夢ならせめて覚めないで   作:空言流転(旧魔庭鳳凰)

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あなたの記憶は『真』ですか?

その想い出は本当にあった過去ですか?

──────この世界に『カレ』の居場所はない。


第二話 キミの知らない『暁山瑞希』

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「どうして」

 一年前、二年前、五年前、十年前、十六年前。

 高校入学時の写真、修学旅行の時の写真、幼児の頃の家族写真、生まれたばかりの時の写真。

「なんで⁉」

 そのすべてにおいて、映った瑞希の姿は確かに『女性』のモノだった。

 生殖器官、胸の膨らみ、誤魔化せない身体のライン、そして……周囲からの扱い。

 記憶の中では小学校の頃から腫物のように扱われてきた。友達との距離はこんなに近くなくて、まともな友人関係なんて築けなかった。なのに、なんだ、この距離感は? 記憶にない。覚えがない。そんなはずがない。

「……これは、誰なんだ」

 男の癖に女性の格好をしている瑞希。修学旅行にはいかなかったはずだ。相部屋にするのか、相部屋にするとしたらどちらの性別として扱うべきか、特別扱いするべきなのか。そんな議論が教師の間で交わされるのに我慢がならなくて、欠席届を出したはずだ。

 女子に混じって運動会に参加しているコイツは誰だ? 知らない。瑞希は中学時代、この手のイベントには参加しなかったはずだ。仮にしていたとしても、こんな仲良さげに過ごせるトモダチなんていなかった。類は……、確かに友達──親友だったのかもしれないけれど、二人そろって異物だった。記憶がない。中学時代、こんな風に笑った記憶はない。

 スカートを履く瑞希。

 ワンピース姿の瑞希。

 可愛くおしゃれをする瑞希。

 すべて、……自分自身の趣味のはずなのに。

 混じる、異物。

 

 『トモダチ』。

 

「ボクは……知らない」

 写真の中の瑞希は幸せそうだった。──悩みなんてないかのように。

 写真の中の瑞希は囲まれていた。──繋がりが切れなかった暁山瑞希。

 写真の中の瑞希を……アルバムを見ている瑞希は知らなかった。──だったら、これは、ボクは。

「こんなの……知らないっ‼」

 すべてが壊れた。何もかもが狂った。森羅万象が終わった。

 間違っているのは、記憶の方か? あれだけ苦しみ、悩み、逃げて──。あれだけ叫んで、泣いて、勇気を出した行動のすべてが──。

 『──見つけた……っ!』

 交わした言葉は、──────嘘?

 『おねがい! 話を聞いて‼』

 繋いだ手の温もりは、──────偽り?

 『友達でいたいよ……‼』

 勇気を出した告白は、──────捏造?

 『一緒にいようよ、瑞希』

 あの日流した涙は、──────詐称?

 

 だったのか⁉

 

「じゃあ、このボクは何?」

 そうだとするならば、この記憶が偽りなのだとするならば。

 今ここに居る『暁山瑞希』は誰だ?

 お母さんの『娘』で、お父さんの『娘』で、お姉ちゃんの『妹』?

 類とは性別を超えた『親友』?

 『ニーゴ』のみんなとは『女友達』?

 なんだ、それ?

 なんだよ、それは⁉

「このボクは、誰?」

 知らない。分からない。どうすればいい。明日から急に女性として振舞うのか? それをしろと?

 無論、できる。今までの立ち振る舞いと何ら変わらない。スカートを履いていた、生足を見せていた、可愛らしい恰好をしてきた。違いといえば女モノの下着をつけなければいけないことくらいで、それだって無理難題なんかじゃない。抵抗感はない。『女性らしさ』なんて、とっくに持っている。

 けれど、違うのだ。全く異なることだ。

 男が女として振舞うことと、女になってしまったから女のように振舞うことは──全く違う。

 意識の問題ではない。見方の問題ではない。……性別の問題では、ない。

 『──変なの』

 笑いあった、記憶。

 それは本当にあった、こと?

「この記憶は」

 これが真実だとするならば、すべてはなかったことでしかない。屋上での告発、裏路地での慟哭、勇気を出した告白すらも! 瑞希が男だからあった過去。瑞希が女ではなかったからあった過去。そりゃあ、確かに……『よかった』なんて言えないけど。最初から『女』だったら、それで何も問題なんて起きなかったけれど。

 でも。

 でも!

