ゼンレスゾーンゼロ 零落者のゆく先   作:柿本人麻呂

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前回:司、切られた上に裏切られた


会場を一掃する

「──っ、このままでは死ぬな……」

 司に深傷を負わされたキキは、ビビアンに助けられてそのままビルの外へ逃げ去っていた。そしてここは、誰もいない裏路地だ。

 

 ビビアンは、

「私は人の命を奪うことなどしないのです。ただ、あなたの悪業は、いつか必ず裁かれることを覚えておくべきです」

 と言い、いつのまにか立ち上がっていた柊と共に階段の方へ消えていった。

 

 だが、その見逃された命も、ここまでかもしれない。

 

「まだ任務は終わっていないはずだよ」

 

 奥の暗がりから声が聞こえた。

「……メームか……いや、違うな」

「いいや、私のことはメームと思っていればいいさ。説明が面倒くさいのでね。

 ところで、君はおそらく死ぬのだが、任務も終えずに死ぬのなんて無責任な話だと思わないかな? メームはせっかく君という人間を適任だと見繕ってくれたのにさ。

 ──だから、私が今ここで救済してあげよう。この注射器が見えるかい?」

 

 声の主はここでやっと姿を現した。視界がぼやけてキキにはよく分からなかったが、蒼い髪をしていたことだけは認識できた。

 そしてその男が持っていたのは、中に青黒い液体の入った注射器だった。

 彼はキキの方へ近づき、問答無用に注射器を使う。

 

「すごいだろう……?」

「……」

 

 

 

   ◇◇◇◇

 

 

 

「良いひと時だった。都市の姿を上空から一目見るのは、中々に乙なものだ」

 

 ヒューゴはバレエツインズ前の柵に寄り掛かり、目の前のビル群を視界に収める。

 

「感傷気味なのです?」

「……仕方あるまい?」

 

 

 

 

   〜〜レイヴンロック家〜〜

 

「柊司は死亡しました」

 ヒューゴはレイヴンロック家の大広間で、ある男にそう伝えた。もっとも、ヒューゴが彼らに晒しているのは、変装後の姿だ。その姿は、コミュニケーション嫌いで主人に忠実な、真面目屋といったふうだ。

「……写真は」

「撮っておりません」

「ちっ……」

 レイヴンの男は立ち上がり、ゆっくりとソファの方へ向かう。仮装したヒューゴ、その名を「レイサ」は、その姿をじっと追う。

「申し訳あり──」

「死んだと言う証拠を持って来いと、さんっざん言ってきたろうが!」

 男はソファを足で強打した。ソファは驚いた猫のように跳び上がり、後ろに転がる。果てには壁にぶち当たり絵画を破砕した。

「申し訳ありません」

「──ふう。次はヒューゴと言う男が標的だ。俺自身殺したクッて堪らなかったんだが、お頼みとして舞い込んできたんだ。これ以上都合のいいことはない。

 お前、次ヘマしたら、親、逝くぞ」

「……はい……」

 ヒューゴは立ち上がり、静かに出ていった。

 

「おい」

 レイヴンロックの男は部下に命令する。

「はっ」

「柊司の生死を調べろ。レイサ、あいつはどうも──」

 

 

 

 

「次はヒューゴを殺せと言って来た」

 

「自分を殺す……難しい注文なのです」

 

「ヘマをすれば親が死ぬとも言っていた。体の髄まで外道というわけだ」

 

「これからはどう動くのです?」

 

「ひとまずは小休止としよう。レイヴンロックに身分を隠している以上、下手には動けまいよ」

 ビビアンは「ここで動きを止めるのです?」とでも言うかのような表情でヒューゴを見つめる。

「なに、彼にもらったヒューゴ殺害の任務は、上手く繕うとするさ。こちらから動かずとも、俺たちを狙う人間は、今にそこに現れる」

 

 

 

   ◇◇◇◇

 

 

 

「現れたのです」

 

