YAMA育ちが行く人理修復の旅【現在一部五章完結済み】 作:柳瀬塔矢
SiDe:藤丸立香
山の奥はとてつもない程に過酷な環境だった。
「───そしてもの凄い絶壁です!これは聞いてなかったかと、マスター!率直な意見を述べてよろしいでしょうかっ!」
「足、震えてるよ、マシュ」*1
「勿論です。これは必至の防衛本能なのです。気を抜くと座りこんで、立ち上がれそうにありません!」
「怖いのでしたら、どうぞ私にお掴まりください・・・その、何があっても離しませんので」
流石のマシュも思ったのだろう。「気を付ければ落ちずに済むかもしれないこの環境と、毒耐性、どっちを信用するかと言われたら環境でしょう」と。
「いえ、行けます、慣れました。静謐さんは前方を注意してくだされば」
「はい。それでは立香様にぴったりとくっついて、前方を注意しますね」
しかしそれで慌てるのは第三者、玄奘三蔵である。
「あわわ・・・ちょっと待って、立香の腕はあたし!あたしの!落ちる!もう前を見てるだけで目がチカチカして落ちちゃう!あたし、こういうのダメ───!」
「ええい、暑さも寒さも地下も高所も駄目ときた!お主、それでも玄奘三蔵法師か!?そんな様で天竺までの魔境巡り、どうやってこなしたというのだ!?」*2
「あれは事前に気合い入れてたの!頑張ったの!功徳全開だったの!でもこれ聞いてなかった───っ!あたし、何事もいきなりはダメなんだってば───!」
「・・・フッ。あの廟への礼拝が、これほど賑やかになる時が来ようとは・・・まったく、運命とはわからぬものだ」
「あれ、そこは普通人生とはってならない?」
「そこはそれ、我が身は今や英霊ですからな。人としての生は、既に答えを出してしまっている。・・・まさに、無念しかない人生だった。これはもう変えようの無い結末だ。いやはや。成功したつもりだったが、私は愚かで小賢しい人間だった。それをこうして、英霊として体を得た今になって思い知らされる。虚しくもあるが、楽しくもある。だから運命はわからない、で良いのですよ」
「へぇ、そうなんだ」
SiDe:無疆柳星
「はぁ、ちょっと追い越してみれば獣がいたか。何故だ?この辺りって獣も寄りつかない霊廟だよな?」
地上から、それこそ追い込まれたのか?だとしたら納得だが何故こんな生命活動には全く適さないこの土地に・・・
「もうちょい進んでみるか。どのルートが正解か分からないから休憩出来そうな場所で待つのが一番手っ取り早いだろうな」
その後、立香達とは合流できたが夕方だった事もありその場で一晩休むことになった。
SiDe:マシュ・キリエライト
夜、ふと外に目を向けると三蔵さんがまだ起きていました。確かにサーヴァントに睡眠は不要ですがそれはそれ、これはこれで眠りたくもなるもので。睡眠とは休憩にもなるのですから少し不思議に思い、声をかけてみることにしました。
「三蔵さん、まだ起きていらっしゃったのですか?皆さんお休みになっていますが・・・」*3
「ん?眠る前に今日の出来事を書き留めていただけ。立香は?みんなはもう寝ちゃった?」
「はい、皆さんぐっすり。・・・カルデアのスタッフ達は分かりませんが」
あの時通信を切断して以降通信は復旧させていません。なので向こうではパニックになってるかもしれませんね
「そっか。カルデアも大変ね。ううん。大変って言うよりは凄いのよね。立香と貴方、あとは柳星の三人もの人間を時間旅行させてるのだもの。サーヴァントシステムってのもそう。本来、英霊っていうのはこんなふうには現れない。*4現世の人間が英霊を召喚した場合、それは【その英霊に因んだ現象】を借りるだけ。あたしだったら『三蔵召喚!頭が良くなった!』みたいなね。聖杯とやらが特異点を作っちゃえば、あたしやトータみたいに出てくる英霊もいるんでしょうけど・・・こういう時空の歪みの無いところで英霊そのものを召喚して、かつ使役するなんて普通は絶対に無理。だから、今は素直に驚いているわ。カルデアにはどんな奇蹟があるのかって」
