YAMA育ちが行く人理修復の旅【現在一部五章完結済み】 作:柳瀬塔矢
オルレアンの城の奥、そこに奴はいやがった。まぁ、そりゃそうだよなとは思っていたが・・・*1
「・・・思っていたより、早かったですね。なら、術式を組み替えるしかありませんか───」
「───“竜の魔女”」
「とうとう、此処まで辿り着いてしまったのですね。ジルは───まだ生きていますが足止めされましたか。まあいいでしょう、こちらも準備は整っています」
・・・ああ、やはり偽物なのか・・・こんな簡単な仕掛けにも気付かないなんて・・・*2
「貴女に伝えるべきことを伝える・・・これはマリーの言葉です。それで私も一つだけ、うかがいたい事がありました」
「今さら、問い掛けなど───」
「極めて簡単な問い掛けです。貴女は、
「ジャンヌ・・・さん?」
「ですから、簡単な問い掛けだと申し上げたはず。戦場の記憶がどれほど強烈であろうとも、私はただの田舎娘としての記憶の方が、遥かに多いのです。私の闇の側面だとしても、あの牧歌的な生活を忘れられるはずがない。いえ、忘れられないからこそ───裏切りや憎悪に絶望し、嘆き、憤怒したはず」
「私、は・・・」
「───記憶が、ないのですね」
「それが・・・それが、どうした!記憶があろうがなかろうが、私がジャンヌ・ダルクである事に変わりはない!」
「確かにその通りです。貴女の記憶があろうかなかろうが、関係はない。けれど、これで決めました。私は怒りではなく哀れみを以て“竜の魔女”を倒します」
「───サーヴァント!」
しかし だれも こなかった
「な・・・何故現れない!確かに呼んだはずです!」
「そんなん当たり前だろ。*3一度の聖杯戦争に呼べるサーヴァントの数は決まっている。*4アンタは呼びすぎたんだよ・・・ってのは建前だな。*5まぁ、アンタには教えてやるよ。キャスター:ジル・ド・レェが現れた時に聖杯の権能を少しばかり捉えておいたんだ。*6そしてあいつは俺の前で魔力を使った。*7ならあとは俺がその魔力を奪うだけ。───もうアンタは誰も呼べないんだよ。竜の魔女・・・!」
「今度こそ決着の刻です。“竜の魔女”───!」
「黙れ!ならば、勝負だ。絶望が勝つか、希望が勝つか───あるいは殺意が勝つか、哀れみが勝つか。この私を、超えてみせるがいい───ジャンヌ・ダルク!」
「行くぞテメェら!俺に合わせろ!」
「火よ、炎よ、焱よ、我が意思は天にある。我が情けは秤の上にある。傾き、嘲り、全てを
「巫山戯るな!私が、私こそが、ジャンヌ・ダルクだ!フランスを救い、フランスに裏切られた
「違う!・・・いいや、違くはないが、*11コレだけは違う!テメェはただ創られただけの人形だ!ならせめて受け取りやがれ!」
「な・・・に・・・そん、な。馬鹿な。有り得ない、嘘だ。だって、私は───聖杯を、所有しているはず───聖杯を持つ者に、敗北はない。そのはずなのに・・・!」
「おお、ジャンヌ!*12ジャンヌよ!何という痛ましいお姿に・・・!」
「ジ、ル・・・」
「ですが、このジル・ド・レェが参ったからにはもう安心ですぞ。さあ、安心してお眠りなさい」
「でも───私は、まだ・・・まだ、フランスを、滅ぼせては・・・」
「それは私が引き受けます。私に全てお任せを」
「えぇ、ジル。後は・・・任せ、ました・・・」
そして哀れな竜の魔女は黄金の粒子に姿を変えた。
「・・・
「・・・」
「───やはり、そうだったのですね」
「やはり勘の鋭い御方だ」
「あ、此処に居た!」
「いきなり逃げ出すとは・・・」
「あの、ジャンヌさん。それに柳星さん、一体どういうことでしょう・・・?」
