改めて戦いの火蓋を切ったのは化け物の方だ。肥大した脚が何万ものエーテリアスの脚力に勝る踏み込みを見せる。
ヒューゴはさっきの通り氷壁を造り、応戦する。
「どうだ、見えるか」柊が聞く。
「少しも見えやしないな。俺にできるのは相手の道筋を予測して受けることだけらしい。だが、貴公はそうでもないのだろう?」
「ああ。我の
「鍵は貴公が握っているわけだな」
化け物の引っ掻き。咄嗟に刀を盾にして受ける。すると、刀が受けた攻撃に呼応して幾重にも反射、会場を半壊させる。
「信じがたい力だ。安易にその刀を振るうことは、辺り一帯の破滅を招く。だが、これが無ければ勝ちも無かろう」
「よい考えがあるとな?」
「賭けだが──」
〜〜
「いいのだな」
柊は彼の目を見て聞く。
「全くもって容易いことさ。それより自分のことを心配したまえ。そのような力を扱うことは自分の身の危険さえ招くのだ」
「──我の心配か? それは」柊は微笑んで、ヒューゴを流し見る。
ヒューゴはそのまますぐに華麗に飛び出した。
自分の羽織っていた綺麗な背広を脱ぎ、アニメに見た大怪盗を思わせる幻術で倒壊寸前の会場内を飛ぶ。
そこで彼は金銀の装飾のついたその背広をひらひらと舞わせた。
反応した化け物は躍起になって跳び、ヒューゴを食い荒らそうとかかる。
「元人間とはいえ、化け物の姿になれば暴れ馬も同然か!」
脆い天井に突き刺さる形でヒューゴは鉤爪を腹部にくらう。
「今だ! 柊司‼︎」
真下に控えた柊。
黒焦げたような刀を握り直し、真上へと狙いを定める。
「手加減はなしだ。ここで身も心も冥界に送る」
決意したとき、刀は呼び覚まされたように強くオーラを発した。会場の外までその『黒い光』は漏れ、地を揺らすばかりに周囲をいななかせる。
いつも通りだ。義父の教えに沿って振るう。
「ふっ」
そしてオーラは塊となって衝撃波を発し、天空へと計り知れない力を投げ出した。
空が一文字に裂かれ、遅れて突風の切るような音が聞こえる。
会場はみるも無惨に瓦解し、芸術的とさえ言えた。
「壮観だな」
「……おっ⁉︎ あれほどの攻撃を受けて無傷か。何か策であるだろうと思ったが、ここまでとはな」
横に立つ相変わらずのヒューゴを見て、今一番の驚きが柊にあった。
「あのようなものを大真面目に喰らう者がどこにいるか」
柊は空に向き直り、
「『空に向かって斬れば被害は出ない』。……なんとも荒療治的なやり方だがな……」
「こうするしか無かった。余る力は確かに困りものだが、それはほとんど当人の思考停止が原因だ」
「……我が思考停止していたとなぁ──?」
「その剣を抜いたまま怒るのはやめてくれないか」
「……」
「どうした」
急に黙りこくった柊を見たヒューゴが声をかける。
「我の鞘は……?」
「……ッ!」
ここで、二人を大きな影が覆う。
「────ヒューゴ、上だ‼︎」
「くっ」
空中から襲う巨大な鉤爪。
ヒューゴは強く後退して攻撃圏を外れた。
だが柊はそうではない。
(もう一度空へ斬撃を──)
そこで気づく。化け物の動きがぐんと速くなったことに。そして、刀の纏う黒が消え失せたことに。
「っ──」
眼前に大きく迫る死の一字。
途方もなく堅牢な爪が、彼女を裂こうとしている。
だが、果たして死はその時では無かった。
眼前に迫った爪が柊に到達しない。
雨のように墨のような力が振り、右にも左にも化け物を弾く。
続き上空から黄色い術が札とともに化け物を封じ、化け物は動きを止めた。
「……移動中に術法を解いていたのが功を奏したな。急がば回れと云うものの、善は急げとも云う。汝は我に命じ我を遣った。それ、『雲嶽山13代目宗主、
──あ、その札は永く効かん。はやくその化け物から身を離すことだな」
◇◇◇◇
「実験の方は順調なのか」
警戒心を湧き立てる赤いライトが顔に影を作る。
「ああ──ああッ──‼︎」
「……」
「最高だよ……!」
「気持ちが悪いな。君の感情が露わになるのはこれが初めてなんじゃないか」
「うんうん! いや、まさにね! どう思う、ネロ?」
「どうも思わないな。だが、その実験には私の金が注ぎ込まれている。上手くいっているのなら早くその成果を還元してもらないと、君のその趣味も終わりを迎えることになる」
「いや、ここで終わっても悪くないって、思えるくらい僕は嬉しい‼︎ 見て、ネロ」
この狂人が先ほどから目に入れるばかりに見入っている画面を、ネロは見た。
「これは……」
「やっと成果が出た! はぁ〜あ最こっ‼︎ 気持ちぃ〜ね全くね!」
狂人は座っていた椅子を膝裏で押しのけて立ち上がると、スキップして刀を抜き、ネロのそばにあるテーブルを両断した。
「この化け物か。君よりは不快でないが、これがその『研究』の成果とでも言うのか」
「いや〜違うよ。バカだな、君。バカすぎて画面の中のサクリファイスも泣いてるよ」
「ではなんだ」
「見なよ。この女をさ」
「柊司か」
「なんだ知ってるんじゃんか」
「君から聞いたんだが。君の
「そんなオモチャみたいな言い方しないでくれよ。
──あ〜もう我慢できないや、僕が直に出向いてくる。ネロ、ここの研究成果、興味あるでしょ。持ってってもいいよもう必要ないし」
「ごみが必要か問われて頷く人間がどこにいるのか」
「うーん郊外の貧乏なシリオンとか?」
「私が聞いたのは人間だ」
「は? シリオンも人間だろうが」
そうして狂人は消えた。
ネロは研究物には目を向けもせず、赤い警告灯に照らされて去っていった。
雲嶽山13代目宗主『儀玄』・了──
ネロ:ゼンゼロ二次小説で世界観を共有する『虚ろいを行く者たち』のメインヴィランであり悪い人
今回の登場は友情出演なので気にしなくて大丈夫です