ダンジョンで思い付き短編を書くのは間違っているだろうか 作:ミストリアン
お楽しみいただければ幸いです
―――子供の成長と言うのは、親として楽しみな部分もあるだろう。
あの大抗争でもしも、命を落としていたら、この未来はなかったのかもしれない。
そう、今まさにがっつりと胸に手を伸ばす
「【
ドォォォォンッツ!!
「ほげぇぇぇぇぇっ!!」
「おじいちゃーーーーん!?」
「…はあ、またかアルフィア。これで今日は三度目だぞ」
「うるさい、その爺がやらかすからだ」
田舎の一軒家から吹き飛ばされる、好々爺の姿。
それを見て叫ぶ白兎のような孫に、呆れたような声を上げる鎧の男…そして、はぁぁと溜息を吐く美しき魔女。
彼女たちはこの田舎の中ですでに騒動を起こす者たちとして捉えられており、これもまた日常の風景なので誰も騒ぐことはない。
そしてそこに住まう人々は気が付かないだろう。
彼女たちこそが、かつて都市オラリオにて最強のファミリアに属していた…アルフィアにザルド、そしてゼウスに…今は無き、アルフィアの妹の忘れ形見と言えるベルだということを。
都市で闇派閥が暴れ、本来であればそこに加わって若い世代たちの糧になるつもりもあったが…大事な妹の忘れ形見を、あの場所で見たことでその決意が揺らぎ、参戦できなかったのである。
(…この子があれになるのか…
畑に頭から刺さった
そんな様子を見て、アルフィアはふと心の中でそうつぶやく。
そう、彼女がここにいるのは、オラリオの大抗争の中で、どこの神のいたずらかもしれない運命によって…とある未来のベル・クラネルと対峙することがあったからだ。
いかに違う世界ものだろうとも、今の彼とこの世界の彼が違っていたとしても、アルフィアにはわかる。
その血が、そのありようが…才禍の怪物と呼ばれていたこともあって全てを彼女に悟らせたのだ。
ほんのわずかな間の、叔母と甥の戯れのようなもの。
それでも間違いなくあの場に成長したベルが在り、その辿ってきた軌跡はまさに、アルフィアが望んだ英雄たちに挑んだ多くの奇跡を見せていたのだ。
「…ベル、そろそろ今日の特訓だ。英雄になりたいのならば、欠かさず行うぞ」
「え、でもまだお爺ちゃんが」
「大丈夫だ。その糞爺はあのヘラでも殺しきれぬモノ。どれほど吹き飛ばされようが、後でぴんぴんした姿を見せるぞ…うざいがな」
「…」
アルフィアのその言葉に、納得してしまうベル。
この光景は幾度もなく繰り返され、異常な耐久性を持つゼウスの生死は誰にも心配されないだろう。
それはともかくとして、この地で大事なメーテリアの忘れ形見であるベルと暮らしていたが、ある時を境に彼が英雄になってみたいという夢を持つようになっていた。
そこに挑む道は生半可なものではないと教えるために、アルフィアは自ら彼の特訓を行っていたが…その内容は、並大抵のものが挑めば確実に折れそうなものだった。
これも愛の鞭。無知な兎は鞭を知ることで、獅子にでもなるだろう。
そう考えているが、その特訓の中で、哀れな白兎が空を舞ったのは数知れず、地に埋められたのは底を突き抜けまくるほどであり…神々が見れば、もうやめてぇ、彼の体力はとっくの前に0よとでも叫んでいるだろう。
「…それでも、どうにか成長したが…やはり、神の眷属になったほうが良いか…ふむ」
「オラリオに、向かえばいいの?」
「ああ、その通りだ。神の眷属になって、スキル等を手に入れれば…より、可能性は広がる」
数年が経過し、成長したが、まだまだベルは甘い。
だからこそ、彼にはここではなく、ダンジョンがあるあのオラリオで特訓を施すべきだろう。
「嫌じゃと言いたいが、可愛い孫には必要なことじゃろう。ベル、せっかくならば、オラリオでハーレムでも築、」
「【
メゴォゥ!!
「おごぼぅ!?」
あと、普通に教育的な面で、この爺の元に置いておくのも悪いと思う面が無いとは言い切れない。
何を吹き込もうとしているのだろうか、妹の忘れ形見にろくでもないことを入れ込むのであれば、送還も考えておくべきか。
「わかったよ、アルフィア叔、コホン、義母さん!僕、オラリオに行ってくるよ!!」
「よし、分かったのならば向かえ。あとは、あのオラリオで神々や英雄の洗礼を浴びてこい」
(…今うっかり、口を滑らせかけて、行く前に逝かされそうだったな…拳を我慢したか)
彼女たちの背後で、トンテンカンッと大工道具を振るって周辺の修理を行っているザルドは心の中でそう思ったが、口は禍の元であるからこそ、あえて言うことはしなかった。
いずれにせよ、このあとベルはオラリオへ向かうことになる。
その地でどの神の眷属になるのかはアルフィアにも分らない。
(…あの
この未来はおそらく、あの
同じような歩みを見せるわけが無く、この世界でどのような軌跡を見せるかは神でも知らない。
だからこそ楽しみであり…ここまで、持ちこたえた自身にも、賞賛を送りたい。
「ごほっ…ああ、でも最後まで、出来れば見たいな…ザルド、こっそりとあの子の成長を見守ろう」
「わかったが…その今まさに、肥溜めに頭を突っ込んだゼウスは良いのか?」
「このくそ爺、孫がいなくなればもうちょっとやれると思って、手を出そうとして来たからな。私自身の身の安全のためにも、オラリオへ…向かうか」
…彼らは知らない。
彼女らは知らない。本来であればもう命を失うはずだった静寂が、偶然にもとあるジャガ丸を販売していた女神の眷属へと、少しでもステータスが上がっていれば延命になるだろうと改宗によって「マザーパワー」を発現し、ガチの最凶が爆誕することを。
神々は知らない。未来への歩みは異なれども、彼の嫁候補になりそうなものたちの前に、嫁の作法を教えてやろうと言いながら堂々と出てくる存在がいることを。
それもまた、数多くの可能性をもつオラリオならではの、この地上での奇跡であり…喜劇にもなるということを。
…この未来だと、確実にどこかの美の女神は痛い目に合う。