ゼンレスゾーンゼロ 零落者のゆく先   作:柿本人麻呂

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前回:ライブ会場をめちゃくちゃにした柊司は、宿敵キキを見つけだした


ヒューゴ

 柊は折られる勢いで腕をうしろから抑えつけられ、床に叩きつけられた。

 

「くっ……」

 

 と言いながらも、柊に何の対策も無いわけではない。

 

 柊はどこからか取ってきた爪楊枝で背中に乗った男の脚を刺した。すると男は条件反射のように力を緩めて身体を少しのけ反った。

 

「すまぬ」

 

 そう言うと隙を見て身体を起こし、相手の顔面に肘を叩き込む。

 

 自分の体にのしかかる重みが消え、柊は立ち上がる。

 そしてその手には刀が握られている。この会場の構造は柊によって調べ尽くされていた。そしてこの床のすぐ下にあるハッチに刀を隠して置いた。

 

 警備員たちはあっと驚いてじりじりと引き下がる。

 

「刀を持ってるぞ!」

「安心しろ、斬りはしない」

 

 警備員たちは皆警棒しか持たされていれない。

 

 勇気ある者が、背後から警棒を振る。

 

 当然、それが届くことはない。切断された警棒が床で音を鳴らして転がる。

 

 刀身を見せられた警備たちは、更に驚いて引き下がった。

 それが紅く鮮血に染まったような刀身で、電気が火花を散らして流れているのが目に見えたからだ。

 

 柊は鞘に仕舞って鞘と刀身を下緒(さげお)という紐で結ぶ。

 

「斬りはせぬ。が、向かってくるというのなら意識はしばし戴くぞ」

 

 〜〜

 

 警備員を数人、鞘付きの刀で気絶させた所で彼らは引いていった。直接向かい合っては皆やられてしまうから、会場を封鎖して閉じ込める算段だ。

 彼女としては、警察がそう遅く無いうちに押しかけてきて手がつけられなくなるはずなので、手間を取ってはいられない。

 

 キキを見つけた方向に振り返る。が、そこにあったはずの姿が無い。

 

「どこに行った」

 

 柊は彼の行ったであろう位置を予測して奥の出口へと目星をつける。その方向へ足を前に出すが、ふと後ろにある気配を感じて振り向く。

 

「誰だ」

 

 静まり返った会場に声が響く。

 

 奥の回廊にふと影が走る。追わなければならない。

 その前に倒れ込んだ警備員の1人を揺すり起こす。この状態で放置したら悪党にどうされるかわかったものではなかったからだ。

 警備は起きるなら驚いて身を捩ったが、柊は肩を掴んで、

「よいか、ここには我以外の招かれざる客がいる。今からここに倒れている警備たちを皆起こし、()く仲間と合流しろ」

「う……」

 警備はなぜ襲撃者がこのようなことを言うか理解できないままだったが、それでも小さく頷いた。

 

 柊は立ち、走り出す。

 

「こっちだ」

 

 声が聞こえて、彼女は立ち止まる。

 

「主は……」

 

「私を知っているか。世間に名を晒した覚えはないんだが」

 

「ああ……失墜したレイヴンロックの次期後継だ」

 

「失墜か……確かにそうだ。少し前までレイヴンロックに居座っていた間抜けが、泥を塗りたくってしまったからな」

 

「それで、この会場から何故逃げない? もしや主もあの悪党どもの一員か」

 

「あの悪党というのが何を指すのかわからないが、それらもお前の命を狙っているというのなら、その点でそういうことだと言っておこうか……」

 

 レイヴンロックの男が、スーツの襟を2回指でノックした。それが何かの合図であることは柊にも予感できた。

 

「……大方、我の後ろに有象無象が立っているという類だろううな?」

 

「……正解だ」

 

 天井が破け、その『有象無象』が降りかかる。

 

「何が『正解』だ──!」

 

 敵は鉄製の棍棒を携えている。

 だが剣を構えるその瞬間、視界の外で物体の素早い動きを感知して飛び下がる。

 一手遅れて柊は頬を掠める微風を感じ取った。

 

