YAMA育ちが行く人理修復の旅【現在一部五章完結済み】 作:柳瀬塔矢
ベディヴィエールと名も知らぬ青年が退却した後、報告の為に彼、ガウェインは玉座のような場所に来ていた
「ガウェイン、戻りました。補佐官殿。獅子王陛下はどちらに・・・?」
補佐官と呼ばれたのは黒い鎧に身を包んだ男性、アグラヴェイン*1である
「王は既にお眠りだ。状況は私から伝えてある。おって卿には処罰が下る。それまで己が館で待機していろ」
「・・・残念です。このような時でも、王はお見えにならないと?」
「当然だ。たかが難民どもの逃亡など、我々の手で事足りる。それともガウェイン卿。卿は、いたずらに王の心を煩わせたいと?」
「・・・そのような事は、決して」
その場にふと弦の音が響く。赤い髪の男───トリスタンである
「・・・不手際があったようですね。ガウェイン卿とは思えぬ失態・・・痛ましい事です」
そこに野次をいれるのは父親*2譲りの髪、白い鎧には赤いラインが入っている叛逆の騎士、モードレッドだ
「ハッ、またぞろ手を抜いたんじゃねえの?太陽の騎士さまはお優しいからな!」
しかしその言葉をトリスタンは諌める*3
「それは優しさではではありませんよ、モードレッド卿。不敬と言うのです。正門で行われる聖抜王の勅命。これをしくじったとあらば、円卓の騎士であろうとも死は免れない。王の裁定を待つまでもありません。アグラヴェイン。ガウェイン卿の処断は、私でも?」
しかしそれにモードレッドは待ったをかける*4
「オイ、なんだよそれ。罰って言ってもせいぜい謹慎だろうが。首を斬るまでもねぇだろ」
トリスタンはこの意見を聞いて嘆いていた
「モードレッド・・・だから貴方は王の心が分からないのです*5・・・王に、その手で円卓の騎士の首を断てと?私は悲しい・・・そのような光景こそ世の終わりでしょう。私は王のために、自ら友の命を絶たねばならないのです・・・理解していますね、サー・ガウェイン?」
「もちろん。貴方らしい即断です、トリスタン。玉座では私のギフト働きません。どうぞこの首を断つがよろしい。フェイルノートの切れ味なら仕損じる事もないでしょう」
「ええ。切断面すら断ち切りましょう。玉座を血で濡らすような不作法はしませんとも」
「ちよっ、待てよ本気か!?本気だなテメェら!?もー、やめろ、やめろよー!トリスタンがガウェインの首を斬り落とすなんて、そんなの父上が許すわけねぇだろう!?
その言葉を聞いたのか、それとも他に何か考えがあるのか、アグラヴェインが言葉を紡ぐ。
「・・・いや、待て。弓を収めよ、
確かに難民ではない。確かにあの集団、1人はただの青年に見えたが、ほかにサーヴァントが三名*7だ。しかし、盾の少女は難民を逃した大きな要因ではない。となると報告すべきは───
「いえ、特に報告する事はありません。*8見知らぬサーヴァントが二体混ざっていただけの事。どちらも聖杯に呼ばれ迷い出たものでしょう。我々を脅かすほどの英霊ではありません」*9
「そうか。卿の報告は聞き届けた。サー・トリスタン。ガウェイン卿への処罰は───」
しかし、その場に新たに1人が現れる。
「───騒がしいな。砂漠を攻める軍議でも始めたか、アグラヴェイン」*10
眠っていると聞いていた為に、トリスタンとモードレッドは押し黙るしかない。
「王・・・!・・・なんと、このような夜更けに、玉座においでいただけるとは。申し上げます、我が王よ。王による統治から既に半年。聖都はますます栄えております。市には賑やかな声が絶えず、麦穂は重く垂れ、水路の流れは煌めき、庭園の花々は咲き誇るばかり。空には澄み渡る青空が広がり、飢餓を齎す荒涼の風すら、この地には届かない。すべて、すべて。我が王の治世に依るものと心得ます。いと尊き御方。我らが王、獅子王よ。その統治には一片の汚れもあってはならない。此度の騒ぎは、間違いとして処理されるでしょう」
「世辞は不要だアグラヴェイン。私は、私の騎士の報告を受けに来た。用向きを述べよ、我が騎士。其方の言葉を私は信じるものとする」
ガウェインはちらりとアグラヴェインを見た。しかし彼はあくまで補佐官である。主たる獅子王に逆らうような事はしないのだ。故にここは彼も黙っている
