ゼンレスゾーンゼロ 零落者のゆく先   作:柿本人麻呂

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【お祭りごとの、ちゃんちゃら騒ぎ】その6

 駆動していないスタンガンが、柊の首にあてがわれる。それはまるで、獣が自分の首を掻き切らんとしている様に見えた。

 

 脳が揺れる。頭から血が脈打つように出ている。額を垂れた血が目にかかり、思わず片目を瞑る。

 

 相手がスイッチを入れようとしているのがわかった。

 

 

            ──コンコン。

 

 

 ノック音が鳴った。さっき聞いたノック音は自分の頭を強く叩いたものだったが、今度こそは扉から鳴ったものだった。

 

「誰だ?」帯刀している方の男が反応した。「今取り込み中だ。後にしてくれ!」怒鳴るように言った。

 

 にも関わらず、ノック音の主は問答無用で扉を開ける。分厚い木製扉の軋むような音が、深く脳裏に響く。

 

 出てきたのは、背広姿の物腰柔らかそうな貴族だ。

 

 助かった。柊は一瞬だけそう思った。

 

 貴族のような殺し屋、ヘプタが扉の前で佇む。片手には酒瓶を握っている。

 

 確かにヘプタは強い。それはわかる。長年殺し屋を営んできた経験豊富のベテランだ。

 

 だが、相手は男二人だ。拷問なんてお手のもので、床に転がる二つの死体を見てわかる通り殺しもお茶の子さいさいだ。

 

 経験はあれども、肉体的に圧倒的不利。その上二人だ。この二人からは、柊でさえ気分を害するような邪悪さがある。

 

 ヘプタのいつもの、口を半開きにした顔と、定まらない目線が柊を不安にさせる。

 

「全く、頑固なボケじじいだ。言うこと聞いてりゃちったあ余生も伸びただろうに」

 

 スタンガンの男が、懐から拳銃を取り出した。銃を向ける。

 

「最期の時くらい、言葉を聞いてやるよ。それともあれか。酒持ってんなら、飲むか? 待っててやるぜ」

 

 その時、部屋の梁だか柱だかを浮浪していたヘプタの視線が舞うように下に落ちて、男の拳銃に焦点を結んだ。

 

 顔つきが変わっている。明らかに呆けた老人のそれではない。

 

 目の周りに刻まれた皺が、彼の『殺し屋』としての本能を物語っていた。口はキッと結ばれている。

 

「そうだな。酒、飲めよ。待っててやる」ヘプタの声。

 

 瞬間、酒瓶は男の顔面に衝突している。割れる。破片が舞って、中の赤紫の液体が無数に反射した。

 

 たまらず、男がのけ反る。顔には大きな打撲痕。

 

 既に老人は彼の懐に潜り込んでいる。

 

      ──────ここまでたった、0.3秒。

 

 右の大ぶり。それさえ避ける余裕はない。

 拳は顎を捉え抜き、男は意識が吹き飛んだ。

 

 ここで、次の敵に視線を移す。

 

 既に刀が抜かれている。切っ先の、この上なく綺麗な軌道が空間を二分する。

 

 即時、ヘプタが躱す。

 

「後はお前がやれ」いつもと違う老人の声が、柊の薄い意識を貫いた。

 

 柊が立つ。視界が揺れる。どうでもいい。

 

 刀が柊に目標を変える。

 

 鋭い袈裟斬り。

 

 よく見た軌道だった。剣を学んだ最初の最初から義父に、

 

『刀を使うには、刀を受けるのが最たる修行である』

 

 と言われていた。

 

『刀を使うには、刀の間合い、振った時の軌道を熟知しなければならない。それを知るには、刀を避けるのだ』

 

 それから三年間は、義父の振る木刀を避けるだけの修行をしていた。

 

 よく、早く刀を使いたいと義父に話したものだ。だが、いつもダメだと断られた。

 

『刀を避ける意識が固まったとき、よしとしてやろう』

 

 三年やると、だんだんと、刀の間合いがわかってきた。義父の剣を鼻と紙一枚隔てて避けられるようにさえ、なった。

 

 今相手にする敵が放つ袈裟斬りは、その時に何度も、何度も、何度も見た動きだ。

 

 ふらつく意識で、確固たる意志で──刀を避ける。

 

『よし』そばで義父が言った感じがした。

 

 空振った刀に腕を通し、捻り落とす。そうして、簡単に刀を奪い取った。

 

 相手を見据える。剣技を習って3年後、初めて刀を持たせてくれた義父が、柊に言った言葉を思い出す。

 

 

 ────意識しろ。間合い、軌道、培ったことを脳に浮かべろ────

 

 

  呼吸を相手に合わせる。

 

  脳に伝達される全ての情報を意識。

 

  揺れる視界と震える手でさえ、我が血肉と為す。

 

    視覚、音、感触、間合い、軌道、全て

       ────その全て、我のものだ!

 

 

    「────────斬ッ!」

 

 

 銀の刃は真一文字に一閃した。

 

 途中、一人の男を斬ったが、それはただの通過点で、障害にされなれなかった。

 

『よくやった』父がそう言っている。

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