息も絶え絶えに屋敷の壁際で膝を着くシスイを守るように、先の攻撃によって
額から流れ落ちた血が混ざって濁った瞳を爛々と輝かせながらシスイが歪な高笑いをあげる。
「…視える…。視えるぞ東仙要…………。葛藤に苛まれる貴様の姿がよく視える……‼」
欠け落ちた翅の空白を隔てて互いの視線が交錯する。立ち上がるための支えとしている〈綾蝶〉からは大量の鱗粉が流れ落ち、瞬く間に周囲の色彩を奪いながら広がっていく。
「──ひとつ教えてやろう。『正義』とは単なる言葉ではなく、万物に
『それこそが
明るく美しい夜空が産み落とした日の陰りを肌で感じながら、東仙は祈るかのように刀の鍔に手を合わせ、抑えていた霊圧を解き放った。
「卍解────」
「────『清虫終式・閻魔蟋蟀』」
鍔飾りの輪が高速回転して発せられた耳を劈くような音さえも無明の闇に呑まれて感覚の外へ消えていく。シスイの魂魄を啜って更なる力を得た蝶の怪物を容易く凌駕する程の巨大な
丙暖壬シスイという男は〈雲〉になったのだと東仙は思った。人の形を捨て、存在さえも不確かな身体となり、光を
「『視えている』……と言っていたが、それは些か
狼狽しながら手当たり次第に周囲を攻撃するシスイと東仙の距離が縮まっていく。光も音もない無明の世界に封じられた東仙の足音が暗闇を伝い、鼓動へと変化してシスイの心臓を打ち鳴らす。
「己すらも見失った
同じ過去を辿ったからこそ、言葉ではその
「君は始めから何も
『こうして私に命を刈り取られる未来さえも』シスイの左心房で鈴の
・始解:
朱御稜家の初代当主──
〈綾蝶〉が持つ〈幸福を
当主の座を継いだ者を刀の主と認め、対話と同調を受け入れると同時に、持ち主である当主だけに留まらず、当家の血を引く者すべての魂の精髄を本人の意思に関係なく写し取る性質を持つ。
前当主から写し取った魂の精髄を次期当主の始解として顕現させる特殊な斬魄刀のため、当主交代によって斬魄刀の所有権が移った時点で次の所有者に始解が顕現する。
(上記の特性により、当主となるより先に浅打を所有していたとしても、魂の精髄は既に綾蝶に写し取られているため、その浅打が変質することはない)
能力解放と共に青緑色の鱗粉が刀身に浮かび上がり、鱗粉を付着させた人やものを自由に動かすことが可能となる。(所謂〈浮遊状態〉にさせてその動向を操るだけの能力であるため、〈刀を振るわせる〉などの細かい動きを強要することはできない。また、鱗粉の付着量によって多少前後するが最大でも100キログラム程度までしか浮かせることができず、それに加えて対象の数が多いほど能力の性能は低下する)
鱗粉自体に毒や殺傷性といった効果は無いものの、皮膚や衣服に深く食い込んで容易には剥がせない形状をしているため、炎やそれに類似する力で焼き払わない限り浮遊状態は解除されない。
〈月牙天衝〉のように刀を振り抜き、刀身に纏った鱗粉を遠くへ飛ばすことで、欠点である刀本体の間合いを〈能力〉の間合いで補いながら戦うことが可能。
卍解:
能力解放と共に太刀筋が刃の性質を持った〈
(靭性と裂傷性は反比例の関係にあり、一枚のみ具現化させた場合は優れた裂傷性と脆さを兼ね備えた刃衣となる)
刃衣はそのまま放って攻撃する他に、幾重にも折り重ねて防御に使用したり、相手を包み込んで拘束するといった攻防に長けた使い方をすることが可能。
※正式な継承者ではないシスイを含め、朱御稜家の歴代当主の中に卍解を修得した者はいない。
・
元々の刀身の先に翅脈のような紋様の刃が伸び、計七尺余り(約216センチメートル)の大太刀へと変化した姿。単に卍解の能力が強化されただけでなく、作り出した〈羽衣〉を蝶結にして蝶の化身を作り出すことで、始解時の『物体を浮遊させる鱗粉』も扱うことが可能となる。
魂魄を削ることで具現化数に伴う短所や浮遊対象の数や重さにおける制限を消すことができ、味方を安全圏に避難させると同時に、破道の五十七──大地転踊のように、崩れた外壁や土塊を操り、宙に浮かせて身動きを奪った敵を攻撃するといった芸当も可能。
・清虫七式:
具現化した輪環状の音波で相手を囲って全方向から押し潰す技。
〈孤独相〉……普段よく見かける低密度下で育った緑色を基調としたバッタのこと。『
・清虫零式:
抜刀術の要領で音波で刀を加速させて放つ突き技。
〈