YAMA育ちが行く人理修復の旅【現在一部五章完結済み】 作:柳瀬塔矢
SiDe:藤丸立香
宴会はとても賑わっていた。そもそも、米を出せる俵藤太とその米を握れる玄奘三蔵が居るのだから食糧不足だったこの村にとっては考えられなかった光景だろう。故に、盛り上がっていた。
「ほわたたたたたたたた───!あちょお───!」
玄奘三蔵は謎な掛け声で米を握っている。何故そんなカンフー風味なのだろうか。ソレは誰にも分からない。*1
「おお───。おお──────!」
そんな光景に子供たちは釘付けになっている。普段のコメディ的な雰囲気からは分かりづらいが、玄奘三蔵は歴とした御仏の加護の所持者である。ならばこのくらいは出来ておかしくないのである。加護の無駄遣いだとは思うが。*2
「まだまだこんなものじゃないわ!おにぎり百連如來掌、まだまだ握るわよ───!」
「おおおおおお───!姉ちゃん、すげぇぇぇ!」
『なんだいこの盛り上がり!?一体何が起きているんだ、立香君!?』
「ついに 宴会が 始まったんですよ」
そんな光景を横に、アーラシュと俵藤太の二人は酒を飲んでいた。
「いやはや天晴れな呑みっぷり!一升を一息とは、アーラシュ殿もいける口ですな!」
「いやはや何の、トータ殿も気持ちのいい食いっぷり!あの大魚をぺろりと一口とはお見それ致しましたぞ!」
そんな二人に呆れながら、百貌はちみちみと酒を飲んでいた。
「・・・この二人は完全に出来上がっているな。言葉遣いまで同じになって・・・まったく。しかし、妙な味だが慣れれば悪くない。米を発酵させた酒か・・・ふん、悪くない」
そんかこんなで宴は進んで行ったのである。
SiDe:無疆柳星
「や、呪腕さん」*3
「おや、・・・どちらで呼べば?」
「どっちでも。認められないなら柳星で。認めてくれるなら簒奪で。どっちでもいいですよ?俺はどちらでもあるんですし」
「では簒奪殿と」
「殿は要らんですよ、貴方の方が先達なんですし?俺に貴方の様な覚悟は無いんだから」
少しばかり村からは離れているが、それでも宴の様子は見えている。三蔵が米を握り、子供が食べ、全員が笑顔だ。これは守らなくてはならない光景なのだろう、と直感的に思うのはきっと正しい事なのだろう、と思いたい。
「それで、何の用ですかな?」
「いえ、偶々遭遇したので。それだけなんですよ。この光景は守らなくてはならない。そう思えるだけ、まだ俺は人を辞められてないようだから」*4
「人で居ることは悪だと?」
「俺に関してだけ言えば。俺は人であってはならない。俺は人理の守護者だ。
「詳しく聞いてもよろしいですかな?」
「ええ。・・・この時代はとっくに修正不可能な所にまで進行してしまっている。それは
「でしょうな。修正するには余りにも多くの人が死んだ。余りにも多くの被害が出た。しかし、諦めるにはまだ早いのでは?」
「ええ。結局の所、俺達がソロモンの聖杯を手に入れさえすれば過去の全てを無視して修正する事ができます。だがその場合死んだ人がどうなるか分かりません。だから恐ろしいのです。俺は───本当にハサンとして居られるのか、と」
「と、いうと?」*5
「この時代に来て確信しました。俺たちの一族はこの土地から逃げてきたのだと。民を見捨ててでもハサンという存在の滅びを避けたのだと。だから多分、そのタイミングでハサンという概念は滅んでたんです。ただ形だけが残った。だから俺に与えられたのは魔術と殺しの技だけ。気概なんざ何も学んでいない。ハサンの誇りも無い。だからなのかな、どうしても俺はザバーニーヤを使えない」
「ザバーニーヤを?そう言えば使った場面を知らないですな」
「───っと。ちょうど匂いに釣られた獣が来ましたね。んじゃ見せますよ、俺のザバーニーヤを」
俺は瞼を閉じて集中する。そして目を開けると視界はモノクロになって居た。魔力とは違うと思われる別の
「眠り、堕ちよ」
直後、獣は死んだ。何が起きたのか、当の獣にも何が起きたのか分からないだろう。
「コレが俺のザバーニーヤ。生命の流れそのものに触れる事で相手の命を冥府に堕とす技。通れば、ほぼ確実に人以外なら殺せます。人相手だとしても、よっぽどの相手じゃなければ防げませんよ。そんな技です。こんな技のどこがザバーニーヤなんだと・・・」*6
「ふむ・・・もしや、ですが。いいですかな?」
「ええ」
「簒奪・・・いえ、柳星殿は少々我らに期待を寄せすぎなのではないですかな?」
「ふむ・・・」
「確かに我らはハサン・サッバーハ、山の翁ですが、所詮ただの人なのです。まぁ、百貌はあのように人格を百に分ける才能を、静謐は全身が毒であり、また毒を無効にする才能を。それぞれ持って居ますが何を隠そう私にはそんな才能はないのです。無かったというのに、山の翁の名を求めた。その手段、結果としては貴方も知っているのでは?」
「シャイタンの腕、ですね?」
「ええ。自分に才能が無ければ、特別な力を持つモノを自分の身体にすれば良いと。その結果がこの体、呪腕のハサンなのです。私は顔を捨て、人を捨て、恋しい女を捨てて山の翁となった。その結果が、誰でもない『何者か』に成り果てるなど思いもしないまま」
「ならば、なんだと?」
「貴方のその【殺す才能】は類稀なる物です。なので、十分に誇って良い物なのでしょう。それに、今この時代、この場所にはさまざまな時代の山の翁が居る。ならば私たちを見て、知ってくれればそれで良いのですよ」
「なる、ほど・・・いや、分かった。ならば見させて貰います。貴方達の存在を。その意義を」