「では、恐れながら。王による聖抜は正しく行われました。その結果、三名の適合者が見出されました。うち二名を保護し、既に聖都の民として厚遇しております。ですが・・・残り一名を失いました。私の監督不行届きです。加えて難民たちの反抗を許し、
その報告を聞き、モードレッドの声は若干嬉しそうだった。
「怪しげな商人だあ?そりゃあアグラヴェインの落ち度だよな?奴ら、まだ殲滅してなかったのかよ?」
「・・・そのようだな。確かに一人、死体を確認していない商人頭がいる」
「私からの報告は以上です。如何なる処断も覚悟の上で参りました。我が命は貴方に捧げたもの───どうか裁定を、我が王」
「そうか。では頭を上げよガウェイン。ああ、膝はついたままでいい。立ち上がる必要は、もうないのだからな」
直後、獅子王の指先に光が集まり、放たれたかと思うと、ガウェインは吹き飛ばされていた*12
「なんと・・・羨ましい。指先からのものとはいえ、王の聖槍を賜るとは・・・」
「ガウェイン・・・!モードレッド、ガウェインはどうなっている!?」
「慌てんなよアグラヴェイン。どれどれ、っと・・・ハッ、さっすがガウェイン、頑丈さなら円卓一だぜ!見ろよあのなっさけねぇザマ!城の壁をぶち抜いたばかりか、聖都の外壁までフッ飛ばされやがった!それでもなんとか生きているじゃねえか!あーあ、ありゃあ壁の修理タイヘンだぞー?」
「・・・生きている・・・ガウェイン卿は生きているのか・・・?」
「聞け、円卓の騎士たち。私は死の一撃を卿に加えた。これを受けて生き延びた事を、ガウェイン卿への赦しとする。異論ある者はいるか」
「・・・王の裁定に異論などありましょうか。・・・悲しい事といえば、そうですね・・・今宵からまた一つ、見事なりガウェイン卿、と彼を讃える歌を酒場で聴くことでしょうか。・・・実に悲しい。ここのところ私とランスロットの歌はいっこうに増えないというのに・・・」
「オレは初めから父上に任せろって言ってたからな。文句なんてあるかよ」
「モードレッド。おまえに聖都の市民権は与えていないはずだが?おまえが聖都に滞在できる時間は日中のみだ。相応しい領地に戻るがいい」
「ああ、すぐに荒野に戻るぜ!外の守りは任せてくれよな、父上!」
そう言って、モードレッドは玉座の間から去っていった。
「・・・王よ。この場で尋ねることではないのですが、なぜモードレッドを聖都に配置なされないのです?」
「確かに、私に尋ねるほどの問題ではないな、アグラヴェイン。卿はガウェインと堅さを競い合いたいのか?鉄のアグラヴェインと言えど、私の一撃は堪えよう」
「は・・・!いえ、私はただ、モードレッド卿が聖都に着任すればより盤石な守りになると───」
「不要だ。あれは外に放す程度にしか役に立たん。いずれ来る太陽王との戦いまで生かしておけばよい」
「・・・なるほど。一時の自由こそ最高の報酬、ということですか。ではモードレッドには難民たちの追撃を命じましょう。卿も王の役に立てて嬉しいでしょう」
「それも不要だ。難民たちは放っておけ。いずれ荒野で死に絶えよう。太陽王もじきこちらの真意を知るだろう。貴公らは奴との決戦に備えよ。湖の騎士がその任を終えて凱旋した時こそ、太陽王と決着を付ける時。よいな、アグラヴェイン。それと
そうして、獅子王は戻って行った
「・・・・・・まだ、あの男を頼りに・・・」
「アグラヴェイン?難民の追撃はいいのですか?」
「・・・無論だ。王の勅命である。だが───難民はともかく、異分子は放ってはおけん。ガウェインを退けたのであれば、それは外部からのマスターとやらだろう。これより正門にて反抗を示したマスターを叛逆者とする。すぐに追手を指し向け、殲滅するとも。その結果・・・叛逆者と共にいる難民たちがどうなろうと、それは不可抗力というものだ」
「なるほど。貴方らしい判断です、アグラヴェイン。では、その任は誰に?」
「そうだな───ああ、ちょうど一人、手の空いている騎士がいたようだ。遊撃騎士ランスロット。聖都への帰路についている卿に連絡を。異邦からの叛逆者を追撃せよ。これを成すまで聖都に戻る事は許されない、とな」