ゼンレスゾーンゼロ 零落者のゆく先   作:柿本人麻呂

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End of Struggle

 柊はキキの胴体を一刀のもとに斬り伏せる。

 

「化け物が」

 

 キキはそういうと、尻もちを突く。

 

「決したな」

 

 彼女は一言言って、もう一度剣を振り上げる。

 

「だろうな」

 キキはあの笑みを浮かべて、柊を見つめる。

「何だ」

 

「やはり俺を……殺すんだな」

 

「当たり前だ」

 

「これで決した訳だ。

 柊は、どうしようもなく──人殺し」

 

「辞世の句がそれか。五七五にするのなら、季語が欲しいところだ」

 

「目を背けたいか」

 

「時間がない。死んでもらう」

 

 彼女は剣を強く握り直す。

 

「フッ、()()()()()

 

 キキは慣れないというよりも初めてに近い笑みをより一層強め、そう言った。柊にはその顔と言葉で、彼女の内奥が見透かされ否定されたように感じられてならなかった。何より許せないのは、義父を否定された心地がしたことだ。

 

「貴様ッ──!」

 

 義父──神坂犀星(かみざかさいせい)がくださった教えは、そんな不埒で下卑たものではない!

 

「侮辱する気か!」

 

 剣を下ろす動作。それは途中で中断された。

 

「やめるのです」

 

 柊の視界の端から物体が伸びた。それは傘の持ち手部分だった。それで剣を受け止めるつもりだが、そんなもので柊の斬撃を受け止めることは容易ではない。

 

 だが、傘の持ち主はやってみせた。傘を刃の動きに合わせて傘を移動させ衝撃を吸収。そのまま持ち主に引っ張るように逸らし杖を自分の背後に引きずる。

 

「ビビアン」

 

 この技をやってみせたのはビビアンだった。

 柊が驚いたのもつかの間、反動のままに引き寄せられ、ビビアンは柊の胸に人差し指を当てる。

 

「戦いは終わりなのです。自分の体を顧みるべきなのです。そして時間も」

 

「だが……こいつの……」

 

 ビビアンが来て、柊のアドレナリンが切れた。石鹸水で作った泡のように繊細に保たれていた意識は、そこでぷつりと切れてしまった。

 

 

 

 

「……」

 

 目を開く。

 

(私は、立っているのか)

 

「ここは……」

 

「……最初から、貴公のことは信頼していないのだよ」

 

 周りを見回す。ここはあのオークション会場ビルの屋上だ。すぐそこに割れた天窓が見える。

 

 前の、屋上の縁線を見るとヒューゴが立っている。そして柊の隣にビビアンがいる。上空を吹く強い風に吹かれてビビアンのスカートが妖しくゆらめいていた。

 

 柊はここにきて腹を貫かれた痛みに悶えた。

 

「あ……れは……エーテル」

 

 ヒューゴが手に物を持っている。無論それは、敵勢力の狙う超高濃度エーテル物質だ。

 柊は気を失っていたためヒューゴの言うことがよくわからない。だが、1つ分かることは、

 

「裏切り……」

 

「そう言うことになろう」

 

 俯いて無言を貫いていたビビアンも、柊を流し見てヒューゴの元へ歩き出す。

 こうなればビビアンが裏切るのも、彼女に予想はできていた。

 

「全く……予想していたとはいえ、心地の良いものではないぞ……」

 

「それ以上動くのはやめるべきなのです」

 

「だま……れ」

 

 ヒューゴが手を広げて、ビルの縁から大地の方に体を傾ける。そのままビルの向こうに落下し、消えていった。そしてビビアンも、後を追うように飛び降りた。

 

 柊は使命感のために足を動かしてみるが、いつの間にか体は倒れ、そのまま意識の底に堕ちていった──。

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

「まだ、生きていたか」

 柊は見知らぬ天井を見るなりそう言った。彼女は倒れる直前、次に見る景色は黄泉のものと思ったのだが、意外にもそうでなかった。

 

「残念じゃったの。天国に行き損なった」

 

「天国……」

 

 柊は切なそうに目を細め、白い天井に神坂犀星の顔を浮かべる。

 

「私は天国に……いけるのだろうか」

 

「無論じゃ。人のために刀を振ってきた人間が天国に行かねば、誰が天国に行くんじゃ? わしはそこいらを持ち合わせておらんので、いま逝けば地獄じゃろうが、人助けに人殺しを使えば、今にでも神は見直してくれるじゃろ」

 

「……」

 柊は何も言わないでおいた。

「ここはどこなんだ」

 部屋の奥にいる木に聞いた。

「旅館だ。いい宿をとった」

 

 柊は起き上がって窓辺のスペースに歩み寄ると、外を眺める。

 

「怪我は大丈夫なのかの?」

「……ああ。我は昔から治りが早い」

「腹に一太刀突っ込まれてもか。人間とは思えんな」

「……我自身でもそう思う」

 

 柊は回想する。刺された後キキを倒し、気を失った。そして、気づいたら屋上にいたのだ。まるで自分が夢遊病であったかのように。そして何より柊が奇異に思っているのは、仮に『夢遊状態』であった自分が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……ふう」

 

 考えるのはやめにした。

 

「ヒューゴに裏切られた」

 柊が言った。木は手に持った新聞を閉じると、

「まあそうだろうな。腹を切ったぐらいで死なないってことは、あの男にも想定出来なかったらしいが」

 

「否、我の腹を貫いたのは彼ではない」

「あ……?」

「キキという男だ」

「……あいつか!」

 木が少し興味を示す。

「心当たりがあるのか?」

「ああ。やり合ったことがあるが、俺は死ぬ寸前まで持ってかれた。お前と同じだな。そして、助けにきたヘプタが足を切った」

「そんなことあったかのぉ?」

「──深く切ったから、今頃歩くのもままならないはずだぞ、キキは」

 

「違う。杖を突いている様子だったが、あの男のスピードは尋常でなかったぞ」

 

「へえ……どんなリハビリしたんだろうな」

 

 キキは柊に部屋の鍵を渡して、2人とも部屋を出て行った。1人残された柊は布団に横になり、また天井を見つめる。

 

 ヒューゴは裏切った。彼がメームか何かの刺客であったことは間違いない。そしてキキもヒューゴたちの仲間に違いない。キキが死なないようビビアンが介入したのもその証拠だ。キキがあの傷で死んだことは確実だ。よって、もう一度彼が襲ってくることは心配ない。そんなことがあれば、今度こそ死ぬ。

 

「エーテルは輩どもに渡った……いずれにせよ、我は追わなければならないな」

 

 柊は回想を閉じて、深い眠りに意識を落とし込んだ。

 

 

 

 

   End of Struggle・了──

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