YAMA育ちが行く人理修復の旅【現在一部五章完結済み】 作:柳瀬塔矢
「今夜はここで野営をとりましょう。明日の決戦に備えて・・・その前に周囲の安全を確保しなければいけませんね。皆さん、戦闘準備を。囲まれています。あまり目立たないよう、派手な攻撃は控えて迅速に終わらせて・・・おや?立香さん、マシュさんとアマデウスの姿が見えないのですが・・・」
「まいったな。ちょっと水を汲みに来ただけなのに、敵兵に襲われるなんて運がない」
「アマデウスさん、こちらへ!わたしが前に出ますから、後ろに隠れていてください!」
「お言葉に甘える・・・・・ワケにはいかないか。今回はいつもと状況が違う。前衛がマシュ嬢ひとりでは逃けてもいられない。ここは肩を並べて一緒に戦おう」
「ふう。無事に切り抜けたけど、戦っているうちに森を抜けてしまったね。藤丸君もジャンヌも心配しているだろうし、ちょっと休んだら野営地に戻ろう」
「・・・あの。こんな時に質問をするのはどうかと思うのですが、よろしいでしょうか?」
「ああ、いいよ。大事な話にしろ、小さな話にしろ、全然よろしいとも。なにしろ明日は決戦だ。やり残した事はぜんぶやっておいた方がいい」
「・・・はい。この件を蒸し返すのは申し訳ないのですが・・・マリーさんが亡くなられたと聞いた時の件です。アマデウスさんはこう言いました。『人間は好きなものを自分で選べる』と。その言葉が、わたしにはわからなくて。い、いえ、言葉の意味はわかるんです。でもわたしには、その『選ぶ』という事がわからない。だって、好意を持つべきものは道徳的に正しいもので、否定するべきものは社会的に悪いものです。わたしはそう教わりました。そして、それが正しいと感じるのです」
「ふうん。じゃあ君が正しいと思うものはなに?」
「それは・・・多くの生命を救い、多くの生命を認めること、でしょうか」
「大雑把だね。じゃあ仮に、藤丸君がそういう人でなかったら?柳星がそういう人でなかったら?」
「それは・・・」
「すまない、意地の悪い仮定だった。でも、その迷い、不安を忘れない事だ。マシュ。君はたぶん、自由を得たばかりの人間だ。だから選択する事の恐ろしさに足がすくみ、これから形成されていく自分の在り方に迷っている。ほら、柳星を見てみなよ。彼はもはや選ぶ事に対する迷いなんてどこにもないんだ」
「・・・そう、なのかもしれません。わたしは、その・・・あまり外を知らなかった、ので。・・・いえ。そもそもわたしに、何かを好きになる資格はないのかもしれません。だって、わたしは───」*1
「やれやれ。君は本当に真っ白なんだな。なにも書かれていない楽譜のようだ。でもね。いいかい、マシュ。君がたとえ戦うだけの人形だとしても、何かを好きになる義務はある。自由はないかもしれないけど、義務はあるんだ」
「義務・・・?権利や、資格といったものではなくて?」
「ああ、義務だ。責務といってもいい。人間にはその責任がある。だって、ものを考える知性があるんだから。個を好きになり、個を嫌いになり、何を尊いと思い、何を邪悪と思うか。それは君が決める事だ。他人の言いなりになる事でも、周りに合わせて考える事でもない。人間は多種多様だ。同じ価値観は一つもない。僕たちは多くのものを知り、多くの景色を見る。そうやって君の人生は充実していく。いいかい。君が世界を作るんじゃない。世界が君を作るんだ。そして成長した君はいつか、この世界を越えなくてはいけない。どのようなカタチであれ、自分がいた証を残すんだ。僕はそうした。残された多くの曲がその証だ。ああ、でも───それも、大した事ではなかったけどね」
「?」
「だって、たったひとりの、初恋の女の子の死に際にさえ立ち会えなかった男だよ?僕が残したものは多くの人々に愛されたけど、僕の人生はどうでもいいものだった。でも、それでいいんだ。人間は汚いし醜い。僕の結論は変わらない。輝くような悪人も、吐き気をもよおす聖人もいる。だから君も、自分の未来を恐れる必要はない。君は世界によって作られ、君は世界を拡張し、成長させる。人間になる、とはそういうコトだ。君はまず多くのものを世界から受け取って、その後、思うままに世界に返せばいい。それがどんな結果になるか悩むのは、その後の問題だよ」
「アマデウスさん・・・」
