色の種のような物とそれが嵌るような
「…これを使うって事ですか」
「理解が早くて助かります。……管理業務の前に部門セフィラの1人に顔見せしに行きましょう」
「セフィラ?」
「職員達の間ではエンジェルとも呼ばれております。…では行きましょうか」
「
*
──Λ社本社内
4つの中部屋に2つのエレベーター、6つある廊下。
照明は薄らと黄色く感じる、この部門が最初らしい。
アンジュの後をついていくと目線の先にスーツを着た、赤いカチューシャを着けたオリーブ色のロングヘアにレモン色の目の女性がいるのが見えた。
利き腕には「M」の腕章があり、手にはそれぞれ使い古しているらしいメモ帳と赤いペンシルが。
マニュアルを作った後だったのか、近くには資料がまだ散乱している。
「マルクト、管理人様が来る前には業務中でも片付けておくようにと言ったでしょう」
アンジュの目は瞑られていて表情は分からないし、淡白な声色ながらも彼女を叱っているように思えた。
「ごめんなさい!…そちらの方が管理人さんですか?」
赤いカチューシャを着けたオリーブ色のロングヘアにレモン色の目の女性──マルクトは慌てた様子でペンシルとメモ帳をしまい、メアリーに向き直る。
「は、はい。…メアリーです、よろしくお願いします」
「自己紹介が先ですよね。私はマルクトです、
「指揮部門…」
「管理人さんなら、最初に私の部門での研究が優先になりますね!」
見たところ、ポジティブなのは確か。
使い古したらしいメモ帳があるのも、彼女の勤勉さ故だろう。
「マルクト、今日はあくまで顔見せに来ただけよ。部門研究と管理業務はその後」
「す、すいません」
「アンジュさん、そこまで言わなくても…。マルクトさんが本人なりに頑張っているのは一目見ただけでも分かりましたから」
「管理人さん…!」
「メアリーでいいです。…名前じゃない肩書きで呼ばれるの、落ち着かなくて……」
「…管理人様がそうおっしゃるのであれば、後に他のセフィラにも伝達しておきます」
アンジュがどこか呆れているように見えたが、きっと気のせいではない。
「顔見せは終わりましたし、次の場所に行きましょう」
「次の場所?」
「訓練場です。Λ社が管理している存在に対する個別の作業方法と、ライダーとしての鎮圧方法を学んでいただきます」
*
──訓練場
中に入ったメアリーの前にいたのは、拍子抜けするような見た目の存在だった。
ウサギの起き上がりこぼしのような見た目をした、可愛らしい存在。
「……えーっと…?」
「我が社が管理・収容している
起き上がりこぼしのような存在はメアリーを見てピョンピョン跳ねている。
やっぱりウサギなのか。
「我が社が管理している異常存在は人型のアーティファクト、そうでないオブジェクトに区分されます。そこから更に危険度毎に5つのクラスで分類、根源的な3つの分類と詳細な8つのタイプ分類で分けられています」
「この子は…?」
「訓練用ウサギロボです。クラスは
「なるほど…」
「…では今から、これを一時的に変化させます。先ほど渡したアイテムを使って対処して下さい」
「訓練ってそういう事かぁ!!」
同時に頭上からオーラのような物を浴びた「訓練用ウサギロボ」が変化する。
藍、白、黄色の色合いはそのままに皮が剥がされたようなウサギの怪物に変化する。
それと同時にメアリーは白と黒の大型アイテムを腰に装着すると白い帯が自動的に装着される。
《マイティドライバー》
直感で選んだのはレモン色の
それをマイティドライバーに装填。
《
装填されたセフィラシードと同じように近くにあるドライバーの発行部分がレモン色に光り、ドライバーに描かれている樹の一番下の部分がレモン色に点滅。
そして、メアリーはその為の言葉を告げた。
「変身!」
《
黒いアンダースーツを装着し、両脚・利き腕と体の右半分に小豆色の装甲が展開されて装着。
それ以外の装甲は装着されず、水晶が所々に合着。
右肩に短めのオリーブ色のマントが合着。
最後に小豆色の天使のような仮面が展開され、複眼がレモン色に光ると共に、利き手に水晶で作られたような見た目の長剣が現れる。
《
「変身は出来たようですね。…では訓練を開始します」
「ところで、あの状態って何?!」
ニンジン弾丸を飛ばしてきた訓練用ウサギロボが変化した存在を見つつ、ゾーハルは弾丸を回避する。
「命名するならば、アノニマスでしょうね」
「つまりラビット・アノニマスか!分かった!!」
ラビット・アノニマスが飛び跳ねと共に襲いかかるも、ゾーハルはそれを剣で受け止めて蹴りを食らわせる。
