ゼンレスゾーンゼロ 零落者のゆく先   作:柿本人麻呂

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前回:ヒューゴ&柊司vs化け物(キキ)、開戦


雲嶽山13代目宗主『儀玄』

 改めて戦いの火蓋を切ったのは化け物の方だ。肥大した脚が何万ものエーテリアスの脚力に勝る踏み込みを見せる。

 

 ヒューゴはさっきの通り氷壁を造り、応戦する。

 

「どうだ、見えるか」柊が聞く。

「少しも見えやしないな。俺にできるのは相手の道筋を予測して受けることだけらしい。だが、貴公はそうでもないのだろう?」

「ああ。我の能力(ちから)は戦いの最中に成長している」

「鍵は貴公が握っているわけだな」

 

 化け物の引っ掻き。咄嗟に刀を盾にして受ける。すると、刀が受けた攻撃に呼応して幾重にも反射、会場を半壊させる。

 

「信じがたい力だ。安易にその刀を振るうことは、辺り一帯の破滅を招く。だが、これが無ければ勝ちも無かろう」

 

「よい考えがあるとな?」

 

「賭けだが──」

 〜〜

「いいのだな」

 柊は彼の目を見て聞く。

「全くもって容易いことさ。それより自分のことを心配したまえ。そのような力を扱うことは自分の身の危険さえ招くのだ」

「──我の心配か? それは」柊は微笑んで、ヒューゴを流し見る。

 

 ヒューゴはそのまますぐに華麗に飛び出した。

 自分の羽織っていた綺麗な背広を脱ぎ、アニメに見た大怪盗を思わせる幻術で倒壊寸前の会場内を飛ぶ。

 

 そこで彼は金銀の装飾のついたその背広をひらひらと舞わせた。

 

 反応した化け物は躍起になって跳び、ヒューゴを食い荒らそうとかかる。

 

「元人間とはいえ、化け物の姿になれば暴れ馬も同然か!」

 

 脆い天井に突き刺さる形でヒューゴは鉤爪を腹部にくらう。

 

「今だ! 柊司‼︎」

 

 真下に控えた柊。

 黒焦げたような刀を握り直し、真上へと狙いを定める。

 

「手加減はなしだ。ここで身も心も冥界に送る」

 

 決意したとき、刀は呼び覚まされたように強くオーラを発した。会場の外までその『黒い光』は漏れ、地を揺らすばかりに周囲をいななかせる。

 

 いつも通りだ。義父の教えに沿って振るう。

 

「ふっ」

 

 そしてオーラは塊となって衝撃波を発し、天空へと計り知れない力を投げ出した。

 

 空が一文字に裂かれ、遅れて突風の切るような音が聞こえる。

 

 会場はみるも無惨に瓦解し、芸術的とさえ言えた。

 

「壮観だな」

「……おっ⁉︎ あれほどの攻撃を受けて無傷か。何か策であるだろうと思ったが、ここまでとはな」

 横に立つ相変わらずのヒューゴを見て、今一番の驚きが柊にあった。

「あのようなものを大真面目に喰らう者がどこにいるか」

 

 柊は空に向き直り、

 

「『空に向かって斬れば被害は出ない』。……なんとも荒療治的なやり方だがな……」

「こうするしか無かった。余る力は確かに困りものだが、それはほとんど当人の思考停止が原因だ」

「……我が思考停止していたとなぁ──?」

「その剣を抜いたまま怒るのはやめてくれないか」

「……」

「どうした」

 急に黙りこくった柊を見たヒューゴが声をかける。

 

「我の鞘は……?」

「……ッ!」

 

 ここで、二人を大きな影が覆う。

 

「────ヒューゴ、上だ‼︎」

「くっ」

 

 空中から襲う巨大な鉤爪。

 ヒューゴは強く後退して攻撃圏を外れた。

 

 だが柊はそうではない。

(もう一度空へ斬撃を──)

 そこで気づく。化け物の動きがぐんと速くなったことに。そして、刀の纏う黒が消え失せたことに。

 

「っ──」

 

 眼前に大きく迫る死の一字。

 途方もなく堅牢な爪が、彼女を裂こうとしている。

 

 だが、果たして死はその時では無かった。

 

 眼前に迫った爪が柊に到達しない。

 雨のように墨のような力が振り、右にも左にも化け物を弾く。

 続き上空から黄色い術が札とともに化け物を封じ、化け物は動きを止めた。

 

 

「……移動中に術法を解いていたのが功を奏したな。急がば回れと云うものの、善は急げとも云う。汝は我に命じ我を遣った。それ、『雲嶽山13代目宗主、儀玄(いーしぇん)御成(おなり)だぞ』。

 ──あ、その札は永く効かん。はやくその化け物から身を離すことだな」

 

 

 

   ◇◇◇◇

 

 

 

「実験の方は順調なのか」

 

 警戒心を湧き立てる赤いライトが顔に影を作る。

 

「ああ──ああッ──‼︎」

「……」

「最高だよ……!」

「気持ちが悪いな。君の感情が露わになるのはこれが初めてなんじゃないか」

「うんうん! いや、まさにね! どう思う、ネロ?」

「どうも思わないな。だが、その実験には私の金が注ぎ込まれている。上手くいっているのなら早くその成果を還元してもらないと、君のその趣味も終わりを迎えることになる」

「いや、ここで終わっても悪くないって、思えるくらい僕は嬉しい‼︎ 見て、ネロ」

 

 この狂人が先ほどから目に入れるばかりに見入っている画面を、ネロは見た。

 

「これは……」

「やっと成果が出た! はぁ〜あ最こっ‼︎ 気持ちぃ〜ね全くね!」

 

 狂人は座っていた椅子を膝裏で押しのけて立ち上がると、スキップして刀を抜き、ネロのそばにあるテーブルを両断した。

 

「この化け物か。君よりは不快でないが、これがその『研究』の成果とでも言うのか」

「いや〜違うよ。バカだな、君。バカすぎて画面の中のサクリファイスも泣いてるよ」

「ではなんだ」

「見なよ。この女をさ」

「柊司か」

「なんだ知ってるんじゃんか」

「君から聞いたんだが。君の()()だと」

「そんなオモチャみたいな言い方しないでくれよ。

──あ〜もう我慢できないや、僕が直に出向いてくる。ネロ、ここの研究成果、興味あるでしょ。持ってってもいいよもう必要ないし」

「ごみが必要か問われて頷く人間がどこにいるのか」

「うーん郊外の貧乏なシリオンとか?」

「私が聞いたのは人間だ」

「は? シリオンも人間だろうが」

 

 そうして狂人は消えた。

 ネロは研究物には目を向けもせず、赤い警告灯に照らされて去っていった。

 

 

 

 

   雲嶽山13代目宗主『儀玄』・了──




ネロ:ゼンゼロ二次小説で世界観を共有する『虚ろいを行く者たち』のメインヴィランであり悪い人
今回の登場は友情出演なので気にしなくて大丈夫です
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