「聖杯を持っているのは、“竜の魔女”ではありません。いえ、そもそもあのサーヴァントは英霊の座には決して存在しないサーヴァントです。私の闇の側面でない以上、そう結論せざるを得ません・・・では、あの強力な力はどうやって手に入れたのか。それは即ち、聖杯に他なりません」
「全く、冬木の聖杯、正しく魔法だったあの大聖杯ならいざ知らず、どこの誰が作ったのかも分からんパチもんに自分の願望も混ぜるかね。ジル・ド・レェ?」*14
「その通り。“竜の魔女”こそが、我が願望。即ち、聖杯そのものです」
「な・・・!?」
「え?え?え?どゆこと?竜って聖杯なの?じゃあ私も!?」
「このドラお馬鹿。ジャンヌ・ダルクが聖杯を手にして悪事を働いていたのではなく」
「貴方は───ジャン・ダルクを作ったのですね。聖杯の力で」
「私は貴女を蘇らせようと願ったのです。心から、心底から願ったのですよ。当然でしょう?だがしかしそれは聖杯に拒絶されました。万能の願望器でありながら、それだけは叶えられないと!だが、私の願望など貴女以外には無い!ならば、新しく創造する・・・!私が信じる聖女を!私が焦がれた貴女を!そうして、造り上げたのです!ジャンヌ・ダルク───“竜の魔女”を。聖杯そのもので!」
「馬鹿だろ。*15聖杯は確かに万能の願望器だが叶えられる範囲に限度はある。*16そしてそもそも聖杯ってのは人理側だぜ?*17ここでジャンヌ・ダルクが蘇ったら人理が崩壊するだろうが。*18聖人として祭り上げられ処刑、3日後に蘇るなんてそんなキリストみたいな真似、許されるわけねぇだろ阿呆か?*19」
「・・・そう。彼女は無論、最後までそのことを知らなかったのでしょうね。ジル。もし、私を蘇らせることができたとしても、私は“竜の魔女”になど、決してなりませんでしたよ。*20確かに私は裏切られたのでしょう。嘲弄もされたでしょう。無念の最後───と言えるかもしれません。けれど、祖国を恨むはずがない。憎むはずがない。何故なら、この国には貴方たちがいたのですから」
「・・・お優しい。あまりにお優しいその言葉。しかし、ジャンヌ。その優しさ故に、貴女は一つ忘れておりますぞ。たとえ、貴女が祖国を憎まずとも───私は、この国を、憎んだのだ・・・!全てを裏切ったこの国を滅ぼそうと誓ったのだ!」
「ジル・・・」
「貴女は赦すだろう。しかし、私は赦さない!神とて、王とて、国家とで・・・!!滅ぼしてみせる。殺してみせる。それが聖杯に託した我が願望・・・!我が道を阻むな、ジャンヌ・ダルクウウウッ!!」
「そう・・・そうですね。確かにその通りだ。貴方が恨むのは道理で、聖杯で力を得た貴方が国を滅ぼそうとするのも、悲しいくらいに道理だ。そして私は───それを止める。聖杯戦争における裁定者、ルーラーとして。貴方の道を阻みます。ジル・ド・レェ・・・!」
「ならば、今の貴女は私の敵だ。決着をつけよう。救国の聖女、ジャンヌ・ダルク───!」
「望むところ・・・!!」
「人には、踏み外しちゃいけない一線がある。アンタはソレを越えたんだ。だから、俺はここで貴様を止める。*21その責務が俺にはある。例え貴様のその思いが道理の上だとしても・・・故人の思いを、捻じ曲げるんじゃねぇよ!ジル・ド・レェ───!」
「マスター、聖杯を確認しました。指示をお願いします!」
「これが最後の戦いだ・・・行くぞ、マシュ!」
「はい、これまり聖杯を固収します!マシュ・キリエライト───行きます!」
今、オルレアン最後の戦いが始まる───
憐憫にデザイアって付けたのは意図的です。