野生のオルクセン短編まとめ   作:秋月ひろ

6 / 8
『やめられないとまらない』は原作書籍版第2巻・コミカライズ版第10話までの読了推奨。
『危機的容積』は、オルクセンにおける近代兵器に対する考察を見て。原作完結後の時代設定につき、Web版読了後を推奨。
とはいえどちらもネタバレというよりは、知っている人向けの小ネタ、という意味合いで、です。


やめられないとまらない/危機的容積

『やめられないとまらない』

 

「何これうまっ!」

「ね、意外だよね~」

 アンファウグリア旅団の参謀達はその日、思わぬ差し入れに舌鼓をうっていた。まだ湯気を立てている大振りなドングリの山に、次から次へと手が伸ばされる。

 なんでも、オーク族の間では昔から親しまれている物らしいが、亡命してきてまだまだ日の浅いダークエルフ族にとっては珍味。編制が完結するまで多忙を極め、様々な食を楽しむだけ余裕がなかったから、という事情もある。

「誰の差し入れ?」

「ディネ姉様」

 業務はひと段落、上官も部下も周りにはおらず、同格で苦労を共にした者同士。互いに膨らんだ頬をもぐもぐと動かしながら、雑談にも華が咲く。

「あ~、じゃあこれって」

「うんまあ、そうだろうねえ」

 こんな物を誰が旅団長に教えたか――想像は容易く、にんまりとした顔を見合わせる。

 

「あ、でもこれって、あれかも」

 ペキパキと、薄皮を剥くのに少し苦戦している大尉が、何か思い出したように言った。

「曰く付きかもしれない」

「曰く?」

「そ。こっちへ来てすぐの頃かな? ちょっと小耳に挟んだんだけどさ。ほら、オークって食欲旺盛じゃない?」

 何しろ飢饉が戦争の理由になったほどだ。エルフなら皆嫌でも知っている。

「飢饉になるとね、飢えに苦しんでる子供の前に、ころんと木の実が転がってくるんだって。そんな物全部食い尽くしちゃったはずなのに、どこからともなく」

 雲が出てきたのか、窓から差し込む陽光が不意に絶え、室内が薄闇に覆われる。

「木の実に飛びついた子供の前に、またひとつ、またひとつって、何度も転がってくるの。まるで……どこかへ誘うみたいに」

 ペキリ、と。大尉が持つドングリの皮が、半端に割れる嫌な音を立てた。

「その子供はドングリを追いかけるうちにいつの間にか、深い深い穴の開いた場所へと招き寄せられ……」

 いつしか恐ろしげな声と表情までつくって語る大尉――。

 

 だが、隣の同僚が呑気な調子で横槍を入れる。

「ああそれ聞いた~。拾い食いを戒める童話だよね。生のままじゃお腹壊すからって」

「いいところで! なんでそれ言っちゃうかなあ」

 大尉は少しだけ顔をしかめると、ようやく皮の剥けたドングリを頬張る。話の腰を折った同僚はといえば、手にした食べかけのドングリをしみじみ眺めていた。

「いやでも、別の意味で怖いよこれ」

「どこが」

 大尉の問いに同僚は、真顔で応じる。

「いくらでも食べられちゃう。太る」

「……あー」

 室内にいた者全員が手を止め、同意の呻きを一斉に漏らした。

 

 了

 

 

『危機的容積』

 

「諸君。我々オルクセン軍は重大な危機を迎えようとしている」

「やはり、始まってしまうのか」

「ああそうだ。兵器の近代化に伴う搭乗員の選定は、騎兵以上に狭き門となる。これは確定事項だ」

「そんなに小さいのか? 鋼鉄製の飛行機械は」

「空だけじゃないぞ。戦闘用自動車、可潜艦、いずれも居住性は低い。解決しようにも、今はまだ技術的に困難だ」

「戦闘機と戦車と潜水艦と言えよ、まだるっこしい」

 

「呼称はさておき、オークが乗れないのは問題ですね」

「ああ。現在(いま)でさえ、コボルト族に頼り切りだというのに」

「小柄な彼等にデカい俺達が、おんぶに抱っこだからな。情けないよ」

「ヴァルダーベルクは?」

「エルフ族にはもちろん、乗ってもらう。が、それでも絶対数が足りない。軍の主力兵科までもがそれじゃあ、将来的にも拙い」

「さらばオークの津波。とはいえ、少数精鋭ではいかんよなあ」

「戦いは数だよ、同胞」

「ならばどうする?」

「オークを詰め込むしかあるまい。無理にでも」

「全将兵に痩せろとでも命じるか?」

「いいな。三食量を減らして」

「兵站も楽になる」

「素晴らしい! 四日で反乱が起きるな」

「うん、当然だな。作戦行動中でもないのに、我慢できるはずがない」

「ではやはり、技術開発に勤しむしかないのでは? 我々でも楽に乗れるような、馬鹿でかいやつを造れるように」

「的になるだけじゃないかなあ」

「「「うーん……」」」

 

「……よし。昼だ。食ってから考え直そう。食はすべての根幹だよ」

 

 了




 アンファウグリア旅団の参謀たちって、エルフ族としてはまだ若いとのことなので、彼女らだけで集まっているときは女子高のノリになるのでは? という想像が。そこにあの、コミカライズ版でさらに旨さを増した感のある焼きドングリと、オルクセンに怪談や都市伝説はあるやいなやという思いつきの組み合わせで。
 登場人物のイメージは、某作戦参謀嬢と某兵站参謀嬢。

 兵器のほうは、度々話題になる、オークが搭乗できるような戦車の話から。原作(Web版)の外伝でも少し触れられてもいるように、史実での戦車発達史とも絡んで想像力を刺激される話題なんですよね。
 時代の流れを受けてどんどん大型化・重装甲化したかと思えば、機動性重視に戻ることもあり。これは陸戦兵器に限らず、空や海でも見られる現象なので、答えの出ない問題なのかもですが。ひとつの技術が上がれば、それに対抗する措置もまたレベルアップして。イタチごっこで、試行錯誤が止まらないような。
 個人的には、オーク向けの大型・重戦車と、エルフやコボルトなどの種族向け軽量・高機動型車両の二軸(いわゆるハイローミックスに近い流れ)も選択のひとつになるのでは……と想像していますが。
 あとは原作における、自由討議の描き方が好きなもので。古くは佐藤大輔氏が『征途』で書かれていた、自衛艦隊の在り方に対する討議(「呉にモスボールしてあるじゃないか、一隻」の名言が生まれたシーン)にも通ずるものが。
 以下はTwitter(X)での小ネタ。

「戦車なあ。オークにとって車体が狭いのは問題だ」
「ならば広い車体を。巨大な戦車を」
「そんな戦車がどこにある。大体主砲は?」
「海軍が改装で余らせてる砲があるじゃないか。あれを」
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