YAMA育ちが行く人理修復の旅【現在一部五章完結済み】 作:柳瀬塔矢
「・・・ふむう。さっきの農夫の言葉を覚えているか?昨日にすれ違った旅の商人も似たことを申していた。古き神が現れた、ときたか。本当であろうか?」
『何だろうねえ。ちょっと気になるフレーズだよね。古き神というぐらいたから、神代のものかな』
「正確には、この数日で四度です。誰も、嘘を吐いているようには見えませんでした。日く、地中海のある島に古き神が現れた。ひどく具体的な噂話です」
「このガリアは地中海に面しているからな。この噂を聞くのは、珍しいことでもないが・・・しかし、そう何度も聞いてしまうと気になるな。ローマへの帰還途中だというのに」
『う~ん、気になるねえ。ボクとしてはとっても気になるところだ。藤丸くんや柳星はどう思う?』
「聖杯に関係しているかも」
「その一、抑止力からの召喚。*1そのニ、単独顕現持ちによる気まぐれ。*2その三、現地聖杯による召喚。*3この中のどれかだろうな。連合の聖杯じゃねぇのは確かだろ」
「それは・・・どうでしょうか。カエサルは、宮廷魔術師が所有していると言いました」
『レフ・ライノールかどうかは判明しないけど、そいつが地中海に移動したってことも有り得ないかな?そして、神を名乗っている。ありそうな話だ。いや、まあ、本当の神さまなのかも知れないけどね。神の住まうか。いいねえ、ああ、とてもロマンチックじゃないか!一世紀に降り立った古き神!既に滑え去ったはずの神霊が、再び地上へと・・・!』
「レフが神を?ねぇだろ。アイツアレでも勤勉だぞ?そんなアイツが自分は2015年担当者だと言った。ならアイツはあくまで手先だろ。そんなやつが神なんか名乗るかよ」
「・・・それも、そうですね。ところでドクター、質問です。神霊の現界は現実に可能なのですか?」
『難しいね。不可能と言い切ってもいいほどだ。少なくともカルデアのシステムでは到底無理な芸だ』
「英霊じゃなくて、神霊?」
「はい、英霊とは異なるものです。精霊よりも上位の存在である、とされています」
『世界の伝説に数多語られる神々なるもの。時に、自然の具象として。時に、権勢の象徴として。いわゆる神。神々。神霊とは、彼らのことを指す言葉と思って構わない。彼らは既に地上から姿を消した。もしくは、物理的な観点では最初から存在しなかったか?西暦以降の魔術ではよくわかっていないんだ。何せボクらの生きる現代では観測できないからね。*4困った時に神頼みをしても、ほら、なかなか力を貸してくれないだろう?*5・・・変な例えだったかな。*6ともかく、彼らは
「いや、そりゃどうだ?呼べるだろ」
「え?」
『え?』
「冬木のライダーはメドゥーサだぞ?石化の魔眼を持ち、ステンノ、エウリュアレを姉に持つ神霊。もしカルデアで神霊が呼ばないんだとしたらそれは呼べないんじゃなくてサーヴァント側が拒否ってんだろ*9」
「では、地中海の神とは───」
『何処かの神さまって訳じゃないだろうね。現界した神霊の可能性はごく低い。というか冬木ってアレ大聖杯だろ?もしそっちの聖杯が使われたとしても普通の聖杯だから呼べないんじゃないかな?まあ、でも万が一ってこともあるかも知れないし?神の座から堕ちた神なら、あるいは、だ』
「埒が明かんな。うむ、こうまで気になったからには、だ!確かめるのが良いだろう。幸いにして、ここは地中海に面しているしな」
「恐れながら皇帝陛下に申し上げます!隊列後方が正体不明の怪物に襲われております!なかなか押さえられず*10・・・このままでは!」
「・・・むう。話の途中だというのに」
『魔力反応があるね。聖杯の影響で出現した怪物、かもしれないぞ』
「行きましょう、先輩!」
「手早く片付けよう」
「はい、マスター。戦闘開始します!」
「───戦闘、終了しました。後続はありません」
『ふう。しかし、イヤだねえ。勝手に死霊の類が沸いてくるなんて・・・』
「余は大概慣れたぞ。それで、ええと、何の話をしていたか───そう、地中海の神とやらだ!ぜひこれを余としては確かめてみたい」
「良いのですか?首都ローマへ帰還しなくても」
