YAMA育ちが行く人理修復の旅【現在一部五章完結済み】   作:柳瀬塔矢

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やるぞイサミィ!とはならないです


A.D.1273【神聖円卓領域・キャメロット】〜斯くして人はその罪の重さを知る〜
7-0 アバーンバーンバーンバーンバーン・・・・・・


 

「・・・そういうわけでキミに目覚めてもらった。事情はもう分かっているね?」

 

無論、分かっている。今、世界がどうなっているかなど知るよしもない。けれど、自分が成すべきことだけは今もこの手に握られている───

 

「肉体、魂、精神・・・三位一体の要素。そのいずれもが苔生した放浪のキミよ。罪人の約束を叶えよう。これが正真正銘、最後の機会だ。でも一応確認はするよ?戦いの結果はどうあれ、キミはこれで死に絶える。魂を使い果たし、輪廻の枠から外れ、キミという存在は虚無に落ちるだろう。それでも───まだ、旅の終わりを目指すのかい?」

 

・・・砕けた膝に力を込める。細木のような左腕を奮い立たせる。彼の言う通り、私はもう燃え滓だ。酷使され続けた肉体は、指の一本すら動かない。魂もほとんど残っていない。動かなくなった肉体を動かすため、燃料として使い切ったからだ。そしてなかった精神も、肉体と同じく摩耗し、とうの昔に燃え尽きて───否。それだけは、決して。私の精神(こころ)は、今も彼の王の光のために

 

「・・・そうか。立ち上がったね。じゃあこれは餞別だ。受け取ってくれ。キミの目指す場所は一つのイフ。騎士道の究極がカタチになろうとする、末世の地だ。かつての友と戦う事になろうとも、かつての罪と対面する事になろうとも。その手の輝きは決して損なわれない。なぜなら、それこそが───」

 

 

 

・・・気がつくと、私はこの異邦に立っていた。乾いた大地。吹き荒れる烈風。大地は焼けるように熱く、生命の気配はない。長く。長く、旅をしてきた。いや、旅というのは烏滸がましい。私は今まで彷徨っていたようなものだ。彷徨いながら、多くの世界を見てきた。美しい国もあれば醜い国もあった。だが、このような地獄は知らない。私はかつての、貧しかった故郷の土地を思い出す。・・・皮肉にも程がある。この光景に比べれば、私の故郷は十分に豊かだと言えるだろう

 

「・・・そうか。これが私に与えられた、旅の果てか」

 

砂の大地に一歩踏み出す。何を犠牲にしようと、私は今度こそ───・・・今度こそ。この手で、我が王を殺すのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

───今日も、同じ時間に目が覚めた。体温を確認する。五感を確認する。客観的にも分かるように、私の名前を口にする。マシュ・キリエライト。それがわたしという人間に付けられた名前だった

 

「こんにちは。初めまして、召喚例第二号。あ・・・いや。それはないな。今日くらいはちゃんと名前を呼ばないと。大丈夫、レコーダーは止めてあるから。こんにちは、マシュ・キリエライト君。ボクはロマニ・アーキマン。これからはボクがキミの主治医になる。あ、ここに座ってもいいかな?」

 

・・・今までなかった出来事なので、私は返すべき言葉を、対応を遅らせてしまった。今まで部屋の中にまで入ってきたドクターはいなかった。誰もが皆要領よく、ガラス越しの会話で済ませていたからだ。

 

「あ、そうなの?ガラス越しでも気持ちを伝えられるなんて、カルデアは進んでるなあ。でもボクはまだ未熟者でね。こうして直接話さないとうまく話ができないんだ。だからキミも遠慮なく、思ったこと、感じたこと、とにかくいろんなことを話してほしい。相互理解にはコミュニケーションが最適だ。手に入る情報量が段違いだし、何より温かいだろ?」

 

なるほど、とわたしは頷いた。たしかにガラス越しの会話より得られる情報は多い。言葉遣い、視線、体温、匂い、仕草。それらすべては、今までにない経験だった。そう言った反応を人間らしい、というのであれば。わたしは初めて、人間らしい反応・・・相槌を打って、彼の提案を快諾した

 

「こんにちは。初めまして、ドクター・ロマニ」

 

「あー、それね。ロマニって名前は好きじゃないな。アーキマン、なんて名前もちょっと驕りすぎた。ボクのことはロマンと呼んでくれ。ドクター・ロマン。いい響きだろう?」

 

「ロマン、という単語の意味は知っている。世界を理屈・理論のみで観測するのではなく、精神・主観によって観測する在り方のことだ。人によってロマンの定義は変化する。ただ、それでもあえて説明するのなら───それは、【良い未来を思い描く】という思考方針。【自分の人生を生きている】という充足感だ。わたしのこれからの稼働時間のように、精密に定められた【余白のない予定】とは違う。【明日には多くの可能性がある】という希望的観測こそ、ロマンと表現されるものではないだろうか」

 

「おや。ずいぶんと可愛げのない感想だね。キミはまだ12歳なのに、先輩みたいだ。あ、でもいいのかな。ボクがカルデアに赴任したのが5年前だから、キミの方が先輩だ・・・うん。本当に情けない話でね。ボクは医療部門のトップとして呼ばれたのに、このセクションの存在に五年間も気づかなかった。申し訳ない」