ラビット・アノニマスは壁に激突し、再び飛び上がる。
──が、ゾーハルの動きはそれより早かった。
水晶のような刃が既にアノニマスの喉元に突きつけられていた。
「戦闘は初めてでしたか?」
「いや、
ラビット・アノニマスが0距離で放ったニンジン弾丸をゾーハルは全て剣で粉々に。
「…ちょっと、この子じゃ手隙かもね」
メアリーは、ゾーハルはノーダメージで一度剣を地面に突き立ててからそう言った。
「次の訓練用はもう少し骨のあるアノニマスを用意しましょう」
「…そろそろ決めて大丈夫かな?」
「ええ」
アンジュの言葉を聞いたゾーハルは水晶の剣にあるセフィラシードの差し込める部分に気づき、ドライバーに装填していたセフィラシードを装填。
《
猛るレモン色は、オリーブ色は、小豆色は、水晶の剣に収束する。
──そして、それは虹色の輝きを現す。
「…はぁっ!!」
《
虹の一閃がラビット・アノニマスを貫いた。
それと同時にラビット・アノニマスは元の訓練用ウサギロボに戻る。
先ほどのオーラもいつの間にか消滅していた。
それを確認したメアリーは変身解除し、アンジュに目線をやる。
「及第点です、お疲れ様でした。管理人様」
「…まだ疲れてないから。それで、次は?」
「業務意欲があるのは喜ばしい事です。…では管理業務と部門研究に参りましょうか」
*
──Λ地区とμ地区の間
μ地区にあるΛ社支社に向けて走る車が1つ。
車の中には本社で抽出されたオブジェクトが1体。
オブジェクトのナンバーは「O-03-03」。
その車を見つめる
「
人影の手にはナイフが見える。
この都市では珍しい、至って何の変哲もない代物。
それには真新しい血が。
「まー、資金源も確保しないとだしなあ。マリーもオーエンも、そんくらいなら気にしないだろ」
護送車を暫し見た人影はその場から大きく飛び上がり、護送車の前に着地する。
車は慌てて止まり、中から護送していた
すると、人影は不定形から薄緑色の髪に緑色の目をした男性の姿に変わる。
男は猟奇的な笑みを浮かべながら、
「──俺を満たしてくれる女はいるかぁ?」
*
一方、Λ社本社内の管制モニター室にて。
「管理人様にはオブジェクトやアーティファクトの管理業務、各部門セフィラとの部門研究を行っていただきます」
「なるほど…」
その後もアンジュによる話は幾つか続いた。
今は
職員達のランクによってはモニター室から指示する動きが変わってくる事など。
「…私自身、1人でもこの会社を回す事自体は可能ではあります」
「そうなの?」
「私を造り上げた方々は、それはそれは優秀な方々でした。この都市を広く見ても、そう多い人材ではないでしょう。ですから、その方々に造られた私が1人でこの会社を統括する事が可能なのは当然の事です。きっと私の存在によって相当数の方の仕事は失われたでしょう、残念ながら」
「結構自信満々な言い方しますね…」
「また、私の外見は製作者によって人に好感を持たれやすいものとなっています」
「…言われれば」
「その他の特徴として、私は人間に限りなく近い感情を感じる事が出来ます。…以上の理由から、私は管理人様の完璧な最上の
「…なるほど?」
「それでは部門研究と管理業務に移りましょうか──」
アンジュがそういった矢先、モニター室で警報音が鳴る。
「何?!」
「支社に送っている最中だったオブジェクトの護送車が襲われたようです、アノニマスは人間の感情に触れても変化する可能性があります。…対処を行って頂いてもよろしいでしょうか」
「そんなかしこまった言い方しなくて大丈夫だから。…行ってくるね」
「お気をつけて行ってらっしゃいませ、管理人様」
ドライバーとセフィラシードを持ってモニター室を駆け足で出ていったメアリーを、アンジュは一礼して見送った。
*
──護送車が襲われた現場にて
護送車を襲った男は車内に押し入る。
男は車内にいるオブジェクトを見ると小さく呟いた。
「…俺
男が取り出したのは濃緑色の液体が入った小瓶。
その中の液体を僅かに内部に収容されていたオブジェクトに向けてかけると、その姿が変化する。
茨が頭部の頭蓋骨以外に絡みつき、人型となる。
十字架が熱を持ち、それは熱を持つ十字架を空中に掲げる。
「命名するならスカル・アノニマスってとこか。…っと」
男は小瓶の蓋を閉め、飛び上がると先ほどいた場所に近い位置に。
「飼い慣らされたお前がどこまでやれるか、見せてみろよ。…
*