「古き神とやらが何かはわからぬが、もしも真に神々の程であれば、と考えてみろ。有り得ぬ話ではない。そうだ、ローマの言い伝えにもある。例えばローマ神祖にして建国主たるロムルスは雷によって姿を隠した後、最も新しき神となったのだぞ。そういうことは往々にしてあるのだ。古き神、面白いではないか。更なる仮にローマの神々であるとして、連合の【皇帝】どもに奪われでもすれば、大問題だ。それは嫌だ。*11余は、それだけはとても嫌だ」
『なるほど、皇帝陛下の言葉はもっともだ。ならば客将としてはお供をしない訳にはいかないね』
「・・・楽しんでいませんか、ドクター」
『そんなことないよ!ないよ?ボクは研究者としての溢れる好奇心を隠さないだけで!』
「それって」
「フー・・・キュッキュッ。フォーウ」
「どうかと思うぞ?」
「・・・」
「ほら、ネロさんも怒って・・・ネロさん?大丈夫ですか?」
「・・・ん。何だ?いや、余は決めた。凱旋の帰路に海を渡るのもよい!そのまま海路で首都ローマへ戻るとしよう!地の上の旅はいささか飽きた!」
「(今、ぼうっとしていましたね)」
『(そうだね。ブーディカの言っていたのが、これか)』
回想*12
「ちょっと、気になることがあるんだ。ネロ公のこと。ここに来てすぐの時もあったでしょ。気付いてたかな。たまにね、あいつ、ぼーっとしてるんだ。連合が現れて以降、たまにあんな感じになってる。気のせいかも知れないけど、そんな時は何か、薄く魔力を感じるんだ。・・・あいつはこの時代の人間だ。魔術師じゃない。なのに、確かに感じる。それとなく聞いてみたけど、あいつ自身は全然自覚がないみたいだ。だから、ちょっと気を付けといてもらえるかな。あいつのこと。あたしとスパルタクスは、引き続き、ガリア総督としてここを守らなきゃいけないから。あいつのことは・・・叶うなら、あんたたちに頼みたいのよ」
「わかりました。心配、されているんですね、ネロさんのこと」
「ネロ公の心配なんてしませんっ!・・・個人としてどうこうって話じゃないの。良くも悪くもあいつはこの地の象徴だからね。何かあれば負け戦になっちゃうでしょ。もう負け戦は嫌なんだよ、あたし。あいつを気にかける理由なんてそれだけ」
「・・・はい」
「うん。よし、じゃあそれはそれとしてぇー。マシュ、まだ時間あるわねー?」
「え、ええと───」
「出発前にお姉さんがとっておきのブリタニア料理を教えてあげましょう!ちゃんと覚えて得意料理にしてくれると嬉しいなっ!」
「い、いえ、それは───」
「こんなに可愛いんだから、花嫁修業はやっておかないとね!ああもう、可愛いなあ!ほら、こっちおいで!」
「わ、わっ、また───む、胸が」
「よしよし。いい子、いい子。ずっと元気でいなさいね。怪我とか無茶とか、あんまりしないように。キミ、ホントは可愛い女の子なんだから」
「は、はい、いえ、わ、わたしは、先輩の・・・その・・・」
「よーしよし!んー、いい後輩が育ってお姉さん嬉しいなー!」
回想終了
「・・・」
『(うん。確かにネロから僅かな魔力を感知したぞ。彼女に魔術の素養がある、ということかも知れないが)』
「(一体、何なのでしょう)」
『(う~ん、情報が足りないな・・・)』
「(ネロ公から魔力・・・?
「よし、では話は決まったな!ゆくぞ、まずは早々に船を確保せねばな!」
「───その前に。マスター。敵軍残党のようです。気配を感知しました」
『うん。こちらでも生体反応を複数確認だ。連合ガリア軍の敵性反応が幾つか、といったところだね』
「逃け帰るなら放っておくところだが、向かってくるなら是非もない。返り討ちだ!」
「はいはい
「むぅ、そなたが来てから残党処理がスムーズになり過ぎている気がするぞ?でもまぁ、あらかた片付いたな。では、気を取り直して海へと出るとしよう。船旅も良いものだ。立香、柳星。余の鮮やかな操船を披露してやろう!」
「楽しみだ」
「・・・すまんが俺は船には乗らんぞ?走る」
「そうであろう、そうであろう。素直な奴め・・・ん、走、る?」*15
「おう、海は走った方が楽だからな」
『もしや柳星ってカルデアに来る時も走った?どうやって来たのか謎だったんだよね』
「おう。船とか操れんからな!そりゃ走った方が良いに決まってる」
「やはりそなたは魔術師なのだな・・・」*16