夢ならせめて覚めないで   作:空言流転(旧魔庭鳳凰)

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もう二度と『仲間』と会えないなら。

ダレが頑張れるというのだろう。

たった一つの『恋』すらも嘘だったのならば。

ボクはあの時死んでしまえばよかったんだ。


第二章 HD 140283より罰を込めて
第五話 ボクという名の世界の中心


 気が付いたら暁山瑞希は自室のベッドで寝ていた。

「また、か」

 記憶が断絶している。確かに神山高校の屋上で類と話していたはずだが、今はこうして自室のベッドにいる。

 全くどういうことだ? 一体何が起きている? 意味不明、理解不能、空前絶後。本当に、馬鹿馬鹿しい。ここまでくれば認めるしかない。性転換──なんかよりも遥かに重大な『何か』が起きている、と。

 二重人格? 夢遊病? 解離性健忘? すべて、可能性を否定することなんてできなかった。

「…………ここが」

 記憶の断絶は三度起きている。

 一度目は起床直後。だがこれは問題ない。『男』から『女』になっていた──という事実こそあれど、寝ている間の記憶がないことは当然である。だから、この断絶はいい。

 二度目は神山高校の屋上。当然だが、瑞希は類に『助けて』のメッセージなど送っていないし、何よりも神山高校に歩いて行った記憶もない。この断絶は問題だ。無意識的な行動であったのか、何らかの理由で自分自身で記憶から消したのか……()()()()か。

 三度目は今この瞬間だ。神山高校の屋上で頭痛に苛まれ、奏の姿を幻視し、……そして記憶が飛んで瑞希は自室のベッドの上にいる。もちろん、帰ってきた記憶もなければ、ベッドで眠った記憶もない。

 けれど、それらは本質的な問題ではない。はっきり言えば、記憶の断絶という事実(そんなこと)はどうでもよかった。

 どうでもよくないのは、類の推論だ。

 あれが現実だったのか妄想だったのかは分からないが、それでも類は確かにこう言っていた。

 つまり。

 『ここが、君のいた世界ではないという可能性』

「『ボク』のいた世界じゃない……可能性…………」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう考えると、不思議と全てに納得がいくのだ。

 性転換したのではなく、()()()()の暁山瑞希は女性だったというだけ。母親の発言だってそう考えれば納得がいくし、最初から暁山瑞希が女性だったのならば当然子供の頃の不和なんて発生するわけがない。自分はそんな別世界の瑞希の身体に憑依してしまった……、と考えれば納得はいく。

 証拠こそないが、不思議な納得感があった。

 そう、……余計に納得ができるんだ。

 

 屋上で、おそらくは『この身体』が体験した過去の情景と思われるモノを幻視したから。

 

「あれは……、……奏だった」

 見間違えるはずもない。あの銀の長髪を。ほかでもない瑞希が。

 『嘘つきっ‼︎‼︎‼︎』

 初めてだった。あんなにも感情をあらわにした奏を見たのは。どんな時だって、奏が言葉を荒げたことはなかった。そりゃ、奏だって人間だ。人並みに怒りをいだくこともあるし、内心ブチ切れていることもあるだろう。けれど、少なくとも瑞希の知る奏は…………それを表に出すような人間ではなかった。

 たぶんそれは、罪悪感があるからだ。『父親』を殺した──という罪悪感が常に奏を責め立てているからだ。

 だから。

「この世界のボクは……何をしたんだ?」

 最大限の憎しみが込められた『嘘つき』という言葉。それは間違いなく『瑞希』に向けられていた。でも『ボク』にその記憶はない。なら、類の推論が正しいという前提で考えて、あの言葉は『この世界の暁山瑞希』に向けられたモノだ……と考えるべきだろう。

 『この世界の宵崎奏』と『この世界の暁山瑞希』は二人でフェニックスワンダーランドに行って、おそらくそこで何らかの決裂があった。温厚な奏が怒りを露わにするほどに決定的な決裂が。それが……少々飛躍した考えになるが……『ボク』がここにいることに繋がる?

 例え並行世界の暁山瑞希だったとしても、それは『ボク』だから『暁山瑞希』の考えは理解(トレース)できる。

 あの奏と決裂したらきっと『暁山瑞希』は…………逃避するだろう。『この』瑞希が絵名から逃走したように。結局勇気を出すことができず、問題を先送りして瞳を閉じてただ逃げ続けることを選ぶだろう。そんなの……容易に想定できる。

 逃げて、逃げて、逃げて──────。

 …………その逃避先が()()()()だった──という可能性。

 

 『この世界』の『暁山瑞希』と『別世界』の『暁山瑞希』が──つまり今ここに居る『暁山瑞希(ボク)』が…………入れ替わった可能性。

 