メアリーが現場に到着した時には既にアノニマスがいた。
「誰かがああしたって事だよね…」
《マイティドライバー!》
ドライバーを装着し、セフィラシードを選ぼうとしたメアリーの耳元にアンジュの声が遠隔で届く。
『管理人様』
「あ、アンジュさん?!」
『…何者かが護送車中だったオブジェクトに手を加えたようです。詳細情報は観測出来ていない為、危険度クラスを連絡するべきと判断しました』
「助かる。…クラスは?」
『クラスは
「つまり、そこまで危険じゃないって事だよね」
『はい、このクラスは万一に社内で脱走したとしても被害は比較的少ないクラスですから』
「後は
『ご健闘と無事を祈ります』
その言葉を最後にアンジュからの連絡は切れる。
メアリーが直感で選んだのは紫色のセフィラシード。
「…よし」
《
装填されたセフィラシードと同じように近くにあるドライバーの発行部分が紫色に光り、ドライバーに描かれている樹の一番左下が紫色に点滅。
再び、メアリーはその言葉を発した。
「──変身!」
《
黒いアンダースーツを装着し、両脚・利き腕・左半分に紫色の装甲が展開されて装着。
それ以外の部分は装着されず、背中部分に歯車が音を立てて合着。
左肩に銀色の短い肩マントが合着。
最後に紫色の天使のような仮面が展開され、複眼が銀色に光る。
《
ゾーハルはアノニマスを見据える。
「見た感じ、格闘でなんとかしてねって事かな…っ!」
スカル・アノニマスが茨による攻撃を展開するも、ゾーハルはそれを回避。
建物の壁に茨が刺さりそうになったところで、ゾーハルはそれを掴み、スカル・アノニマスを引き寄せる。
スカル・アノニマスは冷気でゾーハルの動きを止めようとするも、ゾーハルは茨を自身の前に動かし茨を凍結させる。
上空から熱を持った十字架がゾーハルに向けて落下するが、それを回避し、飛び上がって蹴りと打撃を食らわせる。
すると一瞬アノニマスの動きが鈍くなったように見えた。
「…もしかして、毒?」
接触が必要という条件付きだが。
スカル・アノニマスは堪えたのか、凝固させた血で攻撃してくる。
それを避けながら、ゾーハルはアノニマスとの距離を詰め──
「らぁっ!!」
既に構えていた拳によるパンチを食らわせた。
『管理人様、少しよろしいでしょうか』
「…何?」
『今から、1つだけ管理人様が使っているシステムに対応しているアシストアイテムを転送します。決定打への時間稼ぎに使用して下さい』
「助かる。流石に格闘だけじゃ限界があるから」
同時に転送されてきたのは蝶のような物が棺上部に見える小型アイテム。
「…これは?」
『
「……分かった、やってみる」
ゾーハルはドライバーにあるスロット部分にアイテムを装填。
《
白い蝶のようなものが寄り集まり、ゾーハルの手元に武装を発生させる。
ゾーハルがそれを掴むと蝶のような装飾の見える白と灰色の二丁拳銃に。
「なるほど、銃か!」
スカル・アノニマスは再びゾーハルに向かってくるが、ゾーハルは躊躇いなく二丁拳銃を放つ。
すると着弾と同時に数匹の白い蝶がスカル・アノニマスの辺りを舞う。
周囲を舞う蝶を減らす事に意識を削がれているのか、こちらに殆ど攻撃は飛んでこない。
が、ゾーハルは確実に弾丸でダメージを与えていた。
「そろそろ決めよう。アンジュさん、これってセフィラシードは使える?」
『出来ませんね』
「分かった」
ゾーハルが二丁拳銃を宙に投げたと共にそれは消え、ドライバーを操作し、再びドライバーの点滅箇所が紫色に点滅する。
《
「はぁああっ!!」
ゾーハルの蛇のような濃紫のオーラを纏った片足回し蹴りがスカル・アノニマスに突き刺さる。
大きな爆発の後、アノニマスは元のオブジェクトの姿に戻る。
「…とりあえず一安心、かな」
『お疲れ様でした。手配は改めて私がしておきますので戻ってきていただければ』
「うん、分かった」
*
──Λ社本社内 管制モニター室
戻ってきた後、メアリーはアンジュに手伝って貰いながら管理業務を進めていた。
今日の作業を行なうオブジェクトは先ほど戦闘したアノニマスの元であり、支社に送られたオブジェクトの
観測情報を一通り見たメアリーは呟く。
「罪を食べるオブジェクト?」
「端的に表現するなら、そうなりますね。最も、それが本人の心の奥底からの告解でなければ意味はないそうですが」
「告解…?」
「今は形骸化してしまった行動だそうです」
「そうなんだ…」
そんな中、ふとモニターに映った
「……ねえ、デュー、ク…っ。なに、それっ…ふふ」
『笑うなあ!
