2025年4月4日追記
女教官のセリフを微修正しました。
作戦区域に到着して数十分。討伐対象と交戦を開始した俺は現在、討伐対象に背を向け全力で逃亡していた。
2体に増えたそれの乱闘の流れ弾を避けながら、適度に魔術を撃って2体の気を引き続ける。
「葵さん、3体目どこ!?」
『11時方向に進んだ先の湖の近くです』
「了解!」
ナビゲート通りに進むと、確かに開けた湖を発見する。
左手に握った拳銃型の魔導呪具*1を向け、呑気に水分補給をしている無防備な背中に氷結魔術を撃ちこむ。
「グボェェェェェェ!!?」
「オラかかってこいよ間抜け!行儀良く水飲んでっと首刎ねるぞ!」
煽られたことだけは解ったらしい翼竜型の暴走天使は怒りに身を任せ火炎ブレスを吐き出すが、左腕の長いリストバンド型魔導呪具で発動した空間転移魔術で回避し、代わりに後から来た暴走天使を丸焦げにする。
唐突に全身を焼かれた暴走天使が怒りの雄叫びを上げるも、2番目に引き付けた暴走天使に横から殴られたたらを踏む。
どうやら翼竜型暴走天使は既に俺のことなど眼中に無いらしく、新たに現れた同族達に敵対しているようだ。
暴走天使とは本来、騎士が数人がかりになっても倒せる保証はない存在だ。当然、不死身ではない俺が
目標である3体の暴走天使は、勝手に三つ巴を繰り広げて殺し合っている。あとは様子を見ながら良い感じに誘導すれば漁夫れるだろう。他の生物を無差別に攻撃する暴走天使の性質が拍車をかけていて助かる。さっさとくたばれバーカ。
――――GARDEN ランヴィリズマ ”軍事局” 第五座学教室
「すっげぇ........!!!」
「これがガーデナー最強の実力!」
「初めにいきなり逃亡した時はがっかりしたけど、武器も使わずにたった2つの魔術だけで暴走天使を3体も相手取るなんて.....!!」
「しかも1人で戦ってるんだろ?俺たちより一回り年下だってのに、仲間の1人も付けずによく生き残れるもんだ」
「ガーデナー最年少にして最強か......おまけに階級は大尉*2なんだっけ」
「
空中に投影されたウィンドウに映る一人の少年を見る、ガーデナーに入隊したばかりの新人隊員たち。
一通りの基礎訓練が終わった彼らは、次なるステップとして任務に出ていた闇虚を実地訓練前の手本として、実際の任務の動きを観察させられていた。
「驚いたか?だが、あいつはまだ本気を出していない。それどころか、実力の半分ですらないだろう。現にあいつは、まだ腰に吊るした剣を抜いてないだろう?」
鬼教官と名高い女教官の言葉を聞き、新人隊員達は揃って闇虚の左腰を見る。
「あいつの持つ剣は少し特殊な構造をしていてな。ORANGEの連中が創る物ほど変わった武器ではないが、本領を発揮したあの剣の特性上味方がいない方が戦いやすいのだ」
「周りに味方がいない方がいいって......もしかして滅茶苦茶な無差別攻撃でもするんですか?」
「
そこまでじゃないと否定してほしかった、という新人隊員たちの思いなど知る由も無く、女教官はさらに続ける。
「まぁそもそもの話、やつの動きに付いていける人間など騎士くらいしかいないというのもあるがな」
それはそうだ、と新人隊員たち全員が納得した。
なにせ、
暴走天使同士の三つ巴を嗾けてからしばらく経った時、衰弱した最後の1体に止めを刺そうとしたところで不意に葵さんから警告される。
『緊急です!たった今、大尉に急接近する敵性反応を確認!接近速度から考えて、暴走天使かそれに準ずる個体であると推定!気をつけてください!』
葵さんからの警告を聞き終えるとほぼ同時。空から巨大な何かが飛来し、咄嗟に回避する。
飛来してきた『それ』は、瀕死だった暴走天使を容赦なく踏みつぶし血に飢えたような唸り声を上げている。
「グゥゥゥゥ......」
砂埃が晴れ露わになったその口元には、この神域由来の生物だったのだろう死骸が数匹咥えられている。
やがて全身が見えるようになった頃、空からの乱入者は口元の死骸を乱雑に吐き捨て、耳を劈くような咆哮を轟かせる。
「グゥゥゥガァァァァァァァァァ!!!!!!」