「──避けるか」

「キキ……」

 

 彼は天井から降りてきた男たちに無防備にも背を向けて、柊と対話を試みた。

 

「誰だ……これもまた女を狙うというのか」

 そう言ってレイヴンロックの男が鼻筋に皺をつくる。

 

「我を助けるか」

「……」

 

 レイヴンロックは忌々しそうにスラックスのポケットのあたりをくしゃりと握り、怒りを露わにする。そのまま懐から拳銃を取り出す。

「殺した者が報酬を得るなどと、わざわざ条件に明記していた時点で予想できていた。複数の組織に依頼していたことはな。お前たち、この男もろとも消せ」

 

 男たちがどかどかと音を立てて動き出した。

 キキは何も喋らないまま、柊からレイヴンロックの一団に顔を向ける。

 そのまま杖に手をかける。前のとは違う杖だ。そこに柊は違和感を覚える。

 

(奴に刺された杖はあの時あの場に落として行ったはず。キキと繋がっていたであろうビビアンが持ち帰ったわけでもない。キキが生還したというなら、杖も持ち帰っていてしかるべきだが……。

 そもそも、どうやってあの傷から生還した……?)

 

 キキが振った杖は微かな動きと共に消えたように見えた。そして一度に暴漢たちを葬った。

 

「……我に(うしろ)を向けるとはナメてくれる」

 

 柊は逃さず刀を振る。

 だが、その刃はたちまち後ろ見ぬまま弾かれてしまう。

 

 レイヴンロックが引き金を引く。彼は容易に避けてみせたので、流れ弾は柊が捌く必要があった。

 

 煙幕が上がった。レイヴンロックのものだ。

 

「逃げたか」

「……」

「主、なぜ生きている。その身体に何があった」

 

 男は答えない。代わりに凄まじい横薙ぎが迫った。

 柊は棒立ちで、刀を鞘に収めたまま受ける。

 

「このようなもの……身構えるまでもない」

 

 一度見たことのある斬撃など柊には恐るるに足りない。義父との長きにわたる修行が、それを可能にしている。

 

「答えるべきだ」

 

「……」

 

 彼は初対面のときの饒舌ぶりとは対照的に、一言も話さない。

 

「そうか。

……人ならざるものに手を出したのなら──そこまで堕ちたのなら、黄泉の果てまでその身を堕とせ」

 

 鞘と刀身を結ぶ下緒は今しがたこの男に切ってもらった。

 重力に任せて鞘を落とす。鞘と敵の刃が軋って鳴る。

 

 刀を振った。切先がまなじりを掠めて血をまいた。

 そして、床から壁へ吹きつけるようにして飛んだ血の色は毒々しい緑色をしている。

 

「……語るに落ちたな」

 

「……」

 

 彼は一つの言葉もくれない。獲物を狙う野獣のようにじっとして、機を窺っている。まなじりから流れた血は瞬く間に止まった。彼の手に入れた化け物の力の効力である。

 

「──悠長に構えている時間はないぞ! 柊司!」

 

 声が聞こえた。その声の主が誰だか柊には理解できないまま、次の動きがはじまることになる。

 

 前触れもなく、キキの姿が視界が消える。

 柊はその様に驚かざるを得なかった。今までは予備動作があった。

 そこからやっと繰り出されるのが、あの斬撃だったはずだからだ。

 

「──っ!」

 

 空気が揺らめく感覚。彼女はまずいと思った。だが彼ならそう思わせる前に斬っている。

 

「……悠長に構えるなと言っただろう」

「お前は……ヒューゴ」

 

 キキの斬撃から庇うように、ヒューゴの大鎌が前を通った。同時に彼の美しさと強靭さを併せ持った体躯が柊の前に現れる。

 

「……」キキが彼を睨みつける。

「どうした? ものも言えないのかね?」

 

 

 

 

   ヒューゴ・了──




タイトルは思いつきませんでした
そろそろイーシェンが出てきます
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