カルデアの奇蹟・・・そう言われても、あまり思い当たる節はありませんでした。そもそも、カルデアについて知ってることが少ないのも理由ですが・・・
「・・・私も詳しくは知りません。ですが、その・・・グランドオーダーが発令されるまで、カルデアの英霊召喚は失敗続きでした。カルデアが独自に召喚できた英霊は三体だけ。その内二人目が私に力を預けてくれた英霊です」
「ふーん。どこの誰かは分からないけど、見る目あるわね、そいつ。ま、そいつも『勿体無い』と思ったんじゃないかな。サーヴァントとして召喚される事は
「そうなのですか?」
「そうなのです。さっきも言ったでしょ?英霊って基本は『ただの力』なの。今みたいに個人として召喚される事なんてない。これはとんでもないことよ。サーヴァントとして召喚された英霊はまず、みんなこう思うはず。『こんな奇蹟はもう二度とないだろう』って。だからこそ、それぞれの目的で行動するの。だって絶対にあり得なかった、気を抜くと覚めてしまう二度目の夢だもの。生前の理念ですごす者もいるでしょうし、生前の無念を晴らそうとする者もいるでしょう。そこは英霊として定めてしまった属性の違いだから、あたしはどっちも悪いとは思わない。ただ、ちょっと残酷だなって思うだけ。仮初であれ個人としての生命を獲得したのに、あたしたちはただのお客様。その時代の住人になれるんじゃなくて、違う時代の異物として、ずっと仲間外れなんだから」
「・・・そんな事は・・・無いと思います。皆さんが異物だと思った事は・・・」
「ありがと。でも気にしないで。疎外感は己の裡から生じるもの。マシュや立香があたしを頼っているのはバッチリ分かるから!・・・柳星は分からないけど。」
「───はい。三蔵さんが味方でいてくれて、嬉しいです。それに、柳星さんが敵の一人の対策で自分以外を当てる時は信頼してる証なので、彼なりに信頼してると思いますよ?」
でもそれは人格的な話じゃないのでしょう。彼は戦闘に人情を置きません。だからこそ的確に、無慈悲な選択をしてしまうのですが・・・今回は何かこれまでとは違うように感じます。敵であるランスロット卿が生き残ると予想していたり、道筋を整えようという感じはしません。信頼することを覚えたのでしょうか。
「まぁなにしろ、旅のエキスパートだものね、あたし!」
「天竺までの旅ですね!お供の三人・・・孫悟空、猪八戒、沙悟浄を連れての長い長い冒険譚!あの・・・一つ、尋ねてよろしいでしょうか?最遊記を読んで気になっていた事なのですが・・・三蔵さんは、どうしてそこまで旅を続けたのですか?」
そんな質問をして、それが心の裡からの声だと聞き。ドレイクさんを思い出しました。「私は、もう自分の願いを持っている。けれど、それを自覚しなくてもいい。その理由を知るのは最後でいいのだと」・・・そう言ってくれた事は多分この先も忘れないのでしょう。
柳星さんに、一度聞いたことがあります。「私の願いとは、なんだと思いますか?」と。彼は何も悩まずこう言いました。「叶ってるだろ。でもそれは70〜80%くらいでしか叶ってない。100%、120%叶えたいならやっぱ今の環境じゃあ無理だ。100%を知るならまずはソロモンに会いに行くべきだし、120%で叶えたいなら・・・今は無理だな」と。どうやら彼なりに私の事は見てるようで、恐らく私以上にサーヴァントとしての私については良く知ってると思われます。*5そんな彼が無理だと言うのなら、きっと人理焼却後に探せ、と言うことなんでしょう。
この特異点、どの陣営が絶対の正義かは分かりません。数ある陣営の中から山の翁を選んだのは私達です。せめてこの選択で後悔しないように進みたいな、と思いながら眠ることにしました
なお現実では残留ギャラハッド霊基をフル稼働させるとかいうクソみたいな所業をした模様。