 

理由もないのに、ドクター・ロマンは謝った。不思議な人だ。そして間違えている

 

「【先輩・後輩】とは、【教え・学ぶ】関係だ。わたしはドクターから、まだ何も学んでいない。わたしの知識はシバから入力されたものなので、知識の先輩はシバにあたる。なので、カルデア内の知識・情報の伝達に関して、わたしは後輩だ。・・・もしそれ以外に、たとえば、あり得ない話ではあるけれど、生命としての【先輩】ができるのなら。それは人間としてごく自然な、平均的な数値の人。最高でなく最善を望む一般人。他人を傷付けず、自分を弛めず、まっすぐに立っていられる、そんな誰かだと思う。だってわたしは、そのような人たちを手本にして、こうして生を受けたのだから」

 

「そうか。確かに、カルデアだとそんな人物は少ないね。どんなスタッフであれ、一角の変人(天才)ばかりだからなあ。ま、でも善人もいれば悪人もいるのが人間だ。いずれキミにも、心の底から頼れる先輩ができるよ」

 

・・・ドクターの言葉は、強く印象に残った。心の底から頼れる先輩。その未来予想は確かに、思い描くと目がチカチカする、ロマンに満ちた、未来だった

 

「それじゃあ改めてよろしく、マシュ。お互い、長い付き合いになるよう頑張ろう」

 

「───はい」

 

わたしは臨床実験用に作られたデザイナーベビーだ。活動年月は最長で18年と予測されている。現在までのわたしの活動年月は12年。手術の経過がよければあと6年間は稼働できる。・・・ああ、わたしはとても幸せだ。だって、それほどの長い期間。こうして、わたしを自覚できるのだから

 

 

 

 

「・・・以上が、ボクの語れる範囲でのマシュの話だ。ここカルデアは国連主催の組織だけど、その内情は魔術協会・・・アニムスフィアの研究施設だ。人類の未来を見守る、という大義のもとに、非人道的な試みも少なからず行われた。それが英霊と人間の融合───デミ・サーヴァント実験だ。キミも知っての通り、使い魔として使役しているものの、英霊は人間以上の存在だ。彼らがその気になればマスターであれ命を失い、英霊は座に還るだろう。それでは安全な兵器とはいえない。そう考えた前所長は、より確実な英霊の力を求めた。英霊は縁となる聖遺物を触媒にして召喚されるが、カルデアはその触媒を人間の子供にした。英霊を呼ぶのに相応しい魔力回路と、無垢な魂を持った子供。これを用いて英霊と子供を一つの存在とし、彼らに【人間に】なってもらおう、とね。そのコンセプトのもと、前所長は秘密裏に、カルデアで人工授精による子供たちを作り出した。今から17年前・・・西暦1999年の話だ。それがマシュの誕生年でもある。彼女は人工授精・・・遺伝子操作によって作られた人間だ。作られた、という意味ではホムンクルスと同義かもしれない。でも、基本的には、質の良い魔力回路を持って生まれただけの、普通の人間だ」

 

「・・・まぁ、どこで生まれようが、どう育とうが、俺よりから普通になるだろうがよ」

 

「それもそうだね。ボクも馬鹿な心配をしたもんだ。ちなみに、君が気づいてる通りそれから10年後の2009年。融合術式が行われた。結果についてはキミの方が知ってるんじゃないかな?」

 

「・・・真っ当には目覚めてないが、流石に触媒の質が良かったのか退去することも無かった。なるほど、マリスビリーさんのやりそうなことだ」

 

「その一年後に前所長が亡くなった。現場の状況から自殺と認定されている。マリーがやってきたのはその後だ。彼女も最初は怖がっていたけどね」

 

「まぁ、マリーは知らないものに怯えるからなぁ・・・初めて会った時も怯えてたもんだよ・・・多分酷かっただろ?」

 

「そうそう。一ヶ月近く拒食症に陥ってヒステリーも普段の三割増しだったよ。『わたし、マシュに復讐されるの!トイレとかで惨く殺されるのよ!当然だわ!』なんで悲鳴が口癖だったからね。でも、そこまで怖がっておきながら、マリーはマシュから目を背けなかったんだけど、なんでだろう?いや、どんなにイヤでも間違ったことができないっていう彼女の美点だとは知ってるよ?でも、流石に目を背けてもしょうがないと思うんだよ」

 

「そりゃアレだろ。いくらマシュがサーヴァントの膂力を持ってたとしても、俺の方がもっと強かった。そして人が生きていくには厳しい環境を知っていた。だから怯えはしても逃げるまで弱ってはいなかった。まあ、逃げたら俺は殴ってるけどな」

 

「あはは・・・なるほどね。ちなみに、マシュの活動限界を超える方法、何があると思う?」

 

「聖杯か俺の魔眼、或いは魔法使いだな。無限に近しい魔力で未来をカバーするか、死んだ瞬間に俺が蘇生することで追加の18年を獲得するか、魔法使いに頼む。魔法は不死を扱って当然みたいなこと言ってたしな」

 

「そう。ならいつかの奇跡を待ち望もうか。さ、そろそろブリーフィングだ。管制室に行くよ」

 

「あっ待って金平糖持っていきたい」

 

 

 

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