 とんでもなくファンタジックな考えだが、『セカイ』なんてモノがある以上可能性は否定しきれない。なにせ『セカイ』は……時に現実すらも侵すのだから。

 もしも『この世界』の暁山瑞希が一つの世界を侵すほどの『想い』を発現させたのならば…………考えられる。『カノジョ』と『ボク』が入れ替わった可能性も。

 そしてだとすれば、この三度にも渡る記憶の断絶にも説明がつく。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

「味方がほしい」

 『これ』が敵だとするならば、『ボク』は自分自身をすらも信じることができない。今の推論がすべて当たっているのだとしたら、類がどう動くのかは分からない。けれど、アドバンテージはある。

「『ボク』なら絶対話さない」

 奏との口論も、現実からの逃避も、入れ替わりの『嘘』だって──話すことはないだろう。

 この立場に置かれた今だからこそ言える。誰でもない、他でもない『暁山瑞希』のことだからこそ。同族嫌悪の自己嫌悪。けれど結局理解者なのだ。断言できる。

 例え並行世界の同素体だろうが根本は変わらない。変えられない。

 暁山瑞希は自分勝手で自分本位なクソ野郎だ。どれだけ他者を(おもんぱか)っているように思えても、『瑞希』は自分の利益しか考えてない。元の世界で話せなかったのもそうだ。この世界で逃げ去ったのもそうだ。他責の極み。欲しくなくて、でも欲して。勇気がでない癖に理想だけは一丁前で。気を遣えるくせに気を遣われることが嫌いで。

 そんな、クズゴミが『ボク(カノジョ)』だ。

 だから。だけど。自分で他人なカノジョに、だからこそ言える。

 ()()()()()()、と。

(ボク達は…………向き合うべきなんだよ)

 辛くても、怖くても、寂しくても。

(奏との間に何かがあったんなら、話すべきなんだよ)

 信じられなくても、別れが待っていても、独りきりでも。

「『ボク』がここに居たって」

 キミがどこかに逃げたって。

「意味がないから」

 意義がないから。

 そうして、瑞希は勇気を出した。『すべて』を話す覚悟なんて必要ない。だけど、『カノジョ』を揺り動かすためには必要だろう。

 仲間と、会うべきだ。『ニーゴ』と会うべきだ。例えここが違う世界なんだとしても、『ボク』が独りなんだとしても。彼女達は絶対に力になってくれる。

 だからスマホを手に取る。目覚めた時には見れなかった『ナイトコード』のログを遡る。そして、赤丸をタップする。それが祈りに繋がるように。

「ボクは……前に進むよ、──────『瑞希(キミ)』よりも先に」

 だけど、瑞希(カレ)は知らなかった。この世界の瑞希と奏の間に何があったのか。

 彼らの間に起きていていたのは、瑞希では想像することすらもできないほどに大きな『絶望』だったのだ。

 知らない方がいいことはある。

 知らないことで救われることはある。

 性別を偽っていた? それが()()()()()()言い切れるほどに。

 

 二人の間に起きた『悲劇』は、絶黒の罪と罰だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 わたしと瑞希は恋人だった。

 わたしは瑞希と付き合っていた。

 初めてのキスはレモンの味がするって聞いたけど、そんなことはなかった。

 わたしは瑞希のはにかんだような笑顔が好きだった。

 わたしは歩道で並んで瑞希と歩く時間が好きだった。

 間違いなんかじゃない。

 あの時間を否定だけはさせない。

 わたしは瑞希を愛していた。

 拙い恋心なんかじゃない。

 わたしは瑞希を愛していた。

 結婚して、子供をつくって、死ぬまで──一緒にいるのだと、一緒にいたいんだと。

 真実思っていた。

 今でも言える。

 好きだと。大好きだと。愛していると。

 わたしは瑞希の優しいところが好きだった。

 わたしは瑞希のかっこいいところが好きだった。

 わたしは瑞希の──一生懸命なところが好きで。

 頑張り屋さんな瑞希が大好きで。

 わたしは──瑞希と。

 ずっと。

 ずっとずぅっと。

 でも。

 『嘘つきッ!』

 たった一つ『嘘』が。

 わたし達の関係性を。

 終わらせたんだ。

 『ボクに……近寄るなァっ!』

 吐瀉物が遊園地を汚した。

 血反吐をはくような『想い』だった。

 『大っっっっっっ嫌いッッッ‼‼‼‼‼』

 わたしは叫んだ。

 知らなかった。知りたくなかった。そんなことを。そんな『罰』を。

 わたしは。

 わたしはっ。

 わたしはッ‼

 わたしは……、わたしは! わたしはぁあああああああアアアアアアアアアアアア――!!

 ピロンっ、と音がなった。

 スマホの画面に通知が来ていた。

 『今から会えない?』、と。

 わたしの好きな人からの、絶望の言葉が。







HD 140283:別名メトシェラ星。この宇宙よりも古い歴史を持つと言われている唯一無二の天体。



まだ、伏線回収はしていません。






Twitter:@LAST_LOST_LIGHT
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