 ビビアンはある張り紙をテーブルの上に広げ、ヒューゴに見せる。

 

「そうか。──コーヒーはアメリカンがいいかね?」

 

「あなたの顔が拡散されてるのです。──キャラメルラテがいいのです」

 

「俺の顔が晒されているのか。そんなことせずとも、俺の居場所など見つけられるはずなんだが」

 

「何せわたくしたちは、沿岸のホテルで暇を持て余しているのですから」

 

 ここで、ビビアンの携帯電話の着信音が鳴る。彼女は電話に出ると、空を仰ぎながら相手の言葉に聞き入っていた。そして、彼女は電話を切って、

 

「明日、とあるライブ会場で子供が十人ヒューゴの助けを待ち望んでいる、という内容のものなのです」

 

「なるほど……俺に人情作戦が通じると知っているのだな。これは一つ、お招きに応じるとするかね」

 

 

 

   ◇◇◇◇

 

 

 

 柊司はとあるライブ会場へ来ていた。

 旅館で目覚めて少し経った後、スマホに非通知で子供がライブ会場に誘拐されているという内容のメールが来ていたのだ。治安官に報告した場合その子らは皆死ぬとあったので、もちろん助けにきた。

 

 ヒューゴに取られてしまったエーテル物質のこともある。その直後のメールがこれなので、何かのつながりがあるかもしれないという希望的観測も含めてここにやって来たのである。

 

 刀は前と違って持ってきた。今は会場の入り口の、しかし悟られない所に隠してある。場合によっては悪党の体を串刺しにすることになるだろう。

 

 あまりだらだらとしていられない。片っ端から不法侵入をして悪党を探し出す。

 

 関係者以外立ち入り禁止の表札は気にもかけず入り込む。

「すみません、ここは関係者以外立ち入り禁止なんです」

 と話しかけられた。

 柊は愛想笑いで通そうとしたが無理だったので、奥の方へ逃げた。

「捕まえろ──ッ!」

 遠い後ろで自分を咎める声がしたが、無視でいい。

 

 適当に相手をまくと、いい具合に混乱が生じて動きやすくなる。

 

 柊は再び駆け抜け、今度は観客が立ち並ぶすし詰め状態の会場へ向かい、持ち込んだ強力な爆竹に火をつけた。

 

 5秒ほどで着火する。彼女は心の中で、

 

(5……4……)

 

 と数え、残り1秒のところで会場の中空へ力一杯投げ出した。

 そうして、爆竹は歌手の唄声を耳の張り裂けるような炸裂音で塗り替えた。

 

 マイクに向かって歌唱していた声も甲高い悲鳴に変わり、観客は大声を出して四方に広がり、警備員は驚いた顔で走り出し、その間にも柊は爆竹を投げ続けている。

 

 木にもらった爆竹はライブのスピーカーをも凌駕する強烈さだった。もちろん、違法な爆竹だ。しかし殺傷力はない。そもそも柊はそんなものを使わない。

 

 大事なのはここからだ。柊は同心円状に広がり逃げ帰る観客の波に逆らうように立ちつくし、会場を凝視する。

 

 この状況で逃げる姿勢を取っていない者──それはおそらく、彼女の目的の人物であるからだ。

 

「……いたか」

 

 柊は混沌極まる会場の中に、一つの影を見出した。

 ──キキという殺人鬼を。

 

 彼女が走りだそうとした瞬間、後ろから捻じ伏せるように掴まれた。

 

 彼女は首だけを動かしてその正体を確認する。見ると、背後に自分を包囲する形で警備員達が構えていた。

 爆竹を投げる瞬間を捉えられたのだ。

 

「くっ……」

 

 柊は力のままに地に叩き伏せられ、腕を押さえつけられる。

 

 

 

 ひとまず……ここからがスタートだ。

 

 

 

 

   会場を一掃する・了──




忘れた方のために:レイヴンロック家はメインストーリーでヒューゴと因縁を持っていたところです
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