 『おかえり、瑞希』

 一度切れた繋がりだからこそ、より強く結びつけたはずなんだ。

 本当に大切な、想い出なんだ。

 『ごめんね、心配かけて』

 なかったことになんかできない。なかったことになんかしたくない。嘘偽りだなんて信じたくない。

「想い出は」

 もしかしたら、ぜんぶツゴウノイイもうそう? 神代類なんて親友はいなくて、白石杏なんてトモダチはいなくて、『ニーゴ』なんてグループは存在しない?

 今まで見ていたのは、夢物語? 白昼夢の青写真(デイドリーム・ナイトメア)

 宵崎奏は現実にいる人?

 朝比奈まふゆは現実にいる人?

 東雲絵名は──現実に……いる、人?

 その証拠はない。

 記憶はもはや当てにならない。

 最初から『男』だった……、暁山瑞希。

「『ここ』にいるボクは」

 拠り所になり得る証拠。そんなモノはない。

 記録はすべてがこの瑞希の想い出の偽を証明する故に、自らを肯定してくれる要素はない。

 スマホをつけて調べればいい。ナイトコードに参加しているのか。『Untitled』は存在するのか。チャットの履歴を遡れるのか。

 

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 けれど、もしもそれができなかったら?

 ナイトコードに参加してなくて、『セカイ』なんてモノは存在しなくて、『ニーゴ』の一員でさえなかったら?

 そうしたら、どこにあるんだ?

 

 『ボク』の居場所はどこにあるの?

 

「────────────なんなんだ」

 知らない『暁山瑞希』。記憶にない『暁山瑞希』。女性としての『暁山瑞希』。

 嗤えるくらい、馬鹿馬鹿しい夢物語。女になりたかったと、そう思わなかったと言えばそれは嘘八百だ。何度も思った。女性として生まれていれば、ただそれだけで、と。でも、実際になった『今』だからこそ分かる。

 瑞希は女性になりたかったわけじゃない。

 瑞希はただ、──欲しかったんだ。狂おしいほどに求めていただけ。だから辞められなかっただけ。類では届かなかった、杏では足りなかった、家族では満ちなかった。

 

 認めて欲しかった。

 

 ただそれだけの、ありふれた承認欲求。

 

 奏が。

 『瑞希』

 まふゆが。

 『瑞希』

 絵名が。

 『瑞希』

 そして瑞希は。

「ボクは──────ダレ?」

 だれですか?

 

 

 

 ◆

 

 その眼が、脳裏に焼き付いて色褪せない。

 その目が、記憶にこびりついて滲まない。

 その瞳が、彼のことをずっと責め立てる。

 普通になれなかった彼のことを。みんなと一緒にできなかった彼のことを。誰も彼もを傷つけた彼のことを。ずっと。

 友達だったダレカ。

 家族だったダレカ。

 もういない、みんな消えて、別れて、亡くなってしまった。その責任の全ては彼にあり、だから自業自得で自責の念。本当に幸せだった瞬間はいつまでだったのだろう。思い出せないほど彼方なら、幼児期健忘──たった三歳までの三年間?

 水族館、楽しかった。

 のは自分だけ?

 遊園地、楽しかった。

 のは自分だけ?

 公園で鬼ごっこ、楽しかった?

 楽しかったの? 本当に?

 『そんなの変だよ!』

 誰かの言葉で世界が終わった。一度流れができればもう変えられない。

 『男』、『女』。そのどちらにも属さないなら、もう消えるしかない。

 排斥の流れが当然だというのならば、それに反発する輩がいるのも自然だった。

 昨日まで友達だった『ボク』のことを、そりゃあ急に仲間外れになんてできない人もいるだろう。優しい人、男友達、女友達。

 だから壊れた。

 『きゃあああああああ!!!』

 学級崩壊なんて生優しいモノじゃなかった。それは、傷害事件だった。

 『お前のせいだ!』

 何の反論もできなかった。すべてその通りだと思った。

 それでも、やめられなかった。それくらい自然で、当然で、苦痛で、『ボク』だった『こと』。

 間違えなら、終わらせてほしい。誰でもいい、殺してほしい。

 まふゆとは違う。より悪い。愛されたいと願って自分を殺すこともできず、生まれ落ちたゴミ人間未満。

 

 生きる資格なんて、無いくせに。










後半の独白はすべて同一人物のモノです。




Twitter:@LAST_LOST_LIGHT
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