「でもまあ、たいていの物事には公正な評価と、それに相応しい結果が下される。僕の音楽と、僕の人生のように。人間が人間であるかぎり、最後に悪は滅びるのさ。だってそうしないと人類は繁栄できない。悪とは即ち、生命の繁栄における障害だ。それがあってはその種は生き残れない、というね。その“悪”を排除できなかった時こそ、人間が滅びる時だ。*2僕は単純にそう思う・・・と、呼吸も落ち着いたな。休憩はここまでだ、マシュ。みんなのところに戻ろう。たぶん君と話すのはこれが最後だ。なんで、ちょっとガラにもない説教をしてしまった。でも、最後の話がふたりきりだったのは嬉しい。君は最初から最後まで魅力的な女の子だった。今回の戦いだって、マリアがいなければ君にプロポーズだってしていたんだぜ?」
「・・・はい。ありがとうございます、偉大なる
「うん、合格だマドモアゼル。覚えておいてほしい。どうあれ、お別れの時は笑顔がいちはんなんだってね」
「補給物資が届きましたが、位相空間にズレが生じたようです。」
「食料・・・をモンスターが食い漁っているようですね。先輩、腹ぺこは平気ですか?」
「・・・そりゃ勿論・・・?」
「・・・駄目ですよね。行きましょう!」
「あー!ちょっとそれ私が狙ってたやつ!勝手に食うなー!!」
「へえ、美味しそうじゃないの」
「では、わたくしが手ずから差し上げましょう。はい、あ〜ん。」
「・・・いきなり何を・・・!?」
「・・・」
「や。ちょっといいかい?」
「あ、はい。どうぞ」
「休んでいるところ悪いね。あっちは雑竜どもが五月蠅くてさ」
「アマデウス。マリーは、私に優しかった」
「そりゃそうだよ。彼女は万民に優しいけど、君に向けた愛情は特別だし」
「どうしてでしょうか。同じフランスの人間だから・・・?」
「どうかなー・・・君がフランスの人間だからとか、そういうものは関係ないと思うよー。イギリスだろうがスペインだろうが極東の果ての国だろうが、そういうの、マリアには関係ないんだ。彼女が君を慈しみ、敬愛したのは君がただひとりで立ち上がった少女だからだ。ある意味で、マリアも同じだ。十四歳で王妃となり、ヴェルサイユで孤独の戦いを強いられた・・・無論、それは君の戦いに勝るものでは決してないだろう。砲弾飛び交う戦場と、嫌味と陰謀が渦巻く戦場とではあまりに本質が異なっている。それでも、彼女にとってはまさに命懸けだった。だから彼女は君に共感しちゃったんだね、きっと」
「同じ孤独の戦いを生きた者だから・・・?」
「それともう一つ。こっちの方が重要な理由だ。愛した者を庇うのは、マリアにとって当然の理屈だ。それが家族であれ、他人であれ、サーヴァントであれ───あるいは国家そのものであれ。ま、苦労知らずの箱入り娘だから、その庇い方もたいへん音がズレているんだけど」
「・・・そうですか。それなら、私も友人として彼女を庇いたかった。あの状況は確かにどうしようもなかったのですがそれでも・・・共に、いたかった。そう思います」
「トモダチか。うん、君がそう思っていることが、彼女にとって最大の報酬だな。僕とマリアには共通点が一つある。どっちもトモダチに恵まれなかった事だ。でも彼女は第二の生でそれを叶えた。今回も余裕で、ふわっと先に行かれた気分だ」
「え・・・あの、私は、貴方を仲間と思っています。それは立香も同様ですよ?」
「ダメダメ。だって僕がそう思えない。マリアも言ってただろ。基本的に僕はクズだって。僕は音楽しか愛さない。そういう風に生きて、そういう自分に誇りを持っている。だからトモダチは作れない。そのかわりに多くの作品を残したからね。人間的な幸福なんて、望んだらそれこそ自己嫌悪で消えてしまいそうだ。うん。でもありがとう、シャンヌ・ダルク。マリアは決して後悔しなかったろう」
「彼女の仇は討ちます。・・・いえ、敵討ちは重要ではありませんね。彼女の希望を叶えます。このフランスを、必ず救ってみせる」
「ジルはいますか?」
「は、ここに!」
「サンソンはどうなりました?」
「ただいま治療中です。ですがもはや精神が尽きています。霊子外殻を留め、兵士として使う事が限界でしょう」
「・・・そうですか。あの街にいたゲオルギウスは逃れました。まさか事前に避難誘導を終わらせて全員で逃げ、唯一ファヴニールに有利を取れるであろう人間1人残すとは・・・」
「なるほど。敵陣は新たな一人を得た訳ですか」
「戦力的に困る訳ではありませんが、不愉快ですね。引き続き捜索を───」
「やあ、どうやらその必要はなさそうだよ。」
「セイバー?貴女には東南方面の素敵を命じていたはずですが」
「その必要がなくなったのさ、マスター。彼らはオルレアンに真っ直ぐ向かっている。それは君も望むところだろう?」
「・・・逃げ回るのは止めましたか。ということは、勝算があるのでしょうね」