「新たな目標を確認。脅威レベルをAと判断。ただちに討伐します」
文字通り降って湧いた残業に内心中指を立てつつ、左腰に吊るした愛剣を抜き放つ。
「丁度いい。今日の晩飯は親子丼にでもしようかと思ってたところだ。お前をそれの具材にしてやる」
淀んだ鈍色の刀身を構え、駆け出した。
見た目からして天使ではないがそれなりに暴走している生物は、聴力に悪影響でしかない咆哮を響かせながら鋭く尖った爪を振りかぶる。
走りながらそれを躱すと、地面に突き刺さった腕めがけて右手の剣を全力で振り下ろす。
しかし、それは思いのほか硬質だった皮膚に阻まれ、思うような切り傷を残せない。
今度は逆の腕を振りかぶってきたのを見て、顔面に氷結魔術を撃ちこんで目くらましをしながら暴走生物の後ろまで走り抜ける。
暴走生物の後ろを取ったところで、剣の柄の人差し指の辺りの引き金を引いて
体勢を崩し、顔面から地面に激突した暴走生物が響かせる振動を確認しながら、今度は柄の親指辺りのボタンを押して
蛇腹剣。それが俺の扱う剣の正体だ。
この剣は普通の剣とは違い、変わった構造をしている。それが『刀身の展開と連結』。
蛇腹剣は刀身がワイヤーで繋がれつつ等間隔に展開し、鞭のように変化する機構を備えた剣だ。
剣としての剛性と鞭としての柔軟性。節々に分かれた刀身部の切削を鞭の打撃に加える事ができ、さらに剣と鞭の状態では倍程度も間合いに差が出るため、交戦距離を自在に変化させることが出来る。もっとも、俺の蛇腹剣は特別性であり間合いの差は
相手が迫ってくれば剣で迎撃し、相手が引けば鞭で追撃。さらには変形時の「伸び」を利用した射突攻撃や、鞭状態でのフレキシブルな斬撃を可能とする変幻自在な武器。
それが蛇腹剣だ。
転倒した暴走生物の角らしき部分に向けて再び刀身を巻き付かせ、今度はその背中に飛び乗る。
蛇腹剣を逆手に持つと、左腕の魔導具で刀身に貫通力と切れ味を増幅させる魔術を掛け、無防備に晒された首筋に切っ先を突き立てる。
そのまま拳銃型魔導呪具を操作し振動魔術で脳を揺らして動きを止め、先ほどは人差し指で引いた引き金を今度は小指で引く。
再び左腕の魔導呪具を使い、あっさりと暴走生物の首を貫いた刀身に火炎を付与する魔術を掛け、確実に息の根を止める。
急所を貫かれ内側から炭化させられた暴走生物は、先ほどよりも耳障りになった絶叫を上げてのたうち回る。無線でこの声を聞いている葵さんの鼓膜が潰れないか心配だ。
やがて暴走生物が息絶えたことを確認すると、蛇腹剣を順手に持ち直し刀身を連結させて首から引き抜く。拳銃型魔導呪具をショルダーホルスターに収め、刀身と右腕に掛けていた魔術を解くと葵さんに報告する。
「新手の目標を討伐しました。任務達成、これより帰還します」
『了解しました。最寄りの脱出用ポータルまでナビゲートします』
蛇腹剣を鞘に納めながら葵さんのナビに従い帰還しようとしたところで、不意に何かの気配を感じ取り振り返る。
「葵さん、この神域って今俺と陛下たち以外に任務を受けてる人っている?」
『いえ、大尉たち以外にはいませんが.......』
その時、数キロほど先で落雷が見えると同時に、今度はその気配の正体をはっきりと認識する。
感じ取ったのは、底なしの悪意。暴走天使などとは比較にならない破壊性を持った何かが居る。そんな存在が自然に現れるだろうか?
もしかすると、あそこには..........
「葵さん、緊急事態。たぶん陛下たちに何かあった」
『そんな.....了解しました。進路を変更、ただちに皆さんのもとまで急行してください。上には私の方から報告しておきます』
「お願いします」
闇虚「軌道修正どころか天使ですらないただの生物なんぞ暴走してようがこんなもんでしょ」
一般ガーデナー隊員「( ゚д゚)ポカーン」
軍事局上層部「やっぱこいつすげー」
総司令官「..........ε (´o`;) ホッ」
暴走生物の首を貫いた蛇腹剣ですが、剣先は地面のかなり深いところまで刺さっているため、杭のような役割も果たしています。そのおかげで闇虚は暴走生物の背中から落ちませんでした。
※魔導呪具もオリジナル要素です。