ゼンレスゾーンゼロ 零落者のゆく先   作:柿本人麻呂

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前回:ヘプタと木と家に帰った。次の目的地は……零号ホロウ


零落者のゆく先 【モッキンバード】
ヒューゴ・遭遇


 零号ホロウに向かう。元執行官の柊がそれには一番詳しいので、運転したのは彼女だった。

 零号ホロウ前哨基地はもちろん避けて、一目散に侵入した。

 

 さて。この場所であなたが目にするのは、一瞬にして終わった都市の哀れな残骸だ。

 そのビル同士の間に車を置いて、眼前に広がる感動的な風景を眺める。

「壮観じゃの」

 いつも目が浮ついているヘプタも、今はしっかりその風景を目に入れていた。

 

 ある高層ビルの頂上は巨大なつぼみがパックリ開くようにエーテル物質が寄生している。その手前の広場は打ち捨てられた路面電車が当時のままあって、そのまた手前には透き通った水たまり。

 

 ──まさに壮観だった。

 

 柊が水たまりを踏む。鏡面となって写し出された彼女の姿はそれでごちゃごちゃになった。

 

「静かだな。本当にメームはいるのか」

「授賞式で自分を狙う存在が知ったメームが、そのままここへやってくるとは思えないな」

 柊が答えた。あるかもわからないわずかな情報を掴みにここへ来たのだ。メーム本人がいるとは更々考えていない。

 

 路面電車は脱線し、両側のビルに連結するように障害物となっている。手っ取り早くここを通り抜けるには、電車の中に入るのが最善だ。

 

 あったはずのドアは無く、電車にはすぐ入れた。ガラスは皆砕け、床に散乱している。

 

「……!」

 そこで、柊が止まった。

「どうした」

「嫌な冷気がここに残っている」

「エーテリアスか?」

「そうだろうが、あるいは……」

 

 進む。電車を降りて、あのエーテル物質のつぼみのある高層ビルに入りこんだ。

「ああ──そう酷くはないな」

 ビルの内部は思ったよりは整っている。

 エレベーターに乗った。当然動かない。天井部分を破壊してこじ開けると、遥か上に繋がるワイヤーロープをよじ登る。潤滑油で滑るかもしれないと柊は思ったが、歳月によりそのことは大丈夫であった。

 

「老人の体には堪えるわい」

「嘘つけ」

 

 上の方でおかしな声がしている。もちろんエーテリアスだ。

「嫌な冷気ってのはこれか?」

「違う」

 

「キィエエエエアァ‼︎」

 

 声がした。エーテリアスだ。

「悟られたか」

 柊は呟くと腰にぶら下がる刀を片手で手繰り寄せた。

 

 化け物どもは殺到する。落下することなど少しも意に介さずに、上部のドアを破壊して、飛び込んできた。

 抜刀する暇は無かった。あられのように落ちてくるエーテリアスは三人の身体を重力のままに引っ掻いて、共に宙に投げ出される。

「──ッ!」

 身をよじり、既に抜いた刀を壁に突き刺す。

 

 ガリガリガリ──ッ!

 

 そんな音と共に静止。ヘプタ、木はどうしようもないままに暗闇に堕ちていった。

 一人分のエーテリアスが柊に抱きついている。懐の対エーテリアス用ナイフで頭頂部を突き刺し、人間で言うところの耳──顎へと切開したら、二度と動きはしない。

 切れ味がいいなと、柊が思った。木が用意した物だった。

 

 突き刺した刀を離し、壁の突起にへばりつく。刀を抜いてエレベーター構造部からドアへ脱出した。

 

 割れがかった姿見に柊が映る。袴のところにエーテル物質が付着している上、足元が破れていた。

 

 高い音が鳴った。すぐ後ろだ。

「いつの間に」

 後ろを見やる。ゆっくりと、拍手をしている。気配はあの冷気と全く一緒だ。

「そう身構えないでくれ」

 その人は言った。長身で、赤とグレーのオッドアイ。どこか奇妙な雰囲気を持つ男だ。

「あのエーテリアスどもは、主が送ったのか」

「そういうことになる。いくつものエーテリアスが私の喉を掻き切らんと迫ってきたもので、俺は正当に防御した。その成り行きでね。

 謝って欲しいのならいつでもその準備はできているが、どうしたいのだね?」

「構わぬ。主がホロウレイダーでない限りは」

「なるほど。

 では弁明させていただこうか」

 低く、落ち着いた声だった。『人ぐらい殺したことがありそうなものだ』柊はどことなく思った。

 

 彼は少し考えて、

「ああ……弁明と言ったもののだな。俺は自分をホロウレイダーでないと信じているが、そう思う根拠のところを貴公に唱えることはなるほど難しい」

 と言った。

「法によれば、私はホロウレイダーと言える」

「ならば、治安局の治安維持活動にその身を以て貢献してもらう他ない」

 刀を握るが、相手はそれを見て眉どころか瞳の中の虹彩すら動かしていないようだ。

 片足を引いて、半身の構えをとる。

「いやはや、貴公こそホロウレイダーでは?」

「正義によるものだ」

「それは俺もだ」

 

 今ここで彼を相手どったところで、局面が難しくなるだけだ──柊はそう思った。構えを解き、彼の目を見た。

 

「名をなんと言う」

「ヒューゴだ。貴公は?」

「柊司だ。主の目的は」

「ある任務がそれだ」

 柊には彼という奇妙な人物についてある種の確信があった。それをぶつける。

「『メーム』か?」

 

 ヒューゴの瞳が僅かに動く。

 

「…………何のことかな? 俺はそれのことを記憶のどの部分にも見つけることができないが、貴公はその口ぶりからして『メーム』というのが目的らしい」

「そう思ってもらって構わぬ」

「なるほど。そして、私の目的はここら一帯にいるというホロウレイダーだ」

 彼は少し間を置いて言った。

「それでこのビルに来たとな?」

「いかにも。貴公の目的とはおそらく違う」

 何か情報を掴めそうなものだが、引き出せない。このヒューゴという男の掴みどころのなさが、柊を逆に警戒させた。

 

「……提案があるんだが」

 

 ヒューゴは言った。

 

「一つここで、協力関係を築いてみてはいかがかな」

 

 

 

 

   ヒューゴ、遭遇・了──

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