デュークの頭についていたのは
それを見ていたアンジュはメアリーに向けて助言する。
「ギフトですね」
「ギフト?」
「はい。アーティファクトやオブジェクトへの作業を終えた職員がしばしば彼らから与えられる一種のプレゼントのようなものです」
「…良かったじゃん」
『良かねえよ中々外れないだぞコレ!!』
「そういえばデュークさん。ここでのクリアランスランクはどれだったんですか?」
Λ社では便宜上ではあるが、セキュリティクリアランスランクというものが存在するらしい。
AからDまであり、Dは殆ど情報を見れないのだとか。
『…Dランクだ』
「初日だもんね」
『そういうお前はどうなんだ?』
「管理業務の都合上、Cランクからとなっております」
『ねえ、やっぱお前ズルくない?!』
「言われてもなあ…」
『……まあ、ともかく。これからは
「それで通すんだ…」
『うるせえ!とっととAにまで上り詰めてやるからなぁ?!?』
「はいはい」
その後も管理業務を行いつつ、業務完了まではデュークと話していた。
そんなメアリーをアンジュはただ傍で見守っていた。
*
──Λ地区の一角
そこで落ち合う人影が3人。
1人は先ほど護送車を襲った際、
1人はシスター服のようなものを着た金髪青目の女性。
1人は金髪黒目の性別不明の存在。
「それでジャック、
「あー?彼奴等に飼い慣らされてるとはいえ、飛び抜けた戦闘能力は変わらずだったよ、マリー」
「なら、性格面も変わりないだろうね」
「どういう事だ?オーエン」
不定形の人影──ジャックはシスター服のようなものを着た金髪青目の女性──マリーに返答するが、それに対して、金髪黒目の性別不明の存在──オーエンが感慨もなく口を開く。
「分からない?彼女は望まれて発生した子だ。
「まあ、それもそうだろうけどよ。…資金源は俺がなんとかすっから」
「アーティファクトとはいえ、食事が必要なのは面倒ではありますね…」
ジャックの一言にマリーはため息を吐きながら言う。
が、2人の様子を気にせずオーエンは続けた。
「あの子があんな奴らからの理性の鎖で縛られているのはよろしくない。そして、この都市は罪と苦痛の連鎖があまりにも多すぎる…。…こんな場所、彼女が身を粉にしてまで盲目的な英雄となる必要などない」
「オーエンはホント真面目だよなあ、言いたい事は分かるけど。…で、これで本当に彼奴の
ジャックが取り出したのはとても小さな薄緑色の立方体。
人差し指と親指で持てる程度の大きさしかないそれは薄らと光っている。
それに対してマリーとオーエンは頷く。
「あの子の力は抑えられているもの。完全に解くにはそれは必要ね」
「どの道アノニマス騒ぎを起こせば、彼女はまた来るでしょう。頃合いを見てそれを飲ませれば可能であると」
「その頃合いは俺が見極めろって事ね〜。…りょーかい」
そう言うジャックの声色はどこか愉しさが見えた。
Seed.0
エネルギー生産を主要産業とする
エージェントとアーティファクト/オブジェクトを接触させる事で発生するエネルギー「エルケファリン」を安価で他の
エルケファリンはエネルギーのみならず、薬としての側面も持つらしい。
本社はΛ地区の地下にある。