「そうだろうね。サーヴァントの数も随分多かった。私たちには竜がいるとはいえ、これは凄絶な戦いになりそうだ。それにマスターが襲撃に行った都市の近くの森に知らない竜種もいたね。これは面白い事になりそうだ」
「楽しいですか?」
「楽しいさ。何しろイカれているからね、頭が。私としては、滅ぼすのもいいし滅ぼされるのもいい。さあ、指示を下せ───マスター。」
「決戦の準備を。ジル、サーヴァントだけでなく彼らも呼び集めて下さい」
「畏まりました。フランスに散った竜という竜を招集しましょう」
「・・・勝てば世界は滅びる。我々が負けたとしても、それでどうなるものでもない。世界はように終わっている。ここを修繕したところで、先はてしない旅路だ」
「この中で軍を率いた経験は・・・どうやら俺だけらしいな。もっとも俺とて、国という国を軍で攻め落とす、という絢爛な軍歴がある訳でもないが。ともかく我々の人数は少なく、そして敵の人数は多い。・・・ただし、敵のほとんどは我々より圧倒的に弱い。こういう場合、取るべき手段は二つ。正面突破か、密かに背後を突くか。しかし、我々の居場所はとうの昔に知られている。つまり密かも何も、とうに敵に発見されている。・・・要するに取るべき手段は実質一つだ」
「「正面突破」」
「・・・ということだ。ファヴニールは俺とマスターのグループが受け持とう。他の人間はサーヴァントとワイバーンたちから、俺たちを守って欲しい。俺たちがファヴニールを倒せるか否か。そこがこの戦争の分岐点となるだろう」
「・・・了解しました。未熟ですが、精一杯戦わせて戴きます」
「あ、子イヌ。私ちょっと殴り合わなきゃならないヤツがいるの私はそいつに専念してもいいかしら?」
「構わないよ」
「そ、ありがと。私的にはそれさえ達成すれば文句はないわ・・・ま、暇だったらその後も手伝ってあげていいけど」
「私は・・・必然的に、“竜の魔女”を相手にすることになりますね」
「勝てますか?」
「はい、勝ちます。万が一、彼女が本物のジャンヌ・ダルクであったとしても、私は勝ちます」
「んー、僕は特に因縁とかないしなあ。適当にワイバーンの目を引いていればいいかな」
「それでは・・・・・わたくしはマスターのお傍で適当に火を吐いておりますね。ほら。飛んで火に入る夏の虫、人の恋路を邪魔する馬の骨、と申しますし」
『周囲の探香はこちらに任せてくれ。ここが勝負所だ、栄養ドリンクもバケツー杯準備した!』
「ドクター・・・それは逆効果です。胃痛になるので飲めないのではないでしょうか.・・・?」
『顔をつければスッキリするかもだろう!?ともかく、任せてくれ!』
「そういやこっちで勝手に動いていいっては言ってたけど柳星はどうするんだろ?」
『おう、どうした?・・・っと、アンタのブレスなんか当たるかよバーカ!』
「えと・・・戦闘中?」
『ま、そだな。特徴から見て王妃を退去させた竜種で間違いないだろうなこの毒蜥蜴*3・・・んで、呼んだ理由は?最終決戦か?』
「そうだね。柳星から見たら誰をどこに配置するべきなのかなって思って。こっちではジークフリートと俺達と清姫がファヴニールに当たって、その間にジャンヌ・ダルク同士で決着を。それでエリザベートがなにか因縁あるらしいからそっちに行くって言ってるね」
『エリザベート・・・ああ、カーミラぶん殴るのか。そういや生きてたなあのバーサーク・アサシン。んー・・・アマデウスはどうすんだ?何も決まってないならちょっと頼み事あるんだけど』
「何かな?僕に因縁のある相手なんていないでしょ」
『ほら、サンソンだっけ?まだ退去しきってないから多分傭兵代わりに出てくると思うんだよな。だからアマデウスにはサンソンの対処を頼もうかと。んで藤丸達はジャンヌと同行。キャスター:ジル・ド・レェの捜索も並行してくれ。目ん玉デッカく顔から出てるから見れば分かると思う』
「じゃあファヴニールはどうするの?ジークフリート1人だと危なくない?」
『そこはほら、俺がいる。この調子で向かえば多分お前らと同じくらいのタイミングでオルレアンに着くと思うんだよな。だからこの竜種をファヴニールにぶつける。どうなるかは知らんがファヴニール相手なら俺は負けないから安心してくれ』
「・・・うん。分かった。ならオルレアンで集合って事で、こっちは動き出すけどいいね?」
『そもそも現地指揮は立香の方が上なんだから聞かなくていいだろ。俺が合わせる』*4
「分かった───行くよ、皆。この戦争・・・勝つよ!」
2話連続ラストのセリフが同じ。何が起こってるんだ一体。ちなみに柳星が対処している竜種はある意味有名な竜種です。